理不尽にコンニチワ
商店街と住宅街の間を遮る大きな壁。
そんな大きな壁であっても商店街を賑わす人々の活気に溢れた声までは遮ることができていない。
そんな商店街から聞こえる音楽や声にいつもならば高揚しているのだろうが今は違った。
それらを全て遮る衝撃、それも自分でも理解できていない衝撃だ。
ルカは初めて出逢ったであろう少女に懐かしさやら色んな感情を制御できずにただ彼女を見つめていた。
そんなルカをみて少女が近づいてきた。
「キミ、大丈夫??」
少し困った顔をしながら微笑みながら、慰めるように彼女は声をかけた。
「え、なにが……」
少女は人差し指で自分の目を指差す。
あ、なるほど。自分が泣いているから彼女は心配して声をかけてくれたのだと状況を把握する。
「ご、ごめん!なんか……こう……ホームシック、なのかな?」
誤魔化そうととっさに言葉を発するのだが言ってることが滅茶苦茶であった。
「キミは私をみて家族でも思い出したのかい??」
「いや、そうじゃないけど……」
そのルカの困った反応に、更に優しく微笑む。
「私はマリ、キミの名前は??」
マリは中指で眼鏡をクイッ、とかけ直しながら自己紹介を求めた。
「俺はルカ、最近王都に住み始めたんだ」
「ほむほむ、それならキミはルー君だね!我ながらイケてるネーミングチョイスじゃないだろうか」
どこがだよ、そう言おうと思ったんだがその呼び名の響きに懐かしさを感じてなにも言えなかった。
「ナハハハ、キミは照れ屋さんだね!そんなキミは王都ビギナーらしいから私がこの王都を紹介してあげるよ!」
なんか変わった人だなと思いなからも王都はまだ知らないことばかりだからその提案を素直に受け入れようと考えた。
「んーじゃあお願いしようかな。マリさんは王都産まれとかなの??」
ふっ、当たり前じゃないか。と思わせる自信満々な顔でこちらを見る。
「私がこの王都にきて彼是10日だね」
え、少な。
「……」
ルカの冷たい視線に慌てて反論する。
「いや私別に王都が地元だとも言ってないから!勝手に期待しといてその反応はひどいよ!」
まあ確かにマリは嘘はついていない。それはそうなんだが。
「けど紹介してくれるって言ったよね」
10日滞在程度ならルカと同じ境遇のコだろう、紹介する程の情報があるとは思えない。
「あ、それは大丈夫!私は確かに滞在期間は短いけど王都についてはガチ勢だよ!」
にわかに信じがたいがまあこれをきっかけに王都を見てまわるのもいいかと考えた。
「まあいいか。それじゃあマリさん、紹介お願いしていいかな。」
「りょうかーい!王都案内ツアーいってみよー!」
親指を立てて任せろ!とウインクしてくる。
その姿に不安を覚えつつも王都見学を始めた。
まず商店街にいくためゲートを通るのだが、今日は思いの外すんなり通ることができた。
ゲートを出てすぐ正面を進むといつもルカがかよっている店の通りがあるのだが、マリは違うルートを進んだ。
「こっちってあんまり来ないけどなにがあるの??」
この通りは正面の通りに比べると裏路地のイメージが強く人も少ない。
「大体の人はゲートを抜けてすぐに見える、人気の店が沢山並ぶ賑わった正面の通りにいくでしょ?けどこっちにもいいお店は沢山あるんだよ。」
まあ確かにルカも正面の賑わいに高揚してそのまま導かれるかのように足を運んでいた。
周りを見渡すと店主たちはそれぞれ声をだして品物のアピールをしているのだがそれでも客の人が少なく活気がない。
店主たちの顔にも焦りとも思えるやるせなさを感じた。
曲がり角でひっそりとたつテント、そこに見かけた顔と目があった。
「らっしゃい!あっしの店のポーションは、一定のエリアでしか採れないレアな薬草を独自の技術で調合した一級品ですぜ!ぼっちゃんもしもの時の為にどうですかい?」
先ほどゲートで見た顔だった。
「ポーションかー、そういえばちょうど在庫少なかったっけな?けどちょっと値段高いな……」
食材用に銀貨を残したい気持ちが強く、ポーションはまた今度にするかと断りかけたが隣の少女はぼそりと呟く。
「レッドポーションなのにこんな安く売るしかなんだね……」
ポーションにはランク付けがある。
ポーションとは基本濃さによって効果が増えるといわれている。
その濃さが一定までいくとレッドポーションとランクが上がるのだ。
ルカは半信半疑だった。
なぜならレッドポーションは普通のポーションに比べて価格も桁違いなのだ。
しかしこの店のポーションは普通のポーションより多少高い程度。
「どれだけ価値があっても認知されなきゃないのと同じってことっすよ」
少女の呟きに店主は寂しげにそう答えた。
自分自身に言い聞かせるように。
そして1つポーションを買って二人はまた歩き出す。
ポーションの他にも優れた店がちらほら存在していることにルカは驚いたのだった。
そして店を一通り見終えると、通りの突き当たりに階段があった。
そこを昇ると、この王都全体を見渡せる絶景が広がっていた。
太陽が沈みかけ、街には1つ、また1つと光が灯り始める。
「綺麗な景色でしょ?」
マリは自慢気にそう言った。
「……うん。確かに綺麗だね」
ルカも自然とそう答えた。
「さて、とりあえず今日の王都見学はおしまい!どうだった??」
どうだった、か。なんてこたえるのが正解なのか。
彼女はなにを伝えたかったのか。
ルカが口を開こうとしたその時
「マリ様、ここでしたか。探しました。」
綺麗な黒いロングヘアーに白い鎧を全身に纏った美人騎士と思える女性が階段から現れた。
「レディアたん、タイミングが悪いよー。空気読む機能も付け足した方がいいよ」
どうやら二人は顔見知りのようだ。
「たんはやめてください。あと空気を読む機能は戦闘においてなんの役にも立たないと思われますので拒否させていただきます」
予想していた反応だったのかマリは笑いながら返す。
「相変わらずレディアたんは硬いなー」
空気を読む機能?なんらかの冗談の一部なのか?色々と状況についていけてないルカだったがそんなルカをレディアが鋭い目をして凝視している。
「マリ様、その人間は」
ルカの事を人間とよび、まるで他種族が人間を蔑むような言い方にルカは若干のイラつきをみせた。
「あのさ、なんだよその人間って言い方!折れにはルカって名前があんだよ!」
その言葉にレディアの鋭い目つきに拍車がかかった。
「人間を人間とよんでなにが悪い。そして名前など聞く必要もない。」
「は?!お前何様だよ!」
反射的に言い返してみたものの、ルカは頭のなかで彼女が人間ではないからこその発言であることに焦りを感じていた。
人間と変わらぬ姿、そして今この王都で平然と人間を見下す行為。
機械種であろう。
そしてなにより気になったのが、その彼女が敬意を示す相手。
「レディアたんー。何度も言うけど人間をそんな風に見下すのはよくないよー?」
マリの言葉に彼女はしゅん、としながら答える。
「マリ様……しかし……」
ルカはそのやり取りを見てマリに言葉をなげる。
「おいマリ、こいつ一体な」
その言葉の途中、殺気をむきだしにしたレディアが腰の刀を抜きルカの首もとに向ける。
「人間。貴様一体誰にむかって言っている。」
あ、殺される。その殺意が本物であることが嫌でもわかりルカは自然と両手をあげ降参のポーズをとった。
「いや、その」
冷や汗をかきながらルカは横目でマリをみた。
やれやれとため息をつきマリは殺意むきだしの彼女を制する。
「こら!ストップ!刀をしまいなさい!命令です!」
その言葉をきき、レディアは数秒ルカを睨んでから刀を腰に戻した。
「人間。このかたを誰だか理解して発言しているのか。」
誰って……さっき出会ったばかりで誰かは知らない。
貴族か?いや、違う。
このやり取りをみてルカはなんとなくだが理解していた。
「このおかたは、全機械種のマスターマリ様である」
階段をのぼった先、見晴らしもよく風も気持ちいい。
先ほどから照らしはじめた灯火も今や風景一帯を光に包んでいる。
綺麗だなー。そんな光に感銘をうけたいところだがルカはそれどころではない状況にたたされていた。