祝祭
推敲してません
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十二歳の誕生日、私は中腹にある『家』から荷車を連れて噴水広場で盛大な『祝祭』をした。祝辞を述べる人々、一人ひとりの手をとっては祈り、病気ならば癒やし、怪我なら治し、手元を光らせ、困りごとを聞く。
すぐには解決できないのは隣のネモレや他の五人に頼り、国民全員の安らぎを願う。
荷車には、その年に生まれた子どもたちに布やケール湖の水、果物に穀物、良き人に健康を祈る。
私は神であるからにして微笑む。それが『神』の役目であり誇りに思っていた。
民は笑うし楽しそうであるし、ネモレたちも笑う。このキュイモドスが永久であれ! を何回聞いたことか。
今を思えば、本当に頭のおかしい誕生日、祝祭だ。神なんぞ言う一人の人間に頭を下げるおかしい国民。そう考えついたのは私を遠巻きに見ている二人の人間と、帰りの道行きで「疲れた」と足が音を上げた時だった。
私がメイオールの制止を聞かずに「楽しい日」と思いながら荷車の水を手に取った時、ガタンッと引かれた荷車が揺れて、荷の中に鎖に繋がれた私と同じぐらいの子どもが居た。
それは、その主が麻布をかぶりなおした、ただ一瞬の出来事で、追いついてきたメイオールは、私を叱らずに荷車を見てから私に向けて笑うから、見間違いだと思うくらいの一瞬である。
家に帰り、自室にいてもあの鎖に繋がれた誰かが気になった。しかし、メイオールの目は見たことがないほど恐ろしく、しかも家に着けば早々に部屋に戻るよう急かされてしまい、何も聞けないまま夜を過ごす。
ネモレもシルウァヌスもバーネットもヴォイスもメイオールもソヨトも、何事もなかったように皆で朝食を迎え、私は家の木と土で造られた大広間の椅子に座り、ネモレが言う城下町のことや知らないことをつらつらと述べ、私は笑って「はい、ネモレに任せます」と言う。それが六人との約束だった。
私は日々祈りを捧げるだけで国を護っている言われるし、魔法が使えるのは私一人、それならきっと私が祈れば国は安泰で、苦しむ人はおらず、悲しみはあっても救いはあるのだと信じていた。一日を大広間で過ごし、願いを請う人々の悩みを聞き、六人が「自分が」「わたしが」と解決してくれる。
――私は微笑み、頷けばいい。
しかし、心の隅で荷車に乗せられていた『誰か』が気になっていた。何も知らない私は、一回、メイオールにそんなものを見た、と言ってしまった。
メイオールは固まり「お疲れだったのでしょう。それか神は城下町にて不幸にも亡くなりケール湖に還りたい子が荷車に乗っていたのかもしれません、神はお優しい」と目を見開きながら言うので、私は怖くてしかたがなかった。
他の五人にも聞きたいと思い、近づくが心の底で「だめ」と誰かが止めている。私は素直に私に従い、自室に戻りベッドに顔を伏せるたびに、あの鎖の音とねずみ色の髪に朱色の自分と同じ瞳が気になってしかたがなかった。その目は見たこともない表情。知らない瞳。結局、私は六人には相談せずにメイオール以外の人に聞くことにした。
執事ルルヤ・ホル・マティス。
メイオールと違ったのは、彼が老成しておりネモレと同じ歳であったから。私の世界は大人ばかりだが、歳をとった人はネモレとルルヤしかいない。だから、だろう。
六人がいないことを確認して、私はルルヤに相談しに行った。
「ルルヤ、いい?」
「これは神よ、お一人ですかな」
白髪に眼鏡、しっかりとした体、元は騎士であったと聞いたことがある。
「少し、お話ししたいことがあるの、こっちに来て」
誰もいないことを確認してから部屋に招いた。私の周りには常に人がいるから慎重にしていたがルルヤがいるのだからいらぬ警戒だった。しかし、他の誰かに聞かれてはいけないと私は思ったのだ。
「どういたしました?」
「……ルルヤ、私の祝祭の日を覚えていて?」
「もちろんでございますとも」
私の背に合わせてルルヤはひざまずいてくれている。
「家に帰る途中で荷車の中を見ました」
「……」
少しばかり彼の顔が固まった気がしたけれども、私は続けた。もう我慢ができなかったのだ。
「変だと、思うかも知れないけれど……荷の中に子ども……がいたと思うの。メイオールに言ったら見たこともない顔をされたわ」
「……神は、それが誰か知りたいのですか」
「え」
誰、とは? と頭の中で思考が止まる。その中でやはり人が居たのだと決定された。
「く、鎖、みたいなのをつけていたの、それで髪がねずみ色で、目の色は……私と一緒、に見えて、祝祭の日からずっと気になって」
私の言葉を遮り、ルルヤは口早に言う。
「神よ、ルルヤから一つだけお伝えすることがあります」
「はい」
「神が見た人はおります。生きております。しかし、それは六人の賢者の禁忌。神が知ったとなれば彼がどうなるかわかりません。そして御身もどうなるか……」
ルルヤはうなだれて苦しそうに拳を振るわせていた。
「わたくしは、知ってはいけないことですか?」
「……いいえ、いいえ、そうではありません。そうではないのです」
「その方に会えるのですか?」
その言葉に執事は首を振る。なぜルルヤが悲しそうにしているのか私にはわからなかった。いつもは明るい彼が泣きそうになっているのを私は抱きしめる。民が泣いている時には、そうしなさいとネモレに言われていたからだ。
「ごめんなさい、ルルヤ。わたくしは酷いことを言っているのね」
ぱっとルルヤが顔を上げる。
「違います、違うのです、違うのです、神よ。貴女に責はありません、もし責を求めるのであれば、全て、なのでございます」
「……どういう、こと?」
「わたしにも責があります。わたしは家庭を、家族を選びました」
「よく、わからないわ、ルルヤ」
頭の中が、ぐるぐるとして心臓に石を巻き付けたみたいにとても重くて痛い。ちくちくと肌が痛くなる。触れてはいけない熱湯に指をいれようとしているような。
ルルヤは悲しんでいた顔から、何かを決した顔になった。
「神は、彼に会いたいですか」
「……会いたい、けれど、メイオールの顔が浮かぶの。あの表情をわたくしは知らない。でも、とても彼、が気になる。とても気になるの」
「彼に会うのは簡単です。このルルヤが彼の居場所を言えばいいこと。しかし神は、この国のことを知らなすぎる。賢者たちはわざと家庭教師をつけども国のことは言いませんでしょう」
「そんな! ケーレスは日々のことを教えてくれるわ!」
私の家庭教師ケーレス・ウェル・アレスは草花、季節、民のこと、病気のこと、人の生き方、仕事、してはいけないことも教えてくれる。
「……ならば、ケーレス様にお聞きください。国の成り立ちを。『神』という存在が何かを。そしてルルヤが聞け、と言っていたと。彼は信頼たる人です。できますか?」
「それは、できるわ」
「必ずメイオール様や他の賢者様がいない時にお聞きください。できれば貴女は彼に会うことができるかもしれません。逆に彼への道ができなければ貴女の命、彼の命が危ぶまれるやもしれません」
「ルルヤ?」
立ち上がったルルヤは、私を悲哀の瞳で見つめてくる。
「どこかに、いってしまうの? ルルヤ」
「いいえ、我が愛孫ハルナのことを思い出していました。神よ、貴女は聡明な人、疑問を持てた人です。心を強くなさい。疑いなさい、今を。さすれば貴女は彼に会い、変えることができるやもしれません。……神の言う通り、わたしは少しの間、この家から暇を頂こうと思います」
「そんな!」
ルルヤは悪いことではない、と言う。これは貴女自身の道であると。私は不思議と不安でしかたがなかった。私は『神』、人々の安寧を願い、祈りを捧げ、魔法を使い癒やす。それ以上でもそれ以下でもないのに、見知らぬ闇夜が近づいてくるような気がしてしまう。
それがルルヤの言う通り、悪いことでないなら、私のこの気持ちは悪いことではない。しかしメイオールに、五人に聞かれずにケーレスだけに聞く。簡単なことのはずなのに胸の動悸が治まらなかった。
ルルヤと別れると、すぐさまメイオール直属の使用人たちがわらわらと集まる。ずっと私を探していたという。そんなにも私が人目につくところにいないと不安なのだろうか。六人は荷車にいた彼を、どうしても隠したい、知られるのを恐れているのだ。
この時の私は、生きていて初めて六人の賢者への疑問と荷車の彼、そしてケーレスに聞かねばいけない。ルルヤの表情を見て決意した。
そして、この日を境にルルヤの宣言通り、家にて彼を見かけることは一度もなくなった。こそこそと話す使用人たちは、急に止めた、だの、隠居しただの、ルルヤは何かを決心して家を出て行ったのに、何を勝手なことをと私は思う。そんな風に考えた私は、徐々に変わりつつある。
家庭教師のケーレスが私の部屋に訪れるのは週に五回。その五回とも傍にメイオールが居る。それをどうにかしなければ、私はルルヤに言われたことをケーレスに聞けない。
幸いなことに私の机の隣にケーレスがおり、出入り口にメイオールが立っているだけで、私たちの距離はかなり離れていた。
しかし水が欲しいのならメイオールの隣にある水差しがでてくる。メイオールに内緒の話がしたいなど言って出て行かせたら『信頼がある』ケーレスに何かあるかもしれない。
ルルヤの言う通りに慎重にならないと私は彼に会えないのだ。
監視の目があるかぎり、私ができることが少なすぎる。
ケーレスが病気について話していた。私にできることを教えてくれた。その日はメイオールとケーレスの様子を見るだけで終わる。やはり、どうしても聞くことができない。でも考えないと私は後悔する。あの彼に会わないことを後悔するぐらい胸の痛みは強かった。
次の日、あることに気づいた。ケーレスは『本』というものを持っている。それを私に読み聞かせ数々のことを教えてくれるのだ。これはネモレも持っているのを知っている。しかし他の誰かが所持しているところを私は見たことがなかった。
これとケーレスは絵が描かれた紙を用いて人の形や悪くなるところ、または草花を教えてくれる。そうだ、私は紙を持ったこともない。文字は読めるが書いたことがない。
メイオールは、この紙の内容を知っているだろうか。その不安で私は三日を費やした。結果、メイオールは立ちながら瞳を閉じているのがわかり、彼女を気にしながらも実行に移した。
「ケーレス」
「なんでしょうか、神よ」
「この間、草花の絵を持ってこられたでしょう? 今も持っていて?」
「ええ、もちろん」
ケーレスは本の間から何枚か、私の机に置いた。できるだけ嬉しそうに「やっぱり花や健康にいい薬草を知れば民は、もっと安心するわ」と口にする。
「ねえ、ケーレス」
私はメイオールが瞳を伏せているのを、ちらりと見ながら文字を指さした。
「ああ、それは春に」
咲く、と言わせる前に指を動かす。
ル・ル・ヤ・ニ・キ・ケ・ト・イ・ワ・レ・タ。
指先に力を入れ、肌を赤くしたら離れ、次の文字を指す。
「そうだわ、春の花ね」
ク・ニ・カ・ミ・ノ・コ・ト。
「いっぱい、知りたいわ。ケーレスは、物知りよね」
メイオールが目を伏せている。私は笑わずに窓から流れる風でなびく彼の髪と顔を見た。これでわからなければ何度でもするつもりだ。ルルヤの言う通りならばケーレスは教えてくれる。
「……ええ、もちろんです。では、こちらの」
私の表情を見ていたケーレスは笑みを消してたけれども、次の紙を机に置く。ひくっと喉がなる。
「こちらの花は世界では稀です」
ケーレスは花の絵を置いた。これは前に見た夏の花だ。確か、ケール湖へ向かう際に咲くという黄色い花、前に教えてくれたもの。稀ではない。
「やはり、この花は神に似合いましょう。服も黄色がお好きですよね」
「ええ、そう、ね」
ごくりと喉を鳴らした。見上げたケーレスの顔は、口が笑っていても目が笑っていない。
黄色の花、黄色のドレス、花は私に似合う。黄色のドレスの私。……花は、私。
『神は、世界では、稀です』
稀というのは珍しいこと、世界で神は珍しい? どういう、意味だろう。私が珍しい?
「そう、なの、珍しいのね、世界で、この花は」
この世界は、私の国キュイモドスの他にたくさんあると授業で聞いた。つまり、私が神であることは珍しい。私、私は人間だから、正しいのは『人間が神であるのは世界では珍しい』。
私はケーレスを見上げた。
「珍しいのね。でもキュイモドス以外の国にもあるのでしょう?」
「ええ、その通りですですが、国の数を考えれば片手ほどでしょう」
神が私、私は人間、人間が神である国は片手ほど。人間を神としている国は珍しい。
話を続けないとメイオールに怪しまれる。
「私、この花が好きだわ。魔法で咲かせることができればいいのに」
ぱっと出て来た言葉にケーレスは目を細めた。
「……ふふ、好きなのですね。しかし、神よ。魔法はケール湖の恵みです。選ばれた者にしか与えられないもの」
考えて、私。ケーレスが教えてくれていることを考えて。魔法が使える私は選ばれた者。ケール湖の恵み? ではキュイモドスでしか魔法がないということでいいはずだ。
「そうよね、簡単には」
つ、と止まる。
『選ばれた者』?
なぜ、選ばれた者、なんて言うの?
「……ねえ、ケーレス」
「はい、なんでしょう」
「やっぱり、神の魔法は、この花は咲かせることはできないのね」
私の魔法は、咲かせられない。
「……ええ、咲くことはありません。咲くことができるのはケール湖の恵みだけ」
ケーレスの顔は無表情だった。きっとメイオールは瞳を閉じているからだ。
「そうです。ケール湖の恵みに選ばれたものだけなのです、神よ」
私には、神の力なんて、魔法なんて、ない。
なら、あの子は? 彼は?
「こちらを見てください」
心臓が張り裂けそうだ。ケーレスが次によこした絵もまともに見られない。
「これはネモレ殿が管理する蔵書庫の本から紙に写したものです。これも神にお似合いの黄色いドレスのような花です」
私と似た彼。
「こうやって並べると同じ花のように見えますが、少し違うのです」
「本当、ね」
声を絞り出さなければメイオールに気づかれる。
「本当、ケーレスは物知り。ネモレの本を見てみたいわ」
「ふふ、ネモレ殿は本を大切にしておりますから、わたしも本そのものを見たことはないのです。きっとたくさんのことが書いてありますよ」
「わたくしが頼んだら見せてくれるかしら?」
「ネモレ殿は、今も神の為に身を尽くしておられますから、蔵書庫に行くことはできないでしょうね。本を大事にしておりますから、見せることも大変やもしれません」
「そう、残念だわ、ケーレス。また色々と教えてくれる?」
「もちろん」
震えを止める為に右手で左手の皮膚をつねる。そうでないと、この事実に心が追いつけない。
ふい、と左手にケーレスの手が重なった。
「神は、本当に深く物事を知ることがお好きなのですね」
「ええ、本当に好きなの、たくさんのことが聞きたいわ」
そうよ、本当のことを、知りたいの、ケーレス。
「では、今日はここまでにしましょう。明日の授業はお休みですね」
「ええ? そうね」
「メイオール様」
びくんっと体が動いてしまう。横を見るとケーレスに呼びかけられて目を開くメイオールがいた。左手を机の下に隠して歩いてくるメイオールを見る。
「どうしたのです、ケーレス殿」
「明日の授業は休みですが、神が明日も、と」
「それは」
悩むメイオールにケーレスはたたみかけるように言う。
「できれば、明日もお目にかかれれば、この部屋で授業したいと思っています」
ケーレスの表情は、さっきと違い柔らかく、どこか余裕のある男性の笑みだ。それにメイオールは顔を赤くして目をそらした。
「メイオール様のご予定があるようでしたら他の賢者様でも……みなさま、お忙しいですか?」
「ええ、もちろんです」
「ああ、城下街に降りる日でございましたか、すみません。ネモレ様も説教に行かれますよね? そしてメイオール、様も」
「も、もちろんです、ネモレ殿も他の賢者の方々も」
メイオールの名を呼ぶ時に、呼び捨てをしようとしたのを私は聞き逃さなかった。それにメイオールは動揺した。
「貴女がお戻りになるまで授業をしたいのですが、かないませんか」
「えっ」
胸に手をやり、メイオールの顔はみるみると赤くなる。
「ふふ、街ですと貴女を見かけるだけになってしまうので」
ケーレスは重ねるようにメイオールに……これは会いたい、と言っているのだ。もしかして、と見上げれば、私を見ずにケーレスだけを見るメイオールがいた。
噴水広場で見る夫婦や恋人たちを思い出す。そうか。
「メイオール、どうかしたの? わたくし、ケーレスの授業を受けたいわ」
「えっ、神よ、それは誠に尊きことですが」
彼女は焦り、どうしようと目をおよがせてケーレスをちらちらと見ては髪を整える。
「ネモレ様方に許可はいりますか?」
「い、いりま、せん。あたくしの一存とはな、なりますが許可いたします。ですが、その『家』に入る際は、その、裏の門、になりますが」
ケーレスは微笑む。
「それは、嬉しい。明日の朝、裏の門で待ち合わせましょう」
「え、ええ」
「では、神よ。これにて授業はしまいです。さあ、メイオール様」
許可を取り付けたケーレスは机に広げられた紙をまとめてメイオールの背に手を置いた。二人は見た目は仲睦まじい様子で部屋を出て行く。メイオールは真っ赤になり、なすがままに扉の外へと消えた。
私は、ひとりぽつんと椅子に座り、赤くなった左手の皮膚を見る。
「彼と私は姉弟なんだ」
そして魔法の力を持つのは彼、私には何もない。ならば広場での儀式は? そういえば民への施しとして、いつも荷車を引いて広場に赴いていた。
「そっかあ」
私は、今まで出したことのない声を呟く。
しかし絶望が、一気に、そう一気に怒りへ変わっていく。なぜだかわからない。けれども六人の賢者は私から、もう一人の私を引き離したのだ。それは何故か。
授業で習った。歴代の神々は全て『女性』だと。
「全部、嘘じゃない」
彼らの優しさが反転する。すると、ぐるりと頭の中が回る気がして手で顔を覆う。
「いっ……なに? 何かが」
流れ込んでくる。それは悲鳴、憎しみ、恨み、知らない文字と感情が体の中を満たしていく。息苦しくなり、椅子から転げ落ちて息を荒くなる。体中が痛い。
「うっ、ううっ」
誰かを呼ぶ真似なんてしない。
これの痛みを我慢しなければ、耐えなければ、あの六人を追い出さないと。
そんなのは生ぬるい。
「いたいっ」
ぜえぜえとベッドへ這いずる。冷や汗が、ぶありと吹き出して黄色いドレスに染みを作る。
――壊さないと
――なにを。
――ぜんぶ
――そう、ぜんぶ。
「……おかしいの、神って、私、自分の名前すら知らない」
――知らないまま。
――おわるなんて、いや
――助けなければ!
「絶対、会ってやる」
あの荷台に乗せられていた彼に会いに行く。ケーレスが作ってくれた機会を逃すわけにはいかない。
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