メイクアップ~変身~
午後4時を過ぎたけれど、外はまだまだ明るい。
日の長いワルプルギスのほうが、コスプレして出掛けるのには向いているんじゃないだろうか...
そんなことを考えながらコスプレを始める。
眉を整えたら軽く洗顔し、続いて除毛に取り掛かる。
僕はそんなに毛深くないけれど、ここは念入りに行わなければならない。
バイト代と、体を張って女装で稼いだ(需要があるとこにはあるのだ)資金でヒゲは脱毛済みだけれど、さすがに全身脱毛には手が出ない。
全身を念入りに除毛したら、次はアイテープとカラコンを取り出す。
このあたりは多分V系メイクかギャルメイクから女装界に取り入れられたものだと思うけれど、効果は絶大だ。これだけで随分と雰囲気が変わる。
特にカラコンはこれなしでは女装にならないくらいの必須アイテムだ。うーん、やっぱりカオリテのワンデーカラコンは盛れるな~。
僕は私服女装もやるけれど、カラコンは断然コスプレ用のブランドが良い。
これが終わったらウィッグネットをかぶり、衣装を着る。
白とピンクで構成された、フリフリの魔法少女服。
女性サイズだけど、僕は小柄で細いのでそのまま着られる。
...この体、この時くらいしか有利なことないのよね。
くそっ、もっと男らしく生まれてれば...と思ったけど女装コスプレを楽しめてるので良かったのか悪かったのか分からない。
BBクリームを取り出し、念入りに広げる。
まんべんなく広げたところで顔を押さえ、落ち着いたらフェイスパウダーを乗せる。
ベースメイクはとても大事だ。ここで手を抜くと一気にレベルが下がってしまう。
まんべんなく乗せられたことを確認したら眉に移る。
女装メイクの基本は顔を薄くすることだ。従って眉は細めに整えておく。
そしてより可愛く見えるよう、ピンクの眉マスカラで眉もピンクにする。
続いてアイシャドウに入る。アイシャドウも眉と同じくピンク系で整えて...アイシャドウが一番顔にお絵かきしてる感じがして楽しい。僕はアイラインを引かないし。
そして次が一番緊張する作業、つけまだ。つけまが終わったらメイクの山を越えた感覚になる。
つけまをパッケージから取り外し、軽くほぐす。
つけまのりを根元に付けて、ピンセットでまつ毛の生え際に合わせる。これが細かい作業だ...よし、いい感じ。
緊張の一瞬がやっと終わった...ほっとしたところで涙袋にクリームチークを塗り、頬にもクリームチークを付けた後パウダーチークを乗せる。チークもかなり印象が変わるので楽しい。
あとは唇にピンクの口紅を塗った後、グロスでツヤツヤに...よし、メイクは完成。
仕上げにウィッグをかぶってブラシで整え、鏡をチェックする。
よし、今日も可愛い。この瞬間だけ自分の外見を受け入れることができる。
僕は、この状態でだけ、他人から求められることができる。
小柄、童顔、声が高い...幼い頃からの劣等感の源が利点に変わることを知ったのは、去年の夏だった。
宅飲みをしていた女友達がたまたまコスプレイヤーで、酔った勢いで女装させられたのだ。
女装なんて似合うわけ...と思って最初は拒否していたのだが、薄めの童顔だった僕の顔は化粧ノリがよく、小柄なので女性サイズの衣装をそのまま着ることができた。
予想以上に似合ったのを見た女友達は随分と僕のことを褒めてくれ、そのまま一夜を共にした。
自分の外見に全く自信のなかった僕が、天から与えられた身体を受け入れられたのは、その時が初めてだった。