第4話 傭兵部隊、任務開始。
今回は長いぜ!
「…今何時だァ〜?…」
昨夜風呂も入らず、完全に乱れた髪をくしゃくしゃ掻きながら立ち上がった。
「…ん?…もう朝か…」
「…あ〜…完全に寝ていたな…」
美咲と、師匠が目を覚ました。
「おはよ…」
「おう、ラル、おはよう…」
「おはよう、2人とも…」
3人とも伸びをしつつ言った。
「師匠、風呂入りましょうぜ〜、服は俺が一瞬で洗濯します。」
「賛成だ、このベタつきは敵わん。」
「ん〜…りゃる〜…」
師匠とふろ場に行こうとした時、左足に体重がかかる。
「…起きろ、柊。」
超可愛い寝顔だったが、起こさねばなるまい、俺らはニートじゃないのだ。
「んむぅ…」
ぐっ…なんて顔と声…だ、だが負け…
「おいラル、顔、限界化してんぜ?」
「やかますぃ…」
「…んぁ…あ、おはよう…」
あぁ、起きてしまったか…
「おはよ柊、起きて早々だが…風呂行かねぇか?」
「…いぐ〜…」
体を起こし、伸びをしながら言った。
「ふむ…じゃあ、女子連から先に入るといい、俺は片付けた後に入る。」
「せんきゅ〜美咲、後で褒美を…」
「イチャついてる暇はあんま無いぞコラ。」
じゃれ着いてやるぜと、思ったのだが、無慈悲にも師匠が止めた。
まぁ言われた通り、ここでじゃれ着いても時間の無駄なので、とっとと風呂場へ向かった。
脱衣所でそれぞれ服を脱ぎ、俺がそれをまとめて鉄粉で洗濯。
鉄粉で洗濯すると言えど、すぐ終わるものじゃないので、2人には先に入ってもらった。
中から聞こえたのは、
「えらく広い風呂だなぁ…」
「…広い…」
というのが、シャワーの起動音と共に聞こえた。
マンションだよなココ…
数分経って、
「おっけ、洗濯おわりぃ!」
洗濯が終わった。
3人分の上着、下着、俺と師匠の指なし手袋、若干プロテクターがボロってきた膝あて…は、いつか買い換えるとして。
とりあえず、俺も服を脱いで、風呂へ入った。
あ、補足だが、俺の服は着たまま洗濯した。
「お〜ラル、洗濯ありがとな。」
「ありがと〜…」
浴槽で足を伸ばし、くつろいでいる師匠と、犬みたいに伸びている可愛い柊が居た。
「いえいえ、気になさらず〜」
ちゃっちゃと、俺も体を洗い始めた。
「んで、ラル、能力の制御の件は、どんぐらいで仕上がるんだ?」
「鬼神の話じゃ〜…」
と、言ったは良いものの…
…やべぇ忘れた…
ので。
鬼神に今、実際に聞いてみた。
(…ぬ?一時的なものであれば…あと半日か1日か…そのぐらいじゃ!待っておれ!)
…毎度思うが、これでも一応神…なんだよな…?
「お〜い?ラル?どうなんだ?」
俺の目の前で手を振りながら、師匠が聞いてきた。
「あ、あはい、あと半日ぐらいだそうです…すいません、鬼神に直接聞いてて、ボーっとしてました。」
「そうか…期待大、だな。」
師匠がニヤリと笑う。
何だこの人、めっちゃその顔似合うな。
「…私先出る…」
柊は、ちょっと入ってる時間が長かったのか、若干のぼせ気味で言った。
「おう、分かった。」
返事を返して、柊は風呂を出た。
「…ラル、ちょっといいか。」
「はい?なんです?」
そう言って、師匠は、浴槽から上がると、俺の後ろに回った。
「…師匠?…何を…」
そして…
«むにゅっ»
「ひゃっ!?」
師匠が後ろから胸に手を回していた。
「いやぁラルスも成長したなぁ。」
「どこで弟子の成長を感じてるんすか…」
「私も触りたぁい…」
「柊!?おまっ…」
«ふにふに…»
「ひゃぁぁ!?離せぇ!?…」
2度目の衝撃が胸を襲う、この人達、怖い。
「もうちょっとだけな。」
「うんうん…」
「時間無いってさっき言ったばっかでしょうがっ…」
そう言ってようやく、残念そうに師匠と柊手を離した。
「けっ…ケチめ。」
「ラルのケチ〜」
あの二人はそう言って、ようやく風呂を出た。
「なんでそういう時だけ子供みたいになるんですか、全く…」
愚痴りながら、俺は浴槽に浸かった。
「ふへぇぇ…」
間抜けな声が出る。
いや朝だからあんまくつろいじゃダメなんだがな…
「ぬわぁぁぁ…あんま浸かっちゃ行かんなぁ…出るか。」
文字通りぬるま湯に浸かっていたかったが、致し方ない…
風呂を出て、鉄粉で拭こうとしたら、
「突撃〜!」
顔…ではなく、胸あたりにタオルが押し付けられた。
「おわっ…って、柊か。」
濡れた前髪が揺れて、可愛い顔がこっちを見た。
「ラルス…またタオル使わない気がしたから…」
「…人間としての感性を〜…ってやつか?んなもんいっつも、」
柊のほっぺをつつく。
「柊で補給できてるよ。」
真面目な顔で、若干低めの声で言うと、
「…うるひゃい…」
顔が少し赤くなった。
可愛い。
「か〜わ〜い〜い〜」
「ッ//うるっさぁい!…」
顔が真っ赤になり、それを隠すように抱きついてきた、何だこの可愛い生き物は。
「ハイハイ待ってくれ、俺まだ布1枚よ。」
柊から貰ったタオルしかない。
「…ラルスがいじめたのが悪いんだもん…」
「感性の話持ち出してきたのどっちかなぁ?」
「…ラルスのバーカ。」
そう言って、柊は戻って行った。
その時、ちらっと見えた頬が緩んでいたのを、本人は見られてないと思っている。
«数十分経って、皆の準備が終わったようじゃ(CV鬼神)»
「荷物もったな〜?」
美咲が全員に確認を取る。
「持ったぜ〜」
「問題なし。」
「構わん。」
「無い…」
全員答えた。
「それじゃ、行こうか。」
5人が歩き出した。
5人揃って、というのもなかなか珍しい、今まではそれぞれ別の任務だったが、
「俺ら全員…というより、A級以上に出されたあの依頼…」
俺が口を開くと、
「まぁ、見るからにヤバい雰囲気はあるよな。」
「『廃墟となった都市に異常発生した生物を討伐せよ』…これだけなら、あんまヤバい感じはしないが…」
「…死者多数、敗走者多数……しかもキャンベルの野郎が負けたって話だ。」
などなど、追加情報を入れてくれた。
ちなみに、キャンベルというのは数少ないSS級の傭兵の、まぁまぁ強いやつである。
「…行かなきゃダメなの?…それ…」
柊を除いた全員が、少し目を伏せる。
((((そういやこの子…まだ子供じゃねぇか…))))
そしてこの思考に至った。
だが、全員分かっている。
「ひ、柊?今更だがこの任務危険すぎるし…」
「…ラルス行くからやだ、私も行く。」
デスヨネー…
まぁ、実力は申し分ないし、いざとなれば俺らも逃げればいいだけだ。
「それじゃあ、追加で入ってる情報を読み上げるぞ。」
師匠が端末を見つつ、読み上げ始めた。
目標数:10万体以上。
変異体も確認されている。
達成条件:目標の全排除。
依頼現場:廃墟となった都市。
目標についての情報:初めに目に入ったもの、音を鳴らしたものを死ぬまで追いかける。
音に敏感である。
自分にとって近距離の音に反応する。
足音でも気づかれる。
頭部を破壊すれば死ぬ。
「頭部?…人型なのか?」
美咲が意外そうに聞いた。
「…そのようだ、続けるぞ。」
少し顔を顰めながら続けた。
支給品:ロケットランチャー3本、50発分の弾薬。
「…ヤバさが増したな…」
「…あぁ……」
アサルトライフル4本。
火炎瓶20本。
フラググレネード30個。
「…端末に送られてたのは以上だ。」
師匠がそう締めた、だが、依頼所に着くまで、誰も口を開かなかった。
依頼所に着くと、物々しい雰囲気が漂っていた。
あの依頼のせいだろう。
つまり、依頼所も傭兵も、かなりこの件を重くとらえているらしい。
「あ、皆さん…」
受付の子がこっちを見て、ハッとなっていた。
目の下には少しクマが見える。
「…とっととあの依頼済まさねぇとな…」
ジークがボソッとキレ気味で言った。
こいつ…普段はろくなもんじゃねぇのに、女が絡むとすぐこれである。
「依頼内容は聞いてる、とっととヘリ乗せろ、行くぞ。」
師匠が、マジな目で答える。
「…さすが金田城さんですね…助かります…すぐに手配するので、外でお待ちを…」
「ぶっ倒れんなよ?受付ちゃん?」
あまりに疲れているので、俺は不安になった、いや、だってこんなに疲れてる受付ちゃん初だからさ…
「大丈夫です…2時間は寝てます…」
「…大丈夫じゃねぇだろ…」
「はいはい、とっとと行くぞ、ラル。」
不安だったが、美咲に引っ張られ外へ連れられた。
いや子供じゃないんだが!?
全員で、外の広場に出た。
「…作戦は?」
「「「…」」」
ジークが聞いたが、全員黙っていた。
いや、
「…あるぜ、一つだけな。」
俺は、口を開いた。
«現場到着じゃ〜(CV鬼神)»
「それじゃいいか?」
ヘリを降りて、しばらく歩いて、廃墟都市のビルの上に何とか登った。
しかし、腐敗臭が凄い…恐らく柊はここに降りちゃいかねぇだろう。
ここに来る間も、足音を立てないよう細心の注意を払った。
ヘリなんかで現場に近づいちゃ、足元にわらわら集まってきてシャレにならない。
〘あ、あ〜、OKだ。〙
無線から、美咲の声が聞こえた。
〘…死なないでよ、ラルス…〙
あぁ…何だこの子…声だけでも可愛い…
「へっ、柊のバーカ、誰が死ぬかよ。」
イケボで答えといた。
〘…行くぞ、ラル。〙
「おうよ、師匠。」
小さいスピーカを手に持って、
〘作戦?〙
「…開始だ!」
再生ボタンを押した。
«(バカでかいベビーロックの音)»
と、同時に、
«ウォァォォォア!!»
«ガォゥェァァァ!!»
«グルゥァァァォ!!»
などと耳を劈く、五月蝿すぎる叫び声が聞こえ、ゾンビのような人型の化け物共が出てきた。
「おっしゃ逃げ回るぜ!」
俺はビルの約20メーターぐらいから飛び降りた。
また、それと同時に、ヘリのプロペラ音が聞こえてきた。
少し時間を遡る、ヘリの中だ。
「作戦を説明するぞ。
まず、俺が、糞共の住処に飛び込んで、奴らを引きつける。
奴らは近場の音を先に拾って、追いかけてくる、つまり、その後ならヘリが来てもあいつらは気にせず俺を追ってくる。
そこで残った4人にロケランやらなんやらを打ち込んでくれ、俺はフラグと火炎瓶をもてるだけ持ってく、俺は逃げ回りながらそれを使って出来るだけ数を減らす。」
と、説明した、だが無論、
「危険すぎる、全員で行った方がいいだろう。」
「そうだよ…1人囮役なんて無茶だよ…」
「あぁ、お前死ぬぞ?」
美咲、柊、師匠から反論された、だが、
「…いや、策あっての事だろ?ラルス。」
ジークが、俺を見据えてそう言った。
「あぁ、もちろんだ、むしろ一人じゃないと、お互い逃走経路が被って敵をぶつけあっちまうだろ?」
その言葉で、ある程度納得したのか、
「…まぁ、いいだろう。」
「…死なないでよ?」
「…随分な策だが…まぁ仕方ないか…」
「よし、決まりだな。」
そうして、今に至る。
「多すぎるだろこの数!?」
俺は大通り、ボロボロになっている、4車線の道路を走っている。
ポケットから手榴弾を取りだし、後ろに向かって投げた。
«ドガァンッ!»
爆発音が聞こえるが、
«ガァァァアルァァァ!»
«グォルァァァォォ!!»
まるで数が減ってない。
後ろをちらっと見ると、4車線道路を窮屈そうに走ってきていた。
「ほざきやがれ…なんて量だよ!」
«ヒュゥゥゥゥン…ドゴガァァンッ»
«ドガァンッ»
「どわっ…」
少しバランスを崩した…なんて爆風だよ…
だが、止まる訳には行かない。
〘ロケランの配達だぜぇ!〙
〘ぶっ飛べ!〙
〘爆ぜろ!〙
〘集中している所に…〙
頼もしい声が聞こえてきた、ちゃんと援護してくれているらしい。
「オラ!喰らえ!」
振り返ってる余裕が爆風によって消されたので、鉄粉に投げる役を任せた。
火炎瓶の割れる音がした後、炎の熱を少し感じた。
だが、すぐに腐敗臭が俺を襲う。
「クッソが…まるで減っちゃいねぇ…ん?」
走り回って逃げていると、何かが遠くで、正面に立ち塞がっていた。
「なんだアイツ…」
銃を手に持ちつつ、近づいていくと、それが身長2m、横幅まぁまぁの化け物であることが分かった。
「…あれが変異体か…運が悪い!」
グロッグを撃ちつつ、走っていく。
だが、二、三発命中させてもビクともしていない。
「クッソあいつなんなんだ…」
〘ラル?ロケランは要るか?〙
「いや、いい、格闘で何とかしよう。」
蹴り飛ばしでもするか、と思ったら、
«ガルゥァァアィァァァァァァ!!!»
と、吠えて、こちらにまぁまぁなスピードで走り出してきた。
「おいおいおい待てよ…」
とはいえ引く訳にも行かない。
前門の化け物、後門の群れ。
文字通り逃げ場なしであった。
「とりあえず…」
走った勢いのまま、ドロップキックを放った。
«ガルア!»
…その時俺は、
「うおわっ!?」
両足を掴まれていた。
«グルゥア!»
化け物の咆哮と共に、俺の体は宙を舞った。
「がッ…」
ビルのガラスを突き破り、派手に吹っ飛んだ。
その間、スピーカーはぶっ壊れた。
〘ラル!?〙
「降りてくんじゃねぇぞっ…」
最後に、何とか最重要事項は伝えれた。
端末は彼方へ飛んで行った。
「おいラル!応えろ!」
俺、夜那月は、かなり焦っていた。
「…くそっ!」
「待て、美咲。」
アサルトライフルを担いで、ヘリから飛び降りようとした俺を、金田城が止めた。
「離せ!ラルスがやられてるかもしれないだろ!」
「バカ落ち着け、あのラルだぞ?どうせすぐ端末取って、作戦━」
〘続行って、言うに決まってんだろ?〙
ラルスの声は、相変わらず余裕そうな声だった。
「がはっ…痛ってぇ…っ…」
体のあちこちを触って、怪我がないか確認したが、特に異常はなかった。
視界の半分が、何か赤く染まっていたこと以外は。
「クッソが…端末は…そこだな、よし。」
飛んで行った端末を、持ち前の能力で取り寄せた。
画面にはヒビが入っていたが、問題なく動いており、
〘…どうせすぐ端末とって、作戦〙
「続行って、言うに決まってんだろ?」
ジークの声が聞こえたので、被せてやった。
右目を押さえつつ、立ち上がった。
そして俺は忘れていた。
«ガルゥィウウゥ…»
«ガァァァルルル…»
「…あ〜…万事休してるな…これ…」
当たりを見回して、ビルの中に退路がないことを悟った。
無論、下手に援護も頼めない。
ここは廃墟のビルだ、ロケランなんざブッパしようもんなら、
ポケットに手を突っ込み、手榴弾のピンに手をかけた。
「さぁ来いよ…糞共…」
«ガルゥゥ…»
一旦ビルを崩して、こいつら全部ぶっ飛ばすか…
そんなことを思っていると、
(ラルス〜出来たぞ…って、何が起こっておるのじゃ!?)
いつもの呑気な声が聞こえた。
…あ、そういやこいつ居たんだった。
「あ、鬼神か?…丁度良かった、出来たんだって?」
俺は普通に声を出して、鬼神に聞いた。
«ガルゥ?…»
どうやらゾンビ共は、俺が狂ったかなんかと思って、首を傾げている。
こいつら話せばわかるんじゃねぇか…?
(馬鹿なこと言っとらんで、ほれ、始めるぞ。)
「頼む…」
俺が答えたと同時に、全身が浮遊感に襲われる。
「うっ…」
さすがにちょっと気持ち悪くなって、目を閉じて、その場に膝を着いた。
(あ…大丈夫かの?)
大丈夫だったらこんなことしねぇよ…
と心のうちに嘆いて、
「それよりお前は目の前のバケモン共を…あれ?…」
目を開きながらそう言ったのだが、目を開いた先の景色には、
「…お前もうぶっ飛ばしたの?」
(妾にかかれば、あのくらいの数はまだ余裕じゃ、とはいえ、ここらにいるもの全てを全部吹っ飛ばせと言われたら、お主の協力がいるな。)
ゾンビ共の死体がころがっていた。
何とか浮遊感になれ、外へ走ると、
〘お、ラル、よかっ…お前あのビルの中で何してたんだよ?…〙
呆れるような無線の声が聞こえた。
「へ?ただの窮地だったが…」
その言葉を聞いて、足を止め、お隣のビルのガラスを見ると、
「んん!?」
髪の色が桜色に変わっており、目は右目は俺のまま、左目は…鬼神の力を使用した際に、光っていた色だった。