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ファウスト ~FIRST HEROS~  作者: 地理山計一郎
第2章「出会いと過去の激闘編」
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第16話「父と子」

今回はルイスが活躍する回です!親子というものは、色々と複雑な事情や思いを抱えているもの・・・そんな感じで今回のストーリーを描きました。



やぁ、この物語を見ているみんな、特に女の子!元気かな?僕はルイス。えっ?フルネーム長くて覚えらんない?僕のフルネームは、ルイス・セナ・オリヴェイラ!みんな覚えた?まっ、そんなことはどうでもいいんだけど・・・・僕が「パラディンフォース」のヒーロー、「エレメント・ガイ」になってから、結構経ったよね。ヒーローとしての生活は・・・まぁ充実してるよ。女の子にはモテモテだし、一緒に住んでるリンちゃんもメアリちゃんもカワイイし、とりあえず言うことはないかな。


と、まぁ、それなりに充実した日々を送ってたんだけど・・・・ある日、僕はみんなを巻き込んだ、とんでもない一日を送ってしまうんだ!これから語るのは、僕の物語。僕の身の上話も聞けるよ。聞きたい人は聞いてね。


始まりは・・・いつもと同じ一日だった。朝早くに起きて、トレーニングして、朝ご飯食べて、仕事に就く。いつも通り。

「え~っと、食費に光熱費、水道費、その他諸々で・・・?あっ、今日黒字じゃん。」

僕は事務所にあるオフィスで一ヶ月間の費用の精算をしていた。


・・・・元々こういうのはリーダーがやることだと思うんだけど、肝心のリーダー、ルークおじさんは4桁以上の計算ができない人なんだ。小学生からやり直せって言いたくなるね。で、ロックの方はもっとバカだから計算も無理、メフィストは汚いことしそうだからダメ、メアリちゃんは職員じゃないからダメ、結果的に僕かリンちゃんが担当することになった。


「あ~あ、僕みたいな稀に見る美男子が・・・・こんなことするなんてなぁ・・・」

僕は文句を言いつつ、ため息をついた。

「グダグダ言ってないでさっさとやる!」

その時、横からリンちゃんが現れて、テーブルにコーヒーを置いた。


「おっ、ありがと。」

僕はお礼を言いながらコーヒーを一口飲む。僕はブラック派だから砂糖とミルクは入れない。


それにしてもリンちゃん、相変わらず美人だ。顔もそうだけど、後ろの長い黒髪がすごく綺麗で美しい。おまけにスタイルもいい。胸もデカイし、ウエストも拳法で鍛えたからか、キュッと引き締まってるし、脚もスラッと伸びてる。事務所にいる時はヒーロー姿でいるから、今のリンちゃんはチャイナドレス姿。スリットから見えるリンちゃんの脚はまさしく流線美って感じ。


「・・・・何見てんの?」

「ん?いや、リンちゃんは相変わらずセクシーだなぁって・・・・」

「バーカ。」

リンちゃんはいきなり罵倒してきた。


「いやいや、本音よ?これでリンちゃんが僕よりもう少し年上だったら、完璧に僕の好みだったんだけどなぁ。」

「・・・それがバカだっつうのよ!お喋りしてないで、さっさとやる!大体、私はアンタみたいなチャラ男は嫌いなの!」


リンちゃんはそう言うと、僕の隣の席に座って自分の仕事を始めた。


「えー、じゃあリンちゃんの好きなタイプって誰よ?まさか、ロック?」

「冗談、バカに惚れるわけないでしょ。」

「だよね。」


僕は今まで会ってきた人の中で、リンちゃんの好みのタイプを言い当ててみることにした。少なくとも、計算よりは楽しい。


「じゃあ、バルトロさんは?」

「無理!変態だし、第一あの人彼女いるし。」

「そりゃそっか。じゃあ、ロバートさんは?爽やかイケメンタイプの・・・・」

「悪くないけど・・・・女の前だとあがっちゃうところがねぇ・・・」

「なるほど。メフィストは?」

「論外、生理的に無理。」


リンちゃんはメフィストの時だけ早口で答えた。僕はそれには思わず吹き出しそうになったけど、それは堪えた。


「まっ、あの性格じゃあ無理ないか。となると最後は・・・・おじさんは?ルークおじさん。」

と、僕が次におじさんの事を言った瞬間、リンちゃんの手が止まった。

「・・・・そうだ、私、別の仕事があったんだ。行かなきゃ。」


リンちゃんの手が一瞬止まったかと思うと、言い訳めいたことを言ってその場を立ち去ろうとし始めた。


「ちょっと待って!?今一瞬手が止まらなかった!?ねぇ、まさかあの手のマッチョおじさんがタイプなの!?」


僕はリンちゃんに真意を聞こうと迫ろうとしたけど、リンちゃんはそうはさせまいとスタスタと行ってしまう。


僕は後を追いかけようとしたけど、その時タイミング悪く、ケータイに着信が入った。


「ったく、誰だよ・・・って、パパ!?」


ケータイの着信はパパからだった。僕は慌てて電話に出た。


「もしもし、パパ?」

『おー、ルイス!元気にしてるか?』

「うん、もちろん!どうしたの?いきなり電話なんて・・・・」

『いや、お前の様子が気になってな・・・・ニューヨークはどうだ?』

「うん、結構いいとこだよ。そっちは?お兄ちゃんは?ママも元気?」

『ああっ、みんな元気だぞ!』


パパの声を聞くのはかなり久々だ。ちょっと前まではいつものように聞いていた声・・・それが今となっては少し遠く感じる。

僕はその声を懐かしく感じながら、パパとの会話を楽しんだ・・・だけど、ここからが問題だった。


『あっ、そうだ。明日そっちに行くからな。』

「そう?じゃあパーティーの準備・・・・って明日ァ!!?」


僕は思わぬことに驚いて声を上げてしまった。


「な、なんで?」

『いや何・・・お前の仕事ぶりを見てみたくてな。お前が私に金を借りるなんて思ってもみなかったからな!さぞ、人の為になる仕事をしてるだろうと思ってな!だから、少し見てみたくてな!』

「そ、そう・・・・」

『じゃ、明日な!空港で待ってるぞ!』

「はーい・・・・」


僕が力なく返事すると、パパは通話を切った。僕はしばし呆然と立ち尽くした後、その瞬間風のような速さで事務所を駆け回り、おじさん達を見つけて2階のリビングに集めた。


「お願いします!!」


僕は明日パパが来るということを話し、ジャパニーズ土下座をして、「明日1日だけパパのことをごまかす」ことを協力してもらおうとした。


「・・・・話は分かったが・・・いくらなんでも突然すぎはしないか?もっと段取りを・・・」

「いいからお願いしますゥゥゥゥゥ!!お願いしますお願いしますお願いしますお願いします・・・・!!!」


僕は滝のような涙を流しながら、土下座の状態で何度も何度も床に額を叩きつけた。


「おおおお、落ち着け!落ち着くんだ!!」


おじさんは僕の慌てぶりに動揺して、慌てて僕の行為を止めた。


「ルイスがこんなになるなんて・・・・珍しいわね・・・」

「一体、何が原因なんだ?話してみなさい、なっ?」

「・・・実は、パパにお金を借りる時、交換条件を付けられたんだ。一つは、『全員真面目に働いていなかったら金は没収』、二つ目は『パパにも知らない仕事でも没収』・・・・この二つ。」

「むう・・・・確かに該当してはいるな・・・」


僕が言った事に、おじさんは少し同様しているようだ。


「でもよ、たったそれだけで没収なんてされるか?カワイイ息子の頼みをそう簡単に・・・・」

「いや・・・実は、僕前科があって・・・・」

『えっ?』


僕の一言に、みんなは声を上げる。


「前にブラジルにいた時・・・・僕、しばらく家を離れて各地のバイト先を転々としてたんだけど・・・・ついに生活費に困っちゃって、で、パパに相談して生活費を借りたんだけど・・・・その後、すっごいセクシーなお姉さんと会って・・・・で、ズルズルとホテル行ってそのまま一夜過ごしたんだけど・・・・朝、気づいたら手持ちのお金盗られてたんだよね。そのことパパに話したら、超怒られちゃって・・・・『しばらくお前には金は貸さない!!』って言われて・・・・ぶっちゃっけ、今回がラストチャンスなんだ。」


僕が昔のことを話すと、みんなポカンと口を開けたかと思うと、3人ともため息をついて俯いた。


「そうか・・・・」

「つーか、それ・・・」

「どう考えても・・・・」

『お前が悪いんだろッッッ!!!』


3人は叫ぶと同時に僕を殴り飛ばした。


「ぐえっ!!」


僕は吹き飛ばされて、床に倒れた。みんな力入れすぎだよ・・・・まぁ、僕が悪いんですけどね・・・・


「このドアホが!一生そこで寝てろ!」

「男のクズ!来世でもっとマシな男になってな!」

「君の女好きにはもう愛想が尽きた!君一人で勝手にやってくれ!」


みんな激怒して、その場から立ち去ろうとする。


「ま、待って!みんなが協力してくれないと、この場所無くなっちゃうんだよ!?」

「そりゃ都合がいいわ。親の敵探すのに集中できるし。」

「私はソロでヒーロー活動を続ける。」

「俺ァ、スラム街に戻る。」


僕は3人を引き留めようとしたけど、3人はもっともっぽいことを言ってその場を立ち去ろうとする。

そこで僕は、3人を追い越し、前に出て再び土下座をした。


「ご、ごめん!!僕が悪いのは百も承知!責任は全部僕にあるよ!でも・・・・一生のお願いだ!僕に協力して!!パパに・・・安心させたいんだ!!」

「ルイス?」

「ずっと、パパには迷惑かけてたから・・・・今度ばかりは、安心させてやりたいんだ!だから・・・お願い!」


僕は必死に頭を下げて、みんなに協力を促せようとした。すると、おじさんがフッとため息をついた。


「・・・仕方ないな、協力してあげよう。」

「ルーク!?」

「マジかよ!?こいつの嘘だったらどうすんだよ!?」


おじさんの二言返事に、二人はおろか、僕までも驚いていた。僕自身、まさか引き受けてくれるなんて思ってもみなかった。前科を話した瞬間から、「もう無理だ」って思ったから・・・・


「私には、嘘には思えないな。いつも飄々をしてるルイスがこんなに慌てるなんて、よっぽどのことだ。リーダーとして、いや、仲間として、協力しないわけにはいかないだろ?」

「お、おじさ~~~ん!!」


おじさんの優しい言葉に、僕は思わず目から涙を浮かべて、おじさんに抱きついてしまった。


「ハハハッ、よしよし。二人はどうする?」


おじさんがそう言うと、ロックとリンちゃんは互いに顔を見合わせたかと思うと、「やれやれ」といった感じで両手を横に広げた。


「ハア、しゃあねぇ。おっさんがそこまで言うんだ、貸しにしといてやるぜ。」

「ロック・・・!」

「しょうがないわね。人肌脱いであげる。」

「リンちゃん・・・!」

「よーし、みんなで力を合わせて、ルイスのお父さんを迎え入れよう!!」

『オーッ!!』


こうして、僕達は明日来る僕のパパに供えて、入念な準備を進めた・・・・

そして翌日、僕は空港でパパと待ち合わせた。


「おーい!ルイスー!」

「パパ!」


パパの声が聞こえ、僕は横を向いた。そこには僕のパパがいた。僕より真っ黒な肌、小太りな体型、手首に付けた高そうな時計、顔にかけた眼鏡・・・間違いない、パパだ!


「久しぶりだなぁ!会いたかったぞ!」


パパは久しぶりに僕に会えて嬉しかったのか、僕を抱きしめてくれた。


「うん!僕も会いたかった!今日はニューヨークの街を案内するからさ、楽しみにしててよ!」

「ああ、そのつもりだ。」


空港を出た後、僕はパパを「パラディンフォース」の事務所に連れて行った。とは言っても、"今日だけ「パラディンフォース」じゃない"んだけどね。


「ん~?『あなたのお悩み解決します。何でも屋「パラディンズ」』?」


パパは外に掛けてある看板の文字を読んだ。・・・もう分かった人もいると思うけど、実は昨日、看板を変えておいたんだ。ヒーロー事務所「パラディンフォース」の看板から、何でも屋「パラディンズ」の看板にね。


「そう、何でも屋。ほら、中入って。みんなを紹介するよ。」

僕はそう言って、入口のドアを開け、中へ案内した。


「おっ、おかえり、ルイス!」


まず最初に出くわしたのは、荷物運びをしているルークおじさんだった。

姿は当然ヒーロー姿じゃなく、普通のスーツ姿だ。


「この人がここのリーダーで所長の・・・・」

「ルーク・エイマーズです。どうも・・・・」

「ルイスの父のマテラスです。息子が世話になっているようで・・・・」

「いえいえ。」

おじさんは自己紹介を終えると、パパと握手した。


「ルイス、帰ったか。」

「おかえり。」


後に続いて、ロック、リンちゃん、メアリちゃんが出てきた。もちろんロックとリンちゃんはヒーロー姿じゃなくて、作業着を着ている。それと、メアリちゃんは昨日学校から帰った後、事情を聞いて手伝ってくれるらしい。


「紹介するよ。僕の同僚の二人で、男の方がロック・オルグレン。」

「こんちは。」

「女の子の方がリンちゃん。」

僕の紹介を受け、リンちゃんは笑顔でぺこりと頭を下げる。


「で、こっちは従業員じゃないけど、所長の娘の・・・・」

「メアリ・エイマーズです!はじめまして!!」

メアリちゃんは元気よく自己紹介をする。


「おー、元気のいい子だ。こちらこそ、はじめまして。」

「今日は僕と所長とメアリちゃんの3人で、ニューヨークを案内するよ。」

「それは楽しみだ!」

「じゃ、行こうか。」


僕とパパ、それにおじさんとメアリちゃんは外に出た。とりあえず第一段階はOK。僕達がヒーローだってことがバレてないし、普通の仕事にも見えてる気がする。

その後、僕達はパパにニューヨークの街を案内した。観光スポットや街並み、それに名物も。


「ふーっ、ここのピザは美味いなぁ。」

「そうでしょ?ここのピザは最高なんだ。」


あらかた観光を楽しんだ後、僕達は昼食にピザ屋でピザを食べた。

と、その時・・・・


「おっ、おたくら!何やってんだ?」


後ろから男の声が聞こえてきた。聞き覚えのある声だ。後ろを振り向いて見てみると、そこにいたのは、バルトロさんだった。しかもマズイことにヒーロー姿だ。


「や、やあ、マグネイター・・・・」


おじさんは冷や汗を掻きながら挨拶をする。


「なんだよ、辛気くせーな!もっと盛り上がれよ!」


マズイ・・・非常にマズイ・・・・ここで知り合いに会うのは・・・!特にこの人には!


「君・・・私の息子の知り合いかね?」


パパがバルトロさんに質問し始めた。


「ん?なんだぁ、おっさん?つーか知らないのか?こいつら、スーパーヒー・・・・」

「それを言ってはイカーーーーン!!」

バルトロさんが「スーパーヒーロー」と言いそうになったその瞬間、僕は瞬時に立ち上がり、ドロップキックを繰り出してバルトロさんを蹴り飛ばした。

「ぐえっ!!」


「な、なんだ!?ル、ルイス!一体どういうことだ!?」

「じ、実はこの人、知り合いでさぁ!前に何でも屋の仕事手伝ってくれたんだよね!」

「そ、そうそう!しかし、彼はたまによくわからないことを言うんだよなぁ!」

「う、うんうん!この前なんて、自分を『星の王子様だぁ!』とか言ってたしね!」


僕達は3人横に並んで、苦しい言い訳をし始める。まぁ、ポンポン本音を言おうとするバルトロさんが悪いんだけど・・・・バルトロさん、ごめんね。


「あっ、そうだ!マテラスさん、お酒は好きですか?」

「酒?酒には目がないんですよ~!」


パパは酒の話を出されてニヤッと笑った。そう、パパは大の酒好き。家に世界中の酒を貯蔵してるほどだ。


「そうですか!私、なかなか洒落たバーを知ってますんで、そこ行きましょ!ねっ!」

「え~っ、まだお昼ですよ~?」

「お昼だからこそいいんじゃないですか!さっ、行きましょ!」


僕達は倒れたバルトロさんを置いて、ピザ屋を立ち去り、おじさん行きつけのバーへ向かった。


「・・・・俺、なんかしたか?」



「かんぱーい!」


行きつけのバーにたどり着いた僕達は、パパとおじさんはバーの中へ、僕とメアリちゃんは近くの広場で待つことにした。


「お~!なかなかですなぁ!ここの酒!」

「そうでしょ?若いころはよく来てたんですよ!子どもが生まれてからはあまり来なくなりましたが・・・・」

おじさんとパパは、中でゆっくりとお酒を楽しんでいる。


「はー、やれやれ。やっと一息つけた。」


僕は広場にあるベンチに腰掛けて、一息ついていた。


「お疲れ様。」


メアリちゃんは買ってきたジュースを僕に手渡して、僕の隣に座った。そして僕はジュースを飲み始める。


「・・・ねぇ、変なこと聞くけど・・・・」

「ん?」

「メアリちゃんって、自分の親のこと好きになったことある?」


僕は変な質問をした。わかりきってる様な質問を。すると、メアリちゃんはキョトンとしたような顔を見せる。


「・・・何言ってるの?好きに決まってるじゃん。そりゃあ、パパはうるさいところもあるし、私よりも頭悪いし、ちょっと変なところもあるし・・・・」


否定しておきながら、結構ひどいことを言っている。おじさん、ドンマイ。


「ダメなところはいっぱいあるけど、私はそんなダメなところもいいところも全部ひっくるめて、パパのこと大好き!」


メアリはそう言ってニコッと笑った。その笑顔はすごく眩しく感じた。目が眩むぐらい。その笑顔を見て、僕も釣られて笑った。


「そっか・・・・メアリちゃんは凄いや。」

「ルイスは?パパのこと嫌いなの?」

「うーーん、どうなんだろ・・・・微妙かな。」


メアリからの質問に、僕は曖昧な答えしか出せなかった。それにはちゃんと理由がある。

それは・・・


「というか、僕とパパは、血が繋がってないんだよね・・・・」

「えっ!?」


メアリは驚きから、思わず声を上げた。

その通り・・・実は、僕とパパは血が繋がってない親子なんだ。


「じゃあ、養子ってこと?」

「まぁ、そうなるけど・・・・もっと正しく言うなら、『拾われっ子』かな?」

「拾われっ子って・・・ルイス、捨てられたの?」

「いや、違うよ!そういうのじゃないの!はぁ・・・長くなるけど、聞いてくれる?」


僕がそう聞くと、メアリちゃんはコクリと頷いた。それを皮切りに、僕は自分の身の上話を始めた。


「僕は元々・・・・黒人と白人のハーフとして生まれた子どもなんだ。」

「あっ、じゃあルイスの肌って・・・」

「そっ!僕の肌が黒人って割にはそこまで黒くないのは、白人と黒人の血が混じってるからなんだ。」


僕の肌の色が褐色である理由をメアリちゃんに話し、さらに話を続けた。


「で、僕の本当のお父さんと・・・今のパパは親友だったんだ。だから、僕のことも赤ん坊のころから知ってる。事の始まりは・・・・僕が赤ちゃんの頃だね。僕は本当の父さんと母さんと一緒に旅行に行ったんだけど・・・その時、不幸が起きた。乗ってた飛行機にトラブルが起きて、飛行機は不時着。そのせいで本当の両親は死んで、まだ赤ちゃんだった僕は、奇跡的に助かったんだ。その後、僕はしばらく施設で保護されてたんだけど・・・・1週間後に、今のパパに拾われて、そのまま『ルイス・セナ・オリヴェイラ』として生きていくことになったんだ。」

「・・・・」

「はい、これで話はおしまい!つまんない話でしょ?長いし、それに・・・・ん?」


僕はメアリちゃんの方に顔を向けた。メアリちゃんは顔を下に向けて俯いている。

話がつまらなくて寝ている・・・・と、僕はそう思って、下から顔をのぞき込んだ。すると、驚いたことにメアリちゃんは泣いていた。目をうるうるさせて、大粒の涙を流し、涙が下にしたたり落ちている。


「えっ・・・な、なんで泣いてんの?別に、泣くような話でも・・・・」

「だって・・・ひぐっ、ルイス・・・すっごい大変な目に会って・・・・えぐっ、その上、パパとママまで・・・・」


メアリちゃんは涙ぐんだ声で、鼻水まで垂らしながら、泣いてしまった理由(?)を話した。どうやら、僕の話を聞いて、同情してしまったらしい。嬉しいけど、こうも泣かれるとなぁ・・・・


「ご、ごめんごめん!悪かったよ!話した僕が悪かったってば!ほら、泣き止んで、ねっ?」


僕は慰めながらメアリちゃんを説得しようとした。すると、メアリちゃんは少し落ち着いたのか、コクリと静かに頷いた。


「ホラ、鼻水出てる!涙も拭いて!」


そう言って、僕はポケットからティッシュを取り出した。

メアリちゃんはそれを受け取ると、鼻をかんで、涙を拭いた。


「・・・で、それが家族のことを好きか嫌いかの話にどう関係するの?」


落ち着きを取り戻したメアリちゃんは、僕の方をまっすぐ見ながら率直な質問を投げつけた。


「ど、どうって・・・わかんないの?血が繋がってないからこそ、わかんないことだってあるんだ!」

「家族の誰かが、意地悪なの?」

「そういうわけでもないよ・・・・お兄ちゃんはいい人だし、ママもいい人。みんないい人ばかりだよ。でも、だからこそわからないんだ・・・・自分が本当に、家族のことが好きなのかどうか・・・・だから、僕は逃げたんだ。継ぐべき仕事からも、家からも、家族からも・・・・逃げてこっちに来た。」


僕はそう言って、ベンチから立ち上がろうとした。すると、メアリちゃんは・・・・


「それって、おかしいと思う。」

「は?」

「家族のことで悩んでるっていうのは分かったけど、でも、家族のことが好きかどうかなんて、簡単じゃん。自分の思ったこと、気持ちを相手に伝えるだけだよ。」


メアリちゃんの言い分は、滅茶苦茶だったけど、確かにその通りだった。

でも、僕は、それを否定してみせた。


「確かにそうだけど・・・・今更言えるわけないだろ?僕は今まで、父さんには迷惑ばかりかけてきたんだ。今更・・・言えるわけないじゃん!」

「言えるよ。」


メアリちゃんは僕が否定したことを、さらに否定してみせる。


「というか、言わないと!そういうの、ちゃんと言葉で、自分の気持ちで伝えなきゃダメだよ!メールとかじゃなくて、ちゃんと自分の声と言葉で!」

「・・・・!!」


僕はメアリちゃんの一言に、心がぐらついた。

メアリちゃんの言っていることは正しい。ちゃんと気持ちを伝えなきゃいけないのに、つまらないことでいつまでもウジウジ・・・バカみたいだ。


「・・・・だよね、そうだよね。こんなところでウジウジできないよね。」

「ごめんね、えらそうなこと言って。」


メアリはそう言って、僕に謝った。そして、僕はニカッと笑って腕を頭の後ろに組んだ。


「いや、いいよ。というか、やっぱりメアリちゃんとおじさんは親子だね。説教くさいところがそっくり!」


僕はメアリちゃんに指を差し、メアリちゃんとおじさんが似ていることを指摘した。すると、メアリちゃんはぷうと頬を膨らませて怒った。


「わ、私、そんなに説教くさくないもん!」

「へへへ・・・でも、ありがとね。パパが空港で飛行機に乗るまでには、言ってみせるよ。自分の気持ち。」

「うん、それがいいと思う。」


僕が言ったことに、メアリちゃんはそう言うと、僕達は互いの顔を見ながら微笑んだ。


「さーて、ちょっとバーの様子確かめようか。二人ともベロンベロンに酔ってたら、観光どころじゃないよ。」

「大丈夫、ウチのパパはお酒強いから。」


と、僕達がバーに行っておじさんとパパの様子を確認しようと動き出したその時だった。遠くの方から、激しい爆発音が鳴り響いた。


「!?」

「い、今の・・・・!?」


まさか、こんな時に限って・・・!また悪党が現れた・・・!?

僕の心は不安と怒りに包まれた。

よりによって、どうしてこんな大事な時に!?・・・なんて思った。


「ルイス!」

その時、後ろからおじさんが現れた。


「おじさん!」

「いくぞ!」

「うん!」


僕とおじさんはすぐに現場へ急行しようと走り出す。と、その時・・・・

「ルイス!」

後ろからパパの声が聞こえ、僕は後ろを振り向いた。


振り向くと、そこには心配そうな顔をしたパパがいた。


「お前・・・どこに行く気だ?」

「・・・ごめん!今は説明できないんだ。後でちゃんと説明するから!」

「ルイス!」


僕は止めようとするパパを振り切り、そのまま走って行ってしまった。


「・・・マテラスさん、今は全てを話すことはできませんが・・・・私達は、ルイスは、人の為になること、人助けを行う誇らしい仕事をしています。それだけはわかってください。」

おじさんはそう言って、僕と同じように、その場から立ち去った。



現場にたどり着くと、街の高層ビルの一つが火事になっていた。

そして、その前には全身に炎を纏っている人影があった。


「ヒャッハー!!俺様は『ファイアーヘッド』様だァ!!今の俺様、気分上昇中ゥッ!!気晴らしにこの街全部、火の海にしてやるゼェッ!!」


ファイアーヘッドとかいう奴は全身・・・というより体そのものが炎に変わっていて、その上にサングラスにトゲがいっぱい生えてる黒い革製の服を着て、手にギターを持って得意気に鳴らしている。・・・・服、燃えないの?

すると、おじさんの影からメフィストの顔が飛び出した。


『奴のアーツは見ての通り「炎」だ。まぁ、お前の「四元素」の劣化版みたいなものだがな。しかし、劣化版と言っても、力が炎に集中してる分、力はお前の炎よりも上だ。』


メフィストが言うように、ファイアーヘッドのアーツが『炎』一辺倒であること、それはつまり、炎の力は僕よりも上ということになる。僕のアーツ「四元素」・・・炎、水、風、土の力が使えるけど、どれか一つに力が集中してるわけじゃないから、そういう意味では奴が上だ。


「誰か!誰か助けて!!あのビルに息子がいるんです!!誰か助けて!!」


その時、母親らしき女性の叫び声が聞こえ、助けを求めている。


「あの中に子どもが・・・・!」

「早く助けないと!」

「よし、変身だ!」


僕とおじさんは、ヒーロー姿に変身するために、路地裏に入った。


「メフィスト!」

メフィストは体を変化させてファウストのスーツに変化、おじさんの体に装着される。


「レッツ・モーフ・・・」

僕も変身しようと、掛け声を上げようとした。と、その時だった。

「ルイス!」


後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。僕は後ろを振り向いた。そこにいたのは・・・・パパだ。

どうして・・・?どうしてなんだよ!なんでこんな時に!・・・・僕は叫びそうになったけど、こらえた。


「パパ・・・どうしてここに!?」

「それはこっちの台詞だ!ここは危ない!早く逃げるんだ!後のことは警察に任せればいい!」


パパはそう言って、僕の腕を引っ張り始めた。

その時、ビルの向こうからかすかに音が聞こえた。誰かの声が・・・


「ママ~~~ッ!!パパ~~~~ッ!!怖いよぉ~~~!!」


それは子どもの声。とってもか細くて、空耳と間違えてしまいそうな小さい声だ。

その声を聞いた途端、僕はパパの腕を振り払った。


「ルイス・・・!?」

「・・・ごめん!僕、行かなきゃ!」

「な、なんだと!?」

「警察には任せられない・・・・僕が、僕達がやらなきゃいけないんだ!!レッツ・・・モーフィン!!」


僕は叫び、掛け声を上げる。そして僕の体は光に包まれ、ヒーローコスチュームを装着する。


「ル、ルイス、その姿は・・・・まさか、テレビに出てた・・・・!?」


どうやら、パパもテレビのニュースで「パラディンフォース」の存在は知ってるみたいだ。

だったら、なおさら話しやすい。


「そう・・・何でも屋っていうのは嘘。僕達の本当の仕事は、これなんだ!僕達は、この街を守る・・・スーパーヒーローだ!だから・・・ごめん!」


僕はそう言って、一礼して謝る。パパはただただ呆然と立ち尽くしている。


「おじさん、行こう!」

「・・・ああっ!」


僕とおじさんは、パパを置き去りに、ファイアーヘッドの元に現れた。


「ああん?なんだぁ、てめぇら?」

「『パラディンフォース』のエレメント・ガイと、ファウストだよ!テレビ見てないの?」

「俺様はニュースは見ない!作るんだ!!」


ファイアーヘッドはそう言うと、僕達に向かって火を吹いてきた。後ろには民間人がいるから、よけるわけにはいかない。だから防ぐしかない。僕は手のひらを地面につけ、地面から土の壁を作って火を防ぎ、おじさんはメフィストの力で両腕を盾に変化させて防ぐ。


「エレメント・ガイ!こっちは私に任せて、救助を頼む!この場なら、君のアーツが役に立つ!」

「わかった!」


僕は土の壁を突き破って、ビルの中へ向かって突っ走る。


「逃がすかぁ!!フレイムヘアー!!」

すると、ファイアーヘッドは長い髪を鞭のようにしならせて、僕に向かって振り落とす。

「させるか!」

ファイアーヘッドの燃える髪が僕に届く瞬間、おじさんは両手でその髪を掴んだ。


「何ィッ!?俺様の髪を掴んだ!?」

「心頭滅却すれば、火もまた・・・アッツゥイ!!」


おじさんは余裕そうに燃える髪を掴んでみせたけど、やせ我慢だったみたい。・・・・やんなきゃいいのに。


「スーツ越しでもアツイ・・・・!!」

「なんだぁコイツ?バカか?」

「私も頭は悪いが、君ほどバカじゃない。かかってこい!」


おじさんはそう言って、ボクシングのファイティングポーズを取る。僕はその場をおじさんに任せて、ビルの入口に入る。


「クソッ!火が強すぎる!消防車2、3台じゃ足りないぞ!」

「応援はまだか!?これじゃ救助どころじゃないぞ!」


入口を進むと、通路へ続く防火扉の前で、レスキュー隊員達が立ち往生している。

どうやら火の勢いが強すぎて、逃げ遅れた人達の救助に行けないようだ。


「どいて!」


僕はレスキュー隊員を押しのけ、防火扉を思い切り蹴り破った。扉を破ると、中から凄まじい勢いで炎が押し寄せる。しかし、僕は両手からこれまた凄まじい水流を発射し、炎を通路の向こう側まで消火する。


「す、すげぇ!さすがはエレメント・ガイ!」

「ビルは何階まである!?」

「8階までだ!」

「よし、5~8階は僕が調べる!アンタ達は1~4階をお願い!それと全員逃がしたら、外にいる野次馬に『ビルの火全部を一気に消すから、ビルから離れて!』って言っておいて!」

『了解!!』


僕はレスキュー隊員達に作戦を伝え、僕達は行動に移った。

僕は炎を水の力で消しながら、階段で上へ上る。隊員達は消化器片手に炎を消しながら階ごとにある部屋を全て回っていく。


「いたぞー!!」

「よーし、もう大丈夫だぞ!」


隊員達は次々と逃げ遅れた人を見つけては、外へと逃がしている。

そして、僕の方も・・・・


「ほら、もう大丈夫だよ!」

「ありがとうねぇ・・・一瞬天国が見えたよ・・・・」

「ここはまだ現世だよ、おばあちゃん!」

僕も人を見つけては外へ連れて脱出させる。


「はあ・・・はあ・・・・脚が・・・・!!」


救助には思いの外、身体に負担がかかる。フロアの全ての部屋を一つずつ確認しては移動して、見つけたら1階へ戻って外へ出す。これを何往復もするから、当然疲れる。しかしゆっくりはできない。迅速かつスピーディにやらないと、逃げ遅れた人達が死んでしまう。


「負けて・・・たまるか・・・・!!」

僕の脚は疲れ切って動けないような状態だったけど、それに鞭を打って前へ進む。


「うわっ!」

しかし、流石に無理をしすぎたのか、僕は何もないところで転んでしまった。


「まだ・・・まだ・・・・!!」


転んでも諦めるわけにはいかない。僕は床に手をついて立ち上がろうとした。その時だった。誰かが僕の両腕を掴んで、体を引っ張り起こした。


「無理をするな!」

「ったく、チャラ男の癖にカッコつけやがって・・・・」

そこに来てくれたのは、おじさんと、ロックだった!


「二人とも・・・・!」

「遅くなってしまったな。」

「あのファイアーヘッドとか言う奴は?」

「後からロック達、それにロバートとバルトロが来てくれたんだ。」


「ヒャッハー!!何人来ても、相手が変わっても結果は同じだぜェッ!!俺様の勝利は揺るがない、イエイッ!!」

「あー、うるせぇっ!!こちとらドロップキック喰らって機嫌悪いんじゃゴラァ!!」

「マ、マグネイター、落ち着いて・・・・」

「ほらっ、お喋りしてないで敵に集中!」


外ではリンちゃん達とファイアーヘッドが対峙していた。まぁ、結果は目に見えてるけど。


「私達も救助に協力するぞ!なーに、『筋力強化』のアーツを使えば全員5人以上も運べるさ。」

「俺の『鋼鉄化』のアーツなら、火も怖くねぇ。救助向きだろ?」

「・・・ありがとう!」


僕は嬉しかった。みんな思ってることは同じ。「逃げ遅れた人達を全員助けたい」・・・・みんな思いは同じだった。だからこそ嬉しい。僕は嬉しさのあまりお礼を言った。


「僕は屋上に行って一気に火を消す!その間に全員避難させて!終わったら合図を送って!」

「よしっ!」

「任せとけ!」


僕は作戦を伝えて、屋上へ向かった。二人も返事をしたと同時に救助へ回った。

おじさんは持ち前のタフネスと「筋力強化」のアーツで複数の人をいっぺんに運び、ロックは「鋼鉄化」のアーツで炎をものともせず人々を救助していく。

そして、僕の方は・・・・


「よし・・・ここなら・・・・」


僕は屋上にたどり着いた。僕の作戦はこうだ。「四元素」のアーツの一部、水の力を最大限まで引き上げ、それを両手から放って、そこから出る大量の水流で一気に火を消す作戦だ。もちろん、デメリットは多い。成功しても僕が倒れてるかもしれないし、下にいる人が巻き込まれるかもしれない。だからこそ、僕はおじさんやレスキュー隊員達に野次馬を遠ざけるように言ったんだ。


「よーし・・・・はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


僕は両手に水を宿し、そのまま力を溜める。後は合図を待つだけ・・・・

その時だった。ビルの下からビームのような稲光が打ち上がった。恐らくロバートさんの雷だ!救助が終わった合図だ!


「よっしゃ!いけぇぇぇぇ!!」


その合図を見た僕は、両手を屋上の床に向け、溜めた水の力を一気に放った。僕の両手から大量で激しい水流が流れ出した。その水流はビルを飲み込み、窓から侵入して火を消していく。そして、地面に向けて流れ落ちる。


「来たぞ!離れろ!」


下でファイアーヘッドと戦っていたリンちゃん達と救助を終えたおじさんとロック、さらに野次馬達は一斉にビルから離れ始める。ファイアーヘッドを除いては。


「えっ、なに?」

ファイアーヘッドはなんでみんながその場から逃げていくのか分かっていないようだ。とんだバカだね。

「ん?ギャーーーーーーー!!!」

ファイアーヘッドは上を向いて、激しい水流が流れていることに気がついた。しかし、気づいてももう遅い。ファイアーヘッドはそのまま水流に流されていってしまった。


「へへっ、やった・・・・」


ビルの火は完全に消火できた。でも、僕の方は体力が切れかけてた。


「やばっ・・・・」


僕は後ろに倒れそうになる。と、その時誰かが僕の後ろで壁になった。


「?」

後ろを向くと、そこにはおじさんがいた。

「よくやったじゃないか、ルイス。」

「随分、早かったね。」

「空飛べるからな。それに『速度強化』のアーツもあるしな。」

「そういやそうだったね。」

「下に降りるぞ。」


おじさんはそう言うと、背中から翼を生やし、僕を抱きかかえてビルの下へ降りた。

下へ降りると、ロック達と街の人達、それに助けられた人達が入口の前に集まっていた。


「さぁ、みんな!今回のMVPだ!」


おじさんは僕を下ろすと、声を大にして叫んだ。すると、その瞬間に大きな拍手と喝采が鳴り響いた。


『アリガトーーーーー!!』

「すげぇぜエレメント・ガイーー!!」

「結婚してーーーー!!」


みんな笑顔でこっちを向いて手を振ったり、エールを送ったりしている。僕はあまりのことにただただ呆然と立ち尽くしているだけだった。

その時、おじさんが僕の肩を叩いた。


「さぁ、みんなの所に行ってきなさい!」


そう言っておじさんは、僕の背中を押した。


「おっと・・・・えーっと・・・・み、みんな!ありがとう!!」


僕は少しよそよそしくしながらも、みんなにお礼を言った。


「お礼を言うのはこっちの方よー!!」

「ありがとなー!!」


僕のよびかけに、みんな答えてくれた。それが何故か、僕はとても嬉しかった。こんな風に出迎えてくれるのも嬉しいし、賛美を送ってくれることも、みんなが無事だったことも・・・・それがどういうことなのか、僕は気づいた。


ああ、これが・・・・ヒーローになるってことなんだ。


そう思った。


「ルイス・・・・」


そのころ、僕のパパはこの様子を物陰から見ていた。

そして、パパは目から一筋の涙を流した・・・・


「少し見ない内に・・・・立派になって・・・!」

パパはポソリを呟きながら涙を拭った。



翌日の朝、僕は空港でパパを見送るため、パパについていた。


「えっと・・・パパ、昨日のことだけど・・・・」


事件が終わってから今までの間、パパは僕の仕事のことに関して何も言わなかった。パパを騙していたのに、怒られもしなかった。いや、もしかしたら怒っているのかもしれない。

僕はそう思って、恐る恐る声をかけた。


「なんだ?」

「その・・・・怒ってる?僕があんな仕事してたから・・・・それに、パパのことも騙して・・・・」


僕がよそよそしく言うと、パパは何故かニッコリと笑った。


「怒る?何を言うんだ。」

「へっ?」

「そりゃあ、確かに驚いたさ。だけど・・・・それ以上に、嬉しいんだ。お前が・・・こんなに立派になってくれたんだからな。」

「!!」


父さんの言葉に、僕は目頭が熱くなって涙が出そうだった。でも、僕はそれを必死に堪えた。

それに乗じて、僕は自分の気持ちをパパに伝えようとした。


「えっと・・・パパ、僕・・・パパに拾われてから色々あったけど、その、良かったって思ってる。パパの息子で。」

「!」

「僕、パパの息子で良かった!ありがとう。」


僕は自分の気持ちを、思い切りパパに伝えた。その瞬間、僕は肩の力が少し抜けた気がした。

すると、パパは笑いながら言った。


「それは・・・私の台詞だ!お前は・・・私の自慢の息子だ!」

「パパ・・・・!!」

「おっと、もう時間だな。じゃあ・・・・頑張れよ、ルイス!」

「うん!」


そして、僕とパパは手を振りながらお別れを言った。

パパの姿が見えなくなった後、僕は堪えていた涙を流してしまった。


「あっ、やばっ。」


僕は慌てて涙を拭った。その時、僕のスマホに着信が入った。


「もしもし?」

『ルイス!私だ!』

おじさんの声だ。


「おじさん?」

『銀行強盗が発生した!犯人は装甲車を使って逃げてる!!すぐに来てくれ!!』


おじさんはそう言うと、僕の有無を聞かずに通話を切った。


「やれやれ・・・・人使いの荒いリーダーだな。」


僕はそう言いながら空港内のトイレに入って、ヒーロー姿に変身。ダッシュで外に出る。


「あっ、エレメント・ガイだ!」

「キャー!サインしてー!!」

「後でね!さーて、お仕事開始だ!!」


家族に伝えなきゃいけない気持ちは、ちゃんと伝えなきゃいけない。メールとかじゃなくて、ちゃんと言葉で、自分の口から直接・・・・今回のことはすごく勉強になったよ。

ヒーローとしての気持ちにも気づけたからね。それじゃ、今回はこれでお別れかな。みんな、僕のことは忘れないでね。


僕は、「パラディンフォース」のヒーロー、エレメント・ガイだ!


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