第17話「審判の男」
今回は新キャラが出てきます!
ダークヒーローとして活躍する、私の好きなキャラクターです!早く出したくて待ち遠しかった!
やぁ、みんな元気かな?久しぶりだな!私はルーク・エイマーズ。今回の私達は・・・・
「みんな、熱い日は何を飲んでる?ジュース?お茶?水?それとも・・・・コントリーの『リンゴ・オレ』!!新登場!」
「はい、OKでーす!!」
「お疲れ様でーす!!」
私達「パラディンフォース」は、テレビのCM撮影をしていた。それも商品CMだ。実は前々から食品企業の方からオファーが来ていたんだが、そのオファーを飲んだんだ。・・・ルイスが勝手に。
まあ、出演料も出るし、ルイスの父親に返すお金も稼げる。
ちなみに、ルイスは新製品ジュースのCMで・・・・
「ハッ!ホッ!アターッ!熱い時こそ、熱い食べ物!本場中国の味、『極熱チャーハン』新登場!!」
リンは冷凍食品のCM・・・・
「オーーーーーーラッ!!!岩みてぇに固いチョコレート!その名も『ロックチョコレート』!新登場だ!!買って、食え!!」
ロックはお菓子のCM。
そして私は・・・・・
「プハーッ、美味いー、やっぱりのどごしが違うー。これぞまさしく・・・・」
「カット!」
私はビールのCMを担当したのだが・・・・カットが入ってしまった。これで10度目だ。
「いい加減にしてくださいよ!これで10回目ですよ!?他のメンバーは成功したのに!!」
「いやー、すいません・・・・」
実を言うと、私は演技がへたくそなのだ。ボクサーだった時にもCMの出演やドラマでエキストラ出演もしたのだが・・・・どれも棒読み棒演技でへたくそだったため、私は演技関係の仕事から干されてしまったのだ。
「他の3人が撮れてるんだし、私がいなくても・・・・」
「いやいや!あなたリーダー!リーダーだけ出演してないっておかしいでしょ!?」
「だから言ったじゃないですか!私、演技へたくそだって!」
「いいからとにかく演技してください!テイク11!!」
その後、私は1時間以上撮影を続けたが・・・・ディレクターが満足するものは撮れなかった。結局、私だけがCM撮影に失敗したまま、撮影の仕事は終わった。
「まったく、あのディレクターさん怒ってたよ?」
「しょうがないだろ!私は演技へたくそだと前々から言ってただろ!君達3人だけでやれば良かったじゃないか!」
「撮影なのにリーダーいないなんておかしいじゃない!」
撮影が終わった後、私達は路地裏で変身を解き、スーパーマーケットで買い物をしていた。
「それより、今日の晩ご飯どうする?」
「もっと演技力が良くなる食べ物とかないの?」
ルイスは皮肉まじりの質問を私に振ってきた。
「・・・悪かった、私が悪かったよ!今日はみんなの好きなもの作ってあげるから!なっ!?」
「やりぃ!じゃあ俺ステーキな!」
「私は生春巻きがいい。」
「僕は鮭のカルパッチョがいいなぁ。」
「せめて統一してくれ!」
好き勝手に食べたいものを言う3人に、私は思わず声を上げた。その時、私の背中に何かがぶつかった。
「おっと・・・」
後ろを向くと、そこには黒い服に身を包み、フードを深く被った男がいた。どうやら私は、彼とぶつかってしまったようだ。しかも、私とぶつかったことで、彼が手にしていたジュースを床に落としてしまったようだ。
「失礼!大丈夫ですか。」
「・・・平気だ。」
男はボソッと呟いた。フードに隠れてわかりにくいが、顔は全面が火傷に覆われている。失礼な言い方をすれば、まるで怪物の様・・・・
そして、床に落ちたジュースを拾った手も、同じく火傷で覆われている。私はそれを見て、思わず額に冷や汗を掻いた。
まさかこの男・・・全身に火傷を負っているのか!?
私の思いなどいざ知らず、男はこちらを見ると、ぺこりと頭を下げてその場を去った。
「・・・あの人の顔、見た?」
「火傷だらけだったわね・・・・」
「怖っ・・・」
「しっ!失礼だぞ!」
私は黒服の男のことをひそひそと話す3人を軽く叱りつけ、3人を連れてその場を去る。
「・・・・・」
私達が去るとき、黒服の男はチラリとこちらを見た。私はそれに気づかなかった。
「・・・・あれが、ターゲットか・・・・」
買い物を終えた私達は、さっそく夕食の準備に取りかかった。今日の食事当番は私。
「ロックはステーキ、リンは生春巻き、ルイスはカルパッチョか・・・・」
30分後、私は出来た料理をテーブルに運んだ。
「さぁ、食べなさい・・・・」
今夜の夕食は、ロック、リン、ルイスの3人の意見を尊重して、3人の食べたいものを全て合わせた合作料理・・・・その名も・・・
「・・・おじさん、これ何?」
「『ステーキ春巻き カルパッチョソース仕立て』だ。」
私が作ったのは、焼いたステーキをカットし、それをライスペーパーで巻き、その上にカルパッチョのソースをかけたものだ。
3人の意見はクリアしている。
「な、なんとも言えないぜ・・・・」
「生春巻きで手で持って食べるのに、上にソースって・・・」
「ちなみに、おじさん・・・これ味見した?」
「いや?」
私がそう言うと、3人の表情は一気に青ざめた。
「・・・ロック、先に食べてよ。ステーキだよ?」
「リンが先だ!お前の好きな生春巻きだぜ?」
「ルイスが食べなさいよ、カルパッチョのソースかかってるんだから。」
・・・・3人とも誰が先に食べるかで揉めている。
すると、私の隣に座っていたメアリは、3人よりも先にステーキ春巻きに手を付ける。フォークで突き刺し、口に運んで一口食べる。
「あっ、食べた!」
「チャレンジャーだぜ・・・」
「だ、大丈夫?お腹痛くない?」
3人はメアリが恐れを知らずにステーキ春巻きを食べたことに驚いている。・・・・作った本人を前にしてこの反応は失礼な気がするんだが・・・・
「・・・・あっ、おいしい!意外とイケるよ!」
「えっ、マジで!?じゃあ食べよ。」
メアリの反応を見て、3人もステーキ春巻きに手を伸ばす。
「・・・確かに、アリっちゃアリだね。」
「ステーキにこのソース・・・意外に合うのね。」
「さすがおっさんだぜ!」
「疑ってたくせに・・・・やれやれ。」
ステーキ春巻きを食べる3人を見て、私は呆れながらも、少し笑い、夕刊の新聞を開いた。
「さーて、芸能人のゴシップを追いかけてるマスコミは、今日は何を追いかけてるかな?」
私はマスコミに対する皮肉を言いながら記事を読み始めた。
「おっ?『謎の殺人鬼"ジャッジ"現る!』・・・・午前4時頃、駅構内にて男の死体が確認された。死体のすぐそばの壁には、血文字で『Judgment』の文字と×マークが書かれていた。」
「その話、聞いたことあるよ。ブラジルでもニュースになってた。確か・・・・始まりはカナダだったっけ?」
私が新聞を声に出して読んでいると、ルイスが間に入ってきた。
ルイスが今言ったように、この「ジャッジ」関連の事件は結構有名な話だった。
始まりは5年前、カナダの田舎町からだった。カナダの田舎町では、最近殺人事件が多くなっていた。殺されたのは麻薬の売人、窃盗犯、強盗犯、殺人犯・・・・全て犯罪を犯した者ばかりだった。そして、その犯罪者の死体のすぐそばには、壁、張り紙などに「Judgment」の文字と×マークが書かれていたという・・・・
まるで都市伝説のような話だが、事実だ。殺人鬼”ジャッジ”は実在する。
「しかし、ジャッジは何故犯罪者ばかり狙うんだ・・・・?」
「もしかして、僕達と同じように・・・犯罪者から人々を守ってるとか?」
「名前もカッケーよな!ジャッジなんて名前、イカしてるぜ!」
「バカ!相手は人を殺してるんだぞ!?」
「わ、わりぃ、おっさん・・・・」
ジャッジのことを格好いいというロックに、私は思わず叱りつけた。私が叱りつけると、ロックはしょんぼりしたような態度を見せた。
「それに、彼が本当に人々を守っているかはわからない。彼がこのニューヨークに現れたのなら、好都合だ!」
「えっ、それって・・・・」
「その通り!ジャッジを捕まえるんだ!彼に真意を問いただす!」
私達は食事を済ませた後、街に出てジャッジを捜すことに決めた。外はあいにくの雨だったが、雨だからって休むワケにもいかない。
「でもさぁ、本当に見つかるの?ジャッジって奴。」
「そこだ。聞くところによれば、ジャッジが殺しているのは全員犯罪者だ。つまり、犯罪が起きてるところならどこにでもいるということだ。」
「・・・結構無茶苦茶な考えね。」
「さて、まず最初に・・・・」
私は辺りを見回し、路地裏に入った。
『?』
私の行動を不思議に思った3人は、首を傾げながらも私の後について行った。
「どうしたんだ?おっさん。」
「思うんだが・・・・人を殺すとして、わざわざ目につきやすい所でやるか?やらないだろう?だから、こういう人通りが少ない路地裏とかが、殺人には向いている。ジャッジも利用するならこういう所を使うと思ってな。」
「まぁ、確かに言えてるけど・・・・この広いニューヨークでジャッジを見つけるなんて・・・・」
ルイスが「無理」と言おうとした瞬間、
「う、うわあああああああああ!!!」
どこかで男の叫び声が聞こえた。
「今の声は!?」
「こっちだ!」
私達はその声が聞こえた場所へ走った!
「あっ、おっさん!いたぞ!」
ロックは路地裏の行き止まりに繋がる曲がり角で、何かを発見した。
私達はロックのその声に従い、曲がり角を曲がった。そこには、行き止まりの壁の前で静かにたたずむコート姿の男がいた。その男は不思議なことに覆面を被っている。そして、その男の足元にはもう一人、男が倒れていた。
「まさか・・・あれは、ジャッジか・・・!?」
「おい、てめぇ!そこで何やってやがる!?」
ロックは覆面男に指を差しながら叫ぶ。すると、覆面男はこっちを振り向いた。振り向くと、男が被っている覆面の模様が分かる。覆面は暗めの黒の生地の上に赤色の×印、その×印の上にスパイダーマンのような白い目が付けられているデザインだ。
私達は、その×印を見て確信した。奴が、彼こそがジャッジだと。
「き、君が・・・君が、ジャッジか!?」
「・・・・・」
私からの質問に、ジャッジは答えなかった。すると、ジャッジは懐から先にフックのついた拳銃を取り出し、行き止まりの壁の一番上に向けて発射。一番上にフックを引っかけた。
フックを引っかけたかと思うと、ジャッジは銃を持ったままそのままスピーディに壁を登り、屋上へ到達する。
「登るの早ッ!」
素早い壁上りに驚いていると、屋上の上にいるジャッジは片手を出して指を2本動かしてこちらを挑発し、その場を走り去る。
「くっ・・・バカにしやがって!」
「追うぞ!私に掴まれ!」
私はそう言って、スーツの背中から翼を生やす。3人は私の体に掴まり、私はそのまま空を飛翔する。
「いたわ!あそこ!」
リンはジャッジを見つけ、指を差す。そこには屋上の上を走り、屋根から屋根へ、屋上から屋上へ次々と飛び移るジャッジの姿があった。
「すっげぇなアイツ・・・あんなに高い所を跳んで・・・・怖くねぇのかよ・・・!」
「まぁ、僕達が今いるところもすっごい高いけどね。」
私はそのまま逃げていくジャッジを追う。
ジャッジのスピードは恐ろしく速かった。私が3人を抱えながら飛んでいる為、こっちの飛行スピードが遅いのもあるが、それを抜きにしてもかなりのスピードだ。パルクールという奴か・・・?その技術を持ち合わせているようだ。
だが、そんなジャッジの足は急に止まった。飛び移るものがない場所に到達してしまったのだ。向かいにビルはあるが、人間のジャンプ力では到底たどり着けない。彼の持つフックショットでも届かないだろう。
「ハハッ、さすがに無理みたいだね。」
ルイスはそう言って、嘲り笑った。だが、ジャッジは驚くべき行動に出た。一番近くの電柱に飛び移る・・・・かと思ったら、電線の方に手を伸ばしたのだ。
「なにっ!?」
ジャッジは手袋を付けており、ゴムでできているのか、全く電気に痺れていない。さらに、ポケットからナイフを取り出し、電線を切った!
その瞬間、この辺一帯の電気が全て消えてしまった。
「うわっ!なんだ!?」
「急に電気が消えたぞ!」
夜でも煌びやかな電飾が映えるニューヨークの一角が真っ暗になり、街の人々は混乱している。その混乱に乗じて、ジャッジは切った電線をロープ代わりにして向こう側のビルに向かって飛ぶ。そして飛んだ瞬間、フックショットを使ってビルの一番上にフックを引っかけ、素早く登る。
「イカレてる・・・!こんなことするなんて・・・・!」
「しかし、あの短時間でよく思いついたな。」
私はジャッジの手際の良さに感心しつつ、後を追った。
しかし、私はこの時ジャッジの行動に妙なところがあると感じていた。ジャッジはただ逃げているようにも見えるが、こちらをどこかへ誘っているようにも見える。だが、私はそれを気のせいだと思ってしまっていた。
そして、ジャッジはビルの屋上を走り、その目の前にあった廃墟ビルに向かって跳んだ。そしてフックショットを放ち、フックを引っかけて廃墟ビルの窓に向かって直行。ジャッジは腕を交差させながら窓ガラスに突っ込み、ガラスを破って中に侵入した。
「私達も!メフィスト、形を変えてくれ!」
『よかろう。』
メフィストは私の指示に従うと、背中の翼で私達の体を覆い、そのままビルに向かって突っ込み、壁をぶち破って侵入した。
「到着・・・!」
「ビルの管理会社に怒られそうだね。」
「・・・よくついて来られたな。」
ジャッジは追いついた私達を見て、一言呟いた。それに対し、私は言った。
「ジャッジ、君のやってることは確かに立派かもしれない。だが、犯罪者とはいえ殺人はダメだ!殺すんじゃなく、許してやるんだ!『罪を憎んで人を憎まず』!難しいかもしれないし、簡単なことではない。だけど、まずは信じてやることが大切なんだ!」
私はジャッジの行いを否定し、改心させようとしてみせた。だが、ジャッジは深いため息をつき始めた。
「ふーーっ・・・説教クセェのは噂通りか。ファウスト・・・いや、ルーク・エイマーズさんよ。」
「!?」
その時、ジャッジの一言に私達に戦慄が走った。
「ど、どうして私の名前を!?」
「アンタだけじゃねぇ。スティール・キッド・・・ロック・オルグレン。」
「マ、マジか!?」
「ドラゴンガール・・・・リン・チ・チャン。」
「私の名前まで!?」
「エレメント・ガイ・・・ルイス・セナ・オリヴェイラ。」
「ど、どうして!?」
「それと、ルークさん、アンタに取り憑いてる悪魔はメフィスト・・・・だろ?」
『わ、私のことまで・・・・』
私達全員、驚きを隠せないでいた。何故ジャッジは私達の本名を知っているのか、どうしてバレたのか、まさか、相手の正体を見破るアーツを持っているのか・・・・疑問は尽きない。
「メフィスト・・・!まさか、これもアーツなのか!?」
『・・・・いや!違う!』
メフィストは一瞬息を飲みつつ返事をした。
『えっ!?』
メフィストの一言に、私達はさらに驚いてしまった。
『こいつからは何も感じない・・・!悪魔の気配も、アーツの力も!つまりこいつは、無能力者!真人間!ただの人間だ!』
「人間・・・!?」
「ご明察・・・・さすがは科学者だな。」
メフィストが言ったことは正解だった。その証拠にジャッジは静かに拍手をしながらメフィストを褒めた。
「私達のことをどうやって知った!?例の『スポンサー』か!?」
「その通りだ。」
「あいつから依頼を受けたんだ。あんた達と接触し、戦ってみろってな。で、あんたらに関する情報をもらって・・・接触を図ったわけだ。実質、あんたらと接触したのはこれで2回目だ。」
「2回目・・・?」
すると、ジャッジは頭に被った×印のマスクを脱いだ。
「これでどうだ?」
『!!』
そして、その下の顔を見た途端、外で雷が落ち、稲光が走る。それと同時に私達の脳裏に走馬灯のようにある人物の顔が思い浮かんだ。それは、スーパーマーケットで私とぶつかった、全身火傷だらけの男・・・!
「あの時の・・・・!」
そう、ジャッジの正体は、あの時の火傷だらけの男だったのだ!
「そういうこった。ルークさん、あんたさっき『罪を憎んで人を憎まず』って言ったよな?・・・・バカかてめぇは?」
ジャッジはそう言って、マスクを被り直した。
「な、なにっ!?」
ジャッジの発言にまたしても驚いてしまった。今日は驚いてばかりだ。
「・・・さっき俺が殺した奴も、もちろん犯罪者だ。だが、その中でもかなりのサイコパス野郎だ。」
ジャッジはそう言いながら、コートの内ポケットから手帳を取り出した。その手帳はボロボロで、所々にシミのようなものが滲んでいた。
ジャッジはそれを取り出すと、私に向かって投げ渡した。
「それはさっき俺が殺した奴が書いた日記帳だ。・・・・中見てみな。子ども好きのアンタなら、ショック死しそうだけどよ。」
私は言われるがまま、その手帳をそっとめくった。
「!!」
私のその日記の内容を見て、目を疑った。日記に書かれているのは、男がどこからか攫ってきた小さい子ども達への虐待の記録だった・・・・
最初の日は無理矢理炊事洗濯といった家事をやらせ、反抗したり失敗したりすれば、熱い熱湯を素肌にかけてやり、次の日はトイレに行くことを禁じ、便をもらしたらタバコの火を体に押しつけ、その次の日は傷の治療だと言って傷口に塩を塗り・・・・読むのも堪えてしまうような内容だ。しかも、中には写真が貼ってあり、そこには虐待され傷だらけで泣いている子どもの写真が・・・・
「~~~~~ッッ!!!」
それを見た私は声にならない声で叫び、日記帳を真っ二つに破き、さらにビリビリに破いて跡形も残らないようにした。
「ハア・・・・!!ハア・・・!!」
日記をバラバラにした私は息を切らしながら床に膝をついた。
どうしてこんなことができる?子ども達には未来があるのに・・・・本当に人間か?人間の皮を被った化け物なんじゃないのか?私達と同じ、人間なのに・・・・!!
私の脳内で、ありとあらゆる考えが交差した。だが、どう考えても「どうして?」「なぜ?」と疑問しか浮かばない。
「おじさん!」
「ルーク、大丈夫!?」
「手帳に何が書いてあったんだよ!おい!」
3人が私の心配をしている。なんて情けない・・・・私と10歳以上も離れているこの子達を心配させてしまうなんて・・・・だが、今の私には、3人の声は届かなかった。
「ルークさんよ、それ見たら分かるだろ?何が『罪を憎んで人を憎まず』だ!アンタにとってのそれは、こういう子どもを食い物にするようなサイコパスなクズ野郎を野放しにすることか!?アンタは、そんな選択をするような奴なのか!?」
ジャッジの問いに、私の胸は痛くなった。人を殺してはいけない・・・・それは事実だ。だが、こんな・・・子どもをいたぶるような奴が生きていていいのか?頭が混乱している・・・何が正しいのか、わからなくなっている・・・!
「てめぇ、さっきから聞いてりゃあ勝手なことばっか言いやがって!ちょっと格好いいって思ったけど・・・・俺らのリーダー・・・舐めてんじゃねぇぞ!!」
ロックは私がジャッジに苦しめられていると思ったのか、体を硬質化させ、ジャッジに殴りかかった。
だが、ジャッジはそれを身を低くさせてよけ、さらに下からロックの顎に向かって手のひらを突き出し、片手でロックの体を一瞬持ち上げ、宙に浮いたところをもう片方の手で今度は顔面に向かって手のひらを突き出し、そのままロックを床に叩きつけた。
「がっ・・・!!」
「かろうじて受け身を取ったか・・・・不用意に攻撃すっからだぜ、クソガキ。」
ジャッジの言うように、ロックは投げられる前に咄嗟に受け身は取っていたが、それでも投げられ、床に叩きつけられた衝撃の方が強かったのか、ロックは身動きが取れず、痙攣したかのようにピクピク震えている。
「今の・・・柔術?」
「合気道と柔道だ。これでも、俺は昔警察だったんでな・・・・どうした、来いよ。」
ジャッジは残りの2人、リンとルイスを挑発し始めた。
それを見た2人は互いの背中を合わせ、構え、ジャッジを睨みつける。
「ルイス、下手に突っ込んでもやられるだけよ。」
「わかってる。なら・・・・左右から挟み込もう。あいつでも、2人同時に投げるのは無理だろうし。」
「OK」
2人は小声で作戦を決め、すぐさま実行に移った。リンは右側、ルイスは左側からジャッジに攻撃を仕掛ける。
2人の鋭い蹴りがジャッジに襲いかかる。しかし、ジャッジは2人の攻撃を後ろに跳んでよける。さらに後ろに宙返りしながら後ろに下がり、地面に手をついて逆立ちの状態になり、そのまま一回転しながら着地する。
「なにそれ?」
「足止めのつもり?」
その時だった。突然、何かに引っ張られるかのように、2人の体は密着した。
「うわっ!?」
「な、何っ!?」
よく見てみると、2人の体にキラリと光るヒモのような物が巻き付いていた。
「まさか、ワイヤーか!?」
「ご明察・・・・」
私がそう言うと、ジャッジは靴の足裏を見せた。足裏にはちょうど土踏まずの場所にリール状に巻かれたワイヤーが取り付けられていた。
「こいつは俺の特注品でな。靴のかかとを強く押すと・・・・」
ジャッジは靴のかかとを強く押した。すると、設置されたワイヤーが伸びた。
「足の裏だから敵にも見えづらいし、拘束やブービートラップにも使える。」
「き、汚いわよ!こんなの使うなんて・・・!!」
「戦いに卑怯もクソもあるかよ、デカ乳ビッチ女。」
「ぎぎぎぎぎ・・・・!!」
リンはジャッジの暴言に腹を立て、歯ぎしりを立てた。
「ルイスもなんか言いなさいよ!」
「いや・・・僕としてはもうちょっとこの状況を楽しみたいかなぁ。シャンプーのいい香りが・・・・」
2人は体が密着している状態の為、必然的に距離も近い。リンの美しい黒髪が、ルイスの眼前にある。その状況に乗じてリンの匂いを嗅ぐという悪質な悪戯をし始めたのだ。
しかし、この行為でリンの怒りはますます上昇し・・・・
「ドアホッ!!」
「はうっ!!」
リンはルイスの顔面に思い切り頭突きを喰らわせた。
「さて・・・・残りはアンタだぜ、甘っちょろいリーダーさん。」
「うっ・・・」
私は戸惑った。彼と戦うことへの戸惑いじゃない。何が正しいのかの答えへの戸惑いだ。口だけなら何とでも言える。だが、現実は何も変わりはしない。ならば、私はどうすればいい?何をすればいい?
人を許すべきなのか、許さないべきなのか・・・・
「私は・・・どうすればいいんだ?」と、私が思い悩んでいたその時・・・・
『ええーーーーーい!!!さっきから聞いていれば・・・・いつまでグダグダやっているんだ貴様は!?』
メフィストが急に大声を上げ、私の目の前に現れ胸倉を掴んだ。
「メフィスト・・・・?」
『聞こえなかったか!?グ・ダ・グ・ダ・するなと言ったんだ!!つまらんことに何をいちいち悩んでいるんだ!』
「つ、つまらないだと!?」
メフィストの言い草に怒りを覚えた私は、メフィストと同様に彼の胸倉を掴んだ。
「つまらなくなんかない!子どもの未来のことも大切!人を信じることも大切!・・・どっちも選べない!何もわからない奴が口を挟むな!」
『阿呆が!!』
その時、メフィストはいきなり頭突きをしてきた。
「くっ・・・!」
『貴様のつまらん考えなど知ったことか!私が気に入らんのは、自分自身が決めたことをたかが1人の意見に左右されている貴様の態度が気に食わんのだ!!』
「!!」
『自分で決めたことを、何故他の奴に左右されなければならない!?そんなものは言語道断!そんなものに振り回され、目標を諦める者はド阿呆だ!無能だ!バカの極みだ!!目標があるのなら、悩んでないでそれを成し遂げようとしろ!』
「メフィスト・・・!」
メフィストの言葉は今の私にとって、まさしく金言だった。そして、気づかされた。
私は何を悩んでいたんだ?悩む暇なんてあるのか?否、無い!成し遂げたいことがあるなら・・・・迷わず進むのみ!
「メフィスト、ありがとう・・・・!」
私はメフィストにお礼を言った次の瞬間、目にも止まらぬ速さでジャッジに飛びかかり、拳を振るう。
「!!」
ジャッジは私の咄嗟の攻撃に驚くも、素早く腕を交差させ、私のパンチを防いだ。
「なっ・・・!?ぐあっ!!」
だが、威力は凄まじく、その威力に押され、ジャッジは奥まで吹き飛ばされた。
「くっ・・・・!」
ジャッジは吹き飛ばされながらも空中できりもみ回転し、綺麗に着地する。
「何しやがる!」
「君の問いへの返答だ!私には、成すべき事が多いのでな!」
私はそう言って、ジャッジに向かってじわじわと詰め寄る。
「一つ、人を信じ抜くこと!次に、子ども達の未来を守ること!さらに次、強さと優しさを持ったヒーローになること!最後!差別のない世界を作る!!」
私はジャッジに迫りながら自分の目標を全て語った。すると、ジャッジはさすがに困惑したのか、声を荒げた。
「バ、バカかアンタ!?ワガママすぎだろ!目標多すぎだ!!」
「笑いたければ笑え!!フハハハハハハハハッ!!」
「自分で笑ってる・・・・」
私はジャッジに言い分に雄弁そうに答え、高笑いを浮かべた。
「ありえないことをやってみせるのがヒーローだ!私はやってみせるさ!」
「・・・くぅ~~~っ!言い切りやがった・・・・個人的に絡みづらいタイプ・・・だ!!」
次の瞬間、ジャッジはフックショットを私に向けて発射した。私は飛んで来たフックを掴み、そのまま強く引っ張った。
「阿呆!!」
すると、引っ張られたのを利用してジャッジは跳び上がり、一気に私のところに近づく。そして、そのまま蹴りを繰り出す。
しかし、私はそれをよけ、カウンターに拳を繰り出す。だが、ジャッジはそれを読んでいた。逆に突き出された拳に足を絡め、私ごと自分の体を床に倒し、そのまま4の字固めを決める。
(骨をへし折ってやる!)
「くっ・・・ぬあああっ!!」
ジャッジは私の骨を折ろうと力を込めるが、私は骨を折られまいと4の字固めを掛けられている片腕だけでジャッジの体を持ち上げた。
「何っ!?」
そしてそのまま立ち上がり、ジャッジを投げ飛ばす。
「チィッ!!」
ジャッジは投げ飛ばされながらも宙返りからの逆立ち状態になり、さらにそこから一回転・・・する前に、私はジャッジに向かって突進する。
「うおおおおおおおっ!!」
「シャオラッ!!」
ジャッジは向かって来る私に対応しようと、回転してから、そのまま跳び上がり、回転の勢いを利用した蹴りを繰り出す。
(どうせ、このままよけるだろ!よけた瞬間に顎に蹴り入れてやる!)
ジャッジは私がよけると予想し、よけた瞬間に私の顎に蹴りを喰らわせようとしている。
だが、私は攻撃をよけなかった。
(なっ・・・・!?)
私はそのまま頬に蹴りを喰らう。
(よ、よけねぇっ!?)
ジャッジは攻撃をよけないことに困惑していた。そして、その時私が反撃に出ていることに気づいていなかった。
「!!」
その時、ジャッジは私が反撃に出ていることに気がついた。
私は、ジャッジの蹴りを喰らいながらも、カウンターに右ストレートを繰り出していたのだ。
(よ、よけられねぇ・・・・!!)
結局ジャッジは私の攻撃をよけられず、私達は互いの攻撃を喰らった。
「うげっ!!」
「ごふっ!!」
攻撃を喰らい、私達はよろめきながら床に倒れた。
「くっ・・・」
「ううっ・・・」
床に倒れた私達2人は、起き上がり、互いを睨みつけた。
すると、ジャッジのマスクの下から血液が漏れ始めた。
「おっと・・・・」
ジャッジはマスクを脱ぎ、血を拭った。血は鼻から出ていた。
「ったく、分かったよ。」
「?」
「もう、アンタのやり方に口出さねぇよ。」
「ジャッジ・・・・分かってくれたのか!」
私はジャッジのその一言に、喜び、気分が昂ぶった。
「だったら、君も私達と一緒に戦おう!」
気分を良くした私は、調子に乗ってジャッジを「パラディンフォース」へと誘った。だが、ジャッジの答えは・・・・
「嫌だね。」
即答だった。
「えっ?」
「俺は甘ちゃんグループと組む気になんてなれねぇからな。それに、俺には俺の目的がある。」
「その目的とはなんだ?できるがあれば手伝うぞ!」
すると、ジャッジは舌打ちを打った。
「いらねぇよ。俺の復讐は、俺だけで果たす・・・!」
ジャッジは拳を強く握り、唸り声のような低い声で呟いた。
「復讐・・・・?」
「じゃあな。・・・アンタみたいな人が、もっといてくれればな・・・」
ジャッジは去り際にボソッと呟くと、ビルの窓から飛び降りた。
「ま、待て!」
私はジャッジを引き留めようと飛び降りた窓から下をのぞき込んだが、ジャッジの姿はすでになかった。
「ジャッジ・・・・謎だらけの男だな・・・」
「イテテ・・・」
ロックがジャッジから受けたダメージから回復し、起き上がった。
「ロック!大丈夫か?」
「なんとかな・・・・クソッ、してやられたぜ!」
と、その時、横から何やら歯ぎしりのような音が聞こえる。
「ぎぎぎぎぎ・・・・!!あの黒こげ男ぉ~!誰がクソビッチだっつの!!次会ったらブッ殺してやる!!」
リンはジャッジに「ビッチ」呼ばわりされたのが気に障ったのか、歯ぎしりを立てて悪態をついている。
「あだだだだだだ!!リンちゃん噛まないで!ボクの腕噛まないで!!」
しかも、リンは怒りのあまりルイスに腕に噛みついて憂さ晴らしをしている。
「・・・・助けようか。」
「・・・・だな。」
私とロックは2人を拘束しているワイヤーを解き、ルイスを助けてやった。リンはまだ怒りが収まらないのか、歯を剥き出しにしている。
私は怒りが抑えられないリンをなんとかなだめ、その日は事務所へ戻ったのだった。
そして、翌日の朝・・・・
「そっかぁ、そんなことがあったんだね。」
私は昨日の出来事を朝食を食べながらメアリに説明した。
と、ふとリンの方を見ると、まだ怒りが収まらないのか眉間にシワを寄せている。
「リンお姉ちゃん、すっごい機嫌悪いね。あっ!私がマッサージしてあげよっか?」
メアリはそう言うと、両手をワキワキと動かして見せた。
「・・・・変なとこ触る気でしょ。」
「まっさか~!でも、気持ちよくて骨抜きになっちゃうかもよ?」
「その時点で怪しさバリバリだっつの!」
「僕、ちょっと見てみたいかも。カワイイ女の子のじゃれ合いほど目の保養になるものはな・・・・ぐほあっ!!」
横にいたルイスの発言に怒りを覚えたリンは、肘鉄をルイスの横腹に食らわせた。
(メアリのマッサージ・・・・ゴクリ・・・)
ロックはメアリが「マッサージ」と言った時から、何やらよからぬ事を考えていたようで、頬を赤く染め、生唾をゴクリと飲んでいた。・・・私がこれに気づいていれば、「ウチの娘で変な想像するな!」と言って、ロックを一発ぶん殴ってるところだが・・・・私は気づいていなかった。
それはさておき・・・・
「あっ、そうだ・・・メフィスト、昨日はありがとう。」
『ああっ?』
私がメフィストに礼を言うと、メフィストは不思議そうな顔をした。昨日、自分が言ったことを覚えていないのか、はたまた惚けているのか・・・・
「昨日、君がいなかったら・・・私はどうなっていたことか・・・だから、ありがとう!メフィスト。」
『・・・・ふん!あの程度で心が折れかけるとはな・・・本当に貴様はマヌケの大馬鹿者だな!!』
照れ隠しのつもりなのか、メフィストは私の悪態をついてきた。
「ハハハッ、申し訳ない。」
私はそれを笑って返した。
「それにしても、君があんなに必死になるとは・・・君にも、果たしたい目標があるってことか?」
と、私がそう聞くと・・・
『当たり前だろうが!!』
メフィストは急に私に顔を0距離まで近づけた。
『その為に貴様に取り憑いてるんだろうが!!そんなこともわからんのか、このバカが!!』
メフィストは凄い勢いで大声を張り上げている。しかもその勢いで私の顔に唾が飛んできた。
「す、すまん・・・・」
私が一言謝ると、メフィストは私から離れ、再度食事を続けた。
(それにしても・・・・ジャッジ、彼は一体誰に復讐するというんだ?)
「アンタの言う通り、あいつらと戦ってきたぜ。」
「はいよ、ごくろうさん。」
男は暗がりの中でジャッジに札束の入った封筒を手渡した。
「・・・アンタ、一体何を考えてるんだ?あいつらを殺すんじゃなく、"戦ってみろ"だなんてな。」
「お前が気にすることじゃあない・・・ってことは言っておくぜ。ああ、それと・・・・もう少しで、このニューヨークで面白いことが起こる・・・とだけ言っておく。楽しみにしてな。」
男はそう言うと、その場を静かに立ち去って行く・・・・
ジャッジのモデルは映画「ウォッチメン」のロールシャッハで、性格はもう少し柔らかくした感じです。
多分、今作で1番のチートキャラになる気がします(笑)
実はジャッジとルーク、どっちを主人公にするかで迷ってました。




