祝宴のはじまり①
いつも通り推敲してません
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レガが昼食を運んでくるまで、私たちは本を読んでいた。
歴史書というよりも研究書を読み切り、私は手記に手を出している。
それは建国時の祭司と穏健派である貴族の手記、二冊だ。
自国の資源が底を突きそうなこと、他国から支援断絶また侵略、戦争開戦で、
間引きされる男性と青年たち。降伏前に同じく戦争により疲弊していたこの地を
略奪する計画を立て実行したこと。
司祭と時の王は先住民を侵害し、国民の不安を抑えた。次、
貴族は和平を結びシドオス国とグライア国を合併する計画を立案したが、他の
国の妨害と伝達誤り、そして時の王と司祭や国民の不満が抑えられず、一方的な
侵略、略奪戦争になる。グライア国も隣国との戦争で疲弊しており、侵略事態は
安易であった。グライアの王家の処刑から始まり、グライア国民の人身売買など
悪行の限りを尽くし、シドオス国民の心は歪み、そして、
〝ケーオス〟が現れる。
彼女は、元々流れ出ていた水源ケールを陥没させ、湖を創り出した。
シドオス王家は流され死亡。国民の大半が氾濫で流され、シドオス国に三つの
河が創られることになる。
ケーオスの脅威的な力に、生き残りの司祭や国民はケーオスを神として奉り、
国名をキュイモドスと替えた。そしてケールの湖から流れ出る魔力を体に宿し、
隣国からの侵略を防ぐ為、国民全員の魔法による防壁で独立国家を創り上げた。
『脅威的な魔法を使用するケーオスは湖を創り出した後、姿はなく、彼女は神と
して奉られるはずではなかった。しかし悪を働けば彼女は現れる。水の中にいる
ような揺蕩う黒髪と赤の瞳で私たちを見ている。彼女は湖にいるのだ』
「〝司祭殿はケーオスを神として奉り、国に蔓延る寒心を取り除こうとした〟」 ふうん、と私は呟く。
「でも、その後〝神〟という制度を作り上げたの」
それにマルケルが、ああ、と横から口を出す。
「元々、神じゃなくて〝巫女〟だったんだと。司祭の娘や魔力が強い人間をケー
オスの言葉を聞く役者にしたんだ」
私が読み終えた歴史書を見ながらマルケルは言う。
「神託を受けたとか、ケーオスから力を借りたとか、そうした内に初代様の力を
継いだとして〝神〟が出来上がる。そして」
「恐れが時代と共になくなり、司祭たちや強行派の貴族が指揮を執りはじめて、
私腹を肥やし始めた」
マルケルの言葉に続いた私の発言に、彼はこくりと頷いた。
馬鹿話は知ることができたけれども、この〝ケーオス〟という女性が謎だ。
「ねえ、マルケル。このケーオス様は突然、手記でてくるけど、どういった人か
わかるものはない?」
彼は首を振る。
「歴史書は外国のモンだし、どっちの手記も突然出てくるんだよ」
「ああ、防壁もおかしい。もう魔法を行使できる人間は殆どいないのに」
それにはマルケルは、持っている本を揺らす。
「最初の防壁は百年間続いた。魔法を使った人間が全員死ぬまでな。当時は湖の
おかげで食物は育ち、連れてきた動物も栄養価が高く、長生きしたんだと」
他国では二世代ほど変わる世の中で、キュイモドスという国は強力な魔法を行使し続ける、という概念が残り続け、旅人が偶然、障壁がなくなっていることに
気づき、世間に知れ渡ったが、かのケーオスという巨大な魔力を持つ人間の後を
継いだ人間が信仰対象になっていると知り、手を出すことはなかった。
「うーん、色々納得できない所が多いなー」
歴史書なんて、そいつの主観で書かれてるんだからわかんねえよ、と、椅子を
揺らしながらマルケルは言う。
「国がどうできたはわかったし、どうやって神の制度ができたかはわかった」
六人の賢者は私腹を肥やしたかった司祭と貴族の名残りだろう。
騎士団も、おそらく。想像でしかないけれども。
「ねえ、マルケル。この国の形ってどうなっているの?」
「それな」と言い。マルケルは私の机からケーレスに貰った紙を引っ張り出して
裏面にすると指でなぞる。
「まず、こんな風なんだよ」
ケール湖を頂点として横に広がるのがヒュプノスとオネイロスの河。そこから
ケール湖の横幅を広げて再度、横に広がる。
「河の外に何が?」
「これが防壁だったもん。あーと、歴史書では何本の木々が生え、日は差さず、
キュイモドスに行くのは大変なんだと。絵だとこうだけど、もっと広いらしい」
私は底辺をなぞる。ケーレスの話だと崖になっていると聞いた。
「そ、小さな崖? みたいなんだと」
マルケルは剣先を描く。つまり、大地が飛び出し、下が内側に削れている。
「で、だな。ケール湖の裏側が、この山よりも坂がキッツい斜面になって、横も下も裏側からも進行して戦争するにゃ向かないんだと。森も深いし、この国に
来るまで体力使い果たしちまうし、食糧は必要だしって」
難攻不落ってヤツっとマルケルは締めくくった。
「運がよかった、て所な訳ね」
歴史書と手記を交換して、私はめくる。
たまに立ち寄る商人のことだ。マルケルの父親も外国の人だし、一応どこかの
国と貿易しているはず。つまり道があるはずなのだ。
騎士団の階級を考えれば関所の事実もある。どこかの部分で鎖国状態から脱している。
「マルケルのお父さんは、どこの国の人なの?」
「ああ、こっから東のペルセっていう海洋、貿易で成り立ってる国だって」
「その研究者?」
「だった、だな。母さんに一目惚れして移住したんだと」
そういえば移住者については、どうなんだろう。
マルケルのお父さんを受け入れていることから寛容なのか?
「先に言っとくけど、オレん家はオネイロスの下流だから外国人っての、一部の
人しか知らねーの。普通は、どうなんだろな。なんで気になるんだよ」
「上流、中流、下流……」
ネモレやバーネットが、全ての国民を監視できていると思っていた。
でも、マルケルの言葉を思い出す。お互いに監視し合っている。
つまり、六人の賢者で、街へ出ている賢者たちが、全ての国民を把握している訳ではない。密告することで初めてわかることも、ある。
それならば秘密裏にキュイモドスへ入り込むことができるのではないか。
「うーん」
「なあ、オレらの名前に疑問持ったことねーか?」
「ん?」
「オレは下流の出だから二つしか名前ないんだよ」
ああ、マルケルは『マルケル・ガル』でもレガは『レガ・ガル・センシス』。
「んん?」
「階級で名前の長さが違うんだよ」
「なるほど、でも何でレガだけ?」
「使用人だからだ」
目を丸くしているとマルケルは続ける。
「今の賢者たちの役割、わかるよな。それと神の近くで仕事してるヤツら。河を
中心とした居住区。職業も階級があって名前の長さがあるんだよ。長いほど上の
上流階級ってこと。姉ちゃんは使用人、賢者のメイオールと同じ職だから三つ、
名前がついてる。オレは、ここに住んでるけど庭師だから二つ。執事見習いの
時は姉ちゃんと一緒の『マルケル・ガル・センシス』だったわけ」
「下は」
「下流職業は一つだから、わかるだろ。賢者でないのに三つ名を持っているのは
過去に六人の賢者として選ばれたことがあるってヤツ。ルルヤさんに聞いた」
前の前の前だかの神様の時の賢者で『執事』がいたんだと、マルケルは締めくくった。
「……噴水広場しか行ったことない私は何も見てないから想像できないなあ」
ため息をついてベッドに体を沈める。
私が考えているより、この国は広大で、様々な職と人がいるのだ。
服や紙や食糧、水のように沸いて出る訳じゃない。
「貿易……」
がばりと起き上がり、マルケルを見た。
「へいへい、出入りしてる商人くんに聞きました」
その彼は『オーディ・ゼン』
ここの所は連続で彼が出入りしているという。
「なんでかってと、コイツが……バーネットの弟子、甥だっけか? リナっての
従者なんだと。そんでオーディ曰くリナは、もうバーネットの仕事の一部を、手伝ってるんだってよ」
私は本で口元を隠す。
「よく、答えてくれたね」
「なんでか答えてやろっか? オーディくんはリナくんが好きでもバーネットが嫌いなんだと」
意外な言葉に、ほう、と口に出る。
「……さっき、バーネットのヤツ、姉の子どものリナをって言っただろ」
「うん」
「河に流されたんだけど、たまたまリナはバーネットが預かっていて、そんで、たまたま姉夫婦がバーネットに頼まれて関所の商人に会いに行った……」
わかんだろ? とマルケルは私へ視線を寄越す。
顔が歪む。予感と気持ち悪い意味で。
「で、いつもはバーネットがやっている仕事だった、と」
続けるとマルケルは肩を持ち上げて、手記を私に投げてくる。
「ヴォイスの弟子、も?」
「そこまでは、わかんねえし。バーネットのこともオーディの考えで、本当か
どうかわかんねえんだと。リナが疑ってないから言わずにいるってさ」
三冊の本を膝の上に乗せて「はあ」とため息をついた。
これは後継者問題に一波乱ありそうだけど、その前に。
「カートの音がする」
「本かせ」
マルケルはベッドの下に隠れる。
扉を軽く、どこか優しく叩くのはレガだ。
「どうぞ」
やはり開いた扉の廊下にはカートを引いたレガで、昼食が二人分ある。
小さくお辞儀したレガは「マルケル」と言い、それに合わせてベッド下から、
マルケルが出てきた。
「オレも分!」
私は机に一食、カートに一食。椅子を机へに返して手をつける。
ちなみにマルケルは立ち食いしていた。
「レガ、あの後、どうなった?」
「六人とも明日に広場に行くことが決まったようです。あと何か宴ということで
揉めていました」
それに私はバーネットたちのことを話す。
「なるほど、だからシルウァヌス殿が怒鳴っていたのですね」
ケンカしたのか、と呆れて、早口にご飯を食べる。
「進捗のほどは」
「うん、本で得られる知識は得たよ」
かいつまんで話すとレガは心底、嫌な顔をした。ベッドに置かれた三冊を手に
取って、ぱらぱらと見ては渋い顔をしてレガは不機嫌になっていく。
「……燃やしたいですね」
気持ちは、よくわかるし、レガはどっか過激なところがあるな。
「夕食までなのですが」
「ん」
「マルケル、あなたはガヴァネス殿の所へ本を返して。もし他に情報をもらえる
なら聞き出しなさい」
「あ、ガヴァネスに昨日と弟のことも伝えといて」
レガに便乗するとマルケルが口を曲げて「いいお使い係だよな」と愚痴る。
この家で疑われずに動けるのはマルケルだけなのだ。少し姿が見えなくても、
何も言われないのは彼自身が一番、よく知っている。
「あとは……」
私を見るレガに「なあに」と視線で返す。
「ハルナさんのところへ行きましょう」
こくり、と私は頷いたが、どうやって行くのだろう?
それを汲み取ってくれたのか、レガもこくりと頷いて、
「家に招くのは怪しまれます。しかし神がいないのも怪しまれるでしょう。ですので、神にはバカになってもらいます」
「結構、酷いこと言ったね!?」
レガの作戦としては、あの講堂に出席した自分に色々と話を聞こうとして付きまとう神様が騎士団近くの洗濯場まで一緒に来てしまった。
が、一番、言い訳がしやすい、とのことだ。私が。
「大丈夫だけれど、今からハルナを呼ぶの?」
「そこは問題ありません。彼女は訓練をしているはずです」
私は「何故わかるの」と顔に出していただろう。
「……ハルナさんは騎士〝でした〟ルルヤさんのことがあって見習いに戻されてしまい、今は……見習いの修業として昼食の後は騎士団の訓練場にいます」
「断言、できるんだ」
「ルルヤさんのお孫さんですよ?」
もっとも納得できる理由に頷いて、スープを飲み干した。
「ごちそうさま」
「オレも」
ハルナは、私を恨んでいるかな。
皿を置いて、少し俯いた。怒ってくれた方が私は嬉しい。
今の事態は、私が起こしてしまった自我。責任は私にある。
「ハルナと話せたら、夜にマルケル、レガ、ケーレスとハルナで集まりたい」
「うんじゃあ、オレ、ガヴァネスさんとこのついでにケーレスさん探す」
お願い、と頼んでカートに食器を置く。
「……」
「どーしたんだよ?」
ガヴァネスにも協力してほしいことがある。
有り難くも開催される宴、これで賢者たちの内部まで見えるはずだ。
それを確認した後に起こしたいこと。
手数は多い方がいいけれども、ガヴァネスがどう思うか。彼女は、ちゃんと
自分の役所がわかる人だ。
私が計画していることに参加するか、しないか。早めに意思を確認しておきたいが、ハルナの件もあって二の足を踏んでしまう。
「……オレが一番、動けるだろ」
顔を上げると三冊の本を持ったマルケルが言う。
「ガヴァネスさんと弟に報告したらケーレスさんを探す。オレの足なら、すぐに
終わっから。そんでお前がハルナさんのとこから帰ってきて、作戦を思いついた
なら、ガヴァネスさんが必要で、ひとっ走りする」
真剣な眼差しのマルケルは言い切るとニヤリと笑う。
日差しで焼けた肌に垢抜けた顔が生意気そうで、年上に囲まれて育った私に、
羨ましい、なんて思わせる。
ルルヤを家に戻したら剣術でも習おう。
「……マルケルを心配しても、損だね」
ぷい、と顔を背けて鼻で笑うと「なんだよ」なんて声が聞こえる。
少しだけ、元気が出たよ、マルケル。
「じゃあ、開始!」
部屋を出るとマルケルがガヴァネスのところへ駆けていく。
私はレガの後ろについて歩いた。
プロット『12の時-5』
他国の違いと国の仕組みがわかってきた私
噴水広場での交流でルルヤと誰か二人が見守っている姿を見かける
声をかけられないので、わかるように手をふった。
この日は六人の賢者は宴を開くという
一般の国民と自分たちは同じはずなのに
宴の前に弟に会いにいく私
拒絶されるが古代語(もう日本語でいいです)を謳う
蔵書庫の書物にあった言葉だ
弟を説得し、必ず助けると残して私は会場に戻った
お手洗いとレガに合わせてもらう
シスン・セルディル・エレブ・リナに出会う
それぞれ六人の賢者と関わりがある四人は、賢者を持ち上げる言葉を口々に言う
私は、こうして国がつくられていったのだと嘆く
四人に反発、それぞれにダメ出しをしていく
リナは反抗的
私は四人で戻らないと不審に思われると告げて
宴の席に戻っていく




