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ファウスト ~FIRST HEROS~  作者: 地理山計一郎
第2章「出会いと過去の激闘編」
15/38

第13話「プロレスヒーロー」

今回は準レギュラー第2号の登場です!



「はい、粗茶ですが・・・・」

「ありがとうございます。」


この日、ロバートは私達の家に遊びに来ていた。実はこの日、リンが中国のお茶葉を買い、それをふるまってくれているのだ。そこで、せっかくなのでロバートも招待し、お茶会を開いている。


「うん・・・美味い!冷たいウーロン茶もいいが、こういう温かいウーロンも格別だな。」

「このお茶はどこで買ったの?チャイナタウン?」

「そう、ショッピングがてらに覗いたんだけど、意外といいお茶が見つかったから買ってきたの。これと一緒にね。」


リンはそう言うと、棚からある物を取り出し、テーブルに置いた。

「おっ、フォーチュンクッキーか。」

リンが棚から取り出したのは、フォーチュンクッキーだ。中には占いが書いてある小さい紙が挟まっていて、これを取り出してから食べる変わったクッキーだ。


「何が出るかな・・・・」

私達は挟まっている紙を取り出し、残ったクッキーを口に放り込む。


そして、占いの紙を見てみると、私の方には「思いがけない出会いが、その人の運命を変える」と書いてあった。


「出会い・・・か・・・・そういえば最近、メフィストを筆頭にいろんな人と出会ったなぁ・・・・」

私は占いの紙に書いてある言葉を見て、メフィストと最初に出会った時のことを思い出した。

それからファウストとなった私はいろんな人と出会った。ロック、ルイス、リン、ロバート、ニコラス・・・・そう考えると、この占いも的外れではない気がしてきた。


「そういえばさ、前にロバートとリンちゃんが戦ってた時さ、リンちゃん雷のダメージ喰らってなかったよね?」

「あっ、それ私も気になってました。」

独り言を言っていた私をよそに、ロバート達は別の話をし始めた。


確かに、あの時リンだけがロバートに流れる雷のダメージが入ってなかった。私やロック、ルイスは触れただけで体が痺れたのに。


「ああ、あれね。」

すると、リンは得意気な顔を浮かべながら、あの時電撃が効かなかったトリックを語り始めた。

「あれは、中国拳法に伝わる”気功”よ。」

「キコウ?」

「略すと”気”とか”闘気”ね。わかりやすく言うなら、人間の体に流れるエネルギーのことを言うんだけど、中国の拳法家の中にはその”気”を自在に操って攻撃とか怪我や病気を治すのに利用することができるの。」

「ふーん・・・じゃあ、リンちゃんは?使えるの?」


ルイスの質問に、リンは答えなかった。だが、その代わりに目をつぶりニヤリと笑うと、右手の親指を上に立て、ルイスに見せつけた。

それを見たルイスは「リンは"気"を使える」と解釈し、口笛を吹いた。


「やるぅ。」

「で、あの時は全身に”闘気”を纏って、鎧の代わりにしたの。」

「だから私の電撃は効かなかった・・・ということですか。」

「そういうこと!」

リンの解説に、私達は納得し、ウンウンと頷く。


「”闘気”か・・・・私にもそんなものが使えればなー・・・」

“気”を使ってみたくなってきた私は、テーブルの隅に置いてあったテレビのリモコンの前に手をかざしてみた。

「ムー・・・・・ハッ!」


私は気合いを溜めて声を発した。だが、何も起きない。もしかしたら”気”でテレビに電源が入ると思ったんだが・・・・

「おかしいな・・・ハッ!ハッ!」

私は何度も気合いを入れて声を発するも、何も起きない。


その様を見ていたリンは、ため息をつきながらリモコンを取り上げた。

「素人ができるわけないでしょ!私だって5年間修行してやっとある程度操れるようになれたんだから・・・・しかも、その手の達人だと最低10年以上は修行しないとマスターできないんだから。」


リンはそう言うと、リモコンをテレビの方に向け、電源を入れた。テレビが映ると、ニュース番組がやっており、ちょうど芸能関連のニュースが報じられていた。

『こんにちは!芸能ニュースのお時間です。昨夜午後8時頃、プロレス界の若きヒール(悪役)が衝撃の発表を告白しました。』


テレビに映るキャスターがそう言うと、その横にプロレスラーの写真が写し出された。身長は私と同じくらいで、肉体は私以上に屈強、短めの茶髪にごつい顔・・・・絵に描いたようなプロレスラーだ。

『「イタリアの暴れ馬」とも呼ばれた男、バルトロ・アゴスティーニが昨夜の記者会見で引退を発表しました。』

「バルトロが引退だって!?」

私はニュースの報道に、思わず声を荒げた。


「どうしたのおじさん?あのごつい人、おじさんの知り合い?」

「バルトロは格闘技界じゃ少しは名の知れた名前なんだ。彼は20歳にしてプロレスラーとして参加し、数々の戦いを繰り広げてきた。途中、悪役レスラーになってしまったが、なんと6年前に世界チャンピオンとして君臨し、その後は今年に至るまで、ずっとチャンピオンの座を死守してきた男なんだ。」

私は得意気に腕を組みながら得意気にバルトロについてを皆の前で解説した。


「はー、よく知ってるね、おじさん。」

「私は昔、彼の試合を何回か見ていてな・・・・あれは凄かったなー、バルトロが相手選手の頭に向かってゴングを叩きつけたり、パイプを武器にしたり・・・・」

「ざ、残酷な・・・・」

私が昔見たバルトロの試合の光景を話すと、ロバートは冷や汗を掻きながら呟いた。


「しかし、まだ28歳なのに、引退とは早すぎるな・・・・どうしたんだろうか。」


私はバルトロの突然の引退発言に、違和感を覚えた。それもそのはず、プロレスラーが20、30代で引退することはありえないのだ。プロレスラーが引退する年齢は大体40代ほどだと言われているが、40代、50代でも現役として活躍しているレスラーは大勢いる。言ってしまえば、20、30代のレスラーは、今が伸び盛りなのだ。なのに、今引退するなんて早すぎる。


「そういうもんなの?ってか、このおじさん28!?おじさんより年下!?老けすぎでしょ!」

ルイスはバルトロの年齢に驚き、声を上げた。確かにバルトロと私の顔を見比べてみると、バルトロの方が老けて見える。


その翌日、私達はいつものように事務所で仕事をしていた・・・が、今日は誰もお客さんが来なかった。


「・・・来ないなぁ。仕方ない、ここに2人残って、後の2人はパトロールに行こう。」

『ウィース!』

「よし、じゃあジャンケンだ!」

『最初はグー!ジャンケン・・・・ポン!』


ジャンケンをした結果、私とルイスがパトロール、ロックとリンが店番になった。ジャンケンで結果がわかると、私とルイスは街に出てパトロールを開始した。


「あっ、そうだ!」

「ん?」

パトロールの最中、ルイスが声をかけてきた。


「いいこと思いついちゃった。そこの喫茶店でお茶でも飲みながら、仕事サボ・・・・いや、休んでおこうよ。」

今、一瞬「サボる」と聞こえた私は、ルイスの頭を軽くチョップした。

「ダメだ!そうやって若い内からサボり癖を作っていたら、ろくな大人にはならないぞ!」

私はそう言うと、ルイスを置いて先へ行こうと足を進めた。


「い、いや、でもさ~!あれ?」

「どうした?」

ルイスは何かに気づいたようで、私はそれに気づき、ルイスの方を向いた。


「ねぇ、あれってさ・・・・」


ルイスはすぐ近くの喫茶店の前に立ち、向こう側を指差した。指差した場所を見てみると、見覚えのある男が椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。


「おじさん、あれってさ・・・・」

「ああ、あれは間違いなく・・・・バルトロだ!」

そう、喫茶店の席にバルトロ・アゴスティーニ本人が座っていたのだ。


その姿を見た私は、思わず喫茶店の中に入った。

「あっ、おじさん?」

ルイスの静止も聞かず、私はズカズカと中に入り、バルトロへ近づいた。バルトロの方はこちらに気づいておらず、ずっとどこかを見ていた。


「バルトロ君!」

「あっ?」

私の事に気づき、バルトロはこちらを向いた。


「おっ、あんた前にテレビで見たな・・・・確か・・・・」

「パラディンフォースだよ。」

バルトロが私達のチーム名を思い出そうとした時、後から入ってきたルイスが答えた。


「おう!それそれ!『パラディンフォース』だ!」


バルトロがそう答えると、私はコクリと頷いた。すると、ふと周りを見てみると、他のお客さん達が私達の方に詰め寄ってきた。


「『パラディンフォース』だ!本物だ!」

「スゲー!本物のファウストだ!」

「エレメントガイー!!サインしてー!!」

「ドラゴンガールはいねーのかよー!」

「スティールキッドはいないのー?」

お客さん達はガヤガヤと騒ぎながら野次を飛ばしている。


「こ、困ったな・・・・これじゃバルトロと話せない・・・・」

「はぁ、仕方ないなぁ・・・・はーい、みんなー!ウチのリーダーはちょっと用事があるからー!みんなの相手は僕がしてあげるよー!」

ルイスはため息をついたかと思うと、私とバルトロが話をできるように大声を上げ、みんなの注目を自分へと向けさせた。


「キャー!エレメントガイ、サインください!」

「うん、いいよ。君カワイイねぇ、なんなら写真も撮る?その代わりTwitterには乗せないでね。ウチのリーダー、Twitter嫌いだから。」

ルイスは語りながら女の子に自分のサインを渡した。


「えー、ホント?」

「ホントだよー、この前なんてさ、テレビでスマホ関連のニュースやってた時さ、『ネットを通しての会話じゃ、相手の心がわからないじゃないか!自分の声と相手の声で語り合うべきだろう!言葉を話す人間ならば!』なーんて言うからさー、困っちゃったよー」

「アハハ!面白―い!」

「あっ、この間なんてさ・・・・」


ルイスはべらべらと長話を始めて他のお客さんの気を引いている。・・・余計なことまでべらべら喋ってるようだが。まぁ、事実だが。


「いやー、まさかこんなところで正義のヒーローさんに会えるなんてなぁ!」

「いや、こっちこそ驚いたよ。まさかここでバルトロ君と会えるとは思ってなかったよ。君の試合は何回か見たことがある。あまりに凄かったんで、DVDまで買ってしまったよ。」

私がそう言うと、バルトロは照れくさかったのか、片手を後頭部に当てて掻いた。


「へへへ、照れるなぁ。」

「しかし、テレビで見たが、引退というのは早すぎないか?君はまだ28歳・・・・プロレスラーにしてみれば、まだ伸び盛りじゃないか。」

私の言葉に、さっきまで照れ笑いを浮かべていたバルトロの表情は曇った。


「うん?ああ、まぁな・・・・」

「何か怪我か病気でもしたのか?心の病か?君のファンとして、できることがあれば相談に乗るぞ。」


私がそう言うと、バルトロはフッと笑ったかと思うと、喫茶店の向こう側を見た。

私もそちらを向くと、喫茶店の向こうには小さい花屋があった。そこで女の人が花の手入れをしている。


「・・・?あの人がどうかしたのか?」

「実は・・・・俺、あの人の事が好きなんだ。」

「な、何!?そうなのか!?」

私はバルトロの独白に驚き、思わず席から立ち上がった。


「そうか・・・・そうだったのか・・・」

私は冷静さを取り戻しつつ、もう一度席に座った。


「別に・・・・どうこうしたいとか思ってるわけじゃないんだけどよ・・・まぁ、一言言うなら・・・・『一発ヤリてぇな』っていうのはある!」

「ぬぅ~~~しっ!!」

バルトロの一言に私は奇声を上げながら椅子から転げ落ちた。


その時、私は思い出した。このバルトロという男が、どういう男なのかを・・・・バルトロは、かなりの変態としてプロレスファンから知られている。行く先々で出会う女の子に対して次々とセクハラまがいの発言、知り合いの女性に対しては今のように「一発やらせろ」だの「乳揉ませろ」だの・・・・セクハラ発言が目立つ。それに加えて、本人にそのことをなじって悪態をついても、この男は落ち込むどころか、逆に喜んでしまうのだ。その功績(?)を讃えられ、プロレスファンからは「天然記念物の変態」と呼ばれている。


「はー・・・君にはホントに驚かされるよ。試合といい、今の発言といい・・・・」

「いや~、照れるぜ!」

「褒めてないけど?」

(人間というのはバカだな・・・)

と、スーツに変化したメフィストはひそかに思っていた。


「しかし、それが引退とどう関係あるんだ?」

「そんなの簡単だよ。万一にあの人と結婚して子どもが生まれた時、俺がまだ悪役レスラーを続けていたら、奥さんと子どもが、苦しんじまうだろ?」

私はその言葉を聞き、正直ホッとした。だがその反面、さらに不安な感じも押し寄せてきた。

「なるほど、君も考えているんだな・・・・だが!」

私はその一言と同時にテーブルを強く叩いた。


「まず君はその性格と性癖と変態ぶりを直しなさい!!だから今の今まで独身だったんだろ!!」

「ええっ?そう言われてもなぁ・・・・」

バルトロは私の言葉に動揺しているようだ。


私は彼の肩を掴み、さらに言った。その時、周りは私の行動に驚いて、こちらを見ていたが、私は気づかなかった。


「いいか!?君はこのままその変態ぶりを直さないと、リングネームの『イタリアの暴れ馬』から『イタリアの面汚し』に改変されてしまうぞ!!」

「い、いや、俺もうレスラー引退したんだけど・・・・」

「いいから自分を変えるんだ!変態から真人間に変わるんだ!じゃないとあの子に告白できないぞ!!」

私はバルトロの肩を激しく揺らした。それによってバルトロの頭がガクガク揺れる。


「わ、わかった!わかったよ!わかったから揺らすな!!」

バルトロの言葉に、私は肩を揺らすのを止めた。

「よーし、わかったなら君の新しい生き甲斐を探し、あの女性とゴールインを決めるんだ!」

「ゴールイン?一発ヤることか?」

「だからそれがよくないと言ってるんだッ!!」


こうして、私とルイスはバルトロを真人間にし、花屋の女性とゴールインを決めるため活動を始めた・・・

「いらっしゃいませー!あれ?あなたは・・・・確かプロレスラーの・・・・」

「おっ、俺のこと知ってんのか!ありがたいねぇ。」

バルトロはスーツ姿に身を包み、花屋を訪れた。しかし、これは私達の策略の一つだ。


「・・・・ねぇ、おじさん。これ本当に成功すんの?」

「もちろんだとも!名付けて、『お友達から始めませんか?作戦』!!」


私の作戦はこうだ。まず、バルトロは店に通い、そこの常連となり、さらには友達になり、さらにさらにそこから交流やデートをしてさらに親睦を深める作戦だ。


「ダッサイネーミングだなぁ!っていうか、これって僕達にとって意味あるの?僕達はニューヨークを守るヒーローじゃなかったっけ?」

ルイスの言うことはもっともだった。我々はニューヨークを、弱き人を守るヒーロー・・・・


だが・・・・

「確かにそうだ・・・だが、こんな言葉がある・・・・それはそれッ!!」

「ッ!?」

「これはこれッ!!」

私はとびきりの気迫を込め、ルイスに向かって言い放った。


「な、なんか意味がわかんないけど、反論できない・・・・!!?」

ルイスは私の言葉に動揺しているようだ。

すまないルイス・・・・だが、これはニューヨークの為、世の女性のため、バルトロの本人の為、バルトロを真人間にしなければならないのだ!


それからというもの・・・・バルトロはすっかり彼女と仲良くなっていった。花屋の女性・・・名前はベティ。目立たない感じの落ち着いた印象の女性だが、時折見せる彼女の笑顔はなかなかに美しい。バルトロが惚れたのも頷ける。


「あははっ!バルトロさんたら冗談ばっかり!」

「いや、本当だって!俺ァ、若いころはクマだって倒したんだぜ?」

この日、バルトロとベティは2人きりで遊園地へ出掛けていた。一通り遊園地の乗り物に乗って遊んだ後、2人は中にあるカフェで一息ついていた。


「うんうん、良い感じになってきたじゃないか!」

私とルイスはその様子を離れた場所から見守っていた。この日は一般人として変装して様子を見守るため、ヒーローコスチュームは身に着けていない。


「意外にイケるもんだねぇ、あんなダサイ作戦名なのに。」

と、その時だった。


「なーにやってんの・・・よ!」

「ぬふしっ!?」

「ごふばっ!?」

後ろから女性の声が聞こえたかと思うと、私とルイスの脳天にチョップが振り下ろされ、脳天に痛みが走った。


「だ、誰だ!?」

私は後ろを振り向いた。振り向くと、そこには店番していたはずのリンとロックがいた。

姿は私達と同じく、私服だ。


「あっ、リンちゃんにバカ男。どうしたの?」

「誰がバカ男だ!こっちが聞きてぇわ!」

「なーんか最近よくパトロールに出ると思ったら・・・・こんなところで油売ってたわけ?」

リンは顔は笑ってはいるが、声のトーンと醸し出す雰囲気からして、かなり怒っているようだった。無理もない。私とルイスは適当に言い訳つけてパトロールのフリをしてたわけだから・・・・怒るのも当然だ。


「さーて、今なら言い訳を聞いて上げてもいいけど・・・・言った瞬間にストレートパンチ一閃するわよ?言わなくてもするけど。」

「どっちにしても救いなし!?」

リンはニコニコ笑いながら拳を鳴らしている。


・・・こうなっては仕方ない。私は潔く、リンの前に立った。

「わかった・・・・私も大人だ。大人しくしよう。・・・・謝罪の代わりと言ってはなんだが・・・・リン、私を一発なぐ・・・!!」

「殴れ」と言おうとした瞬間、リンは即座に私の顔面にストレートパンチを繰り出した。


「ごふっ!な、殴られた代わりとして、本当のことを話そ・・・・おぐわっ!ごぶあっ!!」

私は殴られた代わりとして事情を説明しようとしたが、リンは有無を言わさず、私を何度も殴り続けた。この殴りの猛襲から解放されたのは5分ぐらい経ってからのことだった。


「そっかぁ・・・そういうことだったんだ。」

「そういうことです・・・・」

殴りの猛襲から解放された私はなんとかリンに事情を説明した。


「知らずに殴っちゃってごめんなさい・・・・殴ってスッキリしたのは事実だけどね。」

リンは私に一言謝ったかと思うと、すぐニコッと笑って「ストレス解消」できたと言ってのけた。

(リンはドS・・・・恐ろしい子!)


「でもよ、見た感じ・・・もう仲良さそうじゃねぇか?放って置いても大丈夫なんじゃねーか?」

「いや、油断できん!あの男は『天然記念物の変態』と言われた男だぞ?いつ、ベティに向かって卑猥なことを言うかわかったもんじゃないぞ!」

「でもねぇ、こうやって監視をするのもデートを楽しんでる2人に対して失礼なんじゃないの?」

「そ、それは・・・・」

リンの言葉に、私は思わず戸惑ってしまった。一応正論ではあったからだ。


「変態を真人間に戻すのも大事だと思うけど、その人のことを信じてあげることも大事なんじゃないの?」

「う、うーん・・・・」

更なるリンの一言に、私は腕を組み、唸り声を上げた。


そして、私は長考の末、結論を出した。

「・・・確かに、そうかもしれないな・・・・変態も彼の個性だ。その個性を殺すようなことは間違っているかもしれないな。それに、ヒーローが人を信じなかったら、終わりだもんな。」

「でしょ?まぁ、私は変態は大嫌いだけど。」

「ははは・・・とにかく、もう帰ろうか。2人の邪魔をしちゃ悪いし。」

「そうだね。」


私達は、これ以上バルトロのデートの邪魔はしまいと、遊園地から立ち去ろうとした。

と、その時だった。突然、どこからともなくトランペットの演奏が流れ始めた。


「ん?なんだぁ?」

「あっ、あそこ!」


ベティは音が聞こえた方向を指差した。そこには白塗りのトラックがいつの間にか駐まっており、その前には黒のタキシードにピエロの仮面をつけた男がトラックの前に立ちながらトランペットを吹いていた。


「レディース&ジェントルメンの皆様ッ!!突然の演奏、大変恐縮です。此度は皆様に素敵なプレゼントをご用意しております。」


仮面の男は演奏を終えて、挨拶を始めたかと思うと、指と指を合わせて指を鳴らした。すると、それに呼応するようにトラックのコンテナが開いた。

すると、中からマネキンのような人形が大量に出てきた。しかも、歩行をしている。


「すげー!人形が動いてる!」

「どうなってるの!?」

「映画の宣伝?ピアノ線?」

私達も驚いていたが、他のお客さん達もその動く人形に驚いているようだ。


「フフフ・・・こんなこともできますよ。」

仮面の男はそう言うと、両腕を指揮者のように振ってみせた。


すると、人形達は突然ダンスを踊り始めた。ジャズを踊る人形、バレエを踊る人形、創作ダンスを踊る人形・・・・人形の一つ一つが、まるで意思を持ったかのようにそれぞれが違うダンスを踊っている。

それを見た人々は仮面の男に拍手喝采を送った。


「すごい技術だな・・・・どうなってるんだろう・・・・」

私は人形を意のままに操る仮面の男の技術に感心した。


『おい、ルーク!』

すると、メフィストが私に呼びかける。

『悪魔の気配がする!』

メフィストの一言に、私達の表情はキリッとしたものに変わり、すぐさま臨戦態勢がとれるよう、立ち上がった。


「場所は!?」

『場所は、この中だ!』

「皆様に喜んでいただき、誠に嬉しく思います。ですが、ここからが本番です。そもそも、私の目的はただ皆様に人形劇を見せることではありません・・・・私の目的は・・・・」

『そして、その悪魔の主は・・・・奴だ!!』

「私の目的は、ここにいる皆様全員殺すことでございます。」


メフィストの一言に私達は驚愕し、仮面の男の一言に他のお客達は騒然とした。

仮面の男は全て語り終わると同時に指を鳴らした。


「やれ。」

男の一言で、人形達は一斉に遊園地にいる人間達に襲いかかった。職員、警備員、お客・・・・お構いなしだ。


『これは人形を操るアーツ・・・「人形操作」だ!』

「相変わらずそのままなネーミングだね。」

『奴から感じる悪魔の気配は小さめだ・・・・恐らく、継承型だ!』

メフィストが話していると、人形の数体が私達の方に突っこんできた。


「ハッ!!」

私は向かって来た人形の一体に向かって拳を繰り出し、人形の頭部にヒビを作った。

「そらよっと!!」

ルイスは向かってきた人形の突進を片足で止め、さらにそこからサマーソルトキックを繰り出し、人形の顎を蹴り飛ばす。

「ハァァ・・・発ッ!!セイッ!!」

リンは一呼吸置いたかと思うと、向かって来た人形達の足をしゃがみ足払いで払い、足払いで回転した反動を利用して一気に立ち上がり、回転しながらの回し蹴りで人形達を数体を一気に蹴り飛ばした。

「どけどけどけぇぇぇ!!どうなっても知らねぇぞ!!」

ロックの方は逆に人形がいる方に向かって行き、片っ端から殴り蹴りの猛襲で人形を破壊していく。


「ロック、リン、ルイス!人気のない所へ行け!変身だ!うおっ!?」

私はロック達に変身するよう呼びかけた。だが、その瞬間、後ろから多数の人形達が私に襲いかかり、私は人形の山に押し潰された。


「おっさん!」

「ルーク!」

「おじさん!」

その様を見て、ロック達は私を助けようと、私の元へ駆け寄ろうとした。


「い、いいから行け!変身したら一般人の救助と避難を優先しろ!!私なら大丈夫だ!!」

私はロック達に私の救助ではなく、他の人の救助を優先するよう促した。

ロック達は一瞬戸惑ったような表情を見せたが、すぐさまキリッとした表情に戻り・・・

『了解ッ!!』

大きく返事をしてその場を離れていった。


次は私の番だ。変身するなら、私も隠れる必要があるが・・・・私の上に乗っかっている人形は5体以上・・・・私の姿も見えるか見えないかわからなくなってきている。


「これだけ乗っているなら・・・・隠れ蓑にはちょうどいいな!メフィスト!!」

『言われなくてもわかってるわい!!』

メフィストは私の呼びかけに応じ、自分の姿をスーツへと変化させ、私をファウストへと変身させた。


「筋力強化だ!」

私の一言に、メフィストは前にパドロから奪ったアーツ、「筋力強化」を発動させた。


「ウオオオオオオオオオッ!!」

「筋力強化」によって、私の筋肉は1.5倍に肥大化し、その力を使って私は上に乗っている人形達をものともせずに立ち上がった。

だが、人形はまだ私の体に纏わり付いている。そこで私は、両手で体に付いた人形の手足を一体ずつ掴む。そして、ヌンチャクを振るうように両手に持った人形を振り回し始める。

すると、私が人形を振るう速度と風圧によって、体に纏わり付いた人形達は次々と剥がれていく。


「よし・・・このまま親玉まで突っこむ!」

人形を振り落とした私は、「筋力強化」を解除し、そのまま親玉である仮面の男のところまで走り始める。


「あれは・・・ファウスト!?紛れ込んでいたか・・・!行け、人形達!!」

仮面の男の指示で、人形達が一斉に私に襲いかかってくる。


それに対し、私はボクシングの構えを取る。そして、向かって来た1体に、まず鋭いジャブを数発たたき込み、その後すかさず左フック、からの右アッパーで殴り飛ばす。

すると、殴り飛ばした1体目の後ろから2体目が飛び出して来た。私は1体目の顔面を踏み台にして飛び上がり、2体目に飛び蹴りを食らわせる。

そこにさらにもう1体人形が来る。飛び蹴りから着地した反動で、前の方に前転しながら3体目に近づき、立ち上がる拍子に突進し、3体目を突き飛ばす。

突き飛ばされたことでよろめいた3体目は、後ろにいた4体目と5体目にぶつかってしまう。私はそこですかさず、思い切り助走をつけてドロップキックを繰り出し、3体まとめて蹴り飛ばした。


「くっ・・・!さすがは『パラディンフォース』のリーダーか・・・・!!だが、私のアーツの真骨頂はここからだ!!」

仮面の男はそう言うと、手に持ったラッパを吹き始めた。すると、不思議なことに倒したはずの人形達が動き始めた。


「なに!?倒したはずなのに・・・・!!」

さらに、まだ倒されていないもの、ロック達と戦っているものが皆、仮面の男の元に集まり始め、その人形の集まりはやがて大きくなっていき、人の形を作っている。


「こ、これは、まさか・・・・!!?」

察しのいい者はもう気づいているだろう。仮面の男の元に集まり、巨大な人の形を作った人形達は、巨人となって私の目の前に現れた。


「ハハハハハハッ!!これが私の切り札!ジャイアントドール!!行けっ!!」

『オオオオ・・・・』

仮面の男が命令をすると、ジャイアントドールはうめき声を上げながらゆっくり歩き出し、私の方へ向かって来た。


「こ、こいつは骨が折れそうだ・・・!」

私はジャイアントドールの姿を見て、思わず生唾を飲んでしまった。ジャイアントドールの大きさはおよそ4、5m前後・・・・軽く私の倍はある・・・・私はこんな巨大な敵と戦ったことはないから、思わず不安になってしまった。


「メフィスト・・・何か作戦はあるか?」

『ああ、もちろん考えて・・・ぬうっ!?』

その時、メフィストは突然奇声を上げた。

「どうした!?」

『い、今の気配・・・・ここに悪魔の力を持つ者がもう1人いるぞ!!』

「何!?新手か!?クソ・・・・!!」


私はメフィストの言葉に不安を抱きながら、拳を握った。ロック達は今、他の人達の避難誘導に当たっている。そして私は1対2の不利な状況での戦闘を余儀なくされている。それも、ただの人形一体のような雑魚ではなく、例えるなら格闘技のプロを2人も同時に相手にするようなもの・・・・苦戦は必死だろう・・・・と、思ったその時だった。


「おい、てめぇ!!」

物陰からバルトロが飛び出し、私と仮面の男の前に出て、大声で叫んだ。


「てめぇか・・・・俺のデートの邪魔しやがったのは!!」

「バルトロ!?」

私が呆気にとられていると、次にベティが物陰から飛び出した。


「バルトロさん!危ないですよ!!」

ベティはバルトロの腕を掴み、早く逃げようと腕を強く引っ張り始めた、が、ただの女性にプロレスラーの体を引っ張って動かすことなどできるはずもなく、バルトロは一歩も動かないままだ。


「大丈夫だぜ、ベティ!あんな奴、この俺がブッ倒してやるよ!」

「え、ええっ!!?」

「む、無理だバルトロ!!君では無理だ!!」

私とベティはバルトロのいきなりの発言に驚いた。確かに、バルトロはチャンピオンになるほどの実力はあるが、あの巨人に勝てる実力があるわけではない。


「ククク・・・なるほど、あなたが『イタリアの暴れ馬』、バルトロ・アゴスティーニですか・・・・どうやら死にたいらしいですね・・・ジャイアントドール、行きなさい!!」

仮面の男はジャイアントドールに命令を下し、ジャイアントドールはバルトロに向かってのしのしと近づき始めた。


『オオオオ・・・・』

「バ、バルトロさん、早く!!」

「大丈夫だって!暴れ馬に任せとけって!」


ジャイアントドールが近づいて来ているにも関わらず、バルトロは逃げようとしない。しかもニヤリと笑って待ち構えている。そんなバルトロを見て、ベティは「早く逃げよう」と言って、腕を引っ張るが、バルトロは何度も「大丈夫!」と連呼して聞かない。


「くっ・・・!バルトロ、逃げろ!!」

私はバルトロを助けようと、ジャイアントドールの横を通り過ぎ、側まで駆け寄ろうとした。だがその瞬間、ジャイアントドールは私の存在に気づき拳を振るってきた。


「なっ・・・ぐあっ!!」

殴り飛ばされた私は、バルトロの所から離れてしまった。さらにジャイアントドールは間髪入れずに、バルトロに向かって拳を振り下ろす。


「あぶねぇ!!」

拳が振り下ろされた瞬間、バルトロはベティを巻き込むまいと、両手でベティを突き飛ばした。それによってベティは難を逃れた。だが・・・・逆にバルトロはジャイアントドールの拳に潰されてしまった。


「バルトローーーッ!!」

「バルトロさーーーんッ!!」

私とベティは思わず叫んだ。さらに、私はバルトロを、人を助けられなかったことへの責任感に苛まれそうになった。バルトロはプロレス界、格闘界の新芽・・・・それを潰してしまったことへの後悔も、同時に押し寄せた・・・・


だが、その時・・・・

「なんだぁ?この程度かよ。」

その時だった。ジャイアントドールの拳の下から、潰されたはずのバルトロの声が聞こえた。


「バ、バカな!?」

「この声は・・・!?」

「バルトロさん!?」

「おうよッッ!!」

バルトロは大きく返事をし、拳の下から思い切り力を入れ、ジャイアントドールを押し返した。


『オオオオ・・・・!!?』

ジャイアントドールは驚嘆の声を上げつつ、ゆっくりと地面に倒れた。


『そ、そうか・・・!!今わかったぞ!!奴も、奴もまたアーツを持った者の1人だ!!』

「なに!?バルトロが!?」

『間違いないッ!!』

「さーて、こっからは俺の番だな。覚悟しなッ!!」


バルトロはそう言うと、バッと両手を開き始めた。すると、彼の両腕に紫色の火花のようなものが現れ始めた。


『こ、このアーツは・・・・!!』

その時、驚いたことにバルトロの腕から紫色の火花が出たと同時に遊園地内のありとあらゆる鉄くずがバルトロの両腕に集まり始めた。


「鉄くずが奴を中心に・・・・!!?」

『やはり、奴のアーツは「磁力操作」だ!!その名の通り、意のままに磁力を操れる!』


メフィストがバルトロのアーツを説明していると、バルトロの鉄くずが集まった両腕は巨人のような腕に変化した。


「おっさーーん!!」

その時、ロックの声が聞こえ、私は後ろを振り返った。そこにはロック達がいた。どうやら、他の人の避難誘導は終わったようだ。


「みんな!」

「うわっ!何あれ!?」

「バルトロさ。彼もアーツを使えるんだ。」

ロック達もバルトロの変わった姿に驚いている。


「な、何をしている、ジャイアントドール!奴を始末しろ!!」

『ゴッ!!』

ジャイアントドールは命令を受け、すかさずバルトロ目掛けて拳を突き出した。普通、ここで攻撃はよけるものだろう。だが、バルトロは・・・・よけない!そのまま真正面から攻撃を受けた!


「ごふっ・・・!!」

「何やってんだよ!なんで攻撃よけねーんだよ!!」

ロック達はバルトロの行動に驚嘆し、ロックは思ったことをすぐに口にした。

「いや、あれでいい!」

「はっ?」

「プロレスラーとしては・・・あれが正しい!」


私が今言ったように、バルトロの行動はプロレスラーとしては正しい行動だ。まず、プロレスというのは、攻撃をよけない!プロレスとは、ヒーロー番組と同じなのだ。ヒーローが悪役にこっぴどくやられてしまうが、最後の土壇場で一気に逆転し、打ち倒す!!それがプロレス!!

バルトロはその流儀に習って、ジャイアントドールの攻撃を次々と受けている。確かに、プロレスとしては正しいが、この場でプロレスの流儀が通じるとは限らない!逆転できずに死ぬこともありえる!!


だが、バルトロは攻撃を受けすぎて、血を流している。

「フッ、フハハハハハッ!!驚かせやがって・・・・結局はこけおどしか!!ジャイアントドール、このまま一気に・・・・」

「・・・ねぇ・・・・」

「あっ?」

仮面の男が命令を出そうとした瞬間、バルトロは小さく何かを呟いた。


「レスラーってのは辛いねぇ・・・・って、言ったんだぜ。お前、攻撃が来たときはよけるか?」

「何を言っている・・・・当たり前だろうがッ」

バルトロは仮面の男に対して質問を投げつけた。仮面の男はさも当たり前のことを口にして返答する。


すると、バルトロは笑った。

「気楽なモンだねぇ~、お前みてーな奴は!敵の攻撃をよけていいんだからよぉッ!!」

「な、何ィッ!!?」

「バルトロ・・・・そこまで言うかッ!!」


バルトロは仮面の男に対して、というより、私を含めた全格闘家に皮肉を言った。確かによけられない分、レスラーの方が不利。こう言われてしまうと返す言葉も・・・・

「な、なら、プロレスラーなんかにならなければいいだろ!!」

と思った矢先、仮面の男は逆にバルトロに問いかけた。


だが、バルトロは・・・

「バーカ!!プロレスラーってのはヒーローと同じなんだよ!!俺はヒーローになりてぇからプロレス始めたんだ!!ヒールになったのは、上の連中が勝手に決めたことだ!!」

「どうでもいいわっ!!ジャイアントドール、とどめだ!!」


仮面の男はバルトロにとどめを刺そうとジャイアントドールに命令を出した。ジャイアントドールはその命令通り、両手を握ってスレッジハンマーをバルトロに向けて繰り出した。

だが、バルトロに拳が当たる瞬間・・・・バルトロは変化した巨大な腕で攻撃を止めた。

「な、何っ!?」

「チャーンス♪フンッ!!」


バルトロはニカッと笑ったかと思うと強張った顔に瞬時に変わり、ジャイアントドールの腕を思い切り引っ張った。急に腕を引っ張られたジャイアントドールは体勢を崩し、前方向によろめいた。バルトロはその隙を逃さない!引っ張った後にジャイアントドールの体を駆け上ったかと思うと、変化した巨大な左腕でジャイアントドールの首を締め上げ、右手でジャイアントドールの後頭部を掴み、そのまま地面に着地し、ジャイアントドールの体を持ち上げた。


「ウオオオオオオオオオッ!!」

「バ、バカな!!5mはあるジャイアントドールを・・・・!!」

「こいつで・・・トドメだ!!」


その叫びとともにバルトロは磁力を操作して目の前に鉄くずで作ったリングロープを作り出す。そして、そこに飛び込み、ロープの反動で跳びはねて上空へ。

「ロデオメテオッッ!!!」

その叫びとともにバルトロはジャイアントドールの脳天を固いコンクリートの地面に叩きつける。リングマットの上ならいざ知らず、固いコンクリートに頭を叩きつけたとならば、無事では済まない。ジャイアントドールの頭は完全に砕け、バラバラに散開してしまった。


「おっしゃあッ!!」

「す、すげぇ!!あんなデカ物を倒しちまったぜ!プロレスすげぇ!!」

「アーツの恩恵もあるけど、あの人自身の力もすごいなぁ・・・・」

「確かに『暴れ馬』って感じね・・・・!」

私達はバルトロの強さにただただ驚くだけだった。いや、この強さを一般人から見ても驚くだろう。


そんな私達をよそに、仮面の男はこっそりとバレナイように逃げようとした。

「コラッ!」

私はそれを見逃さない。私は仮面の男を捕まえ、壁の方へ追いやった。


「ヒィ~~~!!許してください!な、なんでもしますからぁ!!」

先ほどの態度はどこへやら、仮面の男は急に態度がよそよそしく、弱々しい感じになった。


「なら答えろ!なぜ私達や一般人の人達を襲った!?それに、その力はどこで手に入れた!?」

「答えます答えます!こ、この力は、『スポンサー』って人からもらったんです!!そしたら、殺した奴の数に応じて大金をやるって言うから・・・・」

私からの質問に、仮面の男は全て答えた。そして、私はその答えを聞いた瞬間、怒りに覚えた。


「・・・それに応じたのか?」

「か、金に困ってましたから・・・・!!」

「この・・・大馬鹿者ォッ!!」

怒りに震えた私は、仮面の男を叱咤したと同時に、顔面に思い切りストレートパンチを繰り出した。


「がばぁぁぁっ!!」

パンチを食らった仮面の男の仮面は砕け、男は遠くまで吹き飛んだ。

「いいか?確かに金は大事だ。衣食住・・・全てにおいて必要だ。だが、そのために人を殺すのは違う!お金が欲しいなら、ちゃんと真面目に働いて・・・・!!」

「あのー、おじさん?この人もう聞いてないよ。」

私は男に対して説教を始めたが、男の方は私の一撃ですでに気絶していた。


「スポンサー・・・・そういや、俺にこの力ぁくれたのも、そんな名前の奴だったなぁ・・・」

「本当か?なら、スポンサーは何が目的なんだ・・・?」

仮面の男の言葉と、バルトロの一言によって、さらに謎が深まる結果になった。スポンサーは敵なのか、はたまた味方なのか・・・・


「バルトロさん・・・」

「おおっ、ベティ!無事だったか?」

その時、ベティがバルトロの元に駆けつけた。


「バルトロさん、すごく・・・格好良かったです!」

「へへっ・・・・だから言ったろ?『大丈夫』だって・・・・」

バルトロが「言っただろ?」と続けて言おうとした瞬間、ベティはつま先立ちで背伸びをしたかと思うと、バルトロの頬に優しくキスをした。

『おーーー・・・・!!』

私達はその光景を見て思わず声を上げてしまった。ロックに至っては恥ずかしいのか、赤面していた。


「・・・・へへっ・・・ガーハッハッハッハッハッ!!やったぜい!!ヒャッホウッ!!」

「キャッ!!」

バルトロは子どものように喜びながら、ベティを抱き上げた。


「このままデート再開だー!!」

「や、やだ、バルトロさんったら・・・・は、恥ずかしいですよ・・・・!」

「そんなところも大好きだー!!ハッハッハッハッ!!」

バルトロは豪快に笑い声を上げている。ベティからご褒美をもらって喜んでいるのもあるが、恐らく、大好きな人を守れた喜びで見ているのだろう。


バルトロは、テレビではヒール・・・悪役として活躍していたが、今の私の目には、そうは映らない。むしろヒーロー・・・・バルトロはこの時から、ヒールからヒーローに生まれ変わったのだ。



2週間後・・・・戦いの後、バルトロはベティの自宅でもある花屋で住み込みで働くことになった。ベティとは少しずつではあるが、結ばれつつあるらしい。


「いやー、あの時はアンタに世話になったな。しっかし、まさかアンタの正体がルーク・エイマーズだったとはなぁ!」

この日、私はベティの花屋を訪れていた。そして、自分の正体も明かした。2人は最初は驚いたが、あまり気にならなかったようだ。


「あまり大きな声で言わないでくれ。一応、一般人には秘密だからな。」

「わかってるって!んで、今日はどうしたんだ?」

「実はな・・・・今日は折り入って、君に仕事を紹介しようと思ってな・・・・」

「仕事?」

私の一言に、バルトロは首を傾げた。


「前、遊園地で君が言ってただろ?『ヒーローになりたかったからプロレスを始めた』って・・・・」

「ん~、まぁな。」

「その願い、叶えられるぞ。」

私がそう言うと、バルトロはその意味を理解したのか、ニヤリと笑った。それを見た私もニヤリと笑った。


「それってもしかして・・・・」

「そう!私と同じく、ヒーローになってみないか?」

「やっぱりそう来たか!」

バルトロは笑いながらそう言った。それをよそに、私はポケットから腕輪を取り出した。ロック達がヒーローコスチュームに変身するときに使うものと同じだ。


「この腕輪に、君のヒーローコスチュームが入ってる。ヒーローになるかならないかは君の自由だ。」

「うーん・・・俺は別にいいんだけどな・・・・」

バルトロはそう言いながら、チラチラとベティの方を凝視した。


「悪いけど・・・・」

「別にいいわ。」

「えっ?」

バルトロは私の申し出を断ろうとしたが、その瞬間、ベティが一言呟いた。


「別にいい・・・って言ったの。」

「いいって・・・お前・・・・」

「あの時・・・・あの時のバルトロは、すごく格好良かったわ。確かに、あなたは変態だし、セクハラはするわ、ドMだわでいいところなさげだけど・・・・」

ベティはバルトロに対して熾烈な言葉を言い放った。しかし、流石はバルトロ・・・・熾烈な言葉を言われて落ち込むどころか、満面の笑みで喜んでいる・・・・


「でもね、あの時からあなたは・・・・私にとってのスーパーヒーローなの。でも、私は、あなたが私だけのヒーローでいるより、みんなのヒーローになって欲しいの。」

ベティはそう言うと、バルトロに顔を向けニコッと笑った。


「みんなのヒーローかぁ・・・・」

バルトロはベティに言われ、顎に手を当て悩み始めた。すると、決心がついたのか手を一回叩いた。

「よっしゃ!そんじゃまぁ・・・・真面目にヒーロー、やらせてもらうぜ!!」

バルトロは高らかに宣言すると同時に、私が取り出した腕輪を手に取った。


そして、ここに新たなヒーローが誕生した。元はプロレスのヒールレスラーとして活躍していたが、心機一転。本物のヒーローとなるべく、持ち前のプロレス技と磁力を操る力を手に、悪と戦う。そして、そのヒーローの名は・・・・



「てめぇら!!よく聞きな!!俺はみんなを守るスーパーヒーローになる駆け出しヒーロー・・・・その名も、マグネイターだッ!!」




バルトロのモデルは、前のバイト先の上司。レスラーではありませんが、変態であるところはそのまんまです。

「こんな人もいるんだなぁ」って思いました。

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