第11話「悪夢からの目覚め」
今回はロックの過去編となる回です。ロックの心中や過去の話がメインになるので、戦闘シーンはほとんどありません・・・理解した上で読んでいただければ嬉しいです。
俺は、夜が嫌いだ。
正確には、夜に寝ることが嫌なんだ。夜は・・・怖いんだ。夜、寝ている時、いつも同じ夢をみる。
「ハァ・・・!ハァ・・・!」
夢の中で、俺はいつも暗闇の中を走ってる。でも、走っても走っても光は見えない。ただただ暗闇が続くだけ。
なんで走ってるかって?・・・それは、追いかけてきてるからだ。俺を飲み込もうとする、どす黒い影が・・・
『ねぇ、待って・・・待ってよぉ・・・』
「来るな!来るんじゃねぇ!!」
その影は子どもみたいな声で俺を追いかけてくる。俺はそれから必死に逃げる。でも、いつも途中で転んで、倒れちまう。
『ねぇ、どうして逃げるの?僕は君なのに。』
「違ェ・・・!お前は俺なんかじゃねぇ!!」
俺はそう言って、頭を抱えてうずくまる。
『どうして拒絶するの?悲しいから?それとも悔しいから?』
その影は呟きながらどんどん近づいて来やがる・・・
『でも、もういいよ・・・』
そして、その子どもみたいな声は、化け物みたいな禍々しい声になった。
顔を向けると、その影は悪魔みたいになって、しかも巨大になって、俺の体を掴み上げた。
『17年も頑張って生きたんだ・・・もう充分でしょ。ここで僕に喰われて、死んじゃえよ。』
「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・!!」
「!!」
夢から覚め、俺は飛び起きた。外はもう朝になってた。体は汗でびしょびしょで、目からは恐怖で涙が出てた。
夢はいつも俺が喰われるところで終わる。あの影がなんなのかは俺にも分からない。でも、おおよそ予想はつく。アレは、俺の中にある自殺衝動だ。
俺はストリートで生まれた。生まれてすぐに親に捨てられて、その後ホームレスのジジイに拾われて育った。とは言っても、そのジジイも5歳の時に死んじまった。それからは恐怖の毎日だった。ヤク中どもの住み処に入ったこともあるし、ストリートギャングに殺されかけたこともあるし、変態親父に売られそうになったこともあった。
あっ・・・自己紹介まだだったな。俺はロック・オルグレン。って言っても・・・もう知ってるか?
「ロックー!朝練だぞー!」
その時、おっさんが部屋のドアをノックしてきた。
「あ、ああ!」
俺は慌てて涙を拭った。怖い夢見て泣いてたなんて、かっこ悪くて言えねぇ・・・
俺が涙を拭ったタイミングで、おっさんが入ってきた。
「ん?どうした、汗がびっしょりじゃないか!寝苦しかったのか?」
「ちょっとな・・・でも関係ねぇよ。どうせ朝練で汗掻くし・・・」
「それならいいが・・・一応タオルで拭っておきなさい。」
「ん・・・」
俺は汗を拭い、ジャージに着替えた。そんで、いつも通り朝練をする。
体を動かすのはいい・・・嫌なこと全部忘れられる・・・あの夢のことも。
「ゼェ・・・ゼェ・・・!」
・・・まぁ、度がすぎると疲れるけどな。俺はまた全速力のジョギングをしてしまい、息切れで倒れた。
「だーかーらー、バカじゃないの?そんなに走ったら保たないっての!」
「う、うるへー・・・」
ルイスに注意されて、俺は呂律の回ってない声で答えた。
朝練が終わって朝食を食った後、俺はリンと一緒にパトロールに出た。おっさんとルイスは事務所の方で仕事だ。
パトロールする時は私服だ。毎回毎回ヒーローコスチュームでパトロールしてたら、目立つからな。
「・・・なぁ、リン。お前さ、怖い夢とか見たことあるか?」
俺は突拍子もなくリンに尋ねた。
「なによ、突然。」
リンもいきなり尋ねられて困ってる。
「そりゃあ、怖い夢ぐらい見るわ。私の嫌いなゲジゲジがたくさん湧いて、体中を這い回る夢とか・・・」
リンは青ざめた顔で見た夢の内容を語った。それを聞いて、俺は思わず想像してしまった。
自分の嫌いな虫が体中を這い回る・・・聞いただけで吐き気がしそうだ。
「うぇ・・・確かにそりゃ怖いな・・・」
「で、それがどうしたの?」
「いや・・・毎日毎日怖い夢見続けることって、あるのかなぁ・・・って思っただけ。」
俺は静かに呟きながら、目線を逸らした。リンは腕を組んで唸り声を上げた。
「うーん・・・私にはわかんないけど、やっぱり心理的なものなんじゃないの?」
「心理?」
「そう。悪夢ってストレスとか、潜在意識に恐怖や不安を感じてるときに見ちゃうって、ネットに書いてあったわ。」
潜在意識・・・俺のあの夢も、俺の中にある自殺衝動が夢を見せてんのかもしれない。
と思った矢先、俺は見覚えのある通りが目に入った。
「・・・」
「ロック?どうしたの?」
「・・・悪い。ここからは二手に分かれて行こうぜ。俺、こっち行くから。」
「はぁ?」
疑問の声を上げるリンを無視して、俺はその通りに入った。
「ちょっ、ちょっと!もう!」
この通りは覚えてる。昔、よく通ってた場所だ。
通りを出ると、そこにはあまりに古くなって、使われなくなった公園・・・があったんだが、もう取り壊された。
今は駐車場になってる。
「・・・あの公園、無くなったのか。」
俺は口ずさみながら、手すりに腰掛けた。
小さい頃にたくさん怖い思いをした俺は、自殺をしようしたことが何度かあった。1回目は5歳の時にヤク中どもの住み処に入った後、2回目は6歳の時にストリートギャングにボコボコにされた後、3回目は7歳の時に変態親父に体を滅茶苦茶にされそうになった後・・・
そして決まってここのトイレに隠れてた。人のいないトイレが一番安心できた。
何度も何度も自殺を試みたが・・・そのたびに怖くてできなかった。でも、10歳の時、本当に自殺をしたんだ。カッターで手首を切って。
手首から血が流れて、痛くて痛くて泣き叫んだ。「このまま死ぬんだろうな」って、そう思えた。
でも、死ななかった。いや、一応死にはしたんだ。なのに助かった。目の前に現れた、アイツのおかげで・・・・
『哀れな子よ・・・』
どこからともなく声が聞こえてきた。
「誰・・・?」
『悲しき生まれの子よ・・・死して何を望む?天国へ行き、女神の胸に抱かれて眠るか?それとも、地獄に墜ちて業火に焼かれるか?それとも・・・この世をもう一度生きるか?』
「・・・・」
その声は、俺に問いかけてきた。天国か、地獄か、この世か・・・
聞かれた途端、俺は涙が出てきた。死んでるはずなのに、不思議と溢れてくる。
「生きたい・・・!生きたいよぉ・・・!!」
俺は泣きながら叫んだ。
『成れば、生きよ。そのための力は、このステインがくれてやろう。』
ステインって言ったそいつが呟くと、俺の、切れたはずの手首の痛みが無くなった。
『お前の体は鉄へと生まれ変わる。お前はもはや、何も恐れることはない。お前の体には刃も銃弾も通らない。お前は鉄の男だ!』
ステインの語りと同時に、俺の体は鉄のような色の肌に変わっていった。壁や床を叩くと、ゴンゴンっていう鈍い音がする。
「僕・・・本当に鉄になったの?」
俺は自分の体をまじまじと見つめた。死のうと思って死のうとしたら、逆に生き返って鉄の体を手に入れた。そして、俺に力をくれたステインは、俺の目の前にいた。
体は岩みたいにゴツゴツしてて、頭は牛みたいで、まるでミノタウロスみたいだった。
『力を得た子よ、名はなんという?』
「・・・グレン・・・じぃじがつけてくれた。」
俺は拾ってくれたホームレスのジジィがつけてくれた名前を言った。それだけで、俺はジジィとの日々が思い出し、泣きそうになった。
『グレン・・・ならば、このステインが良い名前を付け足してやろう。お前の名は・・・ロック・オルグレン。』
「ロック・・・オルグレン・・・」
ステインが付けてくれた名前、「ロック・オルグレン」・・・それが俺の名前になった。
『ロック、強くなれ。どんな男よりもだ。』
ステインはそう言うと、俺の体に吸い取られるように消えていった。
「あ、あれ!?」
『俺はお前を見続ける。お前を見守り、その行く末を見届ける・・・』
ステインはその言葉を最後に、俺の前から消えた。いや、俺の中にいるから、消えてはいないんだ。
ステインのおかげで、俺は強くなれた。それからの7年間、俺は強くなった。誰にも負けない、誰にも屈しない男になるために。
なのに、まだあんな夢見るなんて・・・
「まだ弱いんだな、俺・・・」
俺は独り言を呟いて、その場を離れた。リンと合流することにした。
街の通りに出ると、不思議なことが起こっていた。
「あ?なんだ?」
街のみんなが横たわって苦しんでいる。
「ううっ・・・!!や、やめろぉ・・・!!」
「怖い・・・!怖いよぉ・・・!」
「や、止めてくれ!そんなものを向けないでくれ・・・!!」
いや、みんな苦しんでいるというより、悪夢にうなされているみたいだった。
「お、おい!しっかりしろ!」
俺は近くにいた子どもの方を掴んで揺らした。でも、起きない。
「無駄ですよ。私の悪夢からは逃げられない。」
その時、どこからともなく声が聞こえてきた。
声が聞こえた方に振り向くと、そこには白衣に身を包んだ学者風の金髪男が立っていた。
「まだ眠っていない人がいたんですねぇ・・・」
「ロック!」
その時、リンが俺と合流した。
「リン!一体どうなってやがんだ!?」
「アイツのアーツよ!アイツがアーツを使ってみんなを眠らせちゃったのよ!」
「ご名答。」
リンが状況を説明すると、金髪男は手を叩いた。
「私のアーツは『悪夢』。人を眠らせ、悪夢を見せる能力です。私はデニー。しがない学者なのですが・・・少々実験をしたかったのです。」
「実験だぁ?」
「"集団悪夢シンドローム"を起こすのです。集団に終わらない悪夢を見せると、身体にどんな影響を及ぼすのか見てみたいと思いまして・・・そして私は行動を・・・」
その時、俺はデニーを話の途中で思い切りブン殴った。
「テメェの考えなんて知ったことか!テメェが悪さをしたことには変わらねぇんだよ!!」
俺は怒鳴りながらデニーの胸倉を掴んだ。すると、デニーは笑い始めた。
「ク、ククク・・・話は最後まで聞かないと。」
「な・・・に・・・!?」
その瞬間、俺に強烈な眠気が襲いかかった。
「ロック!?」
「て、めぇ・・・!何しやがった・・・!?」
「フフッ、今、貴方は私を殴りましたね?それが間違いだ。私の体に触れた者は眠りに落ち、悪夢を見てしまうのです。」
「・・・なん・・・だと・・・!?」
俺は眠気に耐えながら立ち上がろうとするが、膝をついてしまった。
「抵抗しようとしても無駄ですよ。私の悪夢からは逃れられない!」
「ちく・・・しょう・・・!」
とうとう俺は眠気に勝てず、そのまま倒れ、眠ってしまった。
「ロック!アンタ・・・覚えてなさい!!」
リンは俺を抱きかかえ、デニーに捨て台詞を吐いて立ち去った。
「ロック、しっかりしろ!」
抱きかかえられた俺は、事務所まで戻った。
自分の部屋のベッドに寝かされ、おっさんに体を揺すられた。
「無理よ!絶対に起きないわ!」
『「悪夢」のアーツは、契約者を直接倒すか、眠った者が自力で起きるしか道はない。』
メフィストは「悪夢」のアーツを解除する方法を話した。自力で起きるか、デニーを倒すしかないらしい。
「仕方ない・・・ロックはこのまま寝かせて、私達はデニーの方をなんとかしよう!」
おっさんの提案に、寝ている俺を除いた全員が賛成した。
「メアリ、ロックを頼む!」
「うん!」
おっさんはメアリに俺を任せて、即座に行動に移った。
おっさん達がいなくなって、部屋は俺とメアリの二人きりになった。
「・・・悪夢に打ち勝つ・・・か。ロックなら、大丈夫だよね・・・」
メアリは小さく呟いて、俺の手を握った。
普段だったら滅茶苦茶興奮しちまうだろうが、寝てるからそんなことには気づかない。
「うっ・・・ううっ・・・!!」
俺は唸り声を上げた。
また、あの夢が・・・
「ハァ・・・!ハァ・・・!」
いつもと同じあの夢だ。暗闇の中で、俺がずっと走る夢・・・
『待って・・・』
「うるせぇ!!」
俺は怒鳴り声を上げて逃げる。
またアイツが追いかけてくる。どす黒い影が・・・
「うわっ!」
そして、また途中で転ぶ。
『今日はすぐ会えたね。嬉しいな、僕。』
「あ・・・?」
転んだ俺に近づいてくるその影は、みるみる小さくなって、その姿を現した。
「お前・・・俺・・・!?」
そいつの正体は、小さい頃の俺だった。怖いものをたくさん見た、恐がりだった頃の俺・・・
『こんなことになるなんて、予想外だよね。いつも途中で目が覚めちゃって、君は消えちゃうけど、今だったら最後まで僕と一緒だね。』
もう一人の俺・・・影って言った方がいいのか?影は、俺に近づきながら呟く。
「そっとしてくれよ!どうして俺に構うんだよ!」
俺は涙目になりながら影に向かって叫んだ。
『それは、僕が君の願望だからだよ。』
「えっ・・・?」
俺は思わず声を上げた。
『君も薄々気づいてたんじゃない?僕が、君の中に眠る自殺衝動だって。』
「お前が、俺の・・・?」
『そう。君はずっと「死んで楽になりたい」ってずっと思ってたんだ。なのに、それを押し殺してずっと我慢してたよね。』
その通りだった。俺は心の底で、「死にたい」って思ってたんだ。でも、怖くて死ぬことなんてできなくて、ずっとそれを隠してた・・・
『君はよく頑張った。だから、楽になりなよ。』
影はそう言うと、その姿を変えはじめた。夢の最後の方に出てくる巨大な怪物に。
その時だった。俺の右手が急に温かくなった。まるで、誰かに握られてるみたいに。
「右手が・・・」
その時俺は思った。確かに俺は、心の底で「死にたい」と思ってた。だけど、今の今まで、それを押し殺すことができたのはなんでだ?アーツをもらって、強くなるって決めた時からか?いや、違う。
俺は頭が悪いなりに色々と考えた。すると、頭に声が響いた。
『ナイスファイト。』
おっさんの・・・ルークの声だ。俺を打ち負かして、敗北を教えてくれた人・・・
あの人と出会ってから、俺は越えるべき壁に出会えた。心の底から「強くなりたい」って思わせてくれる人・・・俺は、あの人を尊敬してる。
「・・・そうか・・・」
俺はわかった。どうして、自殺衝動を抑えられたのか。
『さぁ、大人しく僕に喰われて、死んじゃえよ。』
影は俺を喰い殺そうと、手を伸ばしはじめた。その瞬間、俺は奴の手を殴り飛ばした。
『!?』
「うるせぇ野郎だな・・・!テメェはもうお呼びじゃねーんだよ、クソッタレ!」
俺が今日まで自殺衝動を抑えていられたのは、ルークのおっさんがいたからだ。おっさんは俺に、生きる道をくれた。乗り越える壁も一緒に!
『ぼ、僕を否定するの!?僕は君だ!君と同じ、グレンだ!』
「違うッ!!」
俺は叫んだ。そして、拳を空に掲げた。
「スティール・キッド、ロック・オルグレン!それが俺の名前だッ!!」
俺はステインがつけてくれた名前を叫び、硬質化した体で怪物化した影に突っ込んだ。
「テメェは邪魔だ!!消えちまえーーーーッ!!」
叫びとともに拳を繰り出した。拳が胸の中心にブチ当たると、影はたちまち消えていった。
「二度と出てくんな!!」
「・・・ロック、ロック!」
俺を呼ぶ声が聞こえる。
「ん・・・」
その呼び声に、俺は目を覚ました。
起きると目の前にはメアリがいた。
「やった!気がついたんだね!」
俺が起きたのを見るなり、メアリは嬉しそうに言った。
「・・・あっ!そうだ、あのデニーって野郎はどこ行った!?ぶっ飛ばしてやる!!」
俺はデニーのことを思い出し、部屋から飛び出そうとした。
「落ち着いて落ち着いて!そのデニーなら、他のみんなが倒しにいったから!」
「えっ!?じゃ、じゃあ俺、出番なし!?」
「うーん、今から行っても間に合わない・・・かも。」
「嘘だろー・・・」
俺は落ち込み、またベッドに倒れた。
「でも、倒したって連絡はまだ来てないから・・・ロックは自力で悪夢から目覚めたんでしょ?」
「・・・まぁ、そうだな。」
俺はあの夢に出てくる影を倒した。だから自力で目が覚めたと言えるかもしれない。
「すっごーい!そっちの方がかっこいいよ!」
「そ、そうか・・・?」
「うん!」
メアリは笑顔で頷いた。それを見て、俺も思わず笑顔が溢れた。
「そ、そうだよな!俺って超かっこいいよな!前々から気づいてた!」
「うん!私も手を握った甲斐があったよ!」
「へ?」
メアリの一言で、俺は右手の違和感に気づいた。俺の右手を、メアリがずっと握っていた。
それに気づいた瞬間、俺は顔が真っ赤に染まった。
「ご、ごめんっ・・・!!」
俺は顔を赤くしながら慌てて手を離した。
すると、可笑しかったのかメアリはクスクスと笑いはじめた。
「フフッ、手を握ったぐらいで赤くなっちゃうなんて・・・ロックって結構ウブだね。」
「ううっ・・・だ、だって、女の子と二人きりになったことなんて無かったし・・・」
俺は顔を染めながら、「それにメアリのこと好きだし」って言いかけたけど、恥ずかしいから言えなかった。
「メアリー!」
その時、おっさんがいきなりドアを開けて入ってきた。その後ろにはルイスとリンもいる。
「ロックの様子は・・・あっ、ロック!気がついたのか!」
おっさんは目が覚めた俺を見るなり、近づいて手を握ってきた。
「お、おっさん・・・あの野郎を倒したのか?あいつに触ると眠くなっちまうんだぜ?」
『「武器化」のアーツで奴を脅して後、奴を殴って気絶させたのだ。』
メフィストはそう言って得意気に腕をマシンガンに変えた。それに続いて、おっさんは苦笑いを浮かべた。
「ヒーローとして脅すのは忍びなかったが・・・まぁ、おかげで街の人達を目覚めさせることができた。デニーの身柄は警察に任せたし、『悪夢』のアーツは奪ったから、これでもう悪用はできない!」
「なんだ・・・結局俺の出番無しかよ・・・」
おっさんからデニーを倒すまでの経緯を聞いて、俺は少し落ち込んだ。
「そんなことはないさ。君が咄嗟に奴に向かっていったから、攻略法がわかったんだ。そう落ち込むな!」
おっさんはそう言って、俺の肩を叩いた。俺を励ましてくれてるみたいだ。
励まされて、俺は少し照れくさくなった。
「う、うん・・・」
照れくさくなったせいか、俺は子どもみたいな口調で返事をした。
「でも、今日はおじさんだけで良かったんじゃない?僕とリンちゃんの出番、全然なかったじゃん。」
「確かに。」
「何を言ってるんだ!全員で戦うからこそ意味があるんだ!仲間がいれば士気もあがるし、知恵を駆使して戦える!」
「うーん・・・知恵、ねぇ・・・」
リンとルイスは不安そうな目でおっさんを見つめた。
まぁ、このチームの中で頭いい奴限られてるから、こんな目付きになるのもしょうがない。
「な、なんだその目は!?た、確かに私は頭が悪い!4桁以上の計算もできない!でも、そこをみんなで・・・!」
おっさんは二人に「頭悪い」と思われるのが気になったらしく、必死に反論しようとしてる。
ルークのおっさん・・・やっぱりこの人といると・・・いや、こいつらと一緒にいると俺の心が、暖かくなる気がする。
それなのに、俺はこいつらに自分の過去を隠したままでいいんだろうか・・・
「あ、あのさ!」
「?」
「そ、その・・・引いちまうかもしれないけど・・・昔の俺のこと、聞いてくれるか?」
俺は勇気を振り絞って、自分の過去を話した。
これで「変」だと思われても、哀れみを抱かれても構わない。俺は、俺の仲間に隠し事なんてしたくない。
俺は過去を全て話した。でも、みんなは憐れんだり、引いたりもしなかった。むしろ受け入れてくれた。
特にルークのおっさんは俺を抱きしめて、「よく話してくれた。話してくれてありがとう。」って言ってくれた。ついでにメアリも一緒に抱きしめてくれた。
抱きしめられて、俺は拾ってくれたジジィのことを思い出した。ホームレスだったらから見てくれも汚かったし、臭かったけど、いつも俺を抱きしめて安心させてくれた。
そのことを思い出して、俺は泣きそうになった。でもそれは必死で耐えた。
リンは何も言わず飯を作った。作ってくれたのは俺の好きな肉料理。
ルイスは、俺にこう言ってくれた。
「正直言って、君のことあんまり好きじゃなかった。バカだし、後先考えないし、すぐ敵に突っ込むわで・・・結構舐めてた。でも今は違う。君はそのままでいい。見せつけてやれよ、君の力を!悪党どもにさ!もしダメそうだったら・・・僕達が手伝うよ。」
俺は嬉しかった。皮肉屋のルイスがそう言ってくれただけで、俺はすごく嬉しかった。
メフィストは・・・特に何もしなかったけど、あいつもあいつで、何か考えてるんだと思う。
みんな自分なりに俺のことを受け入れてくれた。ありがとう・・・みんな。
その日から、俺はあの夢を見ることはなくなった。
人って何かしら誰かに隠したい秘密とかありますよね。私にもしょーもない秘密が1つや2つぐらいあります。
それはそれとして、過去編で「ロックは過去にコカインを吸ったことがある」と書こうと思いましたが、さすがにマズイ気がしたので止めました。




