祝宴のはじまり⑥-1
推敲なし、たまったら一つにまとめます。
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聞かなければならないことが、たくさんある。
例えば『なぜ、こんな真似を?』、例えば『どうして?』とか。
それを押し潰すのは静寂と虫の声だった。
神の部屋を後にしてから自然と分かれ道で立ち止まり、誰から紡ぐか、緊張感が張り詰めてはお互いの顔色を窺う。
やはりと口を出したのは最年長のルルヤだった。
部屋で言っていたことを、もう一度、みなに伝える。
「……ガヴァネス様のことは当初から知っていました」
――わたしが食事を運んでいたのですから。
付け加えた言葉にケーレスは歩み寄ると服を掴む。掴めども握るだけで、ケーレスは顔を歪めるだけだった。
「おじいさま、わたしは、たくさん、言いたいことがありました」
――でも、今どうこうできない、気持ちが渦巻いているのです。
エリンはハルナの傍で寄り添いながら困り顔でルルヤを見る。同じくメルイもいたが、正反対の怒り顔でルルヤを見ていた。
「それはオレだって」
レガの隣に並んだマルケルが口にする。
誰もが何かを言いたいのに言えず、静寂だけがここにあった。
「今日は、これで終わりにしましょう」
切り裂いたのはメルイの声で、ルルヤを睨みつけながらも、これ以上を進展しないのであればと終止符を打ったのだ。
「――ああ」
零れた言葉は誰のものだったか夕闇に消えていき、戻ることはない。往々にして帰り道へ進んでいく。
ハルナたちが騎士団宿舎へ帰り、マルケルとレガが使用人室がある方向へと消えていく。自然とルルヤとケーレスの二人が『家』の分かれ道に残った。
「僕――いいえ、俺も聞くべきなんでしょうね」
握り締めていた服の部分は歪んだまま元通りにはならない。
ここに居た人たちは、今の国に支配され生を歪められた者しかいなかった。
急激な変化に、どうにか体だけは振り落とされないようしがみつく。同時に揺さぶられた心の落とし所を探していた。
導きに――神――彼女があるからこそ、平静を装っていられる。
理性を総動員して堰き止めてるにすぎなかった。
「ガヴァネスさんは殺され、いや」
「殺されたと同然です」
「だったら、あの子は、見殺しに、されたのですか」
ルルヤを見るケーレスの顔が歪みに歪んで、悔しいと顔で言う。
何年も潤まなかった瞳から一筋の涙が零れる。歯ぎしりも初めてした。慣れていない行為に、気持ちにケーレスは、どうしていいかわからない。
「ネメシスは、殺されたんですか、それで、本当は!」
久しぶりに口にした彼女の名は擦れ、現実も曖昧な気持ちになっていく。それは長年、真実と嘘に揺れ動いては手に入れられなかった結果をもたらされたせいだ。
「あなたは! 見捨てたんですか!」
「……」
「から、体が弱いから、と、賢者たちは、疎んで、でも! あなたは……あなただけは、俺は……」
ケーレスは泣いた。ルルヤだけは信じられる人だと思い、見捨てられたあの日のことは関係はないと思っていた。その誠実な彼なら、そのようななことをしない、と。
「ケーレス、わたしは、あの日、街に降りるガヴァネスを見送りました。自分が戻らなかった場合の言伝もありました」
「なんで!」
ルルヤの襟首を掴み上げ、ケーレスは吠える。




