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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

お弁当好きな死神と駅の(裏)話

作者: 瑞樹凛

よろしくお願いします!






「こんにちは。いつものお弁当。よろしく」

「はぁい、ちょっと待ってて」


 私はお弁当屋さんの娘だった。

 ガラッとショーケースからお弁当を取り出して、ビニール袋に詰める。


 田舎の駅の近くで店を構えていて、休日はよくその手伝いをさせられていたのだ。


 お弁当は、好きだ。

 シューマイにウインナーに、卵焼き……とかとか。

色々なものがちょっとずつ入って、しかも全部好きなもの。

 だから、お手伝いにはなんの嫌な感情もなかった。

 むしろ嬉しいくらい。

 それにはもう一つ理由があって、


「ここの弁当は上手いよなぁ」

「どうも」

「品目は陳腐なんだけど、味が逸品」

「お弁当屋さんに向かって堂々と陳腐って言うのどうなの?」

「はっはは、悪い悪い。でも、本当に美味しいよ。毎日買いに来るくらいはさ」


 この駅弁屋さんに毎日来てくれる20代くらいのサラリーマンの男の人。


 私はその人に恋をしていた。


 気怠い感じとか、どこかさっぱりした感じとか……あとは何より顔がいい。

 毎日通ってくれるから、いつの間にか来てくれるのが楽しみになってたんだよね。

 気づいたら、好きになってた。


 ていうか、顔が見れるだけでも嬉しい。

 学校がなかったら毎日ここであの人を待っていたい。


「今度、期間限定で駅に店を出すんだって?」

「うん。そうそう、だから改札でたらすぐにお弁当買えるよ、やったね!」

「お盆休みは需要がありそうだもんな」

「じゅよう?」

「ははは、買う人が多そうってこと」

「やっぱりうちの弁当……いや駅弁は天下一品でしょう〜」


 そんなくだらない会話も大事にとっておきたいくらい、会えるのが楽しみだった。


 お盆休みは本当に人がたくさん来て、忙しさでてんやわんやだった。


「おう!大繁盛だな」

「田舎の駅なのに……映画の聖地とかって今年はいつもより人が多いよ〜」

「がんばれー」

「気持ちこもってなさすぎw」

「ははは、あのさ……俺にも頑張れって、言ってくれる?」


 ええー!なにその弱気発言珍しっ。

 尊いんですけど。


 私はさりげなく彼から目を逸らして、


「なにそれ、きも。いいよ〜がんばれ〜」

「……ありがとな。いや、また明日から仕事だって思うとな……」

「大人も大変なんだねぇ」


 彼にしては珍しく弱気な発言だったからびっくりした。

 そういえば、明日からお盆休みも終わる。


「大好物の弁当でも食べて明日から頑張るさ」


 そう言って彼は今日もお弁当を買っていった。

 それで元気が出ればいいけど。


 ……だけれど、その次の日には買いに来てはくれなかった。おかしいな。


 きっと仕事が忙しかったのかもしれない。

 そう思うことにした。







 深夜。

 生暖かい風がのっぺりと私に纏わり付く蒸し暑さの中、私は走った。

 真っ暗だけど、向こうの駅は僅かに光が灯っている。

 足元が見えないくらい暗闇が覆っていて飲み込まれそうだった。

 だから、とにかく駅の方だけを見つめて走った。


 どうしても心がざわざわした。


 彼はどうしたのだろう。

 毎日来てくれるのに。

 いつも買いに来てくれるのに。

 今日だけ、なんで?


 駅に着くと彼は、いた。


 ホームに立ち尽くしていた。


 電光掲示板に蔓延る羽虫が、音を立てていて煩かった。


「どうした、の」


 声が震えているのがわかった。


「嫌だな……ああ、仕事には行きたくない……。仕事に追われてただ帰って寝るだけの生活。上司に理不尽に怒られストレスをかかえる毎日……。休みなんてほとんどないんだぜ……。仕事は……嫌だ……」


 彼の様子が可笑しい。

 いつもと違う。

 ケタケタと気味が悪い。


 そう思った時、終電の電車のアナウンスが流れてきて遠くから列車の音が聞こえてきた。


 時計の二本の針が12を指した。


 彼は、


 右足を踏み出して、ホームの淵に足をかけた。


 その瞬間、ヒュッと音がしてそれからドォッて赤い何かが飛び散った。


「え…………」





 何が起きたのかのわからなかった。


 私はしばらく、そこに立ち尽くしていた。


 ……………。


 …………。


 ………。


 ……。


 、。


 何がそうさせたのか。

 誰がそうさせたのか。

 私にはわかるはずもなく。


 ただただ、襲われる虚無感と喪失感に身を預けていた。


 ーーなんて、報われない。


 その言葉が脳裏をよぎって、気づいた時にはホームに降りていた。


 そして気づいたら、何かを握りしめていた。

 ぐにょぐにょしていたけれど、気持ち悪いとは思わなかった。

 それを愛おしいとさえ思えた。


 ーーああ、きっと。






 大好きな人を、大好きなものにつめたら、もっと大好きになるわね。






 きっと、この人も大好きなものに詰められて嬉しいと思うわ。


 ーーだから、私は、それをお弁当箱につめた。


 お弁当だから売らなきゃいけないの。


 それを売った。


 誰かが食べた。


 また、つめなきゃ。


 大好きなものだから。








「ねぇねぇ知ってるー?お盆明け限定の〇〇駅の〇〇駅弁の話ー?」


「はぁ、なにそれ」


「お弁当を0時ちょうどに買いに行くと死神に会うんだって。その死神は電車に飛び込んだ人の死体をお弁当箱に詰めて、売ってるって話。食べると、ヤバイらしいよ」


「………なにが、ヤバイの?」


「その人も電車に飛び込むらしい」


「えー、こわ……」


「今度は、いつ発売になるだろうね」


 そう言うと、少女はニコッと笑った。






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― 新着の感想 ―
[良い点] どこか中毒性のある作風ですね。死神の駅弁、怖いおかず、だけど不思議と食べてみたい! と思います。 乾いた毎日から、ほのぼのした日常にスッと戻っていけたような、ヒヤリとするようでホッとする…
2020/10/03 21:14 退会済み
管理
[良い点] この売り子さん、素晴らしいヤンデレっぷりですね。 前半が快活だった分、ヤンデレスイッチが入ってからの変貌が怖いです。 [一言] 初めまして、大浜英彰と申します。 「夏のホラー2020」の参…
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