第18話「彼が求めたもの」
今回は作中もう一人の主人公ともいえる、メフィストの回です!
彼の目的、過去が明かに!
ブァーハッハッハッハッ!!待たせたなぁっ、私は、天ッッッッ才科学者である悪魔、メフィストだ!!これを見ている貴様ら!!ついに、ついに私が主役だぁっ!!ふはははははははっ!!私が主役になったからには、もうルーク達にいい思いはさせん!
今回は私のストーリーだ!貴様らに教えてやる!この私の目的を!!目をかっぽじって、よーく見るがいいわ!!
あれは「パラディンフォース」とかいう下らん仕事が休みの日の時だった。
「これを混ぜればいいんだな?」
「そう、生地になる大事な部分だから、念入りにね。」
私が取り憑いている男、ルークはリンというウシ乳女にケーキの作り方を教わっている。男の癖によくやるわ。
で、私の方は・・・・
『ぐぬぬぬ・・・・!!』
「フンフンフフ~ン♪」
私は悔しそうな表情を浮かべ、その隣のクソガキのメアリが鼻歌を歌っている。
私達は何をやっているかと言うと、家にあるゲーム機で格闘ゲームをして勝負をしているのだ。タイトルは「God with VS」という名前だ。内容は神話や伝説に出てくる幻獣や神をモチーフに擬人化したキャラクターを操作して戦う格闘ゲームだ。よくもまぁ、人間はこんなものを作るものだ。
私はハンサムで剣を武器にする人間にされたスレイブニルを、メアリは色っぽい女に蛇のような舌と牙、尻尾を生やした、しかもデカ乳の人間にされたエキドナを操作している。・・・乳がデカければなんでもいいのか、この女は。
まぁ、私はメアリの挑戦を受け、軽くいなしてやろうと思ったのだが・・・・負けそうだ。もうHPが4分の1まで減らされている。
「今だ!」
その叫びとともにメアリは超必殺技のコマンドを押し、私が操作しているスレイブニルにトドメを刺した。
『なっ・・・なっ・・・!?』
「メフィスト、弱っ!」
後ろで黒人のルイスが罵倒してきおった。それに腹が立った私は、
『もう一回!』
「フフン、いいよ~」
メアリにもう一回勝負を挑む。
今度は使うキャラを変える。今度は体を自由に伸ばすことができるテクニカルキャラのヨルムンガルドで挑むが・・・・惨敗。
『もう一回!!』
今度はいかにもパワーキャラっぽいサイクロプス!圧倒的パワーでなぶり殺し・・・・にする前に惨敗。
その後、何度もキャラを変えては挑んだが・・・・結果は同じだった。
『なぜだ!なぜ勝てんのだぁぁぁぁぁ!!?』
「コマンドをろくに押そうとしないからだろ。」
『黙れ!こうなったら・・・・!!』
負けが込んだ私は、とうとう最終手段を出すことにした。まず、どこからともなくハンマーを取り出し・・・・
『このゲーム機を壊してしまえば私の勝利は確定だァーーーー!!』
「ギャーーーー!!それやめてーーー!!絶対ダメだからーーー!!」
メアリは私にゲームを壊させまいと、私にしがみついてくる。それに続いて同じくクソガキのロックとルイスもしがみついてくる。
「落ち着けよ!たかがゲームで!」
「そうそう、誰も天才(笑)がたかがゲームで負けたなんて言いふらさないから。」
『グオーーーーッ!!』
ルイスの私に対する罵倒に、私はさらに怒りを増した。
「コラコラ、みんな騒ぐんじゃない。ほら、ケーキが出来たぞ!シフォンケーキだ!」
ルークの奴はそう言って、笑顔ができたてのシフォンケーキを見せた。
「おおっ、美味そう!」
『ケーキだぁ?そんなものこうだ!!』
私はガバッと3人を振り払うと、ルークが持っている皿に乗ったシフォンケーキをそのまままるごと口の中に入れた。
「あっ!!」
『ムグムグ・・・・ふん、甘ったるいわ。』
「なにすんだよ!俺達まだケーキ食ってねぇし!」
「責任取ってよね!責任!」
「私がせっかく作ったのに・・・・!」
ルーク達が細かいことに文句を言ってきた。まったく、人間というものはどうしてこう細かいことにうるさいんだ?食い物がなくなったなら、また作ればいい話だろうが。そんなこともわからんのか・・・バカな人間だ。
『ええい、うるさいうるさーーーい!!ケーキぐらいでグダグダ言うんじゃない!また作ればいいだろうが!!』
「手間を考えろ、手間を!」
「というか、今日は滅茶苦茶目立ってるね、メフィスト。」
『当たり前だ!私主役!貴様ら雑魚!私一人だけでもいいレベルだ!』
私は文句を言うルーク達に対して、私も文句を言ってやった。
すると、ルークは深いため息をついた。
「はあ~~あ、しょうのない奴だ。こいつは放っておいてアイスクリームでも食べに行こう。」
「そうだな、このワガママ野郎は放置だな。」
「そうしようそうしよう。」
腹の立つ連中だ・・・・私はワガママなクソガキ扱いしよった!なんという侮辱!これはもう、殺してもいいレベルだ!
「メアリ、あなたも行くでしょ?」
と、リンがそう聞くと・・・・
「う~~ん・・・・いいや、私残る!」
『えっ』
メアリの答えに、私を含めルーク達も声を上げた。
「い、いいのか?お前、3段重ねのアイス、好きだったろ?」
「うん、いいの。」
ルークの問いに、メアリは即答し同じ返答をする。
「じゃ、じゃあ・・・・行くか。」
「あ、ああ・・・・」
釈然としないまま、ルーク達はアイスの店へ向かった。これは私も予想外だった。一人で留守番になるかと思ったが、まさかメアリが残るとは思わなかった。
「・・・二人きりになっちゃったね。どうする?もう一回ゲームする?」
『ふ、ふん!あんな子ども騙しな遊び、やる価値もない!地下で発明でも作ってるわい!』
私は悪態をついて地下へと向かった。すると、メアリも後について来た。
「隣で見てていい?」
『・・・勝手にしろ!』
結局、私とメアリは地下室の研究室にいることになった。
私が発明を作り、メアリがその横でそれを見守っている。
「ねぇねぇ、今回は何を作ってるの?」
『武器でも作ろうと思ってな、それの試作品だ。・・・・それより、貴様はなぜいつも私の隣にいる?私を・・・・悪魔のことが怖くないのか?』
私は前々から聞きたかったことを、メアリに尋ねた。この女は、最初に私を見た時、「かわいい」と言ってきた。それが不思議でならなかった。私はどの時代でも、人間に姿を現せば、ほとんどの人間に恐れられたものだった。だが、この女は違った。
この女は何故か私に優しい・・・というより、懐いていると言った方がいいだろうか。私のことをフォローしてくれるし、私の好きなパスタだって作ってくれる。カップ麺の奴だが。
「う~ん、確かに怖い悪魔はいるけど・・・・メフィストは全然怖くない!だって、パパのこと守って、一緒に戦ってくれてるし、私のことも守ってくれたもん!」
『べ、別に貴様のことを守ったわけじゃないぞ!私は、私の目的のために守ってるだけだ!』
私は悪態をついて見せた。こうすれば、こいつも私のことを幻滅するだろうと思ったのだ。だが、こいつは・・・・
「それでも、すごく嬉しかった!ありがと、メフィスト!」
笑顔を見せ、礼を言ってきた。こいつの笑顔を見てると、ルークの笑顔を思い出す。「ああ、こいつら本当に親子だな」と思わせる。
そして、メアリの笑顔を見ていると、こっちも何故か嬉しくなり、同時に愛おしく・・・・
ちょっと待て、”愛おしい”?”愛おしい”だと?私がこんなクソガキのことを”愛おしい”と思ったのか?バカな!あり得ない!そんなことはまずない!
それに、人間に情を抱いてはならない・・・・情を抱けば、また裏切られる。あの時のように・・・・
私は脳内で昔のことを思い出した。信じていた人間に裏切られたあの日・・・・忘れようとしても忘れられない・・・・
「メフィスト?メフィスト!」
『ん?ああっ・・・・』
私はメアリの言葉で我に返った。
「大丈夫?」
『あ、ああ・・・問題ない。』
「よかった~、あっ、そうだ!今からレオナがウチに来るから。」
『ああっ!?』
私は思わず声を上げた。レオナとは、メアリが通っている学校に転校してきた若くして錬金術師のクソ女だ。あのいけ好かない銀髪女が来ると思うと吐き気がする。
『あの銀髪女が来るのか!?冗談じゃない!今すぐ「来るな」と言っておけ!』
その時、ピンポーンとインターフォンが鳴り響いた。
「あっ、レオナかな?」
『おい!「ピンポーン」ってなんだ!セキュリティが甘すぎるぞ!私の作ったセキュリティを付けろと言っただろ!!』
私は文句を言うが、メアリはそれを聞き入れず、そのまま玄関の方へ向かった。余談だが、この事務所兼自宅の玄関は二つある。一つは客や依頼人が入る正面玄関と、もう一つは事務所の裏に設置されたルーク達用の玄関だ。クソ童貞のロバートと変態のバルトロもこの裏の方から入る。
「いらっしゃーい!」
メアリは玄関のドアを開け、レオナを出迎えた。
「メ、メアリ・・・・こ、こんちは・・・・」
レオナはガチガチに緊張して固くなっている。何を緊張しているんだ、この女は。
「さっ、上がって上がって!学校の友達を家に誘うなんて久々!今部屋に案内するね!」
「メアリの部屋に・・・・!?」
(生きててよかった・・・)
レオナは何故か涙を流して喜んでいる。
『おい、クソ錬金術師。』
私はレオナの目の前にニュッと現れた。
「チッ、なんだお前もいたのか。」
レオナの奴は舌打ちを打って露骨に嫌そうな顔を見せた。
私はそれに怒りを覚えたが、そこはなんとか抑えた。
『貴様・・・!まぁいい。いいか、この私に刃を向けてみろ。どうなるか思い知らせてやるからな!』
「それはこちらの台詞だ。もし、メアリに何かよからぬことをしたら・・・・滅殺だけじゃ済まないからな。」
私とレオナは互いににらみ合い、火花を散らした。と、その時・・・・
「何やってんの?こっちこっち!」
「は~~い♪」
メアリが呼んだ途端、レオナは猫なで声で私の横をすり抜けていった。
『あっ!くっ・・・あの女・・・!やはり腹立つ!!』
私は自分を無視したレオナに怒りを覚えつつ、メアリの部屋へ向かった。
「じゃあ、ここでちょっと待ってて。私、ジュースとお菓子持ってくるね。」
「お、お構いなく・・・・」
「メフィストも手伝って。」
『ふん、この女の為に働くのは癪だが・・・・まぁよかろう。』
私とメアリはレオナを部屋に置いて、飲み物と菓子を取りに2階のリビングへ向かった。
「こ、ここがメアリの部屋・・・・スパイダーマングッズがいっぱいだ・・・・」
レオナは部屋に飾られているスパイダーマングッズに驚きつつ、ふと辺りを見回した。
「だ、誰も見てないし、ちょっとだけ・・・・」
なんと、レオナは誰もいないことをいいことに、メアリの部屋を物色し始めた。物色している最中、レオナはアルバムを見つけた。
「アルバム・・・!」
レオナはそれを手に取り、中を覗く。アルバムにはメアリの赤ん坊から現在までを写した写真が収められている。
「くぉぉぉぉ・・・!!小っちゃい!カワイイ・・・!!」
レオナは小さい頃のメアリの写真を見て興奮し、息を荒くしている。こいつもバルトロに負けず劣らずの変態だな。
「ぜ、ぜひともこれを私のスマホに・・・・!!」
興奮したレオナは、アルバムの写真を自分のスマホで撮ろうと、服のポケットに手を伸ばした。と、その時・・・・
『見ィ~たァ~ぞォ~♪』
私はレオナの背後にいきなり現れてみせた。
「ピャーーーーーー!!!」
レオナは甲高い叫び声を上げて驚いた。
「ななななな、なぜ貴様がここにいる!?」
『ククク・・・・「形態変化」のアーツを舐めるなよ?』
レオナの様子が気になった私は、菓子とジュースをメアリに任せ、部屋の前に立った。ここで私のアーツの出番だ。私は体全体をかみ切れのようなペラペラな体に変わり、ドアの隙間から部屋に忍び込んだのだ。そして、私はレオナの変態行為をこの目で目撃したわけだ。
『とうとう尻尾を掴んだぞ変態女!貴様のこの行為にメアリに言いふらしてやろうか!』
「そうなる前に貴様を滅殺するのみ!”ナイツ・オブ・ラウンド”!」
逆上したレオナはBB弾サイズの鉄球を取り出し、それを錬金して槍を創り出した。
『やる気か貴様ァッ!!』
「こっちの台詞だッ!!」
私も両腕を武器に変え、いざ、レオナをなぶり殺しにしてやろうと思った次の瞬間・・・・部屋の扉がバン!と吹き飛ぶような勢いで開けられた。
「二人とも何やってるの!?」
「メ、メアリ!」
そこに、メアリが突然現れた。どうやら、さっきのレオナの悲鳴を聞いて駆けつけたようだ。
『ちょうどいいところに来た!この女、さっき・・・・』
私はレオナがやろうとした行為をバラしてやろうと、ニヤリと笑いながら語ろうとした。
「ええい、言うな!!言ったら殺すぞ!!」
『やってみろ変態!!』
「やめて!私の部屋で暴れないで!!お願いだから!!」
メアリは口喧嘩をしながら、今にも闘り合いそうな空気にハラハラしている。
と、その時・・・
「ただいまー!!」
ルークの声が下の階から聞こえてきた。
「あっ、ホラ!パパ達が帰って来たよ!!」
「御父様が!?な、ならば仕方ない・・・この勝負預けるぞ!」
『フン、臆病者め。』
槍を降ろしたレオナを見て、私はここぞとばかりに煽る。
私の煽りに歯を食いしばるレオナの姿が何とも心地良い。
そして、メアリはレオナをロック達に紹介しようと、レオナを連れて2階へ降りる。私にそれについて行く。
「みんなおかえりー!!紹介するね、この子はレオナっていって、私の・・・・」
「友達」と言おうとした瞬間、メアリは言葉が詰まった。
「パパ・・・その人誰?」
そう言ったメアリの目の前には、ルーク達がいたが、その後ろに顔も知らない金髪で糸目のドラキュラ伯爵を思わせる服を身に着けている男が立っていた。
「ああ、この人か。この人は途中で知り合ったんだ。確か・・・・」
「サガナス、と申します。」
『なに!?』
私はその名前を聞き、思わず声を上げてしまった。
まさか・・・・”奴”がこんなところにいるわけが・・・・!!
私はサガナスの正体を探るべく、奴の目の前に現れた。
「ああっ!!メフィストが!え、えーっとこの子は・・・・」
メアリは人前で飛び出した私を見て、慌て始めた。
「メアリ、落ち着きなさい。この人は、メフィストの知り合いらしいんだ。」
ルークはそう言って、メアリを落ち着かせようとした。
「えっ、知り合い・・・・?」
「ええっ、お久しぶりですね、先輩♪」
『貴様ァ・・・・!!』
私に対して、サガナスは笑顔を見せてきた。間違いない・・・・こいつは悪魔”サガナス”!記憶を司る悪魔!
「サガナスさんってメフィストの後輩なの?」
「ええ、私は地獄で執務官をやっておりまして、メフィスト殿は兵器部に配属されていまして・・・・私はメフィスト殿の発明に興味を持ち、興味本位で見ている内に『先輩』と呼ぶようになりまして・・・・」
サガナスはお茶を飲みながら、ルーク達と談笑をし始めた。
「しかし、"執務官"やら"兵器部"やら・・・・物騒な言葉が並んだな・・・・」
ルークがそう呟くと、サガナスはニコリと笑った。
「地獄にも軍隊はあるのですよ。地獄を統べるハーデス様がお作りになられた、巨大な悪魔軍団が・・・・ね。」
「な、なるほど・・・・壮絶そうだな・・・・」
「ところで、アンタのアーツは一体なんなの?」
リンが尋ねると、サガナスは手袋を脱ぎ、リンの胸の前に手をかざした。
「失礼。」
リンは今の状況にキョトンとしているが、サガナスはそれに構わず、アーツを発動した。すると、リンの胸と胸の間、様は谷間の部分に大きな穴が空いた。
「えっ!!?」
『ええええええっ!!?』
リン本人はおろか、ルーク達も驚きから声を上げた。リンに空いた穴はちょうどボウリングのボールが入るぐらいの大きさで、中は真っ暗で何も見えない。すると、その穴の中から分厚い本が出てきた。サガナスはフッと笑って、その本を手に取った。すると、リンに空いた穴はふさがり、何も無かったかのように元通りになった。
「い、今のって・・・・!?」
『そいつのアーツは「記憶拝借」。他人の記憶を本という形にして拝借できる能力だ。』
私が困惑しているルーク達に、サガナスのアーツの説明をした。すると、サガナスは静かに拍手をした。
「説明ありがとうございます。私は人の過去を知るのが好きでして・・・・だから、このアーツを持つことができたのラッキーでした。今では自分の書斎に人の記憶の本を納めています。あっ、それと・・・・記憶の本を取られたからといって、記憶喪失になることはありえませんので、ご安心ください。」
サガナスはそう言って、リンから取り出した記憶の本を読み始めた。
「・・・・ほぉ、これはなかなか面白いですね。リンさん、あなたは9歳の時までおねしょをしていたみたいですね。」
「えっ・・・!!?」
サガナスの一言に、リンは顔を赤く染めた。
サガナスは気にせず次のページを読む。
「なるほど・・・・ブラを付け始めたのは10歳の時・・・・随分発育がいいんですね。」
「~~~~~ッ!!」
恥ずかしいことを言われ、ますます顔を赤くするリン。周りの奴らはどういう反応していいのか分からず、妙にソワソワしている。私的には「ざまーみろ」と言ってやりたいところだが。
「おっ、これは面白い・・・・12歳の時に、同じ学校の男子に悪戯で胸を触られて感じ・・・」
「ダァァァァァァッ!!!」
サガナスがリンの恥ずかしい部分を述べようとした瞬間、リンは恥ずかしさと怒りが頂点に達し、凄まじい回し蹴りでサガナスを蹴り飛ばした。
「それ以上言ったら殺す!!」
リンは倒れたサガナスの胸倉を掴み、今までで一番低い声のトーンで脅しに掛けた。
「おっと、失礼いたしました。」
サガナスは懲りるどころか、反省の色も見せていない。こいつは昔からそういう奴だ。人を過去を知りたがる上に、人の過去で恥ずかしいところを大勢がいる前で語るという、えげつない趣味を持つイカれた奴だ。
「さて、これはゆっくり読むとして・・・・他の方からもいただきましょう。失礼。」
「あっ!」
サガナスは素早く立ち上がると、サッとロックとルイス、レオナの前に手をかざし、リンと同じ要領で本を抜き取る。さらにレオナの記憶の本も抜き取った。
「ま、待てよ!まさか俺達も公開処刑にする気か!?」
「やられた方の気持ちも考えてよ!」
「フフッ、ご心配なく。こちらは後でゆっくりと読ませていただきます。」
サガナスはそう言うが、「だったら何故リンの時だけ公開処刑したんだ?」という疑問が浮かぶ。
「・・・なんで私の時だけ声に出して読んだわけ?」
リン本人も気になっているようだ。
すると、サガナスはニッコリと笑い・・・・
「暇つぶしです♪」
即答した。
「いつか殺す・・・!!」
サガナスの即答に、リンはさらに怒りを滲ませて拳を握りしめた。
「さて、残りはメアリ殿と、ルーク殿ですね。」
と、サガナスはルークとメアリの方を向く。すると、メアリは何故か得意気に鼻息を鳴らし、胸を張った。
「ふふーーん♪私の記憶を読むなんて簡単にはできないもんね!公開処刑になんかされちゃたまんないもん!」
「私も同じ気持ちだ。それに、私の娘に手を出したら、承知しないぞ。」
ルークとメアリは反抗の意思を見せている。
「なるほど・・・・さすがに親子というだけあって、似てますな。」
いつの間にか和気藹々と話し、すっかり打ち解けているようだが、私はサガナスに尋ねる。
『おい、サガナス。貴様、どうして人間界に来た?しかも人間の変装までして・・・・私を連れ戻しに来たか?』
「ご名答・・・・」
私はサガナスの返答を聞き、両腕を武器に変化させ、サガナスを睨みつけた。
「ちょ、ちょっと待て!話が飲み込めないぞ!」
ルークは私が臨戦態勢に入ったことに困惑し、間に入って私を止め始めた。
「連れ戻すって・・・・メフィスト、何か悪いことしたの?」
メアリがサガナスにそう尋ねると、サガナスはニヤリと笑った。
「おやおや、何も知らないのですか・・・・」
『やめろ・・・』
「なら、教えて差し上げましょう・・・・先輩が何をしたのか・・・」
『やめろと言っている!!』
私はサガナスを止めようと、大声を張り上げた。
この時、妙な気分を感じた。普段の私なら、「言いたければ言え」とでも言ってるはずなのに、今は「やめろ」とだけ言っている。何故そんなことを言っているのか、自分でもわからん。ルーク達に知られたくないから?幻滅されたくないから?あり得ない。私がそんなことを考えてるわけがない!
そんな私の考えをよそに、サガナスは私の過去を話し始める。
「先輩・・・メフィストは大罪を犯したのです。」
「大罪?」
「そう、罪状は・・・・『世界バランスの破壊』、です。」
「世界バランス?」
"世界バランス"という単語に、ルーク達は首をかしげる。まぁ、バカだから仕方ない。
サガナスはそんなルーク達に説明を始める。
「この世界は、天界・地獄界・人間界の3つに別れています。この3つは人間界を中心にして天秤のようにバランスを調節されており、天界の方が重くなれば、死んだ人間を地獄に送ってそのバランスを調節します。その逆も然りです。」
「じゃあ・・・死んだ人間をどちらかに送ることでバランスを保ってるってこと?」
「その通り。もし、どちらか一方に人間の魂が送られれば、世界の存亡にすら関わります。メフィストはこれを破ろうとしたのです。」
「待て待て待て!」
その時、ロックは一旦サガナスの話を止めさせた。
「今聞いた話だと、人間の魂ってやつをどっちかの世界に送らないとそのバランスは崩れないんだろ?こいつにそんなこと出来ねーよ!ただでさえ人間嫌いなのによ!」
ロックは珍しくまっとうな事を言った。確かに私は人間が嫌いだから、「人間に関わること自体が嫌いだから無理!」と諦めることだってできる。だが、本質はそこじゃない。
サガナスもそれを分かっているようで、ニヤリと笑った。
「確かにその通りですが・・・・人間の魂を送らなくても、バランスを崩すことはできます。」
「それは・・・どういうことだ?」
「地獄界と天界・・・・このどちらかの住人を減らすということです。人間界はあくまで中心の軸ですから、多くても少なくてもバランスには支障はありません。メフィストはこれを利用して、地獄の住人を一気に減らし、頂点に君臨しようとしたのです。そのための武器も開発していました。」
「そ、その武器って、どういうものなんだ?」
レオナがサガナスに聞いた。
「人間の魂を利用したものです。メフィストが考えた武器は、人間の魂を吸収し、その吸収した魂の数だけ攻撃力が上がる物・・・・メフィストはこれを完成させる理論を構築してはいたのですが、肝心の人間の魂の吸収方法が思い浮かばず、そのままハーデス様にバレてしまい・・・・そのまま牢獄に閉じ込められるはずだったのですが、メフィストはすんでのところで逃げだし、今に至るというわけです。まぁ、逃げる最中に下半身をハーデス様に取られてしまいましたけどね、ハハハッ」
サガナスの話が終わり、ルーク達はただただ無言で立ち尽くしていた。呆れたのか、それとも唖然としているのか・・・・
と、その時、ルークが私の前に立った。
「メフィスト・・・・本当なのか?サガナスの言った話は・・・・」
『・・・ああ。』
ルークの問いに、私は少し間を置いて答えた。
「・・・利用、したのか?私を・・・・人間を殺して、同族も殺す兵器を作る為に?」
『・・・そうだ。』
再度、ルークの問いに答え、私はルークの横を通り抜け、下へ続く階段の前で止まった。
「先輩、どこへ行くおつもりですか?私が見つけた以上、必ず地獄へ連れ戻しますよ?」
サガナスはそう言って、私に近づいてくる。だが、その時・・・
「待ってくれ。」
ルークがサガナスの前に立ち、サガナスを止めた。
「おっさん・・・・?」
『・・・?』
「ルーク殿、なんのつもりでしょうか?」
サガナスはニコッと笑いながら、ルークに尋ねた。どうせ、大した答えなんて出ないだろう・・・そう思った私は、次のルークの一言に唖然とした。
「もう少し・・・もう少しだけ待ってくれないか?」
『なっ・・・!?』
ルークは、「待ってくれ」と言った。何故だ?私のことなんて切り捨てればいいのに。さっきの話を聞かなかったのか?今の話を聞けば、私が兵器を作るためにルークを利用したことぐらい、すぐわかるのに・・・・なのに、この男は・・・・!
「・・・それは、どういうことでしょう?」
サガナスの顔は笑顔から真顔に変わり、さらにルークに尋ねる。
「確かに、メフィストがやったことは悪いことだ。間違っていることだ!だけど・・・やり直せる!彼は私と会ってから、人を殺してはいない!それはつまり、改心する可能性があるということじゃないか?なら、もう少しだけ待って欲しい!必ず・・・メフィストを改心させてみせる!だから・・・連れていかないでくれ!!」
ルークはサガナスに頭を下げた。
(やめろ・・・)
私は心の中で叫ぶ。
「お、俺からも頼むぜ。メフィストは・・・まぁ、いけ好かねぇし、ナルシストだし、ウゼェし・・・悪いとこばっかだけどよぉ・・・・なんか、いねぇと逆に落ち着かねぇんだ。」
なんと、ロックもサガナスに直訴し始めた。
(なぜだ・・・?)
またしても、私は心の中で叫ぶ。
すると、今度は・・・・
「確かに・・・ウザイけど、いないとなんだかなぁ・・・・って感じ。」
「それに、役に立つところもあるものね。」
「まぁ、癪ですが・・・メアリが悲しむのは我慢ならないので、私も賛同します。」
ルイスとリン、さらにレオナまでも参加してきた。
4人はルークに習ってサガナスに頭を下げた。
「みんな・・・!」
メアリはそれを見て、目に涙を浮かべたが、私は逆に腹立たしく思っていた。
そして、メアリは皆に続いてサガナスに直訴しようとするが、それよりも早く、私がルークの前に出た。
『いい加減にしろ!!』
私はルークの胸倉を掴み、顔がくっつかんばかりの距離で大声で叫んだ。
『なんなんだ貴様らは!?今の話を聞かなかったのか!?私は・・・罪人だぞ!?それに、私は貴様を利用したんだぞ!?』
「・・・・わかってる。」
ルークは私の叫びに答えるように、私の手をそっと掴んで、下へ降ろす。
「だからこそだ。だからこそ、私は君を信じたい。」
『何・・・!?』
すると、ルークは微笑んだ。
「少なくとも、君がいなきゃこの日々はなかった。ロック、ルイス、リン、ロバート、バルトロ、レオナ・・・・それに『パラディンフォース』の仕事で出会った人々・・・・君と出会えたから、私はこんなにも多くの人と出会えた。仲間も増えた。君がいなきゃ、私は何も出来ない!・・・大切な相棒を、見捨てられるわけないだろ。」
『~~~~~ッ!!!』
その瞬間、ルークが語ったその言葉を聞いて、私は何故か目頭が熱くなってしまった。気を抜いたら目から涙が溢れてしまいそうになるほどだ。
『バ・・・バカ者がっ!!』
私は目頭が熱いのに耐えながら、ルークの横を通り抜け、さらにメアリの横側を通り抜け一気に地下室へ向かった。
「先輩!地獄へ戻る意思が固まったら、今日の夜9時、セントラルパークまで来てください!」
サガナスは私の去り際に大きな声で言った。私はそれを耳にしつつ、地下へ向かい、研究室に閉じこもった。
(あのバカどもが!あそこまでバカとは、想像もつかんかった!!もう愛想が尽きた!出てってやる!!)
地下の研究所に閉じこもった私はルーク達のバカさ加減に呆れ、怒りを覚えながら、荷物をまとめていた。荷物を纏めたらすぐにここを出て行く。そうすれば奴らでもわかるはずだ。私がどれだけルーク達のことを嫌っているのか、ということをだ。
「メフィスト。」
その時、メアリが部屋に入ってきた。
『・・・・お前か。』
「サガナスさん、もう帰ったよ。」
『そうか、なら都合がいい。私もここから出て行く。これで私は自由の身になれる・・・・パスタだって毎日喰えるようになる。』
そう言って、私は邪悪な笑顔を浮かべてみせた。ここから出る前に、メアリにも私が「悪い奴」だということをわからせてやろうと思ったんだ。
だが、メアリは何も応えている様子はなく、私に話し掛けてきた。
「ねぇ、前から聞きたかったんだけど・・・・メフィストって、どうして人間が嫌いなの?というより、いつから人間が嫌いになったの?」
メアリは私に質問してきた。答えるつもりはなかったが、情けのつもりで答えることにした。
・・・・まぁいい、教えてやる。あれは、まだ魔女狩りが始まる前の中世の時代だった。私はその時はまだ人間を嫌ってはいなかった。というより、興味がなかった。だが、ある時・・・・
『くそっ・・・この私が・・・!』
私は人間界で怪我を負ってしまい、地獄に戻れない状態になってしまった。
「きゃっ!あなた・・・・誰?」
そこに現れたのは、お前と同じくらいの女だった。アレクシアという名前だった。
「ひどい怪我・・・待ってて!すぐに手当してあげるから!」
アレクシアは村の近くの森にある古くて使われなくなった山小屋に私をかくまい、私の傷の手当をし看病してくれた。
「もう大丈夫!後は様子を見て、ご飯をちゃんと食べれば、よくなるはずだよ。」
『・・・お前、私が怖くないのか?私は悪魔だぞ?』
「全然!だって、悪そうな感じしないもん。」
あいつは私が悪魔であることなど気にせず、私に接してくれた。私が地獄でのことを語ると、あいつは笑ったり、怖がったり、驚いたり・・・・色んな表情を見せてくれた。あいつとの日々は忘れられなかった。あいつと出会って、私は人間を信じようという気持ちになれた。
だが・・・・ある日を境に、そんな気持ちは全部壊れた。
魔女狩りが起きたんだ。ジャンク・ダルクを筆頭に、魔女の疑いがある者は次々とどこかへ連れ去られ、拷問され、終いには殺された。そして、アレクシアも魔女の疑いを受けてしまった。
『アレクシア、行くな!私と一緒に逃げよう!ここにいたら殺されるぞ!』
私は必死にアレクシアを引き止めようとした。
「でも・・・私が行かなきゃ、パパやママにまで疑いがかかるの!だから・・・・行かなきゃ!」
『アレクシア!!』
だが、アレクシアは私の静止を振り切り、自ら拷問に掛けられた。すぐに助けに行こうと思ったが、出来なかった。
私は、人間を信じていた頃の私は、「魔女の疑いが晴れれば、アレクシアは解放される。」・・・そう思って、密かに村中に「アレクシアは魔女ではない!」と書いた紙切れを貼っていった。
だが、今思えば、私はバカなことをしていた。そんなもので信じるバカなんているはずないと分かっていたのに・・・・なのに、私は信じようとしたんだ、人間を・・・・
そして、ついに始まってしまった。アレクシアの死刑が・・・・そこで、私は見た。磔にされたアレクシア、それに・・・・アレクシアの両親の姿を・・・・
(そんな・・・・!?親の方まで・・・・!?)
聞いた話では、私が村中に張った紙切れが、両親が張ったものだと疑われ・・・・それが原因で両親も魔女の疑いを掛けられてしまったのだ。
(私の・・・私のせいなのか!?)
そして、いよいよ始まった。兵士が磔にされた3人の足元に火を付けた。死刑は火あぶりだ。
『やめろ・・・!!やめろぉぉぉぉぉぉ!!』
私はたまらず、民衆の前へ飛び出し、アレクシアを助けようとした。
「なんだアイツは!?」
「悪魔だ!取り押さえろ!!」
私はあっという間に兵士達に取り押さえられた。私はもがいたが、兵士達を引きはがすことは出来なかった。そんなことをしてる間に、3人を拘束している磔台は、段々と燃え広がり、遂にアレクシア達の体を燃やし始めた。
『アレクシア!!アレクシアッ!!』
私はアレクシアに向かって叫んだ。すると、アレクシアは体が燃える中、両隣にいる両親が「熱い」とうめき声を上げる中、奴は私の顔を見て・・・・優しく微笑んだ。・・・・苦しいはずなのに、熱いはずなのに・・・・アレクシアはずっと私に微笑んでいた。
すると、炎がアレクシアを燃やす中、アレクシアは私に向けて微笑みながら・・・「大丈夫」と口ずさんだ・・・
そして、遂にアレクシアの体は炎に包まれた。
『・・・・ッ!!アレクシアァーーーーーッ!!!』
私はアレクシアの名を叫んだ。そして・・・私の中で怒りが燃え始めた。
「見よ!これが魔女の最後の姿だ!この世に存在する魔女は全て滅びるのだ!」
上官らしき男が叫んだ。
それを、俯きながら聞いていた私は・・・・
『ククッ・・・クハハハ・・・・フハハハハハハハハッ!!』
私は乾いた笑いを浮かべ、さらに高笑いを浮かべる。
『バカな人間だ・・・・そいつらが本当に魔女だと思っているのか?』
「な、なんだと!?」
『そいつらはな、私の魔術で操ってやった、ただの人間よ!』
私のはったりに、周りの野次馬どもはざわめいた。
『つまり、貴様らは無実の人間を殺したのだ!!貴様らの底が知れるというものよ!!』
「そ、そんな・・・!?」
「私達は、無実の人を魔女と呼んでいたの!?」
「ま、惑わされるな!!ただのはったりだ!!」
上官は民衆を静めようと、大声を上げるが、民衆は一向に静まらなかった。私はそれが滑稽でならなかった。
『はったりか・・・・人間が言いそうなことだ。私は・・・・こんな愚かな者どもを信じようとしたのか!悪意のない子どもを殺すこいつらを!!これが、これが私の信じようとした人間の正体か!!』
私は滑稽に思いながらも、自分の中に激しい怒りを感じ、その怒りを爆発させた。そして、私はそのまま、その場にいた人間を全て殺した。民衆も、兵士達も・・・・
気がついた時には、周りには人間の死体の河が築かれていた。
それから私の考えは変わった。同じ種族を殺す人間に生きる価値はない、人間なんて滅べばいい、そう思ったのだ。
『その時から私は人間が嫌いになり・・・・全ての人間を抹殺し、私自身がこの世界を統べる神となる為、まずは地獄の征服を目論んだが・・・・ハーデスにバレ、逃げる最中に下半身を奪われてしまった。そして、お前の父と会った・・・・というわけだ。』
「・・・・」
私の過去を聞いて、メアリはただただ無言で俯いている。まぁ、無理もないだろう。こんな話を聞いて笑えるわけもないだろうしな。
『もういいだろう?じゃ、私はここを出るからな。』
私はそう言って、まとめた荷物を持って部屋を出ようとした。だが、その時・・・・
「ダメ!」
部屋を出ようとする私を、メアリは私の手をギュッと握って止めた。
『ああっ?』
「今の話聞いたら・・・・なおさらダメ!」
メアリの一言に、私は怒りを覚えた。そこで私は強面な口調でメアリを振り払おうと思った。
『だったら、貴様はどうしたい?サガナスの奴に突き出す気か!?私を、無残にもか!?』
「突き出さない。」
メアリは即答する。私はそれに対してますます怒りが沸き上がり、メアリの胸倉を掴んだ。
『だったらなにがしたいんだ!?というより、何故そこまで私にこだわる!?』
私は胸倉を掴み、怒りを露わにしながらメアリに迫る。すると、メアリは両眉にシワをよせ、真面目な顔で一言呟いた。
「メフィストが、またひとりぼっちになっちゃうから。」
『・・・・ッ!?』
その一言に、私はポカンと目を見開き、メアリから手を離した。
その一言はあまりに衝撃的で、思わず困惑してしまった。
私が、「ひとりぼっち」・・・?私はそんな風に見られていたのか?心外、というより意外、という気分だった。私がその気分をただただ無言で味わっているとメアリは続けて言った。
「ずっと私がいるから、大丈夫!今度は私が助けるからね。」
メアリはそう言って、ポカンとしている私を抱きしめ、子どもをあやすかのように頭を撫でた。
その時、何故かはわからないが、私の目から先ほど堪えていた涙があふれ出てきた。
『この・・・大馬鹿者が・・・・!!』
私は涙を流しながら、メアリにすがりつくように抱きついた。メアリの体はとても温かく、こうしてくっついていると、優しさと安心を感じさせてくれる。こいつに抱き枕にされていた時は気付きもしなかったが・・・・これが人の優しさなのだろうか。
私は何を求めていたのだろうか。この温かさと優しさだろうか。人間を嫌い、拒絶していく内に、自分の中が氷のように冷たくなっていて、それを溶かすものを追い求めいたのかもしれない。
(どいつもこいつも・・・・大馬鹿者だ・・・・!!)
その後、私は覚悟を決め、夜9時にセントラルパークを訪れた。夜ということもあり、人気はなかった。私が着いた時には、サガナスはすでに着いていた。
サガナスはベンチに座って休んでいる。
「おや、先輩・・・・来てくれたんですね。」
『ああ・・・・』
サガナスは私の姿を見て、ベンチからスッと立ち上がった。
「答えは決まったのですか?」
『そのことだが・・・・』
私はサガナスの申し出に答えようとした。すると・・・・
「メフィスト!」
チラリと後ろを見ると、そこにルーク達が現れた。大方、私を止める為に来たのだろう。
私はルーク達のことは無視し、サガナスの方に顔を向き直した。
『・・・・お前には悪いが、私は・・・・私は・・・・!』
ルーク達が後ろで固唾を飲んで見守る中、私は拳を握り、勇気を振り絞って言った。
『ここにいたい!私は、こいつらと一緒にいたい!!』
私は思いきり言ってやった。自分の正直な気持ちを。しかも、ルーク達の前で、堂々と。少し恥ずかしさも感じたが、思い切り言うと気持ちのいいものだ。
『だから頼む!見逃してくれ!虫のいい話だろうが、私にはルークが、ロックが、リンが、ルイスが、メアリが・・・・このバカ者達が必要なんだ!!』
私はさらに続けて自分の正直な気持ちを叫び、サガナスに頭を下げた。
「あいつが・・・」
「頭下げた・・・・?」
ルーク達は頭を下げている私を見て、驚き、困惑している。私のキャラじゃないからな。
『もちろん、ただで見過ごしてもらおうとは思っていない・・・・!日本には、”ケジメ”というものがあると聞く・・・・!』
私は右手を刃に変え、自分の左手の小指にあてがった。
「メフィスト・・・・何を!?」
『私の小指をくれてやる!足りないなら、もう1本くれてやってもいい!!』
私は刃を小指に向けながら、真剣な目付きでサガナスを見つめる。
すると、サガナスは深いため息をつき始めた。
「フーッ・・・・やれやれ。ここまで腹をくくられるとは・・・・いいでしょう。」
『えっ?』
サガナスの返事に、私は思わず目を見開いた。
「今回だけは特別・・・・ということです。」
『そ、それじゃあ・・・・!?』
「ハイ、先輩はここに残って構いません。」
『ほ、本当か!?おい、貴様ら・・・!!』
サガナスの言葉に喜んだ私は、後ろのルーク達の方を振り向いた。
『よかった~~~!!』
すると、私と同様に喜びの笑みを浮かべたルーク達が一斉に私の方に飛びついてきた。
『うおっ!!』
私はルーク達に押し倒され、地面に倒れた。
「よかったなぁ、メフィスト!またこれで一緒に戦えるな!」
「それにしても、まさかメフィストが僕達のことを必要としてたとはねぇ~」
「こいつみたいな奴に言われると、なんかむず痒くなるぜ。」
「ムッフッフッ~、結構カワイイとこあんのね~」
ルークは率直に喜びを見せていたが、ルイス、ロック、リンはニヤニヤ笑いながら私がさっき言ったことについてをからかい始めた。
『ぐ、ぐぬっ・・・・!』
私は先ほど自分が言ったことを思い出し、恥ずかしくなり、顔を紅潮させてしまった。
『こ、この際だ!貴様ら、さっき私が言ったことは忘れろ!!全部忘れろーーー!!』
私は顔を紅潮しながら叫ぶ。すると、ルーク達はそれが可笑しかったのか大きい笑い声を浮かべた。
すると、後ろにいたサガナスが両手をパンパン!と叩いた。その手拍子に気付き、私達はサガナスの方を向いた。
「あー、盛り上がっているところ申し訳ありませんが・・・・一つ条件があります。」
サガナスが提示した私を人間界に残す条件・・・・それは、ルークとメアリの記憶の本を抜き取ることだった。ルークとメアリはそれを承諾し、サガナスに記憶の本を抜き取られた。
「どうも、ご協力感謝します♪」
「これぐらいのことでメフィストがここに残れるなら・・・」
「お安い御用!」
サガナスは記憶の本を傍らに持つと、ポケットから腕輪のような物を取り出し、足元に置いた。
すると、リングは人一人入れるぐらいに巨大化し、リングの中に穴が開き、ブラックホールのような空間が作られた。
「なんだこれは?」
『地獄と人間界を繋ぐゲートだ。このリングは簡易でゲートを作り出す装置だ。』
「さて・・・・」
サガナスは一呼吸置くと、背中から悪魔めいた翼を生やし、それで全身を包んだ。
『それでは・・・・』
翼を広げると、サガナスの姿は人間から元の悪魔の姿へ変わっていた。
「あ、悪魔だ!」
『そりゃ悪魔だからな。』
ルーク達は悪魔の姿にサガナスを見て驚いた。
『では皆様、ごきげんよう・・・・』
サガナスはそう言うと、ゲートの中へ飛び込んだ。サガナスが飛び込むと、ゲートは消滅した。
『はー、やっとめんどうな奴が帰ったか・・・・』
「めでたしめでたし、かな。」
「あいつ・・・・次来たらただじゃおかないわ!私に恥じを掻かせた罪、思い知らせてやるわ!」
「しっかし、腹減ったなぁ・・・・さっきは飯食う余裕なかったからなぁ。」
「よーし、これからみんなで寿司でも食べに行くか!私、回転寿司店のクーポン持ってるんだ!事務所の留守番させてるレオナも誘って!」
ルークはそう言って、ポケットからクーポン券を取り出した。
「おー、いいねぇ!」
「レッツゴー!」
『ちょっと待ってくれ!』
私は大声を上げ、寿司屋へ行こうとするルーク達を引き留めた。
「?」
『あー・・・ありがとう。信じてくれて。』
私は恥じらいながらルーク達に礼を言った。すると、ルーク達はキョトンとしたかと思うと、すぐに笑った。
「そうか・・・メフィスト、君の知識が必要だ。」
ルークは片手を私に差し出した。
『・・・お前の強さも必要だ、相棒。』
私はニヤリと笑い、ルークと握手を交わした。
すると、メアリはニコッと笑い・・・
「待って、ロックのパワフルさも、だよ!」
そう言って、私とルークが握手した手の上に、自分の手を重ねた。
「へへっ・・・ルイスのチャラいところもな!」
それに続いて、ロックも・・・
「リンちゃんの度胸の良さも・・・かな?」
さらにルイス、
「そして・・・メアリの元気も必要よ!」
そして、最後にリンが手を置いた。
なんとも心地よい・・・・メアリに抱きしめられた感覚に近い。全員が心を一つにしている・・・そんな気分だ。
と、その時だった。パトカーのサイレンの音が遠くから鳴り響いた。
「・・・みんな、私達は5人、いや6人全員そろってこそチームだ!誰一人欠けたらダメだ!6人そろって初めて・・・『パラディンフォース』になるんだ!!」
サイレンを聞き、ルークは手を重ねた状態で叫ぶ。それは私達チームの誓いの言葉だった。
それを聞いた私達はすぐさまそれを理解し、コクリと頷いた。
「よーし、みんな行くぞ!!」
『レッツ・モーフィン!!』
ロック、リン、ルイスは掛け声を上げ、ヒーローコスチュームの姿に変身する。
「メフィスト!」
『いくか、ルーク!』
私は体を変化させ、ルークの体に「ファウスト」のスーツを纏わせた。
「メアリ、先に帰っててくれ!」
「うん!じゃあ、前から言ってみたかったヤツいくよ!!パラディンフォース・アッセンブル!!」
メアリのその掛け声と同時に、私達は出動する。ヒーローチーム「パラディンフォース」として!
・・・とまぁ、ここまでの話で何が言いたいかと言うと・・・・思いがけないことがそいつの人生観を変えることと、何かを信じるということの重大さだ。ルーク達は私を信じてくれた。だから、私は今もこうしてあいつらの側にいられる。そのおかげで、私も今のままでいられる。
何かを信じることができない奴もいるだろう。だが・・・大事なのは、「信じるからこそ、何かが変わる」・・・・ということが、今回、私が学んだことだ。
・・・長くなってしまったな。じゃあ、最後にこれは覚えておけ!私は、「パラディンフォース」の一員、メフィストだ!!
『ハーデス様、ただいま戻りました。』
地獄に戻ったサガナスは、ハーデスのいる王の間に訪れていた。
『うむ・・・』
ハーデスは巨大な玉座に座ってどっしりと構えている。
『メフィストの様子は?』
『少し変わったようです。人間を、少し信じるようになりました。』
『フンッ、変われば変わるものか・・・・まぁ、そんなことはどうでもいい。例の二人の記憶の本は手に入ったか?』
『ご予定通り・・・・既に中身も拝見しております。』
サガナスはそう言って、ルークとメアリの記憶の本を取り出す。
『拝見したところ・・・・やはり、ハーデス様の予想通りでした。ルーク・エイマーズ、その娘、メアリ・エイマーズ・・・・あの二人は・・・・どうやらこちら側の者のようです。』
『やはりか・・・・』
『それと、ルーク・エイマーズですが・・・・あの者の正体は・・・・』
サガナスがルークの正体を明かそうとした、その瞬間、ハーデスは片手を突き出して、サガナスの口を止めた。
『言わずともわかる。ルーク・・・奴の正体に、スポンサーという男・・・・この二人が正体を明かしたのなら、人間界は混乱に陥るだろう・・・・!』
メフィストの回想で出てきたアレクシアですが、当初はジャンヌ・ダルクにしようかと思いましたが、歴史が狂ってしまいそうなので止めました。




