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ファウスト ~FIRST HEROS~  作者: 地理山計一郎
第3章「因縁の好敵手編」
29/38

第26話「敵との団欒」

クリスマスの一件から2日が経った。この私、ルークの怪我は完全に治った。刀が刺さった後すらない!


『これでもう大丈夫だな。しかし、2日であの重傷から回復するとは・・・・化け物か貴様は。』

「自分でもビックリしてるよ。」


部屋でメフィストに傷を見てもらっていた私は、シャツを着て私服に戻った。と、その時・・・・


「パパ!大変!」


メアリが声を荒げながらドアを強めに開けた。


「どうした?」

「て、手紙・・・・お、王牙・・・・さん、から・・・・!」


メアリはそう言って、手紙を私に差し出した。


「なんだって!?」


私はその手紙を奪い取る勢いで手に取り、中を確認し、読み始めた。


「・・・・・!」


私は手紙の内容を見て、思わず唖然としてしまった。


「な、なんて書いてる?」

「クリスマスの一件の・・・詫びをしたいらしい。手紙に書いてある住所まで来い・・・・とのことだ。」

「ど、どうするの?」

「行くしかないだろう。全員で!」


というわけで、私達6人は手紙に書かれている住所に向かった。


「・・・・ここでいいんだよね?」

「ああ、住所だとここで合ってる。」

「・・・悪役のアジトって、なんか薄汚いイメージあるけど・・・・」

「これ・・・豪華すぎやしねーか?」


手紙に書かれた住所にたどり着いた私達は、王牙達のアジトを見てポカンと口を開け立ち尽くした。なぜなら、目の前にある王牙達のアジトは、超豪華な屋敷だったからだ。


「・・・ウチの事務所がみすぼらしく見えるわね。」

「とにかく、入ろう・・・・」


私は恐る恐る門のインターフォンを鳴らした。すると、インターフォンのマイクからベートーベンの「運命」がいきなり流れ始めた。


「うおっ!?」

「イ、インターフォンの音がベートーベン・・・・!?」


私達が驚いていると、門がひとりでに開いた。


「じ、自動ドア・・・?」


私達はさらに驚きながら、屋敷へ向かう。門と屋敷の間の道は庭になっており、様々な花と噴水で彩られている。

屋敷の扉へたどり着くと、そこにはメイド服を着た銀髪の女性が立っていた。


「いらっしゃいませ。」


銀髪の女性は私達に挨拶をすると、ニコッと笑顔を見せた。


『ハウッ!!!』


その時、私とメフィスト以外の4人が変な声を出した。


「?・・・みんな、どうした?」

「な、なんかわかんねーけど、い、今、胸が滅茶苦茶ときめいた・・・・!!」

「なんか・・・す、すっごいクラクラするけど・・・・!なんか心地良い・・・!!」

「私・・・!女なのに、同性にときめくなんて・・・・!!」

「あ、あの人・・・!胸、超スッゴイ・・・・!ママより大きい・・・・!!」


みんな、銀髪の女性に魅了されているようだ。確かにメアリの言う通り、リンや私の妻マリアよりも胸は大きいし、顔もかなり美しいし、「絶世の美女」と呼んでも差し支えないほどだが・・・・私はマリアのことを愛している為か、ピンと来なかった。


(確かに美しいが・・・・マリアほどじゃないな。)

「あの・・・大丈夫ですか?」

「大丈夫です。すぐ直りますから。」


私はそう言って、ときめいているロック達の前に立つ。


「みんなしっかりしろォッ!!」

『!!』

「ここはあの王牙達のアジトだぞ!君達にとって、因縁の相手がいるんだ!腑抜けてる場合じゃない!!」

「そ、そうだった!ここにアイツいるんだった!」

「あ、アブねー!危うく術中にはまるところだった・・・・!!」

「もう大丈夫です、メイドさん。」

「は、はぁ・・・・では、ご案内します。」


私達はメイドの女性に連れられ、屋敷の中へ入った。中に入ると、足元には高級そうな赤絨毯が敷かれ、壁のあちこちに名画っぽい絵画に石像が置かれていた。


(彼の趣味なのか・・・・?)

「うわぁ、高級そうな絨毯・・・・汚さないようにしなきゃ・・・」


メアリは足元の絨毯を見て、恐る恐る歩き始めた。それを見て可笑しかったのか、メイドさんは笑った。


「フフッ、汚しても大丈夫ですよ。カスパール様と甲賀様がいつも綺麗にしてくだりますから。」

「ふーん・・・・って、ええっ!!?」


メイドさんの一言に、ロックは大声を出して驚いた。


「あ、あの汚い忍者が!?嘘だー!!」


ロックと同様に、ルイスも驚いていた。


「あのブリキ野郎が家事!?似合わねー!!」

「まぁ、確かに想像しづらいな・・・・」


私達はロボットのカスパールと忍者の甲賀が家事をしている姿を想像してみた。

・・・・なんとも似合わない姿だ。


「フフッ、二人ともああ見えて、お優しいんですよ。カスパール様はいつも私のことを気に掛けてくださるし、甲賀様は私に日本料理を教えてくださるんですよ。」

「あの忍者が料理・・・・?」

「ブリキ野郎が優しい・・・・?」

「他の方も、とってもいい方達なんです!宗次様は私の手が届かない高いところの物を取ってくれたり、スポンサー様は音楽に詳しくて、時々新しく買ったクラシックレコードを私に聴かせてくれるんです!ゲインさんは・・・・ぶっちゃけよくわかりませんが・・・・」

「えっ」


メイドさんはゲインの良いところが見つからなかったのか、適当に流した。


「王牙様は・・・・」


そして、王牙の良いところを言おうとしたメイドさんは何故か顔が赤くなり、それをうれしがるかのように両頬に手を当てた。


「?」


私は何故赤くなったのか尋ねようとした。と、その時・・・・

「おい、何をしている。」

廊下の奥から低い声が響き渡り、こちらに近づいて来た。


その声の主は、カスパールだった。


「カスパール様!」

「セシリア。」


メイドさんとカスパールは互いの名前を呼び合った。どうやら、セシリアというのがメイドさんの名前らしい。


「セシリア、前から言っていただろう。こういう面倒な仕事は俺や他の奴にやらせておけと。」


カスパールは普段よりも優しい口調でセシリアに注意した。


「でも・・・私だけ何もしないわけには・・・・!」

「それより、早くこいつらを案内しろ。王牙が少し怒り始めた。」

「は、はい!すぐに案内します!」


セシリアは慌てて私達を案内した。

そして、セシリアに案内されたどり着いた場所は食堂だった。食堂内も煌びやかな装飾が施され、真ん中に巨大な丸テーブルに真っ白なテーブルクロスが敷かれ、その上に銀色でピカピカの燭台が置かれている。さながら高級レストランのようだ。

テーブルの奥の席に王牙が、その横にはスポンサー、宗次が座っていた。部屋に入ると同時にカスパールは王牙の後ろに立った。


「・・・久しいな、『パラディンフォース』。」

「さっ、どうぞ!」


セシリアに促され、私達は席についた。私は王牙の正面の席、両隣にロックとリン、リンの隣にメアリ、ロックの隣にルイスが座った。

私達が座ったのを確認すると、セシリアも席についた。


「紹介しよう、セシリアだ。俺の妻だ。」

「セシリア・バルカ=シシクと申します。」


王牙の紹介とともに、セシリアも自己紹介をした。


「あっ、これはどうも・・・・」

『って、ええええええええっ!!?つ、妻ァッ!?』


私達は王牙の一言に、間を置いてから大声で叫んで驚いた。


「け、結婚していたのか!?」

「正式に式を挙げてはいないがな。」

「ククッ、まさしく『美女と野獣』だろ?・・・・おっと。」


スポンサーが皮肉めいたことを言うと、隣にいた王牙はギロリとスポンサーを睨んだ。


「・・・・今日来てもらったのは他でもない。俺の下僕がすまないことをした・・・・その詫びをしたい。」

「いや・・・実を言うと、私はそこまで気にしてないというか・・・・・」


私がそう言うと、両隣のロック達がため息をつき・・・・

「甘い!」

「えっ?」

王牙は私を叱咤した。


「貴様は甘すぎる。やられたのなら、怒りを持って100倍にして返してやれ。怒りこそ力の源だ。」

「は、はあ・・・・」


私は適当な相槌を打つと、王牙は指を鳴らした。

すると、食堂の奥の部屋から甲賀が出てきた。甲賀の足元を見てみると、右足には包帯が巻かれていた。それに松葉杖もついていた。


「甲賀・・・!」

「ルーク、貴様の代わりにやり返してやったぞ。」


王牙の台詞と甲賀の姿・・・・そこから私は答えを導いた。


「ま、まさか・・・・折ったのか!?右足を!」

「そうだ。下僕は教育せねばならん。」

「分かるっちゃ分かるけど・・・・い、いくらなんでもやり過ぎじゃないの?」


甲賀を親の仇のように敵視していたルイスは、苦い顔を浮かべながら王牙に言った。


「フン!貴様に王牙様のやり方を指図するな!」


すると、甲賀が食いつき、王牙のやり方に異議を唱えたルイスを叱咤した。

だがその時、王牙は甲賀を睨み、甲賀の折れた右足に蹴りを入れた。


『!!』

「~~~~~~ッ!!!」


甲賀は声にならない叫びを上げ、足を抑えた。


「まだ悪態をつく気があるのか・・・・」

「も、申し訳ございません・・・!王牙様・・・・!!」


甲賀は痛みに耐えながら王牙に謝罪をした。王牙はそれを聞くと、正面を向き直し腕を組んだ。


「さっさと始めろ。」

「はっ・・・!」


甲賀は足から手を離し、手を叩いた。


「よし、運べ!」


甲賀の一言と共に奥の部屋からコック達が現れ、料理を運んできた。


「詫びと言ってはなんだが・・・・こうして食事会を開こうと思ってな。」


王牙の一言とともに全員に蓋のついた皿が回され、コック達が一斉に蓋を開けた。


「こ、これは・・・・」


蓋が開けられ、中に入っていたのは・・・・蕎麦だった。


「な、何故に蕎麦?」

「ウチの甲賀の手製だ。甲賀は蕎麦打ちが趣味でな。その腕はプロ並み・・・・」


王牙の甲賀への賞賛に、後ろにいた甲賀は少し嬉しそうに胸を張った。

・・・・アメとムチ。恐らく王牙の教育方針はそれなんだろう。肉体への"ムチ"を与え、褒めるという"アメ"を与える。

・・・ムチの方が割合が大きそうだが・・・・


「お前達への詫びへと思って、作っておいた。今回のはそば粉100%の十割蕎麦じゃなく、更級粉(さらしなこ)を8割配合した更級蕎麦にした。」


甲賀は得意気に蕎麦について語り始めた。


「えっ?何?」

「さら?じゅう?」


蕎麦のことは何もわからない私達は頭の中に「?」を浮かべ、首を傾げた。


「・・・忘れてくれ。」


甲賀は寂しそうに、俯きながら呟いた。


「じゃあ・・・・いただくか。」


私達はさっそく蕎麦を食べ始めた。


「うっ!こ、これは・・・・!」

『美味い!』


私達は声を大にして叫んだ。


「そば粉の芳醇な香り・・・・スルッと入る喉ごし・・・」

「ワサビもすっげぇ合う!」


私達が蕎麦の感想を述べる中、王牙も一口啜り・・・・

「・・・うむ、美味い。」

「大変美味しゅうございます、甲賀様。」

「奥方様と甲賀様に喜んでいただき、ありがとうございます。」


同じく味の感想を述べた王牙とセシリアに、甲賀は感謝した。そして二人にバレないように拳をグッと握ってガッツポーズをとった。


「それにしても、驚いたな・・・・王牙にこんな綺麗な奥さんがいたなんて・・・・」

「やらんぞ。」

「いや、そういうことじゃなくて・・・・君は、なんというか・・・女性をぞんざいに扱うタイプだと思ってたから・・・・」


私がそう言うと、セシリアがムッとしたような表情で私に食いついた。


「そんなことないです!王牙様はとてもお優しい方です!いつも私や屋敷の皆様のことを気遣ってくれますし、それに・・・・よ、夜の時も・・・・」


すると、セシリアは急に頬を赤らめた。


「夜?」

「夜の時、一緒に寝てるのですが・・・・その・・・夫婦の夜の営みの時、触り方が優しくて・・・・しかも、日によって触り方が違って・・・激しい時もあれば、ねっとりとしつこい時も・・・!思い出しただけで・・・・ああっ・・・!」


セシリアは顔を赤らめながら自分の体を抱き、恍惚とした表情を浮かべてゾクゾクと震えた。それを見て、表情を変えず得意気に鼻息を鳴らした。

・・・正直言って、最初に会った時、「この人はまともだな」と思ったのだが・・・・前言撤回。この人もまともじゃなかった。


(この人はまともだと思ったのに・・・・)

(笑った方がいいんだろうか・・・・)

(ドM・・・)

(私の周りってなんで変な奴ばっかりなのかしら。)

(人間にもこんな奴がいるのか・・・)


ロック達も私と同じような気持ちだったようだ。


(いいなぁ・・・あんなに胸が大っきいお姉様と寝られて・・・・)


だが、メアリは私達とは少しズレた気持ちになっていた。加えて、メアリはセシリアの胸をチラチラと覗き見ていた。


「・・・おい、小娘。」

「ひゃい!?」


王牙に声を掛けられ、メアリは恐怖のあまり甲高い声で返事をした。

さらにメアリはダラダラと汗を流した。


「確か、貴様は俺に石を投げてきた女だな・・・・」

「ひぃっ!そ、その時は、誠に、す、す、すいませんでした・・・・」


メアリはあの時の恐怖と今の王牙の威圧感に圧倒され、歯をガチガチと鳴らし、体がぶるぶると震え始めた。目は今にも泣いてしまいそうな目をしている。


(も、もしかして、あの時のこと怒ってる・・・!?)


メアリは、王牙はあの時のことを怒っていると思っていた。そしてチラリと王牙の顔を見た。

王牙の表情は変わってこそいなかったが、眉間のところをよく見てみると、皺が寄っていた。それも、今にもくっつかんばかりに・・・・これは恐らく、怒ってる。


(お、怒ってる~~~~!!?)


王牙は何も言わず、スッと立ち上がった。


「ひぃっ!ごめんなさいごめんなさい!!どうか命だけは~~~~!!」


王牙は何も言わず、メアリに近づこうとする。その時・・・・

「王牙様?何をするおつもりですか?メアリ様、怖がっています。」

セシリアの一言に、メアリはポカンと口を開けた。


「・・・何をするわけでもない。俺に怯まず石を投げたことを褒めてやろうと思っただけだ。」

「まぁっ!お優しい!でも・・・メアリ様は怖がってますわ。」

「むう・・・・」


痛いところを突かれたのか、王牙は唸り声を上げ、たじろいだ。あの修羅のような強さを持った王牙の意外な姿だが、セシリアが頭が上がらないところがあるのだろうか。

とにかく、これで安心したのかメアリはため息をついた。


「はぁ・・・よくわかんないけど、助かった。ありがとう、セシリアさん・・・・」


メアリはセシリアに一言礼を言った。


「ところで・・・王牙、君は一応指名手配中の超危険人物のはずだ。その君がどうしてこんな目立つ屋敷にいるんだ?」


私は聞きたかったことを王牙に尋ねた。王牙は武装集団を壊滅させ、1体の殺人マシンと3人の脱獄犯を従え、世界の王となろうとしている危険人物。警察が放っておくワケがない。実際、ガント警察長はそのことを危惧していた。それほどの人物なら、こんな豪華な屋敷に住んでいるなんて不自然だ。


「その危険人物と飯を食べている貴様はどうなんだ?」

「そ、それは・・・・」


逆に王牙に問いかけられ、私は戸惑った。


「世界の王になる者が、警察如きを恐れてどうする!」

「!」

「まして、軍隊如きを恐れるほど、俺は愚かではない!この屋敷はその感情を形にした物だ。『この王牙を恐れぬならいつでも来い!』、『俺は逃げない!ここにいるぞ!』・・・という、警察と軍隊に対する煽りだ。」

「なるほど・・・・」


私は思わず納得してしまった。彼は警察も軍隊も恐れていない。それもそうだろう。王牙はイラクの武装集団をたった一人で壊滅させた男だ。警察なんて眼中にないだろう。


それからというもの、私達は出てくる料理を食べた。寿司、天ぷらといった有名な日本料理の他に、デザートには団子や餅が振る舞われた。

全部甲賀の手作りで、満足の行くものばかりだった。途中、他愛のない会話を挟みながら私達は笑い、相槌を打った。


思えば可笑しい状況だ。私達と王牙達は本来、敵同士のはずだ。なのに今、この瞬間では共に食事をし、共に笑っている。


こうして見ると、私は、もしかしたら王牙はそこまで悪い人間ではないのではないか、と思ってしまう。だが、こんな考えではいけない。相手は危険人物、一度は私を殺そうとした。油断してはいけない。


「ふぅ・・・おいしかった。」


一通り料理を食べ終え、私はため息をついた。

すると、王牙の隣に座っていた宗次が立ち上がった。


「・・・酒を取りに行ってくる。」

「あっ、それでしたら私が・・・・」

と、セシリアが立ち上がった。


「・・・大丈夫だ。一人でいける。」


宗次はそう言って、部屋を出た。


「・・・・」


その様子を、リンは睨むような目で見ていた。

すると、リンも立ち上がった。


「ちょっとお手洗い借りるわ。」

「お手洗いは廊下の突き当たりにあります。」

「ありがと。」


リンは席を立ち、同じく部屋を出た。

部屋を出て、リンは廊下を歩き、突き当たりにトイレに・・・・入らなかった。入ったのは隣にあった地下への階段。

階段を下りると、そこには地下倉庫になっていた。酒樽と多くの酒が入っている冷蔵庫と棚がある。そして・・・・部屋の奥に、リンの因縁の相手である宗次がいた。


「・・・何故ついて来た?」

「アンタは覚えてないでしょうけど・・・・私はアンタに殺された人達の娘よ!その復讐に来たのよ!!」


リンは宗次を睨み叫んだ。だが、それを嘲笑うかのように、宗次はほくそ笑んだ。


「・・・お前が俺に勝てるとでも?」

「勝つわ。ていうか、殺す!」


リンは怨みの念を込め、構えた。


「・・・致し方なし・・・・」


宗次は近くにあった栓抜きを手に取り、それを両手で持ち、刀のように構えた。


「・・・何それ?そんなので私に攻撃するつもり?」

「・・・・」


リンの問いかけに、宗次は答えない。


「答えないってことは・・・舐めてるってことよねぇ!!?」


宗次の沈黙が煽りだと解釈し、リンは攻撃を仕掛けた。足を思い切り振るって回し蹴りを繰り出そうとした。それと同時に、宗次はコルクを振り上げた。


その瞬間・・・・

「!!」

リンは例えようもない殺気を宗次から感じ取り、足を止めた。そして、宗次はコルクを振り下ろす!


「くっ!」


リンは咄嗟に横に転がってよけた。すると、リンの後ろにあった酒樽が真っ二つに割れた。


「嘘・・・」


リンは真っ二つに割れた酒樽を見て、声を上げた。宗次が持っているのはコルク。おおよそ殺傷能力のない道具にも関わらず、宗次はまるで刀のようにコルクを振るい、刀のようにコルクで酒樽を切り裂いた。


「・・・これが無刀流だ。刀が無くとも物を切り裂ける・・・・たとえ木の棒であってもだ。」

「無刀流・・・・!」


宗次は間髪入れずに攻撃を仕掛けて来た。


「!」


リンは攻撃を避ける、避ける。避ける度に周りにある物が次々と切り裂かれていく。


(手に持ってる得物さえ落とせば・・・・!)


リンは宗次の武器をはたき落とす為、懐に入り、武器を持っている右手に向かって掌底を放つ。


「甘い!」


しかし、宗次はリンの腕を掴み、逆にリンを扉まで投げ飛ばした。投げ飛ばされたリンは扉を突き破り、廊下に転がった。


「くっ・・・!」


リンは投げ飛ばされながらも起き上がり、ゆっくりと向かって来る宗次を睨みつけた。


「なんだ今の音は!?」


物音に気づいた私達は廊下に出た。


「ッ!!リン!」


私達はリンが宗次に襲われている光景を目撃した。


「てめぇ!リンに何してやがる!」


その光景を目撃したロックは激怒し、体を硬質化させて宗次に殴りかかった。だが、宗次はロックには目も通さずただ手に持ったコルクを振るった。


「!!」


ロックは攻撃に気付き、腕を盾にしながら後ろに下がった。


「っ・・・!!」


かわす際、攻撃が腕をかすっていたのか、ロックの腕の皮膚が切られ血が流れた。


「ロック!」

「・・・体を鉄に変えても無駄だ。俺の無刀流は鉄をも切り裂く・・・・」

「宗次!何をしている?」


その時、私達の後に出てきた王牙が宗次に問いかけた。


「・・・喧嘩を売られた。それを買ったまで・・・・」

「こいつらは客人だ。客人に対する態度ではないぞ、無礼者が!自分の部屋に戻れ!」

「・・・・」


宗次は王牙に促され、その場から立ち去ろうとした。と、その時は宗次は王牙の側で立ち止まり・・・・


「俺を飼い慣らせると思うな。お前は必ず殺してやるからな。」

「・・・俺は一向に構わん。飯時でも、女を抱いている時でもな・・・・」

「ふん・・・」


宗次は王牙の側で耳打ちし、2階へ上がった。


「済まなかったな、ウチの部下が・・・・」


王牙はリンに一声かけた。


「・・・別になんともないわ。先に仕掛けたのはこっちだしね。」

「リンお姉ちゃん、どうしてあの人に襲いかかったの?」

「それは・・・・」


リンはメアリの問いかけに、ゆっくりと答えようとした。


だが、その時・・・・

「それはね、お嬢ちゃん・・・」

突然、後ろからスポンサーが現れ、メアリの肩に腕をかけた。


「うわっ!!?」

「い、いつの間に!?」

「あの宗方宗次って男はねぇ、リンおねーちゃんの家族を殺しちゃったんだ。」

「えっ!?」

「じゃあ、リンちゃんが探してた仮面の男っていうのは・・・・」

「あいつのことか!」


私達が驚き、話していると、リンはどこか申し訳なさそうな顔を浮かべた。

それを見た私は、ポンと肩を叩いた。


「君が最近殺気立っていたのはこの為か・・・・一言相談してくれれば良かったのに・・・・」

「・・・心配かけたくなかったの。それにこれは私の問題だから。」


リンは私の手を払い、前に出た後ろ髪を後ろにやった。


「リン・・・」

「ロック様の手当をしないと・・・」


私の後ろでセシリアがロックの傷の手当ての為に、救急セットを持って来ていた。


「いやっ、大丈夫だよ別に・・・・」


ロックが言った様に、怪我は大した傷じゃなかった。鋼鉄化された肌のおかげか、傷の通りは浅かった為、簡単な治療をすれば治るものだった。


「それより、あいつ・・・・刀じゃなくてコルクで俺を斬りやがった!」

「無刀流・・・・刀を持たずとも、他の物で相手を切り裂くことができる我流剣術だ。刀の技術を熟知したあいつだからこそできる技法だ。」


王牙は宗次の使う「無刀流」について私達に説明した。

刀ではなく、別の物で相手を斬る剣法・・・・どういうメカニズムになってるのか気になるところではあるが・・・・


「・・・なーんかしらけちゃったね。」

「うむ・・・・そろそろお邪魔しようか。」

「ああ、帰れ。」


私の一言に、王牙がすぐさま反応した。

・・・仮にもお客様である私達になんて無礼な態度・・・・まぁ、らしいといえばらしいが・・・・


「じゃあ・・・お邪魔しました。」

「また、来てくださいね!」


セシリアは私達に笑顔を向けた。

・・・王牙に比べ、奥さんのセシリアの方がしっかりしてるというか、愛想がいい。変な人だが・・・・

私達は王牙の屋敷を立ち去ろうとした。だがそこに・・・・


「おっと、今日の午後5時・・・・テレビで面白いことが始まるぞ。」


スポンサーが立ち去ろうとする私達にいきなり話し掛けてきた。


「テレビ?どういうことだ?」

「フフッ、見ればわかるさ。チャンネルは3番!見逃すなよ~♪」


スポンサーは不敵に笑ったかと思うと、人をおちょくるような口調に戻った。

スポンサーの言葉の意味はわからなかったが、とにかく私達は王牙の屋敷を後にした。


屋敷を後にし、事務所へ戻った私達は、5時になるのを待った。

一体何が起こるのかはわからないが、恐らく重要な何かであることは間違いない。

そして、午後5時・・・・


「5時か・・・・一体何が起きるんだ?」

「テレビの・・・3番。」


メアリはテレビのリモコンを手に、テレビの電源を入れチャンネル3番に切り替えた。


『こんばんは。5時のグッドスマイルニュースの時間です。』


写し出されたのはニュース番組だ。


『昨日午後7時、ホワイトハウスにて・・・・』


内容は至って普通だった。政治家関連のニュースや犯罪の報道、グルメリポートばかりだ。


「僕達・・・騙された?」

「そんな気がしてきた。」


私は「騙された!」と、声を大にして言いたい気持ちと、してやられたという気持ちに駆られた。

これは流石に騙されたと思った・・・だが、その時だった。

遠くで花火のような音が聞こえた。


「なんだ?今の音は・・・・」


そして、その音に続いて消防車と救急車のサイレンが鳴り響いた。しかもかなりの数・・・・


「何か事件でもあったのか?」


救急車と消防車のサイレンを聞き、私は何とも言えない不安に包まれた。ふと、テレビの方に顔を向けると・・・


『ご覧ください!!米軍基地武器庫で火災が発生しています!!』


ニュースで米軍基地武器庫が火事になっているところが映し出された。屋根が破壊されて中が露出し、そこから黒い煙がモクモクと広がり、炎がどんどん基地の他のところにも燃え広がり、被害が拡大していく。


「おいおい!これどうなってんだ!?」

「まさか、さっきの音は・・・・!!」


さっきの花火のような音は爆発物のような物が武器庫に着弾した音・・・・私はそう解釈した。だが、誰が?何故こんなことを?


その時、私の脳内にある人物がよぎった。・・・スポンサーだ。彼しかいない!私達にこの光景を見せるために、わざわざ「テレビを見ろ」なんて命令をしたんだ。

と、その時だった。テレビの映像にカッと光る物が映り、次の瞬間、巨大な爆発音が鳴り響いた。


「!!」

『たった今、他の現場で爆発が起きました!!テレビの前の皆様、ご覧になられたでしょうか!?米軍基地で爆発が起きました。』


武器庫だけでなく、米軍基地の他の箇所でも爆発が起きた。

だがそれは一度だけではなかった。2度、3度・・・・立て続けに起きた。


「ひどい・・・・!」

「なんてことを・・・・!助けに行かないと!」


私はすぐさま軍人達を助けようと、米軍基地へ向かおうとした。


「待ってよおじさん!今から行っても間に合わないよ!ここからじゃ遠いし!!」


その時、ルイスが私を引き留めた。


「でも!誰かが行かないと、また被害が出てしまう!!」


私はルイスの意見に反論した。ルイスの言う通り、この事務所と米軍基地までは距離がかなり離れている。今から行っても間に合わないかもしれない。それは私も分かっているつもりだった。だが、何もせず、黙っているよりはいいと思った・・・・


「君達が行かなくても、私は行くぞ!」


私はそう言って、現場へ向かおうとした。と、その時だった。部屋にあった電話が鳴った。


「・・・・」


私は、「もしや」と思い、受話器を取った。


「・・・もしもし。」

『おー、ルークのダンナかい!』


やはり、スポンサーだった。


「君にダンナ呼ばわりされたくないな。何の用だ?」

『おいおい、その言い方はないんじゃないか?せっかくマジックの種明かしをしてやろうと思ったのに・・・・』


スポンサーの煽りにも近い口調に、私は怒りを覚え、受話器を握りしめた。


「やはり、あれは君の仕業か。」

『その通り!米軍基地の内部にスパイを潜り込ませた。誰か分かるかな~?』

「・・・甲賀だろう。彼ほどスパイ向きの人間はいないだろう。」

『正解!奴に変装をさせて、武器庫と格納庫、後適当なところに爆弾をセットさせたのさ。おっと、加えて言っとくと・・・・米軍の他にも、中国、日本、フランス、ロシア・・・・他の国の軍事施設も爆破しといた♪後でテレビでやるかもな。』


スポンサーの発言に、私はさらに怒りを滲ませた。


「よくわからないことをするな。軍のトップを殺せば済む話じゃないのか?」

『ハハハッ・・・・それじゃあ意味がない。人間は換えが聞くからな。トップを殺してもすぐに新しい奴がトップになる。大事なのは相手に恐怖を与えること、敵を無力化すること・・・・大事なのはこの2つだ。武器庫と格納庫を破壊すりゃあ、しばらくは何もできなくなる。』


以外と打算的だ・・・・軍が攻撃されれば、一般人も不安と恐怖に包まれる。スポンサーの言った2つが成り立つ。


「・・・王牙はいるか?」

『ああ、いるぜ。今変わる。』

『何の用だ?』


受話器から王牙の声が聞こえる。相手が変わった。


「王牙、これは一体どういうことだ?」

『どうもこうもない。言ったはずだ、俺は世界の王となるとな。』

「だったら!もっと平和的なやり方があっただろう!どうしてこんな暴力的な・・・!!」

『暴力でしか変わらないからだ。』

「!!」


王牙のその一言に、私は目を見開いた。


『政治家がどれだけ会議をしようと、世界は何も変わらない。変えるには"力"しかない。俺にはその"力"がある。この"力"で、俺は世界を変え、王となる!』


・・・王牙の言葉に迷いはない。むしろ、そんなものは最初から無かったような気さえさせる。電話越しではあったが、彼の覚悟と重みを感じた。


「・・・奥さんは、セシリアさんはどうなんだ?君のやり方を良しとしているのか?」

『知らんな。だが、望んでいるだろうな。』

「ッ・・・!!君に子どもが生まれたらどうする?実の息子に『犯罪者の息子』の重荷を背負わせる気か!?」

『そんなことなどどうでもいい。そんなことは世界を手に入れてから考えればいい。』

「!!」


王牙の一言に、私の怒りは爆発しそうだった。今にも砕かんばかりに、受話器を強く握りしめる。


王牙・・・この男の欲望に対する執念は凄まじい。だが、それに対して、周りのことを気にしていない・・・というより、周りのことなんてどうだっていいんだ。この男は、周りを気にせずに自分の覇道を成そうとしている。それが自分の妻であっても、息子であっても、気にしようとしないんだ。


私はそれに腹が立った。どんな理由があろうと、自分の家族のことを「どうでもいい」と思うことは、私にとって非常に腹立たしい。「自分」というものは、「家族」や「仲間」といったものがあって成り立つんだ。なぜそれがわからない?


・・・いや、言ったとしても、王牙は聞かないだろう。だったら・・・・


「・・・・王牙、私は、君のことを・・・少しは信じてたんだ。もしかしたら良い奴なんじゃないかって・・・話し合えば分かるって・・・・今日の食事会でそう思ったんだ。」


私は一旦怒りを静めつつ、冷静に喋り始めた。


『・・・なら、もうそんな幻想は消え失せただろう。』

「ああ、消えたよ。綺麗にね。・・・だが、おかげで吹っ切れたよ。」

『何?』


私は一旦、息を大きく吸い、一気に言い放つ。


「私は君を許さないッ!!!」


私は耳が割れんばかりの声で叫んだ。あまりに大きい声で、後ろにいたメアリ達が耳を塞いでいた。


「君が暴力で訴えてくるなら、私もそうする!!君のやり方を、君の思想を、君の欲望を、君の野望を、君の覇道を、全てをぶち壊すッ!!・・・今はそれが出来ない・・・!!だが、私は、私達は強くなる!!強くなって、絶対に君を倒すッ!!!スポンサーにも言っておけ!!『お前は絶対に許さない!!死んだ人達に変わって、私がお前を倒す!!』とな!!」

『・・・ああ、伝えてやる。』

「首を洗って待ってろ!!」

『ああ、待ってやる。いつでもな・・・・』


王牙は笑ったような口調でそう言うと、電話を切った。


「・・・・フーッ・・・・というわけだ、みんな!」

「いや、何がっ!!?」


私の一言にルイスが反応した。


「今、電話で何話してたの!?なんで喧嘩売ってんの!?」

「い、今の私達に、勝てる要素がないのよ!?」


ルイスとリンが私の決断が無謀であることを諭した。


「別にいいじゃねぇか!」


そこにロックが反論に入った。


「どうせ倒そうって思ってたんだ。このまま負けっ放しじゃ終われねぇからな!それとも、リン、ルイス!てめぇら自分の怨みを忘れてねぇだろうな!」

「わ、忘れてないわよ!ただ・・・いきなりで少し戸惑っただけ!」

「僕だってそうだよ!忘れてないよ!」

「だったらいいじゃねぇか!全員であいつらぶっ飛ばそうぜ!!」


ロックの言葉に、ルイスとリンは頷いた。その横で、メアリは不安そうな表情を浮かべていた。


「で、でも、王牙って人、凄く強いよ?パパだって敵わなかったんだから・・・・」


不安そうなメアリに、私は落ち着かせようと肩に手を置いた。


「だからこそさ。もっと強くなるんだ!ボクサー時代の時だって、いつもそうしてただろ?自分より強い敵がいたら、鍛えて鍛えて鍛えまくった。そうして強くなって、相手を倒せたんだ。」

「・・・じゃあ、もし勝てなかったら?」


メアリはまだ不安そうな顔を見せ、私に問いかけた。それに対し、私は笑って答えた。


「勝つさ、絶対。」


私はそう言って笑った。すると、不安そうな顔をしていたメアリの表情は段々と明るくなり、笑顔を見せた。


「・・・うん、そうだよね。そうだよね!ヒーローは負けないもん!最初は負けても、最後は絶対に勝つもん!!」

「ああっ!そうさ!メフィストも、いいだろ?」


私がそう言うと、私の影からメフィストが現れた。


「フン、まぁ私としては・・・あのスポンサーの正体が気になるからな。それに、貴様に何を言っても聞かんだろうからな。」


メフィストはそう言うと、私の額にデコピンをかました。


「ハハッ・・・よーしみんな!!1日でも早く強くなって、王牙達を倒すんだ!!」

『オーーーッ!!!』


ここからだ・・・・ここからが私達の快進撃だ!



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