表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファウスト ~FIRST HEROS~  作者: 地理山計一郎
第2章「出会いと過去の激闘編」
13/38

第11話「悪夢からの目覚め」

今回はロックの過去編となる回です。ロックの心中や過去の話がメインになるので、戦闘シーンはほとんどありません・・・理解した上で読んでいただければ嬉しいです。


俺は、夜が嫌いだ。

正確には、夜に寝ることが嫌なんだ。夜は・・・怖いんだ。夜、寝ている時、いつも同じ夢をみる。


「ハァ・・・!ハァ・・・!」


夢の中で、俺はいつも暗闇の中を走ってる。でも、走っても走っても光は見えない。ただただ暗闇が続くだけ。

なんで走ってるかって?・・・それは、追いかけてきてるからだ。俺を飲み込もうとする、どす黒い影が・・・


『ねぇ、待って・・・待ってよぉ・・・』

「来るな!来るんじゃねぇ!!」


その影は子どもみたいな声で俺を追いかけてくる。俺はそれから必死に逃げる。でも、いつも途中で転んで、倒れちまう。


『ねぇ、どうして逃げるの?僕は君なのに。』

「違ェ・・・!お前は俺なんかじゃねぇ!!」


俺はそう言って、頭を抱えてうずくまる。


『どうして拒絶するの?悲しいから?それとも悔しいから?』


その影は呟きながらどんどん近づいて来やがる・・・


『でも、もういいよ・・・』


そして、その子どもみたいな声は、化け物みたいな禍々しい声になった。

顔を向けると、その影は悪魔みたいになって、しかも巨大になって、俺の体を掴み上げた。


『17年も頑張って生きたんだ・・・もう充分でしょ。ここで僕に喰われて、死んじゃえよ。』

「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・!!」



「!!」


夢から覚め、俺は飛び起きた。外はもう朝になってた。体は汗でびしょびしょで、目からは恐怖で涙が出てた。


夢はいつも俺が喰われるところで終わる。あの影がなんなのかは俺にも分からない。でも、おおよそ予想はつく。アレは、俺の中にある自殺衝動だ。

俺はストリートで生まれた。生まれてすぐに親に捨てられて、その後ホームレスのジジイに拾われて育った。とは言っても、そのジジイも5歳の時に死んじまった。それからは恐怖の毎日だった。ヤク中どもの住み処に入ったこともあるし、ストリートギャングに殺されかけたこともあるし、変態親父に売られそうになったこともあった。


あっ・・・自己紹介まだだったな。俺はロック・オルグレン。って言っても・・・もう知ってるか?


「ロックー!朝練だぞー!」

その時、おっさんが部屋のドアをノックしてきた。

「あ、ああ!」

俺は慌てて涙を拭った。怖い夢見て泣いてたなんて、かっこ悪くて言えねぇ・・・


俺が涙を拭ったタイミングで、おっさんが入ってきた。


「ん?どうした、汗がびっしょりじゃないか!寝苦しかったのか?」

「ちょっとな・・・でも関係ねぇよ。どうせ朝練で汗掻くし・・・」

「それならいいが・・・一応タオルで拭っておきなさい。」

「ん・・・」


俺は汗を拭い、ジャージに着替えた。そんで、いつも通り朝練をする。

体を動かすのはいい・・・嫌なこと全部忘れられる・・・あの夢のことも。


「ゼェ・・・ゼェ・・・!」


・・・まぁ、度がすぎると疲れるけどな。俺はまた全速力のジョギングをしてしまい、息切れで倒れた。


「だーかーらー、バカじゃないの?そんなに走ったら保たないっての!」

「う、うるへー・・・」

ルイスに注意されて、俺は呂律の回ってない声で答えた。


朝練が終わって朝食を食った後、俺はリンと一緒にパトロールに出た。おっさんとルイスは事務所の方で仕事だ。

パトロールする時は私服だ。毎回毎回ヒーローコスチュームでパトロールしてたら、目立つからな。


「・・・なぁ、リン。お前さ、怖い夢とか見たことあるか?」

俺は突拍子もなくリンに尋ねた。

「なによ、突然。」

リンもいきなり尋ねられて困ってる。


「そりゃあ、怖い夢ぐらい見るわ。私の嫌いなゲジゲジがたくさん湧いて、体中を這い回る夢とか・・・」


リンは青ざめた顔で見た夢の内容を語った。それを聞いて、俺は思わず想像してしまった。

自分の嫌いな虫が体中を這い回る・・・聞いただけで吐き気がしそうだ。


「うぇ・・・確かにそりゃ怖いな・・・」

「で、それがどうしたの?」

「いや・・・毎日毎日怖い夢見続けることって、あるのかなぁ・・・って思っただけ。」


俺は静かに呟きながら、目線を逸らした。リンは腕を組んで唸り声を上げた。


「うーん・・・私にはわかんないけど、やっぱり心理的なものなんじゃないの?」

「心理?」

「そう。悪夢ってストレスとか、潜在意識に恐怖や不安を感じてるときに見ちゃうって、ネットに書いてあったわ。」


潜在意識・・・俺のあの夢も、俺の中にある自殺衝動が夢を見せてんのかもしれない。

と思った矢先、俺は見覚えのある通りが目に入った。


「・・・」

「ロック?どうしたの?」

「・・・悪い。ここからは二手に分かれて行こうぜ。俺、こっち行くから。」

「はぁ?」


疑問の声を上げるリンを無視して、俺はその通りに入った。


「ちょっ、ちょっと!もう!」



この通りは覚えてる。昔、よく通ってた場所だ。

通りを出ると、そこにはあまりに古くなって、使われなくなった公園・・・があったんだが、もう取り壊された。

今は駐車場になってる。


「・・・あの公園、無くなったのか。」


俺は口ずさみながら、手すりに腰掛けた。

小さい頃にたくさん怖い思いをした俺は、自殺をしようしたことが何度かあった。1回目は5歳の時にヤク中どもの住み処に入った後、2回目は6歳の時にストリートギャングにボコボコにされた後、3回目は7歳の時に変態親父に体を滅茶苦茶にされそうになった後・・・

そして決まってここのトイレに隠れてた。人のいないトイレが一番安心できた。

何度も何度も自殺を試みたが・・・そのたびに怖くてできなかった。でも、10歳の時、本当に自殺をしたんだ。カッターで手首を切って。

手首から血が流れて、痛くて痛くて泣き叫んだ。「このまま死ぬんだろうな」って、そう思えた。

でも、死ななかった。いや、一応死にはしたんだ。なのに助かった。目の前に現れた、アイツのおかげで・・・・


『哀れな子よ・・・』


どこからともなく声が聞こえてきた。


「誰・・・?」

『悲しき生まれの子よ・・・死して何を望む?天国へ行き、女神の胸に抱かれて眠るか?それとも、地獄に墜ちて業火に焼かれるか?それとも・・・この世をもう一度生きるか?』

「・・・・」


その声は、俺に問いかけてきた。天国か、地獄か、この世か・・・

聞かれた途端、俺は涙が出てきた。死んでるはずなのに、不思議と溢れてくる。


「生きたい・・・!生きたいよぉ・・・!!」

俺は泣きながら叫んだ。


『成れば、生きよ。そのための力は、このステインがくれてやろう。』


ステインって言ったそいつが呟くと、俺の、切れたはずの手首の痛みが無くなった。


『お前の体は鉄へと生まれ変わる。お前はもはや、何も恐れることはない。お前の体には刃も銃弾も通らない。お前は鉄の男だ!』


ステインの語りと同時に、俺の体は鉄のような色の肌に変わっていった。壁や床を叩くと、ゴンゴンっていう鈍い音がする。


「僕・・・本当に鉄になったの?」


俺は自分の体をまじまじと見つめた。死のうと思って死のうとしたら、逆に生き返って鉄の体を手に入れた。そして、俺に力をくれたステインは、俺の目の前にいた。

体は岩みたいにゴツゴツしてて、頭は牛みたいで、まるでミノタウロスみたいだった。


『力を得た子よ、名はなんという?』

「・・・グレン・・・じぃじがつけてくれた。」


俺は拾ってくれたホームレスのジジィがつけてくれた名前を言った。それだけで、俺はジジィとの日々が思い出し、泣きそうになった。


『グレン・・・ならば、このステインが良い名前を付け足してやろう。お前の名は・・・ロック・オルグレン。』

「ロック・・・オルグレン・・・」


ステインが付けてくれた名前、「ロック・オルグレン」・・・それが俺の名前になった。


『ロック、強くなれ。どんな男よりもだ。』


ステインはそう言うと、俺の体に吸い取られるように消えていった。


「あ、あれ!?」

『俺はお前を見続ける。お前を見守り、その行く末を見届ける・・・』


ステインはその言葉を最後に、俺の前から消えた。いや、俺の中にいるから、消えてはいないんだ。

ステインのおかげで、俺は強くなれた。それからの7年間、俺は強くなった。誰にも負けない、誰にも屈しない男になるために。

なのに、まだあんな夢見るなんて・・・


「まだ弱いんだな、俺・・・」

俺は独り言を呟いて、その場を離れた。リンと合流することにした。



街の通りに出ると、不思議なことが起こっていた。


「あ?なんだ?」


街のみんなが横たわって苦しんでいる。

「ううっ・・・!!や、やめろぉ・・・!!」

「怖い・・・!怖いよぉ・・・!」

「や、止めてくれ!そんなものを向けないでくれ・・・!!」


いや、みんな苦しんでいるというより、悪夢にうなされているみたいだった。


「お、おい!しっかりしろ!」

俺は近くにいた子どもの方を掴んで揺らした。でも、起きない。


「無駄ですよ。私の悪夢からは逃げられない。」


その時、どこからともなく声が聞こえてきた。

声が聞こえた方に振り向くと、そこには白衣に身を包んだ学者風の金髪男が立っていた。


「まだ眠っていない人がいたんですねぇ・・・」

「ロック!」


その時、リンが俺と合流した。


「リン!一体どうなってやがんだ!?」

「アイツのアーツよ!アイツがアーツを使ってみんなを眠らせちゃったのよ!」

「ご名答。」


リンが状況を説明すると、金髪男は手を叩いた。


「私のアーツは『悪夢』。人を眠らせ、悪夢を見せる能力です。私はデニー。しがない学者なのですが・・・少々実験をしたかったのです。」

「実験だぁ?」

「"集団悪夢シンドローム"を起こすのです。集団に終わらない悪夢を見せると、身体にどんな影響を及ぼすのか見てみたいと思いまして・・・そして私は行動を・・・」


その時、俺はデニーを話の途中で思い切りブン殴った。


「テメェの考えなんて知ったことか!テメェが悪さをしたことには変わらねぇんだよ!!」


俺は怒鳴りながらデニーの胸倉を掴んだ。すると、デニーは笑い始めた。


「ク、ククク・・・話は最後まで聞かないと。」

「な・・・に・・・!?」

その瞬間、俺に強烈な眠気が襲いかかった。


「ロック!?」

「て、めぇ・・・!何しやがった・・・!?」

「フフッ、今、貴方は私を殴りましたね?それが間違いだ。私の体に触れた者は眠りに落ち、悪夢を見てしまうのです。」

「・・・なん・・・だと・・・!?」


俺は眠気に耐えながら立ち上がろうとするが、膝をついてしまった。


「抵抗しようとしても無駄ですよ。私の悪夢からは逃れられない!」

「ちく・・・しょう・・・!」


とうとう俺は眠気に勝てず、そのまま倒れ、眠ってしまった。


「ロック!アンタ・・・覚えてなさい!!」

リンは俺を抱きかかえ、デニーに捨て台詞を吐いて立ち去った。



「ロック、しっかりしろ!」


抱きかかえられた俺は、事務所まで戻った。

自分の部屋のベッドに寝かされ、おっさんに体を揺すられた。


「無理よ!絶対に起きないわ!」

『「悪夢」のアーツは、契約者を直接倒すか、眠った者が自力で起きるしか道はない。』


メフィストは「悪夢」のアーツを解除する方法を話した。自力で起きるか、デニーを倒すしかないらしい。


「仕方ない・・・ロックはこのまま寝かせて、私達はデニーの方をなんとかしよう!」


おっさんの提案に、寝ている俺を除いた全員が賛成した。


「メアリ、ロックを頼む!」

「うん!」


おっさんはメアリに俺を任せて、即座に行動に移った。

おっさん達がいなくなって、部屋は俺とメアリの二人きりになった。


「・・・悪夢に打ち勝つ・・・か。ロックなら、大丈夫だよね・・・」


メアリは小さく呟いて、俺の手を握った。

普段だったら滅茶苦茶興奮しちまうだろうが、寝てるからそんなことには気づかない。


「うっ・・・ううっ・・・!!」

俺は唸り声を上げた。

また、あの夢が・・・



「ハァ・・・!ハァ・・・!」


いつもと同じあの夢だ。暗闇の中で、俺がずっと走る夢・・・


『待って・・・』

「うるせぇ!!」


俺は怒鳴り声を上げて逃げる。

またアイツが追いかけてくる。どす黒い影が・・・


「うわっ!」


そして、また途中で転ぶ。


『今日はすぐ会えたね。嬉しいな、僕。』

「あ・・・?」


転んだ俺に近づいてくるその影は、みるみる小さくなって、その姿を現した。


「お前・・・俺・・・!?」


そいつの正体は、小さい頃の俺だった。怖いものをたくさん見た、恐がりだった頃の俺・・・


『こんなことになるなんて、予想外だよね。いつも途中で目が覚めちゃって、君は消えちゃうけど、今だったら最後まで僕と一緒だね。』


もう一人の俺・・・影って言った方がいいのか?影は、俺に近づきながら呟く。


「そっとしてくれよ!どうして俺に構うんだよ!」

俺は涙目になりながら影に向かって叫んだ。


『それは、僕が君の願望だからだよ。』

「えっ・・・?」


俺は思わず声を上げた。


『君も薄々気づいてたんじゃない?僕が、君の中に眠る自殺衝動だって。』

「お前が、俺の・・・?」

『そう。君はずっと「死んで楽になりたい」ってずっと思ってたんだ。なのに、それを押し殺してずっと我慢してたよね。』


その通りだった。俺は心の底で、「死にたい」って思ってたんだ。でも、怖くて死ぬことなんてできなくて、ずっとそれを隠してた・・・


『君はよく頑張った。だから、楽になりなよ。』


影はそう言うと、その姿を変えはじめた。夢の最後の方に出てくる巨大な怪物に。

その時だった。俺の右手が急に温かくなった。まるで、誰かに握られてるみたいに。


「右手が・・・」


その時俺は思った。確かに俺は、心の底で「死にたい」と思ってた。だけど、今の今まで、それを押し殺すことができたのはなんでだ?アーツをもらって、強くなるって決めた時からか?いや、違う。

俺は頭が悪いなりに色々と考えた。すると、頭に声が響いた。


『ナイスファイト。』


おっさんの・・・ルークの声だ。俺を打ち負かして、敗北を教えてくれた人・・・

あの人と出会ってから、俺は越えるべき壁に出会えた。心の底から「強くなりたい」って思わせてくれる人・・・俺は、あの人を尊敬してる。


「・・・そうか・・・」


俺はわかった。どうして、自殺衝動を抑えられたのか。


『さぁ、大人しく僕に喰われて、死んじゃえよ。』


影は俺を喰い殺そうと、手を伸ばしはじめた。その瞬間、俺は奴の手を殴り飛ばした。


『!?』

「うるせぇ野郎だな・・・!テメェはもうお呼びじゃねーんだよ、クソッタレ!」


俺が今日まで自殺衝動を抑えていられたのは、ルークのおっさんがいたからだ。おっさんは俺に、生きる道をくれた。乗り越える壁も一緒に!


『ぼ、僕を否定するの!?僕は君だ!君と同じ、グレンだ!』

「違うッ!!」


俺は叫んだ。そして、拳を空に掲げた。


「スティール・キッド、ロック・オルグレン!それが俺の名前だッ!!」

俺はステインがつけてくれた名前を叫び、硬質化した体で怪物化した影に突っ込んだ。


「テメェは邪魔だ!!消えちまえーーーーッ!!」

叫びとともに拳を繰り出した。拳が胸の中心にブチ当たると、影はたちまち消えていった。

「二度と出てくんな!!」



「・・・ロック、ロック!」


俺を呼ぶ声が聞こえる。


「ん・・・」


その呼び声に、俺は目を覚ました。

起きると目の前にはメアリがいた。


「やった!気がついたんだね!」

俺が起きたのを見るなり、メアリは嬉しそうに言った。


「・・・あっ!そうだ、あのデニーって野郎はどこ行った!?ぶっ飛ばしてやる!!」


俺はデニーのことを思い出し、部屋から飛び出そうとした。


「落ち着いて落ち着いて!そのデニーなら、他のみんなが倒しにいったから!」

「えっ!?じゃ、じゃあ俺、出番なし!?」

「うーん、今から行っても間に合わない・・・かも。」

「嘘だろー・・・」

俺は落ち込み、またベッドに倒れた。


「でも、倒したって連絡はまだ来てないから・・・ロックは自力で悪夢から目覚めたんでしょ?」

「・・・まぁ、そうだな。」


俺はあの夢に出てくる影を倒した。だから自力で目が覚めたと言えるかもしれない。


「すっごーい!そっちの方がかっこいいよ!」

「そ、そうか・・・?」

「うん!」


メアリは笑顔で頷いた。それを見て、俺も思わず笑顔が溢れた。

「そ、そうだよな!俺って超かっこいいよな!前々から気づいてた!」

「うん!私も手を握った甲斐があったよ!」

「へ?」


メアリの一言で、俺は右手の違和感に気づいた。俺の右手を、メアリがずっと握っていた。

それに気づいた瞬間、俺は顔が真っ赤に染まった。


「ご、ごめんっ・・・!!」


俺は顔を赤くしながら慌てて手を離した。

すると、可笑しかったのかメアリはクスクスと笑いはじめた。


「フフッ、手を握ったぐらいで赤くなっちゃうなんて・・・ロックって結構ウブだね。」

「ううっ・・・だ、だって、女の子と二人きりになったことなんて無かったし・・・」


俺は顔を染めながら、「それにメアリのこと好きだし」って言いかけたけど、恥ずかしいから言えなかった。


「メアリー!」

その時、おっさんがいきなりドアを開けて入ってきた。その後ろにはルイスとリンもいる。


「ロックの様子は・・・あっ、ロック!気がついたのか!」


おっさんは目が覚めた俺を見るなり、近づいて手を握ってきた。


「お、おっさん・・・あの野郎を倒したのか?あいつに触ると眠くなっちまうんだぜ?」

『「武器化」のアーツで奴を脅して後、奴を殴って気絶させたのだ。』


メフィストはそう言って得意気に腕をマシンガンに変えた。それに続いて、おっさんは苦笑いを浮かべた。


「ヒーローとして脅すのは忍びなかったが・・・まぁ、おかげで街の人達を目覚めさせることができた。デニーの身柄は警察に任せたし、『悪夢』のアーツは奪ったから、これでもう悪用はできない!」

「なんだ・・・結局俺の出番無しかよ・・・」

おっさんからデニーを倒すまでの経緯を聞いて、俺は少し落ち込んだ。


「そんなことはないさ。君が咄嗟に奴に向かっていったから、攻略法がわかったんだ。そう落ち込むな!」


おっさんはそう言って、俺の肩を叩いた。俺を励ましてくれてるみたいだ。

励まされて、俺は少し照れくさくなった。


「う、うん・・・」

照れくさくなったせいか、俺は子どもみたいな口調で返事をした。


「でも、今日はおじさんだけで良かったんじゃない?僕とリンちゃんの出番、全然なかったじゃん。」

「確かに。」

「何を言ってるんだ!全員で戦うからこそ意味があるんだ!仲間がいれば士気もあがるし、知恵を駆使して戦える!」

「うーん・・・知恵、ねぇ・・・」


リンとルイスは不安そうな目でおっさんを見つめた。

まぁ、このチームの中で頭いい奴限られてるから、こんな目付きになるのもしょうがない。


「な、なんだその目は!?た、確かに私は頭が悪い!4桁以上の計算もできない!でも、そこをみんなで・・・!」


おっさんは二人に「頭悪い」と思われるのが気になったらしく、必死に反論しようとしてる。

ルークのおっさん・・・やっぱりこの人といると・・・いや、こいつらと一緒にいると俺の心が、暖かくなる気がする。

それなのに、俺はこいつらに自分の過去を隠したままでいいんだろうか・・・


「あ、あのさ!」

「?」

「そ、その・・・引いちまうかもしれないけど・・・昔の俺のこと、聞いてくれるか?」


俺は勇気を振り絞って、自分の過去を話した。

これで「変」だと思われても、哀れみを抱かれても構わない。俺は、俺の仲間に隠し事なんてしたくない。



俺は過去を全て話した。でも、みんなは憐れんだり、引いたりもしなかった。むしろ受け入れてくれた。


特にルークのおっさんは俺を抱きしめて、「よく話してくれた。話してくれてありがとう。」って言ってくれた。ついでにメアリも一緒に抱きしめてくれた。


抱きしめられて、俺は拾ってくれたジジィのことを思い出した。ホームレスだったらから見てくれも汚かったし、臭かったけど、いつも俺を抱きしめて安心させてくれた。

そのことを思い出して、俺は泣きそうになった。でもそれは必死で耐えた。


リンは何も言わず飯を作った。作ってくれたのは俺の好きな肉料理。


ルイスは、俺にこう言ってくれた。

「正直言って、君のことあんまり好きじゃなかった。バカだし、後先考えないし、すぐ敵に突っ込むわで・・・結構舐めてた。でも今は違う。君はそのままでいい。見せつけてやれよ、君の力を!悪党どもにさ!もしダメそうだったら・・・僕達が手伝うよ。」


俺は嬉しかった。皮肉屋のルイスがそう言ってくれただけで、俺はすごく嬉しかった。

メフィストは・・・特に何もしなかったけど、あいつもあいつで、何か考えてるんだと思う。


みんな自分なりに俺のことを受け入れてくれた。ありがとう・・・みんな。



その日から、俺はあの夢を見ることはなくなった。



人って何かしら誰かに隠したい秘密とかありますよね。私にもしょーもない秘密が1つや2つぐらいあります。


それはそれとして、過去編で「ロックは過去にコカインを吸ったことがある」と書こうと思いましたが、さすがにマズイ気がしたので止めました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ