祝宴のはじまり④
推敲してません
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わたしの行く先は修羅だ。激しく厳しい六人の実態を知らぬ者からすれば正義ではなく身を滅ぼさせんとする化け物だ。
そうでありたい、と思う。しかし人民は〝化け物〟を違う人間――神――に当て嵌める。
何故ではない、これは膿を見ぬ振りをしてきた大人のせいなのだ。
しかも、その膿を取り除くと言う少女は年端もいかない、ただの少女。あの日を思い出す。何度も酷く自分が惨めに思えた日の、さらに重ねた情けなさ。
いつも準備は散々である。同じ同志を見つけても蜜に絡められ落ちていく。ありがたいと思ったのは、わたしの名を決して紡がないことだった。
矜持をなくしても理性は保つことができる。その証明を何度も見た。
……この数日、何度、過去を反芻しただろう。汗をかいて起きたこともある。
亡くなった友人たちが責めてくる夢も見た。あの子が串刺しになる夢も、孫娘が殺されてしまう夢も、弟子たちが苦しむ姿を。想像できるのに、今まで何もしてこなかった自分が形だけの木偶の坊であることを突きつけられる。
本当に『家』を出、まだ少女の面影を残すハルナに任せてよいのか、前のめりになりながら彼女たちの生家を探し、話をした。
不思議な人たちだった。本当に。なぜ、わたしを責めてくれない。
逆に「あなたのような人の傍で育ったんですね」と微笑まれた。
なぜ、わたしを責めてくれないのか。誰か。
ルルヤ・ホル・マティスは蔵書庫と言われたレンガの塔にやってきた。
ここにガヴァネス・フォン・リリックが監禁されている。
一歩、二歩、慎重に歩く。ガヴァネスは、わたしを見抜いていた一人だ。
陰鬱な気持ちと友の髑髏が目の前に現れる。ああ、せっかくあの子が解放してくれた心が濁る。
「やあ、ルルヤ」
地面を見ていた、わたしの目の前に腕だけがヒラヒラと塔から飛び出していた。
「……ガヴァネス殿」
「フッ、やめてくれ。もう家庭教師は辞めたんだ」
近づくと、腕が出ていたのは窓からで、本人は窓辺の椅子に腰をかけている。
「久しぶりです、ガヴァネス殿」
彼女は眉根を寄せて首を振った。
「ダメだね。本当に、きみという男は真面目すぎる」
もっと楽な生き方もできたろうに、と呟くガヴァネスは戸惑いの瞳で、きっと彼女の体の向き、家の方にいるであろう少女に向けられている。
「貴女に願いたい。力を貸してくれないだろうか」
「……言うと思った」
ため息をつき、肘をつく。
「わたしやケーレス殿では足らない。あなたもわかっているはず」
「……」
少女が何を思いつき行動したいか、それはわからず仕舞いだが勝算があるから実行に移そうとしている。その時の為の保険は多くて損はない。
「ルルヤ、きみは何度、自分を馬鹿な人間だと思ったことがある?」
「数、知れず」
アハハと笑う彼女は笑っていない。自身をあざ笑う。
「ぼくはね、あの子に会ってからだ。来たる日なんてない。ここで骨になるだろうだなんて何度、思ったか。逃げる気力もない。刃向かう気力もない。ただ研究者の振りをして何年だ?」
「ガヴァネス殿」
このような顔を一度も見たことはない。先代の神に仕えていた時は明け透けな物言いで『先代の神とケーレス』を笑わせていた。
六人には「余計なことは教えるな」と再三注意されも秘め事を共有する友かと師の枠を越えて日々を送っていた。その映像が頭の中で流れる。
「大人とはなんだろう、と考えはじめた。子らを導くのが大人だ。しかし、今はなんだ? 子の言葉に起こされて、さあ、大人をやりましょうか」
ちらりとガヴァネス殿はわたしを見た。
最初から何もできいなかっというのか。
「はあ、その点においてルルヤ、きみは凄いさ。今すぐ動かせる部隊がある。ぼくには何もないよ」
「その魔法の力が必要だろう」
「だろうね」
逃げるような物言いは、きっと弟子であるケーレスに会いたくないからだ。
彼には彼女が死んだことになっている。そうネモレがした。なぜか、簡単だ。先代の病気を治そうとしたのだ。
〝あの子〟は、ただの風邪で死んだ。治療をしてやれば治ったのだ。なのに、あの日、ヴォイスは匙を投げ、メイオールは粥だけを作った。
それに怒るのはガヴァネス殿だけで、彼女は自分の魔法が露見してもいいからと治療を施そうとしたのだ。
必要なものを取りに街に下り、あの子の傍にはケーレスを残して彼女は足早に下っていたという。しかし、焦りから足を滑らせて転げ落ち、運が悪く頭を打った。
ケーレスにとって頼みの綱である師は帰らず、あの子は亡くなり、師は往き道で死んだという。
「……そういえばさ、ぼく、言わなかったよ。ぼくの食事を運んでいるのは、ルルヤだ、てね」
六人の賢者にとって神の情緒を成長させるのは恐ろしいことであり、誘発しかけるガヴァネス殿は邪魔だった。
「あの子は、きみを慕っていた。そしてケーレスから情報をもらい、ここに来た。右も左も、先もわからないのに信じて来たんだ。ぼくを見つけた。そしてきみのことを聞いたさ」
未だにガヴァネス殿は、こちらを見ようとしない。
「……悔しい、と言えば嘘になる」
彼女は恨めしそうな目で、わたしを見た。
「ぼくは、きみを馬鹿にしていたしね。手はいくつでもある。無理に通すこともできただろう。でも諦めきっていたきみを馬鹿にして、自分を正当化させていた。家庭教師時代も、ここにいても、ずっと……あの子に出会わなければ」
「協力していただけるか」
それに彼女は笑みは悔しいの一言だった。
「ぼくは繊細でね。この国では生きづらい。道化の方がマシだ」
「……わたしは、この先が怖い。若人に任せきり彼女らが破滅するのを見るのではないかと。だからこそ、この生き様で後悔するのは辞めだ」
「ハハッ」
ガヴァネス・フォン・リリックは瞳に決意を固めていた。
「それに顎で使われるのも悪くはないし、ここの本をさ、虫干しさせたいところだったんだよ」
色々と準備するから、計画の内容が決まり次第、教えてくれ、とガヴァネスは蔵書庫の奥へ消えていった。彼女の魔法がどれだけのものかは知らない。
しかし準備ができるからには勝てる見込みがある。
ならば、自分ができることをしなくては、と体を反転させた。
木々の合間を縫い、その小屋は見えてくる。簡素な作りの小屋は、人が住めて二、三人といったところか。
特別な力を使える人間は早々に現れない証拠だ。
「それか……」
あの子の両親と祖母のような人間たちが捕らえられている可能性。
本題は山積みだが、今は双子を助けることと賢者たちの権利を奪いつつ、生き餌にすることだ。
暖炉の灰は、まだ新しい。家具などは古いし寝具も心地よいとは思えない。触るとシーツが薄汚れているのがわかった。
念入りに探していると、ギッと足下の板が鳴る。
「……」
丁度、暖炉横にある火かき棒の近くだ。ぐるりと見渡して歩く、とんとん、とんとん、ギッ、ギシッ。その音は床下に何かがあると知らせていた。
壊さぬように、そっと板を触る。ぐらついており、ぐっと板を押すと板と板の間に僅かな隙間ができた。指を差し込んで持ち上げる。
床下にあったのは、暖炉に焼べる薪を底と四方に並べ、暖炉でどうにか作ったであろう炭で包まれた袋だった。
引っ張ると重いと思うほどではないが、軽いとも言いづらい。
しかし宙に浮く袋の形から本らしきものであることはわかった。
結び紐を解き、古びた本を取り出す。湿り気はあるが読めないほどではないし、中を読んで納得ができる。
最初の持ち主が火かき棒の傍に隠したのは、そこを踏むのは『ここに来た一般人だけ』とわかるからだ。
元凶の人間たちは暖炉の世話などしないと予想した巧妙な手口。
最初の一文は、こうだ。
『殺される。逃げよ。ヒュプノス中流の関所に我が友がいる。私は、このまま死ぬつもりだ。どうか、見つけた者よ、我が友に伝えてくれ――妹の幸せを願うと』
そこから筆跡は様々であった。ここには書くものがない。しかし炭がある。
炭を手につけて書いた者、思いついたのか細い字で書いた者、皆々が困惑し、逃げるべきか書いてある。
しかし、最初の一文を書いた人間は、その文言のあとに、
――祭司ニィシア・レック・シンシス
――貴族マルガ・ドゥリィ・ラスラ
――騎士ジョルジ・ダーラ・ウィズ
――総帥ササルガ・ル・クイラ
――門番ジン・クル・ミルル
――教師オーデア・クロス・ウラス
当時の六人の賢者の名が記されていた。
それからか書き人たちは当時の賢者たちの名前を書いている。最後の頁には、もう紙がないこと『協力者が来てくれない』ことを記し、六人の名前を書き終えていた。
「協力者か」
本を懐に隠して手を添える。先人の命がつまった本は必ず公の場にて明かさなければならない。
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「マルケル、大丈夫そうかい?」
膝を抱えて静かに泣いているのは年齢にそぐわない気がする。
自分が十二の頃には、もっと泣いていたし笑っていたし、父と母に囲まれて、大好きな彼女の元へ師匠と通い。とても充実した日々だった。
歳を重ねる内に違和感を感じ始めたのは、いつからか。師の事故も彼女の死もどこかできすぎていて次第に六人の賢者たちを怪しむようになった。
手探りの中、次期家庭教師として神が幼少の間は勉強に勤しみ、それぞれの賢者に話を聞く内に、本当に、本当に師匠は死んだのか、彼女の死は免れなかったのか、あの日、師匠は必要なものを取りに行くと家を後にしたのだから、助かる手があったはずなのだ。
目の前の霧が濃くなるたびに息苦しくなる。そしてとうとう誘われるまま、メイオールに手を引かれて、ずるずると堕落していった。
知れたのは賢者たちの内情と女神へ対するおざなりな扱い。女神の死を望む声が恐ろしくて、いつの間にか見ない振りをして下を向いて歩く。
そんな中、今代の神に初めて会う日が来た。何も知らない彼女は健康に、言うがままに育ったという。大人しく、何をしても笑う。
作り笑いではない笑顔に心が揺れる。
この子は死んでしまうのか。彼女のように死んでしまうのか。
運命を知らない、この子はどうなるのか、こんな勉強に意味があるのか。
師のように教えてみるか? でも、でも、と重ねている内に息が詰まった。
体を巡る感情に、誰に何を向けたいのか、できるだけ強く心に蓋をする。
息苦しい。これなら彼女と同じくケール湖に沈むか。
巡る思考の中で賢者に殺意を抱き、少女に吐き気と憐憫と泣き出したくなる気持ちが溢れてくる。
できることは師から教わった〝魔法〟の練習だけ。そうは言っても小さいことだけだ。誰かを助けるほど強くない。
何かもかもが中途半端だった。女の気持ち悪さから抜け出そうとせず、いつか何かを知れると思い、いつか少女を救えるはずだと微笑み、夢想した。
それが、笑えることに少女からもたらされた小さな手に助けられるだなんて、思いもしない。情けない自分を突き付けられて、役に立ってから死のうと決心したのに、少女に命をとれてしまった。
これが贖罪であれば命なんて、いくらでも差し出す。なんでもしよう。
「ルルヤ殿が無事でよかった。これで下流街の様子もわかった。マルケル、僕たちの仕事をしよう」
小さな背中を押す。彼も少女に突き動かされた一人だ。
死んだ世界で生きようと誓った仲。
「……う゛ん」
目尻は赤いが瞳は鋭い。立ち上がり、体の泥を落とす為に体を叩いた。
「それに、聞きたかったこと聞けて、よかった」
俺も聞きたかったことだった。
あのルルヤ殿が知らないとは思えなかったから、どこか仕掛けでもあると踏んでいたけれど……あの人もこの国に縛られていた一人。俺と一緒だ。
「大丈夫。行こう、ケーレスさん」
今現在わかっている事は、オネイロス側の騎士団とメイオールの屋敷、ソヨトの家。
あとはこちらのヒュプノス側にあるはずの残り三人の家。わかっているだけでネモレの家はあるはず。できればバーネットとヴォイスの尻尾も掴みたいが。
「ホントにネモレのヤツの家、あんのかな」
先頭を切るのはマルケルで、森や獣道を歩く姿は様になっている。
「蔵書庫がこちら側だからね。神やメイオールに見られていないならヒュプノスにないとおかしいんだ」
ルルヤ殿に鍛えられた身のこなしは早く、マルケルは腰にナイフを携えていた。
聞くと、もう何があってもおかしくないからと姉のレガと共に武装していると答えてくれて、自分もその方面を習えばよかったと後悔する。
今からでも間に合うはずだ。この命を捧げると決めたのだから。
「上から順に見てきたけれど、丁度、ここは中流と下流の真ん中あたり、かな」
「そろそろ家がねーと、アイツは街に住んでるってことになるけど」
可能性はある。しかし、あの強欲のネモレが国民に見える形で屋敷を作るとは思えない。なんたって彼は『司祭』だ。
誰よりも質素な生活をしなければ模範にならない。
「あっ、ケーレスさん」
「ととっ」
引っ張られて茂みに隠れる。
どうしたのかとマルケルを見ると、視線で先を見ろと合図されて、木々の間を抜けて見えたのは『関所』だ。
地図を広げる。元々ないものをマルケルの発言で書き記したもので細かいことは書かれてはいない。だが、ここに来るまでの上流にある関所は書いてある。
では、ここは中流の関所なのだ。
随分と下流に近いけれども、まあ、ここなのだろう。持ってきたペンで書き込んで、どうするかとマルケルと目配せする。
関所にいるのは二人。事前通り、騎士の中で二番手になる警護か看守のはず。
「……オレ、話聞きに行きます」
「ダメだ、マルケル。危なすぎる」
外国商人の出入りは下流が主だ。中流にも商人が来るけれども稀のはず。
「オーディの名前出せば、なんとか乗り切れると思うし」
家に出入りしている商人の子の名前を出す、ということはバーネットに気づかれる可能性もある。むしろ俺が行くのが一番いい。
「それでもダメだ……行くなら一緒に行こう。お……僕もマルケルも中流に顔見知りはいないだろうし、怪しまれたら兄弟ということにしよう」
マルケルは渋々とした感じで茂みから立ち上がり、俺の手を引く。
俺が引くべき手なのに情けない。
近づくにつれて兄弟たるものを知らない俺は、どうすればと考えてしまう。レガは、どこか特別だし参考になる人がいない。
そんな中、マルケルは何かを思いついたのか「こっち、こっち」と俺を引っ張る。
「誰だ!」
立っていた一人が声を張り上げる。それはそうだ。正式な道ではなくて茂みから出て来たのだから。
「あ、あの、ここ、ここに来たくて」
引かれるだけじゃよくないと思って前に出る。マルケルは皮を被って何度も「ここが中流の関所ですよね」と言った。
「……」
騎士二人の顔色が変わる。
そうかネモレが使う場所であるか確認する為か。本当に関所かわからないものだ。
「あの、ここが」
マルケルは重ねて二人に言う。
「……君らは家の、さらに家から来たのか?」
え、と二人で固まる。
格好から彼は警護の人間だ。隣の彼は看守の格好。もし何かあった場合はマルケルの盾にならないと決意する。
短い沈黙を破ったのはマルケルだ。
「家の上の家、知ってる、の?」
とうとう二人の目が見開かれて「……合言葉は」と口にする。
「あい、言葉とは? 僕は彼を連れてきただけで」
二人は何かを知っている。確信した僕とマルケルは頷き、バレない程度に話を合わせた。
「家の上の家から彼を連れてきました、その」
言葉を澱ませて二人から聞き出そうとするけれど騎士二人も目を合わせてから俺たちを見る。
グッとマルケルの手に力が入った。
「……合言葉はわからない。でも、この人が連れてきてくれた。上は怖かったから、下まで来たんだ。国から出たい」
そう言われた騎士は眉根を潜めて「エルピスは女の子じゃなかったか」「もしかしたら新しく……」と言う。
握られていた手が離れてマルケルは、二人の内の騎士警護役に飛びつく。
「アンタら、エルピスのこと知ってんのか!」
「マルケル!」
飛び出した彼を捕まえ損ね、警護役は顔を青くしながらも段々と驚愕の色を見せていた。
「なあ! エルピスのこと知ってんのかって聞いてんだよ!」
「お、落ち着きなさい!」
俺と共にマルケルを抑えたのは看守役の男だ。大人三人だというのにマルケルの力強さに舌を巻く。
「マルケル!」
警護役を揺さぶるマルケルは何とも言えない顔をしていた。焦りでもなく驚きでもなく、懇願、いや、なんだろう。彼にとってエルピスは少女の心に影を落とした子だ。
「オレは使徒じゃないけどエルピスのこと知ってんだよな!」
「落ち着いて、マルケル」
〝使徒〟二文字の言葉に騎士は固まる。
二人が固まったことでマルケルが我を取り戻したらしい。
「……エルピスは、どうなったんだい」
掴まれていた警護役はマルケルの肩に手を添えると泣きそうな顔をした。
「……え」
今度はマルケルが動揺し、俺もざわりと心が震える。
「君は、エルピスと同じ使徒なのか?」
「エルピスちゃんは、どうしたんだい!」
二人は吠えるまではいかないが、マルケルの肩に力が入っていく。
「あっ」
自分が固まっていたことに気づいて慌てて二人を引き剥がす。
「お二人とも何か知っているですか? 僕はケーレス・ウェル・アレスといいます。家では家庭教師をしていて、この子はマルケルといいます」
騎士の二人は目を合わせてから俺たちを見る。
「マルケルは使徒ではありません。エルピスは残念ながら助けられませんでした」
悲嘆の表情に、瞳が歪む。期待から落胆に変わる様は見るに堪えない。
「お二人は……ここは中流の関所の方たちですよね」
頷く騎士たちに俺たちは黙る。何か知っているのだ。
この顔は嘘の色じゃない。心を決して聞く。
「僕たちは、この使徒について数日前に知ったことなんです。事情をお話します。貴方たちの話も教えて頂けますね」
自分たちが何者かをかいつまんで話すと、どんどん二人は肩を落として、そして神の名がでると剣呑の瞳に変わる。
「あれが主導していたんじゃないのか」
「アレだと!」
「マルケル!」
飛びつきそうだったマルケルを止めると、今度は素直に止まり唇を噛んでいた。
「むしろ神は利用されていた立場です。使徒について知ることができたのも神が賢者たちを怪しみ、調べてくれたおかげです。今も」
今も彼女は苦しみの中にいる。どんなに喜ばしいことがあっても賢者を止められなければ意味はない。
「……それに幼いあの子がエルピスを、人を殺せと命じると思いますか」
「すまない」
騎士看守役は横にいる警護役の背中に手を添えて首を振る。
「おれたちは代々続く騎士の中で『協力者』といいまして、使徒を逃がす為に騎士や商家の家の者が、いえ神と六人の賢者に対して嫌疑的といいますか、使徒の秘密を知った先祖が使徒と呼ばれる人間を逃がす為、関所勤めをしています。おれはスラグ・バーズ、こっちはパフロ・レイ」
パフロと呼ばれた警護役は瞳を伏せて、目線をそらす。
エルピスと同い年に近い神に感情をぶつけ、気まずいようだった。
俺はため息をついて一つ一つ確認をしなければならない。
「確認させてください。貴方たち協力者というのは」
「先ほど言った通り、使徒として家に行った人を助けるべく先祖が設立した団体といいますか……もう何十年も使徒を助けられていない、そうです」
「なら、貴方たちは」
スラグは苦虫を噛み潰した顔をさらに歪めて続ける。
「今も形は残ってはいるものの、使徒に会った人はいません。本当は……本当はエルピスが家に行った、という事実があるならば進んで助けにいかないといけないのに」
「だから、オレは行くべきだって言ったじゃないか!」
パフロがスラグの手を払いながら吠えた。
それに彼は黙る。
「今の賢者たちの護りは、掌握している人数は多くて、騎士の中でも動くには辛く……使徒を助けて送り届ける。それは使徒の家族、自分たちの家族も連れて行くと同意義なんです。先祖こそ、そうしていたと聞きますが」
言わんことはわかった。もう外で暮らす手立て、知識がない。
外国は未知の国であり、しかもキュイモドスは閉鎖的になってから何百年、その間に知識の書は取り上げられ、国の中に血の繋がった家族はたくさんいる。
そして、今の暮らしは配給制に依存しているせいで事を起こした家族の身内が一人でもいれば配給を減らされてしまう。
「……なんだよ、アンタら。協力者とか言いながら自分可愛いじゃねえか」
マルケルは地の底から絞り出す声で二人を睨む。
「よしなさい。この二人は、きっと協力者の人たちは全員わかっているから」
俺以外三人の空気が重くなる。
「協力者の方々に伝えてはくれませんか、神は、この現状を変えようとしているのです。使徒という存在を知り、彼女は六人の賢者から独立しようとしています」
騎士二人は顔をあげて真偽の目を俺に向けた。
「明日、神が下りて来ます。その時に今までと違う行動を起こすよう伝えますから、それを見てはくれませんか」
協力者たちは続いた祖先の縛りに、もうついていけない。
毎日、ここに立てど連れて行かれた人間は来ない。そして、その家族は死ぬ。賢者たち……含めて神たちを止められない。焦りだけが彼ら協力者を苦しめる。
「もう終わりなんだよ。こんなこと」
小さなマルケルの背が震えていた。
「この国は、とっくのとうに終わってんだ。それをアイツは変えようとしてんだ。今、大人が諦めちったら変えられなくなんだよ!」
「君……」
「とりあえず、貴方たちの仲間に伝えてください。では、僕たちは……」
ハッとして俺は止まる。彼らは神と六人の賢者たちに反抗的だった。ずっと手をこまねいていたのならば知っているのでは?
「お二人とも、聞きたいことがあります。どうか、僕たちの協力者になってはくれませんか」
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信用できないプロット
プロット『12の時-5』
噴水広場での交流でルルヤと誰か二人が見守っている姿を見かける
声をかけられないので、わかるように手をふった。
この日は六人の賢者は宴を開くという
一般の国民と自分たちは同じはずなのに
宴の前に弟に会いにいく私
拒絶されるが古代語(もう日本語でいいです)を謳う
蔵書庫の書物にあった言葉だ
弟を説得し、必ず助けると残して私は会場に戻った
お手洗いとレガに合わせてもらう
シスン・セルディル・エレブ・リナに出会う
それぞれ六人の賢者と関わりがある四人は、賢者を持ち上げる言葉を口々に言う
私は、こうして国がつくられていったのだと嘆く
四人に反発、それぞれにダメ出しをしていく
リナは反抗的
私は四人で戻らないと不審に思われると告げて
宴の席に戻っていく




