レストランと決意
救助した冒険者達をギルドの診療所へ預けてから俺とミカとエリュナは、ギルドマスターに事の顛末を伝えた。
「まさか大ムカデの被害がこれほどの事になろうとは……」
「5階層の魔物だからと言って、我々は甘く見ていたのかもしれませんね」
報告を聞いて、ギルドマスター並びに副ギルドマスターがにわかに信じがたそうにそう呟いた。
まぁそうだな。
実物を見なければ本当だと確証が出来ないってのは人間誰しもそうだろう。
「報告は以上です」
「あぁ、ご苦労。近いうちにギルドから発令するので、くれぐれも口外しないように」
「了解しました。気を付けろよミカ」
「ミ、ミカっすか!? ミカはそんなヘマすると思うっすか!?」
「胸に手を当てて考えてみな。思い付く部分があるだろ?」
ミカは言われた通りに、手を体と不釣り合いな豊満な胸に押し当てると、徐々に顔をしかめていった。
どうやら俺の思う以上のやらかしをしたような感じだった。
「かの『ベリーキャッツ』のサブリーダーは、冒険者をやめても相変わらずだな」
そう言ってギルドマスターは楽しそうに笑う。
(……てかこいつ、目がねぇな……主要キャラなのにこの手抜きとか……)
……そういえば、一度も登場させていなかったような。
とはいえ副ギルドマスターも似たように目が無いので、この世界ではモブ扱いなのだろう。
異世界転移初日にして随分と濃厚な一日だな。
その後報告を終え、エリュナと別れた俺とミカはすっかり暗くなった街を歩いていた。
レトロチックな街灯が施されており、夜でも何だかロマンチックな雰囲気の街を歩いていると、腹が鳴った。
「なんやかんやで、まだメシ食ってなかったな……」
「ミカが作ってもいいっすけど、ちょっと料理する気分じゃ無いっすね。どこかで食べるっすか?」
「あぁ、そうだな」
外食をとることにした俺達は早速、たまたま目についたレストランで食事することにした。
担当のウェイトレスに席を案内され、何を頼もうかメニューを見ていると、どこかで聞き覚えのある声が聞こえた。
「え~、それでは、僕らの新しい冒険を祝して……乾杯!」
「「「かんぱ~い!」」」
声のする方を見てみると『銀の左腕』のメンバーが、乾杯をしていた。
あの様子だとダンジョンで起こった惨劇は知らないようだな。
……それもそうか、箝口令敷かれているようなもんだからな。
「どうしたっすか、せんぱい?」
「いや、何でもない。すまない、ワインとステーキを」
「えっ! もう注文っすか!? えーと、えーと……」
お冷やを持ってきたウェイトレスに早速注文し、待っている間に『銀の左腕』のメンバーの会話を聞いてみると、どうやら彼らは新しい階層に行けるようになったらしい。
今朝からのアタックでようやく17階層のエリアボスを倒し、ギルドから18階層の冒険の許可を得たようだ。
その帰り道にあの大ムカデと遭遇して、俺と出会ったのだ。
(俺の知らないところで物語は進んでいたんだな……)
かつて駄作と決めつけ書く手を止めてしまった俺は、なんの因果かこの世界にやって来て、使命も分からず物語の完結を目指して生きていくことにした。
果たしてそれが吉とでるか凶とでるか……
(そして……)
俺はミカをちらりと見る。
彼女は満面の笑みを浮かべながらパスタを啜っていた。
(もしも完結してしまったら……ミカは……この世界は……)
きっと終わる。
何事もそうだ。
「せんぱい? どうしたんすか? もうご飯来てるっすよ?」
「ん? ……あぁ、ちょっとぼーっとしてた」
……今は、考えないようにしよう。
いつかは向き合わなければいけない問題だとしても、それは今考えることではない気がする。
とにかく、完結を目指して進もう。
それが俺のできることなのだから……
◆◇◆◇◆◇
「……血吸ブラドが『コルテスダンジョン』へ介入、成功しました。それにともないチート能力『作者権限』の発現を確認しました。いかがしましょう『チーター』?」
「……今はただ、見守るのみ。引き続き観察を『百々目鬼』」
「承知しました。『チーター』」
「なぁ、『チーター』。ひとつだけ聞きたいことがあるんだが」
「なんだ、『ステータス』」
「何故、あの男を呼び出した? アイツは……」
「皆まで言わなくていい。確かに奴は許されぬことをした。だが、我々は奴の助力無くして進むことはできないのだ」
「………」
「そう怖い顔をするな。奴は必ず、『コルテスダンジョン』を完結させてくれる。本来の筋書きとは違うことになってもな」
「……わかったよ。ただ、我々の眼鏡に叶わなかったら、容赦なく消してもいいんだな?」
「『ステータス』、そのようなこと、ふざけて言うものじゃないわ」
「……言い過ぎた、済まない『チーター』」
「いや、気にするな。ただ、我々の目的はあくまでも血吸ブラドの監視だ。間違っても、ここにくるまでに手出しはしないよう心がけてくれ……すべては物語の為に」
「「すべては物語の為に」」