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ファウスト ~FIRST HEROS~  作者: 地理山計一郎
第3章「因縁の好敵手編」
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第22話「ネセサリー・エビル」

私達は王牙達にこっぴどくやられた後、事務所へと戻った。


「ロック、バルトロの怪我はどうなんだ?」


私はロックにバルトロの具合を尋ねた。カスパールにやられた後、ロックは病院に連絡し、バルトロを入院させたのだ。もちろん私達の正体は隠している。


「・・・・手ぇ切られただけだから、命に別状はないぜ。でも・・・・切り口が少し火傷してて、繋がる見込みがないんだってさ。」

「・・・そうか・・・」

「・・・・ベティさん、すげぇ泣いてた・・・・ちくしょう!!」


ロックは病室でベティがバルトロの無くなった左手を見て、泣き叫ぶ姿を思い出し、自分のふがいなさを恥じ、拳でテーブルを叩いた。


「落ち着くんだ、ロック!」

「おじさん、これが落ち着ける状況だと思うの?」


私がロックをなだめようとすると、珍しくルイスが口を挟んできた。ルイスはいつも気楽そうで、話の途中で口を出すことはあまりなかったのだが・・・・今回は口を挟んできた。しかも、怒りを露わにしている。


「僕達はさ、舐められたんだよ!どこの馬の骨かもしれない奴らにさ!それに、同業者でもある仲間がやられたってのに・・・・黙ってるワケにはいかないだろ!?」

「気持ちは分かる!だが、こんな状況だからこそ落ち着くんだ!リン、君からも何か言ってくれ!」


私はルイスをなだめつつ、リンに救援を求めた。リンは普段は落ち着いていて、無鉄砲なロックにマイペースなルイスを注意しているから、私は助けを求めたのだ。

しかし、リンの様子はおかしかった。リンは真剣な顔つきで何か考え事しているようで、上の空だった。


「あっ・・・ごめん、何?」

「リン・・・君もか!みんなしっかりするんだ!こんな時に冷静さを失ったら危険だぞ!」


私はみんなを落ち着かせようとする。

その時、下の階からメアリが上がって来た。メアリは不安そうな目でこちらを見つめていた。


「メアリ・・・どうした?」

「今、電話が来て・・・・”スポンサー”って名乗る人が・・・・」

『何っ!?』


私達は思わず椅子から立ち上がった。


「今日の夜、ドーム球場で待つって・・・・」

「ドーム球場・・・?スポンサーは何を考えているんだ?」

「どっちだって同じだよ。あいつには聞きたいことがたっぷりある・・・・すぐに行こうよ!」


ルイスの言い分に、私達はコクリと頷き、夜になった後、スポンサーが待つドーム球場へ向かった。


そして、その夜

「・・・今宵の月は、より一層美しく輝いているな。月が私の崇高な目的を讃えているのかもしれない。」


待ち合わせ場所であるドーム球場の真ん中に黒い仮面とマントを着けたスーツ姿の男が空に浮かぶ満月を眺め、ボソリと呟いた。


「貴様だけの目的ではない。」


その時、後ろから野太い声が響く。黒マントの男が後ろを振り返ると、そこには王牙の姿があった。それだけでなく、カスパール、甲賀、ゲイン、宗次、スポンサーの姿もあった。


「フフッ・・・来たか。改めて聞こう。君達の目的はなんだ?そして、何故ここへ来て、何故私の元に現れた。」


黒マントの男はニヤリと笑いながら、王牙達に尋ねた。


「強者を求め、敗北を得るために。それを探し求めている内にたどり着いた・・・・としか言いようがないな。」

まず最初に宗次が語る。


「ケケッ、俺は俺が殺した人間の遺族の人生が狂うのを見たいだけさ。ここに来た理由は・・・”波”、かな。この国に来た時、凄い大きい恨みの”波”を見た。」

続いてゲイン、


「我が主、王牙様の為・・・そして、その覇道の為・・・・王牙様の覇道の邪魔をする者を排除するためだ。」

次に甲賀、


「意味を求める為・・・そして王牙を守る為。そのためにここに来た。」

次にカスパール、


「世界の全てを手に入れるため。そのためなら・・・・どんなものでも利用する。」

そして、最後に王牙が語った。


「クククッ・・・・ならば、プレゼントしよう。君達が望むものを!」

「そして・・・強者を!」


スポンサーは黒マントの男の言葉に続き、手をドームの向こう側に突き出した。皆、そこに視線を移すと・・・・


「待たせたな。」


ドームに到着した私達「パラディンフォース」がいた。その隣には、途中で合流したジャッジの姿もある。


「君がスポンサーか!君には聞きたいことが山ほど・・・・!」


私は顎髭の男がスポンサーだとは思わず、黒マントの男がスポンサーだと思い、彼に指を差しながら近づく。


「あー、おじさん。スポンサーはそのマントの人の隣。顎髭で短髪の人。」

その時、ルイスは私が人違いをしていることに気がつき、注意した。


「・・・こっち?」


私が顎髭の男を指差すと、ルイスと黒マントの男はコクリと頷いた。


「・・・・君がスポンサーか!!」

「おっ、仕切り直したな。」


私は人違いをしたことを忘れ、今度こそ本物のスポンサーに指を差した。


「お初にお目にかかります・・・・ってところか?いかにも、俺がスポンサーだ。」

『スポンサー、貴様に聞きたいことが山ほどある。』


メフィストはヒーロースーツの胸のところからニュッと顔を出した。


『貴様、なぜルイスやバルトロ、ロバートを私達と引き合わせた!?それに、何故ニコラスにアーツを与えた!?しかも、もうこの世にはいないはずのトルスのアーツを!貴様は何者だ!?』


メフィストは怒濤の質問攻めをスポンサーに浴びせた。すると、スポンサーは深いため息をついた。


「フーッ・・・・そう慌てなさんな。物事には順序ってもんがある。まず、最初の質問だが・・・・俺は、お前達に”デーモンレベル”を高め合って欲しいんだよ。」

『デーモンレベル・・・だと?なんだそれは?』


メフィストの頭に疑問が浮かび、再びスポンサーに問いかけた。すると、スポンサーは不適な笑みを浮かべながら俯いた。


「ククッ・・・そりゃあ、お前が一番よくわかってるんじゃないのか?メフィスト。」

『・・・・?』

「次の質問だが・・・これ、なーんだ?」


スポンサーはそう言いながら、ポケットから小さい瓶を取り出した。瓶の中には紫色の液体が入っている。それも綺麗な紫ではなく、少し黒ずんだような紫だった。


『ま、まさか・・・まさかそれは!!』


メフィストはその液体を見て、何かに気付き、青ざめたような顔を見せた。


「ピンポーン♪これはお前が作ったものだ。"デモンズ・ブラッド"、悪魔の血液・・・・だったよな。」

「悪魔の血液・・・・?」

『・・・そうだ。あの液体は、我ら悪魔の血液だ。いつか実験に使おうと思って、ありとあらゆる悪魔の血液を採取したんだが・・・・それを何故貴様が持っている!!?』


メフィストはスポンサーに向かって叫んだ。すると、スポンサーはニコッと笑い・・・


「教えな~い♪」

『ふざけるなァッ!!』


メフィストは怒り、怒鳴り声を上げた。そんなメフィストをさらに煽るように、スポンサーは話を続けた。


「やーれやれ、相変わらず怒りっぽいねぇ・・・・」


その時、私はスポンサーの一言に違和感を覚えた。


相変わらず怒りっぽい(・・・・・・・・・・)・・・?


二人は知り合いなのか?少なくとも、スポンサーはメフィストのことを知っているようだ。


「さてさてさーて、最後の質問だが・・・・悪いが、これにはまだ答えられないな。全ての戦いが終わったら、教えてやるよ。」


スポンサーは芝居がかった口調を混ぜながら語り、それが終わると、両手をバッと上に挙げた。


「そして!お前達の相手は、世界最強の犯罪者集団!」


スポンサーは王牙達の横に移動し、さながら司会者のように手を出して王牙達を前に出す。


「ヒーローと、悪役!正義と悪!シンプルかつ王道!!だからこそ、わかりやすい!!どちらかが敗れ、どちらかが栄光を手に入れる!!これが・・・・戦いの始まりだ!!」


スポンサーは両手を挙げて高らかに宣戦布告を宣言する。そして、今にも襲いかからんとばかりに王牙達は私達を睨んでくる。


「・・・と、言いたいところだが・・・・」


その時、スポンサーの言葉に私達と王牙達は一斉にスポンサーの方に顔を向けた。


「もうじきクリスマスだ。聖なる夜に血生臭い殺し合いなんてしちゃあいけないよな?」

「・・・貴様、どういうつもりだ?」


スポンサーの気の抜けた発言に、カスパールが最初に反応した。


「出る杭は叩ける内に叩くべきだ。今のこいつらは未熟・・・・弱い内に潰した方が、俺達の目的に支障は出ない。」

「なんだとてめぇ・・・・!誰が弱ぇって!?ああっ!!?」


ロックはカスパールの発言に怒り、殴りかかろうとした。


「抑えろ、ロック!」

「チッ!」


私はロックを羽交い締めにし、ロックをカスパールから引きはがした。


「・・・・俺は一向に構わん。」

「王牙・・・・?」

「俺も異存はない・・・・」


王牙に続き、宗次もスポンサーの意見を肯定する。


「俺も・・・・人殺せるんなら後でもいいや、ヒヒッ」

「俺も王牙様に従う。異存はない。」


さらにゲインと甲賀も肯定する。


「・・・・わかった、従おう。」

「決まりだな。そっちの5名様は納得してくれたかな?」

「あ、ああ・・・・」


私はたどたどしく返事をした。


「何か釈然としねぇな・・・・」

「でも、クリスマス終われば思い切りブッ倒せるってことだよね。」

「いいわ、その条件で。ルークも、問題ないでしょ?」

「仕方ないが、そうするしかない。」


今ここでスポンサーの意見を肯定せず、真っ向から戦うのは危険だ。今の私達では王牙達に勝てる要素はない。

それに、そんなことをしたら、スポンサーが何をしてくるかわからない。

スポンサーは得体が知れない・・・・もしかしたら王牙よりも強いかもしれないし、もの凄く強力なアーツを持った悪魔かもしれない。ここは肯定した方が得策だろう。


「じゃ、決まりだな。勝負はクリスマスの後だ!ルールは設けない!好きなとき、好きな場所で戦え!相手も自由。誰を狙ってもいい!まさしく無差別級マッチだ!」


スポンサーが一人で盛り上がる中、ジャッジはフッとため息をついた。


「・・・どうでもいいけどよ、纏まったんならもう帰っていいか?これ以上スポンサーの茶番劇に付き合うのはごめんだ。」


ジャッジはそう言うと、背中を向けてスタスタと立ち去ってしまった。


「・・・じゃあ、解散としますか。」

「・・・だな。」


スポンサーの一言に、私達と王牙達はドーム球場から解散した。


(誰とやり合ってもいいのか・・・全員殺しちまうってのもいいなぁ・・・)


王牙のチームの一員、ゲインは私達全員を殺す想像をしてニヤリと笑った。


「腕がなまる・・・王牙、どこかに敵はいないのか?」


さらに一員の一人、宗次は戦いたがっているようで、ずっと腰の刀をいじっている。


「闘争を我慢できないか?ならば・・・スポンサー!」


王牙は大声で叫び、スポンサーを呼んだ。


「はいはい!お呼びですかい、王牙のダンナァ!」

「近くに格闘技のジムがないか探せ。」

「この近くだったら・・・7番街にプロレスジムがあるぜ。確か・・・そこはマグネイター・・・バルトロの元所属先だったなァ・・・」

「ならばそこに行く。」



「オラァ!!もっと気合い入れろォ!!」

「は、はい!!」


そのころプロレスジムでは、プロレスラーが新人レスラーに稽古をつけていた。周りには他のレスラーも何人かいて、皆トレーニングをしていた。

と、その時、ジムの入口が開いた。

そこに入って来たのは・・・王牙達だった。


「なんだお前ら?見学か?」

「・・・この中で、一番強い奴はいるか?」


開口一番、挑戦的な台詞をぶちまけた。

それを聞いた途端、ジムのレスラー達は大声で笑い始めた。


「おい聞いたか!?『一番強い奴』だってよ!こいつら道場破りかよ!」

「ガタイだけで俺達レスラーに勝つ気でいるぜ!」


レスラー達は王牙を体の大きさだけで強さを計ってしまっている。確かに体の大きさで強さは決まらない。だが、王牙の場合は違う。「体の大きさ=強さ」が、王牙には適用されている。


「強い奴はいるのか?いないのか?」

「ああ、いるぜ。」


その時、ジムの奥から声が響き、のそのそと王牙の前に現れた。その男は王牙と同じくらいの身長を持つ大男だった。


「ア、アダムスだ!」

「ジムのNo.2がやる気だ!」


周りのレスラー達の一言を聞き、王牙は眉間に皺を寄せた。


「No.2だと?No.1はいないのか・・・」

「いるさ。バルトロって奴がな。だがそいつはもうプロレスを辞めちまってな・・・だから実質俺が一番強い。」

「そうか・・・ならばかかって来るがいい。」


王牙はそう言って腕を組んだ。


「ああ?構えねぇのか?」

「貴様如きに構えなど必要なしッ!!」


王牙は叫んだ。だが、その一言がアダムスの逆鱗に触れた。


「この野郎・・・!プロレスを舐めやがって・・・!!ぶっ飛ばして・・・!!」


アダムスは大きく両腕を振り上げ、王牙に襲いかかろうとした。だがその瞬間、王牙の丸太のように太い足が勢いよく振り上げられ、アダムスを蹴り飛ばした。


「ッ!!?」


蹴り飛ばされたアダムスは壁に激突し、そのまま体が壁を貫通して外に出た。


「やはり、この程度か・・・」

「アダムスがやられた!?」

「い、いとも簡単に・・・・!!」


周りのレスラー達はアダムスがやられたことに驚き、どよめいている。


「宗次、ゲイン・・・もう良い、やれ。」

「合点・・・!!」

「わかった・・・」


王牙の命令が下り、宗次は無表情で、ゲインは嬉々としてレスラー達に近づいた。

宗次は近くにあった優勝トロフィーを手に掛けると、それを剣を持つように握って構えた。そしてそれを剣を振るように、勢いよく振り回した。

すると不思議なことに、レスラー達の体に刃物で切られたかのような傷が入り、血が噴き出した。


「う、うわああああああ!!?」

「血が、血がァァァァァァァ!!」


レスラー達の悲鳴がこだまする。


「ヒャハハハハハハハハッ!!!」


そしてその中で甲高い笑い声が同時に響く。その笑い声はゲインのものだった。

ゲインはトレーニング用のダンベルを投げつけている。まるで乱暴な子どもが玩具を投げつけているようだ。

勢いよく投げつけられたダンベルはレスラー達の体に直撃する。重いダンベルが体に直撃すれば、骨折どころでは済まない。


そしてそこからはまるで地獄のような光景だった。


宗次がレスラー達の半数を無残に斬り殺し、ゲインは投げるダンベルが無くなった代わりにベンチプレスで持ってレスラー達を撲殺する。


「プフゥ~!気ン持ちィ~!!」

「物足りん・・・」


ゲインは満足げに笑い、宗次は物足り気にため息をつく。


「あ、あぁああああ・・・!!」


一人だけ奇跡的に生きている者がいた。それは先ほどプロレスラーに稽古をつけてもらっていた新人レスラーだった。


「あれ?まだ生きてる。じゃ殺そ♪」

「待て。」


ゲインが殺そうとした瞬間、王牙がそれを止めた。そして新人レスラーの元に近づいた。


「お前に伝えておこう。我らは『必要悪(ネセサリー・エビル)』。今、俺達の強さを見ただろう。それを世界中に伝えろ!俺に逆らうことの愚かさ、恐怖をな!!」


王牙は新人レスラーに言い残し、配下を連れて立ち去った。

プロレスジムの死傷者多数、かろうじて生き残ったのは、アダムス、新人レスラー、他少数・・・




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