第33話「突撃開始」
「ロック、久しぶりだな!」
「おう!」
「パラディンフォース」にロックが戻って来た。それは、ロックがメアリ救出作戦に参加するためだった。
「でも、驚いたぜ・・・・まさかシンさんが裏切るなんてな・・・」
ロックは電話でシンが裏切ったことを知らされ、怒りを露わにしていた。ロックにとって、この作戦はメアリの救出だけでなく、裏切り者への制裁もかねていた。
「とにかくだ、これで準備は万全だ。後は王牙の連絡を待つだけだ。」
「待ってなきゃいけないのが、辛いところだな・・・・」
ルーク達はすぐにでも行動に出たかったが、シンは「連絡を待たずに屋敷へ来ればメアリの安全は保証しない」と言った。無闇に突っ込めば、メアリに危険が及ぶため、ルーク達は待つしかなかった。
「メアリ、怖がっているだろうな・・・・」
そのころ、攫われたメアリは・・・
「う~ん♪あっ、そこそこ・・・気持ちいい~♪」
ルーク達が心配してることなど知らず、部屋でセシリアに膝枕されながら耳掃除をしてもらっていた。
「はい、終わりましたよ。」
セシリアはそう言って、メアリの耳に息を吹きかけた。
「はぁ・・・」
メアリは気持ちよさそうにため息をつき、体をブルブルと震わせた。
「やっぱり私、セシリアさん好き!」
「きゃっ!」
メアリは体を起こすと同時にセシリアに抱きつき、胸に顔をうずめた。
「はぁ~・・・この感触、とろけちゃいそう・・・」
メアリはうっとりしながら胸の感触を堪能した。
「もう・・・女の子なのに、はしたないですよ。大っきな甘えん坊さんですね、メアリ様は。」
セシリアは小さい子を叱るような優しい口調でメアリを軽く叱った。
すると、メアリはキリッとした目付きでセシリアを見つめ、
「女の子だって、年上のお姉さんに甘えたい時があるんです!!というわけで、たっぷり甘えさせていただきます!」
メアリは叫ぶと同時にもう一度セシリアに抱きついた。
「でも、私には王牙様が・・・」
「そういえば、前々から気になってたんだけど・・・・セシリアさんはどうして王牙さんのことが好きになったの?」
メアリはセシリアに尋ねた。すると、セシリアはポッと顔を赤く染めた。
「そうですね・・・抱かれた時の腕が優しかったのと、笑顔がすごく素敵で・・・・」
「ええええええええっ!!?」
セシリアの一言に、メアリは思わず叫び、抱きつくのを止めた。
「そ、そんなに驚かなくても・・・・」
「いやいやいやいや!あんな化け物じみた人の笑顔が素敵だなんて・・・・想像できないもん!あの人が笑ったとしても絶対、『死ぬがよい・・・』とか言うもん絶対!間違いないもん!だって、あの顔は・・・・!」
メアリは王牙に対する偏見を話している最中、セシリアの目線が自分に向いていないことに気がついた。セシリアの目線はメアリの後ろに向いていた。
「!!」
その時、メアリは体に悪寒が走るのを感じた。セシリアの目線の高さから、後ろにいるのはかなりの高身長・・・この屋敷の中で一番背の高い男と言えば・・・
メアリはそっと後ろを向いた。その瞬間、メアリは青ざめた。
「あ・・・あ・・・」
「どうした、続けろ。」
背後に立っていたのは、王牙だった。メアリが話している間に部屋に入ってきたのだ。
顔は無表情だが、どこか怒っているようにメアリには見えていた。
「続けろ。俺の顔がどうした?」
「え、えっと、その・・・凛々しい顔つきだと・・・」
メアリは咄嗟に嘘をついて誤魔化そうとした。だが、声が小さかったのか、王牙には聞こえず、
「聞こえんッ!!!」
王牙は大声を上げた。
「ひっ!」
王牙の叫びに、メアリはビクッと体を震わせた。そして、メアリは両目に涙を浮かべた。
先ほどと違って逃げ場がないのと、何を言っても殺されてしまうのではないかという恐怖からメアリは・・
・
「う~~っ・・・」
思わず目から涙をこぼし、子どもの様に泣きじゃくった。
「な、何故泣く・・・?」
王牙は珍しく戸惑った。メアリが何故泣いてしまったのか理解していなかった。
「あらあら・・・大丈夫ですよー、よしよし。」
戸惑う王牙を見かねて、セシリアがメアリを慰め始めた。
「じーっ・・・」
セシリアはチラリと王牙の方を見ると、貶むようなジトッとした目付きで見つめ始めた。
「やめろ。見るな。」
「王牙様、最低です。こんな小さい子を泣かせるなんて・・・・」
「違う、不可抗力だ。」
「罰として、王牙様が慰めてください!」
セシリアは態度を変えずに言い訳をする王牙に腹を立て、怒った態度を取りながら部屋を出て行った。
「待て!二人きりにするな!」
王牙は思わず声を荒げたが、セシリアはそれを聞かず出て行った。
「むう・・・」
王牙は唸り声を上げ、チラリとメアリを方を見た。メアリは部屋のベッドに隠れるように座っていた。
「・・・すまん。」
王牙はメアリに一言謝った。
「えっ?」
メアリはベッドの陰から少し顔を出した。
「すまない・・・・不可抗力だが、俺はお前を怖がらせてしまったようだ。本当にすまなかった。」
王牙はそういって、ベッドに腰掛けた。王牙の重い体重に、ベッドが軋んだ。
それを見て、メアリもベッドに腰掛けた。
「・・・お前は、俺のことを恐怖の大王か何かだと思っているようだが・・・それは違うぞ。俺にだって弱いところはある。例えば・・・俺は、カップ麺が作れん!」
王牙はキリッとした表情で呟いた。
「・・・はい?」
メアリは王牙の拍子抜けするような一言に、思わず声を漏らした。
「蓋を開けようとすると、思わず力が入ってしまい・・・容器を粉砕してしまってな。」
「は、はぁ・・・」
「だから、作る時はカスパール達に手伝ってもらっている。もっとも、甲賀の奴がインスタント食品を好まんから、滅多に喰わんがな。」
「プッ、アハハハッ!!」
メアリは可笑しくなって、思わず笑った。
「やっと、笑ったな。」
「いや・・・ちょっと可笑しくなっちゃって・・・」
「後、俺は子どもが苦手だ。お前のように泣き出してしまうと・・・どうしていいかわからなくなる。」
「す、すいません・・・」
王牙の一言で、メアリはついさっき泣いてしまったことを恥じ、一言謝った。
「よい。泣かれるのは苦手だが、笑った顔は好きだ。」
「えっ・・・」
メアリは思わず声を上げた。王牙への印象が違って見えてきたからだ。
「子どもは笑顔が一番だ。」
今の今まで、王牙のことを暴君のような雰囲気を出していた王牙が笑った。その笑顔はメアリの父、ルークを彷彿させた。メアリ自信もそのことに気がついた。
「・・・ねぇ、前に『世界の全てを手に入れる』って言ってたけど・・・それって王様になること?どうして王様になりたいの?」
メアリはここぞとばかりに尋ねた。
「・・・暴力でしか、解決できないことがあるからだ。」
王牙はしばし黙り込んだ後、答えた。
「それ、どういうこと?」
「・・・俺がひどい生まれ方をしたのは、知っているか?」
「う、うん・・・シンさんから聞いた。」
「あの頃から、俺にとって信じられる物は暴力だった。同年代の友人も、孤児院の大人も、信じることなど出来なかった。だからこそ、俺は力を求めた。そして俺は・・・その力を手に入れた!俺はこの力で、俺の正義を実行する!」
王牙はそう言って立ち上がり、拳を強く握った。
「・・・力だけじゃ、ダメだと思う。」
「・・・何?」
メアリの一言に、王牙はチラリと睨みつけた。
「その・・・正義って、力だけじゃどうにもならないものだと思うの!だから、もっとこう・・・なんていうか、もっと他の、大事なものがあると思う。上手く言えないけど、多分それが大事だと思う。」
「・・・そうか。そう思うなら、きっとお前は正しい。」
王牙はフッと笑い、メアリの頭に手をポンと置いた。
「いいか?今のこの世界は、傷つくことばかりだ。だが、それから逃げてはならない。痛みを知れ。痛みを知らずに強くはなれない。わかったな?」
「う、うん・・・」
王牙はそう言うと、部屋から立ち去った。
部屋を出るなり、王牙はスポンサーの部屋にノックせずに入った。
「おいおい。ノックぐらいしてくれよ、ダンナ。今いいとこなんだぜ?」
スポンサーは部屋でレコードのクラシック曲を聴きながら紅茶を飲んでいた。
「奴らに連絡しろ。『明日の朝、小娘を取り返しに来い』とな。それから・・・あの情報屋の韓国人も戦闘に出せ。俺達に比べれば戦闘能力は低いが、まぁ役に立つだろう。」
「OK、連絡しとくぜ。」
そして翌日、スポンサーの連絡を受け、ルーク達は屋敷の前へと集まった。
「ようやくメアリを助けられるな・・・どれだけ待ったことか・・・!」
その時、屋敷の玄関ドアからスポンサーが出てきた。
「お~、これはこれは・・・ヒーロー達が勢揃いだな~、子ども達もきっと大喜びだろうなぁ。」
「・・・君の冗談を聞きにきたわけじゃない。」
スポンサーの挑発的な発言に、ルークは怒りを滲ませ、拳を鳴らした。
「メアリはどこだ!」
「そう喚くなよ。お嬢ちゃんは屋敷の中にいる。どこにいるか、見つけられるかな~?」
スポンサーは懲りずに挑発的な発言を取った。すると、それに怒りを覚えたジャッジは拳銃を抜き、銃口を向けた。
「てめぇのくだらねぇギャグを聞きにきたワケじゃねぇんだ。さっさと言いな!」
「・・はぁ、まったくジョークっていうものが・・・・」
スポンサーはため息をつき、よそ見をした。すると、それと同時にジャッジが拳銃の引き金を引き、スポンサーに向けて弾丸を放った。
「わからねぇんだなァ・・・」
その時、スポンサーはよそ見をしながらも手を突き出して弾丸を掴んだ。そして、それを見せびらかすように地面に落とした。
「弾丸を・・・!」
「あの野郎・・・ホントに人間か!?」
「さーて、こっからがメインイベントだ!主役は5人のヒーロー達!景品は屋敷のどこかに囚われたお嬢ちゃん!そして、立ちはだかるは・・・・」
スポンサーはニヤリと笑ったかと思うと、指を鳴らした。すると突然、スポンサーの周りと屋敷の周りに四角い穴が無数に開いた。
『!?』
「こ、こいつらは!」
「あの時の・・・!」
ルーク達が驚いている間に、四角い穴から現れたのは以前、ロック、ジャッジ、レオナが戦った「デストロイドβ」と同じ姿をしたロボットだった。
「ようやく量産に成功したぜ。名付けて『デストロイドγ』!この大軍勢がお前らの相手だ。じゃ、俺は屋敷の中でダンナと待ってるぜ。チャオ♪」
「ま、待て!」
スポンサーは屋敷の中へ入り、ルーク達はそれを追おうとした。しかし、目の前にデストロイドγ達が立ちはだかった。
「チッ、まずはこいつらか・・・!」
立ちはだかるデストロイド達を前に、ルークとロックを除く3名が各々武器を装備した。
「みんな、準備はいいな?」
『おう!!』
「よし・・・突撃!!」
ルークの掛け声の下、全員一斉にデストロイドの大群に向かって行った。




