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ラノベ作家志望の異世界修正  作者: 獅子堂零
コルテスダンジョン
3/16

序章とシェル

ダンジョンから地上へと戻りがてら、俺は『作者権限』についての実験をし、そしてわかったことがいくつか判明した。


一つは、『作者権限』で書いた事が実現し、なおかつ不可能と思われる事すら可能にしてしまうことだ。

ミカを実験台にしてモンスターを出現させたり、罠を強制的に発動させたり、ミカ自身を強化してみたりと、様々な事が出来ることが判明した。


極めつけは時間を戻せることができたことだ。

冗談半分で初めてミカと会ったところまで『作者権限』で戻してみると、本当に時間が戻ってしまったのだ。

初めて会った反応と同じ感じで泣きじゃくるミカを慰めつつ、小さくため息をついたのは記憶に新しい。


二つ目は、結構シビアな部分があることだ。

『作者権限』で書いているとき偶々誤字脱字などをしてしまうと、効果が発揮されない事がわかった。

もし、大事な場面で誤字脱字などがあったら一大事になりかねない。

慎重になりながら『作者権限』で文字をうつことにしよう。


三つ目は、時間を巻き戻してリセットした場合、リセットする前に書いた『作者権限』がなかったことになることだ。

ミカと初めて会ったところまで戻った俺だったが、ゴブリンの襲撃イベントでミカを助ける際、体が先程の動きが出来なくなっていたのだ。

仕方なくゴブリンを蹴り飛ばしつつミカを早々に助けだし、ミカに倒させたが、膨れっ面で睨まれる羽目になった。


「……カッコいいせんぱいが見れるかと思ったっす……」


前回の態度とは真逆の反応を見せたことにより、俺は正直傷ついた。

半ばやけくそ気味で『作者権限』を乱用し、モンスターポップ&自身を強化してカッコいいところを見せると、ミカがキラキラと目を輝かせていた。


そんなこんなで無事にダンジョンを抜け出した俺たちは、ミカのやや後ろを歩く形で兵舎へと戻った。

その間に俺は街並みをさらっと見てみる。


(……当時の俺が勢いとノリで書いた作品にしては、結構しっかりしている街並みだな。だが……)


俺は街行く人々の顔を見る。

何て言うか、マンガのモブキャラみたいに目だけが無かったのだった。

一応ファンタジーなのだから、リアリティーのあるところはしっかりして欲しかったな。


(……まぁ、嘆いても仕方ないか。とりあえず、しばらくここで暮らすことになるのだから、俺にもすこしくらい設定を付けてもいいんじゃないか?)


俺がなっている衛兵は、設定上では冒険者上がりの腕のたつ人がなる職業で、二つ名を持っている者がほとんどだ。

ミカだって、そんな風に設定した覚えはないが、元々『ベリーキャッツ』のサブリーダーで『オルトロス』と呼ばれていたらしい。

ドジさえ踏まなかったら高ランクの冒険者として名高い後輩である。


とにかく、俺にも設定があればすこしくらい怪しまれずに行動出来るかもしれない。

早速『作者権限』で自身に設定を書き付けたしてみる。


『血吸ブラドは、かつて無名の最強パーティー『ワルプルギス』のリーダーで『迅速』と呼ばれていた。今はパーティーを抜け衛兵として活動している。』


(こんなもんかな?)


書き終わりエンターキーを押すと、頭の中に何かの記憶が入ってきた。


(なるほど、架空の設定を書き付けたら、それにともなった記憶も付け加えられるのか。ただ……情報量が多いな……)


あまりの情報量に一瞬だけ気分が悪くなったが、なんとか気を保ち変わらない足並みで兵舎を目指す。


「着きましたよせんぱい! ミカはこれから報告に行ってくるっす! せんぱいは先に部屋で待っててほしいっす!」


元気よく敬礼したミカはとっとこと兵舎に入っていった。

俺も後を追うように兵舎に入り、追加された記憶を便りに自分とミカの部屋に入る。

二段ベッドとテーブル、イスが二つ以外何もない殺風景な部屋だが、不思議と落ち着く雰囲気だった。

俺は下のベッドにどかっと座り、これからの方針を考えることにした。


(コルテスダンジョンの始まりは、確か主人公のシェルが衛兵の詰所、つまり兵舎にギルドの場所を聞くところから始まる。新しい記憶には、俺の考えるイメージのシェルが来た覚えがないとなると、今の時間帯はプロローグの前ということになる)


ベッドに倒れこみ、リラックスしながら情報を整理していく。


(もし俺のやることがこの作品の完成なら、俺は陰ながらシェルの手助けをすることになる。だが、完成したらどうなるんだ? 元の世界に戻るのか? ……俺としては、戻らなくてもいいと思っているが、俺の書いた作品の世界だからな……)


もっとましな世界観にすればよかったとため息をついていると、兵舎のドアがノックする音が聞こえた。


「……シェルが来たのか? ということは、物語が始まったってことか?」


どうやらこの世界は待ってはくれないようだ。

俺の書いた通りの筋書きなら、シェルはギルドの場所を聞くだろう。

俺はドキドキしながら兵舎のドアを開けた。


「ハイハイ、どちら様?」

「あ、あの! ギルドってどこにあるんですか! 冒険者になりに西の田舎村から来ましたから、道がわからなくて!」


説明口調乙。

じゃなくて、俺のイメージ通りの少年が、デカイ荷物を背負って俺を見上げていた。

こいつがシェルか……うん、悪くない。

自分の思い描いたキャラが動くのって何だか嬉しいし、ワクワクする。

アニメ化が決まった作者もこんな気持ちなんだろうな。


「ギルドか? ギルドなら中央広場にあるでっかい建物だ。でっかいタペストリーが張ってあるからすぐにわかると思うぞ」

「そうですか! ありがとうございます!」


そう言ってシェルは大きくお辞儀をして歩きだした。

俺はその背中をじっと見つめていると、おもむろにシェルが振り向いた。


「あっ、申し遅れました! 僕はシェル・ランバートって言います! これからなにかと会うと思いますので、よろしくお願いします!」

「あぁ、よろしく、俺はブラドだ……ん?」


シェル・ランバート?

俺の名付けた名前と違うな。

そんな俺の違和感を気にせずにシェルはギルドへと向かって行った。

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