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ラノベ作家志望の異世界修正  作者: 獅子堂零
コルテスダンジョン
9/16

提案と比較

「せんぱい、物陰に隠れてなにしてるんすか?」

「……ちょっと立ち眩みがしてだな」

「そうなんすね、気を付けてくださいっす」


俺のことを探しにきたミカは、そう言って俺の背中を優しく撫でて介抱してくれた。

四捨五入したら三十路の俺にとって、嬉しくもあり、複雑でもあった。


(ホント、どうしたもんかな……そもそもダンジョンに行かなければシェルの物語が始まらないし、かといって無理やり話を繋げようとしても詰むのがオチだし……)


自分が仕出かしたことだからこそ、俺が何とかしようとしなければならないのだが、こんな時に限って湯水のように湧いて出ていたアイデアも構想もピタリと止まってしまい、頭が真っ白になっていた。

このままじゃ、なにも始まらない!


「……なぁ、ミカ」

「はい、何すかせんぱい?」

「お前ならどうする? これからどうしたら良いと思う?」


いつの間にか口が勝手に開き、ミカにそう聞いていた。

ミカは驚いた様子を見せながらも、難しい顔をしながらうんうん唸っていた。


「そうっすね……このままだと、冒険者にとって死活問題になってしまうっす。だからミカは、大規模な討伐隊を編成して大ムカデを討伐したら良いと思うっす。大丈夫っすよ! ミカとせんぱいも討伐隊に加われば向かうとこ敵無しっす! 我ながら良い考えっすよね!」


大規模な討伐隊か……

俺もそんな考えを持っていたが、違う点があるとするならば、俺とミカが討伐隊に加わるという部分だ。


(そうか、そうだよな! 俺が討伐隊として同行すれば、大ムカデとの戦うとき味方をサポートできたりするし、うまい具合に話を進められるかもしれない! これだ!)


ひとつの構想が思い付いた瞬間、さまざまな物語の展開が、まるで急速に成長する植物みたいに膨らんでいった。

俺が小説を書くときに時折出てくる、いわば賢者タイムのようなものだ。

これがあれば無限にストーリーが生まれ続けられそうなそんな感覚が今、俺に来ていた。


「良いアイデアだミカ。よし、早速行くか!」

「行くって、どこにっすか?」

「決まってるだろ、俵藤太が無し得たムカデ退治だ」


俺はミカと共にギルドへと向かった。


ギルドマスターとの面談の場で、俺はミカのアイデアをそのままギルドマスターへ提案し、一度検討すると言われてギルドのホールで待機していた。

もしものことを予想して『作者権限』で企画が通ることを確定させ、のんびり結果を待っていると一人の冒険者から声をかけられた。


「あ、あの! ブラドさん……ですよね?」

「あぁ、そうだが……シェルか、どうした?」


主人公のシェルがどことなく緊張した面持ちで俺と向かい合っていた。

シェルは何か言いたそうにモジモジしていたが、ようやく口を開いた。


「あの、ブラドさんって伝説の『ワルプルギス』のリーダーだったって本当ですか?」

「そうだが、それがどうした?」


後付け設定だからこそ感じてしまう微妙な違和感が拭いきれないが、それを隠しつつ平然と受け答える。


「ほ、僕に冒険者としての心構えを教えて下さい!」

「……心構え?」


こういう場面だと大抵は師弟関係になったり、何かしらの謝罪フラグになるのだが、まさかの斜め上の返事に驚いた。


(冒険者の心構えを教えて下さいって言われてもな……俺は気づいたら衛兵になってたし、冒険者やってないし……とりあえず、これだけは避けてほしい失敗を暗に伝えておくか)


「いいかシェル。冒険者の心構えとしては、一人ではないという事だ」

「……ん? どういうことですか?」


やっべぇ、良いこと言おうと意識しすぎてよくわからんこと口にしちまった!

な、なんとか誤魔化すしかない!


「今の言葉の意味を、よく考えるんだな」

「そ、そうですか……ありがとうございます! まだ仲間は集まっていませんけど、けど、いつかは貴方みたいな冒険者になって見せます!」


俺の言葉を受け止めたシェルは、まっすくな眼差しで俺を見つめる。

その姿はまるで……


(……昔の俺にそっくりだな)


社会の厳しさを知らない頃の俺は、なんでも出来てしまうと錯覚していて、突っ走っては録でもない目にあってしまっていた。

それを諭してくれる存在も居なかったので、失敗してはそれを糧として成長し、今に至った。

もしも、そんな存在がいたら、今の俺はどうなっていたのか……

少なくとも、シェルには俺のようになってほしくないし、バットエンドで終わってほしくない。

そう思うと、自然と口が開いた。


「なあ、シェル。大ムカデの討伐隊に参加しないか?」

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