第4話 緩慢なローファイ
…夢を見ている。
という自覚がある。
«ザーーー…»
視界に映るは、強めの雨…
そこから店の中やら地下通路…
行き着く先は奴隷売り場…
浴びるゴミ共の視線…
買われ連れられ研究所…
我が身に宿る、災厄の鬼神…
絶望に染っていく人生に現れた、1人の傭兵…
その光が……
「…ルス…ラルス〜」
「…んぁ?…」
…あ…現実…か…
あの後依頼所に事後処理のために戻って…
『ラルス?ラルスじゃないかー!』
『え?お師匠?!ちょっ?!』
『えっ?!』
『柊も元気か〜?』
『ご、ご無沙汰してます』
『おう、ご無沙汰。事後処理ぐらい事務に任せとけって』
『いやそんな悪い…』
『あ、お気になさらず!今どき事後処理手伝ってくれる傭兵さんなんてラルスさん含めて片手で数えられるレベルなので』
『という訳だ、あ、お前の家上がるがいいな?』
『えっちょ』
『わっ』
『可愛い娘が二人いる気分だな、悪くない。』
…師匠にあって…それで…
蛍光灯の光に少しビビりながら、うす〜く目を開けると、
「お、私の可愛い可愛い弟子がようやく起きたか。」
ムクっと起き上がって、その声の方を見ると。
「…お師匠…」
キッチンの方に…俺の家なのに勝手完全に分かりきってらっしゃる…
「寝癖たってるぞ、髪質は相変わらずだな」
エプロンを外しながらこっちに歩いてきて、ちょんちょんと髪をいじる。
あぁ〜…左目に眼帯、ガッチリなんてレベルじゃない体付き、俺を散々投げ回したバカほど太い腕…そして…
「…相変わらずでかいっすね…」
…あれなんぼぐらいあんだろう…とか思いながら聞いた。
「ラルスもそこそこあるだろうが…あ、また飛び込んで来たいのか?」
子供の要望を聞くかのように真顔で聞いてくる。
この包容力を持っているにもかかわらず、この人が独身な理由が不明だ…
「真顔で言わないでくださいよ、飛び込みたいですけど、もう子供じゃないんで…」
「顔赤いぞ可愛いぞ」
この人ぉ…にやけやがって…
「やめましょうかそういうの…」
どうにもこの人には敵わない。
「すまんすまん、ついな…あ、ジークに関しては心配するな、依頼所でさんざん美人に絡まれてたからついでに買い出しを頼んどいた」
なんでもないことのように言う。
…惚れていいやつ?
師匠はキッチンに戻って行った。
「…な〜んでジークは人気なんですかねぇ、師匠の方がカッコイイのに。」
ほんと謎である。
あのド変態野郎の方が人気なのか不明だ。
「うれしいこと言ってくれるなぁ、さすが自慢の弟子…いや、やはり、娘か?」
ガチャガチャと手際よく、準備している模様。
「ママ〜!」
もうどうにでもなれとノリに乗った。
「はいはい後で甘えさせてやるから。」
「半笑いで言った上にそんなことは望んで…うっ、ないとも言いきれません…」
へへっと笑って、師匠は料理に集中し始めた、さっきのは下準備だったのだろうか。
話を戻そうか?
あいつ、ジークは多少の実績はあれど、所詮B級。
『初代SSS級傭兵』の師匠には敵わな…いやちょっと待った。
「…師匠が人気になったら、こんなタイミングはなくなる…?…あっ…」
しまった気が緩んでしまって声にッ!?
「ぶふっ、子供かお前は、心配しなくても、ちゃんとお前との時間は取るさ、今日だって1ヶ月ぶりだろ?」
笑いながら言う、なんというか、この人の場合あんま馬鹿にしてるように見えない。
どちらかと言えば嬉しそうな…
「…まるきり親子じゃないですか、この感じ。」
ボフン、とソファに深く座る。
「本当に弟子と言うより娘だな…あ、そうそう、柊も今風呂入ってる、飯はもうちょっとかかりそうだから、お前も入ってこい。」
エプロンを脱ぎつつ、タバコを銜えながら言った。
「ほんとにママですか師匠…んじゃお言葉に甘えて。」
そうして整理されているタンスから服を取り、風呂場に向かう。
その道中、何故か廊下が綺麗にされていた。
「…いやほんとなんで師匠モテないんだ…?…」
風呂場に着くと、中から、
「シャワー…すごい…んふふ〜♪」
満喫している声が聞こえた。
可愛い。
「あ〜、柊〜?俺も入っていいか〜?」
「ッン!?…うん…」
ぐっ…もう少し聞いていればよかった…
そう後悔しながら風呂に入った。
風呂情景書くと思ったか?
…わからんので勘弁してくれ(By作者)
風呂から出た後、ご飯を食べて柊は寝た。
やはり能力の使用は体力を使うもんである。
「…ふぃ〜…」
ふにゃっと、ソファに沈む。
「完全にだらけてるな、写真撮らせろ。」
「何を真顔で言ってんすか!?」
風呂を上がり髪を拭きながら、師匠が至って真面目な風に言って来た。
「いや実際撮りたかったんだが…まぁいい、話題転換だ、さっきうなされていたが、どんな夢を見ていたんだ?」
冷蔵庫からビールを取り出しながら聞いてきた。
「…簡単に言えば…昔の、ですかね…」
«カシュッ»
遠慮なく炭酸のはじける音が鳴った。
「昔…か、具体的には?」
師匠は恐る恐ると言った感じで聞いてきた。
「…俺が、まだ…傭兵じゃなかった時代の…」
「そうか、思い出させたな、悪かった。」
「いえいえ……あまり思い出したいもんじゃないことは確かですが…」
「う〜ん…まぁ、そう簡単に吹っ切れるもんじゃないか。」
半笑いで言いつつ、空の缶を机に並べ始めた。
飲むペースおかしいZE☆
「…まぁ、そんなとこです…今でも思いますが、あの時、師匠が居なきゃ、俺はこんなにはなってないです。」
俺はこの人に救われた。
研究所から追われ続けて、なんの反抗も出来ず追い詰められていたところに師匠は現れた。
「もう何十回と同じこと聞いたぞ…まぁ、実際あの時の目とは全然違うもんなぁ。」
缶ビール片手、呑気に笑っている。
「いやまぁ…むぅ…あ、俺も貰いま〜す。」
思いっきり子供扱いされたと感じた俺は、チューハイの方に手を伸ばす。
«カシュッ»
炭酸のはじける音と共に、長話が幕を開けた。
ここからは、師匠から聞いた話である…
『…ししょ〜…』
『さすがに飲ませすぎたか、完全に潰れたな…』
『なんれふか〜…おれはまらまらのめまふよ〜…』
『いやもう無理だろう、ほら、寝るぞ。』
『んぇ〜…ねるならししょ〜といっしょがいいれふ…』
『…はぁ、普段からそんなの感じでもいいと思うんだがなぁ…』
あの後数時間ほど飲んで話して、結局俺が寝たのは2時だったらしい。
寝るというか、寝落ちたというか…
それで、寝た場所が…
「私の膝の上だな」
なんなら写真も撮ったと続けた。
見事にヨダレを垂らしてるバカの顔が写っていた。
「うぇ〜…勘弁してくださいよぉ…あ、柊は?」
風呂で確か依頼が来たとか言っていた。
思い出すと色々可愛かったな…
「あぁ、仕事あると言って、もう行ったぞ。」
「あ〜まじすか…」
なんというか…申し訳ない。
俺の依頼を手伝ってくれたのに俺は呑気に寝てたと…
「ま、そんなに気に病まなくていいと思うぞ、あの子も『ラルスがそんな安眠してるの久しぶりだし…』って言ってたしな。」
うおおぉ柊にもみられてたのかよぉ…
「あ、ちゃんと写真も転送したぞ。」
「何いい笑顔で言ってんすかやめてくださいよ?!」
本気で自分の身の不覚を恥じた。
その後、身を起こして着替え、身支度を済ます。
先の戦闘で普段着が大分汚れたので、半袖ジャージとショートパンツという動きやすさ満載の服装に変えた。
「それじゃ、行けるか?」
先に玄関に行っていた師匠が、いい笑顔をしながら言った。
「えぇ、お師匠。」
次の任務が始まった。