コウノトリ郵便 いちまいめ
拝啓 最も不幸な人へ
このうだるような暑い7月の空は向こうでも同じなのでしょうか。私はもう大丈夫です。きっとこのお手紙に返事が来ることは永遠にないのでしょうが、あなたに届くことを願ってこのお手紙を書いています。
あなたと出会ったのは寒くなり始めた時期だったように感じます。外は冬の匂いがしているのにそこは不思議と暖かくて幸せの音がしました。部屋の中で味わった、グラタンやシチューの味はきっと永遠に忘れません。それほどまでに充実した冬であったと感じます。
けれど寒いからと言ってベタベタされるのは少し嫌でした、が今思うとそれも幸せであったと思います。
寒さが和らぐと桜も見に行きましたね。あなたと同じ名前の花は可愛くてあなたを表しているようだなと思ったことを覚えています。といっても、あなたは桜よりお弁当の事しか覚えていないでしょうが。あぁお弁当と言えば団子というものは初めて食べましたがとても美味しかったです。
最後になりましたが私の気持ちを伝えさせてください。私は幸せでした。たった10ヶ月の短い間でしたが楽しくて、誰よりも幸せであったと胸を張って言えるほどに幸せでした。
馬鹿なあなたのことですから、自分のことを責めるのでしょう。忘れろっていっても蝉の声を聞くと私のことを思い出すのでしょう。けれどあえて言います。
私のことを忘れてください。あなたのせいではありません。しばらくこっちの方で遊んだら、いつかまた行きますから。前に進んでください。何度でも言いましょう、私は幸せでした。
誰よりも幸せでした。
敬具
平成三十一年七月十五日
あなたの愛していた赤ちゃんより
追伸
あなたの大好きな人と言っていた人はやっぱり好きになれません。