表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファウスト ~FIRST HEROS~  作者: 地理山計一郎
第3章「因縁の好敵手編」
27/38

第24話「過去からの記憶・欲望」

今回は今まであまり明かされなかった主人公、ルークの過去が掘り下げられます。

結構キツイ内容だと思うので、閲覧注意・・・


「お姉ちゃん・・・パパの具合はどう?」


メアリは氷水とタオルを持って私の部屋へ入った。中ではリンが私の治療をしていた。


「一応止血して、治療はしたけど・・・・意識がまだ戻らないわ。心音もするし、脈もある、息もしてるけど・・・・ちょっと弱いわね・・・・」

「そんな・・・!どうしよう・・・・パパが死んじゃったら・・・・!!」


メアリはどうしようもない不安に駆られた。すると、リンはメアリを落ち着かせようと、ギュッと抱きしめた。


「大丈夫!あなたのパパは強いんだから、そう簡単に死なないわ!」

「・・・うん、そうだよね!私達が信じなきゃ、パパだって悲しんじゃう!」


リンの励ましで、メアリは元気を取り戻した。


「その意気よ!ところで、メフィストは?」

「地下にいるよ。治療に必要な機械を即席で作ってる。」



そのころ、地下にいるメフィストは・・・・


『よし、血圧測定器に電気ショック発生装置、心電図モニター、輸血用チューブ、輸血パック・・・・後はパックに入れる血があれば・・・・』


メフィストはあらかた治療に必要な道具を作ったが、輸血用の血がないことを気にしていた。


『確かアイツはB型だったな。ルイスは同じB型だが、今行ったからダメだ・・・・病院は遠い・・・・何か代わりは・・・・』


メフィストは、血液をどうにかできないか悩み、地下室をウロウロし始めた。すると、後ろのテーブルにぶつかり、あるものが床に落ちた。


『ん・・・・これは・・・・』


床に落ちたのは注射器だった。メフィストはそれを拾い上げた。


『・・・"デモンズ・ブラッド"・・・・』


メフィストはスポンサーが持っていた悪魔の血液"デモンズ・ブラッド"と、ニコラスの時の一件を思い出した。


("デモンズ・ブラッド"は、ありとあらゆる悪魔の血を採取したもの。ニコラスは下半身不随だった。ニコラスに、トルスの血液が投与されトルスのアーツがニコラスに遺伝した・・・・と考えるのが妥当か。つまり、悪魔の血は人間の怪我や病気を治すことができるということだ。だが、ニコラスには副作用が出た。とても万人に使えるとは思えん・・・・)


メフィストは頭の中で思考を巡らせ、その後、メフィストは注射器を自分に打ち、自らの血液を採取した。


『緊急用に採取しとくか。ルークの容態が悪化した時用に・・・・ロック達の方は、無事にたどり着けているといいが・・・・』


そのころ、追跡装置を使って甲賀のいるアジトへ向かっていたロック、ルイス、ロバートの3人は、アジトへたどり着いていた。


「ここがあの忍者野郎のアジトか・・・・」


3人がたどり着いたのは倉庫のような場所だった。恐らく、ここが甲賀のアジト・・・・


「あの忍者の相手は僕にやらせて。アイツだけは僕が倒したい。」

「ざけんな!俺だってあの野郎をぶん殴りてぇんだ!!てめぇだけに渡せるかよ!!」

「じゃあ言っとくけど、これはおじさんの仇討ちであり、僕自身の戦いでもある!邪魔しないで欲しいね!」

「なんだと、コラッ!!」


私の仇討ちに躍起になるあまり、気持ちがピリピリと高まっていた二人は突然言い争いを始めた。


「二人とも!落ち着いて・・・・あっ。」


二人の口喧嘩を収めようとしたロバートは、ある人影に気づいた。


「コラ。」

「へぎっ!?」

「あがっ!?」


ロックとルイスの後ろから近づいた人影が、二人の脳天に手刀を振り下ろした。

振り下ろされた手刀の痛みに、二人は頭を抑えた。


「だ、誰だぁ!!って・・・・ア、アンタ!」

「ジャ、ジャッジ!?」


二人の後ろに近づき、手刀を振り下ろしたのは、×印のマスクを被ったダークヒーロー、ジャッジだった。


「ったく、あの人の仇討ちをするって聞いたから心配して来てみりゃ・・・・何やってんだ、クソガキども。」

「じゃあ、メフィストが言ってた助っ人ってのは・・・・」

「俺だ。後もう一人来るらしいが・・・・」


ジャッジがそう言った、その時だった。


「すいません!遅れました!」


ジャッジの後ろから、メアリのクラスメートで錬金術師のレオナが走ってきた。


「お前、確かメアリの友達の・・・・」

「レオナちゃん!」

「御父様が敵に襲われたと聞いて駆けつけて来ました!私も仇討ちに参加します!」


レオナはそう言って、自分の胸を叩いた。


「助かるぜ・・・・って、なんでおっさんのことを”御父様って呼んでんだよ!?生意気だぞ!」


ロックはレオナの私への呼び方に疑問を感じ、それを言ってのけた。まぁ、私も気になってはいたが・・・・


「それはこちらの台詞です!前々から思っていましたが、そっちだってメアリと一緒に暮らしているなんて・・・・!なんて羨ましい!!」


今度はロックとレオナが口喧嘩を始めた。すると、口喧嘩を始めた二人を見かね、ジャッジが拳銃を2丁取り出し、二人の顎に押しつけた。


「ヒッ!?」

「はひっ!?」

「うるせぇ。大声出したら敵に見つかるだろうが。」

『ご、ごめんなさい・・・・』


銃を向けられ、二人は一言謝罪をした。すると、ジャッジは拳銃を懐にしまうと、代わりに何枚かの写真を取り出した。


「あの倉庫の写真だ。それとその周りの写真・・・・目通しとけ。よし、作戦を伝えるぞ。まず、俺は後方支援だ。倉庫の外からお前らをサポートする。銀髪の嬢ちゃんは倉庫に入ったら、相手との距離を保って、武器を変えながら敵を撹乱してやれ。」

「はい!」

「最後、ロック、ルイス、ロバートの3人。倉庫に突入して、とにかく暴れろ。」

「それなら得意分野だぜ!」

「それにしても、アンタが協力してくれるなんて思わなかったよ。」

「・・・・まぁな。」


ジャッジは一瞬無言になった後、返答した。


「あの人の考え方は大嫌いだが、一応尊敬はしてるつもりだ。だから、仇討ちくらいはしておかないとな。」

「ジャッジのおっさん・・・・!」

「オラッ!くっちゃべってねぇで、さっさと動け!」


こうして、甲賀への強襲作戦が開始された。



「オラオラオラオラオラーッ!!」

ロックは叫び声を上げ、ルイス、ロバート、レオナを率いて倉庫に侵入した。


「・・・来たか。」


倉庫の中は武器庫になっており、その真ん中に甲賀が立っており、その横には3基のカプセルのようなものが置かれていた。


「お前一人か?忍者野郎!」

「部下の忍達は、王牙様の警護に当たらせた。しかし、俺一人ではない。”スポンサー”が作った新兵器を用意してある。」


甲賀はそう言うと、パン!と手を叩いた。すると、それと同時に隣のカプセルが開いた。

カプセルが開くと、中から機械の駆動音が静かに鳴り響く。そして、ガシンッという鉄を叩くような音が床に叩きつけられ、その音の正体がカプセルの中から現れた。


「こ、こいつら・・・・!」


中から現れたのは、顔がセンサーマスクで裏がモノアイが動いている、人型のロボットだった。


「ロボット!?」

「"スポンサー"が言うには、『デストロイドβ』・・・という名前らしい。」

「『デストロイドα』の改修型か!」

「どーせ、その辺でラジコン操作してる奴がいるんだろ!?」


ロックはそう言うと、辺りをきょろきょろと見回した。すると、おかしかったのか、甲賀は吹き出した。


「プッ・・・フフッ・・・!今時ラジコンなワケがないだろう。このロボットは自律型だ。頭の出来が悪い奴だな。」

「う、うるせー!!人を小馬鹿にしてんじゃねーぞ!!」


ロックは小馬鹿にされたことに腹を立て、肌を浅黒い色に変え、硬質化させた。

ルイスも両手に炎を発現させ、ロバートも全身に雷を纏い、レオナも鉄の球から槍を錬金した。


『目標・・・・発見・・・・』


ロック達が臨戦態勢を取った瞬間、β達もロック達を捉えた。


『臨戦行動、開始・・・・』


β達の内の2体が両腕からブレード、マシンガンをせり出し、臨戦態勢をとる。


「先手必勝!!」


ロックは先制して攻撃を仕掛ける。武器を装備していないβに向かって殴りかかる。

すると、βは腰を深く落とし、ロックの腹目掛けてえぐりこむように力強い拳を放った。


「がっ・・・・!!うわぁぁぁぁぁ!!」


拳をモロに腹に喰らってしまったロックは、3Mほど吹き飛ばされた。しかし、ロックは吹き飛ばされながらも着地し、爪で床を引っ掻いてブレーキをかけた。


「な、なんだ今の・・・・!?えぐられたみてぇだったぞ・・・・!!」


ロックは腹に巨大な爪でえぐられたような痛みを感じ、腹を抑えた。


「あれは・・・ボクシングのコークスクリュー!?」

「それって・・・おじさんがよく使ってるやつ?」


ロバートとルイスが話していると、ロックを殴り飛ばしたβはボクシングの構えを取った。

それを見て、甲賀は静かに呟いた。


「今、ボクシングの構えを取ったのは"β-1"。ボクシング選手のデータを取り込んだ近接戦闘タイプだ。ルーク・エイマーズのデータも組み込んである。」

「て、てめぇ・・・・!おっさんのデータを勝手にパクりやがって!!」


ロックは殴られたことと私のデータが勝手に使われたことに怒り、β-1に殴りかかった。

しかし、ロックの攻撃はスウェーでかわされ、すぐに顔面にパンチを喰らった。


「ぐっ・・・!こいつ、速い・・・!」


ロックは攻撃に怯むも、果敢に攻め込んでいく。が、それでも攻撃は次々とかわされ、逆に反撃を喰らってしまう。


「くそっ・・・!舐めんなァッ!!」

「僕達も加勢しよう!」

「ああっ!」


その時、3人がロックの加勢をしようとした瞬間、横から眩い光が放たれた。


「危ない!」

「うおっ!!」


ロバートはいち早く気付き、自分と一緒にルイスとレオナを床に伏せさせた。


「い、今のは・・・・!?」


光が発せられた方を見てみると、マシンガンを装備したβの胸が開き、丸型の砲身が伸びていた。


「遠距離戦闘タイプ、"β-2"だ。胸にレーザー砲を搭載した世界初のロボット・・・・と、”スポンサー”は言っていた。一発撃つとチャージが必要らしい。」

「遠距離型・・・・なら、ここは私が行きます!」


遠距離型のβ-2に、ロバートやルイスでは相性が悪いと悟ったレオナは二人の前へ出た。


「"ナイツ・オブ・ラウンド"、第2形態・・・・!」


レオナは手に持っていた槍を弓矢に変えようと、手の甲に刻まれた魔方陣を輝かせる。と、その時だった。


「危ない!!」


その時、横からβの最後の一体がブレードで攻撃してきた。3人はそれをよけた。すると、βは続けてレオナに向かって攻撃を仕掛ける。


「こいつ・・・!私を狙って・・・!?」


「中距離支援タイプ、"β-3"。中距離からの攻撃を得意とし、なおかつ他の機体の攻撃をサポートする。」

「だったら・・・・なおさら他の奴から引きはがしてやる!第2形態『トリスタン』!」


レオナは手の甲の魔方陣で槍を鉄の弓矢に変えた。弦を引いて光の矢を出現させ、β-3に向かって放つ。

β-3はマシンガンで矢を破壊する。


「こっちだ、鉄くず!」


レオナはβ-3を挑発し、自分のところへ誘導する。


「ルイス、君はあの忍者のところに!」

「じゃあお言葉に甘えて!」


ルイスは甲賀に向かって一直線に突っ込んでいった。そこに、β-2が立ちはだかり、マシンガンを乱射した。


「よっと!」


ルイスは思いきりジャンプする。そして、両足に風を纏って飛行し、β-2の後ろに回った。


「悪いね♪」


ルイスはそのまま甲賀のところへ突っ込んだ。β-2はそれを逃すまいと、マシンガンを向ける。しかし、その時β-2の背中に電撃が走った。


「雷光指弾・・・!お前の相手は私だ!」


ロバートはルイスを追わせまいと、指から電撃を発射し、β-2に攻撃したのだ。


『目標・・・補足・・・・!』


β-2は攻撃目標をロバートに変え、マシンガンを向けた。


「ごぶさた・・・・でもないか。」

「ルイス・セナ・オリヴェイラ・・・・どうしても俺と戦いたいのか。」

「当たり前だろ?君は僕をコケにした。しかも、あまつさえ僕らのリーダーまで・・・・!]


ルイスは軽めの口調で話しつつ、鋭い目付きで甲賀を睨み・・・・


「許せるわけねぇだろッ!!!」


今までで一番低い声で叫び、回し蹴りを繰り出した。

しかし、甲賀はそれを片手で受け止めた。


「・・・よかろう。遊んでやる。」



そのころ、事務所の方では・・・・


「うん・・・脈も心拍数も異常ないし・・・・これで一安心ね。」


私の治療が完了し、私はベッドで眠っていた。


「よかった~!でも、なんで起きないんだろ?」

「う~ん、それはちょっとわからないわね・・・・とりあえず、寝かせておくしかないわね。私、ちょっと下でご飯作ってるから。二人はここにいて。」


リンはそう言って席を立ち、2階のキッチンへ向かった。


「・・・・私達、パパに無理させてたのかな。」

『あっ?』

「パパ、いつもそうなんだ。何か変なことや事件が起きたら、私とママにとにかく『大丈夫!』って言ってくるの。ヒーローになっても同じ。普通の人が事件に巻き込まれたら、『大丈夫です!』って落ち着かせて・・・・」

『フン、それが「甘い」という証拠だな。下らんことだ。』


メアリの言葉に、メフィストは相変わらずの毒舌を吐いた。それにメアリは小さく笑った。


「フフッ、そうかもね。でもね、『大丈夫』って言ったパパの背中って、すっごく頼りになるの。その背中がすごく心強いから、ママも私も、みんなも頼りにしてるの。でも・・・」

『でも?』

「それが逆に、パパを無理させてたのかも・・・・パパって、心配かけないように元気だって装ったりするから、余計に無理してたのかも・・・・」

『・・・・』


メアリの話に、メフィストは無言になった。


私は眠っているので気づかなかったが、メアリには私が無理をさせていると思われていたようだ。だが、私は無理をしているつもりはなかった。みんなの喜ぶ顔が見れれば、それで充分だ。それに、みんなが嬉しいなら、私だって嬉しい。しかし、私は知らず知らずの内に、みんなに無理をしていると思われていたようだ。


少しショックだった。


「パパ・・・無理させてごめんね。私・・・これからは、出来る限りパパに無理させないようにするから・・・ねっ?」


メアリはベッドに眠る私の手をギュッと握って、誓いを建てた。


メアリ・・・・謝るのは私の方だ。私は、知らない内にお前に心配を掛けていたんだな。情けない話だ。マリアが死んでからというもの、お前に苦労や心配を掛けないようにやってきたつもりなのに・・・・


『そんなことを気にする必要もないだろう。』


すると、メフィストはメアリの肩を叩き、一言呟いた。


「えっ?」

『お前らは親子だろう。他人はともかく、お前ら親子がそんなことを気にする必要もないんじゃないのか?少なくとも、お前がそれに気づいたのなら・・・・今度は、ルークが無理して倒れないように、お前が背中を支えてやれ。』

「私が・・・背中を・・・・」

『ああ。ロック達も、今そのために戦っている。あいつらもルークの支えになっている。・・・まぁ、私も支えになってやってもいいがな。』


と、メフィストは照れ隠しを言って見せた。


『それにだ、お前はまだ子どもだ。子どもは親に甘えていろ。そして、大人になったら、その恩をたっぷり返してやれ。』


メフィストはさらに続けて言った。話し終わった時、メアリはキョトンとしたような表情を浮かべていた。


『・・・なんだ?』

「いや、メフィストが珍しくいい事言ったなぁって・・・・」

『私はいつだっていいこと言ってるわい!!』

「フフッ・・・でも、ありがとう!ちょっと元気出た。」


メアリはメフィストにお礼を言い、笑顔を浮かべた。


『フン。それにしても・・・・いつまで寝てるんだ、この男は・・・・』


メフィストは私に顔を向け、私の愚痴を言った。

眠っていた私は、もちろん二人の会話は聞こえなかった。というより、”意識”そのものがなかったというべきか・・・・その時の私は、”ある映像を見ていた”のだ。



「叔母さん・・・僕、お腹空いた・・・・」


5歳ぐらいの少年が、叔母の服の裾を引っ張って昼食の催促をしている。


「うるさい!」

叔母が鬼のような形相で振り返り、少年の頬を叩いた。


「昼飯ねだってる暇があるなら、トイレ掃除でもしてな!!」


叔母の形相と乱暴な言葉使いに、少年は何も言えず、ただただ黙ってトイレへ向かった。

・・・・この少年は、小さい頃の私だ。私は赤ん坊の時、親に捨てられ、この女に拾われたんだ。


「おい!まだ掃除の仕方もわかんねぇのか!使えねぇガキだな!」


少年の私がトイレ掃除をしている最中、これまた鬼の形相を浮かべた男が入ってきた。

この男は私を拾った女の夫・・・つまり叔父だ。


叔父は入ってくるなり、少年の私の腹を蹴り飛ばした。


「役立たず!」


この男は働きもせず、毎日賭け事をして過ごし、賭けに負ければその腹いせに私に暴力を振るってくる。叔母はそれに知らんぷりしている。

叔母は家の稼ぎ頭だ。と言っても、仕事は援助交際で、それで稼いだ金で飯を食ってる。この女も叔父と同じく、私に暴力を振るってきた。


「ごめんなさい・・・!ごめんなさい・・・・!!」


少年の私は暴力を受け、ただただ謝り続けている。


・・・どうして、どうしてこんなものを見せる?私がもっとも忘れたい記憶なのに・・・・!

少年時代の私は、悲惨だった。叔父と叔母には暴力を振るわれ、近所の子どもにはいじめられた。警察を頼ろうにも、私が住んでいた場所は警察も手を出したがらない治安の悪い場所だった。加えて、少年だった頃の私は、大人が怖くて仕方がなかった。日常的に暴力を振るわれたせいで、大人に恐怖心を抱いてしまっていたんだ。


それから年月は過ぎ・・・・13歳になった私は、バイトを始めた。もちろん自分から始めたワケじゃない。叔父と叔母に無理矢理働かされたんだ。

だが、バイト先でも私は悲惨だった。バイト先に嫌な先輩がいて、その先輩はバックにギャングがいると噂されていて、刃向かう奴は殺されるらしい。私はその先輩にいじめのターゲットにされた。毎日のようにパシリをやらされ、肌にタバコの火を押しつけられ、殴る蹴るの暴行を受けた。

バイト代が入っても、全部叔父と叔母に取られた。そしてその金で自分達は遊んでいるんだ。


そして、その2年後・・・・私は15歳になったが、私の心はボロボロだった。もう壊れてしまいそうで、怖くてたまらなかった。


「おい、ルーク!今日も裏口のところに来いよ。」

「・・・はい。」


この日もまた先輩に呼ばれた。私は店の裏に回った。外はもう夜で雨が降っていた。今にも雷が鳴りそうだった。


「金出せよ。給料。」

「えっ、で、でも・・・・先輩だって・・・・」


私は先輩も給料をもらったことを指摘しようとしたが、その前に私は腹を殴られた。


「かはっ!」

「あれっぽっちで足りるかよ!いいから出せよ!」


先輩は怒鳴り声を上げ、私の給料が入った鞄に手を伸ばした。その時、私の脳裏に叔父と叔母が鬼の形相になっている顔を想像した。もし素直にこれを渡せば、また叔父と叔母に暴力を振るわれる。そうはなりたくなかった。


「ダメだ!」


私は庇うように鞄を抱きしめ、その場にうずくまった。


「この野郎!さっさと出せよ!ウスノロ!」

「い、嫌だ・・・!」

「てめぇみてぇな弱い奴はな!俺みたいな強い奴に!金を!貢げばいいんだよ!!一生な!!」


その時だった。先輩のその言葉に、この先の未来のことを想像した。


(一生・・・このまま・・・・?じゃあ、僕は・・・・何のために生きてるの?一生、お金を渡すため?一生、奴隷でいるため・・・?そんなの・・・そんなの・・・・!!)

「うわあああああああああ!!」


その時、私の中の何かが切れた。同時に、私は勢いよく起き上がりながら先輩の方を向き、顔面に拳を喰らわせた。


「ぐ、ぐえっ!!」

「僕は・・・!僕は奴隷なんかじゃない!!」


私はそのまま馬乗りになり、先輩を殴り続けた。私は訳も分からず殴った。私はただ、自分の生き方を決められたくなかったんだ。そして、奴隷でも、弱者でいるのも嫌だった。ただそれだけの気持ちだった。


「も、もう・・・・許して・・・・」


気がついた時には、先輩は許しを乞うていた。


「ご、ごめんなさい!!」


私はすぐさま先輩から離れ、先輩に謝った。


「お、俺が悪かった・・・・!か、金なら返す!お、俺の給料もやるから・・・・!!」


先輩はそう言って、自分の分の給料も差し出してきた。それを見た私は、呆然としていた。


「え、えっ・・・・ギャング、呼ばないんですか?確か、バックにギャングがいるって・・・・」

「う、嘘なんだよぉ・・・!ギャングが仲間だって言えば、みんなビビるから、いいカモになると思って・・・・!」

「は、はあ・・・・」


私は先輩の話を聞いて拍子抜けし、思わず給料袋を受け取った。


「も、もう二度といじめねぇから!さ、さようならぁ!!」


先輩は泣きながら逃げ去っていった。


「・・・金が、2倍になった。」


その時、私の中である気持ちが浮かんできた。しかしそれは、「暴力を振るってしまった!どうしよう?」といった気持ちではなく、「喜び」の気持ちだった。自分をバカにしてきた奴の泣き顔、許しを乞う姿・・・・なんとも滑稽で、胸が躍る・・・


「そうだ・・・!最初からこうすればよかったんだ・・・・!気に入らない奴、俺をバカにしてくる奴・・・・そいつら全員、ぶん殴ればいいんだ!!」


それ以来、私は吹っ切れた。自分をバカにする奴や気に入らない奴は倒してしまえばいい・・・・狂った考えを持ってしまったんだ。

私はすぐさま叔父と叔母のいる自宅へ向かった。まずは復讐だ。自分の人生を無茶苦茶にした二人への・・・・


「クソババァ!!クソジジィ!!いるかっ!!」


私は帰る途中で拾った鉄パイプを持ち、家に飾ってあった花瓶を壊した。


「ああっ!!?このデクの坊!何してんだい!?」

「うるせぇ!!」

私は思いきり叔母を蹴り飛ばした。


「何の騒ぎだ!?」

騒ぎを聞きつけ、叔父も私の前に現れた。


「ジジィ・・・・今まで、よくもやってくれたよ・・・なぁ!!」

「!!」


私は思いきり鉄パイプを振るった。叔父は身を伏せたが、鉄パイプは背中に当たった。


「があっ・・・!!」

「オラッ!オラッ!オラッ!」


私は何度も何度も背中に鉄パイプを叩きつけた。もう骨が折れたんじゃないかといったところでも、私は鉄パイプを振るうのを止めなかった。それほど、私の恨みは深かったのだ。


「ルーク!やめなさい!」

「黙れ!!」

私を止めようとした叔母も、私は思いきり顔を拳で殴った。


「うっ・・・・!!」

「アンタらは親のいない俺を拾ってくれた。それだけは感謝してる・・・だが、俺の人生を台無しにした!学校にも通わせないで、飯もロクに食わせない、食わせても犬のエサみたいな不味い飯・・・・よくもやってくれたな・・・・!」


私はそう呟くと、叔父の腕を鉄パイプで強く叩いた。


「があぁ・・・!!」

「俺の受けた痛みはこんなもんじゃない!!もっと、もっと痛かったぞ!!だけど、今すぐ金を全部出したら許してやる。さぁ、出せ!!」


私は二人を脅した。二人はその恐怖のあまり、そそくさと家中から金をかき集めた。私はその金を受け取ると、今までのお返しとばかりに家中の物を壊して回った。トイレの便器にガス台、蛇口、窓、家具全般・・・・人思いに壊した後、私は家を出て行った。


今思えば、私はなんて愚かなことをしてしまったのだろうか・・・・いくら暴力を振るわれて、恨みを持っていたとしても、こんなことをするのは間違っている。だが、当時の私はどうすればいいのかわからなかった・・・・大人になった今になってもわからないままだ。


「自由だ・・・これで俺は、自由の身だ!」


金を手にし、家を出た私は自由になれたと思い、今までの鬱憤を晴らすかのように遊び回った。ゲームセンターにも行ったし、ギャンブルにも手を出した。下手ですぐ辞めてしまったが・・・・

食事は色んな物を食べた。ファミレスや寿司屋、中華料理に本格レストラン・・・・今までゴミみたいな飯しか食べられなかった分、思う存分満喫した。たまに女遊びをして、女を抱くこともあった。結ばれたことはなかったが。


それからというもの、私はボクサーとして働く傍ら、その日暮らしをしていた。その辺をブラブラすることもあれば、喧嘩に明け暮れた日もあれば、食べ歩きに行く日もあった。金を稼ぐ時にはボクサーとしてファイトマネーの少ない試合に出て稼いだ。

それから18歳になった私は、マリアと出会って恋に落ち、1年後に結婚し、子ども・・・メアリが生まれた。


「ハハッ・・・懐かしいな・・・・しかし・・・・」


私は家を出た後の事を懐かしく思う一方で、昔、叔父と叔母にやってしまった事を悔いていた。ひどいことをされたとはいえ、育ててくれた2人に、私はひどいことをしてしまった。


若い頃の私だったら、絶対こんなこと考えもしなかっただろう。だが、私はマリアと出会って変わった。人に恨みを持つことがほとんどなくなった、優しさを持つことが出来た・・・・今だからこそ思うんだ。私が叔父と叔母にやったことは良くない行為だ。


「私は・・・・!あんな、恩を仇で返すようなことを・・・・!」


私は自分の過ちを悔い、その場に膝をついた。


『お前は間違ってはいない・・・・』


その時、どこからか声が聞こえた。その声は、どこか私の声と似ていた。


「だ、誰だ!?」


私は辺りを見回した。すると、私が見ていた過去の映像は消え、真っ暗な空間に変わった。


『お前は間違ってはいない・・・・』

その声と共に、目の前にファウストのスーツを着た私が現れた。


「き、君は・・・メフィスト・・・・なのか?」

『違うな。正確には・・・・これは自分の本心を隠しているお前の姿だ。』

「な、なんだと・・・?私が本心を隠しているとでも言うのか!?」


私がそう言うと、もう一人の私は低い声で笑い始めた。すると、驚いたことにマスクの口の部分が耳のところまでガバッと開き、不敵な笑みを浮かべ始めた。


『クハハハハ・・・・!隠しているとも・・・・!いや、とっくに気づいているかもしれないがな。自分の欲望に。』

「欲望・・・?」

『お前は、戦いと支配を望んでいる!まさしく皇帝の欲望だ!』

「な、なんだと!?」


もう一人の私の一言に、私は思わず声を上げた。


「嘘だ!私はそんなこと望んでいない!そりゃあ、『戦いを望んでいないのか』と聞かれたら、『違う』としか言えない・・・・そうさ、私は時々、無償に戦いたいと思う時がある!しかし、支配をしたいと思ったことはない!」


私はすぐさま否定してみせた。が、またももう一人の私は笑う。


『だったら、何故育ててくれた叔父と叔母に暴力を振るった?日頃の暴力に耐えかねたのと同時に、支配欲が沸いたんじゃないのか?』

「ち、違う!た、確かにあれは、復讐心故の行動だった!でも、今は反省してる!」

『なら何故、あの二人のところに顔を出して、昔のことを謝ろうとしないんだ?』

「そ、それは・・・・!」


もう一人の私の言い分に、私は何も答えられなかった。私が家を出た後、叔父と叔母には顔を見せていない。会いたくなかったのと、メアリに私の過去を知られるのが怖かったんだ。あんなことをして家を出た奴が、のうのうと顔を見せたところで、怖がられるか拒絶されるかがオチだ。それに、もしメアリに私の過去が知られれば、幻滅されるかもしれない。


「じ、事情があったんだ・・・!事情が!」


私の苦し紛れの言い訳に、もう一人の私は笑った。


『フハハハハハハハッ!!やはりお前は欲深き者だ!復讐をすることが悪いことだとわかっていながら、それを本人に謝罪せず、あまつさえ娘にそのことがバレないように隠し通す保身的行為・・・・!貴様は自分の身がかわいいから保身に走っているんだ!』

「ち、違う・・・・」


私は否定するも、聞き取れないような小さい声を出す。図星だったからだ。どれだけ取り繕っても、私は自分に言い訳して、保身に走っていただけなんだ。


『前にジャッジとかいう奴に言っていたな。人を信じる?子どもの未来を守る?強さと優しさを持ったヒーロー?差別のない世界?笑わせるな!自分の保身に走る奴が、そんなことを言えるのか!?偽善者め!貴様は自分の正義感に酔いしれているのだ!』

「ち、違う・・・・違うんだ・・・・!」


私は否定するが、それはただの言い訳でしかなかった。もう一人の私の言う通りだ。自分の罪を償えないような奴が、正義感ぶったことを言っても説得力がない。つまり、私はただの偽善者だったんだ。ヒーローなんかじゃなかったんだ・・・・!


『苦しいか?その苦しみから、すぐに解き放たれる方法がある・・・・・』

「そ、それは一体・・・・?」

『自分が何者かを思い出せ・・・・そうすれば、お前の苦しみは無くなり、本当の自分と目的を見つける・・・・!』


もう一人の私はそう呟くと、私の方へ手を差し伸べた。


「本当の・・・自分・・・・ッ!!」


その時だった。私は突然頭痛に襲われた。


「がっ・・・!?あ、あああああああああああっ!!」


その痛みはまるで脳味噌を直接ドリルでくり抜かれるような痛みだった。そして、その痛みとともに、私の脳内に映像が流れ込んだ。


(な、なんだ・・・!?これは・・・・!!?)


頭の中に流れる映像は誰かが人間とメフィストやサガナスのような異形の者達を次々と殺していくものだった。


私が見ている映像は、私の視点が主観となり、人間と化け物を殺している殺人鬼の行動を見ている。よって、殺人鬼の姿は見えないし、その殺人鬼が何者なのかはわからない。だが、私は懐かしさを感じていた。


何故?私はこの殺人鬼を知っているのか?少なくとも、私の周りの知り合いにはいない・・・・ならば、もっと昔?結婚する前?家を出る前?幼少の時?赤ん坊の時?・・・・いや、違う。それよりも前・・・・


私は、この殺人鬼を、こいつを・・・・知っている。こいつの正体は・・・・





自分で書いておいてアレですが・・・過去、暗いなぁ!

ロックとかリンとか、周りのキャラが過去に親が殺されたとか、捨てられたとか、暗めだったのでそれを越えるような感じにしたのですが・・・暗すぎた気がしました・・・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ