第1話 夜中のタンゴ
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《出ていけ!》
《気味が悪い!》
《消えてしまえ!》
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《実験は終わりだ、消えろ》
《お前はもう組織に、この世に必要ない》
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《ごめん…『………』のためだから…》
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…
「っ……………はぁ〜〜、ま〜た覚めたあとが辛い夢、か…」
寝袋から出て、片を付け、伸びをしながら、顔を洗いに洗面所へ向かう。
「んっん〜…」
鏡に映る自分を見て、
「…過去はどうあれ、未来はある……どっかの賞金稼ぎも言ってたんだ、それをモットーに生きなきゃな。」
気合を入れ直すように水を被る。
片手を顔の前翳す、そして掌から、自分の顔に鉄粉をかけ、すぐに戻す。
その際、鉄が水を取る。
「…タオルの代わりと言えど、やっぱりあっちの方が気持ちはいいわなぁ。」
ここに来るの時に買って、まだ袋も開けず棚に置いていたタオルを見ながらそう言う。
「…〜♪」
呑気に鼻歌を歌いながら着替え、玄関に向かう。
「…〜♪…あ。」
その途中、ホコリ被った写真立てを見て、思わず触れた。
「……未練がましい、かね…」
もうすぐ月が沈む、が、ラルスは仮の家としている、マンションの一部屋から出た。
夜風を感じながら、錆び付いた階段を降りて、仕事場へ歩いて向かう。
電線が切れ掛けで、点滅している街灯、ボロボロに崩れたコンクリート…
「どの町も、国も、びっくりするほど荒廃してくなぁ…まぁ、俺の仕事は無くならんだろうが。」
歩道を歩きながら、呑気に思う。
「…〜♪…ん?」
思案に飽きて、口笛を吹き、曲がり角を曲がったところで、
「おう姉ちゃん、呑気に何口笛なんざ吹いてんだ?」
と、見るからに『あん?チンピラだぞゴラァ』みたいな服装の奴らが屯っていた。
「…〜♪」
スルーしようとわざわざ避けて通ったが…
「どこ行こうとしてんだ?あん?」
無論立ち塞がってきた、めんどくさい。
「…君ら何歳よ?ガキがいていい時間じゃないと思うよ?」
とりあえず、正論をぶつけてみた、がどうやら逆鱗に触れたらしく、
「うるせぇよ…てめぇの方が身長低いだろうがよぉ…」
半分どころか、八割方怒りながら、言い返してきた。
「人を見た目で測るんじゃないよぉ、俺りゃもう28だぞ?分かったらとっととおうち帰れガキども」
身長のことをいじるんじゃないこのがきぃ…
と思いながら、ド正論をストライクゾーン真ん中にぶん投げた、それに対してやつが返してきたのは、
「うるせぇチビが!」
«ゴン…»
綺麗な右フックである。
ストライクゾーン真ん中に投げるんじゃなかった…
「お〜、なんとまぁ『僕ちょっと格闘技やってましたよ〜』みたいなパンチだ事。」
まぁ、別に喰らっている訳じゃない。
「なっ…いっつ…」
それどころかあっちがダメージ受けてる始末…
「おいおい、たかがお前さんのグーに合わせて、小指球を当てただけじゃないか。」
理屈は簡単、アッパーを手で受けただけだ。
ただ、その受けた場所が硬いだけで。
「うっ…このっ!」
もはや言う言葉もなく、乱雑なケンカキックを繰り出してきた。
「大振りな技は、簡単に投げれるんだよ。」
ケンカキックに合わせ、体を右に向けて、足をつかみクルっと回す。
結果、チンピラのなり損ないは見事に吹っ飛んだ。
「うおぁぁぁあ?!」
«ドンガラガガガ…»
なんかに当たったのか、色んな物がチンピラの上に覆い被さる。
というより落下して当たってる、いてぇぞこれ。
「はぁ…傭兵に戦い挑もうとすんなよ、坊や。」
歩いて近づき、チンピラに被さってるものを退けながら言った。
「けほっ…けほっ…」
うん、咳き込んでる…やりすぎたかね。
「大丈夫か〜?」
手を差し出しながら聞く、
「…っけ!」
が、無論はね飛ばされる、うんまぁ…うん。
そのままチンピラは取り巻きを引連れて帰っていった。
「ガッコ行って数少ないスクールライフを楽しんどきなさいよ〜、全く…」
その背中に届いたかどうかは分からないが、一応声をかけた。
振り返って、仕事場に向けて再び歩き出す。
「…はぁ、ちょっと急ぐか。」
少し早足になり、依頼所へ入っていった。