第28話「善悪のないヒーロー」
街の街灯が目立つ夜・・・ロック、ジャッジ、シンの3人は目的の場所へ来ていた。
シンが情報通り、廃墟の病院で、錆と汚れが目立っている。
「よし、行くぞ。静かにな。」
ジャッジはスーツケース片手に二人に忠告しつつ、中に入る。ロックとシンも後に続く。
「ん?これは・・・!」
3人は中に入り、まず目を疑ったのは、室内に生い茂っている木の蔦だった。それも一カ所だけでなく、1階のほぼ全てを覆い尽くしていた。
「なんだこの蔦!?あちこちに生えてる!」
「Dr.ウッドって言うだけあって、植物だらけってことか。」
「これ、扉にまで伸びてますよ。病院の地図もないし・・・・」
「しゃあねぇか。俺は1階、シンは3階、ロックは5階探せ。」
「えっ!?俺一人で!?」
ロックは思わず声を上げた。実はロックは幽霊と暗いところが苦手で、これまではルーク達と一緒に行動していたため、恐怖はなかった。が、今回はルーク達はいない。
「当たり前だろうが。なんだ?怖いのか?」
ここで「怖い」と言ってしまえば、笑い者にされる。ロックはそうなることだけは避けたかった。
「だ、誰が!こんなことなんざ怖くねぇ!!」
「じゃ、行けるよな。はい。」
ジャッジはロックに懐中電灯とナイフと無線機を手渡した。
「何かあったら連絡するように。」
「ウーッス。」
「はい・・・・」
ジャッジはその場を離れて1階を探索し、シンはスタスタと3階へ上り、ロックはとぼとぼと5階へ進んでいった。
「あ~、嫌だ嫌だ~・・・・俺、バイオだけでも無理なのに・・・・」
ロックはブツブツを文句を小声で呟きながら5階の廊下を回っている。その時、背後から「ガタッ!」という音が響いた。
「ヒッ!!?」
音に反応し、ライトと顔を後ろに向けるが、何もない。
「待てよー・・・こういう時って大抵後ろを向くとッ!!」
ロックは後ろにいないと思わせて、正面にいると考え、正面を向き直した。だが、何もない。
「・・・ったく、何なんだよ・・・・!もう嫌だ!帰りてぇ・・・・!!」
5階に上がってまだ5分しか経っていないにも関わらず、ロックは泣き言をほざいた。
「うーん・・・中々見つからないッスねぇ・・・」
3階を調べていたシンは、扉を塞いでいた蔦を片っ端からナイフで切っていき、次々と部屋を調べていた。
しかし、一行にDr.ウッドは見つからない。
「さーて、最後の部屋・・・・と。」
残す部屋は一つだけになり、シンは最後の部屋の扉をそっと開ける。
シンは中に入ると同時に素早く転がって中に入る。中に入った瞬間に攻撃されないようにするためだ。
だが、中には誰もいなかった。
「ここも外れか。となると、1階か5階・・・・ん?」
その時、シンはある物に目が止まった。それは鉄製の机に置いてあったノートだった。そのノートには「研究資料」と書かれていた。
「研究資料?」
シンは中が気になり、思わず手に取って中を覗いた。
「これは・・・・!」
中の内容を読み、シンは声を上げた後、ニヤリを笑った。
「ははぁ、なーる・・・これはいいモン手に入れた♪」
そのころ、1階を探索を担当したジャッジは他の場所には目もくれず、まっすぐ講堂に向かった。他の階や部屋にDr.ウッドがいる可能性はあったが、確率から考えて講堂の方がいる可能性が高いと考えてのことだった。
ジャッジは拳銃片手に講堂の扉を蹴破った。
扉を蹴破ったその先にはパソコンと人一人入りそうなカプセルに入った樹木がホルマリン漬けにされたものが複数あり、パソコンの前に白髪で白衣を着た男が椅子に座ってパソコンを操作していた。
「ヒヒッ・・・ウェルカム・・・・!」
男は不敵な笑みを浮かべながら、後ろを振り向いた。
「・・・シン、ロック。聞こえるか?Dr.ウッドを見つけた。1階の講堂だ。」
『りょ、了解!』
『りょーかい。』
ジャッジは無線機で二人に連絡を取り、拳銃を男に向けた。
「お前がDr.ウッドなんだろ?」
「ご名答!しかし、いつの間にそんな名前で呼ばれたのかと思うと、複雑な気分だね。」
白髪と白衣という出で立ちから後ろ姿だけだと老人かと思えたが、正面の姿を見てみると、さほど年寄りでもなく、40過ぎの中年といった印象だった。
「君は殺し屋”ジャッジ”だろ?」
「ああ、その通りだ。依頼人からアンタを殺してくれと頼まれた。依頼の理由はアンタの研究と実験のせいで娘さんが殺されたこと。子どもを殺す野郎は、俺的にも許せないんでな。悪いが、ブッ殺す!」
ジャッジはそう言って拳銃の撃鉄を降ろし、トリガーに指をかけ、今にも弾丸を発射しようとする。だが、トリガーを引きかけたその瞬間、Dr.ウッドは手を突き出した。それと同時にDr.ウッドの手と腕から木の蔦が勢いよく飛び出した。
「!!」
蔦はジャッジの拳銃を弾き、腕に巻き付いた。
「くっ・・・!」
「どうだね?私の樹木の味は。」
蔦はジャッジの腕をへし折らんと、力を込め始めた。そうはさせまいと、ジャッジはナイフを取り出して蔦に突き刺していく。
「おっと、切り取ろうとしても無駄だ。私の樹木は特別製でね、切っても切っても次から次へと生えてくるんだ。」
Dr.ウッドが言ったように、ジャッジが何度も蔦を切っても次から次へと生えてくる。
「一撃で切らない限り、何度でも生えるのだ。」
「なるほど。そりゃあ良いこと聞いた・・・・ッス!!」
その時、ジャッジの背後からシンが現れ、靴の踵から刃を飛び出させ、ジャッジの腕に巻き付いた蔦を一撃で切り裂いた。
「ほぉ・・・」
「遅ぇよ、バカ。」
「すいませんッス。」
「ジャッジ先生!大丈夫か!?」
シンに続いて、ロックが遅れて講堂に入ってきた。
「お前も遅い!やっぱビビッてたのか!」
「ち、違うって!俺は俺で樹木野郎を倒す方法を考えてたんだ!それがこいつだ!」
そう言って得意気に前に出たロックは、どこからともなくライターとスプレーを取り出した。
「前に映画で見た・・・スプレー火炎放射だ!!」
ロックはスプレーの殺虫剤を発射すると同時にライターの火を付けた。すると、殺虫剤に火が引火し、火炎放射になってDr.ウッドに襲いかかる。
「甘い!」
Dr.ウッドはポケットから種のようなものを取り出し、床にぶつけた。すると、目の前に木が生え、Dr.ウッドを守るようにそびえた。
しかし、木は火炎放射で燃えてしまう。
「ぐ、ぐあああああああっ!!」
Dr.ウッドの断末魔が鳴り響く。
「よっしゃ!勝ったぜ!」
ロックはその断末魔を聞いてスプレーとライターを捨て、ガッツポーズをとった。
しかし・・・
「・・・なんてね♪」
「へっ?」
Dr.ウッドは死んではいなかった。
それどころか、ダメージを受けていなかっただけでなく、壁になっていた木もあまり燃えていなかった。
「も、燃えてねぇ!?」
予想外の結果に、ロックは声を上げた。対し、Dr.ウッドはせせら笑っている。
「ククッ・・・坊や、勉強の時間だ。確かに樹木というものは燃える。だが、燃えやすい木と燃えにくい木があるのだ。アカマツ、キンモクセイといった脂分が多いものは燃えやすく、今出したシラカシやシャリンバイといった水分の多いものは燃えにくいのだ。」
「なるほど、燃えにくい木を盾にして防いだのか。」
「マ、マジかよぉ・・・・!!」
ロックは絶句した。
すると、ジャッジとシンはロックの前に出た。
「下がってな。素人は物陰で見てな。」
「プロフェッショナルの仕事を見せて上げますよ。」
ジャッジは片手にショットガンを装備し、シンは靴の踵を強く踏んで刃を飛び出させ、両手の親指を深く曲げ、袖からも刃を飛び出させた。
「ククク・・・やる気みたいだね。だけど・・・・君達はもう、私の術中だ!!」
Dr.ウッドはニヤリと笑いながら両手を叩いた。すると、Dr.ウッドの後ろの壁から多数の竹槍が現れた。
「バンブー・スピアー!!」
Dr.ウッドの叫びとともに、竹槍が一斉に飛んでくる。
「わわわっ!!来やがった!!」
ロックは物陰に隠れつつ、体を硬質化させて身を守った。対し、シンは袖と靴の踵から飛び出した刃を上手く使って竹槍を弾いていく。
ジャッジはロングコートを脱ぎ捨て、手に持ったスーツケースと一緒に前の方に投げ捨てる。
「それで盾にしたつもりか!」
竹槍は次々とロングコートに突き刺さり、床に落ちた。
「むっ!?」
だが、投げ捨てられたロングコートの裏側にジャッジはいなかった。その時、Dr.ウッドの隣で「カチャッ」という音が聞こえた。
「チェックメイトだ。」
Dr.ウッドの隣に、ショットガンの銃口を向けたジャッジがいた。ジャッジはロングコートを投げ捨てた瞬間、Dr.ウッドがそこに気を取られている隙を突いて近づいていた。
(す、すげぇ!あの一瞬であんな近くまで近づくなんて!)
ロックはジャッジのスピードと手際の良さに驚いていた。
「ククッ、なるほど・・・やるねぇ。」
「もう終わりだ。」
「本当にそうかな?」
「何・・・・ッ!?」
次の瞬間、壁から巨大な丸太が飛び出し、ジャッジはそれに突き飛ばされた。
「くっ・・・ぐあっ!!」
「ジャッジさん!」
ジャッジは不意を突かれ、吹き飛ばされながらも見事に着地した。
「・・・なんともねぇよ!トラップを用意してたとはな。」
「用意周到なのでね、ククッ・・・・」
ジャッジとDr.ウッドは互いをにらみ合う。それを見て、シンは少々の焦りを感じていた。
(うーん、このまま長引くと銃声を聞きつけて警察が来ちまうな・・・ここは相手を揺さぶる戦法だ!)
「いやいや、中々お強いじゃないですか・・・・これも子どもを犠牲にした”実験”のおかげですかねぇ。」
シンは自らの作戦を敢行した。
シンの言葉に、ジャッジとDr.ウッドは顔を向けた。
「ああっ?どういうことだ?」
「君・・・何故知っている?」
「これ、なーんだ?」
シンは笑いながら、懐から古びたノートを取り出した。先ほど3階の部屋から手に入れたものだ。
「それは私の研究ノート・・・!」
「そっ。アンタがやろうとしていた研究・・・・不老不死、だよね?」
「不老不死って・・・確か、ずっと死ぬことがないっていう・・・・」
後ろの物陰からロックが顔を出した。
「その通り。まっ、今の技術じゃそんなことは不可能ですけど・・・・出来たとしても、延命措置がせいぜい。でも、この研究ノートだと・・・・一つの可能性があるんですよね。」
「・・・」
シンの言葉に、Dr.ウッドは黙り込んだ。
シンはそれに構わず、研究ノートを開いた。
「研究ノートの3ページ目・・・・『私がこの植物を操る力を手にした今、一つの可能性が生まれた。それは、人間の体内に種を埋め込むことだ』。」
「種・・・?」
「次のページに載ってます。えーと・・・」
シンは続きを読もうとした。が、その時、
「待ちたまえ。ノートを読むまでもない。私が話そう。
Dr.ウッドが割り込み、研究の内容を語り始める。
「まず、老化というものは細胞から始まっているのだ。細胞から始まり、組織、臓器、身体に徐々に回っていく。これを防ぐにはどうすればいいか・・・・そこで出た答えが、人間の体内に植物の種を埋め込むことだ。」
「それは無理だろ。植物は養分を吸って成長するんだからな。」
ジャッジは問題点を指摘した。植物の種を土に植えれば、土の養分と水や太陽の光で成長する。それを人間の身体に埋め込めば、逆に人間は種に養分を吸われ、衰弱してしまう。
だが、Dr.ウッドは笑った。
「ククッ、そうくると思った。私はこの能力を手に入れ、ある物を出来るようになった・・・それは、新しい種だ。その種は、中に養分を含んでいて、その養分を人間が吸うことで、人間の細胞を植物の細胞を覆い、老化を防ぐ。さらに細胞を活性化させ、衰えた身体の全組織、全気管、全細胞を若返らせることができるのだ!!」
Dr.ウッドは拳を握って熱く語った。それを見たジャッジは白けたかのように舌打ちを打ち、シンは拍手をし、ロックはポカンと口を開いていた。
「ケッ、くだらねぇ・・・・」
ジャッジはボソッと呟きながら、次の攻撃の準備をバレないように行っていた。ジャッジは靴の踵に仕込まれたワイヤーを静かに射出した。
そのことに、Dr.ウッドが気づいているかは定かではない。
「まぁ、そんなデカイ夢を持ってるのはいいですけど・・・・それに子ども巻き込んで実験台にするってのは、大人としてどうなんですかね?」
「ん?」
「『ん?』じゃねーだろ。」
とぼけるDr.ウッドに、ジャッジは怒りを滲ませながら言い放った。
「依頼人が言ってたぜ。てめぇ、子どもにその植物の種を仕込んだんだってな。そのせいで、子どもは文字通りの植物人間になっちまったんだよ!」
「しょ、植物人間・・・?」
ロックが恐る恐る食いついた。
「ああ、ある子どもは全身が植物みたいな"節目"ができ、ある子どもは足が木の幹みたいになったり、ある子どもは背中から雑草が生えたりしたんだ。」
「ヒィーーーッ!!超怖いじゃねぇか!!つーか、子どもになんて酷いことしやがる!!」
「ホント、とんだ外道ですね。」
「外道?外道だと?」
シンの一言に、Dr.ウッドは反論し始めた。
「私のどこに非がある!?子どもは実験台にはちょうどいい!子どもは免疫力が弱いからすぐに結果が出る!使って当然のことだ!!」
「てめぇ!!どこまで腐ってやがる!!」
さっきまで物陰に隠れていたロックは、Dr.ウッドの非道さに怒りを燃やし、隠れるのを忘れて飛び出した。
「俺だって昔は平気で人をぶん殴るクズだったけど、てめぇほどじゃなかったぜ!!」
ロックは身体を硬質化させ、叫び、Dr.ウッドに殴りかかった。
「ハァッ!!」
Dr.ウッドは左手を突き出した。すると、左手が木の蔦に変化し、ロックの体に巻き付いて壁に押し潰した。
「三下は黙っていたまえ!」
「ク、クソッ!」
悔しがるロックを蔦で締め付けながら、Dr.ウッドはさらに語り始める。
「不老不死は人類の夢だ!これが成功すれば、少子高齢化など瞬く間に解決だ!それを考えれば、子どもの2,3人の犠牲など痒くもないだろう!!」
「・・・・」
Dr.ウッドの語りを聞き、ジャッジの拳が握られる。その力は爪が肉に食い込まんばかりの力だ。
(・・・そろそろ、かな?)
シンはジャッジのその様子を見て、何かを感づいた。
「いいか、たった少数の子どもの命と、大勢の命、どっちが・・・・」
「喋りすぎだ、クソ野郎。」
ジャッジはDr.ウッドより大きい声を出し、語りを遮った。
「何?」
Dr.ウッドはジャッジの方に顔を向けた。その瞬間、ジャッジはショットガンを発射した。
「!!」
Dr.ウッドの体にショットガンの弾が着弾し、後ろに吹き飛んだ。
「・・・・フハハハハッ!残念!」
ショットガンの弾を直で受けたDr.ウッドだったが、ダメージがなかった。Dr.ウッドは白衣のボタンを外し、服の下を見せた。そこには樫の木状に変化した腹が見えた。
「チッ、弾丸は対策済みか。」
「残念だったねぇ・・・しかし、いきなり攻撃するなんて汚いんじゃないのかね?」
「殺し屋に卑怯もクソもあるか。それに、お前みたいな子どもを自分の欲の為に利用するクズに言われたくねぇな!」
「なんだと!?」
Dr.ウッドはジャッジの言葉に食いついた。その隙に、シンはロックの側に駆け寄った。
「大丈夫スか?すぐ助けますから。」
シンはナイフを取り出し、蔦を切り、ロックを救出した。
「お、おおっ、サンキュ・・・・でも、ジャッジ先生、どうしたんだ?なんか・・・キャラ変わってね?」
「ああ、ジャッジさんは子どものことが大好きなんですよ。」
「えっ?」
「それも、あーなる前から・・・ね。」
「あーなる前って・・・火傷のことか?」
ロックはシンの「ああなる前」が、ジャッジがまだ殺し屋”ジャッジ”になる前、全身に火傷を負う前だと予想した。
「そう。アンタら『パラディンフォース』が戦おうとしてる王牙一味・・・・その内の一人、ゲインって奴が、あの人の家族を殺したんだ。」
「えっ?」
ロックは唖然とした。
その二人の会話をよそに、ジャッジとDr.ウッドは戦闘を繰り広げていた。
「君は不老不死を望んでいないのかァ!?」
Dr.ウッドは叫び、手を床につき、床から竹槍を生やす。
「お前みたいなクズどもを永遠に殺せるんならアリだけどな!!」
ジャッジは下から生えてくる竹槍を次々とよけていき、Dr.ウッドへ近づき、懐へ潜り込んだ。
「くっ!」
「遅ぇんだよ。」
Dr.ウッドは樹木を生やして攻撃を防ごうとした。だが、ジャッジはそれよりも早くDr.ウッドの襟元を掴み、床へ叩きつけた。
「がっ・・・!!」
「一本!」
シンは拍手をし、ジャッジはDr.ウッドを踏みつけた。
「言っとくが、子ども達の未来に比べたら、不老不死なんてカスみたいなもんだ。そんなカスみたいなものを求めて、子どもを利用するてめぇはカス以下だぜ。」
「おぉ・・・い、言うなぁ・・・」
「さすがジャッジさん、毒舌だなぁ。」
「な、なんだとぉ・・・!!?ふざけるなぁ!!」
ジャッジの発言に腹を立て、Dr.ウッドは床から蔦を生やしてジャッジの足に絡ませ、投げ飛ばした。
「!!」
投げ飛ばされたジャッジは空中で回転し、着地した。
「私がこの研究にどれだけ尽くしていると思っている!?私はこれこそ人類の到達点、人類の夢、正義だと信じてやってきたんだ!!それをカス以下だとは言わせんぞ!!!」
「正義・・・ね。そんなの俺の知ったことじゃねぇ。俺は殺し屋であって、ヒーローじゃないんだからな。」
ジャッジは自分がヒーローでないこと、さらに正義の味方でもないことを伝えながら、フックショットを装備した。
「正義だの悪だの・・・そんなもんは大義名分だ。ただ、一つだけ言えるのは・・・俺はそんなこと関係なしにクズどもをブッ殺す。それだけだ。」
ジャッジは言い終えると同時にフックショットをDr.ウッドに向けて発射する。
「何を・・・!!」
Dr.ウッドは両腕を木の幹に変え、腕を交差させてフックショットを防ごうとした。だが、フックは両腕に絡みついた。
「ふん!」
ジャッジはそのままフックを思い切り引っ張った。
フックを思い切り引っ張られたことでDr.ウッドはバランスを崩した。バランスが崩れたところをジャッジが飛び込み、飛び蹴りを食らわせた。
「ぐあっ!!舐めるなァッ!!」
Dr.ウッドは全身に力を込めた。すると、背中から巨大な木の蔓が6本生え、両手には竹槍を、地面からは樹木で作られた兵士が現れた。
「な、なんだ!?」
「これが私の本気!ジェネラル・ウッドだ!!行け、ウッドソルジャー!!」
Dr.ウッドの命令に応じ、樹木の兵士達が一斉に襲いかかった。
だが・・・突然、ウッドソルジャーの動きが止まった。
「な、何!?どうした!?ウッドソルジャー!!」
「い、いきなり動かなく・・・あっ!」
突然動かなくなったウッドソルジャーを見て、ロックは声を上げた。
「ワ、ワイヤー!」
動かなくなったウッドソルジャーをよく見てみると、ソルジャー達の体にはワイヤーが絡まっていた。
「い、いつの間に・・・!?」
「俺はこの手のワイヤーマジックが得意なんでな。」
ジャッジは密かにワイヤーを射出し、戦いの最中に動き回りつつ、部屋にある服を掛けるフックや壁と棚の隙間などの出っ張りにワイヤーを引っかけていたのだ。
静かに呟きながら、ジャッジはスーツケースを開けた。
「ジャッジ先生!何やってんだよ!?早くしないとワイヤーが切れちまう!」
「落ち着け、こいつらをまとめて倒す・・・準備だよ!!」
そう言って、ジャッジがスーツケースの中から取り出したのは、ガトリング砲だった。
「ガ、ガトリング砲!!?」
「くたばれ。」
その一言とともに、ガトリング砲が放たれた。弾丸は次々と樹木の兵士達に直撃する。樹木の兵士達は、所詮は"樹木"。いくら素材が火に強かったり、固かったりと言っても、現代兵器の銃、それもガトリング砲の前ではただの的と化す。
「ふぃー・・・一丁上がり。」
ジャッジは瞬く間に樹木の兵士達を倒し、ガトリング砲を肩に担いだ。床は木片と薬莢だらけになっている。
「お見事・・・・」
「・・・なんか、これ見てると体鍛えるのがバカらしく思えてくるぜ。」
「さーて、残りはお前だ。Dr.ウッド!」
ジャッジはそう言って、ガトリング砲を捨て、拳銃に持ち替えてDr.ウッドに放つ。
「ガトリング砲じゃない!?」
Dr.ウッドは両手の幹で銃弾を受けた。
「あははははははっ!!バカな!ガトリング砲があるのに使わないとは!」
「アンタ、頭に血が上ったんじゃないのか?」
ジャッジは突然、Dr.ウッドを罵倒した。
「何?」
「俺がなんでガトリング砲じゃなくて拳銃を使ったか、考えなかったのか?」
「なんだと・・・?それはどういう・・・・ッ!?」
その時、Dr.ウッドは自分の体の異変に気がついた。
「こ、これは・・・!?」
幹になっていた両腕が、どんどん黒ずんでいく。それは腕だけなく、全身に回っていき、全身が黒ずんでいった。
「ま、まさかこれは・・・・!?」
「その通り、腐食さ。さっきの拳銃の銃弾に強アルカリ液を加えた。銃弾に加えたアルカリ液がアンタの全身に回り、体内にある種が腐食し始めたってワケだ。」
「バ、バカな!なぜ私の体内に植物の種があると何故わかった!?」
Dr.ウッドは訳が分からず、自分の体内の謎を知ったであろうジャッジに問いかけた。
その叫びに、ジャッジはマスクの下でニヤリと笑い、答え始めた。
「さっき、ロックの攻撃を防ぐ時、アンタは木の種を投げた。そして種は急成長して樹木になった。そして、アンタ自身は体から樹木や蔦を生やすことができる。ここでふと思ったんだ。アンタのアーツは、『体に触れた植物の種を急成長させるもの』・・・・なんじゃないかってな。そうすれば辻褄が合う。地面から竹槍伸ばすのも、樹木の兵士を創ることができるのもな。」
「な~るほど、そういうことッスね。」
ジャッジの推理に納得し、シンは手を叩いた。対し、ロックとDr,ウッドは唖然としていた。
(マ、マジかよ・・・!?)
(短時間の内にそこまで・・・・!?)
「さて・・・アンタはもう終わりだ。Dr.ウッド。」
「そ、そんな・・・私がこんなところで・・・・!!」
Dr.ウッドの体は真っ黒に染まり、顔にまで至った。そして、体の動きも鈍くなっていく。
「言い残すことは?」
ジャッジは投げ捨てたロングコートから手榴弾を取り出し、ピンに手を掛けた。
「私は・・・正しい・・・!私の研究は・・・・最高の・・・・!!」
腐植は体だけでなく、内部にまで進んでいた。Dr.ウッドの言葉が途切れ始めている。腐植が脳に達し始めているのだ。
人によっては、ここでDr.ウッドを哀れむだろう。だが、ジャッジは・・・
「あっそ、じゃあな。」
ジャッジは軽い挨拶をして手榴弾をDr.ウッドの足元目掛けて軽く投げた。
「よし、急いで逃げるぞ。」
「はいはーい。」
「えっ!?このまま置き去りにすんのか!?」
「いいから、早く行くぞ!」
ロックはヒーローとしてDr.ウッドを置き去りにすることに抵抗を感じたが、ジャッジに引っ張られ、ロックは抵抗を感じたまま立ち去ることになった。
ロック達が部屋を出てしばらく少し走った後、手榴弾が爆発した。
講堂は入口から近かったため、ロック達は間一髪のところで脱出できた。
「・・・あれでよかったのか?置き去りにするなんて・・・!悪党だとしても酷すぎるぜ!」
「あ?お前だって、アイツのこと許せなかったんだろ?」
「そ、そりゃあ・・・・!そうだけど・・・」
ロックもジャッジと同様、Dr.ウッドの悪行を許さなかった。だが、殺したくはないと思っていた。しかし、それを止めることができなかった。ジャッジから感じた子どもに対する愛情と、それを無残にも利用した者への憎悪・・・
その二つの感情が合わさった気迫に圧倒され、ロックは止めることができなかった。
「もういいか?二度と口出しするな。」
「わかったよ・・・・」
納得は出来なかったが、ロックはジャッジの言葉に従い、アジトへと戻った。
この日、ロックは感じた。ジャッジはルークと同じであることを。やり方や考え方は違えど、二人ともこの時代に生きる子ども達のことを大事に思っている。それを守る為なら、ルークなら力を振るい、ジャッジなら人殺しもやってのける。細かい部分は違えど、本質は同じ・・・ルークもジャッジもヒーローには違いないと、ロックは思ったのだった・・・




