第1話第1夜 繋ぎのワルツステップ
依頼所の中は賑やかだった。
依頼内容について聞いてる者、依頼の資料を見ている者、相棒と待ち時間を潰している者、色々だ。
「…さてと、依頼を聞きに━」
独り言をぼやこうとした直後だ。
「━おいお〜い?間抜けな『元SSS傭兵』さんは呑気に簡単な仕事ですかぁ〜?」
はい今お決まりだなと思ったそこの君、安心しろ毎日されてんだ。
独り言も言えないこんな世の中なんてっ…
とか適当なことを思いながら、
「はぁ…両手に花の英雄気取りか?スキッゾ」
カッコつけてるとしか思えないようなジャケットを羽織り、隊員だかチームメイトだか分からない女をつけている。
というか、周りのやつら、こんなやつにびびんじゃないよ…
「あぁ?少なくともてめぇよりかは周りの連中からの支持がある、それに…」
見下しながら近づいてきて、
「任務妨害なんて汚職した、『災厄の鬼神 ラルス』とは違うんだよぉ…」
ニヤニヤ笑いながら言ってきた。
はっきり言って殴りたい…まぁ、それはしちゃまずいのは当然わかっている。
とりあえず言い返そうとしたタイミングで、
「…邪魔、退いて。」
異様な威圧感を放ちながら、
「!?」
1人、とても若い少女がスキッゾを退かして歩いてくる。
「よう、今日も俺の方が先だったな、柊。」
そいつに、俺は声をかけた。
周りがビビっていた理由、本当はこっちにびびってたな?と言うほど、周りも静まり返っている。
「…ラルスは家近いから、早く来る方が普通だもん。」
ポコポコと、俺を小突きながら、少し拗ねたように言う、子供か!あ、ほぼ子供だったな。
「ふふふ、確かにその通りだな。」
少し笑いながら俺は言う。
いや和む和む…
「おい!話は終わってな━」
い、と続けようとした、クソ野郎もとい、スキッゾだったが、
「何?」
とんでもない圧をかけた柊さんに止められていた、うちの子優秀だわぁ…
なんでもないです、と言ってスキッゾは去った。
ついでに周りもいつもに戻った。
普段はこっから言い合いになって周りがなだめ出してたのだが…
「や〜、助かったぜ、柊、ありがとな。」
下心も何もない、普通の普通に感謝したのだが…
「…べつに…大したことじゃないしっ…」
「うごフッ!?」
遠慮と隙のない右が俺を襲うっ!?
声と行動が一致してませんよぉ…
腹を押さえている俺を見て、さすがにやりすぎたと思ったのか、
「…ごめん…」
と、可愛らしく、申し訳なさそうに、腕に引っ付いて謝ってきた。
「くぅぅう…許す…」
あの可愛さには勝てんわ…
「それじゃ、俺依頼あるから、またな。」
と、別れようとしたのだが…
「…あの、柊?離れてくれないか?」
腕に引っ付いたまま離れない、あと周りの視線が痛い…
おい周りぃ!さっきまでビビっとったやろがァ!
「…もうちょっと…このままがいい…だめ?…」
良い子のみんな!こんなこと言われて断れるか?!
しっかり……と言うよりがっちりと腕に捕まり、上目遣いで見てきた。
「うぐぅ…そーだなぁ…あ、一緒に来るか?」
と、言うと、待ってましたと言わんばかりにニヤけて、
「ふふふ…うん、行く。」
と言った…俺はまんまと嵌められたわけか。
さすがに腕からは離れてもらって、2人で受付の方へ向かう。
まぁ手は繋いでんだが。
「すいませ〜ん、A級傭兵、ラルス・リアムなんすけど…」
受付の人に声をかける。
「あ、はいはい、少々お待ちください…」
奥へ入っていった。
ここの受付ちゃんは美人だよなぁと思いかけたところで柊からの冷たい視線を感じたのでサッと思考を戻す。
さて、受付さんが書類を探している間に、依頼所やらなんやらについて説明しよう。
依頼所、文字通りあちこちから依頼が来る場所だ。
昔はなかった、要らなかったからな。
警察とか、役所が処理していたのだが、さっきも言ったとおり、こんだけ荒廃が進んでしまっては無論経済もまわらず
景気も悪い。
その景気が悪くなるにつれ、どんどん治安も悪くなっていった。
結果、手に負えなくなったために作られたのが、依頼所である。
依頼所では、依頼を整理整頓する受付、事務等の役職と、その依頼を処理する傭兵、あと賞金稼ぎである。
賞金稼ぎに格付け(公式的に)は無いが、傭兵にはランク付けがある。
下から順に、G、F、E、D、C、B、A、AA、AAA、S、SS、SSS、と、まぁまぁ多くランク分けされている。
さっき、どっかのバカが『元SSS級傭兵』とか、言ってたが……まぁ、色々あったんだ。
ちなみに、横に着いてきている柊は、『実力派S級傭兵』と、言われており、文字通りとんでもない戦闘力や、依頼処理能力があるので、評判はいい。
まぁ社交性は置いといてだな。
…それに比べて、俺はとくに何も…
「お待たせしました、ラルスさんに届いている依頼はこちらになります。」
っと、危うく自己嫌悪の沼にハマるとこだったぜ。
「ほいどうも…って、また賞金首ですか?」
前も賞金首をとっ捕まえるやつだった、ちなみにその前もそれである。
これじゃ俺がカウボーイじゃねぇか。
「お気持ちはわかりますが…最近、また治安が悪くなってきてて…」
なんとも言いずら異様な表情…をさせてしまった。
「あ〜いやいや、別に受付さんを責めてるわけじゃないんだ、悪かった。」
「いえいえ、ラルスさんのお気持ちも分かりますので…とりあえず、お仕事頑張ってください、『神の加護のあらん事を。』」
受付さんが言ったのに合わせ、
「「『God Blessing our』」」
と、返した。
ここでの掛け声みたいなもんである。
ちなみにこれは、受付ちゃんの気分によって言うかどうかが決まる。
休みの少ない受付ちゃんの、娯楽代わりのようなものなのだろう。
掛け声を交わしたあと、出口へ向かう途中。
「…ねぇ、ラルス。」
「ん?どした?柊。」
柊が呼んできたので、聞き返しながら顔を見ると、少し複雑そうに、
「汚職のこと、気にしないで…あんなの、信じてるのは、取り巻きみたいな雑魚ばっかりだから…」
と、励ましに近い言葉を言ってくれた。
「…あぁ、まぁ━」
天井に着いている照明を見上げて、
「━…言われなくても気にしてない、ありがとな、柊。」
もう一度、柊を見て、まっすぐ目を見て言った。
「…うん!それなら、良かった!」
嬉しそうに、安心したように返事をしてきた。
ほんと可愛いやつである。
それ以降、特に会話は行われなかった、が、お互い少し暖かい雰囲気であったことは違いない。
先程、受付さんから貰った書類には、やっすい銀行強盗の犯行履歴と、次の犯行予想場所だった。
━とある銀行……
「オラ!早く金詰めろ!」
拳銃を持った男が、脅している。
「ひぃぃ…」
「は、はい…はぃ…」
怯えながら答える銀行員。
「おい、ジョージ!逃走用意しとけよ!」
金を詰める男が、奥にいる仲間に言った。
「へへへ、了解だ。」
4、5人が完璧に強盗していると、不意に自動ドアが開き、
「…〜♪」
1人、168cmほどの女が入ってくる。
「おい?何考えてんだお前?」
と、強盗が声をかけるが、
「金下ろすか〜…」
まるで眼中に無いように振る舞う。
「おい女!聞こえてんのか!」
そう言いながら、男は女の首に拳銃を振りおろした…が、
「あ〜ら、よっと。」
まるで分かるかのように避け、相手をATMにぶん投げた。
「ぐほぁ!?」
「1人確保。」
手錠をかける。
「にゃろうっ!」
1人2人と反応して、女に銃を向け、放つ。
だが、
«シュワァン…シュワァン……»
銃弾が鉄粉になってバラける。
「なっ!?」
「はっ!?」
2人の声がほとんど重なる。
「俺に銃弾は効かねぇよ!」
一瞬で距離を詰め、2人に手刀を打ち、気絶させる。
「ほい、手錠と。」
━ラルス視点。
やれやれ、能力使うタイミングが来るとは思わなかったぜ…
さっき、銃弾を鉄粉に変えたのは言わずもがな俺だ。
俺と言うより、俺の能力、ある程度の金属をある程度操れるぐらいだ。
…ま、俺に元からある能力じゃないが。
「な、なんなんだよおまえぇ!」
あ、錯乱しかけてるなあいつ。
残った強盗がふるふると震えながら聞いてきた、情けねぇ〜…
「…えい…」
«ゴギィ»
あ……
「ごほっ…」
ばたりと1人倒れる。
「ナイス、柊〜」
親指を立てながら言うと、
「…ぅん…ありがと…」
完っっっ全に照れている、超可愛い。
「こいつでラストかねぇ…」
柊が仕留めた奴にも手錠をかける。
ひぃ、ふぅ、みぃ、よぅ……なんかひとつない気が…と、思案していると…
«バババババババッ»
「ッ!柊!」
俺は柊に飛びついた。
「ひゃあっ!?…」
「ぐっ…」
肩に一発か…危ねぇ危ねぇ。
«バババババババッ»
銃撃はまだ止まない。
何とか飛んだ先が遮蔽物になっており、うまく柊を守りながら飛び込めた。
「…りゃりゅしゅ…きちゅい…」
「…ぅっ…柊、あんま動くな…」
モゾモゾと、柊が動くせいで、ちょっと、こそばゆい…
ので、少し緩くした。
「…ちょっと狭い…あと、ラルス、胸、大きい。」
またモゾモゾと動く、やめろコラ。
「やめいやめい、俺一応けが人だぞ?あと、勤務中にセクハラするなこら。」
«ババババババッ»
銃撃が一通り止んだ、おそらくマガジン分も撃ち尽くしたはず。
「よし今だっ!」
バットその場から起き上がり、相手のアサルト銃に拳銃を向け、
«バンッ»
発砲。
放たれた拳銃弾は、フロントサイトから入って、ボルトキャッチに弾丸が詰まる。
「くそっ!?」
銃が壊れたので、殴りかかりに俺に突っ込んでこようとした瞬間、
「えい…」
«ドゴォ»
あ…
「ごぶは…」
また、柊がやってくれた。
ほんと、見た目に反してとんでもない戦闘力である。
「はい、ラスト確保…」
最後の奴にも、手錠をかけ、強盗をまとめ、
「あ〜、銀行の人ら〜?もう終わったから警察でも呼んで後はやってくれ〜。」
「あ、あぁ…助かったぁ…君らは一体?」
「普通の傭兵よ傭兵、若干遅れて悪かったな。」
銀行員にも説明やらをして、ある程度区切りが着いた。
…ところで、
「……ん〜……」
…何やら、隣の方から熱烈な視線を感じる。
「……む〜……」
…さて、外に出ようか。
そう思い、歩き出したのだが〜……
「ん〜!!…」
ぐいぐい腕を引っ張りながら、不満を訴えてくる。
ペットかお前は…
「はいはい、よしよ〜し、よく頑張った。」
とりあえず頭を撫でておく…
「んへへ…わ〜い…」
うっ…こんな可愛い子が、S級傭兵なんて…信じられん…
しばらく撫でていると、
「…あの〜…もう、いいよ?…」
されるがまま撫でられていた柊が声を上げた。
あれ?そんな撫でたっけと思い、腕時計を見ると……3分ほど経過していた。
「あ、おう…すまんすまん、つい可愛くてな。」
おどけながら返すと、
「…うるさい」
「はいはい、遠慮のないブローを放つな?」
スっとブローを打ってきたので、それを、手で抑えながら、答える。
肋骨が全部死ねるレベル、非常に危険である。






