な、なんだってー!
「な、なんだってー!」
お約束のようにミステリー調査漫画の名台詞を叫んだ後、僕は冷静になった。
「1999年ならまだしも、2019年に人類滅亡なんて20年遅いよ。」
「君、ノストラダムスの予言を知ってる?」
「知ってるよ。
『1999年7の月
空から恐怖の大王が来るだろう
アンゴルモアの大王を蘇らせ
マルスの前後に首尾よく支配するために。』
でしょ?」
「上出来。70年代~90年代オカルトブームの頃、人々はこれを1999年に世界が滅びる予言と受け取った。ところが世界は滅びなかった。アンゴルモアの大王が蘇るのは正解だったけど、覚醒する時期は1999年じゃなかったから。アンゴルモアの大王とされたのは1999年に生を受けた『闇の子』で、彼らが覚醒するのは2019年。そして私達は同じ1999年7月7日に生まれた。『闇の子』の支配を食い止めるために。人類を滅亡させ、次の段階へと進化させるために。」
いきなりのセカイ系展開、しかも世界を救うために滅ぼすというアンビバレントな莉羅の話に僕はついていけなかった。テンテンは黒猫を撫でながら僕と莉羅のやり取りを眺めている。
莉羅は続けた。
「まだ飲み込めてないみたいだね。まあ無理もないよ。私も最初は信じられなかったし。ノストラダムスの予言を覚えてたということはそっちの話が好きそうだけど、失われた大陸の話は知ってる?」
「えっ、あのムーとかアトランティスとか、レムリアとかの?」
「そう。よく知ってるね。でもこれは知ってる?それぞれに太古の文明があって、滅びたってこと。」
「そこまで詳しくは知らないかな……。」
「ここからが大事だからよく聞いて。ムー、アトランティス、レムリア。人類は、これら文明の隆盛と滅亡を繰り返しながら進化してきた。一番最初に誕生した第一根幹人類から、第二根幹人類のハイパーボリア人、第三根幹人類のレムリア人、第四根幹人類のアトランティス人、ムー人と、人類は何度も高度な文明を築き上げてきた。でも文明を築き上げる度に人類は滅びた。世界に闇の力が溜まってしまい、そのままでは闇の勢力に世界を支配されてしまう、それを防ぐためにね。その代りに人類は次の段階へと進化してきた。例えば、レムリア文明が滅びた時、その人類の魂から次の段階、アトランティス人とムー人が生まれた。この世界は『光の子』と『闇の子』との戦いなんだよ。『闇の子』の力が強くなってしまう度に、『光の子』が人類を滅亡させて次の人類へと進化させる。そして私達は、1999年に生まれ、今年目覚める『闇の子』に対抗する『光の子』というわけ。」
どこかで聞いたような終末論に、僕はまだ混乱していた。いや、オカルトマニアとしては正直わくわくしてしまう。でもこんな超展開、本当にあるのだろうか……
「いや、待ってよ、いきなりそんなこと言われても……。どっかで聞いたような循環終末論だし、証拠はあるの?」
「それじゃ、この額の目はなに?」
莉羅は第三の目を指差した。緑色の瞳が濡れて輝いている。思わずまじまじと観察し、その瞳と目が合ってしまう。瞳に吸い込まれそうになる。
「いや、これはその……。」
「それに、君も昨日第三の目開いてたよね?ビームまで出して。……最近、おかしな声を聞いたことはない?」
―― 脳裏をあの「目覚めよ!」がよぎる。
「確かに変な声は聞こえた……でもさっきお風呂で鏡を見たけど、第三の目はなかったよ。」
「それは君の能力がまだ完全に目覚めていないから。」
「能力?」
「そう。目覚めた者に与えられる能力。私の場合は防御壁を作る能力。そしてテンテンの場合は……」
ここでテンテンが割り込む。
「瞬間移動ね♪」
「く、オカルト少年だった頃に欲しかった能力ばかりじゃないか……それで、僕は?」
「昨日見たでしょ。君の場合は、額の目からビームを出す能力。ほら、これ見て。」
莉羅はスマホを取り出し、僕に見せてくる。
ツイッターが開かれ、ハッシュタグ検索がかけられている。
「#ワルプルギス渋谷虐殺」というタグの付いたツイートが大量に投稿されていた。
ツイッターは大騒ぎになっていた。有象無象が昨夜起こったことをツイートしている。
adad「あれはマジでヤバかったって!俺が持ってたスマホぶっ壊れたし!」
津田小介「遠目だったけど血しぶきがあがるのを確かに見た。その場で吐きそうになった。」
ちゅうはあ「街灯が外れて浮き上がるのを見たの!危ない!って思ったらイケメンが守ってくれたの❤」
金雪「昨日渋谷のワルプルギスに参加してたんだけど、怪しい男と魔法少女が戦ってて、魔法少女がビーム出してた!居酒屋のガラス今でも割れてるし間違いないよ。」
ツイートの中には、遠目からで分かりづらいものの、ビームを出す魔法少女の動画がアップロードされていた。
「これ、もしかして僕じゃ……。」
「いい加減認める気になった?そう、君だよ。『闇の子』を目の前にしたのと、死を意識する極限状態になったことで能力が目覚めたみたい。」
「もしかして、あの黒ずくめの男が?」
「そう。あいつは『闇の子』の一人。地上を支配しようとする、暗黒同胞団。奴らは物理系の能力を持ってる。昨夜私は、ワルプルギスの夜に目覚めると言われる、世界を終わらせる鍵を握る最後の一人を探しに渋谷に行った。そこで『闇の子』と戦う君を見つけたってわけ。あのままだと危なかったから、私の能力で攻撃を防いで、テンテンに瞬間移動してもらった。君は瞬間移動のショックで気絶しちゃったけどね。」
「そうだったのか。昨夜はありがとう。それにしても、ワルプルギスの夜に最後の一人が目覚めるというのは何かの言い伝え?」
「私の家に伝わる古文書に書いてあったんだよ。今は詳しく話さないけど、私の家は代々神社の神官で、うちの神社に伝わる縁起書に世界の仕組みが書いてある。子供の頃はただの伝説だと思っていたけどね。そして、君の家の古文書にも同じようなことを書いてあるはずだよ。」
「えっ、うちの古文書……?」
「ま、今はそれはいいや。まずは君の能力を開花させないとね。いい人知ってるから。」
そう言って、彼女はパソコンのブラウザを開いた。
少し前に流行ったTwitterライクなSNS、マストドンが表示されていた。