救援と冷や汗
シェルが仲間の募集を初めて何時間か過ぎたが、いまだにゴルタスもナーベも現れなかった。
後々の仲間候補であるエリュナも、物陰からシェルの様子を見ていて、時折支シェルの元に行こうとして止めてを繰り返している。
はっきり言って、もどかしい行動をとっていた。
(こりゃ、今日は無理そうだな。『作者権限』でなんとかできそうだが……まぁ様子見としようか)
俺はその場を後にし、兵舎へと戻ろうとした。
するとすぐに息を切らしたミカがやって来た。
「せ、せ、せ、せんぱ~い! たたた大変っす~! 大事故っす! 大惨事っす~!」
「……はぁ、今度はなんだ? また鍋をひっくり返したのか?」
ミカは見ての通りおっちょこちょいなところがあるので、そういった類いのミスは良くあると俺の設定上の記憶がそう呟いているが、見た感じだとそんな感じではないことは確かだった。
「違うっす! ダンジョンの第5階層でたくさんの冒険者が救援要請を出してるっす! 死人も出たって話っす!」
「……ダンジョンに向かうぞ、行けるな?」
「もちろんっす! でも、もう少しヘルプを要請した方が……」
「今は時間が惜しい、ダンジョンに向かうついでに腕の立つものに声をかけていく! おい、そこの『風切り』! 手を貸せ!」
「えっ? は、はい、ブラドさん!」
すぐさまエリュナに声をかけ、俺とミカ、エリュナの三人でダンジョンに向かう。
するとシェルが声をかけてきた。
「あ、あの! ダンジョンに行くんですよね? 僕も一緒に行ってもいいですか!」
「仲間の募集ならあとにしろ! それに、今回は冒険なんかじゃねえ、衛兵の仕事だ!」
俺はそれだけを言ってダンジョンにダッシュで向かった。
……てか今の、本来の作品のシナリオに無いイベントだよな?
……考えても仕方ねぇ、今は急ぐか!
ダンジョンまでの道のりを最短ルートで走り抜け、ダンジョンの中を駆け降りる。
『コルテスダンジョン』の設定上、最大到達階層は64層であり、階層が深ければ深いほど現れる魔物は強くなる。
そして1層ごとにエリアボスが設定されており、そいつを倒さないと下に行けないという事になっているのだ。
なので、本来は救援があるとすれば最低でも二桁台の階層が殆どだ。
だが、今回救援に向かうのは第5階層。
せいぜい素人冒険者向けの階層で、変なことをしなければ……いや、変なことをしていても全滅になる可能性は極めて低いほどの設定にした筈だが……
(それに、第5階層で出る魔物はゴブリン、コボルト、ロックタートル、強いものでも大ムカデだ。全滅する要素となると、モンスターハウスか?)
よくわからんが、事態は俺の予想外の事になっていることは確かだった。
三人でダンジョンを走ること数十分、ようやく救援のあった第5階層に到着した。
「ここが救援のあったところっす。生還した冒険者によると、水辺のある開けた場所に結界を張って負傷者の手当てをしているらしいっす」
「水辺? ……あぁ、俺が目を覚ましたところか」
「どこで寝てるんですかブラドさん。意外に寝相が悪いんですね」
「ははは」
俺達は周囲を警戒しながらミカの情報に当てはまる場所を探しつつ先に進む。
救援を出した冒険者達は簡単に見つかり、結界を張っていた魔法使い風の男がこちらに手を招いていた。
「救援要請を聞きつけ、駆けつけました。もう大丈夫ですよ」
「大丈夫なんかじゃねえ! 一刻も早くここから出してくれよ!」
そう懇願してきた魔法使い風の男の顔は、脂汗を流しながら恐怖の色で染まっていた。
結界の様子を見ると、そこには傷だらけで倒れている冒険者達がたくさんいた。
なかには完全に事切れていた者も何人かいた。
「お、落ち着くっす! とにかく要救助者を先に運ぶっす! 遺体は……スミマセン、ここに置いていくっす……」
「……いい判断だ」
俺は落ち込むミカを撫でてやった。
反対意見は出なかった。
すぐさま撤収作業に移り、歩ける冒険者は歩いてもらい、怪我をして動けない冒険者は俺達で背負って運ぶことにする。
俺が一人の冒険者を背負おうとした時、冒険者は怯えて涙を流しながら呟いていた。
「アイツさえ出なければ……アイツさえ居なければ!」
「……何があったか話せるか?」
冒険者は怯えながらこくこくと頷くと、俺の肩を掴んだ。
「アイツが、皆を殺した! あの大ムカデが!」
「大ムカデ? たかが大ムカデで全滅なんて……」
「違うんだ! やつは大ムカデであって大ムカデじゃない! アイツは……アイツは……!」
冒険者の掴む手が強くなった。
「破壊光線を放ちやがった! あんなもん聞いたことねぇよ! あんなもん、バケモノじゃねぇか!」
冒険者の言葉を聞き、俺は……
(……これって、俺のせい……だよな?)
内心冷や汗をかいていた。
「そ、そうなのかー」
「嘘じゃねえ! 本当なんだ! あのバケモノが破壊光線を放ったら、一瞬でパーティーが全滅しちまったんだ!」
あー、うん、完全に俺のせいだなこの惨状は。
いや、まぁ、なにも知らなかったとはいえ、結局は放置したままだったもんな。
そりゃ被害が出てもおかしくはなかったけど……まだ1日だぜ。
いくらなんでも早すぎねぇか?
「せんぱい? なにぼーっとしてるんすか? 早くしないと置いてっちゃいますよ」
「あ、あぁ、そうだな」
俺は冒険者を背中に背負ってその場を後にした。
まさか、こんなことになるとは思っても見なかった。
『作者権限』、末恐ろしい能力だと改めて実感して。