第二十六話 呂布奉先、ローマを治める <序>
父の背中が寝室に消えるまで見送り、呂布と季蝉は灯りを消し外に出た。
後に内モンゴルと呼ばれる地方に位置する村は、夏とはいえ夜間には肌寒さを感じさせる。
そっと季蝉の肩に手をまわした呂布の手に、微かな震えが伝わってくる。
寒さのせいだけではあるまい。
季蝉を家まで送り家人に挨拶をする。
事前に婚礼のことは知らされていたのか家人の態度は穏やかなものだった。
季蝉には親と呼べる者がいない。
ある日突然呂大夫が村に連れてきて以来、村全体の子供として育てられた。
どうして可比能のように養子として村の一員にしなかったかは、呂布にはわからない。
今目の前にいる家人も月回りで季蝉を養育している一人にすぎない。
季蝉は自分の境遇について嘆いたことも喜んだこともなかった。
受け入れる力のようなものが生まれつき備わっていたのかもしれない。
季蝉と別れるとき呂布は何か言わなければ、と思ってやめた。
頭の中に靄がかかっているようだった。
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