第4話「ベトナム生まれの復讐者」
街灯が静かに照らされた夜の街・・・・その一角に、ギャング達が集まる酒場があった。その酒場は今、一世一代の事件に見舞われていた。
「ハア・・・ハア・・・」
「こ、こいつ、強い・・・・!」
ギャング達はボロボロになりながら、1人の人間を囲んでいた。
その者はボロボロのマントで体と顔を隠し、ギャング達がボロボロなのに対し、その者は怪我一つ受けていない。
それは、その者がたった1人だけでギャング達を圧倒していることを意味している。しかも、その者は女だった。たった1人の女が、大勢のギャングを相手に圧倒しているのだ。
「フーッ・・・あんた達、弱すぎ。そんなんでギャングやってるなんて、バカみたい。」
女は余裕を見せ、ギャング達を煽った。
「なんだとテメェ!」
「ブッ殺してやる!!」
ギャング達はその発言に怒り、鉄パイプやナイフを持ち女に向かって突撃した。
すると、女は近くに落ちていた木製の椅子を手に取り、ヌンチャクのように振り回しギャングの攻撃をいなしていく。
「この・・・・!!」
ギャングの1人が拳銃を取り出した。女はそれに機敏に反応し、武器代わりに使っていた椅子を投げ、ギャングの1人を転ばせる。すると、女はギャングが転び床に倒れる前に素早く近づき、ギャングの顎に膝蹴りを喰らわせ気絶させた。
「調子に乗るなよ、クソッタレ!」
「それは・・・・あんたがでしょ!」
背後から鉄パイプを持ったギャングが襲いかかる。
しかし、女は今倒したギャングから拳銃を奪い、ギャングの額目掛けて投げつけた。拳銃は額に命中し、ギャングは痛みに悶えよろめいた。その隙に、女はギャングに足、みぞおち、胸、顔面に蹴りを浴びせる4段蹴りを浴びせ、ギャングを倒した。
「つ、強ぇ・・・・」
「何モンだあいつ・・・・!?」
「ば、化け物だ・・・!」
ギャング達は女のその強さを見て、唖然とし、立ち尽くしていた。
それを見た女はクスリと笑い、手首を動かして手招きし、挑発してみせた。
「この・・・・!やっちまえ!!」
『うおおおおおおおおっ!!』
ギャング達は一斉に襲いかかった。
「はあ、あんた達マジで弱すぎ。」
数分後、女はギャング達を一掃し、酒場を出た。
「全くもう・・・・時間取らせるなっての。」
女が独り言を言っていると、女の足に一枚の新聞が引っかかった。女はそれを拾い上げ、ゴミ箱へ捨てようしたが、ある記事が、女の目に止まった。
「こ、これ・・・!」
その記事は、以前、ファウストが銀行強盗犯を退治した時の記事だった。その記事を見た途端、女は新聞をクシャクシャになってしまうほど手に力を込め、眉間に皺をよせた。
「やっと・・・・見つけた・・・・!!仮面の男・・・・!!」
今日は日曜日・・・・しかも天気は晴れ。出掛けるには絶好の日だ。
と、いうわけで、私はメアリと一緒に街へ出掛けている。
「フフフフンフ~ン♪あ~!早く帰って読みたいな~!!」
メアリはスキップをしながら道を歩いている。それもそのはず、メアリはさっき訪れた書店で出たばかりのスパイダーマンの漫画を買ったのだ。それを買ったのがよっぽど嬉しいようだ。
「ハハハ、お前は本当にスパイダーマンが好きだな。」
「うん!だって、スパイディーは・・・私の永遠のヒーローだもん!!」
メアリは目を爛々と輝かせ、私に言った。私はそれを見て、微笑ましく思えた。何かに一番好きだと思える姿勢・・・・そういうのは私は大好きだ。それに、我が子だからこそ、愛らしい。
「そうか・・・お前が嬉しいと、私も嬉しくなるなぁ。」
私はそう言って、メアリの頭を撫でた。
「よし、次はスーパーに行こう。今日は何が食べたい?」
「ハンバーグがいい!」
「ハンバーグかぁ・・・私に作れるかなぁ・・・・」
「私も手伝う!」
私とメアリは会話を楽しみながら、スーパーへと足を運ぶ。と、その時だった。
「見つけたぞ!おっさーーーーーん!!」
後ろから大声が聞こえ、振り向いた。そこには、前に地下格闘技場で戦ったロック・オルグレンが仁王立ちしていた。
「おお、君か。」
「よーやく見つけたぜ!おっさん!もう一回俺と勝負しろ!!今度は負けねーからな!!」
ロックは私に指を差しながらそう言った。
「勝負って・・・あれから1日しか経ってないじゃないか。」
私が今言ったように、地下格闘技場でロックと戦ってから、まだ1日しか経っていない。
しかし、ロックは負けじと反論した。
「うるせー!俺は何がなんでもアンタを越えてやる!アンタを越えねーと、俺は最強になれねーからな!!そんでもって・・・・」
ロックは言いかけると、メアリの方をチラリと流し見、頬を赤く染めた。
『?』
私とメアリはその意味が分からず、首を傾げた。
「と、とにかく!そういうわけだから勝負だ!」
「うーん、困ったなー・・・・これから買い物に行くのに・・・・あっ!」
ロックの対処に困り果てた私に、名案が浮かんだ。
「なぁ、これが終わったら本当に勝負してくれんだろうな。」
私は、ロックを買い物に同行させた。後で勝負をするという名目で、買い物や荷物持ちをさせる作戦だ。少し大人げないが、適当に言い訳しても追ってくるだろうしな。
「ああ、ちゃんと勝負してやる。あっ、そうだ!ロック、今日はウチでご飯食べなさい。どうせロクなもの食べてないんだろ?」
「えっ、で、でも・・・・」
私の突然の申し出に、ロックは戸惑った。すると、メアリが横から顔を出し、
「今日はハンバーグだよ!私も手伝うの!」
と、元気そうに言うと、ロックは体を硬直させた。
「えっ・・・・女の、手料理・・・・?」
ロックは小さく呟くと、そっぽを向き私に言った。
「じゃ、じゃあ・・・食う。で、でも!飯食ったら絶対勝負だからな!」
「はいはい。わかったわかった。」
私達はハンバーグの材料に加え、付け合わせの野菜やパンを購入し、スーパーを出た。
「さーて、早く帰らないとな。メフィストが腹を空かせて待っているからな。」
「お留守番ちゃんとしてるかなぁ。」
「つーか、あいつに留守番任せて大丈夫なのか?声からして悪党みてーな感じだったけどよ・・・・」
「大丈夫さ。一応散らかすなとは言って・・・・あっ。」
その時、私はメフィストに言い忘れていたことがあることを思い出した。
「パパ、どうしたの?」
「マズイ・・・・『家の物で勝手に変な物作るな』って言うの・・・・忘れてた・・・・・」
「あ・・・・」
私の一言に、メアリもそのことを思い出し、声を上げた。
「急いで帰ろう!我が家の洗濯機が!!」
「私のゲーム機が!!」
私とメアリは急いで戻ろうと、走り始めた。
「お、おい!待てよ!」
ロックは訳もわからないまま、私達の後を追いかけた。
私達は近道をしようと路地裏を曲がって入った。と、その時だった。
「ねぇ、あなたたち。」
突然目の前にボロボロのマントで身を隠した者が現れた。目付きと顔からすると、恐らくはアジア系の女性だった。
その女性が突然現れ、私達の足は止まった。
「おっとっと・・・・なんでしょう?」
私が尋ねると、女性は懐から新聞紙を取り出し、その内の一面を私達に見せた。
「この男、どこにいるか知らない?」
女性が見せたのは、前に私が銀行強盗犯として現れたパドロを退治した時の記事だった。
「い、いや、知らないなぁ・・・・」
私は冷や汗を掻きながらも、なんとかシラを切ってみせた。一応、ファウストの正体は秘密、ということにしている。
「お嬢ちゃんも、知らない?」
女性はメアリの方にも尋ねた。
「う、ううん、全然知らなーい。」
メアリも私と同じく、なんとかシラを切った。
だが・・・・
「ん?ああ、これこの人だぜ。」
ロックは呆気なくそう言いながら、私を指差した。
『えっ』
私とメアリ、それに女性は思わず声を上げた。
「えっ?」
ロックも声を上げた。自分が今何をしたのかわかっていないようだ。
「き、君という奴は・・・・!!なんてことをォォォォ!!」
私は思わず両手で顔を抑え、叫び声を上げた。
「えっ?俺・・・なんかしたか?」
「したよ!とんでもないことしたよ!ファウストの正体は誰にも秘密なの!!」
「えっ!?そうだったのか!?」
私達が大いに取り乱していると、すぐ側で女性が新聞紙を真っ二つに破いた。
「ようやく・・・・見つけた・・・!!」
女性はそう言うと、私に向かって思い切り蹴りを繰り出した。
「!!」
私は咄嗟に蹴りを受け止めた。
「家族の仇!!」
「な、何を・・・!?」
私は突然のことに動揺した。女性が突然襲いかかってきたこともそうだが、彼女の言う仇というのが身に覚えがなかった。
「とぼけないで!!アンタが私の両親と兄を殺したことは分かってんのよ!!」
女性は続けてそう言うと、回し蹴りを繰り出し、私を蹴り飛ばした。
「うわあ!!」
「パパ!」
「てめぇ!何しやがる!!」
ロックは女性に怒りを覚え、両腕を硬質化させ、殴りかかった。
「ふっ!」
ロックが殴りかかると同時に、女性はマントを投げ、ロックの視界を失わせた。
「龍連脚!!」
女性は技名を叫ぶと同時に、視界を失ったロックのボディに無数の蹴りを放ち、ロックを蹴り飛ばした。
「ぐあっ!」
ロックは蹴り飛ばされ、ゴミ捨て場に頭を突っこんだ。
「私は、龍北青拳の使い手!リン・チ・チャン(鈴氏陳)!家族の仇、晴らさせてもらうわ!!」
マントを脱ぎ捨てたリンの姿は、チャイナドレスに、足にはウエスタンブーツを履き、髪は結い、ポニーテールになっている。後、これは戦闘中に下着が見えないようにするためなのか、チャイナドレスの下にレギンス?というものを履いている。
「くっ・・・!どうしてもやる気か・・・・メアリ、隠れてなさい!」
「うん!」
メアリは私の言った通りにし、買った食材を持って建物の陰に隠れた。
「リン!複雑な事情があるようだが・・・・私は君の家族を殺していない!」
「気安く名前を呼ばないで!アンタなんかに名前を呼ばれたくないわ!」
リンは叫び、構えを取った。
右手は顔の辺りまで上げて横顔のところまで持っていく。左手は腹の辺りまで下げ、手首を180°回転させ、手のひらをこちらに見せるようにし、獣のように爪を立てる。足の方は、右足を後ろに下げ、アキレス腱を伸ばすかのように足を伸ばす。左足は側面を見せるように1、2歩前に出す。
その構えはまるで、龍の頭が今にも口を開ける様のようにも見える。
「中国拳法か・・・・拳法家とは一度手合わせをしてみたかったが・・・・そういうわけにもいかないか・・・・!メフィスト!」
私はメフィストを呼んだ・・・が、姿を現さなかった。
「・・・メフィストッ!!」
私は大声で叫んだ。すると、私の影の中からメフィストがニュッと飛び出した。
『なんだ、うるさいな・・・・』
「!?・・・よ、妖怪!?」
リンはメフィストの姿を見て驚き、声を上げた。メフィストを妖怪と間違えているようだ。
・・・まぁ、間違ってはいないが。
『むっ?また新しい敵か。』
「メフィスト!彼女は・・・・」
『うむ、どうやら悪魔ではないな。ただの人間だな。』
「彼女を止めるぞ!変身だ!」
『命令するな!』
メフィストは文句を言いながらも、ファウストのスーツに変化し、私の体に装着させた。
「はぁぁぁぁぁ!!龍飛脚!!」
リンは助走をつけてジャンプし、飛び蹴りを繰り出す。私は腕を交差させ、それを防ぐ。
私はすかさず反撃しようとしたが、手が出せなかった。
「くっ・・・!」
「ホラホラ、どうしたの?」
攻撃を出さないのをいいことに、リンは容赦なく攻撃してくる。私は後ろに下がりながら攻撃をよけ、受け流すが、すぐに背中が壁にぶつかってしまう。
「ッ!」
「おっさん!危ねぇ!!」
その時、ロックは全身を硬質化させ、リンに向かって突進した。
「ロック!よせ!」
「龍撃掌!!」
リンはロックの腹に掌底をたたき込んだ。すると、ロックはまるで車に突き飛ばされたかのように吹き飛んだ。
「ぐあああああ!!がはっ・・・!か、体を硬質化させてんのに・・・・手のひらだけで・・・?」
ロックが硬質化した自分の体に、リンが攻撃できたことが疑問に感じていた。すると、リンはフッと笑った。
「今、アンタの体を吹き飛ばしたのは私の手じゃなくて、私の”闘気”よ。」
「トウキ・・・?」
“闘気”・・・その名は聞き覚えがあった。
”闘気”とは、中国拳法から伝わるもので、自身の力を強化したり、相手の体に触れずに倒したりすることができるものだと聞いたことがある。
「私の闘気を手のひらに集中させて放つことで、アンタの硬質化した体なんて関係なく吹き飛ばしたってこと。」
「クソ・・・!舐めたマネしやがって・・・・!」
ロックは立ち上がり、リンを睨みつける。
「何度来たって無駄よ。アンタに私を倒すことはできない!」
「うるせぇ!てめぇなんざ、おっさんの足元にも及ばねぇ!」
ロックはニヤリと笑いながら言うと、再び体を硬質化させた。
「おっさんが手を出すまでもねぇ!俺がブッ倒してやる!!」
ロックはそう言って構えた。リンもそれに応えるように先ほどと同じ構えを取った。
「待て!!」
その時、私は叫んだ。2人は構えを解き、こっちを向いた。
「リン、君の相手は私だ。私も男だ・・・・正々堂々と戦おう!!」
私はそう言って、ボクシングの構えを取る。
「へー、悪党にしては潔いじゃない。なら、お言葉に甘えて・・・・!!」
リンも同様に構えを取る。
・・・潔く勝負をしようとしたのはいいが、私は正直不安だった。私には彼女に勝てる自信がなかった。実力の問題ではなく、相手が女だということに問題があった。私は、女を殴ることができない。マリアと出会う前だったら、女だろうが容赦なく戦えただろうが、私はマリアに「女に暴力を振るう男は最低」だと教えられた。だから私は、女を攻撃することができなくなった。
(なんとかしなければ・・・・彼女に暴力を振るわずに勝たなければ・・・・)
私は頭の中で必死にリンに勝つ方法を模索しようとしたが、リンにそれが伝わるはずもなく、容赦なく攻撃を仕掛けてきた。
「くっ!」
私は繰り出される攻撃をなんとか防ぐ。
「龍連脚!!」
リンは左足を軸とし、右足で無数の蹴りを繰り出す。私は両腕を盾とし、攻撃に耐える。
「ハァッ!!」
だが次の瞬間、リンは軸にしていた左足で飛び、私の腹を蹴り飛ばした。
「ぐわっ!!」
私は蹴りを喰らい、よろめいた。が、まだ倒れられない。
「な、なかなかの蹴り技だな・・・・」
(どうしたんだよ、おっさん・・・・!?おっさんならあんな奴簡単に倒せんのに・・・・)
ロックは心配そうな顔で戦いを見守っていた。ロックには申し訳ないが、私には手が出せない・・・・
「やはり・・・・他に手段はないか・・・」
私は構えを解いた。
「?・・・・何のつもり?」
リンは私の行動に疑問を感じた。
「・・・私は、君とは戦えない。」
「はぁ?」
リンは唖然とし、声を上げた。
「メフィスト、変身を。」
『・・・・いいのか?死んでも知らんぞ。』
「構わない。」
メフィストは何も言わず、元の姿に戻り、私は変身を解除した。
「色々考えたが、私ができるのは・・・・これぐらいだな。」
私はそう言ってリンに背中を向け、その場に座った。
「さぁ、気の済むまでやるといい。だが、できれば殺さないで欲しい。私には・・・まだやることがあるんだ。」
私は、こうやってリンの攻撃を全て受けるつもりだった。
リンが気の済むまで攻撃すれば、いずれは諦めてくれる・・・それか、私の行動を見て、誤解に気づくだろうと思い、この作戦を思いついた。正直上手くいくとは思わないが、リンを攻撃しない、かつ彼女のプライドに傷をつけずに戦いを終わらせるにはこれしかないと思ったんだ。
最悪、死ぬかもしれないが・・・・耐えるしかない。
「アンタ・・・自分が何してるかわかってんの!?」
リンは私の突然の行動に驚き、とまどい、声を上げた。
それは無理もないことだ。リンじゃなくとも、誰でも困惑するだろう。
「・・・・私は・・・格闘家である前に、父親である前に、1人の男だ。君を傷つけずに戦いを終わらせ、誤解を解くにはこれしかない。さぁ、好きになさい。」
「・・・・」
リンは何も言わず、黙り込んだ。私も同じく黙り込んだ。
「ハアァァァァァァァ!!」
しばしの沈黙が流れた後、リンは叫び声を上げながら、片足を大きく上げ、私に向かってかかと落としを繰り出した。
「おっさん!!」
「パパーーーー!!」
ロックとメアリの声が聞こえる中、ドゴン!という音が響き、2人は攻撃された私を見まいと、すかさず目を瞑った。
「・・・・あれ?」
私の叫び声が聞こえなかったのが不思議に思ったか、2人は目を開けた。
「やはり・・・・そう来ると思った。」
リンの蹴りは私には当たらず、地面に直撃していた。リンは、最初から当てる気などなかったんだ。
「アンタみたいに滅茶苦茶甘い奴が、私の家族を殺せる訳ないって、思ったからよ。それに・・・」
「パパ!!」
リンが言いかけると、メアリが私の方へ飛んできて、私に抱きついてきた。
「おっと・・・・」
私はよろめきながらもメアリを受け止め、抱きしめた。
「よかった・・・・パパ、死んじゃうかと思った・・・・!」
そう言ったメアリの目には涙が浮かんでいた。
「コラコラ、泣く奴があるか。」
私はポケットからハンカチを取り出し、メアリの涙を拭いた。
「・・・アンタを殺したら、この子にも私と同じ苦しみを味わわせてしまう・・・・そう思ったからよ。」
リンはそう言うと、先ほど脱ぎ捨てたマントを拾い上げ、もう一度羽織った。
「勘違いしてごめんなさい・・・それじゃあね。」
「待ってくれ!」
リンは一言謝り、その場から去ろうとしたが、私はそれを引き留めた。
「よかったら・・・・話してくれないか?力になれるかもしれない。」
「・・・・わかったわ。」
私達はリンと一緒に自宅へ戻り、事情を聞くことにした。
家に着くと、私はリンをリビングまで案内し、お茶を出した。
「どうぞ。緑茶とかウーロン茶の方がいいのかもしれんが・・・あいにくウチにはコーヒーと紅茶しかなくて・・・・」
「いいの、大丈夫。」
リンはそう言うと、出された紅茶を飲んだ。
紅茶を飲み、一息ついたところで私はリンに尋ねた。
「君はさっき中国拳法を使っていたが、中国人なのか?」
「いや、私はベトナム人よ。教えてくれたのは中国人だけど。」
「ベトナムか・・・あそこは一度だけ行ったことがあるが・・・賑やかでいいところだ。人はいきいきしてて活気はあるし・・・・」
私はボクサー時代の時に行ったベトナムの風景を思い出し、昔の思い出に浸った。
が、ロックに肩を叩かれ、ハッと正気に戻った。
「す、すまない・・・・それで、なぜ君は拳法を・・・・?」
私がそう尋ねると、リンは過去の出来事を語り始めた。
「私の家はベトナムの大衆食堂で、それなりに儲かってパパ、ママ、お兄ちゃん・・・・4人で普通に暮らしてた。でも、あの日から全てが変わった・・・・あれは5年前・・・・私が13歳の時だった。その日は学校の友達とショッピングして、カラオケも行ってて、気がついたらもう午後の6時ぐらいになってたの。その日は店は休日だったから、私はゆっくり家に戻ったわ。そしたら、家の前にたくさんの野次馬とパトカーが停まってて・・・・私は嫌な予感がして裏口へ回って家の中に入ったの。裏口にも警官はいたけど、それを押しのけて中に入ったら、私の家族は血だらけになって・・・倒れてて・・・・!」
リンは語りながら、拳を握り、唇を噛んだ。よっぽど悲しくて、悔しかったのだろう。
その様子を見て、私はとても見ていられなかった。
「・・・辛かったらやめてもいいんだぞ。」
「いえ・・・大丈夫。目撃者の話だと、仮面みたいなのをつけた屈強な男が閉店した店の中に入っていったって言ってたわ。私は、その日から普通の女でいることをやめた!復讐の鬼になるって決めたの!でも、そいつを殺そうにも、素人の私には分が悪すぎる・・・・だから私は、中国の奥地へ行ったわ。中国には、私のお祖父ちゃんの親友が中国拳法を扱えるって聞いたから、私はそこで中国拳法の中でもかなりの歴史を持つ『龍北青拳』を学んだの。そして、5年掛けて『龍北青拳』の全てを学んだ後、私は全国を旅して、その仮面の男を探し回った。その途中でファウスト・・・アンタが乗ってる新聞を見つけて、ニューヨークに来た・・・・ってところね。」
リンの話が終わり、私はリンの肩に手を置いた。
「辛かったろうな・・・・女の身一つで・・・」
私がそう言うと、リンは笑った。
「アンタ・・・・本当に変わってんのね。私に同情してくれるなんて・・・・」
「いや、そんなつもりじゃない。ただ・・・こんなにカワイイ子が、こんな綺麗な手を血で染めるような殺伐とした生活を送っていると思うと、心が痛くてな・・・・」
私はそう言いながらリンの手を握り、リンの顔を見つめた。
「な、ななな・・・・!?何言ってんのよバカ!!」
すると、リンは恥ずかしかったのか、顔を赤く染めながら私の手を振り払い、そっぽを向いてしまった。
「え・・・わ、私、何かしたか?」
私は何故リンが怒ったのか理解できず、困惑していた。・・・今思うと、私はかなり頭が悪いと感じる。
隣にいたメアリと、後ろにいたロックの方を見ると、2人とも少し引き気味になっていた。
「うわっ・・・おっさん、そりゃないわー・・・・」
「パパったら・・・女の子はデリケートなんだから!」
「う、うむ・・・よくわからないが、これからは気をつける。」
私は理解できずにいたが、とりあえず気をつけることにした。
「まぁいいわ。私、しばらくニューヨークにいるから困ったことがあったら協力するわ。」
「そうか・・・ありがとう!」
私はリンに礼を言うと、まだ自己紹介をしていないことを思い出した。
「そうだ、自己紹介がまだだったな。私はルーク・エイマーズ。こっちは娘の・・・・」
「メアリだよ!」
「俺ァ、ロック・オルグレン。」
「で、こっちはメフィスト。生意気な奴だが、とりあえず害は無いから安心してくれ。」
『フン!』
私達は自己紹介を終えると、1人ずつリンと握手を交わした。
こうして、私達にもう1人仲間が増えたのだった。
レギュラーキャラ第2号にして、第2ヒロインの登場です!
モデルは「ストリートファイター」のチュンリーです。「何故中国人じゃなくてベトナム人なの?」という理由は・・・「ベトナムには美人が多いから」というしょうもない理由です(笑)