トグロと出撃
『作者権限』を使ってダンジョンから急いで戻った俺は、ギルドマスターに第5階層の現状と大ムカデが第6階層に向かったことを伝えた。
案の定、顔を真っ青にしたギルドマスターはすぐさまギルド職員を全員呼び出し緊急会議を開いた。
俺もその会議に参加しダンジョンの結果報告を伝えると、ギルド職員達はギルドマスターと同じ反応を見せていた。
(無理もないか。当時の俺はフロア移動するなんて発想がなかったように、こいつらも同じような考えなんだろう)
実際俺の記憶にもそういった事例はなかった。
あったとしても、瀕死の魔物を地上に持ち帰って売り飛ばそうとしたことくらいかな。
もちろんそいつらは締めたがな。
緊急会議はそれほど長くかからずに解散した。
まぁ、議題としては大ムカデの対策と、奴をネームドモンスターに決定したことくらいだな。
ネームドモンスターの名前を決める際、どんな案が出るか楽しみに聞いていたのだが……
「ニョロムカデはどうだ!」
「いや、鎧ムカデの方がいい!」
「特徴を聞くに、破壊ムカデがいいのではないか?」
「う~む、どれも捨てがたい……」
どれも駄作だろ……一番最初のが一番ひどい気がするけどな。
どれだけ聞いても名前というか、種族名を言っているような気がしたので、俺はため息をつきながら案を出した。
「『トグロ』がいいんじゃないか?」
これも安直だが、いちいち大ムカデと言うよりかは言いやすいし、何より破壊光線を放つときのモーションからとっているので、分かりやすい。
我ながらいい案だな。
「……トグロ、か……皆はどう思う?」
「「「賛成」」」
早ぇえよ!
もうちょい議論しとけよ!
「やっぱりネームドモンスターの名付けはヴラドさんに任せた方が良いな!」
「さすが魔物の名付け親!」
(……もうなにも言うまい)
こうして、大ムカデの名前が決まったのだった。
……トグロか……
我ながら安直な名前だと改めて思うが、決まったものは仕方ない。
とりあえず『作者権限』でトグロに名前をつけてから兵舎へと戻った。
翌日、ギルドの前には何百もの冒険者達が集まっていた。
皆、勇猛果敢という言葉が似合いそうな雰囲気だったが、残念ながらモブ扱いなのでほとんどの冒険者の目がなかった。
そんな冒険者の中にはゴルタスとナーベ、『銀の左腕』のメンバーがいた。
(最強パーティーとして設定したはずなんだが、こう見るとモブ扱いにしか見えないな……ってかビキニアーマー率多すぎだろ)
あの頃の俺は、バカだったんだなきっと。
「せんぱい! 寝坊してスミマセンっす! 張り切りすぎて眠れなかったっす!」
「ガキかお前は!」
ミカは相変わらずだな……
そのミカの隣で、しっかりとした武装をしているシェルは、緊張でガチガチに固まっていた。
まぁ無理もないか。
今回相手にするのはルーキー喰らいのムカデだ。
駆け出しのシェルには、かなりの無茶にしか聞こえない。
だが、これも物語完成のためだ、心を鬼にして連れていく。
さらに『作者権限』で俺とミカ、シェル、エリュナ、ゴルタスとナーベをひとつのパーティーにして、本来のメンバーにする。
無理やりだが、この固定メンバーでダンジョンに潜るという目標は達成することになる。
果たしてこれが吉と出るか凶と出るかだな。
出発の時間はもうすぐだ。