表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

無人島だけど役場も店もあるようです

 言われるがままについては行ってみるものの、この島……いや、この世界の常識を知らない私にとってこのこだぬきたちが何者なのかすらわからない。


 だって!普通最初に会うのは神様か現地人(お助けポジション)と相場が決まっているではないか!なぜたぬき!?すでに二人の現地人(とはいっても移住者)と出会ってるわけだから彼らがお助けポジションなのは間違いないだろうけど、このたぬきは何なのだ。少なくとも神様的神々しさはない。


 むしろ日本ではちょっとした害獣ですらあるのに。


 解せぬ。


 さっぱり状況が読めない。


 ひとまず移動ってことだったからその後説明でもあるんだろうか……。


 桟橋からまっすぐ林の中を歩く。さいわいにしてくさき生い茂る未開の地、ではなさそうなので足元がロングブーツのおかげで歩くのに苦労はないが、いかんせん体格……足の長さが違うので前を行く二人に置いていかれないように早足になる。


 気候的には涼しいので辛くはないがそれでも息が上がるのは仕方ないと思う。だって人間だもん。


 目的地はまだですか。


 流石にちょっと休憩させてほしい。と思いつつ少しでも歩きやすい場所を求めて視線が下に集中していたため反応が遅れてしまった。


 伸ばされた大きな手に両脇をヒョイと抱えあげられる。


 何事かと身動きとれずにいると、手の主はアーサーさんだったらしい。幼子を抱きかかえるように左腕に座らされ、私は落ちないように救いを求めて片口を掴んだ。


 「あ、あの……。」


 抱えられた不安と重たくないかの心配で何から話していいかわからず言葉が出てこない。


 「すまない、ユリ殿。我ら獣人と違って貴方はか弱い人だというのに小走りにさせてしまった事に気づかずにすまなかった。辛くないか?」


 へにょんと丸い耳が下がった。かわいい。


 「だ、大丈夫です。えっと……ご迷惑かけてすいません。でも、重たいと思うので下ろしてください。」


 歩調を緩めていただければそれで十分なのですよ。と思いつつ呟いたがアーサーさんは私が遠慮してると思ったようだ。


 「気にするな。君は羽のように軽い。それに私もヒノカ殿も種族の特徴として獣人でもかなり脚が強いんだ。だからユリ殿が気に病むことはない。」


 はっきりとバリトンの声でにこやかに言われてしまえばこれ以上言うのも失礼かもしれない。


 それでもどうするべきかわからず、そっとヒノカさんに視線を向ければ流行り笑顔で頷かれたあとポンポンと頭を撫でられた。


 「島での生活は始まったばかりだ。甘えられるとこは甘えとけ。」


 ヒノカさん……アニキと呼んでいいですか?くっイケメンめ。


 するりと撫でた手がこめかみから落ち、手の甲で頬を撫でられる。その手つきは優しいのにくすぐったい。思わず肩をすくめる。


 「ふふ。ユリさんはかわいいね。」


 思わずといったように呟かれた言葉は小さいが彼の蠱惑な唇が弓のようにしなりながら笑っていた。

 

 ヒノカのアニキ……心臓に悪いですから手加減してくださいませんかね。


 「ありがとう…ございます。」


 たったそれだけの言葉をひねり出すので精一杯だった。


 しばらく歩くと開けた場所が見えた。そこ一帯だけ地面には素焼きの赤レンガが敷かれている。

  

 どこから出てきたんですかね?このレンガ……。無人島ですよね?物資はどこだ物資。


 そのレンガの敷地にある大きめの緑のテントとランプ。少し離れたところには掲示板が立っている。


 『皆さんここは島に住む皆さんの共用部分です。ここは私たちポンタ、ポンキチのテントがあります。中ではこの島で必要な手続きや物資の購入とクエストの受注ができます。』


 ん?購入っていいましたか?お金なんて持ってないけど……。手続きという事は役所的なことだろうか、物資の購入となるとそれはもう店だろう。クエストの受注となるとギルドだろうか。ギルドというには規模も内容も小さいが……。


 こんな無人島で物資なんてどうやって入手してるんだろうか。次から次へと疑問が出てきてツッコミが追いつかない。


 たぬきさんあなた何者ですか……?


 そういえば最初に降り立った桟橋は考えてみれば船か飛空艇の離発着所と言えなくもなかった気がする。ぼんやりとだが小さな建物もあった気がするからあそこから物資補給するんだろうか……。


 そんな私の疑問はただ脳内で巡るだけで口に出す暇もなく、こだぬきたちは話を続ける。


 『ひとまず今日は日暮れ前に皆さんの生活拠点の場を決めましょう。今からテントと簡単な物資を配ります。ご自身の気に入った場所にテントを立ててください。テントが今後の生活の基盤となります。設置が完了しましたらまたこちらにお戻りください。』


 言葉と共に渡されたのは黄色い円筒の布と段ボール箱が二つ。段ボール箱!?ここは木箱を採用するところでは!?せっかくの異世界ファンタジー感がざっくりそがれています。


 「白塗りの段ボールとか印刷技術と製紙技術どうなってんだろうこのお国は……。」


 ぽつりとつぶやいて周囲を見渡せばアーサーさんとヒノカさんはそれぞれ歩き出しているし、たぬきたちは次の作業でもあるのかいそいそテントを出入りしている。


 聞きたいことは色々あるけど忙しそうだから今は置いておこう。


 さて、テントを張る場所だったか。せっかくだから水場に近い場所がいいだろうな。海と反対に進んだ方がいいだろう。と目星をつけてたぬきたちのテントの裏手を進んでいくとほどなくして川に出た。


 それも低い滝が見えてそこから10メートルほど流れて川となり二股に分かれたポイントだった。これなら水で困ることはないだろうし、なにより景観がいい。水辺に生えた野の花もいい塩梅できれいだから癒される。これは滝からマイナスイオンが発生しているかもしれない。


 川から程よく距離を取って黄色い円筒の布を広げるとあっさりと組み立てられた。当然ながらテントなので台所もキッチンもなく三メートル四方の寝るには十分程度の空間ができただけだ。幸いここの気候は温かいのでしばらくは水浴び程度でも大丈夫そうだなぁとぼんやり考える。


 トイレどうするんだ……。まさかのっぱらでやらかせと?


 あ、あとでたぬきに確認せねば!重要事項だ!


 中に入って段ボールを開けると一つは組み立て式の簡易ベットと毛布で、もう一つはランタンと携帯ラジオ……ってなんでラジオ?この世界は魔法じゃなくて化学の世界なの?


 疑問に思ってラジオをぐるぐる360度回転させて電池を探す。さすがにテントでは電源確保は無理なので電池かサーラ―パネルだと予測したがどちらもない。それどころか電池を入れるであろう場所からは石が出てきた。


 「これが噂の魔石ってやつかなぁ?」


 石を外した本体の窪みには何かの模様が描かれている。魔法陣!中二病心くすぐるってもんだ。


 「やっぱ魔法世界?でもこのテントとか簡易ベッドも現代感がすごいんだよなぁ……。」


 アンバランスすぎて首を捻る。


 「もしかして私の前にも異世界からの人がいたってこと?」


 圧倒的に情報が足りない。


 開けた段ボールの蓋部分を内側に織り込んで補強しぽっかり空いた方を手前に向けて段ボールを二個重ねて簡易棚としベッドの枕元に備え付けた。一番上にランタンを置いて二段目にラジオを置く。


 ひとまずはこんなものか。と、いうかこれ以上どうにもできんだろう。と自答してテントを出て元来た道を戻る。


 どうやら戻ってきたのは私が最初らしい。どうしたものかと思っていると、私に気が付いたたぬきがとことことこちらにやってくる。


 『ユリさん、もうテントの接地は終わったのですか?』


 「はい。他に何かすることがありますか?」


 『そうですね……。ではほかの方々の様子を見てきてもらえますか?僕たちは夕食の準備をしてますから。』


 「わかりました。あ~ところでトイレとかお風呂はどうしたらいいですか?」


 『トイレはこちらに簡易トイレを設置してあります。お風呂に関してはまだインフラが整いませんのでお待ちいただくか、川か池で水浴びをしていただくしかないですね。』


 「わかりました。」


 トイレがあるだけ上々と思おう。


 とりあえずバラバラに移動したアーサーさんとヒノカさんを探そう。たしかあっちにヒノカさんが向かったはず……。


 踵を返してしばらく歩くと木々の開けたところでヒノカさんが頭をひねっていた。


 「ヒノカさん、いい場所は見つかりましたか?」


 長い金髪を木漏れ日にきらめかせたその人がこちらを振り向く。笑顔がまぶしいです。イケメンおそるべし。


 「ああ、ユリさんか。このあたりでどうかと思ったんだけどどう思う?」


 周囲を見渡してふと思った。水辺……もとい海岸が近くないだろうか。海が好きなのかな?


 「そうですね……ヒノカさんは海が好きなんですか?ここだとちょっと海岸が近いかなって思います。ここだと潮風に当たりすぎるし、雨の日や嵐が来たら危ないのでもう少し内陸で川に近い方がいいかと思いますが、どうでしょう?」


 「なるほど!そこまで考えていなかった。ユリさんは賢いな!」


 どうやら気分を悪くしたわけではないようだ。一緒にもう少し内陸を目指す。


 「そういえば、ヒノカさんはどうしてこの島に?私はほぼ偶然と強制みたいなものでしたが……。」


 「そうなのか?俺は拠点にしてた町のギルドに神使からの依頼が出てたからすぐに飛びついたんだ。無人島なんて楽しそうだしな。それに俺には無人島くらい人目のない方がちょうどいいんだ。」


 「ちょうどいい?」


 「ああ!不老不死だからな!そろそろあの町では不自然すぎて目立つところだったんだ。」


 「へぇ……そうなんですね……。」


 いやいや、何笑顔で凄い事情カミングアウトしてるんですか。あなた不死鳥ですか、鳥なだけに……いや、違うし、最初でがっつりダチョウ族って言ってたじゃないですか。まさかこの世界にもあるんですか中二病。あれは不治の病ですよ。大丈夫ですかね……。


 ちょっとどうしたもんかと思いつつ、共有地より少し離れたがほどなくしてちょうどいいところをみつけた。ここなら大丈夫だろうと二人で納得してテントの設営を見守る。


 「ところで神使ってなんですか?」


 「神使はあのたぬき様たちの事だよ。たぬき様はこの世界の神様の使いでこの世界で一番尊いお方なんだ。だからその方からの依頼を受けれるなんて光栄なことなんだよ。」


 たぬき……そんなすごいやつだったのか……。そういえばたぬきって日本にしか生息してないから海外からは幻獣扱いらしいからアリといえばありなのか……。狐のほうがそれっぽいと思った私は悪くないと思う。


 「そうなんだ。それは知らなかった。ここはもう大丈夫そうだから私はアーサーさんの方を見に行ってきますね。」


 「ああ。助かったよ。また後でな。」


 「はい。ではまた後で。」


 テントに入っていくヒノカさんを横目で確認して今度はアーサーさんが向かった方へと足を向ける。途中で共有地を横目で通り過ぎる。


 神々しさのかけらもない神使はせっせと動いているが正直何してるのかさっぱりわからない。


 「さすがたぬき……。」


 油断ならないってやつだろうか。


 とりあえず今は様子を見るしかない。


 共有地を通り越してアーサーさんをみつけるとすでにテントを張り終えた後だった。


 「どうしたんだユリ殿?」


 「あ、えっと。様子を見に……大丈夫かなぁって思ったんですが問題なさそうですね。」


 「なんだ、心配してきてくれたのか。ユリ殿は優しいな。」


 溶けるような甘い笑みを向けられてドキリとする。


 「いえ、そんなことは……。」


 「人族のユリ殿が歩き回るには不便だというのに申し訳ない。ここは終わったから共に戻ろうか。」


 「そうですね。」と、返事をしようとしたところでひょいと抱き上げられる。なぜに……。


 「あの、アーサーさん?歩けますよ?」


 「なに、先ほども言ったがこの島はまだ整備されていないから歩きにくい。ユリ殿に何かあったら一大事だからな。甘えられるときは甘えてくれ。」


 や、それはちょっと違う気がする。しかしがっちりと抱えられて降りられそうもない。無駄な抵抗は疲れるだけなので諦めて腕に納まっていようとアーサーさんを見つめるるとニコニコ笑顔で見つめ返された。


 え~と。何か話題話題……。


 「アーサーさんもギルドの依頼できたんですか?」


 「ああ。神使殿が新諸島国の開発に伴って異界より主を召喚するので、その主の手伝いを募集されていたから名乗りを上げさせてもらった。もしかしたら運命の番に会えるのではないかとの期待もあったんだが……。」


 「番……?」


 でた!獣人モノの定番キーワード!これは萌えキュンな予感ですね!きっとこれから増える住人との出会いがってやつですかね!?ヒノカさんともありですよね。大丈夫私BLに偏見はありません。がっつり見守りますよ。


 ほほを染めて蕩けるような笑みを向けられて一瞬息が止まる。その無駄に色気をまき散らすのやめてくれませんかね。ライオン族というだけでもうすでにポイント高くてドギマギしてるのですよ。


 「諸島ってことは島はここ以外にもあるんですか?」


 「そうだな……。具体的な数字はわからないがそんなに広くない島がかなりあるときいている。募集人数も総数は300人超えていたようだし。」


 ちょっとまて。たぬき。いったい何人召喚する気なんだ。元居た世界の生活も感がて下さいませんかね。あ、私は死んだことになってるんだっけ?何死かはわからないけど。


 突然行方不明じゃないなら家族に迷惑かけないだろうからいいのか?ま、いいか。


 ぼんやりと両親を思い浮かべる。だれか一人でも泣いてくれたならきっと上々な人生だったんだと思う。そうでも思わないとやってられない。



 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ