第29話「再戦」
「あの5人の情報、仕入れてきたぜ。・・・とは言っても、謎だらけの奴もいる。カスパール、宗方宗次・・・過去が明かになってねぇのはこの二人だ。」
「いや、十分だよ。ありがとう、ジャッジ。」
この日、「パラディンフォース」の事務所兼自宅に、ジャッジが訪れていた。ジャッジはシンから買った情報をルークに伝えていた。
「この先、なんかわかったら連絡する。」
「ああっ、ありがとう。ところで・・・・ロックの様子は、どうだ?」
ルークは昨日、ジャッジから電話を受け、ロックがジャッジのところで世話になっているということを知らされていた。
ルークはロックが今、どうしているか気になっていた。
「・・・その質問、3回目だぞ。」
ジャッジはこの場所に来た時と、情報を教える前、そして現在で、同じ質問をされため息をついた。
「い、いや、どうしても気になってしまってな・・・・」
「そんなに気になるなら会いに行けよ。今、街で買い物行かせてる。」
「それはちょっとな・・・彼の修行に水を差すだろうし・・・・」
「はぁ・・・どいつもこいつも・・・・」
そのころ、街に買い物に出ているロックは・・・
「はあ~あ・・・なんで俺がこんなこと・・・・」
ロックの買い物はジャッジに頼まれた物を買いに行くこと、つまりはお遣いだった。
ちょうど今、お遣いを終えてアジトの方へ戻る途中だった。
「なんだって俺がこんなことしなきゃいけねーんだ?俺は1日でも早く強くなりてーのに・・・・シンさんもシンさんだ。この前の病院の時だって、『プロの戦い見せる』とか言っといて、ほとんど戦ってなかったし・・・・」
ロックは愚痴を呟きながら街を歩いて行く。本屋の前を通り過ぎた時、本屋の前と一緒に、見覚えのある"黒い頭"とすれ違った。
「・・・ん?」
(なんか今、見覚えのある頭が・・・・)
ロックはその"黒い頭"に覚えを感じ、そっと振り返った。
そして、ロックはあるものを目撃してしまった。
「今日こそ・・・今日こそ当たりますように・・・!」
それは、ロックのライバル、カスパールがカードダスの機械を睨んでいる光景だった。
「ママ-、変なのいるよー。」
「見ちゃいけません!」
カスパールはローブを羽織っていたが、バレバレで、周りからジロジロと見られていた。
「よし・・・来いッ!」
カスパールはカードダスに金を投入し、レバーを回しカードを取り出す。
そして、封を解いてカードを確認すると・・・中にはキラキラと輝くレアカードが入っていた。
「ようやく・・・ようやく手に入れたーーー!!」
カスパールは喜びのあまり、拳を突き上げた。
「お前何やってんだーーーーッ!!」
その時、ロックはあまりの意味のわからなさに、カスパールをドロップキックで思い切り蹴り飛ばした。
「ぐほぁっ!!き、貴様は・・・!!何故ここにいる!?」
「それはこっちの台詞だ!!お前、クールキャラのはずだろ!?それなのに、本屋の前に置いてあるカードダスをいじってるってどういうことだよ!?」
「そ、それを言うな・・・!冷静に言われると、なんか恥ずかしい・・・・!」
カスパールはロックの的確な説明を受け、恥ずかしくなったのか、俯いてしまった。
その時、カスパールは地面にカードが散らばっていることに気がついた。たった今、ロックにドロップキックされたことで、懐に入れていたカードが散らばってしまったようだ。
「ああっ!!お、俺のコレクションがっ!!」
カスパールは慌ててカードを拾い始めた。
「はぁ・・・力抜けるぜ・・・」
ロックはため息をつき、地面に落ちたカードを拾った。
「ほら。」
ロックは拾ったカードをカスパールに渡し、カードを拾うのを手伝い始めた。
「す、すまん・・・・」
拾ったカードを見てみると、アニメや漫画に出てくるキャラが描かれたカード、スポーツ選手が描かれたカード、使われなくなったテレフォンカードの3種類があり、その中でカードバトルに使われるようなパラメーターと説明分が書いてある物と、ただ絵だけ描かれている物の2種類があり、ジャンルがばらけている。
「・・・別にカードバトルするわけでもねーんだな。」
「これは単なる趣味で集めてるんだ。今日は4件回った。」
二人はカードを集め終え、カスパールは集めたカードを再び懐にしまった。
「・・・さて、どうする?」
「あ?」
「お前がここにいるということは・・・大方、俺を狙って来たということだろう?」
「いや、買い物の帰りだけど・・・」
「ここでザクザクやり合うワケにもいかない・・・・そう思ってるか?」
カスパールはロックの話を聞かず、どんどん話を進めようとしている。
「だから、俺は買い物帰り・・・まぁ、いいか。」
ロックはこっちが何を言っても聞かないと感じ、それならば、と荷物を地面に置いた。
「そっちがその気なら、やってやるよ!バルトロのおっさんの仇だ!」
ロックは戦いを挑もうと、拳を強く握った。
「なんだなんだ?喧嘩か?」
「やっちまえ、ちっこいの!」
街の真ん中であったため、野次馬が少なからず集まり始めた。
(この際、正体がバレたって構うか!こいつをブチ壊して細切れにしてやる!!)
ロックは自分がヒーロー「スティール・キッド」だと周囲に気づかれる危険を無視し、「硬質化」のアーツを使おうと、準備を始めた。
だが、その時・・・・
「ま、待ってくださ~~い!!」
遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。
「あ?」
ロックは背伸びをして向こう側を見てみると、そこには王牙の妻であるセシリアが紙袋を手に、困った顔でこっちを見ていた。
「セシリアさん!?」
「なに?」
「し、失礼しまーす・・・」
セシリアは野次馬の間を通り、二人の前へ出た。
「カスパール様!こんなところで暴れたら、正体がバレてしまいます!それに、せっかく手に入れたカードだってボロボロになってしまいます!」
「・・・おい、一時休戦するぞ!」
「ええっ・・・」
ロックはまさかの展開に拍子抜けした。
「さぁ、来い!」
「お、おい!待てよ!」
カスパールはロックの腕を引っ張り始めた。ロックは慌てて地面に置いた荷物を掴み、そのまま引っ張られていった。
そして、3人は人気の無いところへ逃げ込んだ。
「ここまで来れば、大丈夫だと思います。」
「はぁ、そっすか・・・じゃあ俺帰りますわ・・・・」
ロックはそのまま荷物を持って帰ろうとした。
『えっ?』
カスパールとセシリアが同時に声を上げた。
「『えっ?』じゃねーよッ!!さっきから気の抜けることばっかやりやがって!!こっちのやる気が削がれるっつーの!!」
「・・・随分細かい事を気にする奴だな。」
「うるせぇっ!!」
ロックは二人の気の抜けるやりとりと言動に怒りを露わにした。
そんなロックをたしなめるように、セシリアはロックの手を取り、ギュッと握った。
「ッ!?」
絶世の美女とも言えるセシリアに手を握られ、ロックは思わず声を上げ、顔を赤らめた。
「ロック様・・・お買い物の邪魔をしてしまい、申し訳ありません。でも、こうして私達が出会えたことは、奇跡だと思いませんか?」
「き、奇跡・・・?」
「はい。3人は出会うべくして出会った・・・・それなら、少しの間3人一緒にいても良いと思うのです。」
「俺もそう思います!!」
滅茶苦茶な言い分にも思えるが、ロックはそんなことには構わず、セシリアの手を握り返した。理由はただ一つ、ロックはセシリアに見惚れてしまっていたのだ。
(や、やっぱ綺麗な人だなぁ~・・・こりゃ王牙の奴も惚れるわ・・・・)
「いつまで手を握っている?」
その時、カスパールはいつまでも手を握っているロックに銃口を向けた。
「えっ!?あっ!す、すいません!」
ロックは思わず敬語で話し、セシリアから手を離した。
それが可笑しかったのか、セシリアはクスッと笑った。
(いかんいかん!俺にはメアリっていう、心に決めた人がいるんだ!いくらセシリアさんが綺麗でも、それだけは変わらねぇ!!ここは潔く・・・!!)
「カスパール!俺と勝負だ!!」
ロックはカスパールに指を差し、勝負を挑んだ。
「やはり、そう来たか・・・・まぁ、いいだろう。場所はどうする?こんなところでバンバンやり合うワケにもいかないだろう。」
「場所ならいいとこ知ってるぜ。人気もねーし、広いから思う存分やれるぜ。」
「いいだろう。セシリア、お前は先に帰っていろ。」
「いえ、私も行きます。」
カスパールの言いつけを、セシリアは断った。
「何っ?」
「セシリア、これはピクニックではないぞ。これは男と男の、1対1の戦いだ。女が口を出せることじゃ・・・・」
「わかっています。」
セシリアはカスパールの言葉を遮った。
「ですが、だからこそ見ておきたいのです。男同士の、1対1の決闘を。後に来るであろう・・・ルーク様と王牙様の戦いの時に備えて!」
「ッ・・・!!」
セシリアの言葉と、まっすぐな瞳に、カスパールは怯んだ。
(す、すげぇ・・・・)
ロックもセシリアの意外な迫力に怯んでいた。同時に、王牙はセシリアの美しさだけでなく、この異様な力強さにも惚れたんじゃないか、とロックは思った。
「・・・わかった。だが、『見てられない』と思ったら、迷わず目を伏せろ。お前に悲惨な光景は見せたくない。」
「はい・・・!」
話がまとまり、ロックは戦いやすい場所へ二人を連れて行った。その場所は使われなくなった採石場だった。
「なるほど、ここなら思う存分暴れられるな。」
「だろ?あの時は油断してたけどよぉ・・・!」
ロックは拳を握り、肌を鉄色に変化させ硬質化した。
「今度はそうはいかねーぞ!!」
ロックは臨戦態勢を整えた。
「セシリア、下がっていろ・・・・爆風に巻き込まれてしまうからな。」
カスパールはセシリアを下がらせると、背中から2基のミサイルポッドを出し、両手首のビームブレードを展開した。
「カスパール様・・・ご武運を!」
セシリアはそう言うと、物陰の岩に隠れて様子を見た。
「いくぞオラァ!!」
ロックは真正面から突っ込んでいき、拳を振るった。だが、カスパールは拳をよけてロックの腕をつかみ、そのまま腹を蹴り飛ばした。
「ぐあっ!」
「突っ込むだけのイノシシ戦法か。戦いとはこうやるんだ!!」
カスパールはその言葉とともに両手首のビームブレードを振るい、反撃の間を与えんばかりの連続攻撃を繰り出してきた。突き、袈裟斬り、なぎ払い、切り上げ・・・ありとあらゆる攻撃が襲いかかる。
ロックはそれにただよけていくしかなかった。自慢の「硬質化」のアーツも、ビーム兵器の前では役に立たないのだ。
「この・・・!クソがッ!!」
このままでは埒があかないと、ロックは一旦後ろへ下がった。
「甘い!ミサイル発射!!」
カスパールは背中のミサイルポッドからミサイルを発射した。
「!!」
ロックは腕を盾にして伏せた。だが、ミサイルはロックに向かわず―――
「?」
後ろの岩壁に激突し、爆発した。そして、爆発で砕かれた岩壁はロックに向かって落ちてくる。
「う、嘘だろ!!?うわああああああ・・・・!!」
ロックは逃げようとしたが敵わず、そのまま落ちてきた岩に飲み込まれた。
「・・・意外にあっけなかったな。」
カスパールはボソリと呟いた。すると・・・
岩の中から拳が飛び出した。そして押し潰されたはずのロックが中から飛び出し、現れた。
「おおっ、生きてたか。」
「こ、このヤロー・・・!!素手で勝負しろ、素手でぇっ!!」
ロックは怒りながらカスパールに指を差した。
「・・・?」
カスパールはロックの発言の意図が分からず、困惑した。
「一人だけ武器使うなんて卑怯じゃねぇか!!剣とか槍ならまだしも、銃なんて卑怯だろ!お前それでも男かッ!?」
「・・・・ハハハ、クハハハハハハハハ・・・・!!」
その時、ロックの発言を理解したカスパールは、高笑いを浮かべた。
「カスパール様が・・・笑った・・・・」
カスパールは戦場において笑うことは一切なかった。それは、いつ攻撃されるかわからない戦場において、笑うことは「死」を意味するのと同じだからだ。だが、カスパールは今、笑った。それは、カスパールにとってバカバカしいことだったからだ。
「バカな奴だ。戦場に卑怯もクソもない。」
「何ッ!?」
「例えば・・・・今、俺とお前の前に敵がいたとしよう。俺とお前の手には拳銃がある。使うか?」
「使わねぇっ!!」
ロックはカスパールの質問に即答した。
「俺は使う。」
カスパールも同様に即答した。
「・・・・ッ!!」
「戦いにおいて、勝つ確率が高い方を選ぶ。それが原則だ。故に俺は武器を使う。倒せる手段があるなら、マシンガンでも、核ミサイルでも使うといい。」
「い、言わせておけば・・・・!!あっ・・・!」
その時、ロックはカスパールの背後に立つ人影に気づいた。
「そりゃあいいこと聞いたぜ。」
カスパールはそれに気付き、後ろを向いた。
そこに立っていたのは、前に一度だけ対峙し、左手を切り飛ばした男・・・バルトロ・アゴスティーニ。
「よぉ、その節は・・・・どうもっ!!」
バルトロは一声とともにカスパールを殴り飛ばした。
「バ、バルトロのおっさん・・・・!た、確か、左手は・・・・!」
その時、ロックは気づいた。バルトロがカスパールを殴った方の手を・・・
バルトロの左手はカスパールに切り落とされた。だが、たった今カスパールを殴った手は――左手だった。
「気ン持ちいィ~~!」
バルトロは左手を切った張本人を殴ることができてスッキリしたのか、ニカッと笑った。
そして、その左手は銀色に輝いていた。
「お、おっさん!その手・・・!」
「ん?ああ、これか?メフィストの野郎に作ってもらったんだ、義手!これ、前よりもいいぞ~!頑丈だし、十徳ナイフみたいに缶切りもついてんだ!」
「そ、それはいらないような・・・・」
その時、ロックの携帯に着信が入った。
「ん?・・・ベティさん?」
『ロック君?大変なの!バルトロが・・・バルトロが病院から抜け出しちゃって・・・・!!』
「え、えーっと・・・・おっさんなら今・・・目の前に、います。」
『えっ?』
「今、左手切り落とした張本人と戦ってます・・・・」
『ええええええええっ!!?』
ベティはあまりの意味のわからなさに、電話の向こうで大声を上げた。
「つ、連れ戻す?」
『・・・いいわ。言っても聞かないだろうし。でも、一応言っといて。「後で覚えときなさい」って。』
ベティは怒りを込めて低い声で呟いた。
「は、はい・・・!」
(こ、怖い・・・・!!)
ベティからの電話は切れ、ロックは恐怖を感じていた。
「話、終わったか?」
バルトロは殴り飛ばしたカスパールをよそに、ロックに近づいて肩を叩いた。
「う、うん・・・終わった・・・」
すると、殴り飛ばされたカスパールが起き上がった。
「不意打ちとはやるな・・・・一杯食わされたぞ。だが、ヒーローとして不意打ちは卑怯なんじゃないのか?」
「てめぇが言えたことかよ!」
ロックはすぐさま反論した。
「お前が言ったことだろ?勝つためならどんな手でも使うべきだってな。それより、お前余裕こいてていいのか?こっちは二人がかりだぜ。」
「二人・・・」
ロックはバルトロの言葉を聞き、辺りを見回した。自分の周りにはバルトロしかいない。そして相手は一人・・・
ロックは状況を理解してニヤリと笑った。
「なるほどね。卑怯とは言わないよな?」
ロックはそう言って、バルトロとともにカスパールの前に立った。
相手が卑怯にも武器を使うなら、こちらも一人の相手に二人がかり・・・という戦法をとった。
「・・・なるほど。まぁ、そうした方が賢明だろうな。」
カスパールは余裕そうに振る舞い、再びミサイルポッドとビームブレードを起動する。
だが、次の瞬間・・・
「ドアホが!!」
バルトロは素早くポケットから赤いボールを取り出し、カスパールの顔面にぶち当てた。
ボールが当たった瞬間、弾けて塗料がカスパールの顔面に付着した。
「ッ!!カラーボールかっ!!」
「ロック、合わせろォッ!!」
バルトロは掛け声とともに両手から発する「磁力」のアーツでカスパールを引き寄せた。
「おうッ!!」
ロックはそれに合わせて駆け出す。さらにバルトロも駆け出す。そして、カスパールが近くまで引き寄せられたタイミングで、ダブルラリアットを繰り出した。
「ぐっ・・・!ごあっ!!」
ダブルラリアットを喰らったカスパールはそのまま地面に倒れた。
ロボットの為、外傷はなかったがダメージは受けていた。
「くっ・・・!」
カスパールはダメージを受けながらも立ち上がった。
「やるな・・・!だが、これはどうだ!!」
カスパールは顔についたペイントを拭い、足の裏からキャタピラのようなローラーが飛び出した。ローラーが飛び出したと同時に激しく回転し、カスパールは猛スピードで移動を開始した。
「な、なんだ?何をする気だ?」
「ミニマシンガン!」
カスパールの両肩から小型のマシンガンが飛び出し、二人に向けて乱射する。
「うわっ、撃って来やがった!」
二人は攻撃をなんとかかわす。
「遠距離か・・・任せろォ!!」
バルトロは両手を前に突き出し、意識を集中し始める。すると、バルトロの両手に紫色の火花のような光が現れ、辺り一面の地面から砂鉄が一斉に飛び出した。
「さ、砂鉄!?こんなのも操れるのか!?」
「俺だけ病院でマズイ飯食ってるわけにはいかねぇからな!!こっそり練習したんだ!!アイアンシールド!!」
砂鉄は目の前に集まり、二人の前に巨大な盾を作った。
「所詮は砂鉄・・・!撃ち抜いてやる!!」
カスパールは砂鉄の盾に向けてマシンガンを放つも、盾に防がれてしまう。
それが効かないとわかると、今度は横と後ろに回り込んで乱射する。
「アイアンウォール!!」
バルトロは砂鉄を操作し、ロックと自分をドーム状に変化した砂鉄の中に隠し、弾丸を防いだ。
「チッ!ならこいつだ!!」
カスパールは背中のミサイルポッドを起動し、瞳の裏に搭載されたロックサイトを合わせる。
ロックとバルトロに向け、全てのミサイルを発射する。
「次はミサイルか!」
バルトロは驚いたことに、砂鉄の壁を解除した。
「お、おい!おっさん、何すんだよ!!」
「こうすんだよ!!」
バルトロはミサイルの方向へ両手を突き出し、意識を集中させ、先ほどと同じように両手に紫色の火花を飛び出させた。
すると、二人へ向かって来ていたミサイルが空中で動きを止めた。
「な、何っ!?」
「ミ、ミサイルが・・・!」
「空中で止まった!?」
ミサイルはバルトロの「磁力操作」のアーツにより、操作され動きを止められていた。
「へ、へへっ・・・・」
だが、バルトロへの負担も大きかった。余裕そうに振る舞ってはいるが、両腕は震え、血管が浮き出ており、額に汗を流し、鼻から血を流している。
それもそのはず、カスパールが撃ったミサイルの数は50を越えており、その数をバルトロ一人で操っているのだ。
普通ならすでに倒れているところだが、バルトロの元レスラーとしての根性がそうさせなかった。どれだけ攻撃されても立ち上がるレスラーのタフネ、それがバルトロの一番の原動力なのだ。
「これが・・・・俺の・・・底力だぁぁぁぁぁぁ!!」
バルトロは力を振り絞り、ミサイルをカスパールの方へ向かせ、
「ま、まさか・・・!」
「ふん!」
バルトロが両手を振り下ろすと、カスパールへ向いたミサイルはそのまま、カスパールへ向かって飛んで行った。
「バ、バカな・・・!!う、うわぁぁぁぁぁぁ・・・!!」
ミサイルはカスパールに向かって着弾、爆発した。カスパールは叫び声を上げ、爆風に飲まれた。
「そ、そんな・・・カスパール様が・・・!!」
「へへっ・・・ざ、ざまぁみろ・・・!」
バルトロはさすがに限界が近づいたのか、膝をついた。
「バルトロのおっさん!大丈夫か!?」
「さ、流石に・・・疲れた・・・」
「でも、すげぇよおっさん!あんな凄いことやっちまうなんてよ!!これであの野郎も・・・!」
しばらくして爆風が収まり、ミサイルが着弾した場所が見えてくる。
そこにカスパールが倒れて・・・いなかった。
「!?」
ミサイルが着弾した場所に、カスパールはいなかった。
「い、いない・・・?消し炭になっちまったのか?」
ロックは着弾点へ近づいた。と、その時だった。
「うおおおおおおおおっ!!」
雄叫びが鳴り響き、その雄叫びとともにカスパールがロックの横から飛び出した。
「なっ・・・ぐあっ!!」
カスパールはミサイルが着弾した瞬間、身をかわし難を逃れていた。だが、それでもダメージは免れず、体の所々の内部のメカが露出していた。
突然現れたカスパールは、ロックの顔面を殴り飛ばした。
「カスパール様!」
「ロックーー!!」
(クソッ・・・!さっきのミサイルでビームブレードが出ない・・・!!)
カスパールは最初、ビームブレードで斬りかかるつもりだった。だが、先ほどのミサイルによるダメージで機能がショートしてしまっていた。
「てめぇ・・・まだ生きてやがったか!!」
ロックは殴られた場所を拭い、体を硬質化させ、お返しとばかりにカスパールを殴る。
「くっ・・・!貴様ァッ!!」
負けじと、カスパールも殴る。さらにロックも殴る。互いに防御を忘れた殴り合いが勃発した。
「カスパール様が・・・武器を使わずに、殴り合いを・・・!」
(どういうことだ・・・?これは・・・!?)
セシリアが武器を使わず肉弾戦をしているカスパールに驚いているのと同じく、カスパールは妙な、快感にも似た感情に困惑していた。
(何故だ・・・?俺はこんな馬鹿げたことを・・・!武器も使わず、防御もせず・・・ただひたすらに殴り合っている・・・・?戦闘ロボットであるこの俺が・・・?何故・・・俺は、こんなにも喜びに満ちているんだ・・・?)
その時だった、その時、カスパールは気づいた。
(そうか!これは・・・この感情は・・・・!!)
「ハハハ・・・フハハハハハハハハッ!!」
その感情の正体に気づいたカスパールは殴り合いをやめ、高笑いを上げた。
「な、なんだ?」
ロックだけでなく、バルトロとセシリアも突然カスパールが高笑いを上げたことに困惑した。
「ハッハッハッ・・・・いや、すまない。こっちのことだ。さぁ!もっとやるかっ!!」
カスパールは意気揚々と拳を構える。
「な、なんだかよくわかんねぇけど・・・そっちがやる気なら、やってやるぜ!!」
ロックも同じく拳を構える。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「でやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
二人は走り出し、拳を振り上げ、向かって行く。
「だぁっ!!」
「はあっ!!」
そして、間合いに入ったと同時に互いに拳を突き出した。
その瞬間、ドゴンッ!という衝撃音が鳴り響いた。
「・・・なっ・・・?」
「・・・何故、何故貴様がいる・・・!スポンサー!!」
一瞬、ほんの一瞬の出来事だった。ロックとカスパールの拳が激突する瞬間、どこからともなく、スポンサーが二人の前に現れ、二人の拳を手のひらで受け止めた。
「いやぁ、悪いね。盛り上がってるとこなのに。」
「全くだ・・・!!」
突然の邪魔者に、カスパールは怒りを露わにしていた。
「まぁ、そんな怒りなさんな。俺としては、いいもん見せてもらったが・・・生憎、まだ決着をつけてもらっちゃ困る。」
「別にどこで決着をつけようが同じだろ!」
カスパールの反論に、スポンサーはため息をつき、舌打ちを鳴らしながら人さし指を横に揺らす。
「チッチッチッ・・・・いいか?決着を早々につけることは大事だ。だが、場所がよくない。ここじゃ小汚いし、ギャラリーも少ない。これじゃあ華がない!」
「そんなこと、俺の知ったことでは・・・!!」
「王牙のダンナが!」
「!!」
カスパールがまたも反論しようとした瞬間、スポンサーが王牙の名を語った。
「帰りが遅いって、怒ってたぜ~。セシリア嬢も!早く帰った方がいいじゃないかい!?」
スポンサーは遠くの物陰に隠れているセシリアに大声で声をかけた。
「は、はい!か、帰ります!」
「ん。したら帰るかぁ。」
「王牙が呼んでいるのなら、仕方あるまい・・・・」
カスパールは悔やみながらも、その場を立ち去ることにし、セシリアとカスパールとともに立ち去ろうとした。
「お、おい!待てよ!!決着がまだついてねーぞ!!」
「・・・今日はもうダメだ。王牙には逆らえない。」
「・・・・ッ!!そーかよ!だったら覚えとけ!この戦いは引き分けってことにしといてやる!この次だ!この次は俺が勝つ!そうすりゃ、勝敗は1対1!さらにその次に俺が勝てば、2対1で俺の勝ちだーッ!!その時まで、絶対覚えてろ!決着つけてやるからな!!」
ロックはそう言って、カスパールに指を差した。
すると、カスパールは後ろを振り向き・・・
「ああ・・・忘れない!お前のことも・・・決着のことも!!」
カスパールはそう言うと、再び前を向いて、スタスタと行ってしまった。
「・・・・」
ロックは指を差したままポカンと固まっていた。
「あいつ・・・今、笑った・・・?」
カスパールはロボットで、かつ表情が変わらないため、表情など存在しないはずなのだが、ロックの目には、カスパールが笑ったように見えていた。
「カスパール様・・・・なんだか嬉しそうですね。」
「そうか?フフッ・・・」
帰り道、セシリアとカスパールは楽しそうに会話をしていた。
だが、その後ろでスポンサーが不敵な笑みを浮かべていた。
(ロック・オルグレン・・・"デーモンレベル43"・・・カスパール、"デーモンレベル46"・・・この二人、中々良い数値を叩き出すな・・・・その調子でもっと上げてくれよな・・・フフッ・・・)
その後、ロックはバルトロを入院していた病院へ送った。
「あーあ、また病院かよ・・・」
「しょうがねーだろ!アンタが勝手に抜け出したんだから・・・あっ!」
ロックは声を上げた。それと同じく、バルトロは正面に現れた人影に気づいた。それは、バルトロの恋人であるベティだった。
「ただいま!ベティ!」
バルトロは悪びれもなくベティに駆け寄った。
「・・・どうして勝手に病院を抜け出したの?」
「そりゃあ・・・この左手の敵を取りたくてよ・・・・」
「なんで左手を義手にしたって黙ってたの?」
「そ、それは・・・ビックリさせたかったから?」
バルトロが疑問形を混じらせて言った瞬間、ベティは右手を振り上げた。
(な、殴られる・・・!)
頬を殴られると思ったバルトロは身を強張らせる。だが、ベティは殴らなかった。
代わりに、殴らずにバルトロに抱きついた。
「ベ、ベティ・・・?」
「心配したんだから・・・・!!これ以上、心配かけさせないで・・・!!」
ベティは涙を流し、泣いていた。ベティはバルトロのことをずっと心配していたのだ。
ベティは泣きじゃくり、バルトロにすがりつく。
「・・・ベティ・・・・!!」
バルトロは申し訳なさと、ベティへの愛情を込め、抱きしめた。
「もう心配かけねぇよ、ベティ。」
「あ、あのー・・・俺、邪魔者?帰った方がいい?」
ロックは二人のやりとりを見て、自分は除け者であると感じ始めていた。
「おう、帰れ帰れ。」
「はぁ・・・お幸せに。」
ロックはため息をつき、その場を立ち去ろうとした。
だが、その時・・・
「おっと・・・言い忘れた。ロック!俺、カスパールのことはもう忘れるわ!」
「えっ?な、なんで!?」
「俺、この左手の礼をしたかっただけだからさー・・・一発ぶん殴ったし、ミサイルもお見舞いしたし、もういいかなーって思ってな!」
「そ、そんな、勝手すぎるぜ!」
ロックはバルトロの独白に、思わず混乱してしまっていた。
「はっはっはっ!まぁ気にすんな!というわけで、あいつのことはお前の好きにしな!」
「えー・・・」
ロックは釈然としないながらも、その日はジャッジのアジトへ戻った。
「はー・・・疲れた。」
アジトへ戻ったロックはソファに倒れ込んだ。
「どこで何してたんだ?こんなに遅くなりやがって。まぁ、買い物に頼んだものが生ものじゃ無くてよかったぜ。」
「俺じゃなくて買ってきたものの心配かよ・・・・」
ロックはさらに疲れ、ソファにうつぶせになって顔を伏せた。
(それにしても・・・好きにしろって言われてもな・・・・)
ロックは当初、バルトロの敵討ちとプライドを傷つけられた悔しさでカスパールを敵視していた。だが、当のバルトロが憂さ晴らしを晴らしてしまったため、ロックのカスパールへの執着が低くなっていた。
プライドを傷つけられた悔しさが残っているが、「それだけでは足りない」と、ロックは思っていた。
「何かもう一つ、もう一つ何かあれば戦える」とも思っていた。
「・・・どうすりゃいいんだ・・・・?」
ロックは戦うために必要な要因に悩み、その日はそのままソファで寝込んでしまった。




