第23話「クリスマスの悲劇」
クリスマスにはだいぶ早いですが、クリスマス回です。
ルークの過去も少し明かになります。
そして、4日後、クリスマス当日・・・・
「ジングルベール♪ジングルベール♪すっずがーなるー♪」
メアリはクリスマスソングを歌いながらツリーの飾り付けをしている。
ドーム球場での出来事から丸4日・・・・王牙達の姿は見ていない。街は変わらず平和・・・ではないが、いつも通りだ。
「今日は仕事は休みにして、みんなでクリスマスパーティだ!私がケーキを買ってくる。リンは料理を頼んだぞ!」
「ん・・・・」
リンはそっけなく返事をする。
「ルイスはピザの手配だ!」
「うぃ~っす・・・・」
ルイスもそっけない返事をする。
「どうしたんだ二人とも?元気がないな、クリスマスなのに。それより、ロックは?」
私がロックの居場所を尋ねると、リンは下を指差した。恐らく、ロックは下の階にいるということだ。
「下か・・・・」
私は下に降りてロックを探した。しかし、一階の事務所にはいなかった。となると地下だ。
私は地下に降りた。
「おっ、いたいた。」
「おっさん・・・・」
ロックは地下でトレーニングをしていた。相当長い時間やっていたのか、体中汗だらけだ。
「今日はトレーニングは休んでいいんだぞ、クリスマスなんだから。」
「・・・休めねぇよ。」
「ロック?」
「おっさん、あの王牙って奴にやられたんだろ?そんなとんでもない奴を、俺達は相手にしなきゃいけねぇ!それに、他の4人も王牙ほどじゃなくても、俺達よりも強い!・・・・そんな奴らを相手にすると思うと、不安でたまんねぇんだよ・・・・!トレーニングでもしてねぇと、落ちつかねぇ・・・・!!」
ロックはそう言い終えると、ダンベルを持ち上げ、トレーニングを再開した。
ロック・・・今になって気づいたが、ロックは荒っぽくて粗暴な男に見えるが、心の中はもの凄く繊細なんだ。多分、メンバーの中で一番・・・・
「・・・・ロック。」
私はロックの肩を叩いた。
「不安なのは私も、みんなも同じだ。しかし、肩に力を入れて不安がっていたら、勝てる戦いも勝てない!だから、少しは肩の力を抜いて、休まないと・・・な?」
「で、でもよ・・・・!」
「今日は君の好きなステーキも出るぞ。安物だが。」
「マジか!?っしゃあ!途端に元気出たぜ!!」
ステーキだけでこの変わりよう・・・・結構単純だな。
「今日は色々やる予定だ。メフィストがカラオケマシーン作ってくれてるから、カラオケ大会もやるし、メアリ主催ゲーム大会もある。今日は思い切り楽しもう!」
「おう!」
そしてその夜・・・「パラディンフォース」のクリスマスパーティーは始まった!
テーブルの上にはリンの作ったクリスマス料理が並び、真ん中に私が買ってきたケーキに、ルイスが買ってきたピザが置かれている。
私は缶ビールを、他のみんなはジュースが入ったグラスを手にする。
『カンパーイ!!』
私達は飲み物をぶつけ、乾杯の音頭を取った。
「ング・・・ング・・・プハッ・・・!!美味い!久々のビールは最高だ!」
「ステーキ美味ぇ!」
「う~~~ん♪リンお姉ちゃんの料理美味し~~~♪」
『おい、パスタはないのか?パスタ!』
クリスマスパーティを満喫する私達を横目に見ながら、ルイスとリンはため息をつきながらフッと笑った。
「緊張感ないなぁ、この4人は。」
「まっ、いいんじゃないの?私達も楽しまないと、損じゃない?」
リンはそう言うと、自分のグラスを手に取り、グラスをルイスに向けた。
「・・・・そうかもね。」
ルイスもグラスを手に取り、リンに向けてグラスとグラスをコンッとぶつけた。
「あっ、そうだ!”アレ”着るの忘れてた!メフィスト、行くよ!」
『やれやれ、本当に”アレ”を着るのか・・・・』
リンとメフィストは突然席を立ち、上の階へ上がり始めた。
『?』
私はそれに首を傾げた。そして5分後・・・・メアリとメフィストが降りてきた。
「ジャジャーン!」
『おおっ!』
メアリとメフィストは上の階で着替えてきていた。そして、その服はサンタ服だった。メアリは女性サンタの格好、メフィストは男サンタ。しかも髭までつけている。
「サンタガール参上~!どう?似合ってる?」
「うんうん、素敵じゃない!」
「いいね~!かわいいじゃん!」
「メアリ・・・・こんなに美しくなって・・・・!私は嬉しいぞ・・・!!」
リンとルイスは褒め、私はメアリの成長ぶりに涙を流して喜んだ。
そして、ロックは・・・・
(カ、カワイイ・・・・!!思わず見惚れちまうぜ・・・・!!)
顔を赤く染めながらポカンと口を開け、ただただメアリを見つめている。
「ねえっ、ロックはどう思う?」
「へっ!?」
メアリに尋ねられ、ロックはマヌケな声を上げた。
(頑張れ、ロック。)
(好感度上げるチャンスよ。)
「え、えっと、その・・・・か、か・・・・」
ロックは顔を真っ赤に染めながら、なんとか「カワイイ」の一言を言おうと力を振り絞っている。
「ロック、大丈夫?顔真っ赤だよ?」
メアリはまさかロックが自分に気があることなど知らず、顔をグッと近づけた。
「しぇあっ!?だ、だだ、大丈夫だ・・・ぜ・・・・そ、その・・・メ、メアリ・・・・か、か、かわ・・・・うぼあっ!!」
サンタ服のメアリのかわいさと美しさに耐えきれなくなったのか、ロックは口と鼻から動じに血を吹き出した。
「ギャーーーッ!!ロックがまた血吐いた!!」
「だ、大丈夫かロック!!?」
私とメアリはロックが何故血を吐いたのか理解できず、心配して寄り添った。
(あーあ。)
ロックの気持ちに気づいているリンとルイスは心の中でため息をついた。
「・・・破壊力・・・・パネェ・・・・!」
ロックは最後にそう言い終え、ガクッと項垂れ、気を失った。
『ロックゥゥゥゥゥゥゥ!!』
私とメアリは訳も分からず叫んだ。
その後、気を失ったロックはソファーへ寝かせ、私達はパーティを続けた。
「ロック・・・・大丈夫かな・・・・」
「大丈夫大丈夫!あいつ、一種の病気みたいなもんだから!」
「しかし、心配だな・・・・どうしてロックはあんなに・・・・」
「心配だね・・・」
私達はロックが血を吐いた原因が分からず、心配しながら食事を続けた。
(いや、原因メアリちゃんなんだけどね。)
(好きになった女の子が鈍感って・・・悲しいわね。)
「ふーっ、もう少し飲みたいなぁ。」
私はもう一缶だけビールを飲もうと、席を立ち、冷蔵庫へ向かった。
「おじさん今日は随分飲むね。もう5本も開けてるじゃん。」
「今日は特別な日だ・・・・いっぱい飲んでもバチは当たらないさ。」
私はそう言って、冷蔵庫を開けた。しかし・・・・ビールはなかった。
「あれ、ビールがない・・・・仕方ない、買ってくるか。」
「今から!?大丈夫なの?ビールかなり飲んだのに・・・」
「なーに、たった5本だ!それにまだ8時だからスーパーもまだ閉まってないし、近くだから一人で大丈夫。」
私はそう言って、コートを羽織った。
「じゃ、行ってくる・・・おっと。」
私はそのまま下へ降りようとしたが、酒を飲んだせいか少しフラついた。
「ちょっ、危ない危ない!誰かついて行った方がいいって!」
「大丈夫~大丈夫~!あっはっはっはっ!!」
私はつまらないことを言いながら、上機嫌でスーパーへ向かった。
しかし、実は酒を買いに行くというのは口実で、他に行くところがあったのだ。
それは・・・・みんなへのクリスマスプレゼントを取りに行くことだ。
この日の為に、私は事前に予約をして、クリスマスの日に取りに行くことにしていたんだ。私はネットが使えないから、店に直接電話して包んでもらって・・・・で、やはりプレゼントというのは驚きも大事だから、パーティーの最中に、何の前触れも無しに出そうと考えたんだ。
「みんなどんな顔するかなぁ・・・・フフッ、楽しみだ。」
私はプレゼントを出した時、みんながどんな顔をするか想像しながら足早に店へ急いだ。
1時間ほど経過し、私はプレゼントを回収し終え、事務所へ向かっていた。
「よーし、プレゼントはOK。後は・・・・ついでだし、ワインも買うか!」
『なるほど、そういうことか。』
その時、私の影からメフィストが現れた。
「メフィスト!何故ここに?」
『1時間も経ってるんだぞ!様子見に来るだろうが!メアリの奴、心配していたぞ。』
「そうか・・・・じゃあ早く帰らないとな。」
『ったく・・・・』
私は急いで帰ろうと、足を速めた。
『しかし、珍しいな。貴様がこんなにも浮かれているのは。』
その時、メフィストが私に言った。それに対し、私は苦笑いを浮かべた。
「ははっ・・・実は、私・・・・こんなことやったことが無くてな・・・・一度でいいから、やってみたかったんだ。」
『?』
「子どもの頃は家が貧しくて、学校にも行けなくて・・・友達も出来なかった。両親・・・といっても、本当の両親じゃないが・・・・よく暴力を振るわれてあちこち痣だらけだったから、誰も近づかなくてな・・・・クリスマスパーティなんてロクにやったことなかったんだ。家族でクリスマスパーティは、メアリが生まれてから何回かやったことはあるが・・・こんなに大勢は初めてなんだ。だから、その感謝も込めて、今日はあの子達を喜ばせたいんだ。」
『・・・・』
私が話すと、メフィストは黙り込んだ。
「すまない、つまらない話だったな。」
私はつまらない話をしたから、メフィストが黙り込んだと思い、一言謝った。
『・・・別に、つまらなくなんかない。』
「えっ?」
『・・・・あー、ところで、私のプレゼントもあるんだろうな?』
メフィストはそっぽを向き、照れくさそうに言った。
それを見て、私は笑った。
「ああ!君の分もある!」
『だったら、早く帰るぞ。』
「わかってる!」
私はメフィストの言葉に従い、事務所へ急いだ。
その時だった!
「!!」
私は背後に気配を感じた。しかも、殺気まで感じる。その殺気は高速に私に近づいている。このままではやられる・・・・!そう思った私は、身を伏せた。身を伏せた瞬間、私の背中を、鋭い刃が通り過ぎた。それは草刈りに使う鎌だった。鎌は私の背中を通り過ぎ、街灯に突き刺さった。
「・・・外したか。」
背後から声が聞こえる。私はその声を聞いて、後ろを振り返る。そこにいたのは、王牙を主と慕っている甲賀だった。
「君は・・・!」
「ルーク・エイマーズ・・・・だったな。」
黒のベールに身を包んでいた甲賀は、ベールを脱ぎ捨て、両手に鎖鎌を手にした。
「・・・・ッ!!」
「卑怯とは言うまいな。」
甲賀はそう言うと、鎖鎌を得意気に振り回して見せた。
「くっ・・・!!」
私は辺りを見回した。今は夜の9時過ぎ・・・・人通りが少し少なくなってはいるが、ここでは目立ってしまう。私は路地裏に逃げ込んだ。もちろん、甲賀も私の後を追いかけてくる。
「阿呆!!」
甲賀は鎖鎌の分銅の方を持ち、鎌のリーチを伸ばして私に振るってくる。刃が私の体に届きそうになる瞬間、私はコートを素早く脱ぎ捨て、身代わりにした。
「メフィスト!」
『おう!』
私はヒーロー姿に変身し、メフィストのアーツを使って両腕を鞭のように伸ばし、ビルの屋上へ逃げ込む。プレゼントは仕方ないが、地面に置いておくしかない。
「よし・・・ここなら!」
私は後ろを振り返った。そこにはどうやって登ったのかは知らないが、甲賀が追いついていた。
「なるほど、ここなら人目もつかずに戦えるということか。流石に正体を隠しているだけはある。」
「一つ聞きたい。何故私を狙う?君はルイスと因縁があるんじゃないのか?」
「あんな小物、どうでもいい。重要なのは貴様だ。貴様は王牙様の覇道の邪魔になり得る存在・・・・ここでその芽を絶つッ!!」
甲賀は私を睨みつけ、片方の手に持っていた鎖鎌を一つ手放し、もう片方の鎖鎌を両手で持ち、激しく回転させる。
(先の鎌が・・・・見えないっ!)
甲賀が鎌を振り回し、回転させる速度が速く、先端の鎌が見えなくなっていた。紐や鎖を介した武器は、術者の使い方によって目に見えない速さで振るうことができる。恐らく、甲賀のものもそれだ。
甲賀は鎖鎌を振るって攻撃してくる・・・かと思いきや、屋上に落ちていた鉄パイプを鎖鎌で弾き、私に向かって跳ばしてきた。
「!!」
私は不意を突かれたが、腕を盾代わりにして防いだ。甲賀はその隙を突いて鎖鎌を振るう。私はそれをジャンプしてよける。
「空中では避けられまい!」
甲賀はその叫びとともに空中にいる私に鎌を振るってくる。私はスーツの背中から翼を生やし、攻撃をよけ、そのまま甲賀に体当たりして突き飛ばす。
「ぬおっ!!」
突き飛ばされた甲賀の体は屋上から飛び出した。このままいけば、甲賀は下へ真っ逆さまに落下する。
「チィッ!!」
甲賀は鎖鎌を投げ、屋上の縁の出っ張りに引っかけ、そのまま壁を登って再び屋上に上がった。そして、そのまま有無を言わさず私に攻撃を仕掛けてくる。しかも、どこから取り出したのか、甲賀の両腕にはかぎ爪が装備されている。
「くっ!」
私は甲賀の両腕を掴んだ。
「男と男の一騎打ちに武器を使うとは・・・・恥ずかしくないのかッ!?」
「くだらん・・・!俺は格闘家ではなく、忍びだ!忍びの使命はただ勝ち、生き残ること!そして、主の為ならば、どんな汚いことでもやってのける!!」
甲賀が叫んだ、"忍びの使命"・・・なんとも自滅的で狂気的な考えだが、熱がこもっている。
ニホンの忍者は皆こうなのだろうか・・・・いや、この男が特別なんだ。王牙への忠誠心と忍びとしての使命、この2つの思いが特別強いんだ。だからこそ声を大にして自分の指名を言える。例え王牙に「命を捧げろ」と言われても、この男は二つ返事で「はい」と答えるだろう。
「シェアッ!!」
両腕を掴まれている甲賀は跳んで私の腹を蹴飛ばして後ろへ跳ぶ。腹を蹴られた私は拍子に掴んでいた両腕を離してしまった。
そこに、甲賀が懐から手裏剣を取り出し、私に向かって投げつける。私はその手裏剣を手で掴んで止め、その場に投げ捨てる。
「デヤァァァァァッ!!」
甲賀は背中に抱えている忍者刀を抜き、私に向かって振るってきた。私は身を低くしてそれをかわしつつ、
「セイッ!」
背中で甲賀にぶつかりながら腕をつかみ、そのまま背負い投げし、甲賀をコンクリートの床に叩きつけた。
「これで終わりだな!」
私はすかさず馬乗りになってマウントを取り、勝利宣言をした。私は両膝で甲賀の両腕を押さえながら馬乗りになっている。この状態なら簡単に拘束は解けない。
・・・しかし妙だ。仮にも王牙の配下で、ルイスを軽くあしらった男が、こんな簡単に投げられるなんて・・・・
「負けを認めろ。そうすれば怪我はさせない。」
私は妙な不安に駆られながらも、甲賀に敗北を迫った。すると、甲賀は突然笑い始めた。
「ククク・・・ヒーローって奴は・・・・甘いな。」
「何・・・・ッ!!?」
その時、私は腹部に何かが貫かれたような痛みを感じた。視線を腹部に移すと、私の腹を、後ろから刀の刃が貫通している。
「・・・・ッ!!」
私は後ろに顔を向けた。そこには、甲賀とは別の忍者が3人ほど立っていた。
「我が忍者部隊の一部だ。」
「き、君は・・・・最初からこれを狙って・・・・!!」
「言ったはずだ。忍びは主の為なら、どんな汚いことでもやってのけると。」
甲賀はそう言い終えると、首をクイッと動かした。それを合図に、私の腹に刀を突き刺した忍者3人は一斉に刀を引き抜いた。
「かはっ・・・・!!」
私はマスクの下で血を吐き、そのまま横に倒れた。
「頭領、作戦成功ですね。」
「ああっ。」
甲賀は立ち上がり、倒れた私を部下の忍者とともに見下ろした。
「こいつ、どうしましょう。」
「その辺に捨てておけ。」
『御意』
部下の忍者は返事をすると、私の体を持ち上げ、ゴミ捨て場に体を入れられた。
『おい!おい、ルーク!!しっかりしろ!!』
部下の忍者が立ち去ったのを見計らい、メフィストは私に呼びかけた。
「みん・・・な・・・プレ・・・・ゼント・・・」
私は虚ろに目を開け、事務所にいるメアリ達を頭に浮かべた。そして同時にクリスマスプレゼントのことも思い出した。
『そうだ!あいつらにプレゼントを渡すんだろ!?だったら早く起きろ!!』
メフィストは私の意識が無くならないよう、必死に呼びかけているが、私の意識はもう、今にも途絶えてしまいそうだ。ついでに視界も。メフィストの顔がぼやけて見える。
「・・・メフィスト。」
『?』
「一つだけ・・・聞いて欲しい。私は、死んでもいい・・・・プ、プレゼントを・・・・あの子達に・・・・届けてくれ・・・・」
もうダメだと感じた私は、最後にメフィストに頼み事をした。
『こ・・・こ・・・このバカ者がーーーーーッ!!!この状況でプレゼントの心配か!?笑わせるな!貴様は絶対に死なせんぞ!私の目的の為にもな!!』
メフィストは私を怒鳴り、元の姿に戻ってゴミ捨て場から顔を出した。
『おーーーい!!誰かいないかーーー!!?こっちに怪我人がいるぞーーーー!!』
メフィストが大声を出して助けを求めている。こんなメフィストの姿は珍しい。私を心配してくれてるんだろうか。だったら、こんなに嬉しいことはない。ありがたいことだ・・・・
「メフィスト・・・・ありがとう・・・・」
私は小声でメフィストに礼を言った。そして、その瞬間、私の意識は途絶えた。
「お前・・・メフィスト!?どうしてここに・・・・!!?」
その時、偶然通りかかったロバートがメフィストのところへ現れた。
『いいところに来た!今、ルークが・・・・・!?』
メフィストは私の怪我のことを話そうと、私の体を持ち上げようとした。その瞬間、メフィストは気がついた。私の意識が無くなっていることに。
『ルーク・・・?おい、ルーク!起きろ!!』
「ルークさん!?しっかりしてください!!早く病院へ・・・・!!」
『待て!』
ケータイで病院に電話をしようとするロバートを、メフィストは引き止めた。
『今ここで、我々の正体がバレるわけにはいかん!事務所へ連れて行く!』
「そんなこと言ってる場合じゃ・・・・!」
『今は私の言うことを聞け!とにかく、こいつを事務所へ運べ!!』
メフィストは有無を言わさず、私の体をロバートに預けた。
『私は探す物がある!!頼んだぞ!!』
メフィストは私とロバートから離れ、どこかへ行ってしまった。
「ちょっ・・・!ああ、もう!!」
ロバートは私の体を背負い、事務所へ向かって走った。
「・・・パパ、遅いね。」
そのころ、事務所ではもうクリスマスパーティが終わりかけていた。
「もうゲーム大会もカラオケ大会も終わっちまったぜ。」
「どこまで酒を買いに行ってるんだか。」
「もしかして、酒買いに行く途中でバーにでも入っちゃったんじゃないの?そこでずっと飲んでるとか・・・・」
『あー、なるほど。』
ルイスの一言に、他のみんなは頷きながら呟いた。
その時、インターフォンが鳴り響いた。
「誰かしら。こんな時間に・・・・」
リンは一階裏の入口に降り、玄関ドアを開けた。
「あっ、ロバー・・・・ルーク!!?」
リンはロバートに抱えられた私を見て、思わず声を上げた。
「すぐに治療の用意をしてください!私はルークさんを部屋に運びます!」
「わ、わかったわ!」
リンは突然の状況に戸惑いながらも、ロバートと一緒に上へ上がった。
「パパ!!?」
「おっさん!!」
「おじさん!!」
重傷を負っている私を見て、メアリ達も声を上げ、私の元に駆け寄ってきた。
「おっさんがこんな・・・・!一体誰に・・・・!!?」
『あの忍者だ!』
その時、ちょうど戻って来たメフィストが言った。
「メフィスト!」
『ルイスを軽くあしらったあの忍者だ!』
「あいつが・・・・!!」
『それと・・・・』
メフィストは両手に下げたクリスマスプレゼントを差し出した。私をロバートに任せた後、メフィストは私が置いていったプレゼントを取りに行っていたみたいだ。
『ルークからのクリスマスプレゼントだ。あいつは酒を買いに行くフリをして、これを取りに行ってたんだ。そしてそこを襲われた・・・・』
「おっさんが、俺達の為にプレゼントを・・・・」
メアリ達は、それぞれ自分の名前が書かれたプレゼントを手に取った。
『気を失う前に、お前達に渡してくれと頼まれた。』
メフィストはそう言うと、自分のプレゼントを手に取り、包装紙を破り、中を開けた。
『これは・・・』
メフィストへのプレゼントは工具箱だ。しかも蓋を開けると4段になっているタイプだ。
「これ、俺が前々から気になってたヤツ・・・・」
ロックへのプレゼントは黒の革ジャン。品質の高い革が使われている高級品だ。
「私があったら便利って言ってた道具・・・・」
リンへのプレゼントは中華料理セット。中華鍋、四角い包丁、玉杓子、穴杓子が入ったセットだ。
「僕が前から欲しかったヤツ・・・・」
ルイスへのプレゼントはイヤリング。三角の形になっているブランド品だ。
「パパ、覚えてたんだ・・・・私が欲しかったの・・・」
メアリへのプレゼントは最新のゲーム機にメアリが欲しがってたゲームソフトだ。私のゲームの知識はスーパーファミコン辺りで止まってたから、これが一番苦労したな・・・
「パパ・・・!パパ・・・!!」
メアリは私が自分の欲しかった物を覚えていてくれたのが嬉しかったのか、はたまた、怪我をしているのにプレゼントを渡そうとしたことに悲しくなったのか、プレゼントを抱きしめ、その場に膝をつき、泣きじゃくる。
「・・・俺らのことなんて、気にしなけりゃ良かったのによぉ~・・・!」
「いや、おじさんっていつもそうじゃん?自分より他人を優先してさ・・・・『なんでそこまでこだわるの?』ってぐらいに・・・・」
「でも、そこがルークらしいんじゃない?それでこそ私達のリーダーって感じ。」
ロック達はプレゼントを見て、目を涙で潤ませながらも、泣くことを必死で堪えた。
「よーし、やること決まったぜ。おっさんの仇討ちだ!!」
「OK!僕としても、アイツと決着つけておきたいしね。」
『レッツ・モーフィン!』
ロックとルイスはそう言って、ヒーローの姿へと変身した。
「私はここに残ってルークの治療をするわ!」
「ああ、頼む!」
「代わりに私が行きます!足手まといかもしれませんが・・・・」
私の治療で行けないリンの代わりに、ロバートが名乗りを上げた。
「いや、助かるぜ!」
「レッツ・モーフィン!」
ロバートは以前メフィストからもらった変身腕輪を使い、ヒーローの姿に変身する。
『奴らが去っていく時、こっそり発信器を付けておいた!これを使えば場所がわかる!』
そう言って、メフィストはロックに小型の追跡装置を手渡した。
『後、助っ人も呼んでおいた。後で合流するとのことだ。』
「よっしゃあ!!殴り込みだ、オラァッ!!」
ロック達は私の仇を取るべく、甲賀のアジトへ殴り込みに向かった。
みんなが私を心配し、気に懸けてくれるのは嬉しい・・・・だが、どうか・・・どうか無茶だけはしないでくれ・・・・!!




