第30話「美しい殺し屋」
「ととっ・・・重っ・・・」
「これも訓練だと思いなさい。」
この日、ルークとルイスは買い物に出ていた。訪れたは家具の専門店。二人はそこで本棚を購入した。しかも、既に出来上がっているものを、車を使わず手持ちで運んでいる。
「つーか、車使えばいいでしょ!?車買いなよ!車!!」
「買いたいのは山々だが、私は運転が下手でな・・・・エンジンかけて走り出した瞬間にドリフトしてしまうくらいだから・・・・」
「どんだけ運転下手なの!?」
「それに、免許の更新するの忘れて、そのまま免許無くしてしまってな・・・ハハハッ」
ルイスはルイスの話を聞いて、ため息をついた。それと同時に、「この人、アホだ」と思ったのだった。
「ん?」
その時、ルイスはすぐ隣の喫茶店に目が入った。喫茶店の中に一人の女性が座って紅茶を飲んで静かに佇んでいた。
金髪で白く柔らかそうな肌、美しく整った顔つき、魅力的で綺麗なスタイル・・・・美女と言っても差し支えない容姿を誇っていた。
「・・・・ッ!!」
その女性を見た途端、ルイスは雷に打たれたかのようなショックを受けた。
「マズイ・・・もろ好みだ。」
「えっ?」
ルイスはルークと二人で運んでいた本棚から手を離し、すぐさま女性のいる喫茶店に飛び込んだ。
「えっ!?ちょっ・・・重ッ!!ぬ、ぬおぉぉぉ・・・!!」
変身前の元の姿のルークは人前では変身できないため、そのまま重い本棚を抱えたまま立ち往生してしまう。
「いらっしゃいませー」
ルイスは喫茶店の中へ入った。扉を開けるとベルが鳴り、それに続いて店員からの挨拶が聞こえる。ルイスはそんなことを気にすることもなく、すぐさま金髪の女性のいるテーブルへ向かった。
「失礼、相席いいですか?」
「・・・・」
女性は上目遣いで睨むようにルイスを見た。
(マズイ!流石に露骨すぎた・・・?空席多いし!)
店の中は空席が多く、一人で座れるカウンターの席も空いていた。そのため、相席を願い出るのはかなり怪しい。
「・・・ええ、どうぞ。」
女性は微笑み、相席を許可した。
「あっ・・・どうも。」
(よしっ・・・!)
ルイスは席についた。すると、店員が注文を聞きにテーブルへ来た。
「ご注文は?」
「コーヒーで。」
店員が注文を聞き、立ち去って行くのを見計らい、ルイスは頬杖をついて女性のことをジッと見つめた。
「・・・何?」
本を読んでいた女性は視線に気づき、ルイスに尋ねた。
「おっと失礼・・・・あまりに美しかったもので・・・」
ルイスはキザな台詞でごまかした。
「フフッ、随分古い手使うのね。女を褒め殺して誘ってるんでしょ?」
「ハハハッ、そんな・・・」
(バレてる!!)
ナンパしていることを暴かれ、ルイスは少し焦り始めた。仕方なく、次の手を使うことにした。
「話は変わりますが・・・・あなたは"運命"を信じますか?」
「は?運命?」
ルイスは唐突に哲学的なことを話し始め、女性は困惑した。
「例えば、こうしてあなたと出会い、相席になったことは"運命"・・・!だと感じませんか?」
ルイスは今度はキザでポエムめいたことを言い始めた。
「またキザなことを・・・・」
「いや、本当だって!だってアンタを見た瞬間、ビビッ!っと・・・!!あっ・・・!」
ナンパが上手くいかないルイスは、痺れを切らし、キザな口調から普段の口調で話してしまい、声を上げた。
(し、しまったぁ・・・!!)
「え、え~っとですね・・・つ、つまり・・・・」
ルイスはなんとかごまかそうとするが、焦ってしまい、額から汗を流す。
と、その時、
「ルイスーーーーー!!」
ルークが叫び声を上げながら、喫茶店に入ってきた。
「うわっ、おじさん!?・・・あがっ!!」
ルークはルイスの脳天に鋭いチョップを繰り出した。
「君という男は・・・・!自分の仕事を忘れてこんなことを・・・!」
「い、いや、これはさぁ・・・・!」
「言い訳するな!さっさと帰るぞ!」
ルークはルイスの言い訳は聞かず、服の襟元を掴んで引っ張った。
「ちょっ、服が伸びる!ちょっと待って!」
ルイスは引っ張られながら紙とペンを取り出し、そこに番号を書いた。
「これ、僕の携帯番号!覚えてたら電話して!!」
ルイスはメモ帳ごとテーブルの上に投げた。そしてルイスはそのまま引っ張られていってしまった。
「・・・あの子がルイス・・・・面白そうな子ね。」
女性はテーブルに投げられたメモ帳を手に、ニヤリと笑った。
翌日・・・
「ふーん、それで無理矢理連れてかれちゃったんだ。」
「そうなんだよ~・・・もう少しで口説けると思ったんだけどな~」
ルイスは機能の出来事をメアリとリンに語っていた。
「アンタは女癖悪すぎ。だからルークも呆れるのよ。」
「そんなこと言わないでさ~・・・少しは慰めてよ。」
「嫌。」
ルイスの願い出に、リンは即答して拒否する。
「じゃあ代わりに私が慰めてあげる!よしよし!」
メアリは笑顔で言いながら、ルイスの頭を撫でた。
「・・・メアリちゃんは優しいね・・・」
その時、ルイスの携帯に着信が入った。
「誰からだ・・・?非通知?」
それは非通知着信だった。ルイスは電話に出た。
「もしもし?」
『ハロー。』
電話から聞こえてきたのは女性の声だった。
「えっ?誰?」
『あら、昨日のこと覚えてないの?帰り際にスマホの電話番号、書いて渡した癖に。』
「・・・あっ!」
ルイスは女性の台詞と声色に、その女性が誰なのか理解した。
「アンタ昨日の・・・!」
『やっとわかった?』
「うん。でも、どうしたの?もしかして僕に会いたいとか・・・・」
ルイスは軽い口調で冗談を言った。
だが、次の瞬間・・・
『実は・・・そうなの。』
「へっ?」
『出来れば、今すぐ会いたいの・・・・』
女性は喫茶店で見せた静かな印象とは真逆な可愛らしい声を出し、おねだりを始めた。
「・・・マジ?」
そのギャップに、ルイスは珍しく赤面し、胸を高鳴らせていた。
『うん、マジ・・・いつ会える?ねぇっ、いつ?』
「~~~~っ!!」
ルイスはギャップのある可愛らしい声に、完全にやられていた。
(いやいやいや・・・・見た目がドンピシャな上にギャップありって・・・・どストライク!!)
「わかった!すぐ行くよ!まだ日も高いし!」
『えっ、本当!?』
「もっちろ~ん!!君の為なら火の中、水の中だよ!いや、風の中や土の中でも行ける!どこで待ち合わせする!?」
『自然公園で待ってる!』
「OK!身支度してすぐ行くから!じゃっ!!」
ルイスは電話を切ると同時に、猛スピードで自分の部屋へ戻り、出掛ける準備を始めた。
着る服はデートの際にはいつも着る、所謂勝負服を着ていく。バッグには財布、携帯、小型の充電器を入れた。
「っしゃあ!!準備OK!!」
ルイスは大声で叫び、部屋を出た。すると、リンとメアリが部屋の前に立っていた。
「随分張り切ってるじゃない。」
「まぁね、相手が僕のモロ好みの人だったからね。年上で、美人で、スタイル良くて、ギャップがあってカワイイ・・・・もう、どストライクって感じ!もういい?僕もう行くよ!あっ、おじさんに『今日はパトロール行けない』って言っといて!じゃっ!」
ルイスは無理矢理話を終わらせ、すぐさま自然公園へ向けて出発した。
「いってらっしゃーい。」
「・・・全く、王牙の奴らを倒してないのに・・・・呑気なんだから。」
外へ出たルイスは自然公園に向かって全力でダッシュした。それに加えて「四元素」のアーツの一つ、風の力を少しだけ使って速度を上げた。
その結果、15分で自然公園にたどり着くことができた。
「はぁ・・・はぁ・・・ついた・・・!」
ルイスは汗を拭い、呼吸を整え、公園の中へ入って彼女を捜し始めた。。
公園の中は広かったが、ルイスはすぐに彼女を見つけた。立っている二本の木の間に置かれたベンチ、そこに彼女が座っていた。
(いた!やっぱり、綺麗だな・・・)
ルイスは彼女を見つけ、見惚れていた。すると、彼女はルイスに気付き、駆け寄ってきた。
「本当に来てくれた・・・!」
彼女は駆け寄ってきたかと思うと、ルイスにいきなり抱きついた。
「なっ・・・!?」
(な、なんて大胆な・・・!クールな感じに思わせて、こんな大胆な・・・!ますますタイプだ!)
「・・・あなたのお名前は?僕はルイス。」
ルイスは一旦、彼女を自分の体から離し、自己紹介をした。
「私はナタリア。知り合いは私のこと『ナタリー』って呼んでるから、気軽にそう呼んで。」
「それじゃあ、ナタリー。僕のこと、覚えててくれたんだね。」
「そりゃそうよ。だって・・・ほら。」
ナタリーはルイスの顔を見つめながら、ポケットからレシートを取り出し、ルイスに見せた。
「ん?・・・あっ!これ、あの時の喫茶店の!?」
ルイスはナタリーと初めて会った喫茶店でコーヒーを頼んでいた。だが、その後すぐにルークに引っ張られて飲めなかったことを思い出した。
「そっ。代わりに払っといたから。」
「あー・・・ごめんねー・・・!」
「フフッ、いいのよ別に。その代わり・・・」
ナタリーは色気のある笑みを浮かべたかと思うと、いきなりルイスの下腹部に触れた。
「!?」
「この体でたっぷりと返してくれれば・・・ね?」
ナタリーは右手の五本の指でなぞり、撫でるようにルイスの体を上がっていき、胸の辺りで手を止めた。
「ゴクリ・・・」
ルイスはナタリーの何とも言えない色っぽさに生唾を飲んだが、負けじと反撃に出た。
「優しく・・・してくれるんでしょ?」
ルイスはナタリーの顎をつまむように持ち、クイッと上げた。
すると、ナタリーは笑い、
「フフッ、そうね。きっと忘れられなくなっちゃうかも。」
「いいねぇ・・・それじゃ、早速デートしますか!」
ルイスはそう言うと、ナタリーの手を引いて自然公園を後にした。
それから二人は、街の色々な場所を練り歩き、何件かの店を尋ねた。ファッションショップ、本屋、喫茶店、そして最後に訪れたのは・・・
「"運命"って奴はさ、的みたいなものだよ。真ん中を狙っても、ズレて一番端に当たることもある。これも"運命"だと思うと、面白くない?」
「そうね・・・でも、たかがダーツゲームでそんなこと語られたくないけどね。」
二人が最後に訪れたのはダーツバーだった。二人は飲み物を飲みながらダーツゲームをしていた。
「ここのダーツバーは・・・ダーツの点数に応じて景品をくれるんだ。その景品を、今日こそは手に入れる!よっ!」
ルイスは気合いを入れてダーツを投げた。しかし、当たったのは一番端。これまで10回は投げたが、真ん中に当たったのは2回だけ。後の4本は当たらず、残り4本は端に当たっただけだった。
「あれ~?おかしいな・・・・ちゃんと狙ってるのに・・・・」
「フフッ、ダーツにはコツがあるのよ。いい?まずダーツを持ったら限界まで腕を引いて・・・」
ナタリーはダーツを持ち、解説を始めた。解説の通り、まずは腕を限界まで引く。
「あなたは身長が高いから、狙うときは気持ち下に構えて。そして、手首のスナップを効かせて・・・投げる!」
ナタリーはダーツを投げた。すると、ダーツは見事に真ん中に当たった。
「おー・・・上手いなぁ!選手でもやってたの?」
「父に教わったの。ダーツが趣味だったから。」
「なるほどねぇ。よし・・・僕も!」
1時間後・・・ルイスはナタリーから教わった方法でダーツを投げ、なんとか点数を確保した。
「はい、マスター!景品と交換して!」
ルイスはバーのマスターに点数票を提出した。
「はい、お預かりします。えー、点数は・・・175点。粘りましたねぇ。」
「まぁね。170点でアレと交換できるよね。」
「はい、アレですね。少々お待ちを・・・・」
マスターは点数票をカウンターに置くと、店の奥へ向かった。
「ねぇ、ルイス。アレってなぁに?」
「見れば分かるよ。」
2,3分経ち、マスターが戻って来た。
「お待たせしました。こちら170点の景品、スパイダーマンのゴールドリングでございます。」
マスターがルイスにスパイダーマンの顔が彫られた金メッキの指輪が手渡した。
「そうそう、これこれ!やっと手に入れた!」
ルイスは嬉しそうに指輪を手に取った。
「あら、こんなの欲しかったの?」
「欲しいのは僕じゃなくて、友達!前に一緒に来たんだけど、その時は取れなくてさ・・・・」
「その友達って、女の子?」
「ん?まぁそうだけど・・・・でも、ただの友達だよ。まぁ、かわいい妹みたいなモンかな。」
「お客様。」
二人が話をしていると、マスターが間に入ってきた。
「後5点残っておりますが、どうなさいますか?」
「後5点かぁ・・・もらえるとしても、消しゴムくらいかぁ。」
「じゃあ私、消しゴムもらうわ。」
「かしこまりました。」
マスターはそう言うと、カウンターの下からどこにでも売っているような安物の消しゴムを取り出し、ナタリーに手渡した。
その後二人はダーツバーを後にし、街を歩いた。
「いやー、君のおかげでようやく取れたよ。メアリちゃんも喜ぶよ。」
「ふーん、メアリって言うんだ。」
「い、いや、まぁ・・・ってか、何?ヤキモチ?カワイイねぇ。」
ルイスは少しナタリーをからかった。すると、ナタリーはルイスの前に立つ。
「あら、生意気。私は年上よ?」
「だから何?男と女の関係に年齢なんて関係ないでしょ。」
「一回デートしただけでもう恋人気取り?」
「僕はもうそう思ってましたけど?お姉様?」
年齢差を語ってきたナタリーをからかうように敬語で話すルイス。すると、ナタリーは突然ルイスに抱きついて来た。
「どうしたの?怒った?」
「・・・ねぇ、二人きりになれるとこ、行かない?」
「えっ?」
(それはつまり・・・!)
ナタリーの言葉から、ルイスは一つの答えを導いた。二人はこの後、二人きりに慣れる場所へ行き、そこで二人は一線を越える・・・という答えだ。
「オ、OK!じゃ、じゃあ、ホテル行こうか。」
「ホテルよりもっといい所知ってるわ・・・連れてってあげる。」
「は、はい・・・!」
ルイスはナタリーに連れられ、秘密の場所へと向かった。
「ここは・・・」
辺りがすっかり薄暗くなっていた頃、ルイスが連れられてたどり着いたのは、街外れの廃工場だった。
その場所を見て、ルイスは少しテンションが下がっていた。
(こういうとこ、結構来てるんだよな・・・・戦いの時とか・・・)
ルイスはヒーローとしての仕事柄、犯罪者達と戦う時は大体廃墟が多かったため、何とも言えない気持ちになっていた。
二人は中に入り奥へ向かった。奥へたどり着くと、ナタリーは帽子と上着を脱ぎ、その場に敷いた。上着を脱いだことで、彼女の黒いシャツが現れ、細い腰とそれなりにある胸がわかるようになった。
続いてナタリーは下の方に手をかけ、黒のストッキングを脱ぎ捨てた。
「おおー・・・綺麗な脚・・・」
ルイスは彼女の美脚と言っても差し支えない脚に声を漏らした。
「フフッ、こういうのは初めて?」
「バカにしないでよ。これでも何人かの女の子とヤッたことはあるんだから。」
「そうなの?初体験はいつ?」
「初体験・・・そうだなぁ・・・あれは確か15・・・いや、14の時だった。」
ルイスはナタリーの脚全体をなで回しながら初体験のことを振り返った。
「学校で一番の美人のクラスメートとヤッて・・・・それから学校のカワイイ子とはほとんどヤッたかな・・・」
ルイスは語りながらナタリーと同じく上着を脱いだ。
「そう・・・じゃあ期待していい?」
「もちろん。」
ルイスは一呼吸整え、寝そべっているナタリーに覆い被さるように迫る。端から見れば押し倒しているような状態になる。
「服着たままやるの?」
「初めて?エスコートしてあげる。」
「はいはい、ありがと。」
ルイスはそのままの状態でナタリーの後頭部に手をかけ、自分の顔をナタリーの顔に近づけた。
「待って。キスする前に・・・」
ナタリーは敷いた上着のポケットから錠剤の入った小瓶を取り出し、中から錠剤を取り出した。
「何これ?」
「気持ちよくなる薬♪」
「へぇ・・・いいね♪」
ルイスは差し出された薬を口に咥え、そのままナタリーとキスを交わした。
「ん・・・」
さらに二人は互いの舌を絡ませ、濃厚なキスを・・・と、次の瞬間、ルイスは舌を使って錠剤をナタリーの口の中へ押し込んだ。
「!?」
薬を押し込まれ、ナタリーはルイスの体を押しのけた。
「ゲホッ!!ゲホッ!!」
ナタリーは四つん這いになり、急いで薬を吐き出した。
「あれ?どうしたの?それ気持ちよくなる薬でしょ?なんで吐き出すの?もしかしてそれ・・・痺れ薬とか?」
「・・・ッ!!」
ナタリーはルイスの言葉に一瞬驚いた顔を見せるが、すぐさまそれは消え、真顔に戻った。
「・・・いつから気づいたの?」
「薬を見せた時。これでも僕はニューヨーク来るまでに色々経験してるんだ。この薬も前に飲まされたことがある。同じ奴だったからすぐわかったよ。」
「あら、そう・・・もうちょっとでいい気分で死なせてあげたのに、残念ね。」
ナタリーはそう言いながら立ち上がった。
「君は一体誰?王牙達が雇った殺し屋?」
「王牙?誰それ?私を雇ったのはその人じゃないわよ、ルーク・セナ・オリヴェイラ・・・別名、"ファンタスティック・ガイ"だっけ?」
「・・・知ってるんだ、僕のこと。」
ルイスがそう言うと、ナタリーは笑みを浮かべた。
「フフッ、あなた達ヒーローは有名よ。仕事の邪魔になるってね。私を雇ったのはそういう奴ら。要は、あなたを殺してくれって頼まれたの。」
「殺し屋・・・ってことでいいんだね?」
「ええ、そうよ。」
ナタリーは笑みを浮かべながら返事を返した。すると、彼女は目を見開き、それと同時に長い金髪が伸び、刃を創り出した。
「!?」
「私は髪の毛を自由に操るアーツを持った殺し屋・・・・人は私をこう呼ぶ。"デーモンヘアード"のナタリア!」
ナタリーは触手のように変化した髪の毛の刃を鞭のようにルイスに向かって振るう。
「おっと!」
ルイスは髪の刃による連続攻撃を後ろへのバク転で次々とかわす。
「へへっ、さてと・・・訓練の成果を見せますか!」
ルイスは得意気に言うと、右手に炎、左手に風を宿らせた。
「元素が2つ!?私が聞いた情報だと、1つだけしか出せなかったはず・・・・!」
「これでも影ながら努力してるんだよ!今なら二つ同時に出せる・・・!後で恨まないでよ!」
ルイスはそう言うと、炎と風、二つの元素を合体させた。ルイスの右手に赤と緑半々の球体が宿った。
「炎旋風!!」
ルイスは右手を突き出し、手のひらから炎の風を放った。炎を纏った風が、ナタリーに吹きすさぶ。
「くっ・・・!」
ナタリーは髪の毛を伸ばして球体を作り、その中に自分を包んだ。
炎は髪の球体を飲み込み、さらに周辺にある物まで巻き込んだ。
「やっば・・・!威力強すぎた!」
ルイスは元素を2つ混ぜることを習得していたが、まだ習得したばかりで力の加減がまだ取れていなかった。
風がやんだ頃には、髪の球体は真っ黒になっていた。
「し、死んでないよね・・・?」
ルイスは心配になり、球体に近づいた。と、次の瞬間、球体が真っ二つに割れ、中からナタリーが飛び出し、ルイスの腹に肘鉄を喰らわせた。
「ぐえっ・・・!!」
ルイスは腹を抑え、後ろに後ずさる。そこへ追い撃ちばかりにナタリーに回し蹴りを喰らい、蹴り飛ばされた。
「がはっ!!い、今ので生きてるって・・・マジ!?」
「ゴホッ!ゴホッ!!・・・ギ、ギリギリだったわ・・・・!!」
咳き込んでいるナタリーの髪はショートヘアーに変わっていた。
「なるほど・・・!中で髪を切って、球体だけが燃えるように仕組んだのか!」
「そうよ!結構な賭けだったけど・・・上手くいったわ。」
ナタリーがそう言うと、ナタリーの髪は元の状態まで伸びた。
「・・・髪切っても伸びるんだ。いいじゃん、明日はロングで明後日はショート・・・・オシャレ好きが泣いて欲しがりそうだね。」
「いつまでそんな口聞けるかしら。」
ナタリーはニヤリと笑い、髪の毛で巨大な翼を創る。そして宙へ舞い上がり、ルイス目掛けて突っ込んだ。
「!!」
ルイスは寸前のところでよけた、が、頬を少し切られ、血が流れた。
(速い・・・!ナイフか?それとも、高スピードによる衝撃波?)
ルイスはどういったもので切り裂いたのか考えた。だが、考える余裕などなく、ナタリーは再度ルイスに特攻した。
「うわっ!」
ルイスは体当たりをかわす。
(考えてる余裕なんてないか!相手が髪の毛を使うなら・・・こいつだ!)
「水玉!!」
ルイスは両手に水の弾を宿し、銃を撃つように飛翔するナタリーに乱射した。
「水の弾丸・・・?考えたわね!」
ナタリーはルイスの作戦を褒めるが、攻撃を次々とよけ、水の弾丸は次々と工場の壁を貫いていく。
「効かないか・・・!じゃあ、これだ。」
ルイスは右手に風、左手に水を宿し、その二つを合わせて青と緑の球体を創り、天井に向かって投げた。
すると、天井に当たった球体は弾け、暴風雨を生み出した。
「暴風雨!!」
「雨・・・!?くっ・・・キャアッ!!」
ナタリーの髪が水に濡れて重くなり、ナタリーは地面に落ちた。
「か、髪が・・・!」
「やっぱり・・・髪が濡れちゃうと自慢のアーツも使えなくなるみたいだね。」
ルイスの言う通り、ナタリーの髪が濡れ、刃を創ろうとしても創れなくなっていた。
「そんじゃ、こいつで終わりだ!」
ルイスは右手に炎、左手に水を宿し、その二つを合わせて赤と青の球体を創り、スッと手のひらを上に向けて前に出した。
「霧!」
ルイスの一声とともに球体が弾け、中から蒸気が溢れ、工場内に充満し霧を創り出した。
「蒸気の霧・・・?しまった!見失った・・・!」
ナタリーは蒸気の霧の中でルイスを見失った。髪が濡れて自慢の武器が使えなくなった今、ナタリーは最後の手段であるナイフを取り出した。
その時、ナタリーは後ろに気配を感じた。
「!!」
ナタリーは気配を感じた方へナイフを振るった。だが、その瞬間、腕は掴まれてしまった。
「はい、捕まえた。」
「・・・ッ!!」
ルイスはナタリーの背後に立ち、ナタリーが振るったナイフを腕を掴んで止めた。
「さてと・・・」
「ちょっ・・・!?何・・・!?」
ナタリーは思わず声を上げた。それは、突然ルイスが唇にキスをしたからだ。
「・・ん・・・!」
ナタリーは抵抗しようとナイフを構えるが、やがてそのナイフを手放し、ルイスにしがみつくように強く抱きしめた。
同様に、ルイスも強くナタリーを抱いた。
「僕の勝ち・・・でいいかな?」
「・・・いいわよ、別に。」
二人は顔を赤く染めながら互いに見つめ合った。そして、心臓の音が高鳴っていることを感じた。
「・・・ちょっと座る?」
「・・・ええ。」
二人はひとまず落ち着こうと、その場に座り込んだ。
座る際、二人は背中合わせの状態になった。
(どうしてだろ・・・彼女と近くにいるだけで、こんなに落ち着いて、ドキドキするなんて・・・)
ルイスは緊張にも似た心臓の高鳴りを静めようと、ナタリーに質問をしようとした。
しかし、
「なんでキスなんてしたの?」
ナタリーに先を越された。
「・・・あのまま生殺しなんて嫌だったから。本番はできなくていいから、せめてキスだけはと思って・・・・君こそ、どうして抵抗しなかったの?」
「・・・・キスが優しかったから、だとダメ?」
ナタリーはそう言って、ルイスに微笑んだ。
「いや・・・最高。」
彼女の笑顔を見たルイスは、真顔になりながら赤面し、彼女の手を握った。
「ところでさ、誰から依頼されたの?」
「あなたも知ってる人よ。」
ナタリーの返しに、ルイスはスポンサーの顔が思い浮かんだ。
「・・・もしかして、スポンサー?」
「当たり。よくわかったわね。」
「あのおじさん、何かと僕達に絡んでくるんだよなぁ・・・・うざったいったらありゃしないっての。」
今回の件もスポンサーが絡んでいることがわかり、ルイスはため息をついた。
「前金で10万ドルくれたわ。あなたを殺したら20万ドル上乗せしてくれるって言ってた。」
「合計30万・・・本気なのか、ふざけてんのか・・・・」
「もういい?私、もう行くから。」
ナタリーはそう言ってルイスの腕を払い、立ち上がった。
「あ・・・」
ルイスは引き留めようか迷った。しかし、今まで感じたことのない感情に、ルイスは胸が苦しくなり、言葉がつまった。
そうこうしている内に、ナタリーは上着を着てその場を立ち去ろうとする。
「ま、待って!!」
ルイスは勇気を振り絞って振り返って叫び、ナタリーの手を掴んだ。
「ま・・・また、会えるよね?」
「・・・できれば会いたいけど、多分会うことなんてないわ。」
「えっ?」
ナタリーの返答に、ルイスは声を上げた。
「私は殺し屋で、あなたはヒーロー・・・みんなの人気者。住む世界が違うわ。」
「そ、そんな・・・・」
ルイスは「そんなことない!」と叫びたかった。
だが、言ったところで綺麗事にしかならない。恐らく、ナタリーは壮絶な半生を歩んで来たはずだ。そんな女性に、たかが19年しか生きていない男が何を言っても綺麗事にしかならない。ルイスはそれを分かっていた。
「じゃあね・・・あなたを殺さなくてよかった気がする。」
ナタリーはルイスの手を振り払い、その場から立ち去った。
ルイスは妙な悔しさを感じ、その場を立ち去り、家へ戻った。
翌日の朝、ルイスは目覚めた。しかし最悪の目覚めだった。
「ううっ・・・」
昨日の夜に帰宅した後、すぐさまベッドに入ったルイスだったが、ナタリーのことを考えている内に眠れなくなり、ようやく眠れたのが午前2時だった。朝練が始まるのが4時・・・つまり、ルイスは2時間しか寝ていないのだった。
当然、朝練にも身が入らなかった。ルークに「だらしがない」と叱られ、ようやく朝食の時間になった。
「はぁ・・・」
「ルイス、今日はスコーンだよ?食べないの?」
「ん?ああ、食べるよ・・・・」
ルイスは締まりのない返事をし、モソモソと朝食のスコーンを食べ始めた。
(ねぇ、ルイス、なんか変じゃない?)
メアリは小声で隣にいたメフィストに話し掛けた。
(いつも変だろ。)
(でも、確かにおかしいわね・・・昨日帰って来てからずっとあんな感じだし・・・・)
(うーん・・・よし、私がそれとなく聞いておこう。)
ルーク達の小声の会話はルイスは聞いていなかった。というより、耳に入っていなかった。
朝食を終えた後、ルイスは仕事の為にヒーロー姿に着替えようと部屋へ戻った。
と、その時、部屋のドアがノックされた。
「なんだよ・・・」
ルイスは舌打ちまじりでドアノブに手を掛け、ドアを開けた。
「はい・・・あっ、おじさん・・・」
ドアを開けると、そこにルークが立っていた。
「なんだ、今日は元気がなさそうじゃないか。」
「ごめん・・・仕事はちゃんとやる気だよ。」
「まぁ、それはいいが・・・・どうだ、ちょっと出掛けないか?気分転換に。」
「・・・・いいよ。」
ルイスはルークの話に乗り、二人で出掛けた。
出掛けた先は自然公園。ルイスがナタリーと出会った場所だ。
ルイスはベンチに座り、ルークは近くの自販機で買ってきた飲み物を手渡した。
「ありがと・・・」
ルイスは飲み物を受け取り、ルークは隣に座った。
「昨日、女の子とデートしたんだろ?何かあったのか?」
「・・・・」
「悩んでいるなら相談して欲しいな。私は君の親じゃないが・・・・相談には乗れるつもりだ。」
「・・・じゃあ、聞いてくれる?」
ルイスは昨日の出来事を話した。ナタリーとデートをしたこと、そのナタリーが殺し屋だったこと、その殺し屋とキスをし、自分が恋に落ちてしまったこと・・・・
「・・・驚いたな。」
「こんな気持ちになるの、初めてなんだ。もちろん、女の子は大好きだよ?だけど、彼女だと何か違った。いや、もちろん見た目はすごい綺麗だし、僕のモロ好みって感じだし、何て言うか・・・・」
「好き、なんだな?」
ルークはルイスの率直な気持ちをはっきり言い表した。それを言われた瞬間、ルイスは顔を真っ赤に染めた。
「・・・うん。」
「そうか・・・ルイスも真剣な恋をしたのか。安心したよ・・・てっきりルイスは、日に日に違う女の子と遊んで食い散らかすようなことをばかりする男だと思っていたが・・・」
「なんかひどくない?じゃあ、おじさんはあるの?真剣な恋。」
ルイスがそう言うと、ルークは恥ずかしそうに頭を掻いた。
「そりゃあ、私にだってあるさ。マリアと会ったばかりのころは、いつも彼女のことばかり考えてた。彼女のことばかり考えていると、いてもたってもいられなくなって・・・少しでも多く、一緒にいたいって思ったものだ。それで、20歳の時にプロポーズして、交際を始めたんだ。」
「ふーん・・・」
「君は彼女のことが好きなんだろ?だったら、プロポーズすればいいじゃないか。」
「そ、そりゃあ、好きだよ。でも無理だよ。住む世界が違うんだ!僕はヒーローで、彼女は殺し屋・・・・とてもじゃないけど、無理だよ。」
ルイスは先日ナタリーが言った言葉をそのまま言った。
「そうか・・・君が決めることだから、とやかく言えないが・・・・だが、一生言わないままでいると、一生後悔するぞ。」
「・・・・」
ルークの言葉が身に染みた。言わなければ一生後悔する。だが言ったとしても、ダメかもしれない。しかし、どちらを選べば前へ進めるか、ルイスは気づいた。
「・・・おじさん。」
ルイスはベンチから立ち上がった。
「僕、しばらく『パラディンフォース』から離れるけど、いい?」
「・・・ああ。」
ルークは微笑み、返答した。
「もしかしたら、二度と戻れないかもしれない。それでもいい?」
「後の責任は私が取る。行け!若者よ!」
「・・・うん!」
ルイスは返事を返し、その場から走り去った。
「フフッ、若者は愛に生きる、か。さて、困ったぞ・・・・帰ってみんなに何て言われるか・・・ひょっとして私、リーダー失格?」
ルークは独り言を呟き、冷や汗を掻きつつ事務所へと戻った。
その夜・・・
「スポンサー、私よ。ナタリア。」
『おー、ナタリアさんかい。』
ナタリーはマンションの自室でスポンサーと電話で仕事の報告をしていた。
『あの坊や、殺せたのかい?』
「いえ、殺せなかったわ。あの子、あなたの話よりも成長してるわ。二つの元素を混ぜて、別の攻撃をしてきたわ。」
『ほぉ・・・そいつぁ、面白い。いい話を聞かせてくれてありがとさん。』
「仕事は失敗・・・後でお金は返すわ。」
『いや、いいよ。面白い報告をしてくれただけで満足さ。アンタの口座に後10万ドル振り込んでおくよ。』
「えっ?」
ナタリーは思わず声を上げた。
『まぁ、失敗は失敗だからな。30万ドル与えるわけにはいかねーからな。前金と合わせて20万で手を打ってくれ。』
スポンサーはナタリーが声を上げたのは、報酬に不服があると思い込んでいた。
しかし、ナタリーはそんなことは考えていなかった。
「あなた、本気?私の失敗で、あなた大損したのよ?それなのに報酬を払うって・・・」
『クカカカ・・・!俺の目的に比べれば、金なんてただの紙切れ同然だ。』
電話の向こうで、スポンサーは低い声で笑った。
『ナタリアさん、長生きしな。もう少しすれば面白い物が見れるぜ。それじゃ、チャオ♪』
スポンサーは別れの挨拶を言って、そのまま電話を切った。
ナタリーは何も言えず、携帯の着信を切った。
「・・・スポンサー・・・一体何を考えてるの?」
得をしたナタリーだったが、心中には不安が残る結果になった。
その時、部屋のインターフォンが鳴った。
「?」
ナタリーは玄関の覗き穴から、外を覗いた。
「こ、こんちは~・・・」
外に立っていたのは、ルイスだった。
「ああっ!?」
ナタリーは驚きのあまり、男のような声を上げ、ドアを開けた。
「なんでアンタここにいるの!?っていうか、なんでわかったの!?」
「えっと・・・知ってるかわかんないけど、ジャッジさんから場所調べてもらって・・・」
「Mr.ジャッジから!?」
ナタリーは声を上げた。
「あっ、やっぱり知ってるんだ。」
「仕事仲間よ。前に何回か一緒に仕事をしたわ。それより、なんでここにきたワケ?」
ナタリーは玄関のドアを閉め、貶むような視線を送りつつルイスに詰め寄った。
「・・・自分の気持ちを、正直に言いに来た。ナタリー、僕は・・・君のことが好きだ!」
ルイスは告白とともにナタリーの両肩を掴んだ。
「・・・嬉しいわ、ルイス。だけど無理よ。昨日も言ったでしょ?住む世界が違うって。」
ナタリーは微笑み、ルイスの告白を喜んだが、すぐさま首を横に振った。
「・・・君がそういうなら、僕はヒーローらしいことをするよ。例えば、君を監視して、人殺しが出来ないようにする、とかね。」
「えっ?」
「おじさ・・・リーダーのファウストから、人殺しは悪いことだって教えられたモンでね。だから、君が悪いこと出来ないように、僕が側にいるってワケ。」
ルイスはそう言うと、ナタリーの手を右手を掴んだ。すると、ナタリーは一瞬、嬉しそうな笑みを見せ、下を向いて俯いた。
「でも・・・!まだ知り合ったばかりだし・・・・」
「これから知ればいいじゃん。僕も君のことをもっと知りたいし・・・・ダメ?」
ルイスに問いに、ナタリーは答えるように握ってきた手を握り返し、
「・・・いいわ。監視でもなんでも、好きにすれば?」
ナタリーは皮肉混じりな返答をし、ルイスを迎え入れた。




