第14話「小さなヒーロー」
今回はヒロイン大活躍の回です!やっとこさ書けた・・・
私の名前はリン・チ・チャン(鈴氏陳)。ヒーロー名は「ドラゴンガール」。私がなんでヒーローをやっているかは・・・ここまで読んだのなら、もう言わなくてもわかるわよね?
じゃ、その辺を省いて話を進めるけど・・・・私が今回喋ってるってことは、今回は私が主役ってことよ。これはある日起こった私自身の出来事・・・・
あれはある晴れた日のこと・・・・
「みんなーーー!!そろそろ起きなさーーーーい!!」
朝の4時・・・いつものようにルークが大声で私達を起こそうとしている。
「もう朝か・・・・」
私は一言口ずさみ、体を動かして寝返りを打った。その時、自分の体の前面にぬくもりを感じた。それは人のぬくもりの様で、抱きしめられているような感覚・・・・いや、これ気のせいじゃない。
「メアリ・・・・また・・・!」
私のベッドにメアリが潜り込んでいた。しかも私の胸に顔を埋めながら、私に抱きついている。
メアリは私がこの事務所で住むようになってから、ほとんど毎日のように私が寝ている時にベッドに潜り込んでくる。そして私の胸に顔を埋めたり、触ってきたりしてくる・・・・
これで相手が男だったら、容赦なくぶん殴ってるところだけど・・・・
「またこの子は・・・!!」
さすがに何回も潜り込まれると、私だって怒りがこみ上げてくる。この子は何回言っても聞かないし・・・胸なんて触られたら、くすぐったくてむず痒いし・・・・
「今日という今日は・・・・!!」
「う~ん・・・・ママ・・・・」
「!」
その時、メアリは寝言で「ママ」って言った。その一言を聞いた私は、私の中にあった怒りが消えてしまった。ルークとこの子から聞いた話だと、2人は8年前にマリアさん・・・ルークの奥さん、つまりメアリのお母さんを亡くしている。
お母さんを早くに亡くしたメアリは、寂しいのかもしれない。そりゃあそうよね、8年前といえば、この子はまだ8歳・・・・もう少しだけお母さんに甘えたい時期でもある・・・・だから私をお母さんの代わりとして、甘えてくるのかもしれない。
「・・・もう、しょうがないわね・・・・」
私はため息をついてメアリの頭を撫でた。母親を失った気持ちは私にも分かる。だから、メアリの気持ちも少しは分かるつもりでいる・・・・けど、こうやって許しちゃうから歯止めが効かなくなっちゃうんだろうけど・・・・
「リン、起きてるかー?」
すると、ルークが私のドアをノックした。
「ええ、起きてるわ!」
私がそう言うと、ルークは部屋のドアを開けた。
「おはよう!今日も元気よくトレーニングを・・・・あっ、メアリ!またここに来ていたのか・・・・すまないな、毎日毎日・・・・」
「ううん、別にいいわ。メアリのこと嫌いじゃないし、妹みたいで可愛げあるしね。でも・・・・」
「でも?」
「毎回毎回かわいい声で『お姉ちゃん♪』なんて呼ばれて甘えられると・・・・私の中のお姉ちゃんと母性本能が暴走しそうなのよ・・・・!!」
私は両手で顔を抑え、震え声で泣き出しそうなトーンでルークに私の今の気持ちを訴えた。
「本当にごめんな、ウチのメアリが・・・・」
その後、私達はトレーニングを終えて、いつも通りヒーローコスチュームに着替えて事務所で仕事を始めた。でも・・・・
「人が、来ない・・・・」
「おかしいなー、僕達、結構活躍してるはずだよね?」
「陰謀を感じるぜ。」
事務所にお客が来なくて、私達は早々に暇になった。
「まぁいいじゃないか。お客さんが来ないってことは、それほどこの街が平和だという証拠さ。」
「確かに言えてるけど、このままお客さんが来なかったら、収入はゼロよ?」
「うっ・・・それはそうだが・・・・」
リーダーのルークは相変わらずお人好し・・・・
「あっ、もしもし?今仕事中なんだけどさ~」
仕事中に、ナンパした女の子に電話で連絡を取っているチャラいルイス・・・・
「あ~あ、こうなっちまうと無償に喧嘩したくなっちまうぜ。おっさん、後で俺とタイマン張ろうや!」
「はいはい、後でな。」
ロックは相変わらず血気盛んだし・・・・と、その時だった。地下の方からボォン!!っていう爆発音が聞こえた。
『!!?』
私達はその爆発音に腰を抜かした。
「な、なんだ今の音は・・・!?メフィストがまた何かやらかしたのか!?」
その爆発音を聞いた私達は、すぐさま地下室へと駆け下り、トレーニングルームの奥にあるメフィストの研究室に直行した。
「メフィスト!何やって・・・!!」
ルークは怒鳴り声を上げながら研究室のドアを開ける。すると、開けた瞬間、研究室から黒い煙がバッと私達に向かって押し寄せた。
「うわっ・・・ゲホッ!ゲホッ!」
その大量の煙に、私達は思わず咳き込んでしまう。
「メフィスト!あんたまた何かやったでしょ!?」
『何かとは失礼な!!私は今、世紀の大発明を作ろうとしてるんだぞ!!』
「思いっきり失敗してんじゃねーか!!この煙からして!」
煙の中からメフィストの声が聞こえる。煙も徐々に晴れてきて、メフィストの輪郭がおぼろげに見えてきた。
「う~ん・・・」
その時、メアリの声も聞こえた。煙が晴れてメアリの姿も見えてくる。
「あっ、みんな・・・ごめんね、驚かせちゃって・・・・」
床に腰を下ろしていたメアリは私達に一言謝りながら、その場で立ち上がった。立ち上がったメアリを見てみると、メアリの顔やピンク色の髪に爆発の時についた粉塵のようなものが付着していた。
「メアリ!大丈夫か?怪我はないか?体は変じゃないか?」
メアリを心配したルークはすぐさまメアリの元に駆け寄って、頭を撫で、頬に手を触れた。
「大丈夫!私はなーんともないよ!」
「そ、そうか・・・よかった・・・」
ルークはメアリの体がなんともないとわかると、ホッとため息をついて胸をなで下ろした。
「それにしても、何作ってたの?」
『武器を作っていたのだ。中国の神話に孫悟空がいるだろう?そいつが持つ如意棒を作ろうとしたのだ。』
「今日は日曜で私、学校休みだから手伝ってあげようと思って・・・・」
「武器作っててなんで爆発するの?」
メフィストとメアリの返答に、ルイスは率直な意見を口にした。まぁ、普通武器作って爆発なんてしないわよね。銃火器ならともかく、棒を作って爆発って・・・・
すると、メフィストはゲスな笑みを浮かべ始めた。
『ククク・・・・これだからバカは困る。いいか?如意棒というのは聞くところによれば変幻自在に変化する棒・・・それを再現するのは簡単ではない。だからこそ、私は地獄から持って来た、伸び縮みが自由の”マッドーマの皮膚”にこの、天才の私のアーツ「形態変化」の効果を付与させるため、天才である私自身の血液を皮膚に付着させ、私のアーツを馴染ませ・・・・!』
「様は失敗したってことでしょ?」
メフィストは長々と説明を始めたけど、私はそれをまどろっこしく感じて、結果だけをメフィストに言ってみた。
『こ、このアマ・・・!!』
メフィストは図星を突かれて悔しそうな顔で私を睨みつけた。
でも、私はそれを無視してメアリの方に歩み寄った。
「もう、こんなに汚して・・・・女の子なんだから、顔は汚しちゃダメよ。顔と髪は女の命みたいなものなんだから・・・・」
私はそう言って、メアリの両頬に触れた。
「はーい。」
「シャワー浴びてきなさい。髪もちゃんとシャンプーとリンス使って洗うのよ?」
「わかってる!」
メアリはそう言うと、私から離れて研究室から出ようと、入口のドアのドアノブに触れた。
「あっ、フケ残らないようにちゃんとすすぎなさいよ!」
「わかってるってば!」
メアリはそう言って研究室を後にし、2階のバスルームに直行した。
「はぁ・・・メアリったら、こんな自称天才パスタ馬鹿ナルシスト悪魔に付き合う必要もないのに・・・」
『おい、何か余計な物が多すぎやしないか?おい!』
メフィストが何か言ってるけど、私達はそれを無視した。というか、メフィストが話し出すとかなりウザイから、ルーク以外はよっぽど大事なことがない以上は無視するっていう暗黙の了解をとることにしたの。
『おーい!!もしもーし!?この天才の私を無視する気か!!?』
「フフッ、しかし・・・なんかお母さんみたいだね、リンちゃん。」
ルイスはそう言って、ニヤニヤと笑い始めた。
「な、何よ・・・・」
「うむ・・・私なんて、一瞬リンがマリアに見えてしまった・・・・」
「そんなこと言って・・・天国にいる奥さんに怒られるんじゃないの?」
「ハハハッ、それは怖いなあ。」
ルークはニコニコ笑いながら言った。彼の笑顔はすごく爽やかで、見てるこっちも爽やかな気持ちになってくる。同じ様に、メアリの笑顔もすごく爽やかで・・・ルークの笑顔とそっくりだった。見てると、「ああ、この2人はやっぱり親子だ」って気持ちになる。変な話だけどね。
『おーーーーいっ!!私を無視するなーーーーッ!!クソッ、今に見てろ・・・!!』
その夜、私達はいつものようにパトロールに出掛けた。でも、この日はいつもと違った。今日のパトロールにはライトニンガー・・・ロバートとマグネイター・・・バルトロと一緒だった。
「ロバート、君の話だと最近、この辺のギャング達が用心棒を雇ったそうだな?」
「まだ不確定情報ですけど・・・・かなり腕の立つ拳法家らしくて、中国拳法を使うらしいです。」
中国拳法・・・私とは違う一派の奴かしら・・・中国拳法はかなりの門派があるから、どの一派なのか検討もつかない。
「後は、今日の夜・・・・どこかでそのギャング達がマフィアと取引するという情報を掴んでいます。」
「よし、手分けしてそのギャングとマフィアを捜してみよう。」
ルークはそう言うと、街の地図を取り出した。
「私とロックはマンハッタン、ルイスとバルトロはブルックリン、ロバートとリンはクイーンズを頼む。」
「了解。」
「おうよ!」
「任せといて!」
「それと・・・・メアリ、お前は?」
そう、今日のパトロールはロバートとバルトロの他に、メアリもいた。というか、勝手について来た。
「リンお姉ちゃんと行く!」
メアリはルークの質問に挙手しながら答えた。
「・・・家に帰るという選択肢はないんだな。まぁ、言っても聞かんだろうし・・・・リン、ロバート、メアリを頼むぞ。」
「はい!」
「もちろん!必ず守って見せるわ。」
「頼もしいな、頼むぞ!」
ルークはそう言って、私とロバートの肩を掴んだ。
「それと・・・・もしもメアリにもしものことがあったら・・・・殺しはしないけど、4分の1殺しになることは確定するかもだから・・・頼んだよ?」
『は、はい・・・』
ルークはニコニコ笑いながら、超低いトーンの声で私とロバートに忠告した。同時に肩を掴んだ手も爪が食い込みそうな勢いで力を入れてる・・・・それに対して、私とロバートはその痛みと恐怖に耐えて、引きつった笑顔を見せるだけだった。
・・・さっき私がルークの笑顔は爽やかだって言ったけど・・・・前言撤回、超怖い!
その後、私達はそれぞれ決められたチームに分かれて行動を開始した。私とロバート、それにメアリはクイーンズを中心にギャングとマフィアを捜す。
「それにしても、メアリ・・・アンタは家で大人しく待ってるってことができないわけ?」
「えー、だって家に1人だけって、すごく寂しいし、それに・・・・昨日ホラー映画見ちゃって家に1人でいるのが怖くなっちゃったんだもん!」
「だったら見なきゃいいでしょ!?」
私はメアリに正論を言い放つ。
すると、メアリは急に真顔になり・・・・
「えー、だってそうでもしないとお姉ちゃんにギュッってできないもん。」
「口実うんぬん以前に、口実無しでもやってるでしょ!?」
私が今言ったように、メアリはこんな風に私に甘えてくる口実を建前で口にしてるけど、口実なしでも私の方にくっついてくる。・・・まぁ、そこで私がついつい許しちゃうから、この子は毎日のようにやってくるんだけどね・・・・
「チェッ・・・」
「ま、まぁまぁ・・・・とりあえず、今やるべきことをやりましょうよ・・・ねっ?」
私達のやりとりを見て、口喧嘩をしていると思ったのか、ロバートはよそよそしい口調で私達をなだめる。ロバートは女性が苦手だからか、がちがちに緊張している。
それがわかった私は、少しため息をついた。
「はぁ・・・しゃんとするッ!!男でしょ!」
「は、はい!」
私はロバートの腰を一発叩いて叱咤する。腰を叩かれたロバートは返事をしながら背筋を伸ばした。
「ロバートさん、尻に敷かれるタイプだね。」
「う、ううっ・・・・」
それから私達はクイーンズを中心に調査を始めた。まずは手分けして街の人への聞き込み。最近変わった奴が街をうろついていないか、何か事件はなかったか・・・・
「ロバート、そっちはどうだった?」
「ダメです!そっちもですか?」
私とロバートは合流して、互いの成果を発表した。けど、2人とも情報をつかめていない・・・・
「ええ・・・後はメアリだけだけど・・・・ッ!!」
その時、私は背後に気配を感じて手刀を後ろに向かって振り回す。
「ギャーーー!!」
後ろにいたのはメアリだった。メアリは私が突然攻撃してきたから驚いて声を上げている。それを見た私は、手刀をメアリの首元で止めた。
「・・・・何やってんの?」
「いや~、お姉ちゃん疲れてるみたいだから、マッサージでもしてあげようと思って・・・・まず耳にフーってやった後、お姉ちゃんの力が抜けたと同時にその大っきな胸をガバッと・・・アイダダダダダダダ!!」
私はメアリが私にしようとした下品な行動を聞いて、メアリの頬を思い切り引っ張った。
「それってつまり、私の胸を触りたかっただけよねぇ?」
「痛い!痛いィ~~~!!」
メアリは私に頬を引っ張られて、目に涙を浮かべている。
「ま、まぁまぁ・・・・その辺で・・・・メアリちゃん、何か情報は掴んだの?」
「う、うん・・・」
私はメアリの話を聞くため、メアリの頬から手を離した。メアリが涙目になりながら引っ張られた自分の頬を優しく撫でた。
私は、「さすがにやり過ぎた」と思って少し罪悪感を感じた。
痛みが引いたのか、メアリは聞き込みの成果を話し始めた。
「さっき閉店間際のスポーツジムで聞いたんだけど・・・・最近街外れの廃工場で、変な奴らが集まってるらしいんだって。」
「変な奴ら?ギャングか、マフィアか・・・・」
「私に教えてくれた人は、『そこまではわからない』って言ってた。」
「とにかく、行ってみましょ。」
情報を掴んだ私達は、メアリが掴んだ情報を元に街外れの廃工場を訪れた。
「ここが情報にあった・・・・」
「見たところ、見張りはいないようね・・・・」
周りを見回してみると、見張りはいないみたいだった。でも、取引をするのに見張り無しなんて不用心すぎる・・・・私は心にちょっと不安を残して、入口から工場の中をこっそりと覗いた。
「・・・・?」
「何か見えましたか?」
「うーん、よく見えないわね・・・・」
外は夜で、廃工場は電気もないからか中は薄暗い。と、その時、視界が暗闇に慣れてきたのか、うっすらと中の様子が見えてきた。
「あっ、誰かいる!」
私は小声で叫んだ。中には1人の男が立っていた。そしてその周りにはスーツを着た男達が大勢倒れている。
「倒れてる・・・?まさか、あいつがこの数を・・・?」
私が小声で口ずさむと、その時、中にいた男がこちらに顔を向けてきた。
「!!」
私はその男の視線に気づき、咄嗟に身を隠した。
「隠れても無駄だ!もうお前らのことにはとっくに気づいてるぜ!!」
工場の中から男の声が響く。完全に私達の事はバレてる・・・・
私達は観念して工場の中へ入った。
「ふん・・・女一人、男一人、ガキ一人か・・・・」
男は顎に手を当てながら、私達を舐めるように見始めた。
男の容姿と顔つきを見るに、私と同じアジア系みたい。長めの弁髪に男用のチャイナ服を着て、手にはトランクケースを持っている。
「あっ!この人、さっきスポーツジムで私に情報くれた人だ!」
その時、メアリは男の顔を見て、大声で叫ぶ。
「よぉ、ガキ・・・・また会ったな。」
男はメアリに向かってそう言うと、ニコッと笑った。その笑顔は一見優しそうだったが、その裏には何かおぞましい物を感じる顔だった。メアリはそのことに気づいたのか、私の後ろに隠れた。
「・・・アンタがこいつらが雇った用心棒?」
「ああ、中国から来た高梁だ。ガオでいいぜ。」
「ここに倒れてる奴ら、アンタがやったの?」
ガオが自己紹介を終えると同時に、私はガオに質問した。
「・・・ああ、そうだ。」
ガオは私の質問に答えた。ガオの返答に、疑問が浮かんだ。彼がギャング達が雇った用心棒なら、何故依頼主を倒すようなマネをしたのか・・・・ということ。
「こいつら、一応アンタの依頼主でしょ?なんでこいつら全員倒したの?悪事に荷担するのが嫌になったとか?」
「そんなつまんねー理由じゃねーさ・・・・もっと単純だ・・・よっ!!」
ガオは私の質問に答えようとした瞬間、近くに転がっていたギャングの一人をサッカーボールを蹴るように乱暴に蹴り飛ばした。
「がはっ!!」
『!!』
「俺の!目的は!ただ一つ!!」
一語一語区切りつつ、今度は嫌いな物を足で潰すかのように連続で踏みつける。
「やめて!!そんなことしたら、その人死んじゃうよ!!」
見ていられなくなり、メアリは私の後ろから飛び出し、口でガオに訴えた。
「ああっ?知るかッ!!俺の目的はただ一つ・・・・戦いたいだけだ!」
「た、戦いたいだと!?」
「そうだ!格闘家、拳法家なら誰でも思うことだ!試合という生ぬるいルールで縛られるのではなく、ルール無しで思う存分自分の力を使い、敵を蹴散らす!!それこそ拳法家、格闘家の本質だ!!」
ガオはそう言うと、足元のギャングを蹴り飛ばし、ニヤリと笑いながら拳を握った。
「・・・確かに、その気持ちはわからないでもないわ。私達も格闘家の端くれだしね。」
「私も同意です。己の力を試したいというのは、格闘家として当然のこと・・・・」
私とロバートはガオが言った事に同意した。すると、ガオは私達の同意が嬉しかったのか、微笑みを浮かべた。
ガオの気持ちはわからなくはない。格闘家は少なからず、自分の力を試したい、敵と戦いたいと思っているもの・・・・それも、ルールに縛られない、ルール抜きの戦いで・・・・
でも、
「だけど・・・・それが人を傷つけていい理由にはならない!!」
「その通り!貴様の蛮行は許さんッ!!」
ガオのやっていることは間違い!そうガオに言い放ち、私とロバートはガオを睨みつけ構えを取った。
すると、ガオは予想外だったのか、キョトンとした表情を浮かべた。
「ククク・・・・イイ子ぶりやがって・・・・!格闘家の面汚しがッ!!」
キョトンとした顔から笑い顔に変わったかと思うと、眉間に皺を寄せ、手に持ったトランクケースの鍵を即座に外し、思い切り地面に叩きつけた。
コンクリートの地面に叩きつけられたトランクはバウンドし、それによって開き、中から短めの棒のような物が飛び出した。
「シュッ!!」
ガオは宙を跳び上がり、トランクから飛び出した棒を掴み、地面に着地して棒をつなぎ合わせた。すると、短めの棒は連結し、棍に変化した。
「ハイーッ!!」
ガオは棍を両手で掴んだかと思うと、舞を踊るように棍を振り回し、演舞をして見せた。
「武器と拳法を組み合わせた『器械拳』の真髄を見せてくれる・・・!!来いっ!」
「『器械拳』・・・!!やっぱり中国拳法の一派ね!だったら遠慮無く・・・・!!」
私はあえてガオの挑発に乗り、ガオに向かって突進する。
「やらせてもらうわッ!!龍尾脚!!」
私は間合いに入ったと同時に回転しながら低く跳び上がり、回転を利用して回し蹴りを2発たたき込む。
対し、ガオは棍で1発目を防ぎ、2発目は身をかわしてよけた。
「その技・・・龍北青拳か!」
ガオは私の攻撃をかわした後、かわした反動を利用して前に一歩前進、棍を下からすくい上げるように振り上げる。
「あら、知ってるのね!」
私はそれを体を横にそらしてかわし、握った拳をガオの腹目掛けて繰り出す。対し、ガオは片足を上げて拳を防ぐ。
「龍北青拳・・・・龍の如き強力無比な拳を繰り出すと聞く!!」
ガオは足で私の拳を払った後、何故か棒を手放して、私に投げ渡した。
「?」
「スキアリィ!!」
私はそれにはわけがわからず、首を傾げた。だけど、その一瞬の戸惑いが命取り。ガオは戸惑う私を狙って、跳び上がって両脚蹴りを繰り出した。
私は咄嗟に棍で防御したけど、蹴りの威力が強くて、棍ごと蹴り飛ばされてしまった。
「この程度か?龍北青拳!!」
「幻滅した?でも、相手は私だけじゃないのよッ!!」
「雷光指弾!!」
その時、私から少し離れていたロバートが、指先から電撃の光線を放つ。不意を突かれたガオは、光線をもろに胸に喰らって吹き飛んだ。
「やったか!?」
ロバートは声を上げた。ガオは起き上がらなかった・・・・と思いきや、
「シャッッッ!!」
ガオは寝返りをするかのように体を動かし、その瞬間懐から何かを取り出し、私達に向かって投げつけた。
『!!』
私達は咄嗟にそれをよける。しかし、よけた時に何かが頬をかすり、血が流れた。
「今のは・・・鏢!?」
「ヒョウ・・・?」
「投げて使う武器よ!」
私がロバートに鏢について説明していると、ガオはその隙に起き上がっていた。
「よそ見してんなよォーーーーーッ!!」
ガオは、今度は懐から取り出したであろう鎖分銅を振り回し、私達に向かって分銅を突きだして攻撃する。
「危ない!」
ロバートは分銅を掴み、攻撃を止めた。
「なぜ、私の雷が・・・・!?あっ!!」
雷が効かなかったことに疑問を抱いたロバートは、ガオの体を見てあることに気がつき、声を上げた。
ロバートの視線に映ったのはガオの服の胸部分が焼き切れて露出しているところだった。しかし、ロバートが声を上げたのはそこではなく、そこに現れたものだった。
「ゴ、ゴムスーツ!?」
そう、ガオはチャイナ服の下にゴムでできたスーツを身につけていた。
「ククッ、スポンサーの情報通り・・・雷を使う空手家が本当にいるとはな!」
「スポンサー!?またあいつ絡みってわけ!?」
「情報料と引き替えに貴様らのことを教えてくれたぞ!!聞けば、全員格闘家らしいじゃないか・・・・こんな面白いことはない!用心棒をやってる場合じゃないわ!」
「だからギャング達を見限って・・・・!!」
「その通りだ!!」
ガオは叫びながら鎖分銅を手に、懐から鏢を取り出し、投げつける。
「くっ!」
ロバートはこれをよける。
「まだまだあるぞ!!」
ガオはそう言って、懐から大量の鏢を取り出し、扇子のように広げて見せた。
「ロバート、二人同時に行くわよ!」
「はい!」
私とロバートは同時にガオに向かって行く。
ガオは地面に落ちているトランクに、バックステップで近づき、中から新しい武器を取り出す。今度の武器は、青竜刀!
「ハッ!」
ガオは棍の時と同じ様に、青竜刀で演舞を演じる。
「稲妻雷撃蹴!!」
ロバートは右足に雷を纏って飛び蹴りを繰り出す。ガオは身を伏せてこれをよけ、手に持って青竜刀を背中に回す。そして、通り過ぎたロバートに後ろ回し蹴り。ロバートは地面に着地したと同時に両手で受け流すように蹴りを受け止める。
すると、ガオは背中に回した青竜刀を、何故か上に放り投げた。私はそれを気にせず、掌底を繰り出す。ガオはそれを掌底を撃つように私の手を弾いた。私の反対側、ガオの後ろにいたロバートも攻撃を仕掛ける。
「ロバート!」
「はい!」
私は合図を出し、ロバートと息を合わせる。チャンスは・・・・ガオの注意がロバートに向いた瞬間!
(今ッッッ!!)
私とロバートはその瞬間に同時に連続攻撃を仕掛ける!私は蹴りを、ロバートは拳の突きの猛襲をガオに浴びせる。
「くっ・・・・!!」
ガオは咄嗟に両腕を盾にして防ぐも、無駄なこと。私達の攻撃は上半身だけじゃなく、下半身にも及んでいる。しかも、一つ一つが力を込めた攻撃ばかり・・・・防ぐことは不可能。
「すごい!キックとパンチの嵐ッ!!こんなの絶対お姉ちゃん達の勝ちじゃん!!」
メアリはこの光景を見ながら、勝利を確信し無邪気に喜んでいる。それも当然。この状況なら、私達の勝ちは揺るがない・・・と、思った次の瞬間!
「タ~イムア~~ップ♪」
ガオは不気味な笑みを浮かべ、一瞬の隙をついて上空へ跳び上がる。そして、先ほど放り投げた青竜刀を掴み、そのまま宙で体を回転させる。
「器械拳奥義・・・・蜂絡嵐刃ッッ!!」
そのまま回転しながら地上に着地する。その回転による落下によって、鋭い刃の嵐が私達に襲いかかる。
『!!』
私とロバートは咄嗟に後ろへ跳んで攻撃をよけようとした・・・でも、遅かった。刃の嵐は私達を牙を向いて、体を切り裂く。
「ぐあぁぁぁぁぁ!!」
「きゃあぁぁぁぁ!!」
ガオの奥義を受けた私達は、地面に膝をついた。
「ふん、かろうじて後ろに跳んで、ダメージを抑えたか。」
ガオが言うように、私とロバートは咄嗟に後ろに跳んだから、ダメージはなんとか抑えられた。けど、二人とも傷はひどい。私は両腕、両足、両股、頭部・・・・ロバートは両足、両腕、両手、胸、肩、おまけに顔を隠しているヘルメットにも傷がついている。
「だが・・・・今ので体力は使い切ったようだな。」
また、ガオの言う通りだった。さっきのロバートとの連続攻撃で、私達は体力を失っていた。さっきの連続攻撃は一発一発に力を込めて放っていたから、そのせいで体力を使っていてしまっていた。さらに今受けた奥義のせいで、もう動けなくなっていた。
(まさかこいつ・・・・全部計算して・・・?)
「龍北青拳もこんなものか・・・・伸びしろはありそうだが・・・・殺しておかないとな。」
ガオはニヤリと笑い、青竜刀の切っ先を私に向けた。
「や、やめろ!その人は女だぞ!!」
「だからどうした?女だろうが格闘家は格闘家だ。負けた者は死ぬのみだ!」
ガオは青竜刀を振り上げた。殺されてしまう・・・・もうダメ・・・・私はそう思って目を瞑り、顔を背けてしまった。もう挽回できない、諦めるしかない・・・・家族を殺した仮面の男も見つけてないのに・・・・そう思いながら、私の脳裏に「死」の人文字がよぎる。
と、その時だった。ガオの頭に小石が当たった。
「ああっ?」
ガオは横に顔を向けた。そこには、腕に小石を抱えたメアリがいた。ガオに小石をぶつけたのはメアリだった。
「二人を・・・・二人を殺したら、私が許さないッ!!」
メアリはその叫びと同時に小石を次々と投げる。小石は次々とガオの体に当たっていく。だが、ガオは全くひるまず、じりじりとメアリに近づいていく。
「うるせぇなぁ・・・ガキがぁ・・・・」
ガオは冷めたような表情で青竜刀の峰の部分を肩に当てながら、メアリに近づいていく。
「メアリッ!!アンタ何やってんの!?早く逃げなさい!!」
「メアリちゃん、逃げろっ!!」
私とロバートはメアリが逃げるように説得しようと大声を上げた。でも、メアリは聞かなかった。次々と小石を投げ、それが無くなると、近くに落ちていた鉄パイプを拾い上げ、両手で持って先をガオの方へ向ける。
「一般人のガキが戦いの邪魔すんなよなぁ・・・今なら泣いて謝れば、許してやってもいい。」
「泣かないッ!!てやーーーーーっ!!」
メアリは鉄パイプを振りかぶり、ガオに向かって殴りかかる。しかし、ガオが素人の攻撃をよけられないはずもなく、なんなく振り下ろされた鉄パイプを掴むと、グイっと引っ張って鉄パイプを取り上げた。
「阿呆がッ!!」
ガオは鉄パイプを投げ捨てた後、メアリの頬を平手打ちした。
「うっ・・・あっ・・・・!」
頬をはたかれたメアリは、頬が赤く腫れ、その痛みと恐怖のあまり後ろに後ずさり、後ろにあった柱とぶつかり、その場にへたり込んでしまう。
ガオとメアリの戦力差はかなりかけ離れている。平手打ちだけでも、常人が耐えられないくらいの威力・・・そんな一撃をメアリみたいなか弱い女の子が喰らえば、唖然としてしまうのも当然・・・・
「な~にボンヤリしてんだよッ!」
ガオはそんなメアリを容赦なく追撃する。足を思い切り振るってメアリの腹にたたき込む。
「うっ!かはっ・・・・!!」
メアリは腹に重い一撃を受け、あまりの痛みに声も出ず、腹を抑えながらその場でうずくまる。
「ハア・・・!!ハア・・・!!」
「オラッ、痛ぇだろ?」
ガオは過呼吸気味のメアリの頭部を掴み、無理矢理上を向かせた。
「早いとこ謝っちまいな。そうすりゃ痛い思いをしないで済む。」
ガオの言う通りだった。素人のメアリが勝てる要素なんて一つもない。刃向かって勝てる相手でもない。私は心の底から願った。「メアリ、早く謝った方がいい!」と・・・我ながらに情けないけど、私がメアリだったら・・・・戦えない一般人だったらそうする。
でも、メアリが出した答えは・・・
「嫌だ・・・!!」
メアリの答えは、私の予想を反した。
「メアリ・・・!」
「・・・お前、この状況分かってんのか?」
ガオは鼻で笑いながら、メアリの頬を挟むようにして掴む。
「このカワイイ顔が、ブス顔になっちまう前に泣いて謝りな。」
「嫌ッ!!」
メアリはガオの手をはたいた。
「みんな、頑張って戦ってる・・・!痛いのにも、苦しいのにも耐えて・・・・!お姉ちゃんだって女の子なのに、逃げないで戦ってる!!だから私だって逃げない!!」
メアリは叫び声を上げ、よろよろになりながらも立ち上がり、ガオを睨みつける。
(私ったら・・・バカね、心底・・・あんな小っちゃい子が痛みに耐えて頑張ってるのに・・・・こんなチャチな切り傷とスタミナ切れぐらいで動けなくなっちゃうなんて・・・・本ッ当に情けないッッッ!!!)
私は自分の思い上がりが恥ずかしく思えた。「早く謝った方がいい」・・・?バカみたい。私が願うべきなのは、そんな事じゃない。本当に願うべきだったのは、「負けるなッ!」よ!!
「・・・そうかい、じゃあ・・・・その答えに後悔しな!」
ガオはメアリを殺そうと、青竜刀を振り上げた。その時、背後から気配を感じ、ガオは振り向いた。
振り向くと、そこには立ち上がっている私とロバートがいる。
「てめぇら・・・・」
ロバートも私と同じ結論に達したみたい。今、何をするべきなのかを。
「・・・どうして動ける?お前らの体力はもう限界のはずだ。」
ガオの疑問に、私達はニヤリと笑い、大きく息を吸い始め・・・・
『喝ッッッ!!!』
大声で叫び、力一杯足を一回地面に踏みつけ、拳を握る。
「やはり・・・気合いを入れる時はこれに限りますね・・・!」
「空手にもあるのね、この動作。ガオ・リアン、悪いけど・・・私達は絶対負けられないのよ!その子が、メアリが逃げずに戦う姿勢、見せてくれたからね!!」
「右に同じ!!ここで倒れれば、空手家の名折れというもの!!」
私達は笑いながら言った後、ガオを睨みつけながら、構えを取る。
「そうかい・・・・じゃあ、完膚無きまでにぶっ潰してやるよ!!」
ガオは再度青竜刀を構え、私達に剣先を向ける。
「ロバート、今から私が言うように動いて。」
私はロバートに小声で話し掛けた。
「私に秘策があるの。こいつをブッ倒せるぐらいの・・・・奥の手が。でも、これは互いの息が合ってないとできない大技でもあるわ。」
「でも・・・・今はそれに賭けるしかないんですね。」
私には秘策があった。その秘策は、奥義。器械拳にも奥義があるように龍北青拳にも奥義がある。だけど、その奥義は二人一緒じゃないと使えない技・・・・しかも、互いの息をピッタリ合わせないといけない。でも、技が決まれば相手への大ダメージは確実。ガオにも私達が喰らわせた連撃のダメージが残ってる。この技に賭けるしかない。
「OK・・・いけます!」
「じゃあ・・・行くわよ!まず、突っ込むッ!!」
私とロバートは同時にガオへ突っ込む。同様に、ガオも私達に向かって突っ込んできた。
「で、次は・・・・!」
私は次の指示を出そうとした。けど、それと同時にガオが青竜刀を振るった。
「攻撃をとにかくよける!!」
「はいっ!!」
私達はガオが繰り出してくる攻撃をとにかくよけ始める。なぎ払い、突き、袈裟斬り、すくい上げ斬り・・・そのことごとくをよける。
「で、次は・・・隙を見つけたら攻撃して!」
「随分・・・大雑把ですね!!」
ロバートは文句を言いながらも、ガオの突きをかわし、その隙を突いてガオの顔面にひじ打ちを喰らわせる。
「ごめんね!」
私もロバートに一言謝りながらも、ひじ打ちを喰らってよろめいたガオに腹に思い切り蹴りを喰らわせる。
「くっ・・・舐めるなぁっ!!」
ガオはバックステップで跳んだと思いきや、メアリがいる柱を飛び台代わりにして、上空から私達に襲いかかる。
「構えッ!!」
私はその一言とともに、構えを取る。その構えは、右手は拳を握って腰に、左手は前に突きだして手の形は爪を突き立てるような感じに、両足は広げて腰は少し落とす。ロバートは私の一言と一緒に同様の構えを取る。しかし私のと違うのは前に出す手や位置が違うこと。拳を握って腰に持って行く手は左手、前に突き出す手は右手、だけど足と腰は同じ。そして構えができたら、これを二人で背中合わせにする。
「器械拳奥義 装雨連武ッ!!」
上空にいるガオは、服の下に隠している鏢や短刀といった武器を全て取り出し、私達に投げつける。その様はまるで、武器の雨!だけど、無駄なこと。
『はあああ・・・・!!』
私達は突き出した手を円を描くように回し、飛んでくる武器を次々と受け流し、はじき飛ばす。
「ま、回し受け!?チィッ!!」
ガオは私達の回し受けに驚きながらも、青竜刀を両手で構え、私達に向かって振り下ろす。
バカな奴・・・近づいてきたのが運の尽き!
「今ッ!!」
掛け声と同時に、私とロバートは青竜刀を横に動いてかわし、すかさずガオの懐まで近づいて・・・・私は左手で、ロバートは右手で、ガオの顎目掛け、下から勢いよく掌底を繰り出す。
「がっ・・・ぐあっ!!」
顎に勢いよく掌底を喰らったことで、ガオの体はギュンッ!と一回転する。
そして、私とロバートは次の攻撃の態勢に入る。私は左足に、ロバートに右足に力を込める。腰を落として、当てる事に集中する。落ち着いて、息を合わせて、当てること、倒すこと、繰り出すことに・・・・集中!
「龍北青拳・・・!!」
「奥義・・・!!」
ガオは回転しながら下へ落ちていく。そこを狙って、私は左足を、ロバートは右足を振り上げる。
『龍仙花ッ!!』
私達は孤を描きながらのハイキックを繰り出し、ガオの腹にに一気に喰らわせる!
「ぐあっ・・・!!」
ガオは血反吐を吐きながら吹き飛び、壁に激突する。そして、その壁をも貫通し、ガオは外に追い出された。
「す、すごい・・・!!」
私達の技を遠巻きから見ていたメアリは、思わず口から感想が溢れた。
「龍北青拳・・・・舐めんなっ!」
私は男みたいな口調で吹き飛ばされたガオに向かって言い捨てた。といっても、もう聞こえてないだろうけど。
「こ、これが龍北青拳・・・・」
吹き飛ばされたガオは、龍北青拳の恐ろしさを思い知り、そのまま意識を失った。
その後、私達は警察に連絡し、ガオは逮捕された。私達はルーク達と合流した。
「・・・これは、どういうことだ?」
ルークはメアリの赤く腫れた頬を見て、珍しく怒っている。
それも当然。かわいい愛娘が怪我なんかしたら心配しちゃうし、怒りもするわよね。
「私は君達に、『頼んだ』と言ったはずだぞ。ドラゴンガール!ライトニンガー!」
ルークの言い分は外れてない。非は全部私達にある。
「・・・面目のしようもありません。」
「私も、謝っても謝りきれない・・・・」
私とロバートは謝って弁解しようとしたけど、できなかった。悪いのは全部私達だから。
「パパ・・・いや、ファウスト、違うの!悪いのは全部私なの!私が勝手について来たからこうなったの!自業自得!私が悪いの!お姉ちゃんとライトニンガーは何も悪くないの!」
メアリは私とロバートを助けようと、必死に罪を被ろうとしている。確かにメアリにも非がある。だけど、責任は私達の方が大きい。一人の女の子を守れずに、怪我をさせるなんて、ヒーローらしくないもの・・・・
「いえ、悪いのは全て私達です!」
「そうよ、私達は敵の強さに、諦めかけてた・・・でも、メアリは戦おうとした!」
「メアリちゃんは私達なんかよりも、遙かに強い心を持ったヒーローです!」
「お姉ちゃん・・・ライトニンガー・・・・」
私達はメアリを庇い、全ての責任を負おうとした。
すると、ルークの後ろにいたルイスが肩を叩いた。
「おじさん、こんなに言ってるんだし・・・許していいんじゃない?」
それに続いて、バルトロもルークの肩を叩いた。
「3人とも反省してるみたいだし、いいじゃねぇか。」
「お、俺もそう思うぜ。」
さらにロックも私達の味方をしてくれた。すると、ルークは私達に背を向けた。
「・・・・許せない。」
ルークは一瞬ため息をついたかと思うと、その非常な一言を口にした。それを聞いて、私とロバート、メアリは項垂れた。
やっぱり、許されるはずもない・・・・そう思った次の瞬間・・・・
「罰として、明日の朝食抜き!」
『へ?』
その意外な一言に、私達は間抜けな声が出た。
「それと、公園のゴミ拾い一週間!一日でもサボったら1日ずつノルマを足していく!わかったな!?」
『は、はい!』
私達は戸惑いながらも返事をした。
「全く・・・・困った子達だ。さぁ、帰るぞ。」
ルークはそう言うと、ゆっくりと事務所へ足を進めた。私達もその後について行く。
そして、ルークはため息をつきながらも、マスクの下では少し微笑んでいた。
その後、事務所に戻った私達「パラディンフォース」は、ロバートとバルトロと別れ、みんな自分の部屋に入って休んだ。その中で、パジャマ姿で髪を解いた私は、自分の枕を持ってメアリの部屋のドアをノックした。
「はーい、どうぞー」
気の抜けたような声の返事が返ってきた。私がドアを開けると、メアリはパジャマ姿でベッドに横たわりながら漫画を読んでいた。
「あれ?お姉ちゃん、どうしたの?」
私の姿を見るなり、メアリはキョトンとした顔で質問してきた。
「たまには私の方から行ってあげようと思ってね。一緒に寝ていい?ダメ?」
私がそう言うと、メアリはキョトンとした顔から一転、パーッと嬉しそうな顔になって私の腕を引っ張った。
「ううん、ダメじゃない!すっごく嬉しい!早く早く!」
「コラ、引っ張らないの!しょうがない子ね・・・」
私はメアリに引っ張られ、部屋の電気を消し、一緒のベッドに入った。
ベッドに入ると、私とメアリは互いに向き合うように横たわる。
「それにしても・・・・ルークが怒った時はどうなるかと思ったわ。」
「ああ、アレね。アレ、パパ本気で怒ってないよ。」
「えっ、そうなの?」
「そうだよー、本気で怒った時は・・・・それはもう・・・・!」
メアリはルークが本気で怒った時の事を想像した。すると、メアリの顔が青ざめ、ガタガタと震え始めた。
(そんなに!?)
メアリの反応を見て、私はルークの事は怒らせないでおこうと思った。・・・半殺しにされそうな気がするし。
「そ、そういえば、メアリはあの時怖くなかったの?」
私は話題を変えて、ガオに殺されそうになった時のことをメアリに尋ねた。
「全然!だって、お姉ちゃん達が絶対あいつを倒すってこと、わかってたもん!あの時のお姉ちゃんとロバートさんの合わせ技!すっごい格好良かった!」
メアリはニコニコ笑いながら、嬉しそうに語った。その様は、私から見ると、まるで「怖くなんかない!」と、強がってるようにも見えて、私はメアリの頭に手を置き、ゆっくりと撫でる。
「私は・・・メアリの方が格好良く見えたけど?」
「えっ?」
「ロバートも言ってたけど・・・・あの時のあなたは最高のスーパーヒーローよ。スパイダーマンよりも・・・ね!」
私がそう言うと、メアリはハッと目を見開いて驚いたかと思うと、すぐに目をウルウルさせ、目に涙を溜めながら私に抱きついてきた。
「ハァ・・・本当は怖かったから泣いてるの?それとも嬉し泣き?」
「・・・両方!」
私の質問に、メアリは涙ぐんだような声で答える。
「褒めてやった途端にこれか・・・・」
私はため息をつきながらメアリの頭を撫でた。
まだまだ小さいし、弱いし、甘えん坊だし、しょうがない子だけど・・・・とても強い心を持った小さいヒーロー、それがメアリ・エイマーズ。私達「パラディンフォース」の影のヒーロー。私はこれからも、この小さいヒーローさんを応援していこうと思う。
今回、敵として登場したガオ・リアンですが・・・今後再登場させるかどうか、少し悩んでます。一発キャラにしちゃうにはちょっともったいないかなぁーと・・・




