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ラノベ作家志望の異世界修正  作者: 獅子堂零
コルテスダンジョン
10/16

偵察と予感

「大ムカデの討伐……ですか? 僕とブラドさんの二人でですか?」

「正しく言えば、この後討伐隊が発足されるのだが、これに参加してほしいんだ」

「僕が、討伐隊に……む、無理ですよ!」


驚いているのも無理はない。

何せ多くの冒険者を屠った大ムカデの討伐に、新人の冒険者が行くのだから。

経験もくそもない新入りが早々にやられてしまうのがオチってもんだ。

だけど、それでも俺はこいつを連れていくことにした。


(こうでもしないと、ストーリーが続かないからな。死にそうになったら『作者権限』で何とかするし)


そう、すべては物語の完成のため、多少無理やりでも話を進めるしかないのだ。

俺は顔を真っ青にしながら震えているシェルの頭に手をのせて撫でてやった。


「安心しろ、お前は死なせない。そうはさせない。だから、信じて来てくれないか?」

「……どうして、そこまでしてくれるんですか? 昨日今日会ったばかりの人に……」


頭を撫でられながら、シェルはそう呟いた。


「それは……」


お前が主人公だからだ、なんて言えるはずもなく、言葉が途切れてしまう。

何か繋げようとしたら、ギルドマスターと街長がやって来て討伐隊の案件を呑んだと伝えられた。


「すぐに討伐隊の編成を行う。ブラド、並びにミカにも参加してもらうからな」

「言い出しっぺが行くのは当然だからな。それと、こいつも連れていくことにした」


俺はシェルをギルドマスターの前に見せびらかす。

やはり、ギルドマスターは(目はないが)難しい顔をした。


「……お前のことだ。何かしらの考えがあっての事だと思うが……」

「安心しろ、俺がしっかり守ってやる。それと、何人か推薦したいやつらがいるのだが、そいつらも討伐隊に入れてくれないか?」

「……本人たちの意志があったらな。あまり期待はせんことだ」

「ありがとよ、ギルドマスター」


ギルドマスターはやれやれといった様子を見せながら、ギルドから出ていった。

しばらくすると、ギルドマスターの野太い声が聞こえてきた。


「ブラドさん、まだ僕、行くなんて言ってません」

「そうか? それにしては、何だか嬉しそうな様子じゃないか?」

「そんなことは……いえ、そうかもしれません。僕の思い描いた冒険とは少し違いますが、ダンジョンに潜れるのですから嬉しくて嬉しくて……」

「……好奇心があって何よりだ」


俺はもう一度シェルの頭を撫でた。

すると花を積みに行っていたミカが戻ってきた。


「せんぱい、ただいま戻りました! 何だか微笑ましい光景っすね!」

「羨ましいか? ならお前も撫でてやろう」

「そそそんな事言ってないっす~!」


やっぱり、ミカをいじるのは楽しいな。


討伐隊の出発が明日の正午過ぎに決まり、ギルドはそれまでの間ギリギリまで勇士を募る事になった。

果たして『作者権限』無しでどこまで集まるかは疑問だが、俺にはやることがあった。


偵察ってやつだ。

なんでも万能にこなすことで有名なブラド(設定)にギルドは マスターが直々に頼み込み、俺一人だけダンジョンの第5階層に向かう事になった。

ミカは着いていきたそうにしていたが、ドジが発生することを恐れ、シェルの装備品を整えるよう命令した。


ダンジョンに潜りすぐさま『作者権限』で敵とエンカウントしないようにして、記憶を便りに第5階層まで下りていった。

第5階層に到着すると、男性特有の酸っぱい汗の臭いが辺りを漂っていた。


(なんだこの臭い……臭酸っぱいな……)


あまりの臭いに鼻が曲がりそうだったので、バックに入れていた布を取り出し、鼻と口を覆った。


サーベルを抜いて慎重に大ムカデを探していると、第5階層の現状が明らかになった。

あちこちには破壊光線でできたような破壊後があり、岩でできた壁と床には焦げた後と血痕が残っていた。

しかし血痕はあるのに死体が無かった。


(きっと食ったんだろうな。あの巨体と破壊光線のエネルギーを維持するには膨大な食料が必要だからな)


俺なりの推理をしながら先に進んだ。

小一時間ほど第5階層をくまなく探したが、大ムカデは見つからなかった。

……いや、魔物一匹たりとも見つけられなかった。

第5階層まで来るときには何度か魔物とすれ違ったが、ここに来てから一度も見かけていなかった。

この階層で探していないのはボス部屋だけだが、とてつもなく嫌な予感がしていた。


第5階層のボスは『ヘカトンケイル』という巨人の魔物だ。

神話でもお馴染みの多頭多腕の巨人なのだが、『コルテスダンジョン』に登場するヘカトンケイルは三つの頭に六つの腕を持っていて、阿修羅というよりかは人の形をしたケルベロスといった方がしっくり来るデザインである。


ダンジョンの登竜門とあって、少しばかり強めに設定されており、簡単には倒せないはずなのだが、どうしてか嫌な胸騒ぎがする。


ボス部屋の前にたどり着いた俺は、ぽっかり空いた入り口から隠れるようにしてボス部屋を覗いた。

ちょうど膠着状態にあるのか、大ムカデがヘカトンケイルに絡み付いている情態だった。

しばらく様子を見ていたが、どちらも動く様子がなかった。

おかしいと思い、すこしづつ近づいてみると……


「……死んでる」


ヘカトンケイルはすでに事切れていた。

よくみると右側の頭と五本の腕、右半身が大きく抉れていた。

焦げた跡をみる限り、破壊光線を右半分に食らったのだろう。


対する大ムカデはというと……


「死んでる……って訳じゃないな。これは、脱皮殻か」


ヘカトンケイルに巻き付いている大ムカデの体は、まるで曇りガラスのように透き通っていた。

回り込んで観察してみると、背中に縦に大きく割れた跡があり、戦っている最中か戦った後に脱皮したことがわかった。

そしてもうひとつ、嫌な予感が的中してしまった。


「……急いで報告だな。このままだと、ダンジョンがあいつに食われちまう」


第6階層に続く扉が、破壊されていた。

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