カナリアの国③
推敲してません。一つにまとめられたらまとめます。
朝は勝手にやってきた。
少しばかり目が腫れているようで、熱をもったまぶたが痛い。そろそろとベッドから抜け出し身に纏う黒の服を見る。
さらりとした感触、普通の生地とは違うのだろう。
このまま待っていればメイオールがやってきて洋服箪笥からドレスを選ぶはずだ。私は重い足を引きずりながら箪笥の扉を開いた。見れば色彩豊かなドレスなのに、どこか色褪せているように見える。
お気に入りの黄色のドレスは奥に隠れていた。
汗を吸い取ったせいで鮮やかさを失い、泥をかぶっているようだ。これを着るには少しばかりはばかれる。
今日も山に入るし、目立たない服がいい。眺めながら奥に葡萄酒色の簡素なドレスがある。体のラインを強調し着る人を選ぶだろう、その服は取り出してみると私より大きめだが、着ていた人は同い年か上か、発見した気持ちより小さく感じる。
軽く埃を払いながら服を掛けて黒のドレスを脱いだ。本当はメイオールにやらせないといけないのに……。
そういえば今は何時だろう。朝食がないということは、まだその時間ではない。
服を脱いで見つけた葡萄酒色のドレスを身に纏う。肌にぴったりと合う腕、肩部分もすっぽり収まり、胸元も胴も綺麗なラインを作り上げる。
あれ、少し大きく感じたけれど意外と体に合う。スカート部分は膨らませずストレートで、とても動きやすい。この服の持ち主は、外に出るのが好きだったのかもしれない。
姿見の前で一回転してスカートの裾を持ち上げる。足を持ち上げて走るのに支障がないことを確認してから、お気に入りの黄色のドレスを見た。
これは、私のだろうか。
気づいたら着ていた。それを好きだと言い、洗いに出すまで毎日のように着ていた。これは誰のだろうか。暗い気持ちが湧き出てくる。
『これは私のドレス』
そんな言葉が頭の中にあった。でも、その言葉の〝私〟は私ではない。きっと。
衝撃はない。歴代の神のモノだろうと納得してしまえば、この洋服箪笥にあるドレスに私のドレスはない。
そろそろ朝食が運ばれてくるころのはず。一旦、箪笥に仕舞い、私は大人しく椅子に座り、机にある紙を見る。ケーレスが置いていった花々の複製画だ。
窓から光が溢れ出す。風も少し出てきた。自然が動けば人も動く。
ごんごんごん、そんな酷いノックが聞こえて「どうぞ」と入室を許可した。許可をしなくても入ってくるけれど様式美は大切だし、まだ愚かに思える。
「あら……もうご起床なされていたとは……良きことです。神よ」
想定外、そんな顔のメイオールは私の服を見て目を見張った。
「……そのドレスは」
いつものドレスはどうした、と言いたいのだろう。
「メイオールは、いつもいつも私のことを考えてくれるでしょう? 自分でできることをすればメイオールが楽になるかなって思ったの。箪笥の中は綺麗な色でいっぱいね」
ゆったりとした口調を心がけながら、にこりと笑う。
「……ええ、ええ、ご立派でございます」
「もう一人で着替えられるわ! ありがとう、メイオール!」
そこまで言うとメイオールは笑う。それは笑顔ではなくて馬鹿にしたような笑み。
「このメイオール、嬉しく思います。しかし、わたくしの仕事がなくなってしまいますわ」
嘘。
「いいのよ。わたくし、もう十二年間もメイオールのお世話になっているのだから、とても感謝しているの。公務以外でメイオールの手をわずらわせたくないわ」
「それは、痛み入ります」
メイオールが、にやりと気持ち悪い顔になるのを見た。遊ぶ時間が増えてよかったね、メイオール。別邸とやらに引き籠もっているといいわ。
彼女に注目しすぎていたせいで後ろで控えていたレガに気づかず、からりと鳴るカートの音で、私は目を覚ました。
「朝食を、お持ちいたしました」
スープ、サラダ、パン、水。机に乗せられていくのを見ながらレガの顔を見る。昨日と相変わらず無表情で抑揚のない声、さらりと舞う髪は使用人にしておくのが勿体ないほど綺麗なものだ。
「ああ、そうでした。神よ、お聞きしました。こちらはレガ・ガル・センシス、掃除番をしている者です。この者に食事を運ばせる、と報告を頂いたですが」
戸惑いの瞳はない。ちらちらとレガを見るのは不安があるようで、
「ええ、昨日の夕食を運んで頂いた時に、その、恥ずかしいのだけれど、とても誠実な方で、メイオールの後釜には、とてもいいのかと思ったのよ」
そう言うとメイオールは、またにやりと気持ち悪く笑うと、
「そうなのですか、そうなのですか。レガは掃除番と言えど信頼できる使用人でございます。神がお望みとあれば。レガ、いいですか」
その問いかけに、レガは背筋を伸ばして向き直り頭を下げる。
「はい、この有り難きこと、神とメイオール様に誓い、このレガ・ガル・センシスは仕えさせて頂きます」
普通は、自分の目から離れることを嫌がるものではないか、メイオールは神の世話という賢者の仕事を軽々と放棄してレガに押しつけた。
そしてレガの表情を窺うことはできないが、メイオールに昨日の発言を報告する度胸、あっさりと受け取る柔軟さ、無表情であれど野心はあるのかもしれない。
食事に手をつけながら、扉の前に控えるレガとメイオールの観察していた。もちろんだが会話もしないし、何かしようともしない。私が食べ終わるのを、ただただ待っているのだが、ちらり、メイオールの足先が揺れている。
それに比べ、レガは石像にでもなったように動かない。
パンを千切り、口に含んでスープを飲む、と気づいたように私は言う。
「メイオール、そろそろケーレスが来る時間だわ。迎えに行ってはくれないかしら」
その言葉に待ってました言わんばかりの笑顔が返ってくる。
「ええ、ええ、そうですね、行って参ります」
わかりやすい。ばたんっと勢いよく閉められた扉の風でレガの髪が揺れる。仕える人の前で、このようなはしたない行動をレガは無表情で受け止めていた。
「……レガ」
「はい」
「引き受けてくれてありがとう」
ぽつり、と零すだけ零して最後の一口で食事を終える。
それを見たレガは、ゆっくりとした足取りで隣に来るとポツリと呟いた。
「弟に聞いております」
私はレガに目をやった。弟? レガ、レガ・ガル……。
「マルケル」
「あの子は、まだ小さい。しかし分別と忍耐、聡明な弟です」
そのままレガはカートに食器を置くと姿勢をただす。
「それに」
「それに?」
「わたくし、メイオール様のことが嫌いなので。万年はつ、いえ、なんでもございません。弟は各方面の行動を、わたくしは使用人たちの日夜の動きを。こんなにつまらない国を、どうぞ、お崩しになればよろしい」
うっそりとレガは微笑んだ。その邪悪に近い笑みは私の心に喜びが舞う。
「レガはイイ人だわ」
「お褒め頂き光栄でございます」
「ケーレスもいるわ。あと騎士たちのことが知りたいの。家の中、のね」
「かしこまりました。では、わたくしはこれで」
一礼をするとレガは風のごとく扉の音を立てずに去り、私はくすくすと笑う。
早めに気づければよかったのに、こんなにも緊張していたのね、だなんて私は思う。では次。
ケーレスたちが来る前に洋服箪笥にある黄色のドレスを引っ張り出して破いた。元々ボロボロの服はいとも簡単に引き裂かれ、できるだけ石を包み込めるような形にして胴体に巻き付けた。
あとは簡単だった。メイオールが連れてきたケーレスと共謀し、私は山に入る。とんとん拍子だけれどケーレスの「お気をつけて」の言葉に気を引き締める。
今回は石を拾いながらの往き道。私は昨日集めていた庭の石をドレスもとい、ただの布で包み、道すがら木の裏や少し埋まっている石、大きめの石、木の根に置けるわかりやすい石、ドレス布に入れるだけいれてガヴァネスのところに着いた。
「……きみは思い切りが強すぎないかい」
昨日のきみはなんだったんだ、と呟くガヴァネスに渡そうとしたら膨らんだ袋は窓の縁に引っかかりそうになるものだから、仕方なく、ガヴァネスには退散してもらい、ぽいぽいと私は蔵書庫の中に石を軽く――ガヴァネスが本を傷つけないでくれと言ったので――投げ込み、最後は元ドレスを渡した。
「これは」
「元、好きだったドレス。他の方のものよ」
「だろうね」
その言葉に私の目は疑心に満ちる。それに気づいたのかガヴァネスは肩をすくませながら、
「ぼくの、先代のドレスだね。似てる似てると思っていたけれど、まさか着回ししていたなんて」
それは嘲りの笑いだった。
「箪笥の中は、全てそうよ。これも」
服を持ち上げるとガヴァネスの瞳は憂いを持つ。
「奥の、さらに奥には大人用もあるようだけど、まあ、今はしょうがないことよ。これからは私だけの洋服箪笥になるのだから」
私の言葉にガヴァネスは、出会った頃より大きな声で笑った。
ポイッと鍵を投げ渡され、手を振られる。その前に、
「ねえ、ガヴァネス、窓の縁に魔法が使われているって何故わかったの?」
「そんなの目の前でやられたに決まっているじゃないか」
何を今更、なんて顔でガヴァネスは私を見た。
「じゃあ、魔法がかかっているかどうか判断できる方法はある?」
目の前の女性は、ふむ、と悩む。それから席を立ち、奥に引っ込むと、ややあってから戻ってくる。
「銀が含まれている布だ。あそこに入れないのは知っているだろう」
「ええ、木製の扉には魔法がかかっていなかった。その先の牢獄の棒。それに触れていいかわからなかったの」
魔法というのは厄介でね、とガヴァネスは語り始めた。
確かに使えることは使えるが個々によって力が違う。それでこそ自分と神の差は歴然であり、ネモレの魔法はあまり強くはないらしい。せいぜい、縁や棒などの境、しかも短距離しかかけられない。
木戸は風や嵐がくれば揺れるのでネモレは魔法をかけなかったのだろう。問題は、その先の牢獄の棒にある。
あの何本もはめ込まれた棒、一つ一つに魔法をかけられるかと言ったらネモレでは無理だろう、とガヴァネスは言った。私の体験を元にした憶測なのでガヴァネスは渋い顔をしていたが、
「その銀の布は、ぼくが作ったものだ。能力は簡単。銀には〝魔法の力が効かない〟という魔法をかけてある」
それを聞いて私は瞠目した。
「言いたいことはわかるよ。腕に巻いて触るだけなら効果がある」
ため息をついたガヴァネスは、これでお仕舞いと背を向ける。
「……まだまだ聞きたいことはあるけど、今日はこれまでね。あ、糸はその布で作ってね」
そう言い残して、私は蔵書庫をあとにした。また笑い声が聞こえたけれどガヴァネスが元気そうでなによりだ。
とん、とん、とん、と覚えた道程を行けば木戸が見えて、昨日と同じように鍵を外しす。前はとても緊張していたのに、たった一日で心が変わってしまったよう。
おっと、とノックをして扉を開けた。
埃を舞い上がらせながら開いた木戸の前に鉄格子、その先の、真っ直ぐ対角線上に弟は布にくるまって体を横たえていた。
びくり、と心臓が鳴る。
「だ、大丈夫!? 体の調子が悪いの!?」
その声に、のそりと弟は起き上がる。布が落ち、ねずみ色の髪と私と同じ薄紅がこちらを向いて、ずりずりと近寄ってくる。
「あ……」
嬉しい。しかし近寄ってくるたびにガチャガチャと鉄同士が擦れる音がして怒りが沸いた。
「……」
赤茶の枷に重そうな鉛玉は細い足首につけられ、汚れた服は、ところどころに茶色の染みを作り、手は腕は細く、全体を見れば痩せ、私よりも背が低い、かもしれない。
ふつふつと怒りがこみ上げる。私の弟にこんなことをして、アイツらを絶対にユルサナイ。
「えっと」
鉄格子の前まで来てくれた弟の瞳は虚ろだけれども、確かに私を見ている。
早速、ガヴァネスから貰った銀の布で腕を巻いて格子の間を通り抜けた。
「はえっ」
弟は怯えて、私の手を押し返そうとする。しかし、その力は弱く、とても弱くて力を奪われてたことがわかる。
「駄目? ううん、この布は魔法を感知しないのよ。大丈夫」
布部分が格子にあたっていればネモレに知られることはない。その先は素手で弟の手を握った。
「ア……」
「やっぱりカビ臭いわ。こんなところ早く出ないと。今、色々とやっているから、もう少し待っていてね」
弟の手は、細く、細く、私が手で包み込んでしまったら折れてしまいそうで、それでも私は触っていたくて何度も手を握る。ふと顔も汚れているし、と拭うと弟は慌てたように拭われた頬を汚した。
気まずそうな弟を見て合点がいく。
「そっか、汚くないといけないもんね。あーやだやだ、早く出ましょう。私の弟なんだから同じ銀髪だし、顔だって私に似ているでしょう?」
綺麗だもの、と自信満々に言うと弟は少しだけ、本当に少しだけ目を細めた。
「今度の噴水広場なんだけど……あーもう、本当名前がないのって不便ね。歴代の神々もそうに違いないよ。好きな子の名前を呼びたいのに呼べないって最悪」
そうつらつら喋るだけだが、弟は私の手のひらに己の手を乗せて、ぼう、としている。
「どうしたの」
「……ゆめ、が、かな、た」
夢? という言葉に首を傾げた。
「ねえ、さ、きて、たすけ、きて、くれ、た」
喉が痛いのか擦れた声で弟は喋る。
「いつ、も、も、まほう、て、みて、た」
「無理に喋ると、もっと喉を痛めるから駄目よ」
弟は私の手を優しく今の力で握る。ここ、と言って手を置いた。
「あ、そっか。力を使う時は私の手を使うんだもん。それなら私を見てたっておかしくないか……嫌いじゃないの?」
昨日、真実が怖くて否定されるのが怖くて、自分勝手で酷い姉なのに弟は、ふるふると頭を振る。
「たて、いつ、か、きて、たす」
「もちろん、助けるわよ。まー、気づかなかった可能性もあったけど」
目の前の家族の瞳が潤んだ。
「可愛い弟を悲しませずにすんでよかった。たぶん、死ぬ時は一緒だし」
その言葉に薄紅が見開く。
私は昨日までに収集したことを話した。わからないこともあったろうけど、弟は首を縦に振り、真剣に聞いているようだった。
「と、言うことで現状はこんな感じ。少しでも間違えると計画は駄目になるけれど、まー大丈夫よ……て、あれ」
にぎにぎとしながら牢の奥の奥。弟が居た場所に光がさしている。そのまま光を辿っていくと私たちでは届かない場所に窓があった。こっちもご丁寧に格子がついている。
「あの窓の格子……」
そう呟くと弟は確認するかのように振り返った。
「背は届かないよね」
肯定の頷きに私は再度、牢屋の中を見渡した。
あるものは夜の為の燭台、敷物、薄い布、遠くにパンらしきものと水らしきものが置いてある。あんな食事で、よく生きててくれたと感心していると、
「あ、まほ、ない」
「あの格子には魔法がかかってないの?」
言いたいことを口にすれば、こくりと頷かれた。
「うーん、格子はどうにかできるけど、あの窓の大きさじゃ出れないよね。じゃあ、ここの魔法って、ここの格子だけ?」
また、こくり。
ガヴァネスの言う通り、ネモレの魔法は限界がある。
「ねえ、ネモレ以外のアイツらって魔法使えるのかしら。女の人は?」
横に首を振る。
「じゃあ、男の人で……甲冑を着ている人」
横に振る。
「ええっと、あ、槍の人、白衣の人」
それに弟は黙る。何か考えているようだった。
「わからない? えーと」
指折り数えて、あとはバーネットだけだと思い出す。
「あと一人なんだけど、そいつは?」
弟は首を横に振った。
「じゃあ、ソヨトとヴォイスができそうな感じ、かな。ヴォイスは医士だし当たり前かな」
それにしてもソヨトが使えるとは意外だ。同じ騎士のシルウァヌスは使えないのに、やっぱりガヴァネスやケーレスの言う通り、個々の差があるんだ。
「私の弟はすごいなあ、いや、私が何もできないんだからすごくて当たり前ね」
ぶんぶんと首を横に振られて、私の体が揺れる。
「わかった! わかったてば! そろそろガヴァネスのところに行かないと、ほら、さっき話した石。一回、戻るね。その間、ここ開けとこう。少しは換気しなきゃ」
弟の健康管理もできないと姉失格だ。
こくりと頷いたのを見て、そおっと腕を引く。それを手伝うように弟は布を押さえて境まで護ってくれた。
「よし、待っててね」
踵を返して走る。とん、とん、とん、跳ね虫のように下りながらガヴァネスがいる窓に到着する。それに待っていましたと言わんばかりに彼女が居た。
「とりあえず、弟くん分に、いくつかを渡すよ」
私への意趣返しか、ぽいぽいと投げて寄越すから、それに当たらないように避ける。けらけらと笑いながらガヴァネスは楽しそう。
「そのぐらいか。あそこへの道は開けているが石ころも多い。蹴られない程度のところに置くこと」
「はあい」
地面から拾い上げて、そそくさと行く。今回は、この作業があるせいで手早く計画的に時間を使わなければいけない。しかしケーレスとレガ、マルケルという三人の協力者がいるのだから……油断しちゃ駄目って言われたのに、頭を思いっきり横に振って、蹴られない位置に石を置く。
貰った石は、私が選んできた中で大きい部類の石だ。確かにこれでないと開けた道では迷いやすい。逆に目立ち過ぎるかと思うが、石を半分埋めると、そんなことは気にならなくなった。
右手ばかりじゃ駄目だから、右、左、右、左と埋める。くるりと振り返ると陽光で見にくいが石が光っているようなので間隔を確認しながら進む。計十個。
「おまたせ!」
私の作業音に気づいていたらしい弟は格子の前に座り、小さく笑っていた。
「ねえ、あ」
「なに?」
呼ばれて首を傾げると、また弟の顔がほころぶ。
「今日はここまでかなあ。あ、あの窓格子に魔法がかかってないなら、おしゃべりくらいはできそう。鍵は毎回使っていたらバレそうだし」
そう言うと弟は、一回こくりと頷いた。
「お水とかスープとかコップにいれてもってくる。そのくらいなら平気でしょ」
ぱちくりと目を瞬かせながら、弟はこくりと笑う。
「じゃあ、今日はこれまでね。明日は家の探索する予定。暇を見つけたら石の発光具合の確認でくると思うから期待しないで待ってて。それでも次の噴水広場で会えるんだから」
〝噴水広場で会える〟
光の戻った弟の瞳に私は答える。まだ危機が去っている訳ではないけれど、私の心はめまぐるしく変わっていく。
最後に布を腕に巻いて、弟の頭を撫で、頬を撫で、手を繋いだ。
「またね」
弟の笑みは愛らしい。
木戸が閉まるから、と奥に移動させて、もう一度「またねえ」と言うと「ま、ね」と声が聞こえた。
よし、と私はとん、とん、とん、と駆け下りる。その道中で石を見つつ三回目のガヴァネスに会う。
「ずいぶんと、きみの顔はすっきりしているね」
またポイポイと外に石を投げながら彼女は言う。
「うーん、なんか昨日、ガヴァネスに会ったあと、すっきりしたんだよ」
拾いながら答えると「まあ、ね」と答えが返ってきた。
「がんばんなきゃって気負いすぎて不安だったのが消えたからだと思う」
「……そうだね。ひとつ言ってもいいかい」
両手いっぱいの石を持ちながら私はガヴァネスを見る。その顔は少し険しく悩みに悩み抜いた、という顔で、らしくないと思いつつも先を促す。
「これから、心が飲み込まれそうになる時は、きみはきみだと自我、を保つんだ」
「心?」
「これは、うん、本当にぼくらしくない。どんな波がこようと流されてくれるな」
不安とか焦りとかそういうものだろうか。私は悩むガヴァネスを見て彼女は彼女で何かしら掴もうとしているが確証がなくて言い淀んでいる、と解釈する。
「わかった。気をつける。それで鍵の件なんだけど」
「ああ、ああ。あれ何だが、色々試して無理だと理解したよ」
先ほどとはうってかわって、ガヴァネスは肩をすくめた。糸をかける部分がどうしても縁に当たる可能性が高く、特に夜なんかは見えにくいし明かりも使えないということで、お外に鍵作戦は駄目になった。それはなんとなくわかっていたので、
「今日、ちゃんと牢屋を見たら牢窓があったの。高い位置だけど」
「それは暁光」
「うん、だから大丈夫。ガヴァネス、ありがとう」
私の感謝を合図に彼女は石を包んできた服を投げて寄越す。
「燃やしたりしたのかと思った」
「必要なのは着ていた人の記憶や肌の角質、汗などの個人情報だ」
「えっ」
「それを石に覚えさせて発光魔法をかける。些細なものだよ」
普通にやってのけるガヴァネスは弟の次に強いんじゃ……と私の中で歓心度が上がる。国を変えるときにはガヴァネスを優先的に何かの地位に就けようなんて思う。本人は嫌がりそうだけれども。
「早くいかなくていいのかい」
おっと、と私は顔に出したみたいで、にやりとガヴァネスは笑う。
「じゃあ、ガヴァネス、またね」
「ああ、また」
短い挨拶してから私は、またジグザグに置いていく。木の根元に置けるものは置き、半分埋めたり、風や人が通り抜けても移動しないように石と石の間に挟んだり、そうこうしている内に、私は家に戻ってきた。
プロット
メイオールが仕事でいない間、神は家を探索しはじめる
噂などに聞き耳をたて情報を収集しながら
六人の賢者がどういう生活をしているのかを知る
そして神の使徒たる人たちがいることを知った
疑問は増えた私は、どうにか蔵書庫のように遠くへいけないかと模索する
レガとの出会い
協力の申し出に家から出る際はレガが取り計らってもらえることになった
なぜならメイオールは使用人という立場から外れ豪遊三昧をし、男共の侍らしていたからだ
レガが階級が下の騎士団に掛け合ってメイオールが常に私を監視できないようにする
オネイロス側山中を探す私は小屋を見つける
小屋には少女がいた。魔法を顕現したことにより両親が家に差し出したのだ
本物の神をみる少女は喜び、城下街やルルヤの話を持ち出す
会いに来たのはお忍びだと伝えて六人が何をするか見守ることにした
次の日、少女はもういなくなっていた
レガから聞くと六人の賢者が少女をケール湖に連れて行ったらしい
間引きを見る私。ベッドにこもり、終わり




