豹変と使命
ベースキャンプの設営を終え、第二グループと第三グループの到着を待つ間、俺は半ば無理やりだがシェルとゴルタスとナーベの三人と飯を取らせるよう伝えた。
三人とも不思議そうにしていたが、文句を言わずに三人囲んでミカの作ったスープを飲んでいた。
(あれで多少は仲がよくなればいいが……会話のひとつもしねぇな)
サーベルの手入れをしながら三人の様子を見ていたが、まるで合コンの始まる前の微妙な静けさが漂っていた。
「せんぱい、ミカの特性スープ、お持ちしたっす!」
「おう、ありがとな」
スープを持ってきたミカは俺のとなりに座ると、ふーふーとスープを冷ましながら飲み始める。
「それにしてもせんぱい。どうしてあの三人を一緒のパーティーにするんすか?」
「まぁな、ちょっとばかし事情があってだな」
「事情っすか?」
「あぁ」
俺はスープを一口啜る。
うん、オレの嫁になって毎日作って欲しいくらいの旨さだ。
男の独身には旨すぎる代物だな。
「あいつらは……そうだな……」
シェルの固定パーティーになるんだ、なんて言えるはずもないので、適当な理由をつけてあしらうことにする。
「……そう、シェルを抜かすと、ゴルタスとナーベはソロで活躍している奴らだ」
「……はっ、そういえばそうっすね! 意外な共通点っす!」
「だから、今回の討伐でパーティーの良さと動き方を学んでもらおうと思っているんだ。悪くない考えだろ?」
「流石せんぱいっす! 心の底から尊敬するっす!」
ミカは拳をぐっと握りしめて目を輝かせていた。
ふぅ、どうやらうまく行ったようだな。
「あっ、せんぱい、口元汚れてるっす。ミカが拭いてあげるっす!」
「そうか? なら任せよう」
ミカはハンカチを取り出し俺の口を拭う。
誰かに口回りを拭いてもらうのって、何だか恥ずかしいな、なんて思っていると、ミカが口を開いた。
「……血吸ブラド。今、嘘つきましたよね?」
その言葉で、俺は何とも言えない恐怖を覚えた。
ミカの目に光が灯っていなかった。
「ミ、ミカ?」
「もう一度聞きます。嘘、つきましたよね?」
その言葉に圧倒され、俺は恐れおののいてしまう。
だがよく聞くと、ミカの声でないことがわかった。
「……お前は誰だ?」
「……流石、血吸ブラド。我々の創造者ですね」
ミカではない誰かは俺の顔を掴む。
その手はひどく冷たかった。
「創造者? つまりお前は、俺の作品の……」
「……そうですね。そこまで分かっているのなら、大体は察するでしょう。我々の目的、そして願いを……」
「……先程の質問だが、その通りだ。俺は嘘をついた。主人公の仲間になるから、いち早くパーティーとして行動してほしかったからだ」
光の灯っていないミカの目をしっかりと見据え、はっきりとそう答えた。
ミカではない誰かは俺の目をじっと見つめ、小さく息を吐きながら手を離した。
「真実と捉えました。先程の無礼な立ち振舞い、申し訳ありません、創造者よ」
「産みの親に対する言葉遣いじゃない気がするのだが……まぁいい、お前は誰だ? 俺はどうしてここにいるんだ?」
「……今はすべてを語るには時間はありません。ですが、また会うことがあるでしょう。その時に、すこしづつ伝えましょう」
ミカではない誰かはそう言って俺にもたれかかってきた。
「お、おい」
「私は『虚言』、嘘に特化したチート持ちです」
「『虚言』? ……てことはお前は!」
「また、次の世界で会いましょう、我々の創造者」
『虚言』はそう言って静かに目を閉じた。
(何で『虚言』が……まさか!)
「……コルテスダンジョンだけじゃ、終わらないってか……」
『虚言』。
それは、血吸ブラドの最新作『チーターズ』に登場するキャラクターだ。
嘘を使いこなし、あらゆる事象を覆すことができる能力なので、『虚言』の元の性格も性別も不明な設定のキャラクターだ。
そんな『虚言』が出てくるのは、先程も言ったように、最新作である第5番目の作品だ。
奴は『次の世界』と言った。
となると導き出される答えは……
「……5つの作品の修正かよ……」
ここに来て、ようやく俺がこの世界にやって来た理由がわかった。
かつて駄作と切り上げてしまった作品の完成のために、俺はここに来たのだ。
『コルテスダンジョン』が無事に完結しても、その次の世界に異世界転移してしまうのだろう。
そうしたとき、また、『作者権限』を用いて世界を完結させなければならないのか……
通りで『作者権限』何て言う能力が与えられたわけだ。
要は、自ら産み出した作品に直接入って、作品を完結させなければいけない、ってことか……
「……やれやれ、とんだ試練だな」
俺はミカを抱いたまま、上を見上げた。