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三人の神

推敲してません

 この国は『神』でできている。

 神がいなければ国ではない。この国は神がいるから国として存在していた。

 しかし神がお隠れになった時、仕えていた六人の賢者が神を永遠なるものとして偉大なる湖に沈め眠らせる。

 そうして湖の細やかなる水面が消えた時、それは次代の神が産まれた証拠であった。

 代々と繋がる神と水を崇めながら国民が平等に生活を送れる素晴らしき国。

 生きる神が存在し、どんなに苦しくとも『神』と『平等』が両立する永久の国。

 『キュイモドス』


-・・・- --・- --・-・ ---・-


 寒い。とても冷たい。ゆっくりと棺の中に水が入り込んでくる。

 この箱に入れられた時、私はお気に入りのドレスを着られなかった。

 倒れているのを見つけてもらえた時には、私の体は硬直し始めていて、どうにか体を真っ直ぐに治す事しかできなかった。でも、わがままを言うなら、あのドレスをこの棺と共に入れて欲しかった。

――どうして、死んでしまったのかしら。

 そんなに『魔法』が強すぎたの?

 前に、ちらりと『魔法』と精神、体は直結しているかも知れないと言われたけれども、それのせいなのかしら。私は、よく知らない。

 でも、死んでしまうのは悲しい。好きな人たちと笑い合えなくなってしまうから。

『神』の遺体はケール湖に沈められ、永遠に水を浄化し続ける。そうして、また民の為に生き、次代の『神』へ繋げていく。

 もう、新しい『神』は見つかったのかしら。どんな子かしら。

 私が死なないと新しい『神』は誕生できない。もし水の中に私の目があったなら、その子を見たいと思う。

 もうケール湖の底まで半分ぐらいかしら。もう顔まで浸かりそう。

 みなは、私と一緒に暮らしてくれた、みなはどうしているかしら。ここまで運んでくれた優しい人たち。一緒に生きてくれた人たち。まだ『魔法』は届くかしら。


-・・・- --・- --・-・ ---・-


『いやあ、書物によれば初代にも勝る力だというのに、こんなに早く死んでしまうとは』

『短すぎて嫌になりますよ。これが高慢ちきでなかったのが幸いですね』

『そうならない為に教育をするのですから当たり前でしょう』

『まあ、すぐ死ぬのは分かっていましたし』

『そうですよ、明らかに噴水前での祈祷が少なかったのですから国民も気づいていたでしょうよ』

『世話をするには楽な人でしたよ、ふふ。先代より無知で馬鹿で』

『次の当てはあるんですか? もう、嫌ですよ、こんな短い女。オレのところに来ては、外はどうなの? 見たいわ? 連れてって? 教えて? ですよ』

『世界の書物を見せない、と先代で決めましたからねえ。その分、外が見たくてしょうがなかったんでしょうよ。貴方は門番なのですから、それぐらい答えてやりなさいな』

『次は見せます? まあ、出てきた子次第ですね』

『そういえば、もうケール湖に沈めず焼くって案はどうしたんですか? ほら、ここまで運ぶの辛いですし、焼いてしまうのが楽でしょう。ただの人形なんですから』

『やめてくださいよ、人形っても、ふふ、神様なんですよ』


-・・・- --・- --・-・ ---・-


 え? 何を言っているの?

 ねえ、何を言っているの?

 なんで六人とも笑っているの?

 ネモレ、シルウァヌス、バーネット、ヴォイス、メイオール、ソヨト……。

 みな、優しくしてくれて、笑い合って、支えてくれたじゃない。

 病気がちな私を、いつも心配してくれたじゃない。

 焼くって何? 人形って何?

 なにを、ねえ、なにをいっているの?

 私は、神様で、魔法を使い、

 人々を癒やし守り、魂をケール湖へ送り、また会えることを祈る。

 選ばれた神様で……。あれ、私の名前、なんだっけ。

 ずっと神様としか呼ばれなかった。

 私って何?

 なんで、なんで、なんで六人とも笑っているの?

 暗い、やめて、怖い、底から何かがくる。助けて、いや、私は何? 神、様、神って何? 


-・・・- --・- --・-・ ---・-


『ホント、早く死んじまって面倒な女でしたよ、病気がちで』

『ああ、見舞いとか形だけでもしないとねえ』

『愛されてるって思わせないと。そこを間違えると悲惨ですから』

『でも、早く死んでよかったじゃないですか』

『そうですよ、次の子が丈夫であれば問題はないですから』

『ああ、考えれば、そうですね。一応、これ持ってきましたけど燃やしましょうか』

『ドレス? なんですか?』

『気に入ってたみたいで』

『はは、これにそんなことしなくていいでしょうに』

『魔法はよくても役立たず、だったんですから』


-・・・- --・- --・-・ ---・-


 ねえ、それ、私のドレス。もらったのよ、ドレス。似合うってくれたの。

 ……。

 私が死んで、嬉しい? ねえ、私が病気だったのが疎ましかった?

 ねえ! なんで悲しいことを言うの! 私は、私は、神という役目を果たして……。

 ……。底に着く。色々な棺が無造作に並んでいた。それこそ、もう棄てられているような。半開きで腕が出ているわ。ねえ、いっぱい、いっぱい、嫌な嫌な力が溢れている。

 そう、私、なんの為に生きていたんだ。私はこの力で民を癒やしたかった。なのに、なぜ、おまえたちは笑っているんだ。私だって、まだ生きていたかったのよ!

 その黄衣のドレスを燃やさないで。燃やすな。笑うな。私は、

『神』だ。

 これが、知らなかった。恨み、憎悪。

 生き返り、おまえたちを……。


-・・・- --・- --・-・ ---・-


――*――


-・--- -・-・ -・・-- ・-・・・


 ここは広場だ。

 唯一『神』と民がふれあえる場所。そこに『神』と六人の賢者(セクス・フィデリス)が居る。

 ゆっくりと神は木で作られた階段を上る。

 質素な黄衣のドレスに肩まで伸ばされた白銀の髪、淡い朱の瞳、陶器のような白い肌に細い指先。祈りを捧げる為に組まれた指は、国民でも分かるくらいに赤く染まっている。そして悲哀の表情に誰もが動揺した。

 それに誰よりも動揺したのは六人の賢者の一人、司祭(パストル)ネモレ・レック・シンシスだった。

 国民の前では笑顔を絶やさずに微笑む神が、今この時に憂鬱そうな顔をしているのだ。こちらに来るまでは普通で、バカのように笑っていたというに。

「か――」

「我が愛しき人たち、わたくしは伝えなければいけないことがあります」

 意を決したのか、神は今にも泣きだしそうで悲しげな声をあげる。

「わたくしの友、わたくしの手を未来へ繋げてくれたものたちの『未来』がケール湖の禊ぎの時に見えたのです」

 その言葉に顔をあげたのは禊ぎの手伝いをした使用人(セルヴィルト)メイオール・ワール・レナだった。

「みなさん、これを見てください」

 神の手のひらには赤子の頭ぐらいの透明な石である。

 キュイモドスの住人は神の手にある石を見ては、みなみなで顔を合わせた。

「祈りを捧げ、さらなるキュイモドスの平和を祈りました。その時です。この石がケール湖の底から浮いてきたのは。わたくしは、この石を手に取り讃仰の神たちの声を聞きました。それは……それは……」

 苦しそうに前屈みになる神を、国民は叫ぶ。

「神よ、どうか、どうか、お言葉を! 貴女が苦しむことはありません。我らで貴女の憂いを払いましょう!」

 みなが、その言葉に続き、声をあげる。

 ただ六人の賢者たちだけはこわばった顔を神に向けていた。

「――ありがとう、ありがとうございます、わたくしの愛しい人たち」

 ゆらりと立ち上がる神は、それは美しい声音で紡ぐ。

司祭(パストル)ネモレ・レック・シンシス、わたくしの心。石に映るのは貴方の苦しそうな姿。今の貴方よりは歳を重ねてるようでした、が、貴方は病に倒れることでしょう。わたくしはケール湖より水を運び、貴方の背を撫で、痛みを取り除き、祈るようにしていました」

「……!」

「ああ、なんてことだ、ネモレ様が」

 国民は驚く、三代続けて神に身を捧げていたネモレが病魔に冒されるも、神の手では癒やせないことに。

「ネモレ様は、この国に体も心も費やした身であらせられる……死が近いのかもしれん」

「そうだ、ずっと神のお側におられた方だ。ご心労もあっただろう」

 困惑し、動揺する中、ネモレの高齢であることを考えれば何ら不思議なことではない。そして「それだけではないのです」という神の声を聞き、再び顔をあげた。

「わたくしが見たのはネモレだけでは、ないのです。わたくしの愛しい人たち聞いてくださますか」

「もちろんでございます、神よ! どうかお言葉を!」

 ネモレは口を出そうにも出せない。ここは国民の前、張り上げた声をあげようものなら不審に思われる。ましてや「何を言う! 小娘!」などとは――。

「この石は、おそらくば神の心、愛しき貴方たちへの言葉、わたくしはネモレを含む六人の賢者たちの未来をみたのです」

 ざわざわと止まらないどよめきが走る。ネモレが病に伏せるというのならば、あとの五人はどうなるのか。

騎士(エクエス)シルウァヌス・シシ・デューク、わたくしの手。石に映るのは、わたくしをかばい貴方が崖から落ちる姿。おそらく、わたくしの大禊ぎの日に貴方は命を落としてしまう。この石は激しい鼓動をわたくしに与えました。感じたことのない痛み、これは貴方がずっとわたくしを護りぬいてくれたから知らぬ痛み。この壮絶な痛みの中、貴方は落命してしまう」

 シルウァヌスは小娘を睨む。他の賢者たちも睨みあげ、この小娘は自分たちを拝送としているのだ。

「ああ、あの騎士シルウァヌス様が……」

「しかし、シルウァヌス様なら、その体で神を護りましょう。そんな悲しい未来になれど、あのシルウァヌス様なら」

 動揺する国民をたたみかけるために神は高らかに宣言をする。

医士(メディクス)ヴォイス・グラーダ・ラジ、わたくしの足。石に映るのは、わたくしの為に炎を焚き、夜を徹して研究をしていました。そうした突然、貴方は倒れたのです。わたくしも頭に響く痛みを感じました。そうして手足が動かなくなり、貴方はベッドで伏せる余生になる……こんなの、こんなのは酷すぎます」

 神は、石を抱いて『泣いた』。体を折り曲げ、もう言いたくないと言わんばかりだ。

「でも、でも告げなくては、私は、貴方たちに、貴方たちの未来とこれからを……貴族(マーチャント)バーネット・ワート・タイス……ああ、もういや! わたくしの口。愛しき人たちの為に、わたくしの声を届けてくれた人。いつも微笑んでくれた。しかし、石に映った姿は暗闇。これがどのような啓示かわかりません。でも貴方は遠くへ行ってしまう」

「神よ、お労しい」

「わたくしの、わたくしの隣人……メイオール・ワール・レナ」

 メイオールはわなわなと震えていた。朝のくだらない禊ぎに、あの石はなかった。

「貴女は、病気になったわたくしの看病をしていました。しかし河へ水をすくいに赴いた矢先に河の神たちによって流されてしまう。ああ、あの息ができなくなる苦しさ! そんなのは嫌! メイオール!」

 立ち上がるのを止めて神はひざまずき叫んだ。

「貴女は讃仰の神たちの呼びかけに応えてしまう! それ、それは敬服なること、でも、わたくしは貴女がいなくなるのが耐えられない! そう、いつも笑いかけてくれたソヨト・ヨグ・ミコン、貴方もなのです! 貴方は門番、わたくしの盾、見えたのは暴走した馬たちの嘶き、耐え難き痛み、叫び、苦しみ、どこかわからなかったけれど、貴方は……」

 民たちはじっくりと泣き叫ぶ神を見ていた。なぜなら先代の神は微笑み、このような感情を露したことはなかったのだ。しかし、髪を乱し、泣き叫ぶ神を見れば、それは恐ろしく辛く心の中でしまうことができないものだったのだろうと思う。

「……わたくしの愛しい人たち、聞いて、くれますか」

「も、もちろんです! 神よ! 我にできることがあれば!」

 ネモレは睨み、シルウァヌスは拳を握り、ヴォイスは見つめ、バーネットは唇を噛んだ。

「わたくしは、このような未来を壊したい」

「い、いけません神よ! これはケール湖に眠る神々のお言葉!」

 メイオールは歯を食いしばり、ソヨトは駆け出し押さえつけたい気持ちを我慢した。

「そう、讃仰の神たちの言葉は必ず起きる。わたくしは、ここに来るまで考え抜きました。そして一つの、愚かだと罵られる答えを見つけました」

 国民たちは息を呑んだ。乱した髪から見える神の瞳は虚ろで、その空虚の中に何を見いだしたのか、こぼれ落ちぬように耳を傾ける。

「わたくしの賢者たちを、愛しい賢者たちの任を解きます」

 どよめきが広場を覆う。

「わたくしが見た未来、これは、きっとわたくしの傍にいたから、わたくしは六人の賢者たちと生きるのが当たり前だと考えてきました。ですが、こうなるなら、こうなってしまうのなら、わたくしは愛しい賢者たちを解放したいのです」

 六人は罵りたい気持ちを理性で制御する。ここで放つ言葉は賢者として有り得ないものばかり、人々から見れば神を軽んじ利用してきた、その決定打になってしまう言葉、しかし目の前の小娘は泣き真似をし、しまいには頭のない国民に対して大げさな芝居をうって信じ込ませようとしている。それは成功するだろう。なにせ愚かな国民共であるのだから、と。

 賢者たちが愚かなのは国民を人間と思わず、自分たちが崇高なる人間であると差別をしたことに他ならない。それがなければ彼らは、まだ神の傍に居られた。

 いや、そんな場所があるわけがない。

「愛しい六人の隣人。どうか、その時が来るまで生き抜いてはくれませんか。もしかしたら、わたくしから解放されることで、この未来は変わるかもしれない」

 石を握り締めて、神は言う。慈母たる笑みを浮かべながら六人を見、民を見た。

「愛しき人たち、わたくしは神ではない。……ケール湖に還ります」

「そんなことはありません! 神よ!」

 誰もが言葉を失い、彼女を見ている中、一人の男が壇上の前に現れる。

「お、おまえ、シスン」

 ネモレの前に、孫であるシスンが並んだ。次代の司祭として学び育てられた彼から祖父を裏切る言葉が出てきた。ネモレは瞳を開き、愛孫を見る。

「神よ、神の貴女は、その美しき石の心をお聞きくださった。そして我らに告げてくださいました。それは己の心を刃で刺し、感情を乱され、お辛いことでしょう。しかし自暴自棄なってはいけません」

「……シスン、わたくしはどうすればいいのです! 貴方の祖父であるネモレの死を、わたくしは見たのですよ! 憎くはないのですか!」

 シスンは、隣で棒立ちになっている祖父を冷たい目で見た。

 びくり、とネモレは飛び上がる。まだ孫には自分が権力を振るい弱者を虐げていたことは知らないはずだ。しかし、この目は見透かされている。

「……聞きたくは、ありませんでした。祖父の余命など。しかし、この痛みは神の心に表れた苦痛よりも小さきこと、なぜならば祖父は心身ともに三代尽くしていた人、いつかは居なくなってしまう。そんなことを考えていました。なぜなら、頭を撫でてくれる手がなくなるのは、いつも突然なのです」

 彼の言葉に、広場のどよめきが静まっていく。

 次代の祭司とも言われるシスン・レック・シンシス。

 ネモレの息子はシスンを残して河で溺れ死んだ。シスンを残してケール湖に還ったのだ。その悲しみに包まれた人生でもネモレ・レック・シンシスという祖父を敬愛し、学び続けた姿を国民は知り得ている。だからこそ、彼の声は国民のどよめきを静めた。

六人の賢者(セクス・フィデリス)が神の傍を離れてしまう。これは前代未聞のことです。しかし神を支えたいと思うのは国民全員が願っております。貴女はそれを棄てるおつもりか」

「ち、ちがいます、そんな」

 神は涙を零しながら頭を振る。

「それはケール湖からもたらされた石。ならば神を一人にはしないはず。いいえ、わたくしがしたくありません。次代であれど、わたくしは司祭となるべく生きてまいりました。許されるならば、それを――」

 呆けている祖父を横目にシスンは神の前まで歩き、手を差し伸べる。

 すれば石から柔らかく光が灯る。

「これは、なに?」

 神の言葉に呼応すように、ますます光を強くする石を持ち、シスンは振り向き国民へ高らかに言う。

「ケール湖からもたらされた石! ならば、どうかお導きを! この光は神への寵愛、この国に心身ともに尽くしてくださった神々の想い! この光こそは新たなる賢者のしるべ!」

「おお、これは」

「シスン殿に呼応しているのか……!」

「確かにシスン殿であれば次代の祭司にふさわしい」

「この光こそ次代の六人の賢者(セクス・フィデリス)の証!」

 人々は口にして追い詰められている六人にとどめをさした。

 神の言葉は絶対。しかし、神の言葉無しで生きていくというのは暗闇に放り込まれるのと同じ、そして事の起こりを予言した神を疑ってしまう。迷ってしまう。しかし、あの司祭の孫の言葉に身を任せてしまえば全てが『本物』になるのだ。

 少々サクラはいるものの、手はず通りだとシスンは微笑んだ。

「どうか! 我らが神の元へ、新たなる賢者を! 支えるものを!」

 まぶしく光り出した石に、みなが目をつむる。パリンッパリンッと続けて音が鳴り、光は収束しいく。

「これは……」

「……おお」

 人々が見たのは隣の、前の、六つの乳白の柱。その人たちは青い空に向かう光の粒に包まれて『驚いた』顔をした。

「宣託はくだされた。安心召されよ、我らが神」

 当たり前のようにシスンは光に包まれている。そうして人々の生け垣から三つの柱が、そして神の傍に仕えていた人々から二つの柱が空に伸びている。

「お集まりください」

 シスンの声に五人は、壇上の前に並ぶ。

「あれは!」

「やはり、賢者様たちに関わりがあるものたち!」

 ぼんやりと、装っている神にシスンは石――水晶――を返す。

 夜を溶かした髪色、長髪を一つにまとめ、夜空の瞳に白の神父服を着たのシスンは、人好きのする笑顔を浮かべて神に微笑む。

司祭(パストル)ネモレ・レック・シンシスの孫、シスン・レック・シンシスは神の心に」

 赤茶の色合いに短くした髪、炎のような赤い目、騎士団の中から出てきた彼は決意の瞳で神を見上げる。

騎士(エクエス)シルウァヌス・シシ・デュークが部下、セルディル・ケイ・ハンスは神の手は離しはしません」

 絹のような繊細な金色の髪、肩まで伸ばした髪は歩くたびにゆらゆらと人を魅了した。そして群青の瞳、白衣を纏う彼はヴォイスを嘲笑しながら見上げる。

医士(メディクス)ヴォイス・グラーダ・ラジの弟子でございます、わたしの名はエレブ・エル・エーデリヒア、神の足として」

 薄桃色のポニーテールに白金の瞳、きらびやかな服装で民衆の中から歩いてきた人は、胸に手をやり、感慨深く頭を下げる。

「我が家族、貴族(マーチャント)バーネット・ワート・タイスの甥、リナ・リリナ・リガルド、これより御身の口となりて仕えましょう」

 髪で目を隠し、頬まで伸ばした黒髪、まだ信じられないと、どうにか装う使用人の列からぎこちなく出て来たのは、

使用人(セルヴィルト)メイオール・ワール・レナが傘下、エリス・ホル・マティス、隣人としてここに」

 ふわりとなびく紅の髪、紅の瞳、赤く染まるその人も使用人の列から堂々とメイオールの隣に並ぶ。

家庭教師(チューター)ケーレス・ウェル・アレス、神の賢者として参上仕りました」

 新たな六人が、先ほどまで賢者であった六人を忘れさせるように神の前に並び、それぞれが神を見上げて微笑んだ。

 すでに光の柱は消えており、残り香のような白い粉が彼らの周りを舞う。

「……シスン」

「新たなる六人の賢者(セクス・フィデリス)は、ここにおります、神よ」

 自分らを廃し、知らぬ石が光るだけで選ばれた六人に、古き六人は各々睨みつけた。そのほとんどが己に近しい人間で構成され、そして神に取り入る為だけに傍へ行かせたのが四人、そしてメイオールとは、また違った使用人、家庭教師。

 全てが全て、神の傍で六人とは違った形で仕えていた人間だった。

 ぼんやりとしている神を見る。

 わざわざ体裁の為の小娘にしてやられた。未来予知? そんなこと()()()()さえできない!

『神』は乱れた髪を整え、ゆっくりと立ち上がり、胸に石を抱きしめながら集まっている国民たちを見渡した。

「新しき賢者たちに祝福を!」

「神の御業に栄光を!」

「国よ、永久であれ!」

 不安げな神に人々の声が浴びせられる。

 ネモレは民衆を見て、もう何も声が出せない。否定という道はなくなった。ここで権力にしがみつけば国民に石を投げつけられるだろう。病気とは違った形で逆らう背徳者として国から追い出される可能性もある。

 この広場で、民衆の前でやられるとは思いもしなかった。しかもこれほどまで味方を増やして国崩しをするとは!

「神よ、どうぞ、怖がらないで」

 エリスが手を伸ばす。

「きゃあ!」

 女性が叫んだのは、壇上から神が飛び降りたからだ。

 エリスの手をとり、神は微笑んだ。

「隣に、いてくれますか」

「もちろんでございます、我が『(ねえさま)』」

 神は――エニュオ・アリオス――は、にこりと弟に笑う。

「ああ、感謝します。ケール湖に眠るすべての神々よ」

 さあ、今から『この国』(クソッタレ)を壊してしまおう。


-・--- -・-・ -・・-- ・-・・・



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