出逢いにコンニチワ
王都[レミテシア]
綺麗な城を大きな壁で囲んでおり、その周りに商店が多数あり賑わっている。
そして商店街を壁で囲み、その外側に家が建ち並び同じく大きな壁で外界からの侵攻を完全に阻止している。
壁には敵対するものを撃退する設備が整っており
非常に強固な防衛網といえる。
この王都を陥落させることは不可能とさえいわれていた。
しかし10日程前、たった1日でこの防衛網は無効果された。
今では陥落されたことにより賑わっていた商店街も活気がなくなっていた、はずだった。
「ロッカー、食料が底ついてきたから夕飯買いにいくけど一緒に来るー??」
ルカは鏡と向き合い無色透明の少し伸びた髪を整えながらロッカに問いかける。
「え!行く行く!!やっぱロブさんの作った焼き芋は熱いうちに食べなきゃだよな!」
陥落されているにしては呑気な会話なのだがそれには理由があった。
この王都は魔種と機械種の連合軍によって陥落されたが機械種がこの王都の管轄となった。
もう終わりだ、と誰しもが思ったのだが機械種は国民への恐怖政策は行わなかったのだ。
勿論平和なのかといわれるとそうだとは言えないだろう、ただ国のお偉いさん達は今も苦労しているだろうが国民達の日常は大して変化がなかったのだ。
「いや芋買いにいくわけじゃないからね。住ませてもらってんだから買い物や料理くらいしなきゃだろー?」
王都に逃げてきた村の皆はそれぞれ別々に暮らしているのだがルカとロッカは同じ家に住ませてもらっていた。
村に帰って住めていないのは機械種によってこの王都への一時移住を強いられているからだ。
どちらにせよ村は機械種の管轄外であり王都のほうが今は安全であるので特に誰も強い文句は言ってない。
「おいおい俺は料理する暇あるなら剣を極めたいっての!来週騎士見習いの試験あるから時間が惜しいんだよ!」
更に不思議な事になぜか騎士の育成など募集も機械種から禁じられていない。
「騎士見習いも大事かもしれないけど受けた恩を疎かにするんじゃない!」
ロッカを睨めつけるがそれで意見を変えないのもわかっていた。
「はあ…」
ルカは言っても無駄だなと諦めて扉を開く。
「待った待った!まだ準備のとちゅ」
なにやらまだ話していたようだが扉を閉めるのと同時にロッカの声を遮断した。
商店街と住民街の間にそびえ立つ壁、この壁を越えるには中間にあるゲートを通る必要がある。
ゲート前には沢山の行列が並んでいた。
「あーこの時間帯はやっぱ混んでるよなー」
そう1人で呟きながら周りを見渡していると、検問管と商人らしき人物が喧嘩をしている声が聞こえた。
「ちょっと機械種のお兄さん!なんであっしが通っちゃダメなんすかね?!確かに薬草は機械種にとっては効果も期待できない、売上だって少ないかもしれないけどね、人間には需要あるのわからんすか?」
言葉遣いを意識してか、それとも方言混じりなのか若干聞き取りづらい喋りをしているのは商人のようだ。
「ダメなものはダメだ。商人証を出すことはできない。今日は帰って後日出直してくれ」
商店街で店をだす枠には場所の都合上限界がある。
それは仕方のないことではあるのだが今回揉めた理由は少し違うようだ。
「ふざけんでくれますかね!枠まだ空いとるじゃないですか!」
どうやら話しの流れから察するに、検問管は売上の高い商人のために枠を開けておきたいようで、売上の少ない商人を除外したいのだろう。
「貴様、優しくしていれば調子にのりやがって!!」
ほんの若干の距離があっても検問管の手から熱を発しているのがわかった。
商人は大声に驚き冷や汗をかいているようだが検問管の手から発する熱に気付けていないようだ。
どうにかしなきゃ、そう思いながらもルカは切ない気持ちであった。
心のどこかで機械種はいい種族で人間の味方名のだ。そう期待していたのだ。
だがこの検問管をみてそれは幻想なのだと現実を叩きつけられた気持ちとなった。
検問管を止めに足を進めようとした瞬間。
そこでルカは不思議な感覚をかんじた。
ピピッ
頭の中にまるで信号を送られたような感覚である。
「いまの…なんだ…?」
違和感に戸惑いながら検問管のほうに視線を戻すと、なぜか検問管がひきつった顔をしていた。
「す、すまんな。冗談だ。商人証だ受けとれ。」
先ほどまでの威圧的な態度とはうってかわり即座に商人証を手渡したのである。
「え、あ、いいんすか?あ、ありがとうございます」
商人もいきなりの展開に驚きつつも、判定を覆される前にと急いでゲートを通っていった。
今のは一体…不思議に感じたルカは周りを見渡す。
人混みを少し離れた柱の影でこちらを見ている少女の存在に気付く。
そしてその少女を見たルカはまるで時が止まったかのような感覚におそわれた。
この気持ちはなんだろう。
胸が痛い。
目頭が熱い。
けど安心しているような温かい感じ。
「あれ、俺…なんで」
ルカの頬に涙が滴っていた。
それはルカにとって生まれて初めての涙だった。