第10話「正義の雷神」
人々が寝静まり、人通りが少ない真夜中・・・・
街の片隅にある廃工場で、この日、複数のギャング達で麻薬の売買が行われていた。
「ほらよ、約束のブツだ。」
黒スーツを着たギャングが、カラフルな服に身を包んだ若いギャングに麻薬が入ったアタッシュケースを手渡した。
若いギャングはケースを開けて中身を確認したが、中に入っていた麻薬は、ケースの半分ほどしかなかった。
「・・・・これっぽちかよ!」
量の少なさに若いギャングは激昂する。
「仕方ないだろう。こっちも警察から身を隠さなきゃいけないし、おまけに最近『パラディンフォース』とかいう変な奴らが出始めて、それどころじゃねーんだ。」
「最近、街中の犯罪者を見つけては警察送りにしてるらしい。」
スーツのギャング達がもっともらしい理由を述べるも、若いギャングは納得がいかず、アタッシュケースを投げ捨てる。
「そんなこと知ったことか!お前らは約束のブツを約束の量持ってくればいいんだよ!!」
「そうだそうだ!!」
「さっさと持ってこーい!!」
若いギャング達は怒りを露わにし、スーツのギャング達に文句を垂れ始めた。これにはスーツのギャング達も黙ってはいなかった。
「てめぇら・・・!人が下手が出てりゃつけあがりやがって・・・・!!舐めてると殺すぞ、若造ども!!」
スーツのギャングがそう言うと、ギャング達は服の内ポケットから一斉に拳銃を取り出した。
「やる気か!!」
若いギャング達も負けじと近くにあった鉄パイプを手にする。
両者はにらみ合い、ギャング同士の抗争が今まさに始まろうとしていた。
だが、その時・・・・
「うわああああああ!!」
『!?』
突然外から悲鳴が聞こえ、その場にいたギャング達は驚愕し、扉の方へ顔を向けた。
すると、外から何かが投げ込まれた。その正体は、外で見張りをしていたスーツのギャング達の仲間だった。
「こ、これは・・・・!?」
「一体何が・・・・」
「誰かそこにいるのか!?」
ギャング達の疑問に答えるように、その男は扉を蹴破り、ギャング達の前へ現れた。
「・・・・・」
その男は、バイク用のボディスーツに身を包み、日本の特撮ヒーローのお面を顔につけている。
「な、なんだぁ?このお面野郎は・・・・」
あまりに奇怪な格好に、ギャング達は驚きと戸惑いを隠せずにいた。そんな場の空気を壊すように、お面の男は口を開いた。
「街の平和を乱す、不埒な悪党どもよ・・・・たとえ警察が許しても、この私が許すと思うな!」
「な、何者だてめぇは!」
「我は、雷神!この街に蔓延る悪党を滅ぼすために生まれた、正義の戦士!」
雷神と名乗る男は、ポーズを決めつつ高らかに名乗りを上げた。
だが、名乗った瞬間、ギャング達と雷神の間に奇妙な間が生まれた。
『・・・プッ、アハハハハハハハハ!!』
間が空いてすぐに、ギャング達は大声で笑い始めた。
「なーにが雷神だよ、ダッセー!!」
「まさか『パラディンフォース』以上のバカがいるとはな!!」
ギャング達は雷神のことをバカを見るように笑い飛ばしている。だが、次の瞬間、雷神は稲妻の如き速さでギャングの懐に飛び込み、飛び蹴りをギャングの1人に喰らわせ、蹴り飛ばした。
「稲妻雷撃蹴・・・・!!」
そう言った雷神の右足は、まるで雷を纏っているかのように光が走っていた。
加えて、飛び蹴りを食らったギャングは、まるで痺れたかのように体が痙攣していた。
「こ、こいつ・・・・!!」
スーツのギャングは負けじと拳銃の撃鉄を起こす。
「遅い!」
だが、それよりも速く、雷神が懐に入った。
「正中線雷光突き!!」
雷神は眉間~股間まで走る線、「正中線」を狙って、頭、胸、腹、股間に鋭い拳を叩きつけた。
それを喰らったギャングは、先ほど飛び蹴りを食らったギャングと同じように、体を痙攣させながら、その場に倒れた。
「こ、こいつ、強い・・・・!!」
「ビビんな!相手はたった一人だ!全員でかかれば倒せる!!」
若いギャングはそう言うと、ギャング達は一斉に雷神に向かって攻撃を仕掛けようとした。
「無駄なことだ。ハアァァァ・・・・!!」
雷神はギャング達の方に体を向けると、右手を前に突き出し、そのまま指をピンと広げ、左手で右腕を掴み、そのまま気合いを入れ始める。すると、雷神の右手の指が雷のようにバチバチと光り始めた。
「雷光指弾!!」
その叫びと同時に、雷神の指先から雷の光線が飛び出し、ギャング達の体を貫いた。
「あっ・・・・あ・・・?」
あまりに突然の事に、ギャング達は叫ぶこともないまま、その場に倒れた。
「ふう、片付いたか。」
雷神はギャング達を片付け、一息つき、お面を外した。
「それにしても、『パラディンフォース』か・・・・私と同じ志を持つ者がいたとは・・・・是非とも一度会ってみたいものだ・・・・」
「みんなー!!起きなさーい!!」
早朝4時・・・・私はお玉でフライパンを叩き、みんなを叩き起こす。
「あー、もう・・・・いつまで経っても慣れないなぁ、これ・・・・」
「クソ眠い・・・・」
まだ寝足りないのか、ルイスとロックはまだ眠そうだ。しかし、リンの方はだいぶ目が覚めているようだった。
「ハァ・・・・」
リンはため息をついた。
「あれ?リンちゃんも眠いの?それにしては目が覚めてるっぽいけど。」
「目は覚めてるわよ・・・・どこかの誰かさんのおかげで!」
リンはそう言うと、メアリの方へ目を向けた。
「へへへ、それほどでも~」
「褒めてない!っていうか、いつも言ってるでしょ!人のベッドに潜り込んで抱き枕代わりにするなって!!」
リンはまたメアリと一緒に寝ていたようで、そのことを叱り始めた。
まぁ、女性の寝込みを襲うことに近い行為だから、弁解の余地はない。
「しかも、今日はどさくさにまぎれて触ってきたでしょ!?」
「ぶほぁ!!」
リンがそう言った瞬間、ロックが飲んでいた水を口から吹き出した。
「メアリ・・・さすがにそれはいかんぞ!女性の大事な部分だぞ!」
私も「さすがにそれはマズイ」と思い、メアリを叱った。
しかし、メアリは不服そうな顔を見せた。
「え~、だって、大きい胸は大体の男女が好きじゃん?だから私はリンお姉ちゃんの胸に敬意と憧れを込めて・・・!」
メアリはそう言うと、両手をワキワキと動かし、リンの胸へ伸ばし始める。
「やめんかいっ!」
リンはそう言ってメアリの両手を掴み、動きを止めた。
「チェッ・・・・」
リンに止められたメアリは、再び不服そうな表情を見せ、口を尖らせた。
「ルイスなら分かるでしょ?私の気持ち!」
「分かる分かる、でっかい胸は男のロマンですから!ねっ、おじさん!ロック!それにメフィスト!」
ルイスの言葉に、ロックは困惑した表情を見せ、
「なんで俺に振るんだよ・・・・」
メフィストは興味なさそうな態度を見せ、
「人間の体なんぞに興味無い。」
そして私は真顔で・・・・
「私はマリアのしか興味無いから・・・・」
と、言って切り捨てた。
「いや、それはそれでどうかと思うけどね?」
「そういえば、ママの胸も大きかったなぁ・・・・多分、リンお姉ちゃんより大きいかも・・・」
メアリが言ったように、私の妻であり、メアリの母であるマリアの胸はでかかった。しかも胸だけでなく、スタイルも抜群だった。顔もこの世のものとは思えないほどの美しさで、まさしく聖母のようだった・・・・そんな人と結婚して、子どもが生まれるとは・・・今思うと、私はかなり幸せものだ。
「その点、私は・・・・はぁ・・・」
メアリは自分の胸に目を移し、自分の胸が小さいことに落胆した。
私としては年相応な気もするが・・・・私のせいだろうか・・・・遺伝が関係あるかは分からんが。
すると、ロックは頬を赤く染めながら、メアリの肩を叩いた。
「お、女の良さは胸だけじゃねーとおも・・・・」
「ほら!!無駄話は止めて、トレーニング行くぞ!!」
ロックはメアリを励まそうとしたが、運悪く、申し訳ないことに、私が大声を上げたせいで遮られてしまった。
「ロック、なんか言った?」
「いえ、なんでもないですぅ・・・・」
メアリの問いに、ロックは寂しげに答えた・・・・
トレーニング場所はいつもと同じ公園。まずは外周10周から。
「まぁ、キツイけど、だいぶ慣れてきたかなー」
「まっ、毎日やってればね。」
早朝トレーニングを始めてしばらく経つが、みんなだいぶ慣れたようだ。スタミナも余裕があり、4周目になってもまだ息も上がっていない。
「よーし、今度こそおっさんを越えてやる!」
ロックの方は、まだ私に対抗意識を燃やしていた。
「あんたはいつになったら学習するわけ?息が続かないでしょ?」
「うるせー!チャイナ女は黙ってろ!」
「私、ベトナム人だけど。」
「知るか!」
ロックとリンは急に口喧嘩を始めた。
「コラ!私語は慎む!」
私が一言叱りつけると、2人は不機嫌そうになりながらも黙った。
「ん?」
私はふと、前の方へ目をやった。そこには、私達と同じようにジョギングをしている青年がいた。彼は最近、ここで私達と同じように早朝トレーニングしている者だ。
「やあ!」
「おはようございます!」
通りがかりに私は軽く挨拶をすると、青年の方も挨拶を返してきた。
髪は短めのオールバックで、色は黒。顔はアジア人のようだが、恐らくは日系人だ。
爽やかな笑顔から、彼の若さが伺える。
「あの人、最近よくいるよね。」
「うむ・・・まだ若いのに、こんな朝早くにトレーニングとは・・・・感心感心。よーし、私達も彼に負けずにガンガン行くぞー!!」
「はぁーあ・・・・」
私の言葉に、ルイスは思わずため息をついた。
ジョギングを終え、私達は飲み物を飲みながら一休みした。
「あー、今日もハードだったなぁ・・・・」
「へっ、こんなもんでへばったのか?だらしねぇな!」
「初日にいきなり全力ダッシュしてバテてたのは誰だっけ?」
「ぐぬっ・・・・!」
私達は休憩を利用して、飲み物を飲みながらしばしの間、会話を楽しんだ。
と、そこに・・・・
「あの・・・・」
先ほどの青年が私達の前に現れた。
「おおっ、さっきの・・・・」
「最近、よくここにいますね。何かスポーツでもやってるんですか?」
「ああ、スポーツというより、私達はヒー・・・・」
青年の問いかけに、私はうっかり「ヒーローやってます」と言いそうになった。が、慌てて横にいたリンとロックが私の口を塞いだ。
「ヒー!今日はちょっと疲れたなー!!あっ、僕達みんな、ボクシングエクササイズやってるんです!」
「は、はあ・・・・」
ルイスは慌ててごまかした。
(何やってんだよおっさん!!)
(バレたらどうすんのよ、このバカ!!)
(すまん。)
私達は小声で話し、私は一言謝った。
「君の方は・・・えーっと・・・・」
私は青年の名前を呼ぼうとしたが、わからないため、口ごもってしまった。
青年はそのことに気づくと、自己紹介を始めた。
「私は、ロバート・ライドウ(雷同)といいます。私は昔から空手をやっていて、ここでのジョギングは私の日課なんです。」
「らいどう・・・・君は日系人か?」
「ええ、父が日本人で、母がアメリカ人です。空手も、父の影響で始めたんです。」
ロバートがそう言うと、メアリは何故かロバートの側に寄り始めた。
「ねぇねぇ、ロバートさんって結構強いの?」
メアリはそう言って、ロバートに顔を近づけた。
「えっ、い、いや、その・・・・」
すると、ロバートは突然頬を赤らめ、先ほどのハキハキとした喋りはどこへ行ったのか、もごもごとした口調になってしまった。
「い、一応、黒帯です・・・・」
「わー、すごい!黒帯って一番強いんでしょ!?一回パパと勝負してみてよ!」
「コラコラ、ロバートが困ってるじゃないか。」
「はーい。」
私はメアリを注意し、メアリは私に言われてロバートから離れた。
「すまないな、ウチの娘が・・・・」
「い、いえ・・・・」
「・・・もしかしてさ、ロバートさんって、女の子苦手?」
「うっ・・・」
ロバートがルイスに指摘され、俯いてしまった。図星だったようだ。
「そ、その通りです・・・・私はあまり、女性と話したことがなくて・・・・しかも友達も男ばかりで・・・・女性が嫌いというわけじゃないんですが・・・・というか、むしろ大好きです!・・・なんですが、どうも女性と話そうとすると、あがってしまって・・・」
「なるほどね・・・・爽やか青春タイプかと思ったけど、結構カワイイとこあんのね。」
リンはそう言って、ロバートに向かってウィンクをした。
「そ、そんな・・・・」
リンにからかわれたせいか、ロバートは益々頬を赤く染めた。
「コラ、リン!やめなさい。」
「冗談よ、冗談。」
「そ、そういえば!最近、ニューヨークにヒーローが現れましたよね!」
いたたまれなくなったのか、ロバートは話題を変え始めた。
「ああ、『パラディンフォース』だっけ?」
「最近有名だな。」
私達は正体がバレナイように、『パラディンフォース』とは無関係の一般人を装った。まさかここで、「私達が『パラディンフォース』だ!」なんて間抜けなことはできないからな。
「あの人達は、このニューヨークを命がけで守ってるんですよね。なんて素晴らしい心の持ち主でしょう・・・・彼らの行動は、ノーベル賞レベルに値します!」
ロバートのその言葉に、私達はこそばゆさを感じ、口元が思わずにやけてしまっていた。ここまで褒められると、少し照れてしまうな。
「同じアメリカを愛する者として、尊敬しています。」
「ほう、君は愛国者なのか。」
私がそう尋ねると、ロバートはコクリと頷く。
「もちろんです。この街で生まれ育って、この国に元気をもらって生きてきましたから・・・・私も、彼らに負けないように頑張ります!それじゃ!」
ロバートはそう言うと、私達に別れの挨拶を言って、その場を立ち去った。
「うんうん、今時あんな子がいたとは・・・・感心だなぁ。」
私は愛国心溢れるロバートを見て、感心して思わず何度もコクリと頷いていた。
「でも、僕らに負けないようにって・・・・どういうことかな?」
「まぁ、いいじゃないか。さぁ、私達も戻ろう。」
私は少し考えようとしたが、私は頭が悪いから難しいことはわからないし、彼の秘密を詮索するのも嫌だから、考えないことにした。
「・・・・絶対何も考えてないでしょ。」
「ああ、頭の悪さなら私がピカイチだぞ!4桁以上の計算ができないからな。」
私は笑顔でロック達に言うと、ロック達はなんとも言えない微妙な表情を浮かべた。
「・・・それ、もう一回勉強し直した方がいいんじゃないの?」
「なーに、計算が出来なくても、人間は生きていけるさ!」
リンの提案に、私は反論し親指を立てた。
「なんだかなぁ・・・・」
そして、その夜・・・・私達はいつものように街のパトロールを開始した。
「おっさん、今日はなんか事件とか起きてねーのか?」
「そうだな・・・・最近テレビや新聞じゃ目立った事件はないな。しかし、だからといって万引きみたいな軽犯罪でも無視できない。注意深く捜査しよう。」
私がそう言うと、ルイスとリンはコクリと頷いたが、ロックはため息をついた。
「チェッ、戦わねーと腕がなまっちまうぜ。」
「何を言ってるんだ、平和が一番だろ?さぁ、しまっていくぞ!」
私は文句を言うロックをなだめ、気合いを入れた。
その時だった。
「キャーーーーー!!」
どこからか、女性の悲鳴が聞こえた。
「悲鳴・・・!こっちだ!」
私達は悲鳴を聞き、聞こえた方向へ向かって走った。
そして、路地を通り過ぎようとした瞬間・・・・
「あっ!」
ルイスが何かに気がついた。
「おじさん、こっちだ!」
ルイスの言葉に、私達は足を止め、路地に入る。すると、そこにはその場でしゃがみ込んでポカンと口を開けて呆然としている女性、その目の前にはバイク用のボディスーツを身に纏い、顔には日本の特撮ヒーローのお面をつけている男がいた。そしてその男の足元には、チンピラらしき男3名が横たわっている。
「お嬢さん、大丈夫ですか!」
私達はすぐに女性の元へ駆けつけ、安否を尋ねる。
女性はただただ頷くのみ。
すると、私達の存在に気づいたのか、お面の男はこっちを向いた。
「貴様か・・・・!この人を襲ったのは!」
私は男に向かって指を差して叫んだ。すると、女性が私の腕を掴んだ。
「違うの!彼は私を助けてくれたの!」
「えっ?」
女性の訴えに、私は驚いた。
「チンピラに襲われそうになったところを、彼が・・・」
女性はそう言って、彼の方をチラリと見た。すると、男はコクリと頷いた。
「そうだったのか・・・・すまなかった。」
それを見て、私は納得した。私は一礼し、彼に一言謝った。
「いえ、私の方こそ・・・・」
そう言って、男の方も謝る。
その後、私達は女性を見送り、彼・・・お面の男と街を歩きながら話を始めた。
「それにしても、私達と同じように、人を助けるヒーローがいるとは思わなかったな・・・・・」
「いえ、私は最近活動を始めたばかりの新参者です。それに、私がヒーローになろうと思ったきっかけは、あなた方なんです。」
男の一言に、私達はキョトンとしながら互いに顔を見合わせた。
「俺達が?」
「もちろん。皆さんの活躍で、ヒーローになりたいって人が増えてるんですよ。例えば・・・・」
男はそう言うと、ポケットからスマホを取り出し、とあるサイトを私達に見せた。そのサイト名は、「ヒーローの集い」。
「ヒーローの・・・集い?」
「皆さんの活躍を見た人達が、オリジナルのヒーローコスチュームを着てヒーロー活動をしているんです。」
画面を下へスクロールすると、サイトの下の方に公園のゴミ拾いをするコスチューム姿の男、お年寄りの荷物を運ぶマスクを被った男女の2人組、老人ホームでお年寄りの世話をする仮面の男の写真が掲載されていた。
「とはいっても、みんな強いわけじゃないから、やってることは基本的にボランティアですけど・・・・」
「いや、素晴らしい!ヒーローは必ずしも強ければいいってものでもない。むしろ、人助けができるかどうかだと思うよ、私は。」
「なるほど・・・勉強になります。」
仮面の男はそう言うと、顎に手を当てウンウンと頷いた。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったね。」
私は仮面の男に名前を尋ねた。
「あっ・・・すいません!名乗りもしないで・・・・私は、『雷神』という名前でヒーロー活動をしています。」
「名前ダサッ!!」
彼が名前を名乗った瞬間、ルイスは思わず声を大にして言ってしまった。
「ダ、ダサイですか・・・・!?」
雷神はショックを受けてしまったのか、驚く様子を見せた。
「や、やっぱり、ダサイのかなぁ・・・?そういや、昨日のギャング達に笑われてたっけ・・・」
「ま、まぁ、そこまで気にしなくても・・・・」
私は雷神を励まそうと、肩を叩こうとした。
その時だった、その場で突然電子音が鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
「失礼!私の無線です。」
雷神はそう言うと、腰につけているホルスターから無線機を取り出した。
『・・・犯人は7番街を抜けて逃走中!繰り返します!犯人は7番街を抜けて逃走中!応援をお願いします!』
無線機からは警官らしき男の声が聞こえる。どうやら、何か事件があったらしい。
「事件が起きたらしいですね・・・・すいません、私はこれで・・・・」
雷神はそう言って、私達の前から去ろうとした。
「待ってくれ!」
その時、私は彼を引き留めた。
「この街で事件が起きているのなら、私達も他人事じゃない。私達も手伝うよ!みんな、手伝うだろ?」
私はそう言って、後ろに顔を向けると、ロック達はニヤリと笑い・・・・
「おう!腕がなまっちまうしな!」
「明日は朝早くからデートなのに・・・・まっ、しょうがないか。」
「さぁ、悪党どもの金玉潰しに行きましょ。」
ロック達もやる気満々だ。それを見て、雷神はコクリと頷いた。
「わかりました、行きましょう!」
「場所はわかるか?」
「無線を辿って行きましょう!」
雷神の提案に従い、私達はすぐさま行動に移った。無線から流れる警官達の会話を辿っていけば、自ずと場所がわかる。
そして、その数十分後・・・・私達は遂に逃亡犯の居場所を突き止めることができた。
「ここだな・・・・」
場所はあまりに古くなって使われなくなった廃ビル。街の隅にあるから、気づきにくい場所のようだ。
「よし、乗り込むぞ。」
私はそう言いながら、皆を連れてビルの中へ入った。
外が夜のため、中は真っ暗で目の前があまり見えない。だが、一階はかなり広いことは感じ取れた。恐らく一階は受付だったのだろう。
「真っ暗ね・・・・」
リンはそう言うと、懐からスマホを取り出し、搭載されているライトを使い辺りを照らした。
「そうだそうだ、その手があった・・・・」
リンの行動を見て、ルイスとロックもスマホのライトを使った。
照らされたライトで周りを見てみると、ビルの壁や柱の所々に錆びついているのがわかった。
「かなり老朽化しているな・・・・下手に衝撃を与えると壊れるかもしれない。慎重に行動しよう。」
私は皆に注意を促すと、奥へと足を進めた。薄暗いビルの中を進んでいくと、上に続く階段が見える。
「階段か・・・・」
「一階にそれっぽい人影はなかったし・・・・犯人は上かな。」
「よし、上がってみよう。」
私達はゆっくりと、上の階にいるであろう逃亡犯にバレないように階段を上がり始めた。
上がっていくと、2階が段々と見えてくるようになった。と、その時・・・・
「ストップ!」
私は声を抑えめにして叫んだ。
「どうしたんだ、おっさん。」
「見ろ。」
私は身を低くしつつ、2階の向こう側を指差した。皆は目を凝らし、その場所を見た。すると、そこにはうっすらとだが明かりが見える。明かりと言っても、蛍光灯のようなものではなく、電球のような光だった。
「もしかしてアレが・・・?」
「ああ、恐らく犯人だ。みんな、ここは冷静に行くんだ。いきなり飛び込んだら、逃げられる可能性が・・・・・」
と、私が作戦会議を立てようとしたその瞬間、
「覚悟ぉぉぉぉ!!」
「ひっ!?」
雷神が大声を上げながら逃亡犯に向かって突進した。
「なっ!?雷神、なにを!?」
私は驚き、思わず声を上げてしまった。
「とあぁっ!!」
逃亡犯に突っこんだ雷神は、拳を振りかざし、逃亡犯に向かって拳を放つ。
「ひいぃっ!!」
逃亡犯は寸前のところでなんとかかわし、四つん這いになりながら、なんとか逃げようとする。
「あいつ度胸あるなぁ!よっしゃ、俺も加勢するぜ!!」
ロックはそう言うと、意気揚々と飛び出した。
「あっ、バカ!何やってんのよ!」
「ああ、もう!!」
私達はしょうがなしにロックと同様に階段から飛び出し、逃亡犯の前に立ちはだかった。
「パ、パラディンフォース!!」
逃亡犯は私達の姿を見て、益々困惑しているようだ。
「ピンポーン!正解!悪い奴を懲らしめに来ましたー!」
ルイスはそう言うと、指で銃を作り、それを撃つ素振りを見せた。
「そういうことだ。いいか、いますぐ自首するんだ。そうすれば乱暴は・・・・・」
「乱暴はしない」・・・・私がそう言おうとしたその瞬間・・・・!
雷神はいきなり逃亡犯の後頭部を掴み、そのまま床に顔面をたたきつけた。
『!?』
私達は突然のことに動揺してしまい、思わず顔に出てしまった。
「ががが・・・・!!」
「お前は罪を犯した・・・・その罪、死んで償ってもらうぞ!」
「そ、そんな・・・・!俺はただ、物を盗んだだけで・・・・!!」
逃亡犯はなんとか許してもらおうと、弁解しようとするが、今度は雷神は無理矢理、彼の体を起こし、胸倉を掴んだ。
「小さいことだろうが、罪は・・・罪だ!!」
雷神はそう言いながら逃亡犯に拳を喰らわせた。それも一発だけでなく、何度も何度も・・・・
「ひ、ひどい・・・・」
「お、おい!アンタ、それはいくらなんでもやり過ぎだぜ!」
私達は注意を呼びかけ、説得しようと声をかけるが、雷神は全く耳を貸そうとしない・・・
「悪く思わないでよ!」
「ぐっ・・・ぬああああっ!!」
痺れを切らしたルイスは右手に風を宿し、手のひらから突風を発し、雷神だけを吹き飛ばした。
「今だ!取り押さえろ!!」
吹き飛ばされた雷神を見て、私達は即座に彼の元へ走り、彼を拘束しようと手を伸ばした。
「くっ・・・やめろ!離せ!」
しかし、雷神は必死に抵抗し、暴れ出した。
「君、早く逃げるんだ!」
暴れる雷神をよそに、私は逃亡犯に逃げるように促した。私の言葉に同意するように、逃亡犯は慌てて立ち上がり、その場から逃げ出した。
「あっ、待て!!逃がさんぞ!!」
雷神は私達の手を振り解き、逃亡犯を追いかけようと駆け出した。しかし、それよりも早く、私は雷神の腕を掴み、自分の所へ引き寄せた。
「目を覚ませッ!!」
そして、私は雷神に向かって平手打ちをお見舞いした。
その時、頬を殴った拍子に雷神がつけていたお面が剥がれ、床に落ちた。
「き、君は・・・!!?」
私達はその顔を、雷神の正体を知った瞬間、思わず目を見開き、驚愕してしまった。
「ロ、ロバート!!」
そう、雷神の正体は、朝出会ったロバートだったのだ。
「ど、どうして私の名前を・・・・・?」
ロバートは私達が自分の名前を知っていることに戸惑っているようだ。私達はその事にハッと気がついたが、思わず口走ってしまった手前、正体を明かすしかないだろう。
「・・・・みんな、正体を明かそう。」
私の言葉に、皆はコクリと頷き、マスクを取り始めた。私も同様に顔の頭の部分だけ変身を解いた。
「あっ!?あ、あなた方は・・・・!!」
私達の顔を見て、ロバートは今朝出会った私達のことを思い出したようだ。
「ま、まさか、あなた方が『パラディンフォース』だったなんて・・・・・!」
「それより、どういうことだ!?いきなり犯人を殺そうとするなんて・・・・」
私がそう言うと、先ほどまで驚いていた顔から一変し、急に冷静な顔つきに変わった。
「・・・・決まってます、正義の為です。」
「正義だと?」
「そうです・・・・この国には、悪党が多すぎる。」
ロバートはそう言うと、床に落ちたお面を拾い上げた。
「これだけの悪党、警察だけじゃ手が足りない・・・・それどころか、警察の内部に悪に手を染める者まで出る。それを止めるには、捕まえるだけじゃ足りない!悪党を全て殺すしかないんです!!この国の為に!」
ロバートは自分の心情、目的を語り終わったと同時に再度顔にお面をつけた。
「そんなの・・・・間違いだ!」
「なにっ・・・?」
「確かに、人間は罪を犯す。だけど、罪を償おうとする気持ちがあれば、きっと・・・!」
私はロバートを説得しようと、さらに話を続けようとした。だが、その瞬間、私の目の前に黄色く火花を散らす光線のようなものが私の胸を叩いた。
「うわぁっ!!」
私は体に電流が走るような衝撃を受け、そのまま突き飛ばされた。
「おっさん!」
「い、今のは・・・・?」
ロバートの方を見てみると、ロバートは右手の指をピンと伸ばした状態で前に突き出していた。そして、その指からは火花が飛び散っている。
『あいつ・・・・!アーツを持っているぞ!恐らく、「雷」のアーツだ!』
メフィストの言葉を聞き、私は自分の胸を叩いた衝撃の正体がなんなのかを理解できた。恐らく、私の体に当たったのは雷だ。だから体に電流が走るような衝撃が来たのだ。
(そうか、さっきの衝撃は雷の・・・・)
「てめぇ・・・・よくもやってくれたな!!」
ロックは私が攻撃されたのを見て、即座に肌を硬質化させ、ロバートに向かっていった。
「うおぉぉらぁぁぁぁぁぁ!!」
ロックは思い切り拳を振りかぶり、渾身の拳を突き出した。
しかし、その攻撃をロバートは軽やかに交わす。
「そんな大振りの拳が当たるか!拳というのは・・・・」
ロックの拳を交わし、ロバートは自分の両手を腰に持っていった。
「こういうものを言うのだ!稲妻突き!!」
ロバートは拳に雷を纏い、ロックの腹に鋭い正拳突きを放つ。
ロックは寸前で両腕で防ごうとしたが、ロバートの拳はまさしく雷の如き速さを持ち、ロックの行動など無意味だと決めつけるように、拳がロックの腹にめり込んだ。
「がっ・・・・!ぐああああああああっ!!」
ロックは拳を喰らってよろめいたかと思うと、すぐさま体に電流が流れ、苦しみ始めた。
「君のアーツは『鉄』か・・・・私とは相性が悪いみたいだな。」
「だったら・・・こいつはどうだ!!」
ルイスは炎を手に宿し、手のひらから火炎を発する。
巨大な炎がロバートに向かって来る中、彼は思いも寄らない行動に出た。なんと、向かって来る炎の前で、仁王立ちし始めたのだ。
「はぁぁぁぁ・・・・!!」
ロバートが息を整えている間に、炎が間近に迫った。すると、ロバートは円を描くように両手を動かし始めた。そうすると、驚いたことに、ロバートはその動きで炎を受け流してしまった。
「あ、当たらない!?」
「あれは・・・マ、回し受け!!」
その技を見た瞬間、私達は驚いたが、中でもリンが一番驚いていた。
「回し受け?」
「空手における防御技よ。あんな風に手首や腕を回すことで正拳や蹴りを受け流し、防ぐことができるの。それにしても、こんなに完成度が高い回し受けは始めてみたわ・・・!」
リンの解説を聞き、私は戦慄したと同時に胸が躍った。
こんな凄い男がいた・・・・戦ってみたい!と・・・・
そして、ロバートはリンの解説を聞いて、ニヤリと笑って見せた。
「矢も鉄砲も火炎放射器も空手の前では無意味・・・・!!」
「だったら・・・・!!」
私はロバートを睨みつけると、右左とジグザグに動きながらロバートへ接近する。
ジグザグに右左と動くくことでロバートを撹乱させ、なおかつ、近づくこともできる。そして、私とロバートは互いの攻撃が届く間合いまで近づいた。その瞬間、私は思いきり足を一歩前に踏みしめた。
「チエェリャアァァァ!!」
「デヤァァァァ!!」
私はストレートパンチを繰り出し、ロバートは腰の入った正拳突きを繰り出した。
私達の拳がぶつかり合った。そして、そこから互いに連続で拳を繰り出した。私とロバートの間で拳と拳がぶつかり合い、まるでタイヤとタイヤが激しくぶつかったかのような音が鳴り響き、その様はあたかも白い光で包まれたかのような一瞬だった。
「くっ・・・!!」
その時、私は両拳に痛みと強い電流が流れる衝撃を感じ、つい怯んでしまった。
「トアァッ!!」
「ぐあっ!!」
その隙を突いて、ロバートは私を蹴り飛ばした。
「電気のパワーがこんなに強いとは・・・・!!」
私はそう言って、歯を食いしばり、痛みに耐えながら足を抑えた。
「あなたの拳もなかなかのものだった・・・・だが、空手と”雷”のアーツを持つ私に勝てる道理はない!」
そう言ったロバートの表情は自身に満ちあふれていた。まるで、自分自身こそ最強の格闘家であり、ヒーローであることを誇っているかのような・・・・確かに、彼の実力は私の予想以上・・・彼の空手の技術は並大抵の者の実力じゃない。例えるなら、その力は戦車並み・・・それに加えて”雷”のアーツ。アーツの力で拳や蹴りで攻撃すれば、感電してしまい、投げにいっても、彼に触れてしまえば感電する。通用するとすれば、武器での攻撃ぐらいだが・・・それも、彼の持つ回し受けでかわされてしまう。
・・・攻略の糸口が見つからない・・・!お手上げか・・・!!
「万事休すか・・・・!!」
私は思わず根を上げそうになった・・・・と、その時だった。
「ルーク・・・下がってて。ここは、私が相手になるわ!」
なんと、リンが名乗りを上げ、ロバートの前へ出た。
「リンちゃん!?」
「ダメだ!君が行っても同じだ!!」
私達はリンを止めようと声をかけ続ける。だが、リンの足は一向に止まらない。
「うっ・・・あ、あなたは・・・・」
リンが近づいた瞬間、ロバートは戸惑い始めた。
「あ、あなたとは戦えない・・・ど、どうか、退いてください!」
そう言ったロバートだったが、何故かロバートはリンと顔を合わせようとはしなかった。
だが、その次の瞬間、リンは思い切り足を振り、ロバートの腹に一撃を食らわせた。
「かはっ・・・!!」
(な、なんて重い一撃・・・・!!)
ロバートは腹に来た蹴りの衝撃にふらつき、後ろに下がった。
「女とは戦えないってわけ?悪党に女がいたらどうするわけ?」
リンはロバートに質問を投げつけた。ロバートはその質問に対し、沈黙で答えた。というより、答えられなかったのだろう。恐らく、ロバートは女性が苦手というコンプレックスで、女性の悪人を殺せないのかもしれない。
「オラァッ!!」
リンは男のような雄叫びを上げ、次々とロバートに蹴りを喰らわせる。その凄まじさもさることながら、何故、攻撃しているリンが電流の被害を受けていないのか、私達はそれが気になって仕方がなかった。
「な、なんであの女は電気が効いてねーんだ!?」
とうとう痺れを切らし、ロックが私達が気になっていたことを口に出した。
「後でたっぷりと説明して上げる!!こいつを・・・・」
リンは視線を私達の方へ向け、ニコッと微笑み、再びロバートの方へ視線を向けた。
すると、リンは足を前後に開き、前足と同じ方の腕を前方に上げる。そして、残った腕はへその位置まで持って行く。
「その構えは・・・中国拳法の・・・・!!」
「ロバート、一つ言っておくわ。悪人の中にも子どもや家族がいる人だっている。もしかしたら、その子どもの生活費を稼ぐために仕方なく悪事に手を染めているのかもしれない。・・・あなたは、それでも悪人を殺せるの?」
「うっ・・・・」
リンの言葉に、ロバートは動揺した。ロバートも、心のどこかで本当はわかっているのかもしれない。
悪人を全て殺す・・・・確かにそうすれば、犯罪は減るかもしれない。だが、それと同時に残された者を不幸にし、憎悪を生ませ、新たな悪が生まれるかもしれない・・・・
「殺された悪党の子どもが大きくなって、あなたを殺そうとしたら?その時、子どもはあなたのことを”悪”だって思うのよ?」
「ううっ・・・・やめてください・・・・!!」
リンの言葉にロバートはうめき声を上げ、リンの言葉を聞くまいと、両手で耳を塞ぎ始めた。
「復讐者を作ることが、あなたにとっての正義なの!?」
「ううっ・・・うううう・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
リンの最後の一言に、ロバートは叫び声を上げた。それは恐怖にも似た叫びだった。それから何度も何度もロバートは叫び続けた・・・・
何を信じればいいのかわからない、何が正しくて何が悪いのか、自分でやってきたことは何だったのか・・・・そんな声が聞こえてくるようだった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
わけがわからなくなったロバートは自分を苦しめようとするもの、リンを黙らせようと、がむしゃらに拳を繰り出した。繰り出された拳はもはや正拳ではなく、喧嘩の素人が出す滅茶苦茶なパンチに変わっていた。
「ロバート、ごめん・・・・」
ロバートの拳がリンに迫ろうとした瞬間、リンはロバートに一言謝ると、全身に力を込め・・・
「龍撃掌ッ!!」
足を一歩前に踏み出し、力強い掌底をロバートの腹部に叩きつけた!
「がっ・・・・はっ・・・・!!」
掌底を喰らったロバートは、口から血を吐き、その場に倒れた。
「・・・リン・・・・」
戦いが終わり、私は静かにリンに声をかけた。
「ルーク・・・ごめん、私、彼のこと傷つけちゃった。それに、ひどい事言っちゃったわ・・・・」
「いや、君が謝ることじゃない。・・・私が説得できていれば・・・・とにかく、彼を手当しないと。」
私達は負傷したロバートを連れ、その場から立ち去り、事務所へと戻った・・・・
「うっ・・・うん・・・・」
ロバートは目を覚まし、ゆっくりと目を開いた。
「こ、ここは・・・・」
ロバートは辺りを見回し、いつも見ている自分の部屋とは違う景色に戸惑った。
そこに・・・・
「おはよ!!」
メアリが大声で叫んだ。
「うわぁ!!」
ロバートはそれに思わず驚いた。
「き、君は確か・・・?」
「気がついたか。」
私は先ほどの叫び声を聞いて、キッチンの方から顔を出した。
「ファウスト・・・・それに・・・・」
ロバートはダイニングの方に目をやった。ダイニングにはロックとルイスが椅子に腰掛けていた。
「・・・よぉ。」
「どーも。」
ロックは不機嫌そうに挨拶し、ルイスは軽く挨拶をした。
ロックは先ほどの戦いで負けてしまったことが悔しかったらしい。だから不機嫌そうな態度をとっていた。
「ここは一体・・・・」
「私達の事務所さ。昨日の戦いで、君は怪我をしたんだ。覚えていないか?」
ロバートが負傷して気を失ってから、丸1日経っていた。しかし、幸い怪我は意外にも大したことはなかったため、手当もすぐに済み、ロバートが目覚めるのも早かった。
私がロバートに説明すると、ロバートは辺りを見回し始めた。
「・・・ドラゴンガールは?」
リンを探しているようだ。
「・・・今は自分の部屋にいる。君を傷つけてしまったことを、後悔していたよ。」
私がそう説明すると、ロバートの表情は曇った。
「・・・どうすれば、良かったんでしょうか。自分の中の正義を信じて、今まで戦ってきたはずなのに・・・・」
ロバートはそう言って、苦笑いを浮かべた。
「・・・無理して、正義にこだわる必要もないんじゃないか?」
「えっ・・・」
私はロバートの言う正義に、思ったことを口にした。すると、ロバートは顔を上げ、私の方を見た。
「いや、別に君の正義をバカにしてるわけじゃないんだ。正義っていうのは大事なことだし、自分の信念にもなるし、志にもなる。・・・だけど、そのために何かを犠牲にしてしまうのは・・・本当に正義と言えるのか?」
「・・・・」
私の言葉に、ロバートは何も言わず、ただ黙り込んだ。
「ドラゴンガール・・・リンは、昔、両親を殺されてしまったんだ。」
「えっ・・・?」
「それからあの子は、自分の青春をなげうって強くなり、両親を殺した犯人を今でも捜している。・・・・恐らく、リンは自分と同じような子がでないように、君にあんなことを言ったんじゃないかな。」
私はリンがロバートに放った台詞を解釈し、ロバートに伝えた。
ロバートはまるで目から鱗が出たかのような表情を見せていた。恐らく、「信じられない」という気持ちと「リンにそんな過去が・・・」という気持ちの両方だろう。
「・・・ファウストは、どうなんですか?」
「?」
ロバートの質問に、私は首を傾げた。
すると、ロバートはそれを察してか、続けて言った。
「あなたには、正義以外に何があるんですか?」
「・・・・私は、頭悪いし、すごいバカだから・・・正義とか難しいことはわからないんだ。」
私はそう言って、苦笑いを浮かべた。
「だから、最近じゃこう思ってるんだ。定義がわからない"正義の味方"より、"人類の味方"になった方がわかりやすいし、迷うこともないだろうって思ったんだ。私だけかもしれないけどね、こんな考え方は。」
「人類の味方・・・・」
「ああ、私が思うに、ヒーローは正義を守るのも大事だけど、"人を守りたい"という気持ちが一番大事だと思うんだ。」
「人を守りたいという・・・気持ち・・・・!」
ロバートは私の話を聞いた途端、拳を握り、その拳をただ見つめた。
と、その時だった。リビングの入口のドアが開いた。そこには、リンがいた。
「あっ・・・」
ロバートはリンの姿を見て、思わずたじろいでしまった。リンはそれを気にせず、足を進ませ、キッチンの冷蔵庫の方へ向かった。
冷蔵庫にたどり着き、リンは中を開けてペットボトルに入ったジュースを取り出し、飲み始めた。
「・・・」
ロバートはソファから立ち上がり、リンの元へ近づいた。
「あ、あの・・・・」
ロバートは声をかけた。だが、リンは答えない。
「あの!」
聞こえてないと思ったのか、ロバートは大声で声をかけた。
「聞こえてるから。」
ロバートの呼びかけに、そっけなく答えるリン。
しかし、それでもロバートは負けじとリンに話し掛ける。
「さっきは・・・・すいませんでした。」
「・・・謝るのは私の方。わからせる為とはいえ、結構強めに殴ったちゃったから・・・・」
「いや、いいんです。おかげで目が覚めた気がしますから。これからは、僕も皆さんみたいに、人の為に、人を守るヒーローとして戦います!」
ロバートは決心し、それを言葉にしてリンに伝え、拳を握った。
「だから・・・また、どこかであったら、その時は・・・・い、一緒に戦わせてください!」
さらにロバートは続けて叫んだ。
「・・・・」
リンはしばし間を空け、ため息をついた。すると、ロバートの拳に自分の手を添えた。
「次戦う時は、もっと強くなって・・・・女性が苦手なところ直してよね?」
リンは微笑みながらそう言うと、ロバートに向かってウィンクを送った。
「は、はいっ!」
「よーしっ、ロバート!これからは心を入れ替え、みんなの為に戦うんだ!」
「もちろん!」
私はロバートの肩を叩き、激励の言葉を贈った。と、そこに・・・・
「フッフッフッ・・・・心を入れ替えるんだったら、コスチュームとヒーローネームも入れ替えないとね!」
そう得意気な顔で言いながら、メアリがスケッチブックを取り出した。
「もしかして・・・新しいコスチュームがあるのか?」
「オフコース!メフィストと色々相談して新しいコスチュームが一杯できたんだよ!ねっ、メフィスト!」
『ふん、ちょうど作る物がなくて暇だったからな。』
メアリがニコニコ笑って言うと、メフィストは相変わらず悪い態度で返した。
「後、名前も考えといたよ。『雷神』じゃダサ過ぎるもん。」
「ダ、ダサイ・・・・」
ロバートは自分で考えたヒーローネームを貶され、ショックを受けた。
「そ、それで、名前はなんて言うんだ?」
私はショックを受けるロバートをよそに、メアリに新しいヒーローネームを尋ねた。
「フフフ・・・・名前はね・・・・」
それからというもの・・・・街には新たなヒーローが誕生した。雷のマークが描かれた白と黄色のライダースーツに身を包み、虎を模したフルフェイスヘルメットに、グローブ、ブーツを装備し、ニューヨークの街を駆ける。
その男は、雷の力を使い、ニューヨークに住む人々を守る為、悪と戦う”弱き者の味方”・・・・
「見つけたぞ!人々を苦しめる悪党め!」
「だ、誰だてめぇ!?」
その名は・・・・
「我は『ライトニンガー』!!ニューヨークを守るヒーローの1人だ!!」
サブキャラクター第1号登場です!
モデルは・・・特にありませんが、ヘタレキャラ要員として作りました。




