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ファウスト ~FIRST HEROS~  作者: 地理山計一郎
第2章「出会いと過去の激闘編」
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第9話「メアリとメフィスト」

メフィストと出会って数日が経つ。彼も、私達も、多分馴染んできたと思う。

だが、分からないことがある。


それは、メフィストの目的だ。メフィストは、「私には目的がある」と言っていた。恐らく、その目的は大きいものだろう。なんせ自分と同じ悪魔を消して喜ぶくらいだ。それに、「研究がある」と言っていた。しかも、その研究には人の魂が必要だとも言っていた。


・・・一体、メフィストは何をしようとしているんだ?


「うーん・・・・」

「おっさん、どうしたんだ?」

私が唸り声を上げると、ロックは私の様子が気になったのか、私に尋ねてきた。


「いや、なんでもない。おっ、いい匂いがしてきたな。」


私はロックにそう言いながら、鼻孔に香しい匂いが通ったことに気がついた。

この時、昼食の時間で、私達はその料理の完成を待っていた。


「はーい!出来たわよ、本場ベトナム料理!」


今日の食事当番はリン。ベトナム出身のリンは、私達の前に本場ベトナム料理を差し出した。


「おおっ、生春巻きか!」

「それと、こっちはフォーね。」


リンはそう言うと、どんぶりに入ったフォーという麺料理をテーブルに置いた。

さすが、定食屋の娘だけあって料理の腕はいいらしい。


「へー、これが生春巻きかぁ・・・・うわっ、クサッ!」

「なんだこれ!超クセェぞ!」


ロックとルイスは生春巻きの匂いを嗅いで、その匂いに思わず鼻を塞いだ。

それを見て、私とリンはクスクスと笑った。


「それがライスペーパーの匂いだ。」

「あら、知ってるの?」


一緒に笑ってたリンが、私に尋ねた。


「パパはプロボクサー時代にベトナム行ったことあるんだよ。」

と、横からメアリが入ってきて説明した。


「その通り。プロボクサーの時にいろんな国の選手と戦って、そのたびにその国の料理を食べてたんだ。日本だったらラーメンに寿司、ドイツだったらビールにハム、ソーセージ、韓国だったら手作りキムチに石焼きビビンバ・・・・あの頃はいろんな国に行ったなー。」

「たまに私とママを連れてってくれたの!」

「ははっ、そうだったな。おっと、そういえば前に家族に日本に行った時・・・・限定のスパイダーマングッズが欲しいって言って、駄々こねて私とマリアと困らせてたのは誰だったかな?」


私はふと昔、日本に行った時のことを思い出し皆の前で話してみた。すると、メアリの頬がカーッと赤くなった。


「み、みんなの前で言わなくても・・・・」

「あの時はまだメアリは6歳だったからな。仕方ないと言えば仕方ないが・・・・」

「ご、ごめんなさい・・・・」


メアリは昔のことを思い出して恥ずかしくなったのか、とりあえず一言謝った。


「さっ、ご飯食べよう。」

私がそう言うと、みんなは一斉に料理を食べ始めた。


「ん、美味しい!生春巻きイケるね、皮クサイけど!」

「美味ぇ!皮クサイのに!」

「クサイクサイ言わないでくんない?」


リンは「クサイ」と言う二人に対して注意した。

リンの作った春巻きはなかなかの味だった。中に入っている海老、ハーブ、春雨と巻いてある皮の食感が心地よく、タレのチリソースによく合う。

次にフォーだ。フォーは簡単に言うならベトナム版のラーメンだ。


「確かハーブを入れるんだったな。」

「そう。他にレモンとかも入れて食べるの。」

「どれどれ・・・・」


ハーブとレモンを入れ、ルイスは一口食べた。


「変わった味だね、酸味のあるラーメンみたい。こういうの僕好きかも。」

「俺は少し苦手だ・・・・」


私達はフォーの味も楽しんだ。スープ自体がさっぱりしていて、そこにハーブとレモンが加わって後味もさっぱりしている。


「美味しい~♪美味しいね、メフィスト!」

『まぁ、カンフー女が作ったものにしてはよく出来てる。だが、パスタはどうした?』


メフィストはそう言うと、リンの方へ顔を向けた。


『私はパスタが食いたいと言ったはずだ!こんな紛い物ではないわ!』

メフィストはリンに向かって叫び、同時にフォーをけなした。


「あんたが『パスタ!パスタ!』ってうるさいから麺料理にしてやったんでしょ!?っていうか、フォーは紛い物じゃないから!ちゃんとした料理!!」

リンもメフィストに向かって叫び、怒りを見せた。


『屁理屈を言うな、このウシ乳女め!』

「屁理屈じゃないわよ!後、牛って言うな!!」

「あー、ちょっといいか?」


口喧嘩をするメフィストとリンを見て、私は話題を変えようと試みた。


「メフィスト、聞きたいことがある。」

『ああん?』

「前から聞きたかったが、君の目的はなんだ?」


私は前々から気になっていたことをメフィストに尋ねた。すると、さっきの怒りはどこへやら、急に静まり返った。


『・・・・研究のためだ。』

「その研究は一体なんだ?人の魂を使うと言っていたが、何の研究に使うつもりだ?君は何をしようとしているんだ!?」


私はそう言って椅子から立ち上がり、メフィストに詰め寄った。


『黙れ!』

その時、メフィストは手のひらで私を突き飛ばした。ふいを突かれた私はその場に倒れてしまった。


『貴様に余計な詮索をされる気はない!いいか?私は貴様・・・いや、貴様ら人間どものことは成長しないゴミとしか思っていない!』

「なんだとてめぇ!!」


メフィストの暴言にロック、ルイス、リンは怒りを覚え、椅子から立ち上がった。


『いいか、貴様らは黙って他の悪魔と戦い、人助けでもしてればいい!!ヒーロー活動とやらをしていろ!!』


メフィストはそう言って、その場を離れ、下の階へ降りていった。


「あっ、ちょっ、ちょっと待ってよ!」

メアリは急いで料理を食べ、メフィストの後を追いかけた。


「・・・・おっさん、俺、あんな奴と協力できねぇ!」

「右に同じ。あいつは人間を毛嫌いしている上に、仲間意識もない。あいつとは手を切るべきだよ!」

「・・・・悪いが、私はメフィストを信じてみたい。」


メフィストと手を切ろうという申し出に、私は断った。確かに、態度もでかいし、人間を毛嫌いし、仲間意識もなさそうなのは事実だ。しかし、彼のおかげで助かっているのも事実だ。


「ルーク!それ本当に言ってるの!?」

「私は彼のおかげで変身できている。彼がいないと、私はファウストに変身できない。それに・・・・この前のニコラスさんの件は、メフィストがいなければ解決しなかった。」

「そ、それは・・・・」


私がそう言うと、ロック達は何も言えなくなった。ロック達もわかっている。メフィストがいたからこそ、人を助けることが出来たということを。


そのころ、メフィストの方は、地下室にある研究室で新しい発明品を作ろうとしていた。メアリはその隣でずっとメフィストに話し掛けている。


「ねぇ、さっきのはさすがに言い過ぎだよ。みんなに謝ろうよ、ねっ?」

『うるさい!私はあいつらが気に入らん!特にあのお人好しの聖人面した貴様の父親がな!』

「名前で呼ばないんだね。」

『うるさーい!!』


メアリの冷静な返しに、メフィストは怒鳴って返した。


「もう!なんでそんなに人間が嫌いなの?」

『ふん、人間というのは見た目が違うだけで差別をする。見た目が違うだけで敵だと認識し、嫌い、迫害する!現に、キリストをはじめとした多くの宗教で悪魔払いが存在してるじゃないか!』

「うーん・・・・でも、私はメフィストのこと好きだよ?」


メアリはそう言うと、ニコッと笑い、笑顔を見せた。


『ぐ、ぐぬぅ・・・・!』

メフィストはストレートに「好き」と言われ、思わずたじろいだ。


『ふ、ふん!さーて、続きだ、続き!』

メフィストはそう言って発明の続きを作り始めた。


「・・・」

メフィストのそっけない返事に、メアリは無言になりながらメフィストに近づいた。


「メーフィスト♪」

メアリは後ろからメフィストに抱きついた。


『き、貴様!なんのつもりだ!?』


突然のことにメフィストは動揺したが、メアリは何も言わず、そのまま抱きついてる。


『おい!なんとか言え!』

「・・・ねぇ、メフィストは私のこと嫌い?」

『!』


メフィストは声を上げた。しかし、すぐに黙り込んだ。メアリも黙った。


『・・・嫌いじゃない、とだけ言っておく。』

「えへへ・・・やった。」


メフィストの返答を聞いたメアリは、嬉しそうに笑い、メフィストをギュッとさらに抱きしめた。


「メフィスト、もう少しこうしてていい?」

『・・・好きにしろ・・・』


メアリのワガママに、メフィストは答えた。しかし、それはいつものように怒鳴りながらの返答ではなく、至って静かで、どこか哀愁が漂うものだった。

それから30分ほど、メアリはメフィストの側を離れなかった。

そこは、誰も立ち入ることのできない、二人だけの空間だった・・・



その夜、私達はパトロールに出た。


「みんな、最近巷で『ダークウィング』というコウモリに似た男が銀行やスーパーで商品とお金を強奪している。」


私は歩きながらロック達に「ダークウィング」という強盗について話した。


「ああ、最近新聞とかテレビのニュースにも出てるよね。」

「その通りだ。なんでも、そいつは強奪した後、巨大な翼で空を飛んで逃げるらしい。」

「空を飛ぶ・・・・悪魔の可能性大ね。」

「うむ、警察でも逮捕できないらしい。ここで、私達の出番というわけだ!」


私は拳を握り、高らかに宣言した。警察の手に負えないのなら、私達の出番だ。


「でも、空を飛ぶ敵なんてどうやって捕まえるの?」

「簡単さ、飛んで逃げる前に捕まえる!それだけ!」


私は思いついたとびきりの作戦を語った。が、ルイスとリンの二人は軽くため息をついた。


「だから、それができないから警察の手に負えないんでしょ!」

「もう・・・おじさん、ちゃんと頭使ってる?」

「むう・・・・」


二人の不服そうな顔に、私は唸り声を上げた。そんなにダメな作戦だっただろうか・・・・


「いいじゃねぇか、シンプルでよ!俺はオッサンの作戦に乗るぜ。」

と、ロックは私の肩を叩き、私の作戦に賛同してくれた。


「バカが2人・・・・作戦はメフィストに任せた方がいいんじゃないの?自称天才なんでしょ?」


ルイスはそう言いながら、私の方を、というより、スーツに変化したメフィストを指差した。


『自称ではない!本当に天才なのだ!まぁ、考えてやらんでもない。貴様ら全員が土下座でもすれば別だがな。フハハハハハハハハ!!』

メフィストは私達をバカにし、高笑いを浮かべた。


「ところで話は変わるけどさ・・・・」

『って人の話を聞けェッ!!』

私達はメフィストの話を無視し、次の話題に入った。


「なんでメアリちゃんがついて来てんの?」


ルイスの言う通り、私達の側にメアリがいた。しかもメアリは私達がパトロールを始めた時からついて来ていた。私達はそれに気づいてはいたが、あえて言わないようにしていた。あまりきつく言ったらメアリを傷つけてしまうだろうし、甘く言ってもメアリには通用しないと思ったからだ。


「メアリ・・・・前から言ったじゃないか!パトロールについて来ちゃいけないって!」


私は眉間に皺を寄せ、メアリを叱った。すると、メアリもムッとした表情を見せた。


「やだ!ヒーローが戦ってる姿なんて滅多に見られないもん!それに、メフィストと一緒に新しい装置とかコスチュームとかのデザインとか作りたいし・・・・・そのために観察したいの!」

「メフィスト!そんな約束をしたのか!?」

『知らん!こいつが勝手に言ってるだけだ!』

「あっ、ずるい!さっき地下で約束したのに!」

『ふん!』

「メフィストのバカ!根性無し!」

『なんだと!?このヒーローバカが!!』


私をよそに、2人は口喧嘩を始めた。なんとも低レベルな喧嘩で、微笑ましいとも言えなくはないが、そんなことを言ってる場合じゃない。


「2人とも黙ってなさい!」

私は叫び、2人を黙らせ、話を続けた。


「いいか、メアリ。私はお前を危険な目に会わせたくはないんだ・・・・お前は、私にとって、かけがえのない・・・・・」


「かけがえのない存在」・・・そう言いかけた瞬間、横から黒い”何か”が突然現れ、私の前を横切り、同時にメアリの姿が消えた。


「ッ!!?メアリ!!」

私はひどく驚き、慌てて辺りを見回した。


「あそこだ!」


その時、ロックが電柱の上を指差した。私とルイス、リンはそれに釣られて電柱の上を見た。

ロックが指差した電柱の上には、コウモリのような巨大な翼を持つ化け物が立っていた。そして、その化け物の腕にはメアリが抱きかかえられていた。


「メアリッ!!」

「お前が『ダークウィング』って奴か!?」

「クカカカカ・・・・!ご名答!この俺様がダーク・・・・うぼあっ!?」

「離してよ、このバカ!」


ダークウィングが名乗ろうとした瞬間、メアリが急に暴れ出し、ダークウィングの顎に蹴りを入れた。


「このクソガキ!何しやがるんだ!せっかく悪役っぽく決めようと思ったのに・・・・!」

『落ち着け、トム。クールダウンだ。』


その時、ダークウィングから男2人の声が聞こえた。1人は恐らく、トムという男の声。

もう一つは・・・・


『その声・・・・貴様・・・!』

『気がついたか、メフィスト。この私のことを忘れているかと思ったぞ。』


メフィストの反応を見るに、もう一つの声は悪魔のもののようだ。


「メフィスト、知り合いなの?」

2人の会話を聞き、リンはメフィストに尋ねた。


『奴の名はバド。私と同じ、憑依型の悪魔だ!そして、奴のアーツは・・・・』

『おっと!言う必要はない・・・・今から思う存分見せてやろう!!』


バドはそう言うと、バドが取り憑いているトムは大きく息を吸い始めた。


「クキャアアアアアアアッ!!」

その瞬間、トムは奇声を発した。それと同時に耳がちぎれんばかりのノイズのような音が私達の耳に響いた。


「う、うわあああああ!!」

「な、なんだこりゃあ・・・・!?」

『奴のアーツは「音波」だ!文字通り、音波で攻撃ができる!』

「じゃあ、警察が捕まえられなかったのは・・・・!」

「この音波のせいってわけね・・・・!」


凄まじい音波攻撃に、私達は耳を塞ぐのが精一杯で、身動きができなかった。


「クカカカカ!この女はもらっておくぞ!」

私達が苦しんでいる様を見て、トムはあざ笑い、メアリを抱えて飛び去った。


「し、しまった・・・!!」

「パパーーーーーー!!」

「メアリーーーーー!!」


メアリは届かないとわかっていながら、咄嗟に手を伸ばした。私はそれに答えるように手を伸ばしたが、距離からして届くはずもない。互いに叫び声を上げ、そのまま離れていってしまった。


「クソ!なんとかならねぇのかよ!!」

「メフィスト!翼とかないの!?」

『あるぞ。』

ルイスの質問に、メフィストは即答した。


『あんの!?』

メフィストの返答に私達は驚いた。


『飛べない悪魔なんていると思ったか?』

「ならなぜ早く言わない!?」

『聞かれなかったからな。』

「もういい!!早く出せ!!」


私は声を荒げ、メフィストをまくし立てた。この時ばかりは私も余裕がなかった。それもそのはず、自分の娘が目の前で攫われてしまったのだから当然だ。


『まったく・・・・』

メフィストはため息混じりに言った。と、その瞬間、スーツの背中から悪魔めいた巨大な翼が生えた。


「よし・・・・いくぞ!!」


私はそう言って高くジャンプし、それと同時に翼を羽ばたかせ、宙を舞いながら、後を追った。


「俺達も行くぞ!」

空が飛べないロック達は走って後を追い始める。


「ふう、ここまで来れば、誰にも見つかるまい。」


トムは高層ビルの屋上にたどり着き、抱えていたメアリを乱暴に降ろした。


「痛った~!お尻打った~!」

メアリは痛そうに尻を撫でた。


「もう!私を攫って、なんのつもり!?」

「ククッ、そう怒るな。俺はな、ただ単に大金持ちになりたいんだ。街の銀行や商店の金を地道に盗んでは貯めていた・・・・後少しで、その願いが叶うんだ。」


トムはゆっくりと自分の願いと欲望を語り始めた。

それを聞いて、メアリは何故か悪寒を感じた。


(な、何か、嫌な予感が・・・・)

「そこでふと思ったんだ。大金持ちになった時、何かが足りないんじゃないかとな。それは、女だ。」


トムはそう言ってニヤリと笑い、メアリに向かってジリジリと近づき始めた。


「ま、まさか・・・・」

「察しがついたようだな。そうだ、お前を俺の愛人第1号にしてやる!」

「や、やっぱり~~~~ッ!!?」

トムのその返答に、メアリは全身に鳥肌が立つのを感じ、叫び声を上げた。


「っていうか、彼女2人もいらないじゃん!1人いれば充分でしょ!?」

「わかってないなぁ・・・・金持ちってのは周りに女をたくさん侍らせているものなんだよ。」

(い、意味がわかんない・・・・っていうか、このままじゃマズイ・・・・!!)


メアリは危機を感じ、すぐさまその場から逃げだそうとした。だが、メアリの体は動こうとはしなかった。メアリは、これから起こるであろう自分の危機を恐れるあまり、腰が抜けてしまっていたのだ。


(こ、腰が抜けて動けない・・・・!ど、どうしよう・・・・!!)

「さぁて、ゆっくりとかわいがってやるからなァ~~~♪」


トムは手をワキワキと動かし、ジリジリと近づいてくる。トムは化け物の姿のまま近づいているので、傍から見れば、恐ろしい魔物が少女に襲いかかろうとしているように写っているだろう。実質その通りだが。


(パパ・・・・みんな・・・メフィスト・・・・!!)


メアリは恐怖のあまり涙目になってしまった。普通なら、ここで泣き出してしまうだろう。

だが、メアリは違った。


(怖くなんか・・・・怖くなんか・・・ない!!)

「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


その時、メアリは勇気を振り絞り、叫び声を上げながら立ち上がり、そのまま一気にトムへ向かって走り出した。メアリは襲われるという恐怖を、勇気で乗り越え、トムに突進しようとした。


「あっ!」


だが、運の悪いことに走り出した瞬間に足を滑らせてしまい、前のめりに転んでしまった。しかし、その時偶然にもトムとメアリとの距離は近かったため、転んだ拍子にメアリの脳天がトムの股間に直撃した。


「ギャオーーーーーーーーッッ!!」

トムは悲痛な叫び声を上げ、両手で股間を抑えた。


「あいたたた・・・・・あれ?」


メアリは転んで間もなく、すぐに起き上がり、トムの様子に気がついた。メアリは自分の頭が相手の股間に当たったことに気がついていないようだった。


「・・・・と、とにかく・・・・よしっ!」

メアリは両手の拳を握り、ガッツポーズをとった。


「き、貴様・・・!よくも俺の大事なものを・・・・!!ぶち殺し・・・・・!!」


最大の屈辱と痛みを受けたトムは、メアリをなぶり殺そうと、拳を振り上げた。


「メアリーーー!!」

「うごあっ!!」

だがその時、横から私が飛んで来て、トムは突き飛ばされた。


「大丈夫かメアリ!!?怪我してないか!?何かされてないか!?汚い手で触られたりしてないか!!?」

「だ、大丈夫・・・・」

「こ、この・・・・!!」


突き飛ばされたトムは立ち上がり、私を睨みつけた。

私は後ろを振り返り、同様にトムを睨みつける。


「ダークウィング!街の金を盗むだけでなく、子どもを・・・・しかもよりによってこの子に牙を向けるとは・・・・許さんッ!!成敗してくれる!!」


私は啖呵を切り、トムに向かって突進する。


「ヒッ!」

トムは咄嗟に腕を交差させ、盾代わりにしようとした。だが、それよりも早く、私の拳が繰り出され、顔面に命中した。


「ぐべっ!!」

「まだまだ!!」


私は間を置かず次々と拳を繰り出す。そして、これは私が現役ボクサー時代に使っていた技・・・・フック、アッパー、ボディ、ストレート・・・・ボクシングのありとあらゆるパンチを両手に交互に、連続で、正確に繰り出す必殺技、名付けて「テキサスラッシュ」!

だが、今は悪魔の力を借りているため、名前は・・・・


「これが私の・・・デモンズラッシュだッ!!」

私は高らかにそう言い、最後にストレートパンチを繰り出し、トムを殴り飛ばす。


「がぶばぁぁぁぁぁぁ!!」

殴り飛ばされたトムは叫び声を上げながら倒れた。


「お、俺がこんな奴に・・・・!!」

「さあ、降参しろ。降参すればひどい様にはしない。本当はパンチ100万発の刑にしたいところだが、私はヒーローだ。そんなことをすればヒーロー失格だ。さぁ、降参しろ!」


私はトムとバドに降参するよう迫った。


(クソ・・・・どうすんだよバド!)

(落ち着け!クールダウンだ!)

(お前そればっかだな!)

「?」


トムとバドは小声で会話を始めた。あまりに小さい声だったので、私の耳には届かなかった。


(まぁ、落ち着け。どうやら、この男はあの小娘がとても大事らしい。)

(確かに・・・・)

(このままムショ行きになるぐらいなら、この男の心ぐらいはくじいておいた方がいいだろう?)

(なるほど・・・!ケケケ・・・)

「どうした!降参か、パンチか!選べ!!」


痺れを切らした私は、2人を問い詰める。


「ゆ、許して・・・・!も、もうこんなことしませんから・・・・!!」

「本当だな?」

「本当です!心の底から・・・・・反省してますよっ!!」


その時だった。私の一瞬の隙を突いて、バドがトムの体から離れ、メアリの方へ向かっていった。


「なに!?」

『メアリ!!』

「えっ」


メアリはあまりに突然のことにただただ呆然と立ち尽くしていた。

私は咄嗟にメアリの元へ駆け出した。だが、バドのスピードはそれよりも速かった。このままでは、間に合わない。私の心に「もうダメだ」という気持ちが生まれた。


(そんな・・・・マリアと約束したのに、必ずあの子を守るって、約束したのに・・・・!!メアリ・・・・!!)


私の心はもう折れかけていた。「もう間に合わない」・・・・そう思い始めた次の瞬間・・・!


『うおおおおおおおおおっ!!』

メフィストは突然叫び声を上げ、右手を鞭のように伸ばし、メアリの腕を掴んだ。


そのタイミングは、バドがメアリに襲いかかるよりも速かった。


『ふんっ!!』

メフィストはメアリを掴んだと同時に腕を元に戻す動作を利用して、メアリを私の元へ勢いよく引き寄せ、抱き止めた。


「な、なんだと!?」

「メ、メフィスト・・・・?」

『この、バカがっ・・・・!!逃げるぐらいしろ・・・!!』

「ご、ごめん・・・・」


私とメアリは、ひどく驚いていた。まさか、メフィストが人を助けるなんて思いもしなかったからだ。しかも自分から。何がメフィストをそうさせたのか、その時の私には理解できなかった。


『ま、まさか失敗するとは・・・・!!』

「バド!お前のせいだぞ!何がクールダウンだよ!!」

『なに!?いつも作戦を立てているのは私だぞ!!それに比べてお前は何もできない無能だろうが!!』

「なんだと!?」


トムとバドは喧嘩を始めだした。


それを見た私は・・・・

「ふん!」

筋力強化のアーツを使って強く地面を踏みつけ、地面に小さいクレーターを作った。


「ヒイィッ!!」

「貴様・・・・もう許さんぞ。」

「ま、待てよ!まさかパンチ100万発の刑にする気か!?そ、そんなことしたら、あんたはヒーローじゃなくなるぞ!!」


トムの言葉に、私は一瞬無言になった。だが、間を持たずに口を開く。


「・・・そうだな。確かにそうだ。だが・・・・!!」

次の瞬間、私は勢いよくバドの頭部を鷲掴みにした。


『ガガガガ・・・・!!な、なにを!?』

「・・・ドレインバングル・・・!!」

私の腕に装着したドレインバングルが、バドのアーツを吸い取り始めた。


『こ、これは!?私のアーツが・・・・!!』

『どうだ?私が作った発明の味は。貴様は前々から私の発明をバカにしてくれたな・・・・それを償ってもらうぞ!!』

『メフィスト・・・・!!貴様ァァァァァ・・・・・!!』


バドは叫び声を上げるも、アーツを全て吸い取られてしまい、消滅した。

隣にいるトムはガタガタと震え、私を恐れていた。


「トム、もうこんなことはしないと誓うか?」

「は、はい!!誓います!!」


トムは泣きながら返事をした。それを見て、私はコクリと頷いた。

その後、トムは警察に逮捕された。


「あ~、良かった~逮捕されて!怖い奴いないし!」

「こいつ、なんで喜んでるんだ?」

「さあ?」


トムは私と別れることがかなり嬉しいのか、笑顔を浮かべながらパトカーに乗った。


「今回も大活躍だな。」

「ラリー刑事!」

警官達と一緒に、ラリー刑事が私達の前に現れた。


「お疲れ様です!」


私はラリー刑事に敬礼した。それに答えるようにラリー刑事と、後ろにいた警官達も敬礼した。


「前の宝石店ほど、派手にやってないようだが・・・・あまり俺達の仕事取るなよ?」

「ハハハ・・・・気をつけます。」


ラリー刑事の言葉に、私は苦笑いを浮かべた。


「よし、署に戻るぞ!」

ラリー刑事はそう言って、警官達と一緒に警察署へ戻った。


「・・・・ありがとう、メフィスト。」

『ああっ?』


私はメフィストに礼を言った。メフィストの態度は相変わらずだが、私は続けて言った。


「君がいなかったら、メアリはどうなっていたか・・・・」

『・・・別に好きで助けたわけじゃないぞ。ただ・・・・私の目的の為に貴様の機嫌ぐらい取った方がいいと思っただけだ。』

「フッ、そうか・・・・」


メフィストの照れ隠しに私はマスクの下で微笑みを浮かべた。


次の日、事務所2階のリビングでは・・・・


「スー・・・スー・・・」

『ンガー・・・ンガー・・・』


二人はリビングのソファに横たわり、寄り添いながら昼寝をしている。

二人はさっきまで新しいヒーローコスチュームの相談をしていたが、途中で眠くなったのか、一緒に昼寝をしたんだ。


「なんか・・・距離近くなってね?」


まず先にロックが口を開いた。何故かこの時冷や汗を掻いていた。

ロックの言う通り、メアリとメフィストの距離は近くなっている。実際、昼寝をしている二人はひどく密着しており、抱き合っている状態にも近い。


メアリがメフィストのことを気に入ってることは知っているが、メフィストの方はわからない。だが、私達と一緒に暮らしていく中で、メフィストの中でも変化があったのかもしれない。とはいえ、自分の目的の為に私達を利用しようとしているのだろうが・・・・


「まぁ、いいんじゃないか?仲がいいのはいいことだ。」


私がそう言うと、ロックは苦笑いを浮かべた。


「だ、だよなー、ハハハ・・・・」


すると、苦笑いするロックを見かね、ルイスとリンが肩を叩いた。


「いやー、これはなかなかのライバルが出現じゃないの?」

「!」

「インテリが好きな子って結構いるみたいよ。」

「!?」

ロックがひどく驚いた表情を見せ、その場に膝をついた。


「うん?どうした、ロック?何かあったのか?」


私はロックに尋ねた。私はロックがメアリに好意を寄せていたことを知らなかったため、何故ロックが膝をついたのかわからなかったのだ。


「せっかくだし、写真を・・・」


ルイスは携帯で寝ている二人の上から写真を撮った。


『ン・・・?ンン・・・』

フラッシュを焚いたせいか、メフィストは眠りながら目をこすった。


「ねぇ、これ弱味を握るのに使えないかな。」


ルイスは私に写真を見せ、ニヤニヤと笑った。


「・・・フフッ、いい写真じゃないか。」


写真に写った二人は、とても可愛らしかった。まるで小動物が一緒になって寝ているようで・・・

後ろの様子は露知らず、2人はスヤスヤと眠っていた。

これを見て、私は思った。「メフィストの目的はなんであれ、こんな日常が続くならメフィストと一緒にいるのもいいかもしれない」と・・・・



余談

『ぐ、ぐぬぅぅぅ・・・!!』

「いやー、君達本当に仲いいね♪」

ルイスは撮った写真を二人に見せてニヤニヤと笑っている。対するメフィストは恥ずかしそうに唸り声を上げ、メアリは逆に喜んでいる。

「わー!それ私のスマホに送って!宝物にするー!!」

「いいよー♪」

『いっそ殺せ・・・!!』

メフィストはしばらく、この写真のことでからかわれたのだった・・・


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