第1話「始まりの出会い」
長くて読みづらいかもしれませんが・・・こんな感じで物語が展開します!
これを見ているみんな、元気かな?私は、ルーク。ルーク・エイマーズだ。アメリカ出身のフィラデルフィア生まれだ。あの映画「ロッキー」のロッキー・バルボアと同じ出身地だ。さて、これからみんなに話すのは、私が体験した実際の出来事だ。なんとも奇妙で、楽しくて、大変で・・・・何より、忘れられない出来事だ。
話に入る前に・・・・みんな、悪魔の存在は信じるか?悪魔は神と同じく、架空の物だと思われていた。私は頭が悪いから、そこまで詳しくはない。だが、悪魔は実在する。それを今から話そう。
あれは2019年のことだった。私は朝早く起き、朝食を作る。メニューは確か、トースト、ベーコンエッグ、レタスにトマト、それにコーヒーと牛乳だ。
すると、2階に続く階段からダンダンと駆け下りてくる音が聞こえた。
「パパ、おはよ!」
キッチンに顔を出したのはピンク色の髪をした女の子だ。この子は私の愛娘、メアリ。16歳だ。
メアリは朝の挨拶を終えると、つま先をピンと立てて足を伸ばし、私の頬にキスをした。
「おはよう、メアリ。」
私も挨拶をし、メアリの頬にキスをした。
キスを終え、私とメアリは食卓につき、食事を始めた。
「メアリ、最近学校はどうだ?」
私は朝食を食べながら世間話をメアリに振った。すると、メアリはニコッと微笑んだ。
「うん!学校すっごく楽しいよ!最近ね、ヒーロー好きの女の子グループ作ったの!」
メアリは目をキラキラ輝かせながら言った。娘のメアリは、スーパーヒーローが大好きだ。特にスパイダーマンの大ファン。メアリの部屋にはスパイダーマンを中心に、スーパーヒーローのグッズが所狭しと並んでいる。所謂、「ヒーローオタク」というものだ。
「ハハッ、同じ趣味を持つ友達を持つことはいいことだ。大事にしなさい。」
「はーい!」
メアリはそう言うと、朝食を完食し、コップに入った牛乳を飲み干した。
「じゃ、いってきまーす!」
「ああ、気をつけるんだぞ。」
メアリは食器を片付け、学校へ向かった。
「ふう・・・」
私も食事を終え、食器をシンクへ置いた。ふと、目の前に置かれた写真が目に入った。写真には美しい女性が、個人的に言えば、この世で一番美しい人が写っている。
「マリア・・・」
写真に写っているのは、私の妻だったマリア。私がこの世で一番愛している人だ。マリアは8年前、メアリが8歳の時に癌で亡くなった。
「マリア、私達の娘は、元気に育っているよ。」
私はそう言い終えると、食器を洗い、仕事に行く準備をし仕事場へ向かった。
私の仕事は荷物の運搬。要は力仕事だ。・・・・と言っても、ずっと前からこの仕事をしていたわけではない。この仕事をするようになったのは、マリアが亡くなってからだ。マリアが亡くなる前は、私はボクサーだった。自慢になってしまうが、これでも世界チャンピオンになったんだ。・・・・それが奇しくも、マリアが病院で亡くなった日と重なってしまった。私は、その日からずっと後悔している。愛する人の側にいられなかったこと、メアリに悲しい思いをさせてしまったこと・・・・だから私はボクサーを辞めた。二度と、私が愛するもの、メアリに悲しい思いをさせないように。
家から歩いて1時間後、私は仕事場にたどり着いた。そこは小さい事務所。これが私の仕事場だ。
「よし・・・今日も愛する娘の為に・・・・やるか!」
私は意気揚々と事務所に入った。
「おはようござ・・・い、ます・・・・」
私は入ったと同時に高らかに挨拶をしようとした。だが、私は思わず目を丸くした。なぜなら、いつもと仕事場の雰囲気が違うからだ。
事務所にはとっくに社員全員が集まっている時間なのに、今、目の前にはパイプ椅子にだらしなく座っている事務所の社長しかいなかった。社長の足元には書類らしき紙が散らばっている。
「あ、あの、社長・・・・」
私は恐る恐る社長に話し掛けた。所長は私に気づき、少し微笑んだかと思うと、ポケットから封筒を取り出した。
「これ、少ないが・・・・とっておけ。」
「?」
私は理解できないまま封筒を受け取った。
すると、社長は静かに言った。
「会社、倒産だとさ。」
「えっ・・・・」
その一言に、私は絶句した。
「ルーク・・・・お前はよく頑張ったな。元気でな・・・・」
「・・・・」
社長はそう言ったが、私は何も言えず、社長に一礼し、その場を立ち去った。
私は途方に暮れながら街を歩いた。
「これから、どうすれば・・・・」
私はそう呟きながら歩く。メアリはまだ15歳・・・・学校のお金や食費、家賃なども払わなければいけない。新しい仕事を探そうにも、今は不景気。そう簡単にいい仕事は見つからない。
私は怖い・・・・職を失ったことじゃなく、メアリにこのことを知られてしまうことが怖い。あの子は優しい子だ。絶対に心配を掛けてしまう。それだけは避けないといけない。だがどうすればいい?私は頭も悪い上に、子どもの頃は学校もろくに行けず、警察に世話になったこともある。できることと言えば、ボクシングに力があることぐらい・・・・これでいい仕事が見つかる可能性は低い・・・・
「誰か、助けてくれ・・・・」
私は両手で顔を伏せ、思わず弱音を吐いた。男として、なんとも情けない一言だ。この一言を言っただけで死にたくなってくる。
だが、その時だった。
『助けてやろうか』
くぐもった声が耳に入った。
私は正面を向いたが、誰もいない。右側、左側にもいない。
「・・・気のせいか?」
気のせいだと思った私は、顔を下に降ろした。その時、私は異変に気づいた。それは影だった。影というのは、見て見れば、人の形をしているだろう?だが、その時の私の影は違った。私の影は、太い両腕に悪魔のような翼、角が生えている。
「こ、これは一体・・・・!?」
私がそう言うと、なんと驚いたことに、影の中から黒い何かがゆっくりと上がって来たのだ。
『ククク・・・・ようやく気づいたか、バカな人間め・・・・』
その黒い物体は、低く笑いながらゆっくり上がっていき、私の眼前に現れた。
「お、お前・・・・」
私が声を震わせると、そいつはニヤリと笑う。だが、私は次の瞬間・・・・
「お前、ポップな見た目をしているな・・・・・」
拍子抜けな台詞が私の口から飛び出す。だが、私が今言ったように、目の前に現れたそいつは本当にポップな見た目をしていた。全身は幼児向けアニメに出てくるような見た目で、体色は全身真っ黒、下半身はない・・・・というより腹から下にかけて円錐を逆さにしたようなものがくっついている。両腕は太く、全身と同じくらい長い。背中には翼があるが、かなり小さい。頭には鹿のような角、目は真っ赤だ。
『・・・それがどうしたーーーーー!!』
「うおっ!?」
突然、そいつは叫びだした。
『私だって好きでこんな姿してるわけじゃないんだぞォ!?私だってもっと格好いい姿に生まれたかったわ!!でも、整形できない悪魔にとって、これは定められた運命だと思って割り切るしかないんだ!わかるか!?ん~~~~!!?』
そいつはもの凄い早口で叫びながら私に詰め寄ってきた。
「き、気にしていたのか・・・・」
『ええい!気にしていても仕方ない・・・・本題に入ろう。』
そいつは平静さを取り戻し、再び私の方を向き、ゆっくりと語りかけてきた。
『我が名はメフィスト。願いを言うがいい、どんな願いでも叶えてやろう。』
そいつの名前には聞き覚えがあった。「メフィスト」・・・・確か有名な悪魔だったはずだ。
「メフィスト・・・・?あのメフィストフェレスのことか?」
『その通り。・・・・なるほど、筋肉バカに見えて、意外と教養がありそうだな。』
メフィストという黒い奴の言い分に、私は苦笑いを浮かべた。
「いや・・・・私はただの筋肉バカだ。仕事はなくなり、貯金は後少しで底を尽き、娘を幸せにしてやれない・・・・哀れな父親さ。」
私がそう言うと、メフィストはニヤリと笑った。
『それが、全て解消されるとしたらどうする?』
「・・・・詐欺かテレビの通販番組みたいな口調だな。そんなことができるはずがない。」
『出来るのさ。』
「出来る」・・・・メフィストはそう言った。その時、私はメフィストの言葉に感心を持ち始めていた。もしかしたら、淡い期待だったのかもしれない。自身がなくなってしまった私自身の、怠慢、欲望だったのかもしれない。
私は、メフィストに尋ねた。
「・・・・どうすればいい?」
『私が願いが叶えるのは簡単だ。だが、ただでとはいかないな。』
「報酬が必要ということか・・・・何が欲しい?」
私がそう言うと、メフィストは不気味な笑みを浮かべた。
『私はある研究をしている・・・・・そのための研究材料が欲しい。その材料は・・・・人間の、魂。貴様が人間を殺し、私が魂を採取すればいい。簡単だろ?そうすれば私も貴様の生活も潤う!フハハハハハハハハハ!!』
メフィストはしてやったりと思ったのか、高笑いを上げ始めた。
だが、私は彼を無視し、その場を立ち去ろうとした。
『待てい!!』
その時、メフィストが疾風のように移動し、私の目の前に現れた。
『断るつもりか!?貴様ら人間は欲深い!しかも助かる手立てさえあれば誰にでも媚びを売る!それが人間のはずだ!!さあ、私の取引に応じろ!さあ!!』
メフィストは私の胸倉を掴み、まくし立て、無理矢理取引に応じさせようとした。
それに対し、メフィストの言葉に怒りを感じた私は、メフィストを壁まで追い込み、反論した。
「あまり人間を舐めるな!人間の中にはそんなものには応じない者もいる・・・・私もそうだ!私にもプライドがある。人の命を大事にしない悪魔には、絶対に屈しないぞ!」
『な、なんだと・・・・!?き、貴様~~~~!!』
私の反論がショックだったのか、それとも、たかが人間にバカにされたのが悔しかったのか、メフィストは怒りをむき出しにし、私に襲いかかってきた。
だが、その時、遠くでパトカーのサイレンが鳴り響いているのが聞こえた。それも1台や2台ではなく、少なくとも10台はありそうだった。
「なんだ?」
私はふと路地から出た。動く瞬間、メフィストが攻撃を仕掛けて来たが、私が動いたことで間一髪よけることができた。
私はサイレンが鳴った方角へ走った。
『あっ、待て!貴様!!』
メフィストは、私の影の中に入り、私に付いてきた。
私はサイレンが聞こえた方へ走った。だが、その途中、人だかりに出くわした。
「?」
気になって見てみると、みんなビルに設置されている巨大テレビを見ていた。私は何の集まりなのか確認するため、近くにいた男性に声をかけた。
「すいません、なんの騒ぎですか?」
「バスジャックだよ!ハイスクールのバスがジャックされたんだよ!」
「そんなことが・・・・」
私はふとテレビを見た。テレビにはジャックされているバスがある。その前にはパトカー。さっきのパトカーは救援の為のパトカーだったのだ。
その時、私は目を見張った。テレビに映っていたバスがズームされ、バスジャック犯と中の様子が少し写った。そこに、あの子が・・・・メアリがいた。
「メアリ!」
間違いない。メアリだ。あの子のピンク色の髪は見違えるはずがない。恐らく、学校へ向かう途中で、バスジャックに合ってしまったのだろう。だが、今の私には、そんな考えが浮かぶ余裕がなく、メアリを助けたい気持ちで一杯になっていた。
その時、メフィストは私の耳に近づき、話し掛けてきた。
周りにはメフィストの姿は見えていないようだった。
『あの女はお前の子か?』
「・・・お前には、関係ない。」
耳打ちをするメフィストは、私はシラを切ろうとした。だが、メフィストはそんな私の心を見透かしたかのように、ニヤリと笑った。
『貴様は今、必死になっている。「あの子を助けたい。今すぐにでも飛んで行って、守ってあげたい・・・・だが、自分にそんな力はない。」・・・違うか?』
「くっ・・・・!」
私はメフィストの言葉に揺らいだ。私は目立たないよう、人気のない場所へ移動した。
人気のない場所へ移動した私は、メフィストの方へ顔を向けた。
「・・・・お前に協力すれば、あの子は助かるのか?」
『私を誰だと思っている?私は、悪魔だ。できないことなどない!』
私はさらに揺らいだ。メフィストの力があれば、メアリを助けられるはず。今の私が行っても、何もできない。
つまりは、答えは一つしかない。
『さぁ、私と契約しろ。』
私は・・・・
「私の名は、ルーク・エイマーズ!お前と契約する!」
『我が名はメフィスト・フェレス。契約・・・・完了!』
私は、メフィストとの契約を受け入れた。
契約が完了したのと同時に、メフィストは突然スライム状の液体に変化し、私の体に纏わり付いた。
「な、なんだ!?」
『悪魔には様々な能力を持った者が存在し、悪魔達はそれを「アーツ」と呼んだ。そして!私のアーツは・・・・』
スライム状に変化したメフィストは私の体をどんどん覆い、終いには顔全体にまで及んだ。
『私のアーツは「形態変化」!!人間や物に憑依することで様々な姿へと変わることができる!!』
「わ、私は・・・・どうなったんだ?」
私は今、自分がどんな姿になっているのか分からなかった。
私はちょうどゴミ捨て場に捨ててあった手鏡を手にし、自分の顔を見た。それを見て、私は驚いた。
「な、なんだこれは!?真っ黒じゃないか!?」
私の姿はまるっきり変わってしまった。全身は真っ黒で、アメリカのヒーローが着るような全身タイツのような服に変わり、顔はバイクのヘルメットを全て真っ黒にしたかのような物に変わっていた。簡単に言い表すなら、「全身黒ずくめの男」といったところだろう。
『これが、貴様と私の契約の証だ。さあ、早速行くか。』
「場所はわかるのか?」
『ああ、大体な。人間の気配はわかりやすい。』
メフィストは自信満々にそう言った。顔は見えないが、声の感じからして自信はあるみたいだ。
「頼もしいな・・・・頼むぞ!」
私はその言葉を信じ、メフィストの案内に従い、現場へ向かった。
「オラ警官ども!さっさと身代金持ってこい!でないと、ここにいるガキどもを1人ずつブッ殺すぞ!!」
現場では、バスジャック犯がバスの中で、外にいる警官達を前に啖呵を切っている。
「くそっ・・・・これじゃ手が出せませんよ・・・・」
「焦るな。あれは我々を脅しているだけだ。それに、もうすぐ対策本部の奴らが来る。」
警官達はバスジャック犯が脅しを仕掛けているのはわかっていたが、人質がいる手前、手が出せずにいた。
そのころ、バスの中にいる子ども達はバスジャック犯のせいで静まり返っていた。その中には、もちろんメアリもいた。
「メアリ・・・私怖い・・・・」
メアリの隣に座っていた女の子は、震える手でメアリにしがみついた。
「大丈夫だよ。あんな奴、今だけはふんぞり返ってるけど、普段の生活じゃ自慢できることが何一つない狂ったひきこもり野郎だよ!」
メアリは周りに聞こえるような声でバスジャック犯の悪口を言った。
「おい!!聞こえてるぞ、クソアマ!!」
しかし、当然バスジャック犯の耳には届いていた。バスジャック犯は側まで近づき、メアリを無理矢理席から立たせた。
「クソガキ、頭下げて謝れば、特別に許してやる。俺は紳士だからな。そら、早く謝れ。」
バスジャック犯はメアリに謝罪をさせようとした。だが、娘がそんなものを受け入れるはずもなく・・・・」
「ぺっ!」
「!!」
メアリはバスジャック犯の顔に唾を飛ばした。我が子ながら褒めてやりたいが、この状況はマズイ。
「このクソガキ!!」
これで怒ったバスジャック犯は、平手でメアリを殴った。
メアリは殴られたことでバランスを崩し、その場に倒れた。
「よーし、まずはお前から殺してやる。」
バスジャック犯はそう言うと、右手に持った拳銃をメアリに向けた。周りの者は銃を見た瞬間、怯え始めたが、さすがは私の娘・・・・怖がる素振りを一切見せず、バスジャック犯を睨んだ。
「へへへ・・・・怖いんなら泣いたっていいんだぞ?ほら、泣け。泣いて俺に謝れ!」
バスジャック犯はメアリの態度を見て、ケラケラと笑い飛ばした。だが、メアリは諦めなかった。
「怖くなんか・・・・ない!あんたなんてジェイソンとかフレディとか貞子なんかと比べたら、全然怖くない!!」
「な、なんだとぉ?もう少し痛い目見ないとわかんないみたいだな!!」
メアリの叫びに、さらに怒りを燃やしたバスジャック犯は、また平手打ちをしようと手を振り上げた。
「!!」
メアリはさっと顔を伏せ、歯を食いしばり、耐えようとした。だがその時、メアリの背後で、ズドン!!という何かが凄い勢いで着地したような音が響いた。
『?』
皆、呆然としながらそれを見つめた。呆然とするのも無理はない。なぜなら、”そいつ”はバスの天井を突き破って登場したからだ。まるで「MARVEL」のヒーローの如く。そして、そこに現れたのは、全身黒ずくめの男・・・・そう、私だ。
「て、てめぇ!何モンだ!?」
バスジャック犯は私に問いかけたが、私はそれを無視し、メアリの元へ歩み寄り、座っているメアリの頭を撫でた。
「よく頑張った。後は私に任せなさい。」
「・・・・」
メアリは何も言わず、ただただポカンと口を開いたままだった。私はポンとメアリの頭を叩き、前へ出た。そして、バスジャック犯を指差した。
「よくも子ども達を怖い目に会わせたな。許せん!」
「う、うるせぇ!お、お前はなんだ!?正義の味方のつもりか!?」
「私は正義の味方ではない・・・・」
私はゆっくりとバスジャック犯に近づく。すると、相手は動揺したのか、徐々に後ろに下がり始めた。
「私は、弱き者の・・・・味方だッ!!」
私はそう叫ぶと同時に、ボクシングの構えをとり、足を思い切り一歩踏み込み、踏み込んだ瞬間に腰をグッと入れ、肩を内側にひねり込むようにしながら拳を一気に突き出す!
俗に言う、コークスクリューブロー!
「ぐべぇぇぇぇ!!」
私の拳はバスジャック犯の顔に直撃した。すると、パンチが直撃した瞬間、バスジャック犯の体は吹き飛び、バスのフロントガラスを突き破り、外まで追い出された。
「あ・・・あ・・・・」
「い、一体何が・・・・」
警官達は突然の光景に驚き、開いた口が塞がらないでいた。殴られた犯人やバスの中にいた子ども達はおろか、私自身も驚いていた。もちろん、パンチ力には自信はあったが、まさかここまでとは思わなかったのだ。
そう思っていると、私の頭に声が響いてきた。
『驚いているな?憑依型の悪魔は、憑依した人間の身体能力を2倍に引き上げる。・・・と言っても、お前はかなり身体能力がいいらしい。』
「じ、自分でも信じられない・・・・」
私は動揺しながらも、バスから降り、バスジャック犯に近づき始めた。
「ひ、ひいぃぃぃぃ!!た、助けてぇぇぇ!!」
私が近づいて来たのがわかると、バスジャック犯は悲鳴を上げながら警官に泣きついていく。
「お巡りさん助けて!俺は逮捕でいいから!懲役100年でもいいからあいつをなんとかしてくれ。」
バスジャック犯は必死に警官達に命乞いをしている。
やれやれ。これでは私が悪役みたいだな・・・・まあ、思い切りぶん殴ったらそうなるか。
私は彼に近づき、胸倉を掴んだ。
「ひぃっ!!た、助けて!こ、殺さないで!!」
怯えるバスジャック犯に、私はこう言った。
「二度としないか?」
「えっ?」
「二度とこんな、子ども達を怖がらせるようなことはしないと約束できるか?」
「し、します!絶対します!」
彼がそう言った瞬間、私は胸倉を放した。
「よろしい!」
私はそう言って、警官達にバスジャック犯を差し出した。
「お勤め、ご苦労様です!」
私は警官達に対し、敬礼した。
「それでは、私はこれで!」
私はそう言うと、これ以上目立たないよう、その場から走り去った。
「・・・・先輩、あれが対策本部の人間ですか?」
「・・・お前アホか。」
その後、私は変身を解き、メアリの元へ駆けつけた。幸い、メアリは大した怪我はしていなかった。他の子ども達も怪我はしていないようだった。もし、私が来なければ子ども達に被害が出ていたかもしれない。いや、私自身が来ていたとしてもバスジャック犯を取り押さえられていたかはわからない・・・・そう考えると、メフィストのおかげだ。
そして、その日はメアリの学校は一時休校となった。まぁ、バスジャックが終わってすぐ学校を始めるわけにもいかんだろうからな。当然といえば当然だろう。
私とメアリは自宅に戻り、リビングでくつろいだ。
「しかし、大変だったな・・・・あんなことがあって。」
「うん・・・・」
「だが、お前に怪我がなくてよかったよ、安心安心。さて、昼はどうする?ピザでも食べに行くか?」
「・・・・ねえ、パパ?」
「?」
メアリは突然静まり返り、私に問いかけた。
「もしかして、私を助けたあの黒い人って・・・・パパなの?」
「ぬふしっ!!」
私は突然本当の事を言われ、奇声を上げながらその場に崩れた。
「な、なんのことやら・・・・」
私は慌てて立ち上がり、シラを切ろうとした。
だが、メアリの方が一枚上手であった。
「だって・・・・あんなクサイ台詞言えるの、パパだけだもん!」
「ぬぅ~~~しっ!!」
今度はショックを受け、私は再び奇声を上げながらその場に崩れた。
「やっぱりパパだったんだ・・・・」
「うむむ・・・・バレたからにはしょうがない・・・・メフィスト。」
私は観念し、メフィストを呼びかけた。すると、私の影からメフィストがぬるりと出てきた。
「メフィスト、実は・・・・」
『全~部、聞こえてたわい。』
「な、なにこれ・・・・」
メアリは初めて目にする異様な生物に困惑し、目を丸くしている。
まぁ、無理もないことだ。私も初めて見た時はビックリしたものだ。
・・・・と、思った矢先・・・・
「この子かわいい~!!」
『ぐえっ!』
メアリは突然メフィストに抱きついた。
『ええい、小娘!離れろ!さもないと貴様を食い殺すぞ!!』
メフィストはメアリを引きはがそうと腕に力を入れ、脅し文句を言うが、メアリは全く動じない。
悪魔をかわいいと言うとは、最近の女の子の趣味はわからんものだ。
「パパ、この子どこで拾ってきたの?」
『人を捨て犬みたいに言うな!!』
「まぁ、話せば長くなるが・・・・」
私はメフィストと会うまでの経緯を、メアリに説明した。もちろん、会社が倒産したことも・・・・・
「・・・そっか・・・・仕事、無くなったんだ・・・」
「すまん、メアリ・・・・私が不甲斐ないせいで・・・・!
「ううん、パパのせいじゃない!でも、これからどうしよう・・・・」
私とメアリは腕を組み、長考を始めた。
その時、
「あっ!いいこと思いついた!」
メアリが叫んだ。
「どうした?」
「パパ、スーパーヒーローになっちゃえばいいんだよ!!」
メアリはとんでもないアイデアを出してきた。
それに対し、私は・・・・
「・・・・えっ?」
と、言う他なかった。
しかし、このメアリの発想が、後に多くの戦いへと導くとは、その時は思っても見なかった・・・・