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ファウスト ~FIRST HEROS~  作者: 地理山計一郎
第1章「ヒーローチーム結成編」
3/38

第2話「今日からヒーロー」

前回までのあらすじ

職を失った元ボクサー、ルーク・エイマーズは悪魔「メフィスト」と出会い、契約を交わす。ヒーローの様な姿に変身し、バスジャックに巻き込まれた愛娘メアリを助け、事件を解決した。

しかし、メアリに悪魔と契約したことと職を失ったことを知られてしまったが・・・・


「メ、メアリ・・・・お前は一体何を言っているんだ?ヒーローになれって・・・・」

「だから、パパが漫画に出てくるようなスーパーヒーローになるの。そして人気が出たら自分の事務所を持つの!そしたら、グッズとか売って、CM撮影とかドラマにも参加しちゃったりすれば、版権料とかで儲かるんじゃない!?」

メアリのとんでもない計画・・・・それを聞いたメフィストは呆れ返っていたが、私は・・・


「メアリ・・・お前天才だな!」

『えっ』

私は親指を立て、メアリを褒め称えた。


私は頭が良くなかったため、メアリの言う計画が最高の計画のように聞こえていた。加えて、メアリの方も、私よりかは頭はいいが、一般人より頭が悪かったため、とんでもないことになってしまったのだ。


「でしょ!?いいアイデアでしょ!?」

「ああ、お前は天才だ!これでもう何も心配ないぞ!!」

『バカが2人・・・・』

幸せそうに笑い安堵する私とメアリを見て、メフィストは小声で悪口を言った。


「よーし、そうと決まれば早速行動開始!」

「おー!」

『付き合ってられんわ。』

私とメアリは拳を天に突き出し、高らかに叫んだ。


「まずはデザインを決めないとね!」

「デザイン?」

メアリは自分の部屋へ風のように飛んで行った。その後、5分くらい経ったところでメアリがスケッチブックを持って戻ってきた。


「ジャーン!これがパパのヒーローコスチュームでーす!!」

メアリはそう言うと、スケッチブックをめくった。そこにはメアリが考えた私のヒーローコスチュームが描かれていた。


悪魔っぽい角、赤く光る鋭い目、グローブを意識した両腕、どことなくブーツっぽい両足、それに全身タイツっぽい黒と白のスーツ・・・・オーソドックスなヒーローのように見える。だが、我が娘ながら、絵の上手さはそこまで・・・・


『なんだ?このヘタ・・・・むぐ!』

「じょ、上手だぞ!」

メフィストが絵を見て「ヘタクソ」と言いそうになった瞬間、彼の口を塞いだ。


「ホント!?よかった~!後は名前だけど・・・・」

「名前か・・・・あっ、フィストマンはどうだ!?ほら、私は元ボクサーだろ?だから・・・・」

「却下。」

私の案は早速却下された。・・・・まぁ、ネーミングセンスないからな。


私は何か良い名前がないか考えた。すると、一つピンと来た名前があった。

「そうだ・・・ファウストはどうだ?」

「ファウスト?」

「ああ、こいつはメフィストだから、私はファウストだ。」

私にしてはいいネーミングだと思った。だが、「ファウスト」と言った瞬間、メフィストは不機嫌そうな顔をした。


『ファウスト・・・・あの欲望まみれの汚い人間か。ええい、名前を聞いただけでも腹が立つ!』

明かに苛立っている。


確か、聞いた話だと、ファウストは自分の魂を代償にして、メフィストを召還し、ありとあらゆる願いを叶えてもらった。だが、メフィストは彼の願いを叶えた後、契約通り魂をもらおうとした。が、神が邪魔され、ファウストは昇天し、救済された・・・・メフィストにしてみれば、一番いいところでお預けされたようなものだ。そりゃあ怒るだろうな。


『今思い出しても忌々しい・・・・ファウストめ、次に会ったら地獄以上の苦しみを・・・!!』

メフィストはブツブツと愚痴と恨みを積もらせている。


「でも、ファウストって響きがいいね。」

「だろ?よし、ファウストに決定だ!」

こうして、私のヒーロー名は「ファウスト」に決まった。



そして、私のヒーロー活動が始まった。ヒーローの活動は、メアリから教わった。

『活動その1、街中をパトロールする』

私はまず、街中をパトロールすることにした。


街の大通りはもちろん、路地裏や裏通りも。ちなみに、私はファウストに変身している状態で街を歩いている。メアリが描いた、あのスーツで。

そのためか、街の人達が、すれ違い様に私を見つめていく。


「新しい自警団かい?」

とうとう声をかけられた。

「まぁ、そんなもんだ。」

私は適当に流した。


そして、裏通りの人気の少ないところをパトロールしている最中、私はあるものを見つけた。

「なぁなぁ、俺達と遊ぼうぜ。」

「いいだろ?優しくすっからさぁ。」

「や、やめてください・・・・私、友達と約束があるし・・・・」

大の男3人が1人のメアリと同じくらいの女の子に絡んでいる。その女の子はどこか気弱そうなせいか、一方的に男達側に話が進んでいるように見える。


ここは私の出番だ!メアリの教えが役に立つ!

『活動その2、チンピラに絡まれている人がいたら助けてあげる』

私は早速行動に移った。


「君達、やめなさい!!」

私はチンピラどもに呼びかけた。すると、3人はこっちに振り返った。


「か弱い女の子によってたかるとは・・・・男として情けないぞ!」

『オエッ・・・・よくそんな台詞言えるな。』

私が啖呵を切ると、メフィストは軽く吐き気を催した。


「なんだこいつ?」

「よくそんなクサイ台詞が言えたもんだな。」

「どいてろよ、オッサン!いい歳してコスプレすんなよ。」

チンピラどもはそう言うと、女の子の方へ戻っていく。


「待ちなさい!」

私は叫んだ。すると、3人は振り返る。

「こんなことはやめなさい!!君達のパパやママが悲しむぞ!!」

私がそう言うと、チンピラの内2人が笑い、残る1人はあきれたのか、ため息をついた。


「う~わっ、今時そういうこと言う奴がいるんだ!」

「アホクセー!」

「はぁ、お前マジでウゼェ。」

あきれてたチンピラはポケットからナイフを取り出した。と言っても折りたたみ式の果物ナイフだが。


「オラ、これ以上なんか言ったら刺すぞ!」

「やっちまえ!」

どうやら、私を脅しているらしい。だが、無駄なことだ。ここでメアリが教えた、ヒーロー活動とは別の「ヒーローの鉄則」が役に立つ。


『ヒーローの鉄則その1、戦わずして勝つことも必要』

戦わずして勝つ・・・・私ならできる!


「そんなもので強くなった気か!男なら拳で来なさい!!」

私は檄を飛ばした。


「うるせぇ!」

堪忍袋の緒が切れたチンピラは、私に向かってナイフを突き出した。私は同じく手を突き出し、親指と人差し指で今にも自分に近づいてくるナイフの刃をつまむ形で止めた。

「なっ!?」

「と、止めやがった!?」

残りの2人は、この光景を見て驚いている。


「この・・・!」

チンピラは私からナイフを離そうと、手に力を入れる。しかし、私の指どころか、ナイフさえ動かない。メフィストが言った「憑依型の悪魔は人間の身体能力を強化する」・・・どうやら事実らしい。あの時は冗談かと思ったが・・・・


(もしかして・・・・)

その時、私はあることを思いつき、チンピラからナイフを奪った。

そしてナイフを宙に放り投げ、そこですかさず、私は手刀を振りかざし、ナイフに向かって一気に振り下ろした!

ナイフは私の手刀と振り下ろした時の風圧によって、真っ二つに割れ、地面に落ちた。


『あ・・・』

チンピラ3人は口をポカンと開け、呆然と立ち尽くし、地面に落ちたナイフを見ている。

「ははは・・・お、俺ら、ホントはこんなこと嫌なんだよ・・・な?」

「そ、そうそう!ナンパとかバカのすることだもんな!」

「だ、だよなぁ!」

チンピラ達はきょどきょどお互いの顔を見合わせながら、それとなく許しを乞う。


「わかってくれたのか!」

私はチンピラ達が私の言い分を理解してくれたものと思い、3人の肩を叩いた。

「も、もちろんッス!」

「いいか?ちゃんと勉強して、ご飯食べて、学校へ行きなさい!いいね?」

『は、はい!』

3人は返事をした途端、逃げるようにその場から走り去った。

・・・・私もまだまだ捨てたものじゃないな。


「君、大丈夫かい?」

私は女の子の元に近づき、声をかけた。


「は、はい、大丈夫です・・・・」

「よかった・・・・」

私は小声でボソリと呟いた。


「?」

女の子は何を言ったか聞こえなかったのか、きょとんとした。私はそれを見て言った。

「君が無事でよかった。本当に。」

私が優しくそう言うと、女の子は嬉しかったのか、頬をほんのり赤く染めた。

「それでは、さらばだ。」

私は彼女に背を向け、その場から立ち去ろうとした。


その時、

「あ、あの!あなたは一体・・・・?」

彼女が私に尋ねてきた。答えは決まってる。私は彼女にこう言った。

「私はファウスト。この街のヒーローになる者だ。」

私はそう言って、その場を立ち去った。

さっきのはなかなか決まってた・・・・気がする。


『名前、ファウストで固定するのか?』

ファウストの声が聞こえた。


「ああ、いい名前だろ?」

『あのクソ人間の名前なのが腹立つが・・・・まぁよかろう。それより、お前にいいものを渡しておこう。』

ファウストはそう言うと、スーツの腹の部分からファウストの手がニョキッと出てきた。


「バ、バカ!誰かに見られたらどうするんだ!?」

私は小声で怒鳴りつける。

まだ路地裏から出る前だったからよかったものの、これを誰かに見られたら写真を撮られてネットに流されてしまうところだった。


『うるさい!これを腕につけろ!』

ファウストは手に腕輪を持っていた。私はおもむろにその腕輪を手に取った。


「なんだこれは?」

『名付けて「ドレインバングル」。それを腕にはめろ。私の体を通して、お前の腕につく。』

私は言われるまま、腕輪を腕につけた。


ドレイン(吸い取る)」・・・・なんか嫌な予感がするのは気のせいだろうか。

「一体どんな効果があるんだ?」

私は私はパトロールをしながら話を聞こうと思い、歩き始めた。


『フフフ、それはな・・・・!?待て!!』

その時、メフィストは突然大きな声で叫んだ。

その大きな声にビックリした周りの人達が、一斉に私の方を見ていた。


「ハ、ハハハ・・・・きょ、今日は涼しいですねぇ、ハハハ・・・・」

私は言い訳をしつつ、もう一度路地裏に入った。


「おい!いい加減にしろ!一体何があったというんだ!?」

私が怒鳴ると、メフィストは反論した。


『仲間の反応があったのだ!』

「仲間?ま、まさか・・・・」

『そうだ!悪魔だ!今、銀行にいるようだ。む?どうやら人間に取り憑いているらしい。』

私はそれを聞いて、今の私と同じ境遇の者がいると想像した。


「それじゃあ、私達と同じ人がいるということか!」

私は嬉しそうに言った。同じ境遇の者がいるとなんとなく嬉しくなる。だが、メフィストの次の一言に、私の笑みは消え失せた。

『・・・いや、どうやら人間の方は悪魔に精神を乗っ取られている。』

「なんだって!?」

『しかも、こいつはかなり気性が荒い奴に乗っ取られたな。何をしでかすかわからんぞ。』

その時、私の脳裏に一つの単語が浮かんだ。


「さっき、銀行にいると言ったな?・・・・マズイ!その銀行はどこだ!?」

『街の中で一番デカイ銀行だ。』

「デカイ銀行・・・あそこか!!」

デカイ銀行・・・アメリカ人なら誰でもわかるところだ。恐らくそいつがいるのはアメリカ最大の銀行だ。

私はすぐさまそこへ向かった。



数分後、私は目的地へたどり着いた。身体能力が強化されたせいか、走るのも速くなった気がする。

銀行の前には既に警察と野次馬達が集まっていた。


『ウオオオオオオオオオッ!!』

その時、鼓膜が破れんばかりの大声が銀行の中から聞こえた。


「あの中か!」

『野次馬が邪魔だ!思い切りジャンプして跳び越えろ!!』

私は言われた通り、助走をつけてから思い切りジャンプした。すると、私の体は高く跳び上がり、人だかりを軽々跳び越えた。


「な、なんだあいつ!?」

「いきなり現れたわ!」

野次馬がざわめいている。


「君!何をしているんだ!」

警官の1人が私に声をかけてきた。だが、私はそれを聞かずに銀行の中へ直行した。


中に入ると、1人の男が社員の胸倉を掴んで宙にぶら下げていた。だが、その男は妙におかしかった。全身の筋肉が肥大化し、身長が2m以上はあり、腕も足もアニメみたいに異常に太くなっていた。


『おい!もっと金を出せ!!』

「こ、ここにはもうありません・・・・!!」

『嘘つけっ!どうせ奥に隠してるんだろ?それをいただくぜ。』

男はそう言うと、社員を投げ捨て、奥へ行こうとした。


「待て!!」

私は叫んだ。男は私に気づき、こっちに振り返った。


『なんだぁ?てめぇ・・・・』

「よくもこんなひどいマネを・・・・許さんぞ!!」

私がそう言うと、男は鼻で笑った。


『許さん?てめぇヒーローかなんかか?』

「その通りだ!」

私はきっぱりと返答した。すると、男は笑った。


『アハハハハハハッ!!こいつぁ傑作だ!ヒーローが来やがったぜ!』

男は手を叩きながら爆笑した。


すると、メフィストが口を開き・・・・

『相変わらずバカな笑いだけは響くな、パドロ。』

「パドロ」という名前が出た瞬間、男の笑いが止まった。


『・・・・てめぇ、メフィストか。』

「知り合いなのか?」

『奴に取り憑いているのはパドロ。憑依型の悪魔だ・・・とは言っても、奴は憑依して精神を乗っ取ってしまったようだな。奴は地獄じゃルシファー直属の兵士だったが、力だけの能なしだから、何度も禁忌を侵し、ルシファーから追い出されたのだ。』

『だまれ!俺は俺のやりたいようにやるんだ!!ここにある金も、全部俺のものだぁ!!』

パドロの自分勝手な言い分に、私は怒りを覚え、拳を握った。


「そんなことの為に人々に危害を加えるとは・・・・絶対に許さんぞ!!」

『うるせぇ!!』

パドロは怒り、拳を繰り出した。


「!!」

私はそれを後ろに跳んでよけた。パドロの拳はそのまま床にぶつかり、床に穴を開けた。


「な、なんて破壊力だ!」

『奴のアーツは”筋力増加”だ!まともに受けたら危険だ!』

『うぉぉらぁぁぁぁぁ!!』

パドロはなりふり構わず拳を何度も繰り出してくる。私はよけながら隙を伺おうとしたが、意外にも拳は早く、隙をつけない状態だった。


「なんて速さだ・・・・!なら!」

次の攻撃の瞬間、私はその攻撃をかいくぐってパドロの後ろに回り、背中を駆け上り、後頭部目掛けて拳を繰り出す!

だが、パドロもバカではない。拳が当たる直前に私の腕を掴み、遠くの柱に向かって放り投げた。


「ぐあああああっ!!」

私の体は柱に直撃し、柱に体がめり込んだ。


「くっ・・・・ん?」

その時、私は私の体があまり痛みを感じていないことに気づいた。


「あ、あまり痛くない・・・・?」

『当たり前だろうが・・・・”私”の体を鎧としてお前が着てるんだから・・・・』

メフィストは今スーツの状態に変形している。つまり、私がメフィストの体を纏っているのと同じ。つまりそれは、私が攻撃を喰らうと、私はあまり痛みを感じない代わりにメフィストの方は普通に痛みを感じているということだ。


「す、すまん・・・・」

私はそれを理解し、一言謝った。


『お喋りしてんじゃねぇぞ!!』

パドロが問答無用で攻撃してくる。


「うおっ!」

私はギリギリでなんとかよける。


『ちょこまかと・・・!』

パドロは引き続き攻撃しようと拳を振り上げた。その時、ビリッ!という破けるような音が聞こえた。


「なっ・・・!?」

その時、私は自分の目を疑った。拳を振り上げたパドロの・・・・もとい取り憑いている男の腕の腱が見えていたのだ。


『ちっ!もうガタが来やがったか。』

「ど、どういうことだ・・・?」

私が困惑していると、頭にメフィストの声が響いた。


『あー、奴が取り憑いている”素体”がもう限界みたいだな。』

「なにっ!?」

『奴のアーツは人間に取り憑いて、その人間の筋力を増強させる。だが、軍人や格闘家ならともかく・・・普通の人間に使えば、それに耐えられない。つまりはガタがくるわけだ。』

メフィストの話を聞き、私は絶句し、焦りを感じた。このままでは、パドロが取り憑いている男の体が裂けてしまう。なんとかしなければ・・・・


そう思った次の瞬間、メフィストはとんでもないことを言い放った。

『これはチャンスだ!奴の体が限界に来た瞬間に叩け!そうすればこちらの被害は少なくて済む!』

メフィストの言葉に、私はさらに怒りがこみ上げた。そして、こいつらが何者なのか、改めて知った。


「・・・・本気なのか?」

『ああ、たかが人間一人だ。人間一人死んでも誰も気にしない。必要な犠牲というものだ。』

「・・・・そうか、やっぱりお前らは悪魔なんだな。」

『何?』

私はボクシングのファイティングポーズを取り始めた。


「私は、"彼"を助け、"奴"を倒す!」

『な、なに!?』

『ふははははははははっ!!こいつぁ驚いた!俺を倒すだって!?ちゃんちゃらおかしいぜ!!』

パドロは私を嘲笑っている。だが、気にしてる場合じゃない。


『貴様!自分が何を言っているのかわかってるのか!?一人の人間の為に、自分が傷つく気か!?』

「"たかが"じゃない!!」

私は叫んだ。


「その"たかが人間一人"で、悲しむ人がいる!!その人が死んで、泣く人がいるんだ!!そんな思いを・・・・誰一人として、させるものか!!」

私は考え無しにパドロに突っこんでいった。


『バカ!考え無しに突っこむな!!』

メフィストが私を叱咤する。わかってはいる。だが、時間がない。早く彼を助けなければならない。

私はパドロの攻撃をよけ、体にパンチの連打を浴びせる。


『ふん、そんなのが効くかよ!』

まるで効いていない。どうやら筋力の増強で防御も強化されているようだ。

お返しとばかりに拳が飛んでくる。


「クッ!」

私は両腕を交差させ、防御の態勢に入った。すると、スーツの両腕が変形し、巨大な盾に変化し、パドロの攻撃を防いだ。


「こ、これは・・・メフィスト!君か!?」

『ああ、私のアーツで腕だけを盾に変化させた。それより、私の言うことをよくも無視してくれたな。』

メフィストは機嫌が悪そうに言った。どうやら、さっき私が言ったことと行動が気に食わないようだ。


「私は人の命を優先する。」

『バカが。早死にするぞ。』

『この・・・!ちょこざいな!!』

パドロは盾を破壊しようと何度も拳をぶつけてくる。その隙に、私とメフィストは作戦を立てることにした。


「それより、どうするんだ?何か弱点とかないのか?」

私がそう言うと、メフィストは少し唸り声を上げ、答えた。


『ないことはないが・・・・仮説の段階だ。』

「それでいい!教えてくれ!」

『・・・・悪魔払いは古くから存在していた。アメリカなら聖水や十字架を。日本では"まじない"や札・・・・なら、中国は?私は他の悪魔払いを研究し、対策を練ろうと思い、まず中国の悪魔払いを調べた。そこで、私が発見したのは"経絡"と呼ばれるものだ。要はツボだな。そのツボを押すことで怪我の治療や長寿に役立ったらしい。そこで私は考えた。人間の体に治療に関するツボがあるなら、邪を払うツボもある・・・とな。そこで考えついたのが、『魔穴』と呼ばれる経絡だ。そこを押せば、恐らくパドロを追い出せるかもしれんが・・・・』

仮説・・・つまりは可能性が低いということ。危険な賭だが、今はこれに懸けるしかない。パドロを男から引き離し、かつ逆転を狙うにはこれしかない。


「わかった・・・・頼む!場所はどこだ!?」

私はメフィストの案を承諾し、「魔穴」の場所を尋ねる。


『場所は胴体!みぞおちだ!』

「よし!」

次の瞬間、メフィストは盾を元の腕に戻した。その時、パドロの拳が飛んでくるも、私はサイドステップで回り込み、体にパンチの連打を浴びせていく。


『がははははははっ!!そんな豆鉄砲みたいなパンチが効くかよぉ!!』

攻撃が効いていない・・・・筋肉が固いのも理由の一つだが、何よりも、私のパンチが弱い。私はパドロが取り憑いている男の体を気遣っているせいか、力を弱めてしまっている。

仮にこのパンチがみぞおちに当たったとしても、奴を追い出せるほどのパワーはないだろう。当てるなら、思い切り力を乗せたパンチでなければダメだ。

そのための活路は、ある!


『いい加減くたばっちまえ!!』

パドロが拳を繰り出す。私はそれをジャンプでよけ、顔面に思い切りパンチを喰らわせる。


『ぐぬっ!!』

顔面を強打し、パドロは両手で顔を押さえた。

その隙に、私は仁王立ちの状態で上半身をできるだけ捻るように後方に反らす。


『!!』

「デモンズスクリュー!!」

パドロが私の行動に気づいた。だがもう遅い。私は反らした反動を利用した全力のコークスクリューを「魔穴」・・・・みぞおちに命中させた。


『ぐあああああああああっ!!』

拳がみぞおちにめり込んだ瞬間、パドロが男の背中から抜け落ち、吹き飛んだ。すると、パドロが取り憑いていた男の体が空気を抜かれた風船のようにしぼみ、普通の人間の体に戻った。


「や、やった!」

『ま、まさか、本当に成功させるとは・・・・』

メフィストはかなり驚いているようだ。しかし、その驚きの表情はすぐに消え、ニヤリと笑った。


(こいつが一発で成功させたのも恐ろしい・・・が、何よりも恐ろしいのは・・・・この私自身の才能!!私の予想通り、「魔穴」は存在した!やはり私は天才だ!!)

『クククク・・・・!』

メフィストは心の中で自分の才能に酔いしれていた。そして、その気持ちが抑えきれず、思わず笑い声が漏れた。


「ず、随分嬉しそうだな。」

私は、メフィストは作戦が成功したから喜んでいるのかと思い込んでいた。


『クソ・・・!メフィストの分際で・・・!だが、もう一度人間に取り憑けば・・・!!』

パドロはもう一度戦おうと、私と戦う前に投げ捨てた社員の男に取り憑いた。


「しまった!」

『残念だったな!もう一度大暴れしてやる!!ウオオオオオオオオオッ!!』

パドロはそう言うと、拳を握って叫び声を上げた。


すると、それを見て、メフィストはニヤリと笑った。

『残念なのは貴様の脳髄だ、パドロ。』

メフィストがそう言うと、パドロは自身の体に異変が起きていることに気がついた。


「ど、どうなってるんだ!?筋肉が肥大化しねぇ!!」

パドロが言うように、取り憑いた男の体が全く肥大化しなかった。異変に気づいたパドロは取り憑いていた男から離れ、自分の体を触って確かめた。


「ど、どうなっているんだ?」

私もパドロと同様、今の状況に困惑していた。それを察したのか、メフィストがスーツの胸の辺りからニュッと顔を出した。


『よーし、バカにも分かるよーに説明してやろう。』

言い方が腹立つが、メフィストは説明を始めた。

『今、お前の腕につけている、わ・た・しが開発した「ドレインバングル」は地獄に存在する金属「エビルメタル」を主材料として作られている。私の研究で、この金属は人間と悪魔の細胞に作用し、本来の力を呼び覚ますことがわかった。私はこれをて・ん・さ・い的頭脳と科学力によって応用し、ちょっとした機能をつけた。その機能とは、「悪魔が持つアーツを奪い取る機能」だ。』

ところどころ語句を強調しつつ、メフィストは説明を終えた。


その説明を聞いていた私はイマイチ理解できずポカンとしていたが、パドロの方は青ざめた顔を見せていた。


それを見て、メフィストはあくどい笑みを浮かべた。

『脳がミジンコレベルの貴様も分かったか。悪魔がアーツを失うことが・・・どういうことなのか。』

『ああ・・・あああああああ!!』

パドロは突然叫び始めた。その姿は、まるで怯えてるようだった。


『嫌だ・・・!!まだ消えたくない!!俺はまだやれる!!消えたくない!!』

パドロは何度も何度も「消えたくない」と叫んだ。その願いに反するように、パドロの体に変化が訪れた。

「き、君!か、体が・・・・!!」

私はパドロの異変に気づき、指摘した。すると、メフィストはメフィストはニヤニヤと笑っている。


『悪魔に"死"の概念はない!だが、自身の個性とも言えるアーツがなくなることで、その身は・・・その存在はこの世から消える!つまり、アーツを失うことは死ぬことと同じことなのだ!!』

メフィストは笑いながら解説した。解説している間にパドロの体は消えかけていた。消えるといっても段々と透明になって消えるのではなく、体から砂がこぼれ、体の原型が無くなっていくのだ。


「うわああああああああ!!嫌だ!!助けて・・・助けてぇぇぇぇぇ!!」

その叫びも虚しいまま、パドロは消えていく。

「消えたくない!!消えたく・・・な・・・い・・・・!!」

そして、とうとうパドロは完全に消滅した。


『クハハハハハハハハハハハッ!!愚か者が!!この天才の私に逆らうからこうなるのだ!!だが、これでは終わらん!これはまだ、私の野望の序曲にしか過ぎん!!』

メフィストはパドロの死を嘲笑っている。同じ種族なのに、まるで親の敵を殺したかのように。

その時、私は気づいた。

こいつに慈悲など存在しない。思いやりも、優しさも・・・・あるのは邪悪な意思と野望だけ・・・・


事件の後、私は銀行から立ち去った。立ち去る際、マスコミが私に押し寄せてきたが、「事件は終わった」とだけ言って、立ち去った。だが、私はその時、ある光景が見えた。


それは、パドロが最初に取り憑いていた男が救急車に乗せられる直前、身内らしき女性が寄り添っている光景だ。その女性は恐らく、彼の奥さん・・・・奥さんは泣いていた。気を失い、腱が切れかかっている旦那さんにすがりつき、泣きじゃくる。

私の胸は苦しくなった。そして悔しかった。あの人をもっと早く助けられなかったこと、もっと早く止められれば、怪我人や泣く人だって少なく済んだはずなのに・・・・


私は決心を固めた。私はただ単に見せ物のヒーローになるんじゃない。悲しんでいる人に手を差し伸べられる、強さと優しさを持ったヒーローになると。そして、またパドロのような悪魔が現れたら、戦ってやる。誰かが悲しむことがないように。子ども達が笑って暮らせるように。



途中で出てきた、メアリが考えたヒーローコスチュームですが・・・私が書いた物を掲載しようと思いましたが、センスが無い上に絶望的に下手なので載せないことにしましたが・・・しかし読者的にデザインが分からないと困ると思うので、後日載せるか、別の形でお見せしたいと思います。


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