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祝宴のはじまり⑥-2

推敲なし、⑥はあとで一つにまとめます。

 ケーレスは言伝など聞いたこともない。ましてや目の前にいる、ルルヤからも聞いていない。ただ賢者たちが「ガヴァネス・フォン・リリックは死んだ」とだけしか伝えられていないのだ。

「貴方たちは六人から疎まれていました。ケーレス、貴方が今の家庭教師という座があるのは……メイオールとの関係があるからです。本当であれば貴方も消されていたでしょう」

「……! 確かに、あの色狂いに付き合いました、けど!」

 ケーレスがどんなに力をいれてもルルヤはびくともしない。

「貴方は賢い。幼いながらに誰につくべきかを理解した」

「したくはなかった! 俺は、ただメネシスのことを、師匠のことを」

 ルルヤは瞳を伏せて、

「告げることができなかった。貴方に伝えることで己の立場が危うくなる」

――逃がすこともできない。しかしケーレス、貴方は貴方の道を模索した。

「たしかに、確かにそうです、でも」

――メイオールの靴を舐めることなどしたくはなかった。

「俺は、間違っていたのですか」

「……」

 瞳を伏せていたルルヤは、ゆっくりとまぶたを開いてケーレスを見る。

 その心情は瞳に映らず、夜の月だけで輝いていた。

「わたしは、これから決めていくのだと思っています。彼女に罪を許された時、過去を清算する為だけに生きよう、と。もう逃げないと決めました」

 わかる。ケーレスも彼女に救われた。この身も魂もすべて彼女に捧げることで自分たちは救われる。今まで見ぬ振りをしてきた≪何か≫に対してあがなうことができるだろう。

 ケーレスの手はルルヤの襟元を離し、ゆっくりと月を見上げ肩を落とした。

「ガヴァネス師匠には、会えるのですか」

 かつての師を思い出しながら言う。

「決意は聞きました」

 ちょっとユーモラスな彼女が生きているならば、このような企みに一枚噛むだろう。賢者たちに再三と注意されていた≪知る≫という行為を止めなかった彼女は秘密裏に捕らえられて……。

「ルルヤさん、何故」

「簡単です。彼女は魔法が使えた」

 ケーレスの疑問を、すらりとルルヤが答える。

「わたしたちは潜在的に魔法が使えます。ガヴァネス様は捕らえられた際に魔法を行使して、自らの生殺与奪の権利を勝ち取り、ネモレに監禁される形にした」

 師匠らしい、そうケーレスは思う。

 子ども相手でも手を抜かず、勝ちも負けも、物の価値も、おそらく『神』には教えなくていいことを彼女は教えていた。

「わたしもガヴァネスも全てを諦めていました。しかし、今代の神が照らしてくれた、この火を消したくはない。わたしは全力で神の子を護ります」

 それはガヴァネスも同じだとルルヤは口にする。

 ケーレスだってそのつもりだ。

 ずっと間違いだと思いながらも泥に足を取られている、と思い続け、諦め続け、もういい、と崖へ一歩踏み出そうとした時に現れた少女。

「これを運命と言うのかもしれません」

 それがルルヤの最後の言葉だった。ケーレスに背を向けて森の中へ入っていく。使徒が使用する小屋にでも泊まる気なのだ。

「俺は」

 静寂に小さい声がする。俺は、と紡がれては止まるケーレスの唇は震えてから一文字に結わえる。

 今だけは、今だけは何もかも疑問に思わず、少女と少女の地位を確立させて、あの六人を断頭台にあげる。

「大丈夫だ。信じている」

 灯りが消えた部屋をケーレスは見た。

 少女は眠りについたのだろう。その眠りが優しいものであるよう祈るしかない。おそろしい悪夢に囚われている少女を助けるのは片割れの少年しかいなかった。

「今度こそ間違えない」

 間違えても少女は許すだろう。にっこりと笑う。子どもらしくない顔で笑う。もし運命があるのならば、酷く変えられたのは少女の方だ。

「絶対に、護ってみせる」

 脳裏に浮かぶネメシスの顔が少女と重なる。

 手を握れば赤く染まり爪痕が残った。

 ケーレスは月を見上げてから場を後にする。

 協力者たちのこともあるのだ、自分が万全でなければ意味がないのだから。

・-・・ ---・ ・・ ・・・-


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