人の日常サヨウナラ
見渡すかぎり一面草原、道には馬車が通ったであろう馬の足跡が鮮明に残っている。
虫の鳴き声がまるで平和の象徴だと言わんばかりの田舎の村[アルカラ]
草原のなかに柵で囲まれた空間、そこから[カン!カン!]と剣戟の音が何度も響きわたる。
「おりゃ!」
少年は剣を型どった木の剣を一閃の如く奮うと相手のもつ木の剣を強くはじいた。
剣は宙で円を描きながら地面に綺麗に突き刺さった。
弾かれた衝撃で尻餅をつきながら大声を出す。
「ちょ!待った!ルカ、今のは反則だって!」
これが試合の形式であるなら明らかな敗北なのだが、プライドからか少年の口からは負け、の言葉がでなかった。
「あのなーロッカ、これで反則だったら俺一生お前に勝てる気しねえよ」
苦笑いしながら少年ルカは手をさしだす。
「お前なんで俺の動きとか先読みできるわけ?!そんなの平等を愛する俺への冒涜だ!」
手をとり起き上がるロッカは頭をフル回転させ必死に言い訳するが目線を合わせようとしない。
「平等を愛するなら目線を合わせて話せっての」
やれやれと首をふりつつ刺さった剣を抜きロッカに渡す。
ルカは相手の行動を予測する能力に長けていた。まるで頭のなかで軌道を描いてくれるような感覚があり、それを避けるのに苦労しなかった。
「お前機械種のスパイとかじゃねえだろうなー」
ロッカは剣を振り回しながら遊んでいる。どうやら打ち合いはもういいらしい。
「笑えねえっつの。それに機械種のスパイならこんな田舎じゃなくて王都に行くって」
この世界では勢力がいくつにも別れている。
その中の一種が機械種だ。
機械種は知性が高いといわれ、個の力に特化されているが数はそこまで多くない、あまり戦争を好まない種族である。
しかし見た目が人間とあまり違いがないため人間の中に機械種が紛れているのではないかと噂されといるのだ。
「そりゃそうか!こんな村スパイするとこないしな!」
ロッカは大笑いしながらルカの背中を何度も叩く。
「痛っ、おま」
ゴーン、ゴーン、ゴーン
カネの音が話しを遮った。
「!!!」
ルカとロッカは目を大きくして顔を見合わせた。
カネの音が3つ、それはこの村では緊急事態を表すものなのだ。
「ロッカ!急ぐぞ!」
「おう!!」
ロッカはルカの言葉に間髪いれず応え、二人は急いで村に走り出した。
村に向かう途中、村から多くの馬車が出ていくのが見えた。
「ルカ!皆どこに行くんだ?!」
ロッカもそれが気になったのだろう、不安に思い走りながらもルカに問いかけた。
ルカは返事をせず思考する。
馬車が向かう方角、あれは王都だ。
馬車の大分先を単騎の馬が走っているのが見える。
おそらく早馬であろう。
「Bランク相当の襲撃…か?」
村の付近には冒険者が滞在する街[デミリア]があり、Cランク相当の魔物であればそこに救助要請するのが基本だ。
しかし早馬が向かった方向はデミリアではなく王都を向いていた、
それはつまりBランク以上の魔物、もしくはそれに相当する危機を意味するのだ。
そして村がすぐそこまでの距離になると一つの馬車から老人が顔を出してこちらに叫び声ともいえる大声で呼びかけてきた。
「ロッカ!ルカ!はやくこっちに来い!」
村の長であった。
ロッカはそれの孫だ。
「じいちゃん!一体どうしたの!」
馬車に近づいたルカとロッカ。
状況がまだ把握できず説明を求めるロッカだったが返ってきたのは説明などではなかった。
「いいから乗れ!はやく!」
その剣幕が状況の悪さを物語り二人は急いで馬車に乗る。
そして村の長は後ろを警戒しながら口を開いた。
「魔種と機械種が手を組みいきなりデミリアに進軍したらしい。そして今この村に向かっていると報告があったのだ。」
「!!!」
魔種と機械種の進軍、今までにそんなことはなかった前代未聞の事件だ。
それだけで二人は恐怖でいっぱいとなった。
ロッカは必死に震えを抑えこもうとしているのがわかる。
「そんな…嘘だ…」
そんな小さな声が静まり返った馬車では皆の耳に、胸に響いた。
そして王都に到着して彼らは更なる絶望を知る。
[魔種、機械種の連合軍により王都陥落]