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ファウスト ~FIRST HEROS~  作者: 地理山計一郎
第1章「ヒーローチーム結成編」
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第3話「鋼鉄の悪魔」

あらすじ・・・は今回はなしです。というか、これから付けていくこと自体悩んでますが・・・




銀行強盗の件から3日経った。パトロールを続けたが、他の悪魔は見つからなかった。


「元々数が少ないのか・・・?」

「パパ!パパ!!」

私が考え事をしていると、物置の方からメアリが大声で呼ぶ声が聞こえる。


私はその声に気づき、物置へ向かった。

物置へ行くとそこにはメアリとメフィストがいた。


「どうしたんだ?」

「見て見て!!メフィストが古いテレビですごいの作っちゃった!!」

メアリはそう言って、物置に置いてあった古いテレビを見せた。昔懐かしいブラウン管テレビだ。


「なんだ、普通のテレビじゃないか。」

私はそれを見て拍子抜けした。すごいのを作ったというから、見た目が悪魔みたいにサイケデリックなものだと思っていたのだ。


『バカめ、よく見てろ?』

メフィストはそう言うと、手に持っていたリモコンの電源ボタンを一つ押した。すると、なんとテレビに電源が入り、映像が流れた!


「な、なにぃ!?コンセント入ってないのに・・・・!!」

私はひどく驚いた。それもそのはず、テレビのコンセントは入っていないにも関わらず、テレビの電源が入り、映像が流れたのだ。しかも、画質は最近のテレビみたいに鮮明だ。


『ウシャシャシャシャシャ!!驚いたか!この私の天・才・的科学力を持ってすれば、こんなことなど朝飯前だ!さらに・・・・』

メフィストは次に、リモコンのボタンを次々と押し始めた。


それに応じてテレビの画面に流れる映像が変わる。その映像の中には、白黒映画や再放送らしきアニメ、ドキュメント、テレビドラマが流れている。しかも中には日本製作らしきものや各国語に吹き替えされたものまである。


『世界中のテレビ局の放送コードをジャックすることで、ありとあらゆる番組が見放題!アンテナもいらないから、地デジの心配もない!』

「・・・許可は?」

私はメフィストの言葉に一抹の不安に駆られ、思わず尋ねた。


『知らん。』

予想通り、メフィストは即答した。


「バカ!そんな非合法なものをウチで作るんじゃない!!」

予想が的中し、私はメフィストを叱りつけた。


すると、メフィストはムッとした顔で反論し始めた。

『なんだと!?カーッ!これだから古くさい考えの脳味噌ミジンコレベルの阿呆はダメだ!貴様のような奴は新しいものを受け入れず、古い物ばかりを信仰する無能だ!』

「私はそんなことまで言ってないだろ!それより、こんなの作るぐらいなら悪魔を探す装置でも作れ!」

私がそう言うと、メフィストはフンと鼻を鳴らした。


『バカめ!そんなのが作れたらとっくに作ってるわ!』

「えっ?なんでできないの?」

メフィストの言葉に、メアリが疑問を感じ、尋ねた。


『そもそも、悪魔は同じ悪魔族となら気配や特有の波長で互いの場所を感知できるが・・・・”型”が違う者の気配は感知できない。』

「型?」

『おい、小娘。紙とペンを出せ。』

メアリは言われるままポケットからメモ帳とボールペンを取り出し、メフィストに手渡した。


メモ帳とペンを受け取ると、メフィストは作業台を机代わりに、メモに図を書き始めた。

『まず、悪魔は2つのタイプに分かれている。1つ目は私のように人間に憑依することでアーツの力を発揮できる"憑依型"。まぁ、パドロのように人間の意識を乗っ取ってしまう奴も稀にいるが・・・2つ目は自身のアーツの一部を人間に継承させる"継承型"。割合にすると”継承型”が全体の6割ほどで、"憑依型"が4割だ。』

「なんで"継承型"が多いの?」

メアリが尋ねた。


『それは悪魔を作り出した創造主しか分からんが・・・・私の推測は、昔の悪魔というのは魂を売った人間に力を与える役目を担っていた。"継承型"はその名残で生まれたため、数が多い・・・・というのが私の見解だ。』

メフィストはそう言うと、先ほどの話を続けて語った。


『で、悪魔はこの2つに分かれているんだが、ごく稀に、人間と同化する悪魔がいる。』

「人間と同化・・・?なぜそんなことを?」

『そこまでは知らん。だが、人間と同化するのは至難の技だ。可能性は五分五分・・・・成功したとしてもどちらかの人格が消滅する。』

「つまり、メリットがないということか?」

『いや、人間と同化することが出来れば、自身のアーツの力をさらに強くすることが出来ると伝えられている。過去、成功者は一人しかいないがな。』

「ふーん、悪魔にもいろいろあるんだね。」

メアリはメフィストの話を理解し、相槌をうった。片や、私の方はあまり理解できていなかった。


『話を戻すが・・・"憑依型"と"継承型"だと発する気配と波長が違うのだ。一応感じ取れるといえば感じ取れるが・・・それでもかなり近づかないと気づかない。』

「つまり、メフィストは"憑依型"の悪魔しか探知できないってこと?」

『そうだ。だから、装置を作っても意味がないということだ。第一、作るにしても部品が足りなすぎるからな。』

「うーむ・・・・さっきからメフィストの話があまり理解できん・・・・」

私は話の内容が理解できず、腕を組み、唸り声を上げた。それを見て、メアリは苦笑いを浮かべた。


「パパ、難しい話とか苦手だもんね。」

「ああ。数学とか、プラスマイナスの段階で理解出来るかどうか分からん。」

『頭の病院に行った方がいいんじゃないのか?』

メフィストは私に皮肉を言った。



私達3人は物置を後にし、キッチンに戻って昼食を食べることにした。

「お昼、出来てるぞ。」

今日の昼食はキノコのパスタに生野菜のサラダ。実にシンプルだ。とは言っても、私は簡単なものしか作れない。だから食事はいつもトーストに簡単な料理か、パスタにサラダぐらいなものだった。


「メフィスト、君の分も作ったぞ。悪魔がパスタを食えるか分からんが・・・・」

私はそう言って、三人分の昼食をテーブルに置いた。

『・・・フン、せっかくだから食べてやってもいいが?』

メフィストは生意気な台詞を吐いた。しかし、私にはそれが照れ隠しのようにも受け取れた。

「フフッ、召し上がれ。」

私はそう言って食事を始めた。フォークで麺を巻き、口に入れ、ゆっくりと味わう・・・・うん、今日のパスタは意外といける。


「メアリ、どうだ?今日のパスタは。」

「うん!おいしいよ、パパ!」

メアリは笑顔でそう言ってくれた。喜んでくれると、こっちも嬉しくなる。メアリの笑顔に釣られ、私も笑った。


そして、メフィストの方は・・・・

『こうか・・・・』

私達の動作を真似て、メフィストは手に持ったフォークで麺を巻き始めた。しかし、そこからおかしかった。フォークで麺を巻く時は、大体一口サイズぐらいになればいいはずだが、メフィストはパスタ全部を巻いているのだ。


『グア・・・・』

そして、大口を開け、巻いたパスタを全て口の中に放り込んだ。

パスタを食べ終えると、次はサラダに手を伸ばした。食べ方はほとんど変わらない。先ほどのパスタと同じように口の中にサラダを放り込んだ。さっきと違うのはフォークを使わないことぐらいだ。


「メフィスト・・・・それはドレッシングをかけてから・・・・」

私がそう言うと、メフィストはテーブルに置いてあったドレッシングを手にし、蓋を開け、中の液体を自分の口の中に流し込んだ。


『ゲフッ・・・・』

メフィストはゲップをし、ドレッシングをテーブルに戻した。汚らしい奴だ。

ドレッシングは半分に減っていた。


「どう?パパの料理、おいしいでしょ?」

『フン、悪魔に味などどうでもいい。』

メアリは料理の感想を聞いたが、メフィストの答えは予想通りひどいものだった。


「もう!素直じゃないんだから!」

メアリはそう言うと、メフィストの肩を思い切り叩いた。


『やめんか小娘!』

「小娘じゃないよ。メアリだよ。メ・ア・リ!」

『うるさい!名前などどうでもよいわ!』

二人は和気藹々(?)と会話を始めた。私はそれを見て微笑みながら小さくため息を吐き、リモコンでテレビの電源を入れた。


テレビではちょうどニュース速報が報じられていた。

『では次に、ストリートチルドレンに関するニュースです。』

テレビに映るニュースキャスターが、原稿を読み始めた。

ニュースの内容はストリートチルドレンが盗みを働いたり、廃車で寝泊まりをするなどといった、私にとっては胸が痛くなるような内容だ。


私はニュースを聞いてため息を吐いた。

「・・・・ストリートチルドレンか・・・・助けてあげたいが、今の私ではどうにもならないか・・・・」

『路上で暮らしているガキどものことか?別にどうでもいいだろう。他人なんだから・・・・』

「何を言うんだ!!」

メフィストの言葉に、私は怒りを覚え、テーブルをバンッと叩いた。


「この国の未来を作るのは子ども達だ!その子ども達がこんな生活をしていたら、何も未来は生まれない!!」

『まーた吐き気がしそうな言葉だな。』

「何をぅ!!」

「コラ!二人とも喧嘩しない!!」

私とメフィストが口喧嘩を起こしそうだったところを、メアリが間に入って仲裁した。


「す、すまん・・・」

私は平静さを取り戻し、メフィストに一言謝った。肝心のメフィストの方は謝る気配すら見せていないが。


「あっ、そうだ!今ストリートチルドレンで思い出したんだけど・・・・」

その時、メアリが何かを思い出し、私に話そうとした。私はひとまず話を聞くことにした。


「学校のクラスメートの物知り君に聞いたんだけど、最近私と同じくらいの子がある場所に集まってるんだって。集まってるのはニュースでやってたストリートチルドレンとか、学校の先生でも手が負えない不良とか・・・・」

「なんだって?だが、そんな話、ニュースや新聞でも載ってなかったぞ。」

『いわゆる裏という奴だな。』

メアリは話を続けた。


「それで、物知り君の話だと・・・・そういった子達はそのある場所で、毎日賭け事してるんだって。」

「賭け事だと?子どもにそんなことをやらせるとは・・・・!どこのどいつだ!?私が行ってお説教と拳をくれてやる!」

話を聞き、私は怒りがこみ上げ、さっそくそこへ行って子どもに賭博をやらせる極悪人をぶっ飛ばしてやろうと席を立った。


「ちょっ、待って待って!場所わかんないでしょ!?それに、話はまだ続くの!」

メアリが私の前に飛び出し、今にも怒りが爆発しそうな私をなだめた。

「そ、そうだったな。」

私は再度平静さを取り戻し、椅子に座った。


メアリも再度話を続けた。

「で、その賭け事っていうのが・・・格闘技なんだって。」

「格闘技?」

「正確には地下格闘技って言うんだけど、観客は戦ってるファイターにお金を賭けてるんだって。」

「地下格闘技か・・・・」

『地下格闘技』・・・・その言葉を聞いて、私の胸は不思議と高鳴った。


「その地下格闘技のチャンピオンがめちゃくちゃ強いらしくて、一回も負けたことないんだって。」

「ほう、名前は?」

「本名はわからんないけど、鉄みたいに固い皮膚を持ってることから、『鋼鉄の悪魔』って呼ばれてるんだって。」

『悪魔?』

今度はメフィストが反応した。


「あっ、悪魔って言っても、これは呼び名だから・・・・」

『そうじゃない!今、鉄のように固い皮膚と言ったな?本物の悪魔の可能性が高いぞ。』

「じゃあ、今度は体が鉄に変わる悪魔ってこと?」

『正確には、肌を鉄と同じように硬質化させるアーツだ。』

「鉄かぁ・・・じゃあ、パパのパンチも効かなそうだね。」

メアリはそう言って、私の方に顔を向けた。しかし、私は2人の会話が耳に入っていなかった。私は地下格闘技のことを考えていた。


どんな奴らがいるのか?ルールは?リングは?反則行為は?勝敗の決め方は?

私の考えでは、恐らくファイトスタイルは統一されていない。空手、ボクシング、プロレス、中国拳法・・・・全てが入り乱れる・・・・・考えただけでゾクゾクする。

私はボクシングを辞めた身だが、それでも格闘家の端くれ。強い奴と戦えるだけで心が躍る。

(なんてことだ・・・・こんなに心が躍ったのは久々だ・・・・!!)

私は内心、ニヤリと笑った。そんな私を心配するように、メアリが顔を覗いた。


「パパ?」

「!」

私はメアリの一言で我に返った。


「す、すまない。考え事をしてしまったな・・・・」

「・・・・パパ、もしかして戦いたいの?」

「・・・・ッ!!」

メアリは私の心中を見抜いていた。見抜かれた私は、額から大量に汗を掻いてしまう。


「い、いや、そそ、そんなことは・・・・」

私は思わず口ごもった。私は長らく格闘家としての戦闘欲をひた隠しにしてきた。それは、メアリを巻き込み、心配させてしまう恐れがあるからだ。メアリは早くにマリア・・・・母親を失った。もし、私が死んだら、メアリは本当にひとりぼっちだ。そんなことはさせたくはない。


しかし、メアリは・・・・

「・・・やっぱり、パパは格闘家だもんね。戦いたいって、思っちゃうんだよね。」

「メアリ・・・・」

「いいよ、戦っても。でも、約束して?」

「なんだ?」

「絶っっっっ対、死なないでね。」

メアリは私の顔をじっと見つめ、訴えた。私はフッと笑い、メアリの頭を撫でた。


「フフッ、当たり前だろ。お前の花嫁姿を見るまでは死ねないさ。」

「えへへ・・・」

メアリは頭を撫でられ、照れくさそうに笑った。思えば、こうして頭を撫でてやるのも久しぶりの気がした。


『おい・・・おーい!もしもーし!?・・・・私は完全に無視か!?』

メフィストは疎外感を感じていた。



その夜、私達は子ども達が集まるという場所に訪れた。その場所の名は「デラシネ」。"はぐれ者"という意味だ。

「よーし、早速入ろー!」

メアリは拳を掲げ、高らかに叫んだ。


「待ってろと言ったのに・・・・」

メアリには「家で待っていろ」と言ったのだが、結果的について来てしまった。

「こんなところにいたら、何されるかわからんぞ。」

「大丈夫!自衛用にスタンガン持ってるから!」

メアリはそう言うと、手持ちの鞄からスタンガンを取り出した。


「はあ・・・仕方ない。いいか?くれぐれも危ないことはするんじゃないぞ。」

「はーい!」

メアリは元気よく返事をした。個人的にかなり不安だが・・・・

私達は「デラシネ」の中に入った。


「いらっしゃい・・・・」

部屋の奥から低い声が聞こえる。中はバーのような・・・・というよりバーそのものといった感じの作りで、客は噂通り、不良が多い。


店にいる子達は、一斉に私の方を睨んでいる。ファウストの姿になっているせいもあるが、メアリという"よそ者"が自分達のテリトリーに入っていることを気にしているのだろう。


「ううっ・・・・」

メアリは不良達の視線に怖がり、私の腕にしがみついた。

「大丈夫だからな。」

私は怖がるメアリを宥め、バーのマスターの元へ近づいた。


「地下格闘技に出場したいのだが・・・・」

私がそう言うと、マスターは鼻で笑った。


「子連れでかい?あいにくだけど、ヒーローごっこしてるコスプレ野郎には用はないんだよ。」

「ごっこじゃないもん!パ・・・ファウストはヒーローだもん!」

メアリはマスターを睨みつけ、文句を言った。しかし逆に、マスターはメアリを睨みつけた。


「ひっ!」

マスターの鋭い目付きに驚き、恐怖したメアリは私の後ろに隠れた。


「参ったな・・・どうすれば出場させてくれる?」

「実力を示すか、そのクソみたいなマスクを外すかだな。」

「なんだ、簡単だな。」

私はそう言って、近くにあったビールの瓶を手にした。


「もらうよ。」

私はそう言うと、店の真ん中にあるテーブルに移動した。私はこれからあることをする。そのためには出来るだけ目立つ場所がいい。


「ちょっとどいててね。」

私はすでにそこのテーブルにいた不良少年達に丁寧にお願いして、テーブルを開けてもらった。少年達の愛想はかなり悪かったが。


「さて・・・・言われた通り、実力をしめそうか。」

私はビールの瓶をテーブルの真ん中に置いた。


(・・・・メフィスト、前のパドロのアーツ、使えるか?)

私は小声でメフィストに呼びかけた。

(ああ、使えるが・・・・使うか?)

(念のためだ。出場のためだ。いいか?少しだけだからな?)

(やれやれ・・・・)

メフィストは小さくため息を吐き、「ドレインバングル」で吸い取ったパドロのアーツを発動させた。その瞬間、私の体に力が漲ってきた。


私は右手で手刀を作り、振りかざす。

「よし・・・・どりゃあああああああああ!!」

私は叫び声を上げ、手刀を一気にビール瓶に振り下ろす。私の手刀はビンに当たるか当たらないかのラインを真っ二つに切るように振り下ろされた。

私の予想では、瓶は真っ二つに切り裂かれている・・・・はずだったのだが、予想外のことが起きた。なんと、瓶のみならず、下のテーブルまで真っ二つに割ってしまったのだ。


「あっ・・・・」

私は思わず声を上げた。そしてすぐ、「少しだけって言ったのに!!」と言いそうになったが、怪しまれそうになったため、すぐに止めた。


『おおおお・・・・・!!』

周りから驚きと歓声の声が聞こえる。どうやら、私の実力(+α)は理解してくれたようだ。


「へへへ・・・・さっきはすまないねぇ、旦那。」

マスターの態度が急によそよそしくなり、媚びでも売るかのような口調に変わった。私はこういうタイプの人間はあまり好きじゃないが・・・・今は従っておこう。


「それじゃ、出場できるのかな?」

「ええ、もちろんですとも・・・」

マスターはそう言って、私達を店の外へ連れ出した。


「ここが入口です。」

マスターが言ったその場所は、店の裏口だった。

「ここが入口?中に戻ってしまうぞ?」

私がそう言うと、マスターは笑い、裏口のドアを開けた。すると、そこにはあったのは店内ではなく、灰色の壁だった。


「こいつはダミーですよ。」

マスターはそう言って、次に壁を撫でるように探り、壁に隠されたスイッチを押した。

すると、ドアのすぐ近くから、機械の起動音とともに地下への階段が現れた。


「おお、こうなっているのか・・・・」

「警察が厄介ですからねぇ・・・・こうやってカモフラージュしてるんですよ。裏口の方は泥棒対策だってごまかしてね。さぁ、会場へ案内しますよ。」

私達はマスターとともに地下へ降りた。


地下へ降りていく時、私は気づいた。地下へ降りていくにつれ、声が聞こえてきた。より下に降りていくと鮮明に聞こえてくる。人々が沸き立つ声・・・・それを聞いた瞬間、私は喜びから鳥肌が立ちそうだった。


(久しぶりだ・・・・こんなにゾクゾクするのは・・・・!!)

そして、ついにたどり着いた。沸き立つ声の中心・・・・!地下格闘技会場に!

「ここが・・・・会場・・・・!!」

『オオオオオオオオオオオッ!!』

体に張り付くような大勢の声、中心にあるリング、その周りには鉄格子、ジュースやらを投げ、野次を飛ばす観客・・・・完璧だ。

一度でいいから、こんな場所で戦ってみたかった!それがようやく叶った!!

私は今、喜びに満ちている。今まで味わえなかった興奮を味わうことができるからだ。


『オオオオオオオオオオオオオッ!!』

その時、さらに歓声が上がった。それに続いて、実況のアナウンスが鳴り響く。

「試合終了~~~~!!さすがは『鋼鉄の悪魔』!!来る者全てなぎ倒したァ~~~~!!」

どうやら、ちょうど試合が終わったらしい。試合が終わると同時に観客がチケットのようなものを宙にばらまいた・・・というよりは投げ捨てたと言った方が近い。


「みんな何投げたんだろ?」

「馬券のようなものだろう。全く、子どもが賭けをするなんて・・・・」

私は愚痴を言いながら、リングの方を見た。リングには4人いる。3人はどれも屈強な肉体をした男達ばかりだが、リングに倒れ、1人はそれを足蹴にして高笑いを上げている。


「あははははははははは!!弱ェ、弱ェ!!もっと強い奴はいねぇのかよ、つまんねーぜ!!」

歳はメアリと同じくらい。身長は170cm前後、低い身長のわりには筋肉はそれほどあり、腹筋も割れている。髪は茶髪でツンツンしてトゲのようだ。服装はファーがついた革ジャンに同じ素材でできたジーンズ。まるで自分の力を巨大に見せるようにしているかのようだ。


「果たして、この悪魔に勝てる者は現れるのかァ~~~~!!?」

「審判待ったァ!!」

実況の質問を返答するように、私は大声で叫んだ。


「あ?なんだあれ?」

「コスプレか?」

「覆面レスラー?」

皆一斉に私の方に顔を向ける。それを気にせず、私はリングへ向かいつつ、話を続けた。


「私の名はファウスト!『鋼鉄の悪魔』・・・・君の噂を聞いてここまで来た!!」

「なに?」

「3人相手に1人で勝つとは・・・・実力はかなりあるようだな。次は、私が相手になるぞ!!」

「おーーっと!これは予想外!!たった今、この地下格闘技チャンピオン、ロック・オルグレンに挑戦者が現れたぁ!!」

実況アナウンスを聞きつつ、私はリングへたどり着いた。鉄格子の扉を開き、中へ入り、リングへ上がった。

チャンピオンとご対面だ。


「ああん?なんだぁ、おっさん?俺と戦う気か?」

チャンピオンのロックは私をじろじろと睨んでくる。


「ああ、そのためにここへ来た。君達子どもに賭け事させないためにもな。」

私は彼の目をまっすぐ見つめながら言った。すると、ロックは急に舌打ちを打った。


「チッ、あんたみてーなのが俺は一番嫌いなんだ!いいぜ、望み通り相手になってやらぁ!だが・・・アンタの骨はボロクズになってるかもな!」

ロックは私を指差しながら勝利宣言をしてみせた。


「よかろう。準備ができたら私の方から声をかけよう。」

私はそう言ってコーナーポストへ移動した。


『さっきまではわからなかったが、あの小僧、悪魔の気配がする。近づいた時にやっと少しだけ気づけた。』

メフィストがスーツ越しに声をかけてきた。周りの観客は挑戦者が現れたことで沸き立っているし、多分バレないだろう。


「例の継承型か?」

『そうだ。鉄の能力を持つ悪魔・・・・ステインのアーツだ。奴は鉄みたいに堅物だから、あの小僧如きに継承するとは考えにくいが・・・・』

「まぁいいさ。今の私に出来るのは、彼と戦って、少々説教をたたき込むことだ。メアリ!」

私はそう言いながら、リングの下にいるメアリを見下ろし、声をかけた。


「救急箱は持って来たか?」

「うん。でも、パパが負けるはずないもんね。」

「フフッ、そうだな。彼の怪我の方を心配した方がいいかもな。」

私はそう言うと、彼の方を振り向いた。ロックはずっと私を睨んでいるようだ。それも、ただ睨むのではなく、まるで憎悪を込めているかのようだ。


「もう準備はバッチリだ!!」

私はリングの真ん中に経っている審判に向かって叫んだ。審判は何も言わずにコクリと頷き、実況席に向かって頭上で丸を作り、サインを出した。


「では、これより特別試合を執り行います!赤コーナー!チャンピオンに挑む新参者!命知らずかはたまたよっぽどの自信家か!ファウストーーーーー!!」

私の紹介が終わると同時に、歓声が響く。


「青コーナー!地下格闘技チャンピオンにして『鋼鉄の悪魔』!今だ負けを知らない無敗の王者!ロック・オルグレンーーーーー!!」

ロックの紹介が終わると同時に歓声が響く。今度は私のよりも大きい歓声だった。


「それでは・・・・試合開始開始ーーーーー!!」

審判の叫びとともに、試合が開始された。私はボクシングの構えを取る。


「へぇ、あんたボクシング使うのか。格好いいじゃん。だがな・・・・」

ロックは余裕そうな態度を取った・・・・かと思うと、私に向かって全速力で突っこんできた。


「ボクシングなんてもう古いんだよォ!!」

ロックは私に近づき、拳をむちゃくちゃに繰り出した。

一番最初の拳が私の拳に当たり、それを皮切りに次々と私の体に拳が命中する。


「グローブがねぇと戦えねぇ!パンチしか使えねぇ!蹴り技、組み技、投げ技、絞め技がねぇ!そんな弱ェ格闘技に俺が負けるわけがねぇんだよォ!!」

ロックはそう言って高笑いを浮かべ、私に拳を命中させていく。だが、次の瞬間、私は一瞬の隙を見て拳を繰り出し、ロックの腹に命中した。


「ぐえっ!!」

重いパンチがロックの腹にたたき込まれ、苦痛に顔をゆがめた。

「ど、どうしてだ・・・・!?攻撃は当たってたのに・・・・!」

ロックは痛みに腹を抑え、後ろに後ずさる。


「・・・・確かにボクシングは、弱いかもしれないな。だが、グローブを外して放つパンチは、かなりの威力だろう?」


普通の人間のパンチ力はおよそ40~70kg。だが、ヘビー級ボクサーのパンチ力は1tに近い!そこまではいかなくとも、ミドル級でも200~300kgは出せる。

私は今、「筋力増加」のアーツを使っていない。舐めている・・・・と、思うか?これは彼に対する配慮でもある。私のパンチ力は現役時代に計ったときは650kgはあった。そんなパンチを「筋力増加」で放ったら、ロックは死んでしまう恐れがある。

それに、私はできるだけアーツを使わずに戦いたいのだ。つまるところ、自分自身の力だけで、彼と真剣に戦うのだ。


「ロック、君の拳は確かに早かった。だが、君は腕や肩だけで打って、しかもでたらめに放つから威力はまったくない。パンチの威力を出すためには、まず腰を入れなければダメだ。腰を入れ、体重と全身の筋肉でパンチを繰り出すんだ。」

私はロックにいいパンチを打つためのアドバイスをした。


だが、これが気に食わなかったのか、

「う、うるせぇんだよォォォォォォォォ!!」

ロックは怒りを露わにし、さっきと同じく無茶苦茶に拳を繰り出す。それに加え、今度は蹴りまで加わった。


「俺は最強なんだ!誰が相手でも勝ってきたんだ!それをてめぇみたいな奴に!てめぇなんかにィィィィィィ!!」

次の瞬間、私はその叫びとともに繰り出された拳を片手で受け止めた。


「!?」

ロックは負けじと蹴りを放つも、私はそれももう片方の手で受け止める。


「だがな・・・・君はいいセンスを持っている。」

「なに!?」

「君は磨けば光る。こんなところでくすぶってたら、何も生まれないぞ。君は一生このままだ。だから・・・・」

「うるせぇ!!」

私は「一緒に来い」と言おうとした。だが、ロックは罵声を放ち、私の頭に頭突きした。


「くっ・・・!」

不意を突かれた私はよろめき、後ろに下がる。


「アンタに俺の何がわかるってんだ・・・・!!俺はずっと1人で生きてきたんだ!!これからだってそうだ!俺がこれからも1人で生きてやる!そして、最強になって、誰も俺に刃向かえないようにしてやる!!うおおおおおおおおおおっ!!」

ロックは私に向かってそう言うと同時に、力を込め、叫び始めた。すると、ロックが身に着けている服以外、全身の肌と髪が黒曜石のような黒色に変化していった。


「で、出たーーーーー!!これぞ『鋼鉄の悪魔』の異名!ロックの肌が鋼鉄に変化したーーーー!!」

「これが俺のとっておきだ・・・・!!」

「これが鉄のアーツか!」

「いくぞ!!うおるぁぁぁぁぁぁ!!」

「チイィッ!!」

私とロックは互いに拳を繰り出し、拳と拳がぶつかり合う。


「くっ!」

私の拳に痛みが走った。さすがに鉄・・・まともに殴り合えばこっちの拳が砕ける。


『何をやってるのだ、バカめ!手伝ってやろう!』

「ま、待て!」

私の静止を聞かず、メフィストはスーツの背中から腕を4本生やした。


その光景に客席からどよめきが響く。

「こ、これはどうしたことでしょう!ファウスト選手の背中から腕が生えましたぁ!!」

実況もこの状況に混乱している。


その混乱をよそに、私とロックは激しい拳の打ち合いを演じていた。

「てめぇも悪魔の力を持ってんのか!!」

「成り行きでな!」

打ち合いの中、メフィストはさらに4本、腕を増やし、ロックの両腕を拘束した。


『捕まえたぞ!』

「甘いんだよ!!」

すると、ロックは拘束していたメフィストの腕を掴み、私ともどもリングロープに向かって投げ飛ばした。


「うわぁ!!」

私はリングロープに投げ飛ばされ、ロープの反動でロックの方へ返ってくる。


「くたばれぇ!!」

その反動を利用し、鉄に変わった右腕で全力のラリアットを繰り出した。

「かはっ!!」

ラリアットをもろに喰らった私は、その場に倒れてしまう。


「ケッ!俺をバカにするからこうなるんだ。俺の勝・・・・!?」

ロックは驚いた。それは私が立ち上がったからだ。

恐らく、ロックは今の一撃には自身があったのだろう。その自身を砕かれたようなものだ。


「い、今のを喰らって、立ち上がった・・・・!?」

「わ、悪いが・・・・場数が違うのでな・・・・!タフさには自身がある!」

「こ、このジジィ!」

「今の技、なかなかだな・・・・ロープの反動と繰り出す時の速度と鉄の硬度・・・・これらが組み合わさってできる破壊力・・・・理解したぞ・・・!」

私はフラフラになりながらも、今のラリアットから分かったことを分析してみせた。


「わかったからどうだっていうんだよぉ!!」

ロックは私に向かって拳を繰り出す。しかし、私はそれをかわしつつ腕をつかみ、ロックを床に倒して4の字固めを決める。


「くっ・・・・ぐあああああ!!て、てめぇ!ボクサーじゃねぇのか!?」

「悪いが、私はもうボクサーをとっくの昔に辞めている!」

私の考えでは、ロックに効くのは恐らく関節技。鋼鉄化しているのは恐らく肌のみ・・・・ならば、体の内部までは鋼鉄化していない。そう考えたのだ。


「諦めろ!諦めれば骨は折らない!」

「だ、誰が・・・諦めるかぁ!!」

その時、ロックは叫び声を上げ、片手で私の肉体を持ち上げ、無理矢理起き上がった。


「なっ・・・!?こ、この爆発力は・・・・!!」

「うおおおおおおおおおっ!!」

ロックはそのまま私を宙に投げ、自分はリングロープへ移動した。


「もう一度喰らわせて、今度こそ終わりにしてやる!!」

ロックがニヤリと笑いながら、私が落下するのを待っている。

落下し、攻撃を受けるのは時間の問題・・・・そこで、私は思いついた。


「メフィスト!足に筋力増加を!」

『なに?』

「いいから!!」

メフィストは私の言いつけ通り、筋力増加のアーツを私の足に集中させた。私の足に力が漲り、筋肉が肥大化するのがわかる。


「今だ!」

ロックがタイミングを見計らい、攻撃を仕掛ける。


(まだだ・・・まだ・・・・)

ロープの反動を利用し、鋼鉄の腕から繰り出されるラリアット・・・・後4秒・・・・3・・・2・・・・

「今ッ!!」

私は強化した足でロックの顔面に蹴りを叩きつけた。ロックはロープの反動で速度が出ていて、かつ止まれない状態。ならば、私が強化したこの足で思い切り蹴りを入れれば、大ダメージは必至!


「ガハッ・・・!!」

ロックは鼻血を吹き出し、歯は何本か折れ、口から血を出し、そのまま蹴りを喰らった反動ですっ転び、リングに倒れた。同時に、肌が元の色に戻った。


「ラリアットの速度を利用した、突進技専用のカウンター・・・・その名も、タックルリベンジャー!」

私は新たな技を習得し、名前をつけた。


「し、試合終了~~~~~~!!」

その時、試合終了のゴングが鳴り響き、歓声がこだまする。


「・・・・俺・・・負けちまったのか・・・・」

ロックが小さく呟いた。私は側まで近寄り、彼の前に膝をついた。


「・・・なんだよ。」

「ナイスファイト。」

私はロックにその言葉を贈り、手を差し出した。


「そんなこと言われたの・・・・初めてだぜ。」

ロックは少し文句を言いつつ、私の手を取り、上半身を起こした。


「ったく、あんた一体なんなんだ?変な奴なうえに悪魔の力も持ってやがるなんて・・・・」

「私は、ファウスト。この世に生きる子ども達に、幸せになって欲しいと願っている者さ。こっちはメフィスト。色々あって私に取り憑いているんだ。」

私はそう言って、スーツを指差した。

すると、スーツの胸の辺りからメフィストがニュッと顔を出した。

『フン、好きで取り憑いたわけじゃないからな。』


「・・・ケッ、本当に変な奴だよ、あんた・・・・でも、不思議だよ。負けたってのに、なんか妙な気分だ。悔しい気もするし、なんかすがすがしい気もする・・・・」

ロックの言っていること・・・・私には理解できる。私はそれを教えてやった。


「それが、初めての敗北というものだ。敗北とは、マイナスの意味で捉える人が多いが、プラスの意味もあるんだ。負けても、次へ前進できるという希望、次は絶対に勝てるという自信・・・・それが敗北だ。」

私はロックに敗北の意味を教え、頭を撫でてやった。


「敗北・・・・か。たまにはこんなのもあっていいかもな。」

「ああ。男は何度か負けてから、本当の男になるのさ。」

「へへっ・・・かもな!」

そう言ったロックの表情は、さっきの怒りや緊張が解け、子どもらしい柔らかい表情になった。


「それにしてもひどい傷だ・・・・メアリ!」

「はーい!」

私の呼びかけに答え、メアリが駆けつけた。


「・・・・!!」

すると、ロックはメアリの姿を見た瞬間、石のように固まった。


「メアリ、彼の手当を。」

「うん。」

メアリはロックの側まで近寄り、顔をのぞき込んだ。


「なっ!?」

ロックは思わず動揺し、顔を赤らめた。


「・・・大丈夫?痛くない?」

「い、いや、ぜ、全然大丈夫・・・・」

「うーん、確かに出血はしてるけど、大した傷じゃなさそう。鉄のアーツのおかげかな。一応止血だけはしとくね。」

メアリはそう言って止血を始めた。


「パパね、現役の時はいっつも怪我してたから、こういうのできるようになったの。」

「へぇ・・・・ってパパァ!!?このおっさんが!?」

ロックは驚き、思わず大声を出した。メアリの方も「しまった!」と思ったのか、驚いた顔をしている。


「あー・・・・バレてしまったか・・・・」

「ご、ごめんパパ・・・と、とにかくそういうことだから・・・・絶対に人に言わないで、ね?」

「わ、わかった・・・・」

私達は内密に秘密を作った。


「よし・・・これで終わり!」

メアリはロックに簡単に治療を施した。


「軽いといっても怪我してるから、しばらくは安静にしてないとダメだよ。」

「あ、ああ・・・・な、なあ、名前は?」

「私?私はメアリ・エイマーズ!メアリでいいよ!こっちはパパのルーク・エイマーズ。」

「それじゃ・・・・さらばだ。ロック!」

私はそう言って、メアリを連れてロックに別れを告げた。


「・・・・はあ、ちくしょう・・・・ダブルノックアウトされちまった・・・・」

このとき、ロックは二度目の敗北を味わった。それは、メアリに一目惚れしたことだった・・・・

ちなみに、この後、このことを皮切りに、子ども達が地下闘技場に集まることはなくなったという・・・・



主人公、ヒロイン以外のレギュラーキャラ第1号!登場です!

ロックは「仮面ライダービルド」の万丈龍我をモデルに、もっと幼めにした感じで作りました。後、ギャルゲーの主人公的要素もこれから入れていきたいと思ってます。



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