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ファウスト ~FIRST HEROS~  作者: 地理山計一郎
第3章「因縁の好敵手編」
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第35話「両雄激突」

だいぶお待たせしてすいませんでした・・・仕事が忙しいのを理由にサボってた結果丸一年放置・・・本当に申し訳ありませんでした・・・

ルーク達が屋敷に突入しておよそ1時間が経過した。2階ではロックとレオナが見事メアリを救出し、1階ではリンとジャッジが大量のデストロイド相手に奮闘している。そして、3階に乗り込んだルークは部屋の扉の前で立ち止まっていた。


「よし・・・いよいよここが最後の部屋だ!」


ルークは3階のほとんどの部屋を調べ尽くし、残す部屋は一つだけになっていた。


『ここにいるのはメアリか、それとも王牙か・・・・ゆくぞ、ルーク!』

「ああ!」


ルークとメフィストは意を決して、最後の部屋の扉を開け、中へ入った。


「!」


中に入ったルークは目を疑った。部屋はダンスホールのようで、広い空間になっており、部屋の奥に王牙が玉座に腰掛け、その傍らには妻のセシリア、周りには王牙の部下達・・・つまり、王牙一味が集結していた。


「王牙・・・!」

「来たか・・・悪いが、貴様の愛娘はここにはいない。代わりといってはなんだが・・・・」


王牙はスッと手を前へ出した。その瞬間、王牙一味のカスパール、甲賀、宗次、ゲインが一斉に襲いかかった。


「!!」

「御首、頂戴!!」


まず、甲賀が鎖鎌を手に、ルークに向かって投げ、腕を絡め取った。


「ヒャッハー!!」


続いて、ゲインが両手にナイフを手にして突き刺そうと両手を振り上げる。

しかし、ルークは甲賀の鎖鎌を引きちぎり、振り回してブーメランのように投げ、ゲインの顔面に叩きつけた。


「ぐえっ!」


鎖が顔面に激突し、ゲインはその勢いのまま床に倒れた。


「斬る・・・!!」


背後から宗次が鉄パイプを持って、"斬り"かかってきた。

ルークはすかさず後ろを振り向き、白羽取りで鉄パイプを掴んだ。掴んだ際にスーツの手の部分が少し切れたが、それに構わず、鉄パイプをへし折り、宗次を蹴り飛ばした。


「ターゲットロック!悪く思うな!」


カスパールはルークに狙いを定め、ミニマシンガンを乱射した。


「メフィスト!」

『おう!スピードアップ!』


メフィストは速度強化のアーツを使い、ルークの脚力を強化。強化された脚で部屋を高速で走り回り、マシンガンの弾をよけていく。


「速い・・・!ならば、こいつだ!ミサイル発射!」


カスパールは武器を背中のミサイルポッドに変え、発射。ミサイルはルーク目掛けて飛んで行く。

すると、メフィストはスーツの両足を鳥のようなかぎ爪状に変え、ルークはそれを壁に食い込ませるように突き刺しながら壁を登っていった。

ミサイルはコースを外れて壁に激突して爆発。壁に大穴が開いた。


「とうっ!!」


ヒーローらしい掛け声とともに、ルークは壁からジャンプした。


「見ろッ!!これが私が修行して身に着けた技・・・!!」


ルークはそう言うと、右手に白く着色された風のような物体が集まり、輝きを放ち始めた。


『!?』

「あれは・・・!?」


カスパール達は目を見開き、ルークの手に輝いた、白い物体に驚いた。


「色こそ違うが・・・」

「あれはまさしく・・・!」


カスパール達が驚く中、後ろで表情を変えずに様子を見ていた王牙も、玉座から立ち上がり、多少は驚いていた。


「・・・フハハハハハハハハッ!!この短期間で、よくぞ身に着けた!ルーク・エイマーズ!!」


王牙はルークが手に入れた新しい力を見て、高笑いを上げた。それもそのはず、ルークが身に着けた新しい技、それは王牙と同じものだからだ。そして、その力の正体は、「闘気」。


「名前は確か・・・ラセツショウ!!」


ルークは右手に溜めた闘気の塊を発射した。


「皆、よけろ!」


カスパールの一言で、4名はすかさず闘気の塊をかわした。闘気の塊は床に激突し散ってしまったが、床に激突した瞬間、凄まじい衝撃波が巻き起こった。


「ぬっ・・・!!」

「くうぅ・・・!!」

「ひいぃっ!!」

「チィッ!!」


凄まじい衝撃波にカスパール達は吹き飛ばされそうになるも、両足に力を入れて踏ん張った。

対し、王牙の方は仁王立ちのまま余裕そうに涼しげな顔をしている。


「まだ終わっていないぞ、来い!」


ルークは床に着地し、構える。それに応じるようにカスパール達も構えた。


「もうよいッ!」


だがその時、王牙の一言にカスパール達が構えを解いた。


「王牙様、何故!?」

「後は俺がやる。奴が闘気を身に着けたのなら、その力を確かめる必要がある。皆の者、下がれ。」


王牙の命令に、カスパール達は従い武器を降ろし、すごすごと後ろに下がっていった。


「貴様と戦うのは、最初に会った時以来か。」

「最近のことなのに、懐かしく思うよ。」


ルークと王牙はまるで友人のように話し合いながら、互いを睨みつけた。


「あれから私なりに修行したが・・・ようやく闘気を使えるようになったよ。私の特技・・・『瞬間記憶』が役に立ったかな。」

「言いよるわ。だが、まだ甘い。さっきの一撃でこの床に穴を開けることができんようでは・・・話にならん。」


王牙はそう言って床を軽く叩いた。

すると、ルークは笑った。


「ハハハ・・・君の方こそ、甘いんじゃないか?」

「何?」


ルークの一言に、王牙はピクリと眉を動かした。


「まだ手札がある!私にはまだ技が残ってる!!」


ルークはそう言うと、両手を広げ、手のひらに闘気の塊を溜めた。そして、その二つを合わせ、両手を前に突き出した。


「両手撃ち!?」

「ほぉ、来い!」

「ラセツキャノン!!」


ルークは両手から闘気の塊を放ち、王牙はそれをよけずに受け止めた。先ほどの倍の衝撃が王牙に激突する。


「むうぅぅ・・・!フンッ!!」


王牙はルークの一撃に耐えきった。体にはかすり傷程度の傷が残ったが、王牙は気にせず、ニヤリと笑った。


「やるなぁ・・・!」

「どういたしまして。でも、技は残ってるぞ!お披露目してやるよ!」


ルークは叫び、今度は片手に闘気を溜めた。そして、その闘気に覆い被さるように、猛片方の手を握るように乗せる。


「ラセツショットガン!!」


ルークは少し王牙の所へ近づき、両手の指の隙間から闘気を発射した。隙間から飛び出す様はまるで散弾銃の如く、王牙に襲いかかる。


「ふん、こしゃくな・・・・!」


王牙は闘気の散弾を物ともせず、仁王立ちを貫いた。その時、散弾の後ろからルークが飛び出し、王牙の顔面に拳を叩きつけた。


「や、やった!一撃を与えた!」


ルークの一撃を受け、王牙は少しよろめいたが、すぐ持ち直し、ルークを睨みつける。


「やるようになったな、ルーク・エイマーズ!だが・・・貴様が使った技は、俺が昔通り過ぎた場所に過ぎんッ!!」


王牙は叫び、目にも止まらぬ速さでルークを頭上へ殴り飛ばした。


「見るがいい!羅刹掌・衝天!!」


王牙は手を上空に突き上げ、手のひらから巨大な闘気を放った。


「メフィスト、盾を!」

『ダメだ、間に合わん!!』


メフィストは盾を作って身を守ろうとしたが間に合わず、ルークは闘気と激突し吹き飛ばされ、天井に激突した。


「ぐっ・・・!!まだだ!」


スーツの背中から翼が生えた。そこからさらに翼を変形させ、全身を纏い、ドリルのような尖った形に変形した。


「羅刹ジェット!」


ルークは両手のひらから闘気を発射。闘気による加速と音波による加速で、上空から王牙に向かって超スピードの突進を繰り出す。


「むぅん!!」


王牙はドリルに変形したメフィストの体を挟み込むように拳を繰り出し、突進を止めた。


「貫通力のある攻撃で俺の闘気のバリアを破壊しようとしたか・・・だが、無駄だったようだな。

『そうかな・・・?』


メフィストはボソリと言うと、ドリル状の形態からスライムのような形に変形し、王牙の拳に纏わりついた。


「何?」

「この時を待っていたぞ、王牙!ラセツ・・・!」


ルークは右手に闘気を発生させ、さらにそれを変形させて右手に纏い手刀を作った。


「スピアッ!!」


手刀を槍とし、王牙の顔面目掛けて突いた。しかし、王牙は顔を少し右にそらしてよけた。手刀は闘気のバリアを突き破り、肩のつけ根に突き刺さった。


「ッ!!?」


肩に手刀が突き刺さった瞬間、ルークは腕に痛みを感じ、思わず手刀を抜いてしまった。


「うおおおっ!!」


王牙はルークの胸倉をつかみ、投げ飛ばした。


「くっ・・・!」


ルークは投げ飛ばされながらも、着地し構えた。ふと、痛みが走った右腕を見てみると、噛み傷の様なもの・・・というよりも、えぐられたような後ができていた。まるで肉をミンチにするマシーンにえぐられたかのような後があり、血が噴き出している。


「これは、一体・・・!」

『私の体ごとえぐってくるとは・・・!』


驚きながら腕を抑え、王牙の方を見ると、王牙の口元に血が付着していた。


「ッ!あれは、まさか・・・!?噛みきったのか!?私の腕の肉を!?」


傷口の跡と大きさから、ルークは王牙が自分の肉を噛みきったのだと判断した。

王牙は見破られても慌てることなく、ニヤリと笑って噛みきった腕の肉を吐き捨て、自分の歯を見せた。


「虫歯はないぞ。」

「・・・ッ!!」


ルークは自分の腕を噛みきった王牙の咬合力に絶句していた。

絶句しているルークを我に返そうと、メフィストは簡単に腕の止血をし、ルークの頬を叩いた。


『おい!ボーッとするな!!』

「す、すまん!」

『いいか?奴の噛みつきに掴まるな!まず、奴と距離を離しつつ・・・・!』

「危ない!!」


その時、作戦を話すメフィストとルークを無視し、王牙が闘気の塊を放ってきた。

先に気づいたルークは咄嗟に横に跳んでよけた。


『貴様ァッ!!何をする!?』

「ボーッと突っ立っているからだ。ルーク、貴様は確かによくやった。」


王牙はふと、ゆっくりとルークに向かって歩き始めた。


「お前は"羅刹剛拳"の使い手でないにも関わらず、闘気を見ただけで会得し、この俺を愉しませた。」


王牙は拳を握り、その場で仁王立ちした。


(な、なんだこの構えは!?隙だらけに見えるが・・・攻め込めない!)


ルークは王牙の構えが不気味に思えた。格闘家にとって、構えとは生命線であり攻撃の要。構えがなければ攻撃は成り立たない。何より、安定した攻撃を繰り出す為にも構えは必要なのである。王牙も格闘家ならば、知らないはずはない。

故に、王牙の構えがなおさら不気味だった。


「だが、まだ足りぬ。何より、貴様は"羅刹剛拳"の奥義を身に着けておらぬッ!!」

「お、奥義!?」


「おおおおおおおおおおっ!!!」


その時、王牙は突然声を張り上げて叫んだ。その叫びは大地を振るわせ、屋敷中の窓ガラスが割れた。


「な、なんて声だ・・・!!」

「見せてやろう・・・これが貴様に与える最大の讃辞だッ!!!」


間合いに入り、王牙は叫んだ。ルークは体を震わせ、すぐさま防御に移ろうとした。

しかし次の瞬間、ルークの腹に鋭い衝撃が走り、吹き飛ばされた。


「・・・ッ!!?」


悲鳴を上げることなく、ルークは吹き飛ばされ、地面に倒れた。


「い、今のは一体・・・!?」

「何も見えなかった・・・!」

「速すぎたのか・・・!?」

「どっちにしろ、おっかねぇ・・・!」


後ろにいたセシリアとカスパール達は王牙が何をしたのか分からず、ただただ呆然と立ち尽くしていた。


「うっ・・・!かはっ!ごほっ!メ、メフィスト!メフィスト!!マスクの口元を開けてくれ!!」


ルークの呼びかけに、メフィストは答え、マスクの口元だけ露出させた。


「うっ・・・!!うえぇっ・・・!!」


その瞬間、ルークは嘔吐し、その場にうずくまった。王牙の一撃を食らい、まだ消化されていなかった食べ物が口から出た。


「はぁ・・・はぁ・・・!」

(ゲロなんて、ボクサーの時以来だな・・・!)


ルークは昔のことを思い出しながら、ゆらりと立ち上がった。

そして、ルークは考えた。王牙は一体、何をしたのか、と。目にも止まらない速さのパンチ?それともキック?はたまた闘気による攻撃?

自分の腹部に直撃した、鉄球が超高速でぶつかったような一撃の正体・・・ルークはそれを明確にしておきたかった。


「何をされたかわからない・・・という顔だな。ならば教えてやろう。"羅刹剛拳"の奥義・・・『畏怖の構え』。」

『畏怖・・・?』

「構えとは格闘家にとって生命線。ならば、構えを取らせなければ格闘家は自身の武器を失う。"羅刹剛拳"の極意は、相手を恐怖によって支配し蹂躙することにある。『畏怖の構え』はその究極・・・構えのみで相手を畏怖させる・・・それこそが奥義。」

(恐怖・・・?まさか・・・!)


王牙の説明を聞き、ルークはあの時自分は恐怖したのだと気がついた。

あの時、「畏怖の構え」でルークが恐怖した隙を突き、王牙が超高速のパンチをルークの腹に叩き込んだのだ。


「なるほど。よく分かったよ。でも、いいのかな?敵である私に種明かしをするなんて・・・」

「構わん。貴様はもう、俺に一撃も与えることはできない。」

「言ってくれるな・・・!じゃあ、やってみようじゃないかッ!!」


ルークは王牙に飛びかかった。


「羅刹バズーカ!」


飛びかかり、近距離から闘気を放つ。しかし、王牙は立ち尽くしたまま超高速のパンチを繰り出して闘気を弾き、さらにルークを殴り飛ばした。


「がはっ!!ま、まだまだッ!!」


殴り飛ばされ、床に転がりながらも、ルークは立ち上がった。


「メフィスト、スピードアップだ!」

『よし!』


ルークは「速度強化」のアーツで脚力を強化し、王牙の周りを円を描くように高速で走り回る。


「ラセツガトリング!!」


ルークは王牙の周りを走り回りながら闘気を発射する。円を描くように走り回っているため、全ての方向から闘気の塊が王牙に襲いかかる。

しかし、王牙はそれに動じることなく、「畏怖の構え」のまま手だけを使い、次々と闘気を弾いた。もちろん超高速。


「ラセツ・・・ボム!!」


ルークは一瞬立ち止まり、王牙の足元に向かって大きめの闘気を放った。闘気は地面にぶつかって散開し、煙の様に辺りに立ちこめた。


「煙幕か!」

「王牙様!」


煙が立ちこもり、王牙の姿が見えなくなった。

ルークは、その煙が立ちこもる中でゆっくりと王牙に近づいていく。


(落ち着いて・・・こんな煙の中じゃ、目も効かないだろう・・・!だまし討ちをするのは忍びないが・・・悪く思うな!)

「こっちだ、王牙ッ!!」


ルークは大声を出し、王牙は背後のルークに目にも止まらぬ速さの拳を繰り出した。


(速い!)

「くっ!」


ルークはその拳をなんとか受け止めた。

しかし、すぐさま次の攻撃が繰り出され、ルークは咄嗟に受け止めた。王牙の攻撃は超高速。すなわち、目にも止まらない速さ、音速とも取れるものだった。そのあまりに速い攻撃にルークは防ぐのがやっとだった。

だが王牙はそれに構わず、ルークに打撃の連打を繰り出していく。ルークはなんとか防いでいたが、限界に近づいていた。


(攻撃が速すぎて、反撃できない!何故だ・・・!?どうしてこんなに差が・・・!!)

「愚か者がッ!!」


次の瞬間、王牙は手を突き出してルークの頭を鷲掴みにした。


「ッ!?」


王牙はルークを頭を掴むと、そのまま持ち上げた。


「何をする!?離せッ!!」

「人間の心の奥底には恐怖が眠っている。例え恐い物知らずな奴でも、恐怖心は眠っている。『畏怖の構え』は人間の恐怖心を目覚めさせ、相手の動きを鈍らせる。後は攻撃に徹するのみ!そして攻撃のみに徹することで、無駄な動作を無に還し、音速の拳を繰り出せるッ!!」


王牙はルークの頭を掴みながら「畏怖の構え」のタネを明かした。特技のタネを明かしても、王牙は顔色を変えない。それは「畏怖の構え」は誰にも破れないという自信故だった。


「ルーク・・・貴様とて例外ではない!貴様の心にも恐怖はある!!」

「恐怖が・・・?わ、私にそんなものは・・・!」

「貴様の動き、さっきと比べて鈍かった!それはこの俺に畏怖しているのと同じだ!!」


王牙の反論にルークは何も言えなかった。


「私に、恐怖が・・・?」

恐怖・・・それはルークが幼いころずっと体験していたことだった。養父と養母に虐待され、毎日恐怖の連続だった。だが、大人になって反抗したことをきっかけに恐怖は無くなったと思っていた。

しかし、無くなってはいなかった。幼い頃に受けた恐怖が無くなることはない。そして反抗したことへの罪悪感から、さらに恐怖を感じる。

ルークは優しすぎる故に・・・恐怖を感じてしまうのだ。


「私は・・・!私は・・・!!」

「潮時か・・・ならばここで滅せい!!」

「がはっ!!」


王牙はルークの頭を掴んだまま、ルークを床に叩きつけた。

そして、叩きつけたと同時にルークを掴んだ手に闘気を溜めた。


「!!」


ルークはそれを見て戦慄した。

本気で自分を殺す気だ、闘気を零距離で叩き込むつもりだ。

ルークの脳裏に"死"がよぎる。抗おうとしても、どうすることもできない。そんなとき、メフィストが声を荒げて叫んだ。


『バカが!例え零距離で攻撃しようと、私がスーツになってこいつの体を防御している限り、ダメージは受けん!残念だったな!!』


メフィストは警告の如く王牙に向かって叫んだ。その次の瞬間、王牙の闘気が零距離でルークの顔面目掛けて放たれた。


「ッ!?」


その時だった。放たれた闘気はメフィストの体が変化したスーツを通り抜け、ルークの生身に直撃した。


「がっ・・・!!」

『バ、バカな・・・!!』


メフィストは何が起こったのか分からず、困惑した。闘気はメフィストの体をすり抜け、ルークの体に直撃した。

これまでの戦いにおいて、ルークが大きな怪我もなく軽傷で済んだのはメフィストがいたおかげだった。メフィストの体が頑丈なのと、スーツに変化したことでルークの身を守っていた。しかし、王牙にはそれが通じなかった。メフィストは何故自分に攻撃が当たらなかったのか分からないでいた。

メフィストが困惑しているにも関わらず、王牙は続けてルークに闘気を叩き込んだ。闘気を叩き込む度、ルークの体が跳ねる。


『や、やめろ貴様ァッ!!』


メフィストは声を荒げ、王牙を止めようと手を伸ばした。しかし、王牙の背後から、王牙が契約した悪魔「バルバトス」が現れ、メフィストの首を掴んだ。


『バ、バルバトス・・・!!』

『引っ込んでいろ、道化。己の相棒が散る様を見るがいい。』

『き、貴様ァ・・・!!』


二人の悪魔が対峙している横で、王牙はルークを片手で持ち上げた。


「ふん、たった4発で限界か。惰弱な!」

『ルーク!』


ルークは闘気の零距離射撃を4発喰らい、意識を失った。手足をぶらりと下げ、まるで首つり死体にも見える。


「所詮この程度か・・・フンッ!!」


王牙はボソリと呟き、窓の近くへ移動し、窓ガラスに向かってルークを投げ飛ばした。


『うおおああああああ!!』


メフィストが叫ぶ中、意識のないルークはただ投げ飛ばされ、ガラスを破って外へ出た。


「今の声・・・!?」

「メフィストか?外から聞こえたな。」


1階でデストロイドと戦っていたリンとジャッジはメフィストの叫び声を聞き、外に飛び出した。

外へ飛び出すと、ボロボロになったルークがうつぶせで倒れていた。


「ルーク!!」


二人はすぐさまルークの元に駆け寄った。


「王牙の奴にやられたのか?」

『ああ、綺麗さっぱりな!おい、ルーク!しっかりしろっ!!』


さらに屋敷の中から、メアリを奪還したロックとレオナが飛び出した。


「おっさん!!」

「パパ!!」

『メアリ!無事だったか!』

「うん・・・でもパパが・・・!!」

「おい、おっさん!!しっかりしろよ!!」


ロックはルークの側に駆け寄り、体を揺すった。すると、すぐさまジャッジに遠ざけられた。


「無闇に動かすな!万が一のことがあったらどうする!!」


と、その時だった。どこからともなく手を叩く音が聞こえた。


「はーい、ゲーム終了~♪」


煽るような一言とともに、どこからともなくスポンサーが現れた。


「てめぇ・・・!!」


全員、スポンサーを睨みつけた。スポンサーはそれを気にせず話を続けた。


「このゲームの勝敗は引き分けだな。確かにお前らは"景品"であるメアリお嬢ちゃんを奪還したが・・・・俺達の方も目的を完遂させてもらった。」

「ああっ?わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇぞ!!」

ロックはスポンサーに向かって突進した。


すると、

「フリーズ・ソード!!」

掛け声とともにロックに向かって、氷柱が飛んで来た。


「ぬおっ!?なんだ!?」


ロックは体を硬質化して氷柱を防いだ。


『今のはまさか・・・!!』


さらに、スポンサーは指を鳴らした。すると、スポンサーの後ろから、以前倒して警察へ突き出したはずのジョニー&フリードが現れた。


『フリード!?貴様・・・地獄へ戻ったんじゃないのか!?』

『だ~れが戻るかよ!お前をぶち殺すまで戻れるかっ!!だよなぁ?ジョニー?』

「そうさ!氷コンビ復活だ~!」


現れたのはジョニー&フリードだけではなかった。

前にリンとロバートが死力を尽くして倒した敵、中国拳法「器械拳」の使い手、ガオ・リアンもいた。


「ガオ・リアン・・・!」

「久しぶりだなぁ~、龍北青拳の女!あの空手野郎はいないみたいだなぁ・・・」


さらに、

「ヒャッハー!!俺様もいるぜぇ!!」


前にルイスが(間接的に)倒した「火」のアーツを持つ放火魔、ファイアーヘッドもいた。


「ヘイヘイヘーイ!エレメント・ガイはいねぇのかァ?これじゃあの時のお返しが出来ないぜぇいッ!!」

「なんでこいつらがここにいるんだ!?全員ムショ送りにしたはずだろ!?」

「3人だけじゃないぜ?」


スポンサーはそう言うと、さらに後ろからぞろぞろと大人数の人間達が現れた。その人間達の人相はどれも凶悪そうで、いかにも悪人という者ばかりだった。

ロック達はそれを見て目を疑った。目の前に現れた大勢の人間達は、前に自分達が倒し、捕まえた悪党ばかりだったからだ。


「そんな・・・どうして・・・!?」

「ある人の手引きでムショから出してもらったんだよ。その"ある人"の存在を・・・お前らが知る由もないがな。ケハハハハハハッ!!」


ガオは高笑いを浮かべた。


『チッ・・・!全てはこの為に仕組んだというのか!?』

「ご名答!こっちは元々メアリお嬢ちゃんは目的じゃなかった。目的はこいつらの解放だ。」


スポンサーは種明かしとばかりにメフィスト達に今回の作戦と仕組んだ罠の解説を始めた。


「ウチラは少数精鋭・・・多少なりとも戦力は欲しい。だが、傭兵を雇うにも金はかかるし、政府にも繋がっているかもしれない・・・デストロイドを無限に作ろうとしても金がかかるし、メンテも大変だ。そこで、こいつら犯罪者、それもお前らに捕まった奴らの力を借りることにしたわけだ。お前らに怨みを抱いているこいつらなら、ちゃんとした戦力になってくれる・・・そう思ったのさ。」


スポンサーはまず、犯罪者を戦力にしようとした経緯を話すと、手をパンと叩いた。


「さて!どんな作戦を立てるか・・・俺は考えた。そこで思いついたのが、人質だ。お前らが大事にしてるメアリちゃんを攫えば、お前らは躍起になって取り返しにくるだろ?そしてメアリちゃんを攫い、お前達が来るまで準備を整えた。ムショから出す手はず、お前らと戦わせるデストロイドを準備して・・・作戦決行!お前らが戦ってる間に犯罪者達をムショから出したってわけさ。こうすれば、お前らは体力を消耗し、こいつらとまで戦う気力を失う・・・・ってわけだ。事実、お前らの体力はそこまで残ってないだろ?」

「くっ・・・!」


作戦を語るスポンサーに痛いところを突かれた。スポンサーの言う通り、ルーク達はデストロイド達や王牙一味と戦って体力と気力を消耗していた。このまま続けて戦うのもままならない。さらに最悪なことにリーダーのルークまでもやられている。


「チッ・・・ここは退くぞ!」

「ジャッ、ジャッジ先生!?何言ってんだよ!?ここで逃げたら、あいつらの思うツボだ!!」


逃げようと言うジャッジに、ロックは反論した。すると、ジャッジはロックの胸倉を掴んだ。


「全滅する危険があるからマズイんだ!ここで立ち止まって戦ったら・・・それこそ相手の思うツボなんだよ!!」

「うっ・・・」

「ロック、悔しいけど・・・ここは逃げよう!」

「ちくしょう・・・!」


ジャッジとレオナの説得に、ロックは悔しがりながらルークを背負った。


「おっ、逃げるのかぁ?」

「ヒーローって奴は情けねぇなぁ!勝てないと思ったらトンズラかよ!ギャハハハハハハハ!!」


犯罪者達は逃げるルーク達を罵倒する。その罵倒は気絶したルークを除いた全員に響いていた。悔しさで溢れ、もどかしい気持ちに包まれた。しかし、ルーク達は諦めてはいない。いつか必ず、100倍にして返すと心に誓い、その場を立ち去ったのだった。



「はい、もしもし・・・お~、社長~♪」


ルーク達が立ち去った後、スポンサーの携帯に着信が入った。相手は「ギルバート・インダストリー」社長、ギルバートだった。


『手はず通り、クズどもは自由にしてやったぞ。』


犯罪者達の刑務所からの解放を手引きしたのはギルバートだった。ギルバートは有一、ルーク達に正体を知られていない。そのため、行動しやすく、怪しまれることなく作戦を決行することができた。


「いや、すいませんね、社長~。こんなことに手間をかけさせちまって♪」

『口調的に申し訳なく感じてないのが気になるが・・・これも私の『世界征服』の為だ。』


ギルバートはさらりと自らの目的を述べ、ニヤリと笑いながらワインを飲んだ。


「それにしても、アンタもひどい男だねぇ。慈善家で通ってるのに、犯罪者どもに武器を売り、汚職も平気でやってのける・・・おお、怖い怖い。」

『表で媚びを売っておけば、バカどもはそれを信じてヘラヘラ笑って怪しもうとはしない。全くもってこの世はバカばかりだ。マスコミも、政治家も、人も・・・世の中バカで溢れている!だからこそ、この世は私のような真の天才が支配するべきなのだ!』

「・・・人間がバカばかりなのは認めるが・・・まぁいいか。未来の支配者に栄光を。」


スポンサーはギルバートの馬鹿げた野望にため息をつきつつ、通話を切った。

「頭脳を拗らせた阿呆を相手にするのも面倒だな・・・さて・・・」

スポンサーは小声でギルバートを小馬鹿にしつつ、3階、王牙の部屋を見上げた。


王牙は自分の部屋で食事を取っていた。メニューは血の滴る高級ステーキと赤ワインのみ。

むさぼるように食べていると思いきや、ナイフとフォークを使って綺麗に、マナー通りに食べている。


「王牙様、ステーキのおかわりをお持ちしました。」


その時、セシリアがステーキのおかわりを持って部屋に入ってきた。


「うむ・・・」


王牙は返事をしながら今食べているステーキを平らげ、おかわりのステーキを食べ始めた。


「・・・王牙様?そろそろ適量なのでは?」

「むっ・・・そろそろか。」


王牙は超が付くほどの大食いだった。今食べているステーキも、すでに50枚前後も食べている。ハンバーガーであれば100個は余裕、サラダであれば200皿は食べられる。

王牙が扱う「闘気」は体力をかなり消耗する。王牙は余裕で使っているが、実際はかなり消耗しており、今回の戦いでもそうだった。故に、王牙は大量の食事を摂取しているのだ。


『王牙よ。』

「なんだ?」


王牙の背後にバルバトスが現れ、食事が終わり、ワインを飲む王牙を尋ねた。


『何故あの時、あの男を殺さなかった?汝なら簡単に殺せただろうに。』

「・・・・」


バルバトスの問いかけに、王牙は無言になった。事実、あの場面でルークを殺さなかったことは不可解に感じるのはバルバトスだけではない。王牙の今の実力ならば、ルークを簡単に殺すことは可能だった。なのに王牙はそれをしなかった。


「・・・あの男のことが、気に入った。」

『気に入った・・・?あの男のことをか?』

「解釈は任せる。」

『・・・まぁいい。汝の好きな様にすればいい。我は戦えればそれでいい。』


バルバトスは捨て台詞を残したと同時にフッと姿を消した。


「ルーク・・・必ず這い上がってくるがいい。」


王牙がルークを殺さなかった理由は定かではないが、王牙はルークに対して期待を寄せていた。

ルークが敗北から這い上がり、また自分に挑んでくることに想いを寄せながら、王牙はワインを飲み干したのだった。




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