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機械の日常サヨウナラ

小さなテーブルの上には散らかった小難しい本、飲みかけのペットボトル、そのテーブルの周りにも衣服が脱ぎ散らかした痕跡がある。

その殺風景な空間に小さく聞こえるテレビの音。


どこの家庭とも同じ環境であり、平凡な部屋だ。


しかしこのありふれた環境の中に他の家庭とは違うものが存在した。


テーブルで本を読む少女、ショートカットの黒い髪が目にかかりそうになるのを、本のページを捲ると同時に髪を横に流す。


喉に潤いを求め、ペットボトルに手を伸ばし水分を補給した。


「あーもうなくなっちゃったよ。ルー君、冷蔵庫から水持って来てくれる?」


そう言葉を投げかける先にいるのは、1人の青年。


青年は無色透明の髪をかきあげながら、散らかった衣服をかごにいれつつ答える。


「了解しました。マスター」


その返事に満面の笑顔を返しマスターと呼ばれる少女はまた本を読み直す。


冷蔵庫から新たなペットボトルを持ってくる同時にテレビから緊急速報が流れる。


「あーイヤな世の中だね…」


少女はテレビの速報に嫌悪感とも悲愴感ともいえる表情で呟く。


「戦争のことですか?」


青年は少女のあからさまな表情を察し問いかける。

おそらくここで彼女の胸のうちを聞くのが彼にとって正しい選択であり存在意義だと判断したのだ。


「あーうん。理由も理解してるし避けられない事なのもわかってるよ。それでも人が死ぬのは私はやっぱり悲しいよ」


やるせない気持ちでそう発言する彼女は、漏れたため息を隠すことなく視線をテレビから本に戻す。


「マスター、人間は生命に限界がありいずれ死にます。それはこの世界の理だと思われます。」


青年の発した言葉に一瞬驚いた顔をした少女、寂しそうな表情で優しい言葉で返す。


「そうだね。けど私が言いたいのはそうじゃないんだよ。私たちはルー君と違って短い時間の中で一生懸命生きてるんだよ。その短い時間の中で人と人が争って死ぬなんて悲しいと思わない?」


そう。青年は人間の姿によっているが機械(マシン)に分類される存在なのだ。

この存在こそが他の家庭や環境との違いであった。


「申し訳ありませんマスター。同じ死にどう違いがあるのかわかりません。また自然の理である死に対してなぜ悲しいという感情が芽生えるのかが私には…」


少女は「まあしょうがないか」そう言いたげな表情で微笑む。


「けどね、私はキミがいなくなると寂しいよ」


本に顔を向けてそう発言する彼女の表情はより寂しげだった。



「さて!ちょっとアイス買ってくるから留守番よろしくね!」

そして彼女は目をこすりながら玄関に向かう。


「マスター、買い物でしたら私が」


そういいかけたが「大丈夫大丈夫」そう言ってこの部屋から姿を消した。



1人になった青年は、青年なりにマスターである彼女の心情というものを理解しようと思考モードに入る。


暫くして玄関の扉が開いた。

彼は思考を解除し彼女の帰宅を出迎えようと玄関に赴いたがそこにいたのはマスターである彼女ではなかった。


複数人の軍服をきた男たちが一斉に部屋へと足を踏み入れた。


「対象確認。これより確保する」


男の1人がトランシーバーのようなもので連絡をとっている。

この状況を異常だと判断し、彼は真っ先にマスターの生命反応の確認を開始した。


だが彼女の生命反応は消滅していたのだ。


「理解、不能。理解、不能。」


人間への危害を禁止されていて、全てにおいての優先順位であるマスターの生命反応がない今、彼は思考が停止し始める。


目の前の光景に光を失いだす。

マスターのいない世界、私の存在とは。


自分が今彼女を求める理由をなんなのかを考えながらも

彼の世界は闇夜に包まれ、彼の意識もやがて消滅したのだ。


こうして機械(マシン)のこの世界での物語は終わりをつげたのだった。

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