なんでスマホがあるんですかね
なぜかアーサーさんに抱っこされて共有地まで戻ると、丁度向こうからヒノカさんもやってきて、なぜか頭をポンポンと撫でられた。
『おや、皆さんおそろいですね。ではこれから夕食もかねてキャンプファイヤーをしますので男性陣で木を組んでいただけますか?我々では身長が足りないですから。』
そりゃぁ、こだぬきの身長ではキャンプファイヤーの外枠組むには無理があるだろう。しかし、こだぬきよ。あなたたち神使というくらいなんだからなんかすごい力使えるとかじゃないんかい。
と、思わず脳内で突っ込んだ私は悪くないと思う。
『ではその間ユリさんは使えそうな枝を集めてきてください。すでに木から落ちてちょうどいいものがあると思いますので一抱えあればたりると思います。』
え、それ本当に大丈夫なの?パッと見た感じ広葉樹と針葉樹があるので私でもわかる。だがたぬきよ。木なら何でも薪になると思っているなら大間違いですよ。きちんと乾燥しなければ着火しないのはもちろん、木の種類によっては有毒な煙を発生させるものだってあるし。
つまり有毒な煙を発生させるような種類はないということだろうか……。
ここは素直にうなずいておくか。
「わかりました。」
あまり遠くに行かないように気を付けながら枝をして歩く。なんとも都合のいいことに抱えやすい腕くらいの長さの枝があちこちに落ちている。
なんというご都合主義だ!神様チートですか?全部落ちてるの同じ枝ぶりですよ。ありがとう!
変に曲がってたりしないので抱えやすいし運びやすい。ありがとう神様。
いったい何の木なんだろうと頭上を見上げれば桃が茂っている。
たしか針葉樹はよく燃えるけど火持ちがしなくて、広葉樹だと火持ちがいいから薪をたくさん使わずにすむって聞いた気がする。ならこの枝はちょうどいいのかもしれない。
ついでにこの桃は取れないだろうか。登るには危ないだろうし……。ちょっと揺らしてみるか。集めた枝を置いて幹をゆっさゆっさと揺らしてみる。するとポトポトと桃が三つ落ちてきた。せっかくだから10個くらいあれば足りるだろうか獣人さんたちはたくさん食べそうだし。
正直あまりお腹もすいていないので果物くらいがちょうどいいけど他の人がそうだとは限らないし、余ったら明日にでも食べればいい。
薪と一緒に桃を持って戻れば目を真ん丸にしたたぬきに見つめられる。
『おや、ユリさん。薪拾いの後に木の実も取ってきてもらおうかと思っていたんですが、さすがですね。準備ができるまで座っていてください。こちらももう少しですので。』
少し離れたところにある切り株に腰かけてみんなの様子を眺めることにする。
うむ。働く男はかっこいい。木を運ぶ筋肉がかっこいい。男二人じゃれあうようにしている姿は男子高校生のようでほほえましい。
出会ったその日にすぐ馴染めるなんてすごいなぁ。隠れ人見知りの私としては羨ましい限りである。でももともと二人は現地人というか、この世界の人なんだから共通の話題とかもあるんだろうと推察する。
異界人ですが私も仲良くしてください。
楽しそうな二人の獣人をぼんやり見つめていると、急に二人がこちらを見るので思わず背筋を伸ばしてしまう。
えっと?何かございましたか?立ち上がって近づくべきでしょうか。や、私の後ろ海の方を見てるだけかもしれないのに過剰反応してはいけない。
よく人の多いとこでのあるある。私に手を振っている?って振り返したらうしろのひとだった~!恥ずかしい!!て、やつ。こんな人口5人の島でそんな現象に悩まされるとはっ!
たった五人しかいないのに!
どうしたもんかと思っているとアーサーさんが寄ってきてやっぱり抱き上げられる。
あのですね……。共有地のレンガから3メートルも離れていないのに何で抱っこされているんでしょうか。不思議ですねぇ。
「あの、アーサーさん、これくらいの距離なら歩きますから。大丈夫ですから。」
「ん?ああ……どうもユリ殿を見てると甘やかしたくなってな。下の兄弟がいたからつい癖なんだ。許してくれ。」
妹?や、兄弟といえば弟だろう。え、私そんなに男っぽい?腰まで髪の毛伸ばしているのに?や、獣人さんは男性でも髪の毛伸ばしているから関係ないのか……?
ん~私のなけなしの乙女心が複雑を訴えている!!
「ユリさん、準備ができました。今火をつけますので。」
あたりはすっかり夕闇に包まれている。近くにいるはずのヒノカさんの顔も見ずらい。これがいわゆる黄昏時ってやつか!などと現代人にはあまり実感することの無い体験によくわからない感動をおぼえる。
「さ、ユリさんこれ持って。」
抱き上げたまま渡されたのは松明である。
「え?これ、どうしたら……。」
キャンプファイヤー初心者はどうしていいかわからない。するとアーサーさんが木組みの傍に近づいてくれて「ここにそのまま入れて。」と教えてくれた。
「やっぱ最初のイベントだから主にしてもらわないとな!」
にっかり笑うヒノカさんと穏やかな笑みを浮かべるアーサーさんを見比べているとこたぬきたちがお盆を持っている。その上には5つのジョッキとピッチャー。中には薄黄色の液体がなみなみと入っている。
『準備が整いましたね。これはさきほどユリさんに取ってきてもらった桃でジュースを作ってみました。これで乾杯をしましょう。』
『明日からは自給自足生活なので頑張ってください。』
あ、しっかり今日だけ例外的なくぎを刺されましたよ。たぬきめ。
それからたぬきさんの用意してくれた魚を焼いて今夜のご飯になりました。キャンプファイヤーの遠火で焼いたシンプルなものでしたがなかなかにおいしかったです。
みんなで沢山話をして、この世界の事やこの無人島に関することを色々教えてもらって星空がきれいだねぇって離したところでお開きとなり、それぞれのテントに帰ることになりました。私も例外ではないです。
この島は害獣がいないようなので夜中に歩き回っても毒虫にさえ気を付ければ大丈夫らしいです。といっても危ないのは蜂とごくまれにみるタランチュラだそうですがそれはめったにお目にかからないと言事なので安心して歩けます。
テントに入ってちゃんと入り口締めてから簡易ベッドに横になります。
意外と疲れていたのかもしれません。お休み三秒でした。
『ユリさ~ん。ユリさん大丈夫ですか~?』
テントの外から声を掛けられてゆるゆると意識が浮上してくる。
「は~い。」
寝ぼけ眼で答えつつ体を起こし外に出ると、こだぬきが立っていた。
(え~と……。こいつはどっちのたぬきだろうか……。)
『お休みのところすいません。転生したてでずいぶんお疲れだったのですね。昨日は活動が見られない様でしたので念のため生存確認に来ました。』
「昨日……?」
待て待て。生存確認といいましたよこのたぬき。まさか死んでるとでも思ったんですかね?いやいや、そもそも転生したてで死ぬとかいやすぎる。私はこの世界でまだ何もなしていないのですが。
『今日は移住三日目です。といってもその三日目ももう終わろうとしていますが……。』
確かにもう夕日がさしている。つまりは二日も無駄にしたことになるではないか。それにしてもよく起きなかったものである。
『それから、これをお持ちしました。』
出されたのは手のひらサイズの板……否。
「スマホ!?」
『こちらはユリさんの元居た世界を参考に魔法の道具の出し入れや知識の詰まった板です。名称はスマーホといいます。』
スマホじゃん。と突っ込みたいのをすんでのところで堪える。
『そこには生物図鑑とDIYレシピに通信機能などあります。現在レシピの中は道具のつくり方が入っていますが、ほかのレシピに関しては開発したり……したり、いろいろな方法で入手してください。』
ちょっと待て。なぜ今一瞬考えた。その色々を説明するのがお前の仕事ではないのか?
『DIYは共有場に専用の作業代を用意してますのでそちらを活用してください。では、明日からのご活躍を期待しています。』
そっと手にスマホが乗せられる。
しれっと嫌味か?いや……相手はたぬき。そんなはずはないだろう。と信じつつ、近くに生っていた桃をかじっりつつスマホを眺める。
「ん~。ダサい斧、ダサいスコップ、ダサいジョーロ?何このダサいシリーズ。」
一つ一つの項目を開けば費用な材料の種類と数が表示される。
「ってたった三つしかないって不親切じゃない?」
なんとなくつぶやいたものの、桃をかじりお終わったので今日は眠ることにする。
明日から頑張る。